【香鈴】受難の雑技団
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/05 17:47



■オープニング本文

 場所は泰国のある田舎。深い林中の道をもふら商隊がゆるゆると進んでいた。
 荷車を引くもふら様の歩みは遅いが、力強いため大量輸送に向く。低速移動により人員は手隙になりがちだが、そこは商人のこと、ぬかりはない。軽快に周囲を動き山菜摘みや情報収集をしては帰って来て、日々の食糧はもちろん、商材にもするというたくましさを見せている。空輸がもてはやされる中、陸輸が廃れない理由の一つである。
 ただし、移動速度の低さは盗賊どもの格好の狙い目となる。
――そして今、その危険性が目の前に迫った。
「おおおい!」
「まずい。賊だ、盗賊が来てるぞっ!」
 山菜摘みに出掛けていた男が慌てふためいて戻ってきた。
 本隊から離れて山菜摘みなどする部隊は、索敵を兼ねる。また、ことが起これば用心棒として剣を振るう。このもふら商隊の用心棒たちは、事前の訓練通りにたちまち迎撃戦闘態勢を取った。前方からの襲撃で、もうもふら商隊を引き連れての逃亡は不可能だった。
「じいさん!」
 右に左に人々が交錯する中、香鈴雑技団のリーダー、前然(ゼンゼン)の声が響いた。
――実は香鈴雑技団、次の町を目指すにあたりこの商隊の世話になっていた。
「こちらに」
 雑技団の後見人の老紳士、記利里(キリリ)がかしこまった。
「こりゃ無理だ。すまねぇが女たちを連れてドロンしてくれ」
「それしかないでしょうな」
「おい、アタシも残るぜ!」
 軽業師の少女、烈花(レッカ)が意気込んだ。自分も戦えると言わんばかりの勢いだ。
「駄目だ。烈花がいないと誰が皆美(ミナミ)や在恋(ザイレン)、紫星(シセイ)を守るんだ?」
「ちょっと前然、私をお荷物扱いするなんてどういうこと?」
 このやり取りで烈花は納得するが、紫星が機嫌を傾けた。
「とにかく逃げろ。兵馬(ヒョウマ)、闘国(トウゴク)、陳新(チンシン)、行くぞっ! 目的は分かってるな」
「おおッ!」
「前では戦わず、逃げる皆を援護するように戦う、だね」
 前然の言葉に兵馬が猛り、陳新が冷静に応じた。
「ささ、我々は‥‥」
 香鈴雑技団の少女を率いて記利里は撤退行動に入った。
 たちまち、30人単位の盗賊と10人ちょっとのもふら商隊用心棒との戦いが繰り広げられる。

 一昼夜を要して、出発した町に戻った雑技団の少女たち。
「‥‥駄目ね。この町ならまだお父様の顔が聞くと思ったけど、この町にも累が及ぶのを怖れて偵察隊すら出してくれないみたい」
 紫星がいまいましそうに肩をすくめた。
 そこへ、商隊の生き残り数人も命からがらの体で戻ってきた。
「ありゃあひどい。あの盗賊ども、楽しんで人を殺しよる。‥‥用心棒どもは苦戦しておった。もう駄目じゃろう。逃げ遅れた者も生きておらんに違いない。ありゃあ、皆殺しの盗賊団じゃ」
 うつむいたまま、焦点の定まらない瞳を閉じもせずにつぶやく。どうやら地獄もかくやの惨劇を目の当たりにしたようだ。「人はああも簡単に人を殺せるものなのか」とも漏らす。
「いやあっ! もう誰も死なないで」
「前然、みんな‥‥」
「はんっ! ワタシらが暮らしてた下町と何も変わんねェ。世の中腐ってンな!」
 皆美が首を振り、在恋が祈る。烈花に至っては怒りもあらわに吐き捨て手近な椅子に当たっていた。
「とにかく、我々で開拓者を雇いましょう。そしてすぐに確認‥‥いや、救出に行くのです」
「そうだ。じいさんの言う通りだ。あの前然が簡単にくたばるはずがねェ。助けに行くぞっ」
 記利里の言葉に、烈花が勢いづいた。皆美と在恋の表情も明るくなる。紫星も満足そうにしていたが、ふっと「うらやましいわね」とつぶやいたり。
 ともかく、少年たちを探してもらえる盗賊団と戦える人員を開拓者ギルドで募集するのだった。


■参加者一覧
朱麓(ia8390
23歳・女・泰
霧咲 水奏(ia9145
28歳・女・弓
宿奈 芳純(ia9695
25歳・男・陰
レイラン(ia9966
17歳・女・騎
ベート・フロスト(ib0032
20歳・男・騎
レイシア・ティラミス(ib0127
23歳・女・騎
来島剛禅(ib0128
32歳・男・魔
アルフィール・レイオス(ib0136
23歳・女・騎
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ


■リプレイ本文


 依頼した町にて。
「弓姉ェ〜。ありがと。来てくれたんだ」
 烈花が、到着した開拓者の中に霧咲水奏(ia9145)を見つけ抱きついた。不安のどん底にあった雑技団の少女たちにとって、今まで一緒に舞台を踏んできた人物――しかも、頼りになるお姉さん的立場の人――との再会は、この上ない喜びであった。
「雑技の友人の窮地。捨て置くわけにいきますまい」
 水奏は彼女の髪を撫でてやり優しく言った。
「なあ。前然たちは大体どういう風に危険を回避するか、隠れるか予想付かないかな?」
 その横で、レイラン(ia9966)が雑技団の少女たちにいた。
――絶対に生き残っている。
 少女たちはそう信じている。
 とはいえ、開拓者は信じるだけですまない。生きているなら、救出しなくてはならない。救出するのなら、方針なり手法なりが必要となる。
「それぞれ体格や経験にあわせた逃げ方、生き残り方を図ろうとすると思うからさ」
「そうですな。烈花殿たちが付き合いの長いのは確か。前然殿等ならば如何にするか、予測をお願い致しまする」
 続けて言うレイラン。水奏も頷く。
「あいつらのことだから、絶対に何か手を使うはずなんだ。特に前然はみんなを守るためなら汚名だって被ってきたから‥‥」
 うーん、と唸り、烈花がぶつぶつと応じた。
「あ!」
 声を上げたのは、皆美だった。
「もしかしたら、捕まって盗賊の仲間になっているかも」
「皆美、そんなわけないだろう!」
「‥‥それでもいいから、生き延びていて欲しい」
 怒りの烈花。在恋は祈るように言葉を搾り出していた。すべては憶測にすぎないが。
「安全を考えると紫星達は町で待っていてもらうのが良いのだが」
 会話が途絶えたところで、琥龍蒼羅(ib0214)が紫星に話を振った。
「おいてけぼりは嫌ですからね」
 ぷい、と紫星。「ま、面識のある者が多くては不便であるか」と蒼羅はあっさりとあきらめた。実は紫星、最近押しかけで雑技団に同行することになったばかり。蒼羅は、一人蚊帳の外状態で冴えない顔つきだった彼女を気遣ったのだ。
「彼らの特徴とか、そういうのって分からない? ‥‥あ、外見上のだけど」
 今度はレイシア・ティラミス(ib0127)が場の雰囲気を取り繕った。
「短い髪の毛が癖で跳ねてツンツンなのと、唇をいつも尖らせているガキ丸出しなのと、とにかく体が大きいのと、いつもしたり顔で何考えてるか分からないの」
 烈花談。順に、前然、兵馬、闘国、陳新のことだ。
「無事で居てくれるといいけど‥‥。ベートはどう思う?」
 特徴に頷いた後、レイシアは隣に立つベート・フロスト(ib0032)に聞いた。
「そうだな。隠れてそうな場所は分かるか?」
 ベート、隠れたと仮定して聞いてみた。しかし、芳しい返答はない。
「前然殿たちが別れて行動しているようならば‥‥」
「ああ、心眼での捜索はまかせろ」
 水奏の仮定に朱麓(ia8390)が胸を張る。
「呼子笛を用意しました。活用するといいでしょう」
「私も人魂で広域を探れます。無論、連携支援も」
 来島剛禅(ib0128)と宿奈芳純(ia9695)が続く。
「とにもかくにも、急がないと彼らの命が危険ね」
 レイシアが皆を促した。情報不足でも動くしかない。
「ん、出発だな」
 黙して成り行きを見守っていたアルフィール・レイオス(ib0136)が、静かに準備を整えるのだった。


 盗賊との遭遇現場には、特段変わったこともなく到着した。
「ひでぇな」
 道路に転がっている死体や荷車の残骸を見ながら、朱麓が瞳を翳らせた。どうも人通りが少ないらしく、もふら商隊と盗賊の戦った後が生々しく残されている。
「紫星。ほかの者もこっちへ」
 すかさず蒼羅が少女たちを現場から離した。
「あまり見ない方がいいものもある」
「ん、そうだな。俺も付き合う」
 彼の呟きに、レイシアも同意する。が、烈花だけは開拓者と一緒に現場を調べたがっている。
「‥‥これは、曲芸にもいえることですけどね」
 ここは私に、と2人に合図してから強禅が烈花を止めた。
「例えば、君の曲芸。闘国君が支える梯子の上でバランスを取ったりするんですよね。‥‥ほかの誰かが、闘国君が重そうだからと言って、使い慣れた小道具を勝手に別の物に取り変えたらどうなるでしょう?」
「そんな勝手なことをされたら、下手したら2人とも大怪我サ。むしろ迷惑だね」
「約束事はそれだけ、大切なことですよ」
 唇を尖らせる烈花に、剛禅はにっこりと言う。彼女はそれで出発前の「開拓者の指示に従うこと」という約束を思い出したようで、「ちぇっ、私も開拓者になりたいな」とこぼしながらも大人しくするのだった。
 さて、現場を調べていた開拓者。
「‥‥ボクは思うんだけど」
 レイランが赤い髪をなびかせ振り向いた。
「彼らが隠れているのだったら、盗賊たちも探しているんじゃないかなぁ」
「そうかもしれないけど、だったらどうしたのさ?」
 朱麓がくびれた腰に手をあて肩をすくめた。
「多分向こうもある程度散らばって探していると思うんだ」
「なるほど。敵に聞けば捕まってるかどうかは確実に分かるしな」
 レイランの読みをベートが支持した。
「なれば、当然この足跡を辿るので御座いますな」
 水奏が草むらに残る、大人数が往復した痕跡を指差した。大量の積荷は残ってないのは、持ち去ったから。もふら様が荷車で運ぶような量だ。かなり持ち去った場所と往復しただろう。数日経ってはいるが、さすがに痕跡ははっきり残っている。
「出番ですね」
 陰陽師の芳純が手にした采配をぽん、と打ち鳴らして前に出た。
 追跡開始だ。


 捜索は、人魂による前方遠距離探査の芳純、心眼による近距離索敵の朱麓、遠距離護衛の水奏、近距離護衛と近距離索敵補助のレイランを前面に立てた。その後方を、ベート、レイシア、アルフィールの騎士3人と剛禅、蒼羅が少女たちと記利里を護衛しながら続いた。
「ほう。ここからさらに先に天幕が設営されてます。おそらく根城。見張りはいません」
 林中をしばらく歩いていると、芳純がそう報告した。人魂からもさらに先のようで、「近寄れば、中も探れます」と話す。
「‥‥酒宴に高じているようです。仲間の皆さんも一緒に酒を飲んでますな」
 芳純の報告の報告に、できるだけ接近した一同から「えっ」という声がわく。明らかに動揺していた。
「あいつ〜」
「きっと、きっと方便です。やっぱり仲間になると偽って生き残っているんです」
 憤る烈花に、必死になだめる皆美。
「ま、これでやりやすくなった。計画通り、陽動・護衛・救出に分かれるぜ。こっちが派手に乗り込めば、相手も子供より俺らに興味が行くだろう。派手に敵地へ雪崩れ込んで、あとは流れだ」
 にやりと、ベート。さっと右腕を上げる。
「ようし。レイラン、レイシア、芳純、遅れるなよ!」
 突貫の合図に、朱麓が先陣を切って走り出す。
「では、ベート殿のご注文の通り派手にいきまするかな」
 水奏は、横に動きつつ乱射で天幕を狙う。すとんすとんと壁代わりの幕に刺さる。まさか、これを一人が撃っているとは思わないだろう。
 そして、矢が大量に刺さった天幕の中。
「な、何事だ」
 盗賊たちは案の定、取り乱した。気が緩んでいるようで、反応が鈍い。
「おら、全員武器を持って出ろ!」
「おい、押すな。出入口は狭いんだ」
「何やってんだ。下からめくって出ろ!」
 怒号が飛び交う。
――ばさ、ばさーっ。
 そこへ、天幕を両袈裟に切り裂いてそそり立つ人物が一人。
「盗賊ども、手入れだ。観念しな!」
 朱麓の姉御が啖呵を切り、いま、大地に槍の石突をつき下ろす。
「ひいいいいっ」
 盗賊どもはさらに混乱した。朱麓の両脇から赤い影が左右に散って、たちまち数人が倒れもんどりうったからだ。
 喉元を押えて倒れた男の近くには、レイラン。
(人ならざる獣の目をしたものなら、獣の如く喉笛を千切られるのがお似合いだよ)
 思っているだけだが、三本指を鋭利に曲げた右手が明確にその思いを代弁している。にやり、と微笑した姿は猫的。と、すぐに次の獲物に移りまた一人、喉を押えてのたうちまわる。その姿、例えてゼロ距離の狼。
「油断したわねっ! 気絶でもしてなさい!」
 片や、もう一方。レイシアが炎となって吠えている。次の敵も先ほどと同じく、一気に接近して剣の柄でみぞおちを下から突き上げ、くの字に体を折ったところ右手で顔全体をぐわしと掴んで、後頭部から地面にぐわし。赤い姿に烈火の怒り。至近距離で燃え盛る炎のほか何物でもなし。
「何をやっとる、お前ら。いつものように攻めろ。守ったら負けだぞ」
 慌てふためく盗賊の中で、それでも指揮を執る男がいる。練磨の顔つきからして、親玉らしい。が、30人前後の集団の統率は乱れたままだ。このあたり、鍛えてはいても所詮は烏合の衆といったところか。突発自体に弱い。
「ほう‥‥。あんたがコイツらの親玉さんかい? 思っていたよりも弱そうだねぇ‥‥」
 真ん中の朱麓が速戦即決とばかりに徳利や肴の並ぶ中央を突っ切った。
「こきゃあがれ!」
 敵親玉が剣を抜く。と、剣が燃えるように炎を纏った。
 炎・魂・縛・武。
「っ! ‥‥ああ、痛い痛い。やっぱり結構きついな」
 何とか敵渾身の一撃を受けたが、勢いに負けて肩にちょっと入った。苦笑の朱麓だがしかし、彼女の槍「疾風」も同じく炎を纏う。
「だが、手加減はいらんってこったな」
 彼女の反撃に、敵は明らかに動揺した。
 ともに、志体持ち。
 部下どもは、開拓者が乗り込んできたことを改めて知り、完全に逃亡に切り替えた。
「おらっ。お前も仲間になったんなら戦え」
 親玉は、隣にいたツンツン頭の少年を前に出した。短い剣を構えている。
(うん?)
 朱麓は、迷った。目の前の少年は、明らかに前然であった。切りかかるわけにはいかないが、下手を打って人質にされるわけにもいかない。
「正々堂々と戦え」
「ひ、卑怯だぞ。貴様!」
「知るか。さらばだ」
 前然の言葉に、思わず叫んだ朱麓。親玉はこの隙に天幕の下から脱出した。
「‥‥ありがとうございます。自分が前然です。香鈴雑技団の救出ですよね。すぐ、逃げましょう」
「あ、ああ。ちょっと演技が過ぎたな」
 一転、笑顔を見せて前然が言う。面食らったが、朱麓は何とか頷いた。
「ほかの3人も無事に保護。いま、援護に『これから脱出するのでよろしく』と伝えた」
 寄って来た芳純が言う。レイラン、レイシアも気付いたようで、いつでも撤収できると手で合図している。
 

 さて、天幕の外。時は若干遡る。
「ち、挟撃の形か。クリス、もう一枚頼む」
「いいですよ。十数枚はいけますからね」
 突貫してのユニコーンヘッドで敵の戦意を削いでから、ベートが振り返って叫んでいた。クリスこと剛禅の声がしたかと思うと、ベートの前に石壁が突然現れた。これで、敵の矢を凌ぐことができる。
 外では、計算外の事態に見舞われていた。
 どうやら盗賊たちの内何人かは外に出ていたらしく、待機組はちょうど後背から襲われた。獲物は、弓と剣。剛禅のストーンウォールで一時凌いだところ、今度は天幕から逃げてきた盗賊が弓で攻撃を仕掛けてきたのだ。どうやら離れの小さな天幕にいた数人は飲んでいなかったようで。
「またやられたいのかっ!」
 少女たちを庇う蒼羅が、納めた刀の鯉口を切った状態で凄む。先にこの状態から居合で一人の足に切りつけた。命に別状はないが、技の冴えで敵を圧していた。
「く、くそっ」
 横からの水奏の威嚇射撃もあり、後方の敵は逃げ散った。これが、抜かずの剣。
――ぴぃぃぃ。
 突然、鳴子の音がした。やって来た小鳥の足についていた手紙を見て、ベートが鳴らしたのだ。手紙の主は当然、芳純。
 これが、決定的な転機となった。
「ん、合図だな」
 後方の背後の敵がいなくなったことで、殿の援護にとアルフィールが出てきた。――明らかに一般人とは見られない、鎧の姿で。
――すわ、総攻撃か。
 盗賊どもは、そう思ったようだ。それまで戦意のあった者まで逃げはじめている。
「あっ。このくそガキども。逃がしゃしねぇぜ」
 中には、弱者と見れば脇目も振らず襲い掛かってくる者もいる。
「おやおや‥‥。子供の前だってのに随分と物騒なモン持ち歩いてるんだね?」
 殿の朱麓がきっちりと捌く。
「さ、いまの内に」
 芳純の呪縛符もうまい足止めとなっている。
 そして少女たち。
「前然、兵馬、闘国、陳新‥‥。良かった、みんな無事で」
「はんっ。くたばっちゃいねェと思ったよ」
 仲間との再会に、皆美が声を絞り出し烈花がいきがった。在恋は、嬉し涙を流していた。
「ちょっと。いまはとっとと逃げるわよ」
「紫星の言うとおりだ。後ろは開拓者に任せて、みんな走れっ!」
「おおっ」
 前然の掛け声に、いつものように声を上げる香鈴雑疑団だった。
「朱麓! 悪いけど、後は任せたわよ」
 レイシアも一緒に走っていたり。


 一行は、安全な場所まで引いて全員無事の確認をしていた。
「弓姉ェ」
 水奏に抱きしめられ、前然が困ったような声を上げた。
「対等な仲間ならば拙者も在恋殿達と同じ気持ち。安堵も致しまするよ」
「ありがとう。‥‥でもごめん。いまの自分に、その資格はないのサ」
 それだけ言って、「一人になりたいから」と歩き去った。
「‥‥弓姉ェ、ごめん」
 暗い顔をした水奏に、陳新が耳打ちした。
「あいつ、盗賊の仲間になる証を見せるため、一緒に戦って重傷を負った用心棒に止めを刺したんだよ。僕たちを守るため、人を殺したんだ。‥‥だから、ちょっと時間をあげて」
「苦労したので御座るな」
 そう、水奏は陳新を優しく抱きしめるのだった。
「まあ、これからはあまり無茶すんじゃないよ」
「う‥‥。うん」
 朱麓は、一番危なっかしそうな兵馬にお説教。跳ねっ返りの兵馬だが、さすがに今回ばかりは頷くしかなく。
 ベートは、しばらくして前然を追った。
「無茶すんじゃねえよ‥‥。まあ、なにはともあれ、お疲れさん」
 それだけ言って、皆にしたのと同じく頭を撫でてやった。前然は撫でられるのを嫌ったが、軽めの思いやりだったので何とか受け取ることができたようだった。

 ところで、剛禅。
「京劇用の台本にしてみた」
 どうやら今回の件をアレンジしたようだ。
「『名と身分を隠して預けられた少年と、志体に目覚めつつあった少女。恐怖を押して逃がしてくれた少年を助けるために、いま、少女は立ち上がる!』なんてどうだろう」
「あ、いいですね。見る人が元気をもらえそう」
「ああ。『元気な娘』だとさらに今風かな」
 皆美とそんな会話で盛り上がったり。

 さらに余談。
 陳新は今回の件を、そのまんま講談にした。
 後の話だが、行く先々で弁舌したとか。
「その様は静かなる護衛者の名の如し。伝達の要人も足止めする中、胸の星飾りがきらめき最後の砦の槍がうなる‥‥」
 ぺ・ぺん、と演台を叩いては恩人の活躍を格好良く広めたという。