|
■オープニング本文 ●定型前口上 さてさて、泰儀を気ままに雑技旅している孤児8人たちの香鈴雑技団。 これまでの経緯は知っていても知らなくても大丈夫。 なぜなら気ままに旅をしているのだから。 行く先々の風景や人々、奇天烈な話やほんわりする話を一緒に楽しめばいいだけ。 それじゃ今回は「香鈴、燃えよ泰拳士の章」だよ、お立会い。 ●物語 「よそ者は帰ってくんな」 香鈴雑技団が旅の途中で立ち寄った町の境界付近で、町の老人からそんなことを言われた。 「なんだって……」 「そんなことを言っても、ここは港町でしょう? 人の出入りは多いはずですよ?」 つい反射的に口を開いた剣舞の少年・兵馬(ヒョウマ)を抑え、知恵者の道化・陳新(チンシン)が聞いた。 「交易港ではなく漁港じゃからな。……気性が荒い上に、いま町の若い者は気がたっとる。あんたらみたいな子どもが立ち寄っちゃ、ひどい目をみるじゃろうなぁ」 「何かあったんですか?」 リーダーの前然(ゼンゼン)が、老人の表情が柔らかくなった様子を見て改めて聞いてみた。 「まあ、話してもせんないことじゃが」 老人曰く、いま町は街頭格闘の会場と化しているらしい。 というのも、町に唯一あった拳術道場が道場破りに敗北し、権威が落ちたのがことの発端とのこと。 「その前に、道場の開祖が他界し、有力な跡継ぎ候補だった者が『こんな小さな港町では腕が廃る』と有力者を引き連れて都会に出て、それで道場破りが来てこてんぱんにされるという不幸が重なったんじゃがの」 溜息混じりにそう説明する。 「道場破りってのは、あとのことなんか考えないからなぁ……」 「バカね。私たちも余所者として似たように見られてるのよ」 軽業師の少女・烈花(レッカ)がやれやれと同情すれば、育ちの良い娘・紫星(シセイ)がそう突っ込む。……口に出してしまうのがこの娘のやれやれな所だが。 「私たちは乱暴者じゃなく、雑技団です。旅の途中で、体を休める町を求めてきました。どうか町に入れてください」 慌てて歌姫・在恋(ザイレン)が奇麗な声を張った。 「こ、この人は力持ちですが、優しいです……」 「……ん」 一際目立つ体躯の力持ち・闘国(トウゴク)を針子の娘・皆美(みなみ)が咄嗟にかばう。闘国は慣れたもので、無口を装った。 「あんたらは子どもと老人ばかりじゃし、無下にはしとうないが町のもんの乱闘に巻き込まれるのはしのびないんでの。……信用できるのは、ちゃんと仕事として依頼した開拓者のみじゃ」 「ほぅ、開拓者を頼みましたか。どなたを頼みましたかな?」 老人の漏らした言葉を、後見人の老人・記利里(キリリ)がしっかり聞いていた。 「わ。俺たちの兄ィ姉ェが来てるといいなっ」 声を弾ませた兵馬の声に、老人も表情を変えるのだった。 こうして、老人の客人として町に入れてもらえた香鈴雑技団。 すでに町が雇って、現在街頭格闘をしかけてわがもの顔をしている6人の青年覆面泰拳士を懲らしめるためにやって来る開拓者と顔を合わせるのだった。 敵の覆面泰拳士はいずれも志体持ちだが、道場の有力な跡継ぎが腕試しのためいなくなってから町に入り込み暴れだしたという程度の実力しかないので、現役の開拓者より実力は劣るとみられている。実際、その6人は徒党を組まずに単独で動いていることから、「道場拳法」から脱却し「実戦拳法」を主流にしたいと思っている節がある。実際に、勝負を挑んでくる相手以外に直接的な被害を与えていないが、道場が解散気味となっているため治安は悪化の傾向を見せている。 道場主体で腕を磨いて欲しいという町の意向に沿わせるため、まずは力で6人に分からせてやる必要がありそうだ。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
慄罹(ia3634)
31歳・男・志
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 町長宅の開拓者たち。 「あー……うん。なるほど。道場で学ぶより実戦で〜……って話かな」 九法 慧介(ia2194)がぽりぽりと頬を掻いている。 「まあ発想自体は悪くはないと思うけど……」 煌夜(ia9065)はやれやれね〜、という風情で脱力している。 「力って言っても色々あるからなぁ」 「そういうこと。実戦派であることとガラの悪い事は関係ないわね」 もともと自由奔放な慧介と気ままな煌夜。どちらも苦笑している。 「心が伴っていないのではな。ただ人に迷惑を掛けるだけならそれはアヤカシと変わらん」 ふう、と溜息をついて琥龍 蒼羅(ib0214)がバッサリ断じる。まるで彼の剣技のようだ。 「とにかく、自分たちのしていることを思い知ってもらいましょうか」 「何とか分かってもらいたいよね」 煌夜と慧介が肩をすくめたところで、新たに誰かがやって来た。 「わぁ、皆さんお久しぶりです」 「あっ、ニンジャ姉ェたちだ!」 ルンルン・パムポップン (ib0234)が両手を胸の前で組んで飛び上がったのは、香鈴雑技団がやってきたから。早速、馴染み同士の再会を喜ぶ面々。 「ン? アンタ達こんなトコまで来てたンかい。……まあサックリ片付けてくるからちょっと待ってナ」 「疾風姉ェ、相変わらず簡単に言うなぁ。大丈夫なの?」 さらりと言う梢・飛鈴(ia0034)。両手を後頭部で組み意地悪そうな視線で烈花が突っ込む。 「付いてきたければ来ても構わんしナ」 これで烈花が付いて行くことになった。 「りーしー、おれたちもはやく行こうっ」 「っと、待て待て。せっかく雑技団の子供たちが来たんだ。……公演楽しみにしてるから絶対やってくれよなっ」 元気良くこぶしを振り回す人妖、才維(サイイ)を落ち着ける慄罹(ia3634)。その才維を「わあああっ」と珍しそうに見ている皆美に桜のもふら餅などが入った包みを渡す。手土産だ。 「そーだった。おれも楽しみにしてるー♪」 「才維くんっていうんだ。かわいー」 「あー……、すまねぇ。戦う最中に変な動きしねぇよう、見ててやってくれな」 これで皆美も同行することに。 「前然君、ついていらっしゃい」 煌夜がちょいと人差指を曲げる。素直に従う前然。 「感心ね」 「ふざけたステラ姉ェは手に負えねぇけど、今は違うんでね」 こつん、と無言で前然の頭を小突く煌夜だった。 「あの……、蒼兄ィ? いつもより様子が変じゃない?」 蒼羅には、紫星が心配そうに寄って来ていた。 「いろいろあって本調子ではないとはいえ、この程度なら問題は無い」 ふい、とそしらぬ風にそっぽを向く蒼羅。 「何よ、心配してあげてるのにっ!」 「分かった。10数える内に勝負がつかなかったら紫星にも手伝ってもらおう」 唇を尖らせた紫星を見て気を変えた蒼羅。普段通りにしてたのに見抜かれ感心したのだ。 一方。 ――ずさあっ! 「な、何だよ、兵馬」 「手品兄ィ、お願いだ。俺を連れてってくれ!」 兵馬は、出掛けようとした慧介に滑り込んで土下座していた。 「仕方ないなぁ。ほら、望みどおりにしてやるからまず立ちなって」 というわけで、兵馬は慧介のとこに押しかけた。 「それじゃ、町で暴れるよそ者覆面泰拳士軍団を、ニンジャの力で懲らしめて、改心させちゃいます!」 目元を覆う赤い仮面をつけたルンルンが言い放って町に繰り出すのだった。 ● ところで、ルンルンには誰が同行したのだろう? 「ほら、闘国さんの分もちゃんとあるんですっ」 「ど、どうして?」 どうやら闘国が付いて行ったようで。早速、彼にも自分と同じ仮面をつけてやる。 「昔から、赤い仮面に燃え盛る、正義の心って言うから、覆面に対抗して気合い入れて来ちゃいました」 行くヨ・強いヨ・負けないヨ、などと気分良く歌っている。こんな調子で大丈夫か? さて、そのころの煌夜。 「それにしてもよく面倒事に巻き込まれるわね」 「旅ってのはそういう……」 全てを言わせなかった。 道を歩いていると、前から覆面の男が歩いてきたのだ。視線を送る煌夜。相手も気付く。 そしてすれ違った。 ――ばばっ! 煌夜のアナンシアハットがひらりと飛んだ。 その後ろでは突き受けの応酬をした覆面男と煌夜が構えている。 「私は志士だけど、刀は無しね」 「負ける気ならばそうしてやるさ」 挑発すると敵は乗ってきた。それでも煌夜が手にただの布を巻いて武器とする暇を与えてから、すい、と両手をくねらせ蛇の拳の型を取る。 「女の子のようにのんびりしてるのね? そんな奥手で大丈夫?」 「シャッ!」 たちまち打ち合いが始まった。後手の煌夜はしっかりガード。が、舐めるような攻撃は拳の先を曲げて噛み付くように突いて来る。動き回る両腕が厄介だ。 その、直後。 「う」 敵の動きが止まった。 「実戦を標榜するなら、これくらいで取り乱してちゃ駄目よ?」 にまっ、と微笑する煌夜。 何と、絡んでくる敵の腕をそのまま自分の豊かな胸に導いていたのだ。自分の手にあわせてふにっと形を崩した胸。その手応えに固まる敵。 「……こうなるから」 風に揺らぐ枝垂桜のような燐光が散り乱れる一撃が敵の腹部に入った! これで敵は陥落。 「最後はちゃんと礼を」 敵を手当てしてやり目を覚ますと、「試合」の礼を尽くし強い者は礼節も知ることを説いてやった。 「でもステラ姉ェ、あれは……」 「あら。妬いたかしら?」 「違う違うっ。胸を張って押し付けて来なくていいよ!」 何だかんだでいつも通りの煌夜だった。 「欲しいのは暴力なのか?」 「普段から戦える力だっ!」 敵の手甲で固めた拳を殲刀「秋水清光」で受ける慧介が問い、敵がまた拳で答える。 「普段から力を制御するには心が大事で、道場はそれを学ぶ所では?」 「道場育ちは道場で強いだけだ!」 追撃を防ぎつつ問い、距離を取り答える。敵は改めて片足立ちから荒鷹陣。この型に命を懸けている様子だけはよく分かる。 「道場育ちが弱いかどうか、是非試してみると良いよ。……俺の場合は、剣法だけど」 ばっ、と刀を横薙ぎして腰を落とす慧介。後で束ねた髪が舞う。もう、言葉はいらない。そういう構え。 「手品兄ィ……」 戦いを見守っていた兵馬が思わず呟いていた。 いつも軽妙洒脱としてにこやかな慧介の様子が違っているのだ。 戦う男の姿。 戦場でしか見ることができない慧介だった。 「シャッ!」 「む」 出る敵に、紅焔桜の一撃。が、刀を警戒した敵にかわされた。続けて足を狙われ食らう。さらに慧介の口数が少なくなる。 「……」 やがて慧介、刀を納めてしまった。言葉はなく、表情も消えてしまった。 ただし、凄まじい気迫。敵も感付いた。 「勝負だ」 改めて荒鷹陣を構えてから突っ込んできた。 腰溜めから翻る刀は、北面一刀流が奥義のひとつ「秋水」。「殺人剣」とも呼ばれる殲刀「秋水清光」が恐るべき速さで翻った。これが「必中」を旨とする慧介の真骨頂。 「道場がなくなっても、戦えるように……」 それだけ言い残して敵は膝をついた。 ● 「いや、自分じゃない……」 このころ、赤い仮面の闘国は黄色いツナギの仮面の男に目を付けられていた。 「そんな格好して逃げるのか?」 スタンスタンと軽快にステップしながら鼻の頭をこすって挑発する敵。が、ここで上から声がした。 「貴方達のやっていることは、本物の拳法じゃない!」 「誰だ?」 見上げるツナギ男。 その塀の上には、陽光を背負って一人の人物がスラリと立っていた。 「とうっ!」 ここで跳躍。くるっと大らかに蜻蛉を切って着地すると、ゆらり姿勢を正す。 「……もしそれが拳法だというのなら、私の仮面と貴方の覆面をかけて勝負なのです!」 びしりとツナギ男を指差すのは、ルンルン・パムポップン 。ああ、赤い仮面の奥で瞳が燃えている。 「いいだろう。本当の拳法を……」 ツナギ男、ふんと鼻の頭を指で弾きルンルンを指差した。 「見せてやるッ!」 「……」 対するルンルンは、無言のまま手をちょいちょいと動かす。これで敵が仕掛けてきた。 「ホゥ・アッチョーッ!」 鋭い踏み込みからの蹴り。かわすルンルン。 「イーアールキーック!」 「アッチャ!」 塀に三角蹴りで跳んでからのキック。が、これは十字組み受けで止められ逆に蹴り上げられる。 しかしルンルン、そのまま両手を広げて大空を舞うように一回転し……。 「フライングアルカマルアタックなんだからっ、ヒョー!」 今度はバグナグ「ナミル」の右手で狙う。上げた奇声に気合が乗る。夜で時を止め、奇麗に入れた。 「拳法やニンジャの力と只の乱暴者は違うんだから」 最後に、飯縄落としで必殺のニンジャドライバー。勝負あり、だ。 「あー……。まさかと思うがマジで飲んでるのか?」 時を同じくして、慄罹は酔拳使いと対峙していた。 「そう思うなら掛かってくるがいい」 「弱ったな」 慄罹は鉄扇「刃」を持ったまま。こちらから積極的に出る気はない。 「来ないなら……」 敵が掛かってきた。腰を上げて寄って来てからの、沈み込んでの一撃。これはかわすが、続けて近くの屋台に手を伸ばし奪ったお玉での一撃は食らってしまった。 「ほー……。舐めてて悪かったな」 慄罹の表情が変わった。今、敵は明らかに他人に迷惑を掛けたのだッ! 「武術は自分を鍛えるもので誰かの為に奮うものなんだよー。覆面さん達折角出来るのにそういう使い方かっこ悪いー」 「才維くん、ダメよ」 アツくなった才維が駆け出しそうになったのを皆美が止めていた。 「来いよ」 もう、慄罹から普段手作りした料理を振舞うような温かい瞳は消えていた。 「ほい、ほい、ほい……」 言われずとも変幻自在の攻撃に出る酔拳使い。いずれも水の如くしなやかな身のこなしで受け流す。敵の瞳が生き生きしてきた。ぱん、ぱん、ぱんと、応酬の軽快な音だけが響く。 「もったいねぇ。なんてーか動きが粗いぜ?」 「うるさい」 敵の息が上がってきた。 「筋は悪くないとは思うけどなっ!」 ここで鉄扇が鋭く唸った。素早い踏み込みからの巻き打ちには殺気が乗っていた。 「く……」 敵の戦意はなくなった。勝負あり。 「説教臭いのは好きじゃないが、心身一如だぜ? 後、覆面はとっとけ。自信がないならもっと強く……」 「それだけはできない」 ● なぜ、それだけはできないのだろう? 「旋風姉ぇ!」 「実践主義も結構だガ……習う事も極めずにいきなり実戦とは片腹痛いナ」 別の場所では、ハラハラしながら見守る烈花に名を呼ばれ、飛鈴がいったん敵から距離を置いていた。 「習う場所がなくなったら、どうする?」 敵の覆面棍使いは、すでに息が上がっていた。今まで攻めまくっていたが、実はこれは飛鈴の戦略。好きなように立ち回らせつつ運足でことごとくかわし、癖を見抜かれていたのだ。 「あん? 修行はどこでもできるもんだがナ」 息をついた敵のこぼした言葉に答える飛鈴。「何を言ってるんだ、コイツ」という風なのは、飛鈴自身がそうしているから。 「だったら、なぜそんな覆面を被って正体を隠す?」 棍を繰り出してくる。鍛えてないわけではない一撃。が、かわされる。空気撃を食らった所を確実に当てられる。 「これカ? これはお面だしナ。……それより、蚊どころか雀だって止まれるナァ。もうちょいマシな攻撃は出来ないんかいナ」 にいっ、と微笑してどこ吹く風。さらに挑発する。 「畜生!」 やけくその一撃は、あっさりと懐に入られた。飛鈴から手を狙われるが、これは意地で耐えた。距離を置くため下がる。 が、飛鈴はピタリとついてくる。そのまま密着して連打・連打・連打。 「くそっ」 今度は棍を投げて囮にして逃げるが、飛鈴は密着したまま。さらに連打。 ここで、敵は折れた。 「そ、それだけは勘弁してくれ」 敵が泣きついたのは、飛鈴に覆面を取られてしまった時。 「あんた、もしかして!」 傍観していた住民が叫ぶ。 「違う。俺はよそ者だからな!」 「あン?」 この様子に覆面を返してやる飛鈴だった。 「扇使いか」 蒼羅は、覆面の扇使いと出会っていた。 「蒼兄ィ、私が」 「約束を忘れたか、紫星?」 本調子ではない蒼羅に気を使い弓を構えた紫星を静かになだめ前に出る。気力の漲り具合にはっとして構えを解く紫星。 「巨大な太刀か」 敵も、蒼羅の獲物を目にして呟くと、一気に攻めてきた。いや、距離を開けておくのは危険と判断したのだろう。 「気力の続く数瞬で決める!」 実際、気力は6回行動までしか持たないぞ! しかも敵は大きな動きから入って一瞬で詰めてきた。 「揺るが無き境地、澄み渡る水の如く……」 蒼羅、惑わされない。虚心から動きを見切り……。 「抜刀……。速い」 紫星のため息を誘ったのは、深雪。斬竜刀「天墜」が通常では考えられないほどの鞘走りを見せる。 ――ガッ! 「くっ」 敵が怯んだ。 蒼羅は武器破壊を狙っていたのだ。扇は無事だったが、威力は伝わったらしい。 「ならば」 続いて蒼羅、北面一刀流奥義のひとつ、秋水で止めを狙う。 ――バキッ! ついに、扇が折れた。敵の心も折れる。 いや、恐慌状態となり身の安全のため紫星を狙ったのだ。 「貴様」 珍しく怒る蒼羅。武器を捨て慌てて駆け寄り、敵に体当たり。そのまま倒すと組み敷き押さえつける。再び露になる殺気に、ようやく敵は戦意を失った。 「や、やめてくれ」 ここで住民が駆け寄ってきた。 「彼はおそらく、町のモンじゃ。乱暴はよしてやってくれ」 「どういう、ことだ?」 気力もほぼ尽きた蒼羅は、辛そうにしながら聞くのだった。 ● 「ま、そういうことならいいんじゃない?」 事後集まり、事情を知った煌夜が興味も薄げに突き放した。 どうやら彼らは、つぶれた道場の門下生の残りだったらしい。道場がボロボロになって悔しい思いをして、覆面を被って己を、泰国拳法を問うていたようだ。 「修行し直すのも良し、好きにするこっちゃ。それより、パーっとやろうカ」 捕らえた覆面集団を置き去りにして、飛鈴が言い放つ。 「そうこなくっちゃ、旋風姉ェ」 「わあっ。皆さんの公演見るの久し振りです」 烈花が飛び上がって喜びついていく。ルンルンも楽しそう。 さあ、雑技公演の始まりだ。 「ねえ、りーしー」 「ああ。それじゃ俺は、労う為に料理でも作ってみるかな」 ウキウキする才維を見て微笑する慄罹。 「ゆっくり見物させてもらうか」 お疲れの蒼羅はゆっくりするつもりだ。 そして町中のみんなが集まる。 覆面集団も素顔に戻って見物する。 繰り広げられる雑技公演。一人ではない。仲間全員の興行だ。信じ合うスレスレの妙技は、同じ場所で鍛え合った末の物だと伝わってくる。そして拍手で会場が一つになる。 元覆面集団も、目を見張っていた。 「少しでも響いてくれたら幸い幸い」 慧介はそんな様子を横目で見つつ、自分やほかの仲間の諭した言葉に期待するのだった。 後の噂では、町で小さいながら道場が復興したらしい。 |