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■オープニング本文 志士の海老園次々郎、詳しい事情は伏せるが今日もふらふらふらっと泰国はある港町を放浪していた。 と、往来で二人の男がぶつかったところを見た。 「おう、何しゃがんでぇ」 「ああ? てめぇがぶつかってきたんだろうがぁ」 何やらもめごとに発展しそうだ。というか、二人とももめる気満々だ。どこの国のちんぴらも本質は変わらないようで。 というわけで、一触即発。 ところが。 「やるってんなら受けて立っちゃらあ」 何と片方の男。塀の上に顎をしゃくるではないか。 「んだら、おぉ」 すでに何を言っているのか不明だが、もう一方の男はこれを正々堂々と受けて立った。 そう、正々堂々と。 二人は塀に取りつくと、うんせうんせと塀の上によじ登りはじめる。やがて狭い一本橋とも言える場所に立つと、片や片足立ちして両手を鳥のように広げたり、片や前後に足を広げ後方に体重を乗せたままぐっと腰を落とし両手を天地に構え虎の爪のような拳の握りにしたり。 「ホアッ!」 「アチョア!」 奇声を上げるとたちまち戦い始めた。 「‥‥何もわざわざ移動してまで、あんなところで戦わずとも」 見ていた次々郎は顔をしかめて言う。もしかしたら、こういうのがこの港町の風潮なのかもしれない。 やがて、力量的には上に見えた男の方が、一瞬の隙を突かれて塀からぐわしどだんと落ちた。 「はんっ、出直して来やがれ」 見栄を切り勝ち誇る塀の上の男に対し、明らかに途中判定では優勢だった落ちた男は悔しがり、立ち去って行った。 「何なんだかなぁ」 思わず漏らす次々郎。どうやら、わざわざ変な所で戦い、戦っている者同士が無言で共有する独自ルールに従い勝敗が付くようだ。そして、その独自ルールは絶対のようで、戦った後は潔い。魂の不文律とでもいわんばかりだ。 そんな港町で次々郎、新たないざこざに直面する。 どうやら、切り出した太い丸太をたくさん浮かべた海の上で20人程度の男たちが戦っているようだ。 「何です、これ? 見世物か何かですか」 岸に群がるギャラリーに聞いてみた。 「お前、知らねぇのか。‥‥いつもの食い逃げ集団10人が出たってんで、飲食店用心棒が戦ってるんだよ」 「何でまた、貯木港なんかで」 顔をしかめて聞く次々郎。 「いや、いきさつがあってな」 つまり、食い逃げは数ヶ月前までは一人の常習犯だったらしい。食い逃げした店主に追われこの海面に浮かんだ丸太の上に逃げ、追って来た店主を海に落としてから毎回ここに逃げるようになったとのこと。後、食い逃げ常習犯は味をしめたらしく、毎回ここに逃げる。一方の店主は、ここで負けたのがよほど悔しかったようで、食い逃げ常習犯が来店すると雇った用心棒に連絡し、食い逃げしたら追わせてここで戦わせるようになった。 「何だかなぁ」 次々郎は呆れるが、話にはさらに続きがある。 この食い逃げ常習犯と用心棒のやり取りは多くの野次馬を呼んだ。特に飲食店での「いつ逃げるか」という緊迫感からの展開が格好の見世物となったため、多くの来客につながっているのだ。もちろん、毎日食い逃げ常習犯は来るわけではないので、中には毎日通う客もいたとか。 「‥‥」 絶句する次々郎。しかし、話にはまだまだ続きがある。 黙ってないのは、ほかの競合店だ。ウチにもわが店にもと食い逃げ常習犯を呼ぼうとした。しかし、食い逃げ常習犯もただの人。不運にも大食いではないし、身一つで各店の希望を叶える事はできない。ここで仲間を募ることとなり、めでたく食い逃げ集団が出来あがるのであった。店側も、嬉々として用心棒を雇う。野次馬も、食い逃げ犯の集団行動化により犯行予定が通達される事で観戦しやすくなったと、もう三方満足の人気の催しになったというわけだ。 「あ、決着がついた」 次々郎に解説していた男がつぶやいた。どうやら、食い逃げ集団が勝ったらしい。高々と勝ちどきを上げると、沖側に接舷した小船三隻に分乗してゆうゆうと立ち去って行くのだった。 どうやらルールは、最後まで一度も落ちなかった者がどちらの陣営であるか、で決まるらしい。早々に落ちた者は即座にまた丸太の上に復帰しとにかく戦いまくるという、激しい内容だ。 「ああ、今回も面白かったなぁ」 引き上げるギャラリーの声はおおむねそんな感じだ。 が。 「毎回毎回、食い逃げ側が勝ってるが、これはやらせじゃねぇか」 「まあ、最近は見世物になってるからなぁ」 「でも、ここまであからさまだと興ざめだぜ」 そんな不満も聞かれたり。 「開拓者あたりと戦わせたら、どっちが勝つだろう?」 「そりゃあ、開拓者に決まってるだろう」 「いや、分からんぞ。わが町の食い逃げ団もなかなかやるんじゃないか」 「おお。百戦練磨だからな、ウチらの食い逃げ団は」 どうも話は変な方向に向かい始めたようで。次々郎は「何だかなぁ」と呆れるしかない。 そして後日。 「‥‥何とまぁ」 次々郎は本格的に呆れることとなる。 どうやら食い逃げ団被害店舗同盟(実際には食い逃げ団恩恵店舗同盟ではあるが)は、本当に開拓者を用心棒に雇うことにしたらしい。 というわけで、食い逃げ団と丸太の上で落とし合いをする冒険者、求ム。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
東海林 縁(ia0533)
16歳・女・サ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
シュヴァリエ(ia9958)
30歳・男・騎
ベート・フロスト(ib0032)
20歳・男・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 潮騒が、耳に心地よい。 三笠三四郎(ia0163)はそんなことを思いつつ、ふらりふらりと貯木港を歩いていた。戦う前の現地視察である。 「あ」 丸太の状況を見て立ち回り方をイメージトレーニングしようとしたのだが、大変な発見をした。 なんと、海面に浮かび保存されている丸太が、いずれも固定されてないのだ。 そればかりか、子どもたちが丸太に乗って走るように両足を使ってぐるぐる回転させているのだ。回転に足が付いていかない子どもは、どぶんざぱんと海に落ちている。 「こらっ! 餓鬼どもが大人の真似するんじゃねぇ」 「やっべ。管理人さんらが来たよ」 突然怒声が響いたかと思うと、子どもたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ散った。 「まったく、逃げ足だけは毎度速い奴らだ」 「なあに、あの子らが貯木港を将来継いでくれればと思うと頼もしい限りじゃないか」 「なかなか、丸太回しもいい感じだったしな」 藍色の法被を来た連中は、子どもらを追い払ってそう雑談していた。どうやら、この貯木港の管理組合員であるらしい。 「固定の強さを見ておくつもりでしたが、はなから固定されてないわけですね‥‥」 それでも、楽しそうだな、などと思うあたりは子どもっぽいところがある。 それはそれとして、大きな事前情報を手に入れた。仲間にも伝えておこうと、三四郎はいったんこの場を後にするのだった。 のち、入れ替わるように一人の女性が貯木港にやって来た。 ジークリンデ(ib0258)である。 「くるくる廻る丸太。‥‥想定の範囲内ですわね」 うふっ、と口元を緩めた。銀色の長髪に青い瞳、白い肌。紅い唇がひときわ目立ち、女性らしさ――いや、見る者をはっとさせるような色気を際立たせている。 「そうですね。せっかくですから、水神様にひとさし舞を」 そう言って、足幅を取ると彼方を望むように右手を差し出した。着衣は、巫女装束。とはいえ、胸が豊かなため襟元を緩めている。くるり。結い上げた長髪。耳元から長く伸びるうなじ。そして襟がずれて覗いた肩口――いや、撫で気味の肩。白く、柔らかく、妖悦なラインを描いている。 ばさっと、巫女扇子を開き憂いを帯びた表情を隠す。 ジークリンデは、踊り続ける――。 ● 日にちは変わって、予告状の「食い逃げ参上!」の当日。 場所は、来来来軒。 「うん、美味しい。これ、焼豚っていうんだぁ」 モグモグと店内で昼食を取っているのは、東海林縁(ia0533)。ラーメンのスープをすすって、「これが鶏ガラスープね」などと感心しきり。 「お。いらっしぇい」 その時、新たな来客。満員の店内の雰囲気が変わった。 「レバニラ炒め超大盛り。レバ抜きで」 「あいよ」 (もしかして、彼が食い逃げ常習犯?) 縁は、ちゅるんと食べかけの一本の麺を最後まで吸い込みつつ、大きな眼で観察する。 縁。 「食・い・逃・げーっ!? タダでご飯食べるだなんて、そんな羨ま‥‥もとい! そんな非人道的なこと、このあたしが許さないんだからねっ!」 街に着くまではそんな私憤‥‥あ、いや、義憤に燃えていたりもした。 しかし、今は冷静そのもの。無関心を装う。 「ほい。レバニラ炒め超大盛りのレバ抜き、お待ちね」 男、ニラ炒めを食べ始める。 しばらく無言の緊張感が流れる。周囲の客も全員本日の観客らしい。今逃げるか、いつ逃げるかと警戒する。 と、ニラ炒めの男が、ばっと逃げた。 「アイヤ、食い逃げアル〜!」 「えっ、何?」 店員の叫び。そして、驚く縁。 何と、店内の客全員が一斉に立ち上がり、バンと机に何かを叩きつけ外に走り出したのだ。 どうやら自分たちが食べていた料理のお代らしい。いずれも、お釣りのいらないちょうどの金額という用意の良さだ。 「あ、しまった。大きいのしか持ってない‥‥」 「アンタはいいからとっとと追うアル」 叩き出される縁だったり。 ● そして、各店を同様に食い逃げした常習犯10人は、いつもの通り貯木港に逃げ込んでいた。 「よっし! 1番ノリぃ!!」 ひょいと海面の丸太に飛び乗ったのは、ルオウ(ia2445)だ。固めた拳が今日も正義の在り処を質す。 「行くぜぇ〜!」 「ちょっとルオウ君。突っ込むのは無茶でしょう」 2番乗りの来島剛禅(ib0128)が冷静になるよう言う。水上戦闘の経験は圧倒的に相手が多いこと、人数は食い逃げ常連団が10人でこちらが7人と制限され囲まれると不利であることなどの状況分析している。つまるところ戦略やフォーメーションが必要だと感じている。 が、剛禅の制止は間に合わない。 ルオウ、隼人で一気に敵までの距離を詰めていた。 単身、で! 「おいおい、せっかちだねぇ」 相手は、一人が残った。 「へっ!当ててみなぁ!」 一本の丸太の上、真ん中あたりにいたルオウはバク転しわざと距離を開けると挑発した。 得物は、飛龍昇。ルオウといえば「抜刀猪突」の雷名で知られるサムライだが、今日は太刀を帯びていない。相手に合わせたのだ。 「ホゥ、アッチャア」 相手は片足立ちしたかと思うと、一気にルオウの懐に飛び込む。たちまち、猪口を持つときのような三本指だけを使う握りこぶしで連撃を繰り出してくる。 「よっしゃああああ!」 そのすべてを受け流すと、反撃に出る。もこり、と右腕の筋肉が盛り上がった。強力で何をするつもりか。 「派手に高く、ちゃんと海に落ちろよ」 装甲のある左胸を狙って、掌全体で下から打ち込んだ。できるだけダメージのないよう配慮した一撃。 「うおあ!」 見事敵は吹っ飛ぶ。空中で両手両足をばたつかせてから、どぼん。ルオウ。大きな歓声を背中で聞いた。 「開拓者、サムライのルオウ! 何時でも相手になってやんぜ!!」 決め台詞。 が、ここでルオウの視界がぐるりと一回りした。 どぼん。 「ぷあっ。き、きたねぇな」 「後ろもご用心。ついでにこういう手もあるってこった」 何と、いつの間にか空いた背後のスペー スに新手に飛び乗られ、丸太回しを喰らったのだ。 一方、少し送れて到着した別の開拓者。 「‥‥不思議なこともあるので御座いますね」 巫女装束のジークリンデが、舞うように戦っていた。 不思議、と言うのはここでの戦いばかりではない。 「無銭飲食は良いのでしょうか。泰国は不思議で御座いますのね」 「うるさいうるさい。悪いと思えばかかってくればいい」 うえっへっへ、と相手。どうやら彼女の色気にくらくらっと来ているようで、すでに戦いそっちのけでいかに彼女と長く戦うかに生きがいを感じている様子。当然、主に視線ははだけて谷間もあらわな胸元に釘付け。ジークリンデは主に踊るような回避を繰り返すばかりで攻撃はしない。相手もそれと悟り、より色っぽい回避行動を取るような攻撃を仕掛けている。このあたり、妙に巧緻である。 「おいおい、一人でいい思いすんなよ」 ルオウと彼女の差は、この当たりに出てきた。隙を狙っていたもう一人が俺も混ぜろとばかりに寄ってきたのだ。奇襲する任務を放棄して。 「‥‥隙あり、で御座います」 さすがに辟易して、ジークリンデは反撃に出た。手にした扇子が円弧を描く。腰を沈めての、大きな足払いだ。優雅で艶やかな動きに、敵は対応しきれない。何より、今まで注視していた谷間が上から覗けるのだ。ここを見ずしてどこを見る! 「おわっ」 当然、どっぷ〜んという運命で。 「おい、ネェちゃん。こっちにも攻撃してくれよう」 差別はいけねぇぜ、ともう一人がねだる。 そこへ、竹ざおが伸びてきた。彼の横面を小突く。「うわっ」と、どぷ〜ん。ジークリンデの視界には、「頓珍亭」の文字。いや、暖簾。が、先の男が横に落ちた反動で丸太が回っていた。 「きゃっ」 ジークリンデも、どぷ〜ん。 「や、これは‥‥。数的有利を作っても援護が難しいですね」 申し訳ない、と横槍をした剛禅。広い視野を持って支援活動にいそしんだのだが、まさかこのような結果になるとは。ちなみに、彼の得物は、後の宴会に出資する約束を取り付けた店の暖簾。竹ざおを抜いてくるつもりだったがそんな余裕はなく、仕方なくそのまま店名をアピールしていた。余談であるが、この心遣いは店側から絶賛されたとか。 「そっ、その」 「あ。し、失礼」 海から上がるよう手を差し伸べた剛禅だったが、ジークリンデが頬を染めたのを見て慌ててその場を後にした。 ずぶ濡れで体に密着した衣装。上から見えてしまう胸の谷間。そしてなにより、白い頬が真っ赤になった彼女の恥じらいが妙な色気に満ちていた。さすがに気まずかったのだろう。 「戦況は、ちょっと不利ですかね」 改めて、周りを見る剛禅だった。 ● さて、もちろんまだ水没せず善戦している開拓者は、いる。 「観客を魅了して、いっちょ派手にやるか!」 改心の笑みを浮かべているのは、ベート・フロスト(ib0032)。 なんと、着衣は旗袍(ちーぱお=女性用チャイナドレス)。腿までざっくりと割れたスリットが、潮風でめくれる。あらわになる白い太もも。それが、宙を舞う。 「あ、あぶねぇ」 次に跳んできた赤いハイヒールを、敵が紙一重で避ける。さすが一般人とはいえ泰拳法使い。こういう攻撃には慣れている。が、危なっかしいのはベートの色香にくらくらっと来ているからか。 「ほうら、ほうら。どうする?」 ベート。手にした槍「白薔薇」を巧みに操る。ぶぅん、と円を描くたびに、切っ先にくくりつけた白いレースがひらひらなびく。観客からはこれが非常に優雅に映り、相手からは視界を奪う役目はもちろん、たまに頬を撫でたりと非常に扇情的効果を生んでいた。 「この、小悪魔め!」 苦々しそうに、いや、うれしそうに言う相手。 ところで、ベートの旗袍。一体どこから持ってきたのだろう。 「うんうん。ウチの店員の服は映えておるな」 どうやら彼女、いや、彼が待機した店の制服らしい。白い薔薇の刺繍入りでベートはいたく気に入り譲ってくれと申し出たが、さすがにこれは叶わなかったようで。後の話だが、彼はひどく落胆した。もっとも、後から「楽しい試合だったぜ。こう云うのだったらまたやりてぇな♪」と男の声で言ったときの食い逃げ団の落胆ぶりと比較すれば、彼の落胆など可愛らしいものではある。なんとも罪作りな話で。 閑話休題。 「畜生、本望ォ〜」 ついに、相手は白薔薇の石突をかわし損ねて、落ちた。 「さ、次はどなたかしら?」 片足立ちし、槍を背後で水平に構え挑発する。膝を腰の高さまで上げたことで大きくスリットからはみ出すことになった白い生足が、まさに挑発。効き目は抜群、というより効きすぎて多くが集まってくるが、剛禅と水没したルオウとジークリンデも参戦し、これに対応。最激戦区となる。 ――さて、もう一人の開拓者。 「お前、沈んだときにどうするつもりだ」 食い逃げ犯が雄たけびを上げていた。 「どうなろうと知ったこたぁねぇ。郷に入っては郷に従え。正々堂々とルールに従ってるだけじゃねぇか」 答えたのは、シュヴァリエ(ia9958)。ほかの開拓者とは違い、若干重武装しているといえる。 「それに何だ。その手に持っているのは」 「盾に決まってるだろう。盾は何も身を守る為だけに使うもんじゃねぇ」 「ち、畜生。丸太を回される可能性は微塵も考えてねぇのかよ」 敵の言葉は問いかけではない。あきらめの言葉である。どうやら、「丸太回し厳禁」の暗黙のルールを押し付けられた、と取ったようだ。シュヴァリエ、このあたりうまいものである。と、観客には取られたようだ。 「そんじゃ、ご自慢の泰国拳法とやらを見せてもらおうじゃねぇか。お返しと言っちゃ何だが、俺もジルベリアの戦い方ってやつを見せてやるぜ」 戦闘開始、である。 それにしてもシュヴァリエ、うまい。敵の手数を盾で受け、その盾で反撃。敵が意地で残すところを、手加減付きの鉄拳制裁。 敵、どぷ〜ん。 「ぢぐじょ〜。丸太を回せばイチコロなのにぃ」 復帰しながら言葉を絞る敵。戦う前の攻防で負けた己を呪うべきである。 ――そして、遅刻した人。 「お天道様に顔向けできない無銭飲食なる輩めら、覚悟しなさい。『紅蓮の乙女』東海林縁がタダイマを以って、推・参っ!」 真打登場とばかり丸太に飛び乗ったのは、縁。 「こういうので遅れてくるのは卑怯だろう」 食い逃げ集団側は、手加減しないぞとばかりにわらわらと集まってきた。‥‥落ちたことあるのばっかりが。 「ふふっ。逆に有利なのにね」 乱戦は良し、と身軽に動く縁。わざわざ選んで持ってきた木刀を振るい牽制し、今、敵が一本の丸太に直列。ここぞとばかりに蹴りを見舞う。 「うっ」 「げっ」 「がっ」 三・連・没。 「成敗! ‥‥って、ちょっと。いま回すなよ、絶対に回すなよ」 びたっ、と見栄を切ったはいいが、次の敵が丸太に飛び乗ってきていた。当然、回すなといわれて従うわけはなく、縁、ここでどぼん。 ● さて、全体の戦況。 剛禅の見立てによると、開拓者が戦況を覆していた。 食い逃げ犯で濡れてない人物は、2人。開拓者側は、シュヴァリエ、剛禅、三四郎の三人だった。 三四郎は、縁と同じく相手を気遣い木刀を持参していた。相手と同じ丸太に乗らないように気をつけたり、咆哮を使う、フェイントをかますなど巧緻の立ち回りで善戦していた。 が、何分孤立していた。 敵水没組に囲まれ、剛禅の配慮も届かない状態で、ついに数に負けて水没。復帰しやすいよう、丸太に縄と木刀で細工をしていた。 時を同じくして、水没後大暴れして目立っていたルオウがある行動に出ていた。 敵を落とし両手を高々上げて観客にアピールするなど絶好調のまま、丸太に攻撃を加えることで敵のバランスを崩したのだ。 「おうら、お前ら。わしらの大事な商品に何しゃがるんじゃあッ!」 瞬間、怒号が貯木港に響き渡った。 間髪いれず、藍色の法被を着た連中が乱入してきた。貯木港の管理組合の猛者どもだ。 「オラオラ、遊ぶんじゃねぇ」 「ハイハイ、もう商品の上に乗せてやらねぇんだからな」 「ホラホラ、いったん皆上がれ上がれ」 とにかく組合の者は丸太回しに長けている。食い逃げ集団だろうが開拓者だろうが、全員を落として回った。逃げようにも、丸太の上の移動が目覚しく早い。一朝一夕の技術で対抗できるものではなかった。 ちなみに、シュヴァリエもついに特殊ルールが破られ、丸太回しであっさり落ちた。 圧巻は、その時だった。 「おうらっ!」 鉄の多い重い装備をものともせず、一瞬の気合で丸太との距離を縮めてしがみついた。沈むことなく、無事生還。 とりあえず、観客はいつもとまったく違う展開に大喜びだったという。 「いいか、次からはうちの商品に一切傷をつけるなよ」 管理組合側の念書に署名することで、行事は無事に続いたらしい。 後、仕切りなおしの宴会となり、無事三方良しの結果になったとか。 |