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■オープニング本文 「いやあ、本当に良かった。旦那が無事で」 神楽の都の居酒屋。薄暗い店の隅でもふら面を被った男がクジュト・ラブア(iz0230)に酌をしながら言った。 「……それはどうも」 「ん? どうしました、クジュトの旦那?」 もふら面の男、クジュトの微妙な間に気付いた。 「いや、もしかしたらここには戻ってこない方がもの字さんには都合が良かったですか?」 「な、何を……。何と言うことをっ!」 クジュトが慎重にもふら面の男に聞くと、怒って声を荒げた。 「いいすか、旦那。あっしがあんたを裏切るわけがないじゃないですか。……旦那は逃げを打つ前言いましたよね? 『金蔓だから?』と。……ああ、そうですよ。あっしはあんたを金蔓にしてます。旦那が金になる限り、決して裏切りませんよ。これで満足ですか? これであっしを信用してくれますよね?」 ばんばんばん、と机を叩いて畳み掛けるもふら面の男。 「……すいませんでした」 素直に謝るクジュト。もふら面の男もこれで落ち着いた。 「ふぅ……。ま、いつ浪志組から寝首をかかれてもおかしくない立場の旦那が疑心暗鬼になったり慎重になったりする気持ちは分かりますがね。少なくとも、あっしやミラーシ座の皆さんを疑うようなことはしちゃいけませんや」 やれやれ、とクジュトから酌を受けて酒を飲む。 と、ここで気付いた。 「もしかして、潜伏中にあっしからの使いの者が遅れたからもしやと思ったんすか? ……それは勘弁してくだせえ。状況がころっと変わった後でしたし、何よりまず、神楽の都に戻ってこれるか確認をしなくちゃなりませんでしたので」 「確認?」 クジュト、不思議そうな顔をする。 「旅館組合とか、旦那が浪志組を支援してくれるようお願いして回った、隊の出資者たちですよ。ここを押さえておけば、浪志組で処罰が決まっても嘆願書を集めることができる。全体から見れば少ないとはいえ、浪志組に金を出してるところが手を引くといえば覆るかもですしね」 「おお……」 クジュトの顔に彼を信頼する様子が蘇った。 「もう、安心して下せえ。旦那はうまいこと真田につきましたし、出資者も旦那を見捨てちゃいません。以前のアヤカシ退治の恩は、まだ忘れられてはないですよ。……ただし」 「ただし?」 首を捻るクジュト。 「住民は、何も知らないながら『浪志組が内部のゴタゴタで神楽の都で抜刀沙汰をしでかした』と見られています。……いつまた暴発するか分からない危険な集団と見ている人もいるようですねぇ」 「信頼回復ですね? それじゃあ……」 「おっと。ぱあっと行くのは、騒いだ後なんで控えた方がいいですぜ? 代わりに、こういう話が来てます」 もふら面の男が改めて説明する。 内容は、神楽の都にある金鍔が自慢の茶屋「つばきや」の前で、何か客引きの催しをして欲しいとのこと。 柄の悪い者たちが流れ込んで、客足が遠のいたのが原因だと言う。 昨年末に、浪志組が警邏をしつつ甘味処巡りをして、歌って踊って楽しくやったのを聞いて、「ぜひウチの前の広場でも」と思っていたらしい。 「じゃあ、ミラーシ座兼浪志組でいいですね」 「そういうこってすね。前に何度かやった歌の舞台的なのより、通り掛かった人と触れ合えるような、流しの吟遊詩人的なのがいいそうです」 ほかにも、遊びに付き合ったり講談したりして楽しい雰囲気を作り、柄の悪い者や乱暴者を追い散らして欲しいらしい。 「派手じゃない、ちょっとした催しもいいものです」 「おっと、飲食物販売だけは周りの飲食店の反感を買いそうなので気をつけてくださいよ?」 こうして、茶屋の前でちょっとした楽しいことをしてくれる人が募られるのだった。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
サラファ・トゥール(ib6650)
17歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 「わりゃあ、ガキども。ここできゃあきゃあ遊ぶんじゃねぇ」 いきなりだが、神楽の都の港に近い場所にある甘味処「つばきや」の前広場付近でそんな怒号が響いた。強面のならず者どもだ。「うわぁぁぁ〜ん」とその恐ろしさに逃げる、今しがた遊んでいた子どもたち。 しかし、あまりの怖さに竦んで逃げ遅れる子どももいる。 「おら、聞こえんかったんかィ? ここで……」 「そこまでにしておいたらどうですか?」 ぱしり、とならず者の振り上げた腕を取る者がいた。 女形姿のクジュト・ラブア(iz0230)だ。 「あんだ、いい女じゃねぇか!」 この時、ちょっと離れた場所で。 「お姉ちゃん、あの人……」 「大丈夫。安心して」 しゃがんだリスティア・バルテス(ib0242)(以下、ティア)が、自分の背後を指差す子どもに笑顔を見せていた。 場面はクジュトに戻る。 「ちょいと遊んだるけぇ、大人しゅう……」 「クジュトちゃん、あの時……混乱させちゃってごめんね」 クジュトに抱きつこうとするならず者の声はそこで止まった。クジュトが下がり、隙間にすいっとアルマ・ムリフェイン(ib3629)が割って入ったのだ。 「それと、ありがとっ」 「ええ。こちらこそ、ありがとう」 羽根付き帽子をくいっと上げて振り向くアルマに、にこっと応じるクジュト。いつかの依頼で、ともに心が痛くて。言葉はそれだけで通じた。気持ちも。 しかし、そんな一瞬もならず者の怒号で終わる。 「おいっ。テメェはなんだ?」 すいっ、と黒字に赤段だら模様の羽織を翻すアルマ。 「浪志組隊士、アルマ」 そのまま精霊鈴輪を鳴らし演奏に入る。他にもいたならず者の仲間が異変に気付き近寄ってきている。 「ガラ悪い人だねっ」 ここで手に装着した精霊甲「煉」で握りこぶしを固めたリィムナ・ピサレット(ib5201)が割り込んでる。 「おおぅ、やるかぁ?」 ただし、「煉」は精霊武器。たちまちアムルリープで眠りに落ちるならず者。アルマの方も無事に眠らせている。 「楽しく遊んでる所を邪魔しようだなんて、相当に捻じ曲がった奴等だな。……よお、無事だったか?」 眠らせたならず者二人を運ぶアルマとリィムナを見送りつつ、ぽきりと拳を鳴らして義憤に燃える樹邑 鴻(ia0483)。 「クゥ、私は周りの店も見て回ってくるわね♪」 クジュトの肩をポンと叩いてから軽やかに舞うように去って行ったのは、ニーナ・サヴィン(ib0168)。 「あ、ニーナ……」 恋人の白くか細い肩に見惚れて止めきれなかったクジュト。今度は別の方向からぽんと肩を叩かれた。 「ふふふ。私も見回りに行ってきますね」 イリス(ib0247)も、風に舞う花びらのように賭けていった。 「クジュト?」 ここで、ジプシーのサラファ・トゥール(ib6650)が軽やかにクジュトの前に出た。 「皆と話したけど、困った人はああいう風に連れて行きます。見えないほうがいいでしょう?」 「そうですね。さすがサラファさんです」 にこりと頼りになる仲間に笑みを見せるクジュトだった。 場所は変わって、ティア。 「あ、すごい。怖かった人、眠っちゃったよ?」 「そういやお姉ちゃん、何て人?」 「だから言ったでしょ。……ん、私?」 子どもたちに言われて、一呼吸置いた。バイオリン「サンクトペトロ」を構える。 「白の吟遊詩人、リスティア・バルテスよ! それじゃ、ミラーシ座! 行くわよっ」 一瞬ざわめいた広場に、楽しい演奏が響きだすのだった。 ● 「おっと、先につばきやさんの金鍔試食♪」 こちら、ニーナ。 乱れた裾からすらりと細く覗いた脚をくるっと捻ると、つばきやの方に向かっていた。 「来たばかりで仕事してもろぅて、すいませんね」 「あら、ありがと」 早速、お礼に振舞われた丸い金鍔を四つに割る。 「ん、ほろりと甘くて美味しいわね♪」 「今日から十文字の切込みを入れてみたんですよ? 家族四人でも分けられて、『四方丸く収まる』って」 「まあ、ちょうどいいじゃない」 金鍔の美味しさににこ〜っと笑みを見せたニーナに店員が続けた。ニーナの方は好都合とばかりに両手を合わせる。 「それはぜひ、広く試食して知ってもらわないとね♪ ……大丈夫。試食分は浪志組が買い取るって事らしいから損はないわよ?」 早速、爪楊枝たくさんを用意させるニーナ。 なんだか生き生きしてきたようで。 そして、鴻。 「やぁ、そこな方々。時間があるなら、ちょいとコマを回していかないかい?」 小麦色の肌に、橙色の瞳が生き生き。 どうやらコマ回し大会をやるつもりだ。 「まずは回ってる時間競争だ」 明朗快活な呼び込みの声。わあっと男の子たちが寄って来る。 「ねえっ。勝った人には何かある?」 「ん?」 無邪気に問われてちょっと困る鴻。ぽり、と頭をかく。こういう時も分かりやすい。 ここで、ちょんと肩を突かれる。 振り向くとニーナがいた。金鍔を差し出しウインクしてたり。 「景品は、甘くて美味い金鍔だ。ここは一つ、今日のおやつとして勝ち取っていくってのはどうよ」 鴻がにこやかに高らかに言い放つと、このお兄さんを困らせたいわけではなかった子どもたちも一斉にもろ手を挙げて喜んだ。 「よ〜し、そんじゃボクから」 「俺も俺も」 「こらこら、順番だって。……後で喧嘩独楽もするからな」 賑やかにコマ回し大会の開始だ。 その頃、眠らせたならず者を運んだ路地裏。 「う、ん……」 「起きた?」 「てめえっ!」 「おっと」 目覚めた男を覗き込んだアルマ。いきなり襲い掛かろうと脇差の柄に掛けた手を押さえ止めた。 「浪志組を、覚えておいてね。……もしこれ以上、君達が狼藉を働くなら。彼らの安寧を脅かすなら、そこに浪志組が在ることを忘れないで」 冷たい笑み。緑の瞳が淡く揺らぐ。この迫力に押し黙る男たち。 「『お願い』だから、次に逢える時も僕らと相対さないでいて」 でないと……、と続きそうな言葉。静かな迫力は伝わったようで、「けっ」と吐き捨て逃げていく。ほぅ、と溜息を吐き振り返るアルマ。すると。 「めでたしめでたしだねっ」 「……リィムナちゃん、それ担いでたの?」 なんと、リィムナも彼の背後でいい笑顔をしていたようだ。しかも大鉞「金時」を構えて。 が、そのリィムナ。ふと自分の武器に気付く。 「あ、そういえば。……こうしちゃいられない」 「さて、僕も楽しんでこよう」 使命に気付き踵を返すリィムナを見送って、被った羽根付き帽子を整え直すアルマだった。 一方、イリスははっと足を止めていた。 「いいわよ。次の部分は一緒にうたって」 ティアが奏でて子たちと仲良くうたう姿の先。いかにも人相が悪そうなのがカツカツと歩いていたのだ。ついでに腰巾着っぽい男も付き添っている。 「あの手合いは自ら避けるということは……」 しそうにない。イリス、後ろでまとめた桃色の髪を揺らして駆け出す。 「おぅら、ガキども。どきな」 「待って。こちらに回っていただけませんでしょうか?」 イリスは早くも周りに迷惑を掛けそうな二人に並び、ついと脇へと誘導しようとする。 「何でえ、このネェちゃん……ぐはっ」 いきなり短刀を抜こうとした腰巾着に肘鉄を食らわす。もちろん手加減つき。 「こンの……。下手にでてりゃ付け上がりやがって!」 本格的に短刀を抜いて居丈高にする腰巾着。 が、その勢いは静まった。 「あらあら、いけませんわよ?」 オーラドライブで威圧感ある笑みを浮かべたイリスが、儀礼宝剣「クラレント」を眼の高さに掲げ半分抜いていたから。宝飾の美しさの奥に、緑の瞳。ゆらりとたぎるオーラ。 「おい。今日はネェちゃんの顔を立てとけや。……邪魔したな」 ボスっぽい男が踵を返し、ほっと普段の笑みに戻るイリスだった。 ● 「ふふっ♪ この近くには結構いいお店あるのね。……サラファさんも試食してみる?」 ニーナはこの隙に、周りのお店を調べていたらしい。店先で竹輪を焼いている店があったり、寿司屋台があったらしく試食分をたっぷりと抱えている。ちょうど出会ったサラファに、あ〜……。 「……ん。この竹輪、焼きたてて美味しいですね」 口元を褐色の手で押さえ、紫の瞳を丸めるサラファ。早速、どこの店の品か聞いてメモを取り始めていたり。 「紙芝居、新釈・金時さん始まるよー!」 ここでリィムナの声が響いた。 「って、ちょっとリィムナさん」 何と、リィムナは赤い六角金文字の前掛け一丁で大鉞「金時」を構えつつ友人に描いてもらったゆるキャラ紙芝居をしようとしているではないかッ! 「大丈夫だって、クジュトさん。ちゃんと下は水着だから」 突き出すお尻には確かに白い水着が。 「はい。金時さんは高名な武将だけど、実は腕のいい菓子職人でもあり彼の作った銀鍔は不思議な力があったんだ……」 というわけで、そのまま紙芝居の始まり。どうやら「昔は銀鍔と呼ばれていた金鍔が、どうして金鍔と呼ばれるようになったか」というお話らしい。 金時が気紛れで世直しの旅に出て、三匹の動物を破り銀鍔を分けて家来にし、亀に命じて竜宮城に若者を集めていたタコ頭の大アヤカシを銀鍔食べてパワーアップして倒し、最後には巨大な水の儀が接近し天儀全土が大水害のピンチとか。 「荒唐無稽ですね」 唖然とするクジュトだが、子どもには受けている。 「ワンッ。ボクは小さい子が大好きなんだ!」 とかいう幼女さらいの犬。 「へへっ頂きだぜ!」 などと得意げにする掏りの猿。 「私は咲き誇る美鳥キジエ……」 とかなんとか、着物生地を盗む雉。 リィムナは、後に仲間になる三匹をノリノリで演じ分けてたり。 「でも、どうなっちゃうの?」 「祈って!」 大洪水の最終幕にはらはらする子どもち。リィムナはきっぱり言って盛り上げる。両手を合わせる一同。 「ほら、人々の祈りが金時さんに集まり天儀を遥かに超える大きさに巨大化! 水の儀を丸呑みにして解決!」 こうして、人々は金時さんを讃え金時さんの「金」の字をとり銀鍔を金鍔と呼ぶ様になったらしい。 「めでたしめでたし」 「ホントですかねぇ?」 締めたリィムナときゃいきゃい喜ぶ子どもをよそに、一人眉を顰めるクジュトだったり。 「わあっ。お兄ちゃんすごいっ!」 「どう? 此処は楽しいことのある場所でしょ?」 別の場所ではアルマがお手玉をしていた。観客に投げてもらって、三つの玉を操っている。 「もう一つ投げて?」 「わあっ」 さらに増えて、さらに高く投げて。子どもの顔も上がり晴れやかに。 「どうやったらあんなことできるんだろう?」 「それはね」 アルマ、今度は被っていた羽根付き帽子を取って一本の指で支えるとくるくる回し始めた。 「楽しいことが好きなら、できるようになるんだよ?」 ウインクしてぱっと帽子を投げると何もない空間から――本当は事前に袖に隠していたのだが――薔薇の花を取り出しプレゼント。落ちてくる帽子もここでキャッチ。わき上がる拍手に礼で応えつつまた薔薇を出してみたり。ここも大人気だ。 ここで、イリスがやって来た。 ● 「ではアルマさん、宜しくお願い致しますね」 イリスの声に頷くアルマ。イリスは礼儀正しく、物腰柔らかに礼をするとすうっと息を吸い込んだ。 ♪小鳥の、さえずりが…… ローレライの耳飾に手をかけ歌う。人々の心が、耳がさえずりを探す。 ♪雪解けを誘い、冬の終わり告げ…… ああ、と聴衆。耳に優しく心に温かい歌声に納得した顔だ。 ――春の訪れを祝福する歌。 「イリスちゃん……」 目を閉じ空に身を捧げるように歌うイリスを、アルマは黄金の竪琴を爪弾き導く。騎士もするリーガの歌姫 と、浪志組吟遊詩人のハーモニー。 「はぁい♪ お時間あるかしら? お買い物? それともデート? もしよかったら立ち寄っていかない?」 その頃、ニーナも踊っていた。道行く人を縫いながら。肌蹴た肩と足元を自由に動かし。 「つばきやの金鍔は上品な甘さでお母さんへのお土産に最適♪ おひとつどうぞ♪ 金鍔はデザートにして今夜の食事はお寿司なんていかが?」 自分が試食して感じた喜びを、そのまま体全体で表現していた。見守っていた人々の心も躍る。 「あら、いいわね」 「ちょっと呼ばれようかしら」 人を動かし、自分も動く。ニーナの魅力全開。 「はぁい。ニーナ」 ここでティアが手を振りウインク。 「ティア姉さん。楽しくなる曲?」 「ええ。それじゃ始めましょう、ニーナ! 頼んだわよ♪」 クーナハープを奏でるニーナに、巫女舞を始めるティア。 ここで、ステップ。さらに「精霊の唄」でうたう。「元気でありますように」と。 いつもの巫女舞と違う流れ。 当然、人々が注目する。 もちろん、柄の悪い者も注目する。 「ちょっと。あなたいいかしら?」 そんな輩には、ヴィヌ・イシュタルで魅力を高めたサラファが近寄る。バイラオーラで軽やかに脚を蹴上げて近寄ったので、柄の悪い男もドキッとして完全に飲まれてしまった。 「お相手しますのでこちらへ」 のこのこ路地裏について行く男達。これから獄界の鎖によるマノラティでがんじがらめにされるとも知らずに。 「よぉ、そこな兄さん。人が楽しんでいる所を邪魔しちゃぁ、いけないぜ?」 まだ乱暴者はいたが、今度は鴻が黙っちゃいない。 「腕っ節で片を付けるのは簡単だが。御覧の通り、ここは皆で楽しむコマ回し大会の場だ。なら、こいつで勝負を決めてみるってのはどうだい」 喧嘩独楽勝負に引きずり込みに行った。 「うっせえ。ガキの遊びなんざに……」 「俺が勝ったら、邪魔するのはもうやめて楽しんでいきな。俺が負けたら……そうだな、酒の一つでも奢ってやらぁ」 逆らう男の腕を取りぎりりと握り締め、強引に首を縦に振らせてしまう。 結果。 「わあっ。お兄ちゃん強いねっ」 「な? 喧嘩するより面白いだろ?」 利き腕を先に潰した分、余裕の勝利。あくまで遊びで勝負をつけた。 ● 「皆が幸せになれます様に……」 そして、イリスが歌い終えていた。クジュトを見ている。再出発への祈りに似ていた。 「ねえ、クジュト。……ぱあっとやっちゃ、駄目?」 別の方からは、ティアがねだるような視線。 「どうでしょう?」 クジュト、つばきやのおかみさんを見る。 「あなた方なら。……浪志組とミラーシ座なら安心できます」 「いいよ」 早速親指を立てて伝えるクジュト。 「い・やった〜。イリス? アルマ? 合わせるわよ。……あ。サラファ、こっちに。リィムナもいーからこっち。ニーナ、クジュト、準備はいい? 鴻も逃げないで」 よほど最近の鬱憤がたまってたのか、途端に元気爆発で仲間を集めるティア。 そして。 「『つばきや』の金鍔は遠慮なく購入して食べてねっ! それじゃ、あたしの唄をきけーい♪」 皆が一斉に演奏し歌い、踊る。巻き込まれた鴻とリィムナも戸惑いながら身体を動かす。 もちろん、どんどん増える観客も。 その日から、この一帯のならず者の数が減ったという。 |