【桜蘭】故郷よ、いずこ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/06/11 18:31



■オープニング本文

「馬鹿な! 東堂先生は小火に止めると言ったはず……」
「おい。そりゃどういうことだ、クジュト!」
 東堂・俊一(iz0236)から知らされていた情報と矛盾する内容の書簡が、近衛派若手貴族の勅使河原屋敷から出てきた事実に愕然とするクジュト・ラブア(iz0230)は、同時に諜報活動をした仲間から叱責の声を受けていた。勅使河原屋敷でのミラーシ座公演打ち上げ会でのことだ。
「クジュトさん、何か知っているなら……」
「いや」
 さらに問う声が飛んできたところで、クジュトは毅然と待ったを掛けた。
「私ももう、何が正しい情報か分かりません。……それに、私から詳しく聞くことは、ともすれば皆さんの立場を悪くする場合もありえます」
 真っ青になりつつ言い訳するクジュト。周りは「どういう場合だよ、それは」といった顔である。

「はっ!」
 がばり、とクジュトは身を起こした。
「あ、おはようっスな。遅いっスが」
 横から、クジュトの土偶ゴーレムの欄馬が声を掛けた。
「……夢か」
「お茶を入れるっス」
 掛け布団を跳ね除け汗だくの様子でぐったりするクジュトに、ちゃきちゃきと茶の準備をする茶坊主土偶ゴーレム。
「私は、どうすればいい……」
「まずは、茶を飲むことっス」
 呟きに、欄馬が答え部屋を出る。
 夢に出た場面は結局、「まあ、狙いは貴族から何でも情報を得ることだった。クジュトからじゃあ、ないしな」という、参加者苦心の落としどころで険悪な雰囲気はなくなった。しかし、どこかしらギクシャクしたままなのは確かだ。
「とにかく、ミラーシ座で宴席に出る仕事がある」
 頭をぐしゃぐしゃ〜、っとかいて気を取り直すクジュト。
(東堂先生とは、あれから会ってないが)
 何となく、真実を聞くのが怖くて避けている。
「師匠、お茶が入りました」
 襖が開いて、盆を持った欄馬が入ってくる。
「ミラーシ座の仕事がある。私の大切な……」
 口にしてうん、と頷くと元気が出てきた。茶を飲み着替えて、出掛ける。
 夜には、珍しく旅館街でミラーシ座が呼ばれた。頑張らなくてはならない。
 しかしこの後、とんでもないこととなる。

 夜。
 ミラーシ座が宴席を盛り上げ、好評を得たのだが、事件はまたしても打ち上げの飲みで発生した。
 東堂俊一からの使いが走りこんできたのだ。
「先生は全員に、神楽の都から脱出するよう指示を出しました。先生の動きを察知した真田派・森派は計画を把握はしないまでもこれを『裏切り』と判断。討伐指示を出してます」
 と、それだけ伝えて使いは逃げた。
「いまの情報は間違いじゃねぇぜ、大将」
 ここで回雷(カイライ)もやって来た。
「どうすんだ?」
「……逃げる、しかないですかね」
 答えるクジュトの目はうつろだ。本当に逃げる気があるのか。
「とにかく、生き残ってから考えればいいこと。いいすか、旦那。あんたは絶対に死んじゃならねえんですからねッ!」
 もふら面の男は頼りなさそうなクジュトに怒鳴りたてる。
「金蔓だから?」
「旦那もミラーシ座は大切でしょう?」
 ともかく、生き残る気になったクジュト。
 こうして、ミラーシ座公演を手伝う依頼で集まった開拓者たちは、図らずも浪志組真田・森両派の襲撃を受けることとなった。


■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067
17歳・女・巫
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
鞍馬 雪斗(ia5470
21歳・男・巫
イリア・サヴィン(ib0130
25歳・男・騎
ニーナ・サヴィン(ib0168
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
リア・コーンウォール(ib2667
20歳・女・騎
サラファ・トゥール(ib6650
17歳・女・ジ


■リプレイ本文


「とばっちりを食らうのはこっち、か」
 ふぅ、と溜息をついて鞍馬 雪斗(ia5470)が湯飲みを置いた。酒を嗜まない彼は茶を飲みながら仲間の話を聞いていい気分になっていたが、一気に醒めた。
「私が偵察してきます。もしかしたら、今の使いの者も追われていたのかもしれませんし」
 サラファ・トゥール(ib6650)が鋭く気付くと、するり駆け出した。
「俺は面倒事が嫌いだ。平穏な生活が一番だと思っている」
 イリア・サヴィン(ib0130)は、妹のニーナ・サヴィン(ib0168)がいる一座だからと裏方で手伝いに来ていた。それが、この有様。
「ニーナには堅気の男と一緒になってもらいたいと思ってたんだ。……それなのに」
 涼やかな顔をして酒を飲んでいたが、ぐい飲みをどん、と卓に置き、ぎらぁ、とクジュト・ラブア(iz0230)を睨み付けた。
「いや、待ってください。東堂先生の建策した浪志組は平穏な生活を守るためです。この点だけは……」
「よせよせ、クジュト」
 頭をぼりぼりかきつつ、弁明し始めたクジュトを巴 渓(ia1334)が止めた。
「決起も阻止し東堂も逃げ出す余裕が出来た。……俺が座敷で演じる前に説明しただろ? 奴は革命が成功しようがもともと死ぬ気だったに違いねぇし、クジュト、てめぇもそっち派に見られてたんだから死ぬ運命だったんだよ。まったく、俺の三文芝居に感謝してほしいぜ? だから、早く逃げろ」
 渓は先に、東堂派を探る依頼でいろいろ仕掛け情報を得ていたらしい。半面、東堂側にも探られていることを感付かれたらしいが、彼女自身、それはそれで良しと考えている。
「……革命派に破れ故郷を追われた身が、今度は革命側として新たな故郷を追われますか」
 疲れたように呟くクジュト。どうやらこれが彼の腰を重くしている理由の一つらしい。
「何を言ってるの、クゥ」
「考えるのは後! 今は生き延びるのが先決よ」
 怒ったように不平を言うニーナに、リスティア・バルテス(ib0242)(以下、ティア)の声が被った。
 ティアの言葉は力強く、立ち上がって腕を振る姿は舞台で多くの観客を魅了する時のように自信に満ち溢れ堂々としていた。
「よし。そう決まれば後は実行あるのみ……だな」
 皆の方針が決まったと理解し、自分のやるべきことを心得たリア・コーンウォール(ib2667)が立ち上がった。
「私も……」
 小さく、しかし力強く頷き柊沢 霞澄(ia0067)も続く。
 ここで、早くもサラファが戻ってきた。
「表通りからもう追っ手らしき集団が迫ってます。確実にここにいる情報を得てますね。籠絡する余裕もないくらいたぎってます」
「皆さん、裏から逃げて下せぇ」
 サラファの報告にもふら面の男が襖を開けて廊下の先を示す。
「そっちなら大丈夫そうね。……あ、仲居さん。迷惑掛けてごめんなさいね」
 超越感覚で探って安全を確認するニーナ。逃げる寸前、賄賂を多めに渡しておく。
「兎に角、移動するなら急がないとな……。追っ手が来るんだったら、市井の人々を巻き込む訳にもいかんし」
 雪斗もクジュトを促し、先を急ぐ。座敷芸で喝采を浴びた女形の姿とは別人のような雪斗である。


「やっぱこっちに張ってて正解だったぜ!」
 しかし、裏口にはすでに敵は少数がいた。
「その油断が不正解だがな」
「止むを得ん、な」
 襲い掛かってきた敵にイリアが狼の小楯でパッシュブレイク。仰け反ったところをリアが矛「龍の牙」の石突で敵の喉を突きノックアウトした。
「通ります」
「むおっ!」
 サラファは戦布「厳盾」で防ぎつつナディエでひらりと跳躍突破した。続いてニーナが突破しようとしたが。
「わっ。やってくれるわね?」
「妹に手を出したのは貴様か」
 リアに敵を任せたイリアは、ニーナの悲鳴に敏感に反応。ぎらぁ、と名刀「エル・コラーダ」を敵に突きつける。その隙にニーナがクーナハープをゆったりと奏で、夜の子守唄で残り二人をまどろみに誘った。
「これでよし、と」
「雪斗さん……行きましょう」
「クジュトさん」
「分かった。サラファ、後頼む」
 何かをしていた雪斗を霞澄が急かし、白粉を塗ったサラファにクジュトが羽織っていた赤い羽織を渡し、これで無事にクジュトたちは居酒屋を後にした。
「クジュトも乱暴な口調をするのねぇ」
「つい、砂塵騎だったころの癖が……」
 ティアに口調を突っ込まれ言い訳するクジュトの言葉に、ニーナは無言で密かに不満を募らせている。

 一方、居酒屋の中には表口突入隊が踏み込んでいた。
「ちっきしょう、逃げやがったか。裏口を探せっ!」
 当然、裏口に殺到し外に出る。
「浪志組の義」
「誰だっ!」
 どっちに逃げたか左右を見回していた浪志組隊士たちは、突然聞こえた声にざざっと警戒態勢をとる。
「尽忠報国の志と大義を第一とし、天下万民の安寧のために己が武を振るうべし……」
 一斉に、上を見た。
「同志は互いを信頼し、私事による闘争と裏切りを厳に禁ずる」
 見上げた影は満月の中。よっ、と飛んで地面に着地して改めて姿を見せる。
「誰だ、貴様」
「浪志組隊士、巴 渓。このまま隊の義に反する行動をするなら貴様らの大将の名前に傷がつくぜ?」
 敵の右手に立ちはだかったのは渓だった。
「大将? そんなん知らねぇなぁ」
 一斉にかかってきた。しかし渓、ニヤリとするだけ。
「おわっ!」
 突然、地面からの吹雪にたたらを踏む敵。雪斗の仕掛けていたフロストマインだ。効果的に奴らの視界を奪っている。
「天下万民の安寧の為、俺が貴様らの歪みを叩き潰すっ!」
 この隙に篭手「赤龍鱗」で固めた拳をためて突っ込む渓。隠れて様子を見ていた回雷(カイライ)も渓に続いた。
「いいか。これは私闘じゃねぇからな!」
 渓、あくまで隊の義に乗っ取っていることを強調しながら、回雷とともに追っ手の一部を黙らせた。


 一方、渓の守りを突破した敵。
「いたっ!」
 右に走るうち、前を走る赤い派手な羽織り姿の女性を発見した。耳も尖っている。エルフだ。
「クジュト、終りだ」
 くん、と加速したのは間違いなく瞬脚。すでに横に並んで曲刀を振りかぶっている。
「捕まるわけにはいきません」
 声は、クジュトではなかった。白粉で変装したサラファである。
 サラファ、手首につけた獄界の鎖を解くと左でピンと張って曲刀の一撃を防ぐ。
「さようなら」
 紫の瞳を翳らせふっと微笑すると、突然サラファの姿がぼんやりとした。ナハトミラージュだ。続けてナディエで塀を越える跳躍。ひらひらとバラージドレス「サワード」をひらめかし一気に姿を消した。
「む、畜生」
 ぶん、と頭を振って正気を取り戻した敵はそのまま右方面に追走し始めた。

 実は、本物のクジュトは左に逃げていた。
「大丈夫。右に食いついたみたいね。……でも、今夜は人が多いみたい」
 超越感覚で聞き取った騒動でサラファの策がはまったことを見方に伝えるニーナ。
「私、先を見てきます」
「え?」
 言い切った霞澄に、全員が意外な声を出した。普段、ゆったりした口調で話しやや内気な彼女には珍しいことだとミラーシ座で一緒に演じた皆は知っていたから。
「人を傷つけるのは好きではありませんが、『守る』為なら躊躇はしません……、それが私のエゴです……」
 強い意思が瞳に籠もる。無言で頷く一同。ぺこりとお辞儀して、偵察に走る霞澄だった。
「あまりお邪魔は出来ませんでしたが……ミラーシ座は私に素敵な時間と大切な友人をくれました……」
 一人走る霞澄のつぶやきは誰にも聞かれない。
「だから私はそんな場所と、機会をくれた人達を守りたいと思います……」
「こちらには瞬脚もある。道を調べつつ、最短の出口までを探そう」
 すっ、と雪斗が隣に並んだ。はっとする霞澄だったがすぐに落ち着いた。自分の思いに恥ずかしさはない。
「あっ!」
 ここで、霞澄が悲鳴を上げた。
 何と、通りの横に一人潜伏していたのだ。
「ちっ。本命の前に小物がかかって、しかも気付かれたか」
 凶刃が霞澄に浴びせられた。
「霞澄さんっ! 結局はこうなる流れだったのか……。やはり浪士は信用すべきじゃなかったな……」
「ぐっ。しゃらくせえっ」
 雪斗は怒りのウインドカッター。が、敵の攻撃ももらう。
「雪斗さん、私は大丈夫です」
 間髪入れずに霞澄が霊杖「カドゥケウス」を構え重く静かな舞いで敵を鈍らせる。神楽舞「縛」だ。
「こっちだ」
 そのまま逃げ出す。追ってきたところに、設置したばかりのフロストマインが吹き荒れる。当て込んでおいて、逃げ遅れた分は瞬脚で霞澄に追いつく。そして霞澄は撒菱をばら撒き時間稼ぎをするという巧緻っぷりを見せるのだった。


「どうする、クジュト?」
 追いついた本隊。リアが撒菱を見下ろしながら振り返った。
「敵は撒菱のある方に行ったと思うはずです」
「他の東堂派も追われているなら、神楽の主な出口は検問が敷かれているかもしれん」
 クジュトは別の道を示し、イリアが補足する。方針は決まった。皆頷いて先を急ぐ。
 しかし。
「駄目。おそらくこの先から敵が来てるわね」
 ニーナがそう警告した。
「仕方ない、ここでお別れだ。……君が殺されたら妹が悲しむからな。君も妹の為に逃げのびろ」
「イリアさん……」
 イリア、単独先行して敵を一身にひきつけるつもりだ。呟くクジュトに撒菱を渡して上着を剥ぎ取り、自分で羽織る。
「なかなかドラマチックな展開にしてくれるじゃない」
「私も付き合うわ、イリア」
 兄を誇らしく思うニーナ。続けてティアも立つ。相変わらず面倒見がいい。
「ティアさん」
「歌はどこでも歌える。私達と貴方がいれば。……クジュト、絶対後で会いましょう。ニーナ、クジュトの事任せたわよ!」
 クジュトを抱き締め勇気を与え、義妹も元気付けてからイリアに寄り添った。
「じゃあティアさん、行こう。……心中なんて許さんぞニーナ」
「馬鹿な事言ってないで、ちゃんとリスティア姉さんを守ってよ?」
 最後に念のため釘を差すイリアに、気丈に返すニーナ。
「それじゃ行くわよ、『クジュト』?」
 ティアは赤い髪をわざと雑にフードに隠しつつ、イリアにウインクして走り出した。
「止まれ!」
 やがて敵集団5人に誰何されるが、横道にそれて逃げる。
 すぐに追いつかれるも、ティアが「これでも食らいなさい」と米糠の入った小袋をぶちまける。流れはこちらに来た。
「彼女は傷つけさせん」
 手加減で斬りまくるイリア。ティアもバイオリンを構えると、神楽舞「防」でイリアを支援しつつ、たまに力の歪みを折り混ぜて敵を翻弄し切り抜けるのだった。

 そして、本隊はついに三人となった。
「危ない、クジュト」
 飛んできた地を這う衝撃波に、リアが身を挺してクジュトを守った。が、すでにサムライなどが襲い掛かってきている。
「リアさんっ」
「すまないが、ここは押し通らせていただく。……一応言うが、退いては貰えないか?」
「そっちの男の面は割れてんだ」
 リアが気を取り直して聞くが話にならない。たちまち激しく三人と戦うリア。もちろん手加減付き。
「……面が割れてる、か。夜の子守唄がまったく利かないわね」
 支援するニーナが悔しそうにした。
「ならば……」
「貴方は手を出さない方がいいんじゃない? これ以上誤解を招かない方が得策よ。……楽しい気分にならない、こういう曲は演奏したくないけどっ」
 ニーナ、仕方なく重力の爆音に切り替える。リアも敵の肩など防具の隙間を突く戦い方で何とか手早く戦闘を終わらせたのだが……。
「新手だ」
「ここは申し訳ないが……」
 増援に気付き呟くクジュト。軒先に空き桶の山を見つけたレアは、敵を引きつけてからこれを崩し時間稼ぎをすると、とにかく逃げを打つのだった。

「クジュトさん、良かった」
「怪我した人は私の愛束花で……」
 やがて、雪斗・霞澄組と合流できた。早速霞澄は花束を投げるような、幻すら見えるほど美しい舞を披露し少ないながらも皆の回復に努める。
「確か、イリアさんは封鎖されてるかもと言ってましたね」
「……すいませんが、大人しくお縄にかかっちゃくれませんかね?」
 クジュトが呟き目立たない脱出経路を決めたところで、ぬっと子どもが現れた。いや、童顔の志士である。ばっ、と皆が身構えた。
「こっちは市民に危害を加えないよう逃げてるんだ。そういう格好してまで油断させるとはどういうつもりだ?」
「一応言うが、ここは見逃して貰えないか?」
 機嫌悪そうに雪斗が突っ込み、リアが今まで繰り返した言葉を言ってみた。
「弱ったな。こっちもできるだけ危害を加えないようにしてるのに……」
「では、見逃してくれるのが一番双方に危害がないはずです」
 敵の言葉にクジュトが畳み掛ける。
「仕方ないなぁ、もう。今回だけですよ?」
 何と、見逃してもらえた。信用のため猿轡して手足を縛れと言われたが、時間が惜しいとすぐにその場を後にするのだった。


 そして、また敵に行く手を阻まれていた。
「早く橋を渡ってくれ、そうすれば封鎖できる」
 雪斗が叫ぶ。リアがその雪斗を守ろうと奮戦していた。
「行くわよ、クゥ。私に未来永劫会えなくなるのが嫌なら、とっとと走りなさい!」
 駆け出し突破を狙うニーナとクジュト。
「待ちやがれ!」
「激しい感情はその『価値』がある物や人に向けるものです。その価値すら無い人もいるものですね……」
「霞澄さんっ!」
 横合いから迫る敵は、なんと霞澄が身を挺した。戦う術なく斬られるが、雪斗からのウインドカッターで事なきを得る。そして細い橋を渡るニーナとクジュト。リアがほっとしつつ戦い続け、雪斗がフロストマインを仕掛けた。
 それを背に、手を取り走る二人。
 やがて川土手に倒れこむ。
「ふーっ。まったく……」
「あの、ニーナ」
「ストップ」
 大の字になった二人。申し訳なさそうに口を開いたクジュトを、ごろんと近寄ったニーナが人差指を添えて黙らせた。
「謝らなくていいわよ。説明もいらない。……サラファはいまきっと、一般人を装って支援してるはず。ティア姉さんと兄さんは頼りになるわ。雪斗もリアも霞澄もそう。渓も」
 皆の名を口にした。
「ニーナ……」
 失いそうな支えにしがみつくように、情けない顔でニーナを強く抱き締めるクジュト。
「そんな顔しないでいられるようになったら、笑顔になれるようになったら、ミラーシ座に帰っていらっしゃい。
貴方の故郷は『ここ』、でしょ?」
 ミラーシ座の、皆の面影を胸にクジュトを優しく抱擁し撫でてやるニーナ。今の故郷を教えたことで、密かに募らせていた不満も消し飛んだ。
「私達にもクジュトにもミラーシ座が故郷になるって、ティア姉さんが言ってたわ……」
 満月は、いつの間にか群雲に隠れていた。
 しばらく誰に見つかることもないだろう。

 やがて白粉を拭ったサラファが、渓と回雷たちを連れて、残りの川を渡らなかったメンバーを無事に救い出したという。