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■オープニング本文 ここは神楽の都。浪志組屯所。 「先日は集落外れに密かに近寄っていたアヤカシを退治していただき、誠にありがとうございました」 「いえ。独り身の猟師さんがお亡くなりになっていたことが無念です」 突然訪ねてきた一般住民たちが浪志組隊士のクジュト・ラブア(iz0230)に面会を求めると、深々と頭を下げた。恐縮するクジュト。 どうやら先月の「【桜蘭】クジュト包囲網」の事件で、いったん神楽の都から脱出したクジュトが潜伏した、都に近い山中の集落住民たちだった。 この時、クジュト殺害を狙う浪志組の暴走隊士の襲撃とクジュト救出組がほぼ同時に潜伏空き家に突入し戦闘したのだが、その時空き家の住人たる猟師を数日前に襲っていたアヤカシが乱入。暴走隊士も自らの使命に気付き、クジュト救出組と力を合わせアヤカシ軍団を撃退していた。 それはともかく。 「それで、怪我をしつつも涼しい顔をして、特に恩を売るなどもしなかった貴方たちの姿に集落の若いモンらが惚れ込みまして……。やれかっこいいだ、男はああでなくてはとか。ですので……」 「ぜひ、剣術を……。剣の心を指導してください」 愛想良く話す大人の横で、成人したばかりと思しき若い男――年の頃は十五前後か――が額を畳みにこすり付ける勢いで頭を下げていた。 どうやら、クジュトを訪ねて来たのは剣術指南の出稽古に来てほしいということらしい。 「どうぞ顔を上げてください。……しかし、一般の人がアヤカシ退治などを考えるのはどうでしょう? 志体持ちの人がいれば別ですが」 「集落に志体持ちの人はいません。いれば、みな神楽の都に行くでしょう」 クジュトの言葉に、まるで抗議するかのように顔を上げた青年。引き結んだ口の端に悔しさがにじんでいる。 「都に近いがゆえに、若い才能はそちらに流れています。力があれば金になる場所が近くにあれば、故郷も捨てましょう」 おそらく集落の長であろう男が寂しげに説明した。 「そして、都に行く途中のよそ者が……柄の悪い者たちが現れます。そいつらは村で乱暴したり好き放題して行くんです。……せめて、自分たちが志体のない乱暴者からは集落を守りたいんですっ!」 若い男は再び平伏して頼み込む。 「これらは、ぜひあなたたちにお願いしたいと。……本来であれば皆から金を集めてアヤカシ退治をお願いしなくてはならないところを、頼みもしないのにやっつけてくれました。何より集落の民の心に『浪志組』の名が心に深く刻まれました。ですので、ぜひ引き受けてくださいまして、その義侠心を私どもの若者に叩き込んでいただきたいのです」 大人の方も改めて、深々とクジュトに頭を下げた。 「分かりました。私の方でもちょうどそういう活動をしたいと思ってましたし。……それに、浪志組が定期的に立ち寄ると知れ渡れば、ならず者が来なくなる可能性もありますし」 というわけで、都外れの集落に剣の稽古に出向くことになった。 が。 「で、どうすんだい? クジュトの大将は天儀の剣術にゃ疎いし、故郷の武術も捨てたんだろう? 楽器指導に行くんじゃねぇンで俺も手伝ってやりたいが、もともと俺はならず者だし風体が悪いからなぁ」 集落の者たちが喜んで辞した後、回雷(カイライ)がやって来て腕を組んだ。 「しかも志体のない者を教えるわけですからね。とにかく、今手が空いている隊士に声を掛けて回ります」 「声掛けだけなら、俺でもできる。行こう。……まずは道場に集合でいいな?」 「そうですね。それと、念のために開拓者ギルドを通して隊外の者も募ってみます。……それから剣を交えたり稽古しながらどういう指導がいいか、どういう意識を持たせるかなどの『志体なし流派』としての技術体系を簡単にでもまとめましょう」 こうして、浪志組内外で有志が募られることになるのだった。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
劫光(ia9510)
22歳・男・陰
イリア・サヴィン(ib0130)
25歳・男・騎
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
山階・澪(ib6137)
25歳・女・サ
柏木 煉之丞(ib7974)
25歳・男・志
巌 技藝(ib8056)
18歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● ここは神楽の都の一角に佇む茶屋「つばきや」。 「ふうん。金鍔っていうんだ、このお菓子」 赤い泰服をまとう巌 技藝(ib8056)が店先の長椅子に座り名物の金鍔を食べ、艶のある笑みを浮かべていた。 「ええ、技藝さん。この店の自慢で、評判もいいんですよ」 「ふむ、美味いな」 クジュト・ラブア(iz0230)が技藝に微笑みかけると、その横で金髪の騎士イリア・サヴィン(ib0130)ももぐもぐしながら納得していた。 「……そういえば、俺が組に加わってからラブア殿に会うのは初か。入らぬとは、嘘を吐いてしまったな」 イリアの向こうは、最近浪志組に加盟した柏木 煉之丞(ib7974)が、四つに割った金鍔に楊枝を差しながらクジュトに話し掛けた。 「もっとも、悪びれはない。弱き者の為に我身を使えるなら重畳、重畳」 続けて言って、満足そうに金鍔を口にほお張る。 「しかし、嬉しいね……」 今度は技藝の向こうから声がした。俯いて味わっていた鞍馬 雪斗(ia5470)だ。 「確か剣術指導を願い出たのはクジュトさんを助けた時の村の男たち……だろ? まぁ、男気を見せてくれるだけ十分有り難いね」 「あらあら。……あなた、いい奥さんになりそうよ?」 雪斗が言ったところでここのおかみさんが茶のお代わりを持ってきて言った。すぐに忙しく立ち去ったが。 「……いいけどね」 ぽり、と頬を指でかく雪斗だが、ひらりと丈も短いスカートを穿いているのだから仕方ない。 「それはそうと、どう教える?」 イリア聞いた。 「だったら棒とかがいーんじゃね? 距離とって戦えるし」 虎獣人の羽喰 琥珀(ib3263)だ。気楽に言ってからひょい、とクジュトの皿から金鍔を取ってぱくつく。 これを聞いて、店先で子どもたちと独楽回しをしていた褐色の肌の男が振り向いた。 「そうだな。刃こそ無いが、棒や棍も立派な武器だ。それらの利点を生かせば、刀剣類を持った相手だろうと倒せるってもんだ」 樹邑 鴻(ia0483)である。今日も子どもの独楽回しに付き合っている。 「あとぱまあ、やっぱし場数踏むのが一番だろ」 そこで、ひょいと頭を上げた劫光(ia9510)もきっぱりと言い切る。 さらに、きら〜んと怪しく眼鏡を煌かせてゆらりと立ち上がる人物もいた。 「そして多少は『汚い』手法を教えてもいいでしょう」 ふふふふ、と笑みを湛えるサムライ女性の山階・澪(ib6137)。逆光で妙な迫力があった。 「なあなあ。そんなら流派名はどうする?」 「そうですね。浪志組の隊士もいろいろ流派に属しているでしょうし、一般人指導用ということで……」 わくわくして身を乗り出す琥珀に、クジュトが首に手を添え悩む。 「クジャさん」 ここで、技藝が声を上げた。 「クジャさんに因んだ名前で威嚇自衛の意味から【孔雀流】って、どうだい?」 「おー、いいなー。あと、流派名だけで村人が目的を見失わないよう、『護守』っての合わせたらどうだろう」 技藝の案に、気分良く身を乗り出し案を付け加える琥珀。 「では、これから私たちは『孔雀護守流師範』として出稽古に行きましょう」 「おおっ!」 クジュトの言葉に、孔雀護守流――長いので孔雀流とする――師範の面々が盛り上がる。ついでに、彼らを慕って集まって遊んでいた子どもたちも楽しそうに拳を突き上げるのだった。 ● 「よろしくお願いしますっ!」 村に到着すると、集会所へと案内された。そこで村の若手十五人程度が集まり一斉に頭を下げる。 「堅いっ!」 すぐさまクジュトが怒鳴りつけた。 「棒になれば試し切りのように斬られるだけ。まずは周囲を軽やかに走って身体をほぐすこと」 行けっ! とさらに怒鳴るクジュト。 「おやおや」 「こうすれば今のうちに準備ができるでしょう?」 煉之丞がにやにやするとクジュトが言い訳した。早速、鴻が用意してもらった道具に細工をし始める。 「はは。こうしていると、子供の頃に手伝わされていた事を思い出すな」 木刀などの打突部に厚手の布を巻きつけたり、厚手の布を重ねた簡易的な防具を調えたり。 「道具が足りない分は、自分が座学を受け持とうか……」 雪斗は、がらりと集会所を開ける。 やがて、ぱらぱらと若者たちが戻ってきた。幾分肩のこわばりも抜けているようだ。 本格的な指導が始まる。 「まあそんな訳だからまずは打ってきな」 劫光がぱしん、と陰陽甲「天一神」を打ち鳴らして熱心そうな若者を指名した。 「遠慮なく、行きますからね?」 「いい覚悟だ」 まっすぐ見詰めてくる瞳に、にやりと返す劫光。たちまち襲い掛かってくる棍。 「もっと厳しく来い!」 簡単に受け流し前に出る劫光。「あっ」と浮き足立ったので回し蹴りで払っておく。 「何が悪く、どこが弱点だったか分かったか? 分かればまたかかって来い。……次!」 「おおっ!」 すかさず次の相手を呼ぶ。またも攻撃させて前に出てわざと力押し。 ひたすらこれを繰り返す。 一方、集会所の中からこの様子を見ていた者たち。 「あそこまで根つめて授業って訳じゃないんだけど」 雪斗が劫光の稽古を背にして座学を始めた。 「何より重要視するのは『命を護る事』……」 優しく言う雪斗だったが、聞いていた者は思わずつばを飲み込んだ。 瞳に、迫力があった。 威圧感ではない。覚悟、である。 「必要なら、紐に重りを付けた即席武器とかを使って距離を保ちつつ……」 「待ってください。我々は刀を構え威圧してくる卑怯な乱暴者から村を守りたいんです。そんな卑怯な方法ではなく、正々堂々としたまま追い返せるような力をっ!」 激しく実践的なことを言い出す雪斗に、意を決して一人の若者が食って掛かった。 「『命を護る事』に、体面を気にする必要は無いよ。ほら、彼を見るといい。『かっこいい騎士道』なんてないからね。……元騎士として言うけど」 雪斗はそう言って外を指差した。 「数的優位を維持しろ! 一対複数の局面を作れ!」 雪斗の指差す先で、イリアが激しく若者数人と稽古していた。 「どうした、相手が人ならどんな強者も背中に目はない。仲間とやりあう敵の背中や足を狙ったり、石を投げ援護をしろっ!」 マントをなびかせ鬼気迫る勢いで稽古をつけるイリアに気圧されつつ、石を投げる若者。 「次から言われる前に投げろ! 棒で敵の足を払い行動力を削げ!」 しかし、言われたということは誘われたということ。足を狙った棍はあっさり止められ体当たりを受ける。 「俺は故郷を守れなかった。……お前たちはそうなりたいのか?」 イリアの言葉にはっとした若者たち。顔色を変えがむしゃらに突っかかっていった。 「泥臭くてもいい、目を閉じるな。最後まで諦めるな。君が守るべきものと、君の命を……うおっ?」 縦横無尽のイリアを止めたのは、外野から飛んできた流星錘みたいな道具だった。 「広い場所での集団戦ではこの様なものを振り回し投げつけるのは如何でしょう? 志体持ちでも足に絡まれば転倒しますし何重も絡めば身動きが鈍る時間が作れます」 きらり、と眼鏡を輝かせ豊かな胸を張り、澪が登場した。 「私の方は、室内での集団戦を特訓しましょう。……有志はこちらへ」 そう言って十手などを渡し自分は釵「猫胡」を装備しつつ、集会所に入る。 「ちょうどいい。雪斗さんも手伝ってください」 「やれやれ……」 澪、こうして雪斗も巻き込む。 その後。 「この時も、畳や板を持った別の誰かが四方から押し囲み、隙間から別の人が攻撃したり、集落に唐辛子や辛いものがあれば目潰しにするのも手です」 「畳まで言うか……。というか、汚い手でも生き生き教える師範がそろったな」 眼鏡で目は見えないがにんまりと口の端を上げて教える澪に付き合いつつ、雪斗内心溜息を吐く。 「私の教えは皆様の思い描く『剣の心』には程遠いでしょうが……」 後は皆さんの選択です、と稽古を続ける澪だった。 ● さて、琥珀も集団戦法を教えていた。 「でも、一人ひとりが強くならないと集団戦でも生きないのでは?」 そう疑問を呈す者もいた。 「大切な奴や居場所守るのに格好良く、なんての必要ねーだろ? 大事なのは少しでも安全に戦って生き残る事だぜ」 「それは……」 どうやら頭では納得しているようだが、気持ちが納得しないらしい。手にした棒も力ない。 「俺達も強い奴と戦う時は協力するんだけどな。……しょうがない、ここからは一人ひとり教えよーか」 琥珀の言葉に息を吹き返した。 「棒は刃がねーから持つ場所選ばねーし、こーして相手の力を使って受けんのと同時に攻撃できるんだぜ」 相手の力を利用して武器を受け流す方法と棒ならではの戦い方を、軽やかな身のこなしと共に教える琥珀。 「そーだ」 さらにピンと来る。尻尾もピン。 「収穫後の祭りなんかで精霊に奉納演舞なんてしたらどーかな? それなら毎日の稽古も進むだろ?」 「そりゃいいな、琥珀」 ちょうどやって来た鴻が頷く。 「いいか。さっき教えたことは毎日やれよ? せっかくいい感じなんだからな?」 指導した若者を振り向いて言う。ちなみに鴻が教えたことは……。 「最も重要なのは基礎だ。これは、どの武術でも同じ事だな。……そう、家と同じ。基礎が確りしていなければ、立派な家は建たないって事さ」 必要な筋肉の鍛え方や足の運び方、基本的な棒の振り方を指導した。地味で面白くない部分だ。 もちろん、ほかの師範のように多対一もやらせた。 「攻めの起点は足腰だ。間合いを生かしたければ、そこに牽制を加えて近づかせるな!」 背拳を使い、受けて払って、武器を巻き込んで突いて、持ち手を短く見せ間合いをずらしてから打ち込んだりと、変幻自在の攻め方を実演した。 「はいっ! 分かりました!」 鴻の教え子が礼儀正しく礼をしたのは、そういったものを実際に見てきたからだ。 当然、ほかの師範も実演を交える。 「重心を利き手側に寄せすぎ」 煉之丞が、構えを取った若者の腰をぱしりと煙管で叩く。 「こっちは打ち込みの最中に体軸がぶれすぎ。足腰をもっと鍛えるといい」 次の若者にはぱしりと膝裏に。 「とにかく、数を打ち込んで慣れるといい。木刀もいいが、長柄の類も使えねばね」 目で笑い、流しつつ全体を見る。 その中で、満足行く構えのものもいる。 「慣れれば全身を使う突き、薙ぎも。……ああ、小技だが対峙し先を揺らすだけでも掛る間を掴み難い。試してみるといい。『遠慮をしては護れない』からね」 声を掛けられた若者は、師範に認められたと喜び励む。ほかのものもこれを見て、自分もと励んだ。 「あとからちゃんと集団戦もやること。ただし、譲り合いはわろし。生き残るためには躊躇わぬことだよ」 歌うように言って聞かせる煉之丞。いつもの自分のように。 だから、とってつけたような響きにはならない。 願わくば、若者の心に響けばとゆったり指導する。 こちらは技藝。実演重視、一対一集中で教えていた。 「あんたたち、煉之丞さんに基本は習ったね?」 頷く若者たち。 「それじゃ、あたいにかかっておいで。……遠慮はいらないわよ?」 素手のまま、ちょい、と右手でおいでおいでをする。 たちまち掛かってくる若者。 が、すぐに立ち止まり戦慄するっ。 「こうなると、どうなる?」 いきなり技藝の色っぽい顔が下から上目遣いで覗きこんできたのだ。あっという間の至近距離。 「ダメね」 うろたえた隙に、がっちり持っていたはずの棍を奪われた。棍を持つ手と手の間を掴まれたのだ。 「今の、できる? やってみなさい?」 今度は棍を持って迫る技藝。「わあああっ!」と若者が懐に入ったのは、彼女がわざと隙を作ったから。 「見よう見まね!」 「こうね」 ぐっ、とのけぞり若者が倒れたのは、技藝のひざが顎下に入ったから。 「さあ、次」 今度は脚を上げて次を誘う。 こうして、次々と足技で間合いを取ったり、棍を意識させておいて脚で止めをさすなどを実演して見せた。 「あら、クジャ……」 途中、クジュトの様子に気付いた。 どうやら、クジュトに木刀を教えてもらいたいと熱心な若者がいたようだ。 もちろん、これを拒むクジュトだった。 「心無い力に意味は無いが、力無い心もまた無力だ。だが時間は待ってなんかくれねえ。それでも強くありたいなら自分に何ができるか考えろ」 その向こうでは、激しく劫光が稽古をつけていた。 「『無理』と思ったら終わりだ。本当の無力ってのは力が無い事じゃない。何もしない事だ」 ぴしぱしと音が響く。ちなみに、劫光は陰陽師だったりするが。 ● 「クジャ、あれは良くないんじゃない?」 村の出稽古から帰った浪志組屯所道場で、技藝がクジュトに迫っていた。 「妹を守るには腕っ節もなければな」 ギラリとイリアも。ヤル気だ。 「な、なんか私情が混じってないですか?」 「ほ〜お。それじゃ、俺も稽古つけてやんぜ?」 待ったを掛けたクジュトを無視してゆらりと劫光が構えを取った。 「俺も手伝おうか?」 鴻も乗り気だ。が、クジュトは彼の参入にほっとしたり。 なぜなら、若者に棍の中ほどを掴んだ至近距離での左右二択攻撃など指導するときに優しかったからだ。 「とまぁ、変幻自在の攻め方が出来るのが棒術の特徴であり、利点って訳だ。分かったかな?」 という言葉が耳に残っている。 後、どたんばたんとひどい音が道場の外にも響いたという。 「……クジュトさんと少し付き合ってみて……っていうと誤解されるかもしらんが ちょっと思うことがある」 厳しい稽古の後、道場石段に座って雪斗が言う。隣では傷だらけのクジュト、そして治癒符で直してやっている劫光がいた。 「なんでしょう、雪斗さん」 「……変わりたい所は、自覚あるんじゃないかな……?」 ちちち、と顔をしかめつつ聞くクジュトに、意地悪っぽく顔を覗き込み擦り傷をつんつんしながら雪斗が言う。 「ちょっと沁みますよっ! ……別に、昔の自分は故郷に埋めてきましたし」 「何だ? 変わる気がないならこれはやらんぜ?」 劫光は先ほどクジュトに「やる気があるなら」と贈った長巻「焔」を取り返そうとする。振るうと炎の幻影が見えるような、非常に美しい長巻だ。クジュト、前に見せてもらってその時に気に入っていた。 「こう、乗れるような音楽があれば。……導くような楽曲があれば」 ぐ、と長巻を握って決意の顔をするクジュト。 「変わる気があるなら、重畳」 この様子を遠くから見て、笑みをこぼす煉之丞。鴻も温かく見守る。ふん、とイリアは鼻息を荒くしまんざらでもない様子。琥珀は後頭部で腕を組んで晴れ晴れと、技藝は色っぽく笑み、澪はきらんと眼鏡の位置を直す。 「吟遊詩人としても戦う術を探ります」 クジュトは言うが、果たしてどうなることやら。 |