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■オープニング本文 海老園次々朗(かいろうえん・じじろう)という志士がいる。 とにかく天儀などをふらふらしたり、「気の毒だなぁ」と思えば下着泥棒の芝居もする男だ。芝居のハズが犯人扱いされたりするところがもう、そういう星の下に生まれたのだろうなぁという感じだが。 「せいっ!」 今、兜割りよろしく両手構えの刀を渾身の力で振り下ろした。 ――ドシャ! 次々朗の足元に近寄っていたアヤカシ「人喰鼠」はこの一撃でばしゅぅ、と瘴気に戻る。 「これで最後だと思うが」 「ふぅ。簡単なお仕事だったな」 仕事仲間を振り返り声を掛けると、皆無事のようだ。まあ、駆け出しの開拓者の一対一で楽に対応できるアヤカシ相手なので、次々朗たち経験を積んだメンバーであれば問題ない。数も少なかった。 「いや、そうでもないかもだぜ? 今、流れ着いてきた中に『暗殺鼠』が混じってた」 「ははぁ。洞窟内で群れているときに出くわしたら、どれがどれだか分からないまま呪文攻撃の大打撃を食っちゃうって、アレだな」 「そう。……つまりこいつらが流れてきた川上に、洞窟があるんじゃねぇか?」 次々朗の仲間たちはそう意見を交し合う。 「……何だかなぁ」 傍観していた次々朗は、めんどくさい話になりそうだなぁとため息を吐くのだった。 「ある」 依頼を受けた村の長に聞くと、あっさりそう答えられた。 なんでもこの川、上流に大きな洞窟を通る場所があるという。川はその中で多くの支流が合流し大きくなっているのだとか。 「しかし、そこは河川洞窟。天井などにアヤカシの吸血蝙蝠はおっても、陸地部分がないからネズミ型のアヤカシなんぞおらんはずじゃが?」 首を捻る村長。 「まあ、その洞窟に入ろうと思ったら、上流から筏に乗って入らにゃならんかったりする」 「そういや、今回退治を依頼したアヤカシも梅雨時期に増水したのが影響してんじゃねぇすかねぇ?」 村長の言葉の途切れた時を狙って、若い者が首を突っ込んだ。 「そうか。このあたりでも護岸決壊したくらいじゃ。洞窟内の壁面が崩れとっても不思議はねぇ」 「なぁる。壁面が崩れて、そこから洞窟が現れた、とかか」 「……よし。すまんが調査をしてくれんか?」 矢継ぎ早に相談して、次々朗たち開拓者に振る村人たち。 が、次々朗たちも順は乱さない。 「いや、新たに依頼を出してください」 「何? ケチじゃのう」 「違いますよ」 村人に突っかかられる次々朗。すぐさま説明する。 「我々は洞窟戦を想定してここに来ていません。それに、新たに筏の準備が必要でしょうし、何より今度はかなり上流からの出発になります。……仕切り直さないと、何が起こるかわかりません」 特に我々は大柄なメンバーですし、と次々朗が仲間を振り返る。確かに、大柄な開拓者ばかりだった。 「そ、そうか。それじゃ、天井の低い洞窟だったとしても問題ない新たな開拓者を雇って、原因調査とアヤカシがいれば退治してもらうよう、依頼をだそう」 こうして、新たなメンバーが募られることとなった。 場所は変わって、開拓者ギルド。 「コクリさん?」 「え?」 係員に呼ばれて、コクリ・コクル(iz0150)が振り向く。 「実は、こういう依頼が来てるんですが……」 何、とコクリが確認する。 書面には、洞窟内の川を筏で下って、おそらく途中に新たに現れた洞窟を発見し、中にいると思しき大ネズミ型アヤカシ各種をできるだけ退治して欲しい、という内容が書かれていた。 「登録したばかりの開拓者向けにしようと思うんですが、洞窟なんで誰か経験者の同行が必要と考えています。コクリさんならこういう戦場に向いてますし、経験もありますのでぜひお願いできないですか?」 「うんっ、分かった。まっかしてよ☆」 こうして、コクリが川下りからの洞窟探索に同行することとなった。 |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
からす(ia6525)
13歳・女・弓
小宮 弦方(ib3323)
22歳・男・弓
ユーコ(ib9567)
10歳・女・吟
雁久良 霧依(ib9706)
23歳・女・魔
藜(ib9749)
17歳・女・武
戸隠 菫(ib9794)
19歳・女・武 |
■リプレイ本文 ● 川の洞窟に、筏が二つ侵入した。 「ふぅ〜。こういう時は背が高いと厄介です」 片目をつぶった小宮 弦方(ib3323)が、狼耳のある頭を上げた。立ち上がり川に竿を差して、本流に合流する筏の位置を整えると目を輝かせた。 「あっ! これが噂に聞いていたヒカリゴケ」 弦方、旅行好きだがこの光景は初めてらしい。広い壁面に、ぼう、とかすかに浮かぶ幻想的な光をぐるりと見渡している。 「すっごぉい♪ 見て見て、からすちゃん」 「霧依殿は落ち着くといい。……弦方殿、座礁等には気をつけてね」 水着のような服を着てローブを羽織る雁久良 霧依(ib9706)に後から抱きつかれがくがく揺すられるからす(ia6525)が様子を変えることもなく操船担当の弦方に声を掛ける。手には、懐中時計「ド・マリニー」。針が微妙な動きをした。 「ちょっと気になるね」 からす、「ほう」と幻想的な光景に感心したものの、長射程の呪弓「流逆」を構える。鏡弦を使うつもりだ。 が、構える必要はなかった。 「来ました!」 賢者の頭巾を被る藜(ib9749)が自分の体と筏を結び終えると、松明を左手で掲げつつ右手で不動明王剣を抜き放った。 「キキッ!」 松明に浮かび上がったアヤカシ「吸血蝙蝠」の接近は早い。 「あら。せっかちね」 からすから離れた霧依は、手の平の形状をした先端を持つ杖を掲げる。その五指全てに蝋燭の炎が灯っていた。 「慌てず騒がず、ね」 杖「栄光の手」を柱に見立て、自分が動いてホーリーアローで撃ち落す。 「気をつけてください。敵は多いです」 「私がそう易々と受けると思うな」 藜が叫んで不動明王剣を見舞い、からすは長い弓から苦もなく大鉄扇に一瞬で持ち替えすぱ〜んと叩き落す。いずれも一撃で瘴気に返し弦方を守る。 「洞窟も見逃さないよう、気をつけてください」 ぐい、と流れに乗せながら仲間の援護に感謝する弦方だった。 そして、続いて入ってきた筏。 「洞窟! 川下り! ……しかも壁がキラキラしてるっ」 「ユーコさん、あまりはしゃぐと落ちちゃうよ?」 フェネックの神威人、ユーコ(ib9567)の瞳が好奇心で輝く。ヒカリゴケを見て帽子を押さえ元気良く身を乗り出す様を見て、竿を預かるコクリ・コクル(iz0150)が心配する。 「おいらそんなヘマはしないよ。コクリはごめんだけど、松明をお願いするな!」 「わわっ。うん、任せてよっ」 頬を紅潮させて振り向くヨーコがコクリに松明を渡す。 その松明を、横から鞍馬 雪斗(ia5470)が取った。 「まあ、長時間じゃないし延焼しないだろう。……ここに立った棒って、そういう意味だろうし」 そう言ってくくりつける。もう、天井の低い入り口は越えたので問題はない。 「雪斗さんこそ頼むね?」 「船上って苦手なんだけど……これも仕方ないかね……。コクリちゃんは伏せてた方がいい、戦闘になれば久々にこんな刀使うからな」 雪斗はそう言って太刀「天輪」を抜いた。ちょうどその柄に闘布「舞龍天翔」が巻き付いている。 両手で一旦構えた雪斗は、長めの太刀を左手に持つと、右手で闘布をにぎり左手に巻きつけはじめた。、口で反対側をくわえてしっかり固定した頃、前を行く筏で戦闘が始まった。 「来たみたい。コクリさん、よろしく」 同時に、いや、それより早く戸隠 菫(ib9794)が武僧頭巾と輝く長い金髪を振り乱して振り返った。明かり不足から松明をコクリに渡している。 「おいらが応援するよっ!」 耳を立ててユーコがリュート「アイスブリザード」を構えると、勇壮な曲を奏でた。「騎士の魂」だ。 「いい曲だよ……長いから先に行くね」 ぱっちりとした青い目を輝かした菫。先ほどから音で敵の動きや洞窟の先を知ろうとしていた。もちろん、ユーコの曲も背中越しに聴いて勇気にする。そして、純白の聖槍「ノルン」を繰り出すっ。とんとん、と鋭い突き。時間を置いて迫る吸血蝙蝠を一撃で落とす。 「こっちからも来たな……船上ならホーリーサークルと……」 別方向から来た蝙蝠には、雪斗が立ち塞がる。 「これで十分」 太刀「天輪」を振るう。 「……雪斗さん?」 「……見えないはずだ」 言われたとおり伏せるほど屈んだコクリは困ったように雪斗を見上げた。雪斗の方は真っ赤になってスカートの裾を下げるように押さえるのみだ。 ● 戦闘後、筏は進む。 「洞窟の中か、洞窟から繋がっている所に鼠の住処や発生源があるのかなあ?」 「……なるほど」 松明を掲げてきょろきょろするユーコ。同乗する雪斗、菫、コクリが感心する。 「洞窟の分岐……なのかな?」 「あった! 入り口見付けたわよ?」 その中で耳を澄ましていた菫が風の流れや水の流れる音の違和感に気付くと、別の筏では注意して周囲を見ていた霧依が前方の崩れた壁面を発見した。崩れた岩で流れが妨げられ、筏を舫いでおくことができそうだ。 早速、接舷して筏から上陸する。 「いるね。アヤカシ」 筏を降りると、鏡弦で確認していたからすが静かに言った。 「ちょっと覗いてみる?」 コクリが松明を掲げて壁面の穴から中を覗いてみた。 「さて、この洞窟から何が出るやら……」 「お宝とかあったらいいのになあ……なんてね」 コクリの後からは、長身を生かして弦方が顔を出し、足元からは屈んでユーコがこっそり呟きつつえへへと覗いてみた。 「あぁん♪ 小さくて可愛い子がいっぱい♪」 霧依の方は、あまり中を気にすることなくコクリの後に立ってはぎゅりと抱いていてうきうきしていたのだが。 「いないよ?」 振り向くユーコ。 「位置までは分からないのでね。どれ?」 いきなりアヤカシが睨み返して襲ってくるなどではないと分かって、からすも覗く。 「洞窟の中に開けた穴……か、あまり聞こえは良くないね。何かあると見て間違いないと思うけど……」 雪斗も顔を出すが、確かにアヤカシはいない。 「特に風の音もおかしくはないようだよ。そうそう、コクリさんに呼子笛を一つ預けておくよ」 「あはっ。敵が多かったりするときのためだね」 菫はコクリに呼子笛を渡しつつ、前に出た。 「足場は……大丈夫。これなら荒縄も必要ないですね」 藜もそういいつつ穴をくぐり、洞窟内広間に出た。 霧依が「栄光の手」を巡らせ中を照らすと、比較的じめじめして苔むした場所が右手奥に、左手に奥にはさらに洞窟奥に続いていると思しき通路が、正面奥には石段に載った小さな箱があった。 「どう思う、みんな?」 「さっきの感じだと、アヤカシはあの苔むした場所にたくさん、そして左手通路奥にもたくさんいたよ」 振り向いたコクリにからすが応じた。 「だったらまず、苔の場所にいるアヤカシを殲滅することだね」 「あらん、箱なんてのも怪しいわよ?」 きっぱり言う菫に、色っぽく表情を崩す霧依。 「下流に流れてたのは鼠だったね。箱に罠があって、戦闘中に罠を発動されても困るだろうね」 「じゃあ、先頭に立つよ」 からすの言葉で歩を進めた弦方。意外な顔をするからすと藜。 「筏じゃ守られたからね。このくらいは。……それに、連携が重要」 振り向き微笑する弦方。その手には短刀が握られていた。決して無理はしないという、優しい表情だ。 「ふうん。さすが男の人だね」 「コクリちゃん、行くよ」 格好の良かった弦方を見送るコクリに、こう見えても男性の雪斗がコクリの首根っこを掴んで苔の方に引っ張った。 「あ。もちろん雪斗さんも……」 「暗いのは兎も角として、まさかこんな広い場所が眠ってたとは……何か有りそうだが……あまり深入りするとマズそうだな」 慌てるコクリだが、雪斗はもういつもの様子に戻っている。油断はない。 これを見て、まずは広間内の敵と、これ見よがしで罠の可能性のある箱の方に分かれる開拓者達だった。 「そうだ。暗殺鼠はやっかいってことだったわよねぇ。……調べてきたんだけど、外見では個体差があるから普通のアヤカシ鼠と見分けがつかないんですって。ただ、戦闘になると動きで分かるって」 霧依が事前に情報収集した結果を伝える。 「誰かがまず攻撃を食らうしかないのかな?」 ぐ、と覚悟して前に出るコクリだった。 これが後に、裏目に出ることになる。 ● さて、小箱調査組。 こつ、こつ、と持参した長い棒で床を確認しながら霧依が進む。 ――コツ。 やがて、小さな箱の乗った台座に至った。特に小さな衝撃で変化はない。 「私が周囲に注意しておきます」 仲間を信じて背を見せる藜。手に持つ不動明王剣をピタリと構えて油断なく周囲に視線をやる。 「……箱自体がアヤカシ、ということはなさそうだね」 じっと小さな箱を覗き込んで確認するからす。 「誰が行く?」 「じゃ、私♪」 視線を遊ばせた弦方に、こういうのが好きそうな霧依が手を伸ばした。さすが魔術師はこういうのが好きか。 「霧依さん、頼みます」 弦方が素直に任せたのは、箱を持ち上げるときなども台座周囲に細心の注意をはらう霧依の様子に気付いたから。 アヤカシはいないにしても、ここで毒ガス噴射や天井落盤などあったらたまったものではない。 しかし。 「ふうっ……」 4人のため息が漏れた。 「中には鉄の鍵が入ってるわ」 霧依が箱の中から、鉄の鍵を取り出した。どうやらここにはこれ以上なさそう。 「あっ!」 この時、三人を守っていた藜が声を上げたのだっ! 時は若干遡る。 アヤカシがいると思しき苔の生した場所に向かった四人。 「あたしが先頭を行くね」 雪斗を抜いて菫が前に出た。槍を持っている分、自分が有利と見たようだ。 「滑らないように足元には注意して進まないとな」 「そうだよね」 ユーコに元気良く声を掛けられ、思わずにっこりと応じる菫。 「敵……この場合はもう、鼠と考えていいね……それがそこにいるって分かってるなら魔法攻撃もいいかもしれない」 ふと、雪斗が言った。皆が振り返る。 「いや……苔が多いなら強く踏み込めないし……」 自分たちがここに踏み込んでも動かない、ということは、接近したら動き出すのだと読む。 「確かに苔のある場所より、ここのほうが間違いなく戦いやすいよね」 コクリもぼそりと呟く。うん、と全員が頷いた。 「じゃあ、敵がそこにいると思って……切り裂け!」 太刀「天輪」を左手に持ち直し、右手を伸ばすと風が渦巻き真空の刃が飛んでいく。ウィンドカッターだ。 ――ぼふっ! 苔が弾けた、その瞬間だったッ! ● 「ギイッ!」 なんと、広く分布していた苔がうぞぞと盛り上がり、まるで津波のように雪斗たちの方に恐ろしい勢いで殺到してきたのだッ! 「これ、鼠?」 コクリの声。地上をうぞぞぞっ、と這い寄って来る苔はそれと分からないものの、初撃で空中に跳ね上がって悶えた苔が鼠の形をしていたので分かる。ちなみに、一撃で瘴気になっていたが。 「ちょっ……とぉ」 菫は槍を繰り出すが数が多すぎるっ。あっという間に飛び掛られ武僧頭巾を振り乱す。 「これは……手数がいる……」 雪斗は右に逃げつつホーリーサークルを展開。まず守ることを優先する。そして太刀「天輪」を振り回す。 「ユーコさん、後ろにっ」 コクリもさすがに少剣狼を抜いて戦闘参加。 「おいらは……。ごめん、おいらは歌うよっ!」 それでもユーコは苦無を投げて一匹仕留めてから下がる。敵が相当撃たれ弱いのは分かるが、もみくちゃにされたら洒落にならないことは分かる。大人しくリュートを奏で自分のできることに集中する。 たちまち洞窟内に流れる、心を奮い立たせるような楽曲。 (なんとかおいらたちで対応できるかな?) ユーコが前で戦う三人を見てそう判断した、その時だった。 「あっ!」 ――バチッ! ユーコ、全身を鞭打たれたような衝撃を感じた。 いや、分かる。 激しい雷撃が飛んで、彼女に命中したのだ。群のどこかにいる暗殺鼠であるッ。 「後衛を狙われたっ!」 「いまの……」 振り返るコクリ。やられて厳しい顔をする雪斗。 「動きが違うのを狙って!」 遠距離打ち合いの必要性を感じた菫が雪斗をかばうように前に出た。 ――そして、状況変化はこれだけではすまなかったッ! 「背後の通路からも来てるっ!」 ユーコを気にして振り向いたコクリが気付いた。 なんと、広間の奥に行く左手にあった通路から、今度は苔のない人食い鼠の大群が寄って来ていたのだッ。 「ユーコさんっ」 「大丈夫。おいらは立派な開拓者兼旅芸人になるんだ!」 かばうコクリを振り払い奏で続けるユーコ。 しかし、背後が手薄のまま挟撃を受けることになるぞッ! ● 「そうだ、呼子笛……」 コクリが吹こうとしたところで、とすとすっ、と接近する人食鼠の大群に大量の矢が刺さった。そのまま一撃で消える人食鼠たち。 「風は運ぶ。行き場のない、悲しむ術もない鼓動を」 「藜さんっ!」 ざざっ、と割って入った藜。武僧として思うところを口にしつつ不動明王剣を下段から切り上げる。吹っ飛び消える人食鼠。 「前衛で守る。そう決めた、そう決めてたんですっ!」 思い込んだら一直線。理穴弓で援護射撃をしていた弦方も、弓を捨てて短刀に切り替えると身体を入れてきた。ユーコたちを守りながら戦うつもりだ。 「いい覚悟だね」 「あらん。からすちゃん。あの遠くに逃げてるの、狙える?」 身を挺すため突っ込んだ仲間の援護に徹するからす。その彼女を、霧依がつんつんと突いた。 からすが見ると、霧依は一匹常に距離を置きつつ逃げ惑っているような鼠を指差していた。 「なるほど。引いて見れば違いは一目瞭然か」 呪弓「流逆」で、ひゅん、と影撃をもって狙う。ぼすっ、と衝撃で跳ね上がる暗殺鼠。すぐに瘴気となって消えた。 「殴っても倒せるのはいいが……やたら忙しい」 前線では詰められるだけ詰められた雪斗がとうとう闘布「舞龍天翔」で拳を見舞いつつ戦っていた。これでも泰拳士を経験している。 「でも、ようやく全滅が見えてきた」 胸元の不動明王のお守りを振り乱しつつ槍を振るう菫が言うように、戦場は開拓者が押し始めていた。 「よし、これでいいわ。ヨーコ」 「痺れただけで外傷がなかったのがよかったよ」 菫の浄境で少し楽になったヨーコが、にへーっと大丈夫そうに笑う。皆もこれで安心した。 「それじゃ、戻ろう」 コクリの合図で引き上げる。 左の通路の奥は二手に分かれ、「闇」と「光」の文字がそれぞれ書かれた鉄扉で終わっていた。おそらく鉄の鍵で開きそうだが、依頼は中の調査。踏破までではないのでひとまず引き上げることにした。 そして、入り口とは打って変って、飛空船でも入れるのではないかというくらい広い川の洞窟出口をくぐる筏二隻。もう危険はない。 「まあ、クッキーでも」 「お疲れ気味ね、コクリちゃん。……ヨーコちゃんとからすちゃんにもしたげるからね」 「ちょ、霧依さん恥かしいよ」 帰りにのんびり川下りする筏では、からすがおやつを勧めたり霧依がマッサージ魔と化すなど賑やかだった。 |