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■オープニング本文 「真世君、遊界の賭場からまた珈琲お届け隊☆の出張依頼が来たよ」 神楽の都、珈琲茶屋・南那亭で旅泰の林青(リンセイ)が言った。旅泰とは泰国の商人のことで、一言でいうと商魂逞しく泰国のみならず天儀やジルベリアでも手広くやっているという認識をされている。 「遊界って言ったら、確か朱藩の城塞都市を利用した公認賭博の町よね?」 南那亭めいど☆として、開拓者ながらここで働いている深夜真世(iz0135)はぽややん、と思い出す。 泰国南部で飲用されていた珈琲豆を、神楽の都に持ち込んで商売にした。 この珈琲を、さらに広く飲んでもらおうと天儀各地を回って屋台で販売した。 前者は「珈琲流通開拓者」と協力し、この南那亭も開店した。 後者は「珈琲お届け隊☆」として、武天や理穴などを回った。 いずれも好評を得て、林青たちの商売は軌道に乗っていた。 そして、評判がよければ新たな商談が生まれる。 「そう。以前は霊騎競馬の話が舞い込んできたが、今度はルーレットの賭場『女王座』から珈琲お届け隊☆に来てもらいたいという依頼が来たんだ」 「ルーレット?」 指を立てて説明する林青に、真世はきょとんと首を傾げた。 「あ、そうか」 これはしまった、と林青は解説する。 【ルーレットのこと】 遊界にはルーレット、という賭博がある。 すり鉢状の椀の中心に回転する円盤があり、玉を投げ入れ円盤の外周にある窪みのどこに入るかを予想する遊戯だ。窪みは三十八前後あり、当れば一発逆転もありうる配当率と、遊戯中の優雅で独特な雰囲気が魅力とされている。 発祥は不明だが、一説によると大所帯の船大工の弟子たちが風呂の順番を決めるために誕生・発達した遊戯という。本当の話であれば、機材の加工技術の確かさも頷ける。勝ち抜け負け残りの性格から「留劣人(るれっと)」と呼ばれ、一般賭博に進化する中で「ルーレット」と呼ばれ始めたらしいが、真相は不明。 ただし、ジルベリア発祥論もあり一般的にはこちらに信憑性の高さがあるとされている。丁半賭博のような畳での遊戯文化ではなく椅子と机の遊戯文化であることなどが論拠だが、こと朱藩では留劣人説が根強かったりする。 とにかく、ルーレットという賭博遊戯があるのだ。 「とまあ、机と椅子でやるからより珈琲の雰囲気に合うんだね」 「へええっ。面白そう」 途端に目を輝かせる真世。 「あ。我々は目的上、遊ぶことはできないよ? 売り子が賭け事にはまって抜け出せなくなるようじゃ本末転倒」 「ちぇー」 「……まあ、そういうと思って特別に体験テーブルを設けてもらいましたから、そこで擬似貨幣を借りてやってみるといいですよ。ただし!」 「分かってる。いままでの珈琲お届け隊☆のように、ばっちり珈琲を売って、良さを分かってもらうんだよねっ」 林青の妥協案に、ぱああっと表情を輝かせて身を乗り出す真世。 「そういうこと」 にんまりとウインクして答える林青。このあたり、阿吽の呼吸である。 というわけで、「珈琲お届け隊☆」のメンバーが募られるのだった。 そして当日。遊界にて。 「『女王座』……。ここだねっ」 真世が元気にルーレットの賭場に入ろうとする。 「きゃん!」 「おっと……」 出てくる客に、どしんとぶつかってしまった。 「うう、ごめんなさい」 「問題ない。それより、『GOd LUcK』」 紳士然とした客はそれだけ言い残して立ち去った。目深に被っていた帽子が落ちたが、慌てて拾って顔を隠すようにそそくさとした様子だ。 「今のは確か、『七度に一度』の予想屋じゃないか?」 「何? あの伝説の、『七回チャンスがあれば一回は当てる』という……」 周りにいた一般人がざわ…ざわ……している。 「ま、いきなり当たった運がいい、ということだね」 ともかく、店内に入って活動開始である。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191)
20歳・女・泰
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
唯霧 望(ib2245)
19歳・男・志
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541)
18歳・女・陰
泡雪(ib6239)
15歳・女・シ
愛染 有人(ib8593)
15歳・男・砲
メリッサ・カニンガム(ib9695)
28歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ● 「さて」 カツ、と靴音を鳴らして唯霧 望(ib2245)がルーレットの賭場に出た。 「以前こちらから売り込みに行ったのが、今度は向こうから呼んでいただけるとは……」 瞳を閉じて蝶ネクタイを調える。そう、彼は今日は南那亭執事☆の執事服ではなく、黒いベストを着ている。 「お。新しいディーラーさんかい?」 客に声を掛けられ、ふ、と笑む。 「いえ。珈琲販売に参りました。勝負の合間にいかがですか?」 うやうやしく礼をする望。 「落ち着いたらな。あとでまた来てくれ」 「かしこまりました」 お辞儀して、辞す。 そして思う。 「自分達のしてきた事が、こうやって形になっていると思うと、嬉しいですね」 信用から広がる仕事、求められること、そしてそれらの嬉しさと喜び。 しみじみと口に出てしまう望の顔は、充実していた。 その頃、女性更衣室。 「カジノといえばバニーさん」 鏡の前でんしょ、と黒いうさ耳カチューシャを装着するアーシャ・エルダー(ib0054)。改めて自分の姿を見て、にこっ☆。 「真世さんもせっかくですから一緒にしましょう。……あらやだ可愛い♪ 私にお持ち帰りされないように気をつけてくださいね〜」 隣で見惚れていた深夜真世(iz0135) にかぽっ、と黒ウサ耳をつけてだきゅり☆。 「もう持ち帰られそうです〜」 「冗談冗談。これもつけましょうね〜」 黒蝶ネクタイもつけてやり、お揃いのウサ耳メイドの完成。 「ん。真世にはバニーガールの格好もいいんじゃないか?」 ここで、水鏡 絵梨乃(ia0191)が白いバニー服を手にしてやって来た。絵梨乃は胸元が大きく開いているメイド服姿。 「絵梨乃様。先に経営者にお話しして、服装についてアドバイスをいただいてみてはどうでしょう?」 白黒のきっちりした、正統派メイド服に身を包んだ泡雪(ib6239)が言葉を添える。 「淡雪がそういうなら。それじゃ、真世はこれを。着ないと判断ができないだろう? ボクの格好もいいか聞いてみよう」 「えええ〜っ!」 「きゃっ。絵梨乃様っ」 ふふっ、と意地悪そうに微笑した絵梨乃は真世にバニー服を渡す。そして泡雪に向かって、大きく開いた胸元を広げて見せたり。真っ赤になってのぞき……こみかけて視線をそらす泡雪だったり。 で、ここの女性オーナー、シエラ・ラパァナがやって来た。 「あら、いいわよ?」 大人の色気を帯びたシエラはさらりと言ってのけた。 「女王座は、女性も気軽に楽しめる賭場。……この程度でおイタをするような男性客はお呼びじゃないわ。下品じゃなければOKよ」 「あら、嬉しいわね。見る目がある人は違うわね」 シエラの視線を受けて、メリッサ・カニンガム(ib9695)がうふふ♪と豊かなバストを反らした。赤いワンピ水着風のバニー服に黒の網タイツ、そしてハイヒール姿だ。下品にまとめたつもりはない。堂々としている。 「ほら、真世ちゃんも。こういうのは堂々としていたほうがいいわよ?」 「堂々と? きゃっ!」 白バニー姿になって前屈みの真世を背後から羽交い絞めにしてぐいいと伸ばすメリッサ。「メリッサさん、胸当たってる〜」、「後で珈琲の淹れ方、おしえてね♪」とか。 「ボクもバニーさんになってみんなに珈琲を売るよ♪」 元気良く、は〜いと挙手するのはプレシア・ベルティーニ(ib3541)だが……。 「うんしょ、うんしょ。……ふにぃ、やっぱり難しいの〜」 狐耳をぴこぴこさせつつ黒バニー服を着ていたが、自分の狐尻尾が出ない。仕方なくぬぎぬぎすると、すべすべの背中を丸めて尻尾を出す穴を作り始めていたり。 「わしは兎耳は辞退じゃな」 おや、禾室(ib3232)はいつものメイド服ではないようだ。 「兎耳の狸尻尾獣人という珍妙な生物が爆誕してしまうからの」 「禾室様は男装ですか?」 ふふん、と胸を反らし執事服を誇る禾室。ふふっと微笑しつつ泡雪が聞く。 「ディーラーのお兄さんみたいな雰囲気じゃろう」 と、ここで「こんこん」とノック。「いいですよ」とシエラが声を掛けると、メイド服姿の人物が入ってきた。 「あの、まだですか?」 愛染 有人(ib8593)が身をもじっ、とくねっている。 「有人様がメイド服ですから、男装でいいんじゃないでしょうか?」 にこにこと有人を見てから言う泡雪。 「似合うじゃないか、有人」 ぽり、と頬をかきつつフォローする絵梨乃。ここに来た時の「よろしく願いします!」という元気のいい挨拶からのしょんぼりぶりが気の毒だ。 「まぁ、こんなこったろうとは思ったけどね……」 「また羽妖精の颯ちゃんが勝手に依頼を受けてきたのね、きっと」 男性更衣室で、用意してきた衣装がすりかえられメイド服が出てきたときの呆然振りを再現する有人を見つつ、予想も期待も裏切らない展開にくすくす笑う真世だった。 ● ――かららららら……。 賭場ではルーレットの音があちこちで響いていた。 「おお……」 ため息が多いのはやはり一発逆転を狙えるだけに当たりにくいからか。 「くそっ。今日はついてない」 そんな中、どん、と台を叩いた男がいた。ぐびりと酒をあおる。 ここで香ばしい湯気が男の鼻をくすぐった。 湯気の先を見る男。 「お酒も良いですが、コーヒーはいかがでしょうか? 眠気醒ましに良いですし、香りで気持ちが落ち着きますよ」 メイド服姿の泡雪がいた。まるで勝利の女神のようににっこりと微笑んでいる。 「ほう、気に入った。流れが変わるような気がしてきた」 「では赤と黒、どちらになさいます?」 おや、泡雪が変なことを聞いたぞ? 別の場所で。 「お客さん、これで頭スッキリさせて勝負に挑んでみてくださいよ。切り替えは大切ですから♪」 アーシャが頭のウサ耳を揺らして珈琲を勧めていた。 「珈琲か、懐かしい……。ん? 赤と黒? ははぁ。本格的だね。焙煎で色を変えたか」 「へえっ。お客さん、違いの分かる男ですね〜」 何と、泰国南方の出身者らしく珈琲に詳しかった。この言葉で会場の人から「珈琲お届け隊☆」を見る目が変わった。ちなみに、黒は濃い目の焙煎で、赤は浅い焙煎で色が薄めになっている。 「禾室さんの案が大当たりですね」 こっそり呟いてウインクするアーシャだった。 もちろんこちらでも。 「お姉さん、そのブレスレットの色、赤石と黒石はどっちが多いんだい?」 「あら。些細な事を気にしますね?」 ヒップの白い兎尻尾をくねらせて振り向いたのは、メリッサだ。 「些細な事に気付くか気付かないか、これが分かれ目だよ」 客の言葉ににまりとするメリッサ。「金持ち連中はそういうものよね」という本音は内緒だ。後の話になるが、ほかの客からも珈琲の産地や銘柄など聞かれるが、すらすら答えて好印象をもたれた。 「同数、ですわ。その代わり……」 「その代わり?」 さておき、ケープを羽織っていたメリッサが改めて言う。ぐぐっ、と身を乗り出す客。 「私が赤ですから、赤が多いですわね」 金髪を躍らせケープをぶわさと取ると、赤いバニー服に包まれたグンバツの胸がどどん、と揺れた。 「よしッ! 次は赤だ」 結果。 「入った! 2倍だが積んだチップの量で赤字回復だ」 好結果のようで、赤い珈琲が売れる。 さて、有人は。 「よし帰ったら頭突きだ……うん、決定☆」 悪戯相棒へのお仕置きを決めると、メイド服の裾をひらめかして賭場を回遊する。ちなみに、頭は何とか一角獣の耳は隠し兎耳をつけている。が、一角兎な状態で。 「お嬢さん、一杯もらおうか」 「ありがとう……ございます」 早速売れたが、様子がおかしい。頭を完全に下げず、腰を曲げて上目遣いでお礼を言っている。その様子がえらく可愛らしい。 「ひっ!」 いきなり飛び上がったのは、真世が尻尾を掴んでいたから。 「真世さん〜っ」 「ごめん。だって、ほかのお客さんに当たりそうだったから」 涙目で振り返る有人。どうやら尻尾が敏感☆で、これも気にしていたようで。 「それにしても上目遣いなんてしちゃって。この男殺し〜」 「一角兎はいろんな意味で危険なんです……」 つんつんと肘で突かれ、とほほと肩を落とす有人。頭を下げると角がお客さんに当たる可能性が高いため配慮しているのだった。 それはそれとして、プレシア。 「よぉ〜し、たくさん売っちゃうよ〜!」 狐耳を隠そうともせず、黒バニー姿のまま兎耳をすちゃっと装着して行く。 「ありがとな。ほら、チップ代わりに金平糖を食べるといい」 「ほみっ?」 珈琲を売ったら、チップをもらったぞ? 「お、入った。……ありがとな。珈琲のおかげかも。これはチップだよ」 「ふみっ?」 今度はひよこ饅頭をもらったぞ。早速頭から食べるプレシア。そのめっちゃ嬉しそうな仕草が評判となる。 「おし、俺も飲むぞ。ほら、チップはもみじ饅頭だ」 「こっちも。チップは温泉饅頭」 プレシアはもきゅきゅふみふみと幸せそうだった。 「禾室。赤と黒の珈琲は評判だぞ?」 賭場で禾室とすれ違った絵梨乃が、彼女のアイデアを褒めた。 「うむ。勝った後は、その幸運をほかの人におすそ分けする気分もあるようじゃの。景気良く同じ台の人に奮発する御仁もおった」 その時の笑顔が脳裏に蘇ったのだろう。楽しそうな笑顔を見せる禾室。 「もちろん、ボクの方も買ってもらった人にスイートポテトをつけて喜んでもらってるけどな」 「……珍しく芋羊羹じゃないと思ったら」 ここで真世が通りかかって突っ込んだり。 「真世は後で控え室に来るように」 ひいい、と真世が飛び上がったのはお尻を触られたから。 「お、そうじゃ。夏じゃし、冷たい珈琲がいる時は氷を用意したからの?」 禾室、氷霊結で氷も用意していたらしい。 「禾室ちゃん、こちらにはぬるめで甘甘の、頼むわ」 「おお。早速氷じゃな」 メリッサに呼ばれ、抜足で急ぐ禾室。 絵梨乃と真世も、ふふっと視線を交わして微笑しあうとそれぞれ散っていく。 「評判は良さそうね」 賭場の二階踊り場部分から様子を眺めていたシエラが優雅に振り返った。 「ええ。シエラ様もいかがですか? 色は……そうだ。あの卓は『赤』と『黒』、どちらと見ますか?」 後に控えていた望が礼儀正しく勧めて聞いた。 「赤か黒を選ぶのよね? 面白いわ。……赤を」 「仲間の禾室さんのアイデアです」 早速、赤い珈琲の入ったポットからカップに注ぐ。立ち上る芳香。 「あら。これもこだわってるじゃない?」 つん、とシエラが指先で突いたのは、望の腕に光る赤石と黒石のブレスレットだった。 「恐縮です。……シエラ様、残念のようでしたね」 真っ赤になったのは、そろいのブレスが彼のアイデアだったから。勝負を見守った卓は、「黒」だったようだが。 「いいのよ。その代わり、珈琲は当たりだったから」 飲んだシエラは、味に満足そう。 「……そうね。私は珈琲をご馳走になったし、評判も良くて『女王座』はとても満足よ。お礼に……」 シエラ、くいっと望の顎を指先で支えた。 「今度は『女王座』を知ってもらう番ね」 ● というわけで、シエラは開拓者のためにルーレット台一つを体験用に空けてくれた。 「まずは私と勝負。……うふふ。ディーラーをやるのは久し振りだわ」 これは楽しそう、と次々席に着く真世たち。 「絵梨乃様?」 「応援してくれるのか?」 泡雪は、席には着かず絵梨乃の背後に立ち肩に手を置いた。大切な人からの思いを感じ、絵梨乃が意を決する。何をするつもりだろう。 「外縁から球がこぼれるまでに、掛けてください」 球を入れるシエラ。シャーっ、と外縁を走る音だけが響く。 チップをそれぞれ、1から36まであるマスに掛けていく一同。ちなみに、シエラは7回投げるらしい。敬意を表して、全員が一点賭けをする。 「はい、ここまで」 やがて、からららららら……と、回転盤とぶつかる音が響き出す。 優雅で、緊張するひと時。 「珈琲、売れるわけね……」 ごくりと生唾を飲む真世。 やがて。 「7」 「どうよ?」 なんと、メリッサが的中。どどんと大きく胸を張る。 「次」 今度はメリッサ、0に賭けた。親の総取りだが、勝ったのでチップのつもりだ。 「……三回目、行くわよ?」 「やった! ……あ、いや。やりました」 今度は「12」に入ったようで、有人が思わず立ち上がった。……すぐさま「バレた? いや、バレても別に……」とかドキドキしつつ周りを気にしたが。 ゲームは、進む。 「起源不詳の遊戯……聞いただけで胸が躍りますが、さすがに配当が高いだけはあります」 「じゃのう。でも、まだある」 望が唸ると禾室も次を期待して尻尾ふりふり。 「あら、望ちゃん。極端には張らないのね?」 数字の中間ばかりを狙う望にメリッサが突っ込む。ちなみに彼女は一桁台に張っている様子。 「ええ〜っ、00ってダメなのぉ? じゃあ、00を36にするの〜!」 プレシアもふりふり狐尻尾を振る。 「プレシアちゃんは極端ねぇ」 「ふふっ」 メリッサの突っ込みに泡雪も笑顔。そして手の平の手応えに気付いた。 「はは、難しいね。当たれば泡雪に抱きついてほっぺにチューするくらい喜ぶのになー」 「それは当たるといい……あ、ええと……」 首を捻って見上げる絵梨乃の様子に困ってしまう泡雪。 「勝負のアヤ。こういうこともあります」 胸を張って珈琲を飲んでいるのは、アーシャ。メイド服から真紅のクロークに着替え済みで、貴族の威厳を見せている。余裕の表情で優雅に飲む姿は、仮に妹がここにいれば「何気取ってるんですか」と突っ込まれたに違いない。 と、ここで周りの男性たちの視線に気付く。 「あら。いい勝負をされてます?」 にっこりと、社交界のご婦人のような色気のある笑み。人妻はやはり違う。 「ほみ? 最後に当たったよ〜っ!」 ラストでプレシアが微笑んだ。 ちなみに、当たり数字は【7、15、30、12、21、29、11】。大文字からアルファベットに並べると、【GOdLUcK】だがこれは余談。 「それじゃ、当った人にはこれをどうぞ」 「私からは、これ」 アーシャがワッフルセットをプレゼントしてその場で食べた。真世からは「自家製用珈琲一式」。 「おおい、すまんがこっち」 「俺も飲むぞ」 はっ、と真世たちが気付くと、周りから途端に注文が殺到する。待ってくれていたのだ。 「はい、ただいま」 元気良く駆け出す泡雪。皆も席を立ち続く。 「ふふっ」 絵梨乃が遅れたのは、最後にそっと背後から両手で包むように泡雪が「惜しかったですね」と抱き締めてくれたから。自分の賭けた数字はすべて外れたが、二人の記念の数字ばかりに賭けていたことが泡雪に伝わったのだと分かる。 「やっぱり、外れても楽しいのがいいよねっ☆」 真世は、そんな絵梨乃に気付いてそれだけ言い残すと、兎尻尾を翻して仲間を追うのだった。 「残念でしたね。コーヒーでも飲まれて、気分をリフレッシュされてはいかがでしょう?」 遠くでは早速、泡雪の優しい声が響いていた。 |