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■オープニング本文 「ちょっ……。ひっどい土地だなぁ」 コクリ・コクル(iz0150)は体を横に投げ出し前転すると、片膝をついていま転がってきた方に少剣「狼」を薙いだ。コクリを付け狙ってついて来たアヤカシ「似餓蜂」は回避に長けるが、誘いに乗っていただけにもう避けきれずにすっぱり斬られる。 「強くはないんだけど、群れてるし、食らうとしばらく失明する毒を吹きかけてきたり、組み付いて齧ってきたりで本当に厄介ったらないよ」 ぼやく間にも、コクリの肩くらいまである似餓蜂は襲ってくる。防盾術でがっちりと敵の針を防いでから、左に動くと見せかけて体を沈め、ついてくるところを下から切り上げる。 「まったく。ろりぃ隊☆出資財団のおじさんたちの持ってくる話って、だんだん厳しくなってくるんだから……」 さらに前に体を投げ出し移動しつつ前転して黙苦無を投げつける。当ればこれで落とせるくらい敵の体力は少ないようではある。 「まあまあ、コクリちゃん。今回は背の低いちゃっちゃな女の子ばかりでなくてもいいが、やっぱりわしらはコクリちゃんが好きじゃ。ほれ、この依頼はあの興志王たっての依頼。以前の魔槍砲改良の時のように、あの王様は商人にゃとってもありがたい儲け話につながることばかりしてくれる、偉大なお方なんじゃ」 コクリの脳内に、依頼出発前のろりぃ隊☆出資財団のエロ親父商人たちの顔と言葉が浮かぶ。 「そうそう。今回も恩を売っておいて損は無いんじゃ。そして、これはわしらにとって大切な仕事。そんな仕事をコクリちゃん以外に頼めるわけはなかろう。それに、神威人の里で育ったコクリちゃんは、森林戦は得意じゃろ? 現場は起伏にとんだ丘陵の林野部。地盤変化で迷路のような土地になった部分もあるらしいが、ぜひ手伝ってほしいんじゃ」 「アヤカシは昆虫型各種が多くおるらしいが、むしろコクリちゃんにはもってこいじゃろ」 ちなみに、過去にコクリはオオサンショウウオ型のアヤカシ「ハンザケ」や強力なアヤカシ「汗血鬼」に苦戦したことがある。いずれも大型で重量があり、弾き飛ばされる場面が目立っていた。商人たちはそういったアヤカシがこの朱藩北西内陸部の戦場にいないであろうことを確認しているので、むしろコクリ説得に熱心だった。 「大型のアヤカシだって大丈夫だよっ!」 むしろコクリは負けん気を発揮して思わず引き受けてしまったのだが……。 「中型の敵でもこれだけ数が多かったら、ボクたちじゃなくても大変じゃないっ!」 文句を言いつつ、ばっさりと襲い掛かっていた群れの最後の一匹をしとめた。 そして、大変なことに気付く。 「……あれ? みんなは?」 きょろ、と周りを見ると一人ぼっちだった。 戦ううちに孤立してしまったのだ! 「参ったな。回転して回避しつつ戦ったのは効果的だったけど……」 敵の噴霧攻撃で散らばったのはいいが、おそらくバラバラになったかもしれないと顔をしかめる。とはいえ、恐らくみんな近いだろうと判断する。が、耳を澄ましても何も聞こえない。 「あ。そういえば迷路のような土地もあるっていってたっけ?」 まさに、そこに迷い込んでしまったいたようだ。周りは岩肌がせり上がってそそり立ち、視界を遮っていた。その高さはコクリの身長の五倍以上。登れはすれど、落ちればタダでは済まない。さながらダンジョン内のようである。仲間がバラバラになってしまった理由だ。 「大声を出したら敵が寄って来るよね、多分……」 あはは、と頬をかいたところで新たな蜂の群れが遠くに目に入った。 「みんなもきっと移動しつつ戦ってるはずだし、とにかく何とかしなくちゃ」 ここにいてはまた標的になると、移動するコクリだった。 依頼は、今亡き朱藩のお抱え宝珠研磨師『戸上絹』の工房だった古い城塞の地下施設を目指す興志王本隊のための陽動戦闘。これ自体は実に効果的に遂行する形になってはいるが、このままではコクリたちは孤立したまま各個撃破され重体となってしまう。速やかに仲間と合流し、撤退することが目下の重要課題となってしまっている。 各自、一人ぼっちの状況からあらゆる手段を講じて脱却し、全員で帰還すること。 |
■参加者一覧
静雪 蒼(ia0219)
13歳・女・巫
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 「あっ! そういえば」 茂みに身を隠していたコクリ・コクル(iz0150)は、大切なことを思い出していた。 「蒼さんから、『こんなのお洒落おすやろ?』って渡されてたんだっけ」 ごそごそと純白のリボンを取り出し、出発前の静雪 蒼(ia0219)の笑顔を思い浮かべる。 「ほら、七人全員色が違うよって、はぐれても目印にもなるおすえ?」 そう言っていた蒼は変わらず気の利くお姉さんのようだった。 「まさか本当に使うことになるとは。確か、右なら固結び二つで左なら一つ、まっすぐは何もなし、だったよね」 コクリは手近で目立つ場所にある小枝にくくり二回固結びしつつ、右に曲がった。 「うんまあ、見事にバラけちまったか」 別の場所では、赤いリボンを取り出す姿があった。 村雨 紫狼(ia9073)である。 「メンバーの構成考えたら……」 リボンを渡してくれた蒼の落ち着いた顔が脳裏に浮かぶ。そしてコクリやほかのメンバーの顔も……。男性一人がいたが、ほかはいずれも紫狼の守るべき少女ばかり! 「ちょーっと命、懸けるしかねーな」 にいいっ、と笑みを作ったのはここが男の生き様を見せる時と心得たから。勝負所に気合を入れた、正に男の顔っ! 周囲にリボンを巻くことなく、ぎゅっと握り締め決意に燃え真っ直ぐ走り出すのだった。 「あはは……。戦闘に夢中になりすぎちゃったかな?」 新咲 香澄(ia6036)も、激戦を駆け抜けた後に一人ぼっちになり茂みに身を隠していた。 「今回ばかりは前のめりな性格が裏目に出ちゃったかもね」 皆がはぐれることとなった、敵の大群との戦闘では紫狼たちと前に出て戦った。これ自体は良かったのだが、まさか分断されるとは思わなかった。指でぽりと頬を掻くが、いつまでもくよくよしてないのが前のめりな性格の良いところ。 「事前の雑談が役に立つね。蒼さんからもらったボクのリボンは瑠璃、と」 早速リボンをその辺に結っておいて、木に登り始める。ちなみに、出発前に見せてもらった地図は内容がざっくりすぎて当てにならない。唯一、地図を囲んで話し合い皆で話して導き出した結論は……。 「はぐれたら北を目指すんだったよね。……みんな、そしてコクリちゃん。待っててね!」 ぐん、と伸ばす手や枝にかける足が力強い。 こんな状況でもまったくへこたれてないのだ。 「ん? そういえば……」 ここでピンとひらめく香澄だった。 「うに、まさかこんな所でバラバラになるなんてにゃー」 またまた別の場所では、大木を背に隠れている猫宮・千佳(ib0045)がおっきな汗粒をかいて困っていた。とはいえ、本質は猫な魔法使い少女は気持ちの切り替えも早い。 「念の為に相談しててよかったにゃね。とにかくコクリちゃん達と早く合流しないとにゃっ」 取り出したのは、黄丹のリボン。 「あ。そうにゃっ♪」 はっとひらめいた千佳は、自分の服に泥を塗りたくり始めたり。カモフラージュのつもりらしい。 「とにかく行くにゃよ」 敵を避けつつ移動し始めた。 ● さらに別の場所では似餓蜂2匹がいた。もわわん、と白い霧が漂っているのは支援系似餓蜂の噴霧である。 「うっひゃ〜っ!」 くるん、とその霧を前転しつつ抜け出たのは、リィムナ・ピサレット(ib5201)。 「歴戦の開拓者達は事前情報から事態を予測。十分な準備をしてきたのでした!」 片膝をつく形で上体を起すとアゾットを構え呪文を呟くが、口元と鼻を布で覆っているので詳しくは聞こえない。一匹の似餓蜂が力なく地面に落ちたところをみるとアムルリープを詠唱したらしい。上々の結果にきらりと風読みのゴーグルがきらめく。 続いて、残った一匹を脚絆「瞬風」で、蹴る・蹴る・蹴る。羽織った迷彩上着をなびかせ猛攻を浴びせる。 「……準備をしても体が痺れて蹴りの威力が落ちてる。厄介すぎ」 遭遇戦を制したものの苦労している様子。 「蒼さん、無事かな?」 藤色のリボンを見詰めて蒼を心配したのは、巫女だから。単独戦闘になれば辛いだろう。 とにかく急いで仲間を探すべく移動するリィムナだった。 こちらは、手にした桔梗のリボンを見詰める男。 「さて、これは分断させられたのかもしれないな」 竜哉(ia8037)である。ぎゅっ、とリボンを握り締めてそう分析した。 そして思い返す。 依頼の目的は、陽動。これはもう済んでいるし、分断させられる前にはそれこそ大群と接触し、派手に戦闘した。この地区のアヤカシがどの程度連携しているかは不明ながらも、悪い結果ではあるまいと見る。 「後は撤退すれば良いだけだが……」 周りを見た。 鞭「ターゼィーブ」 を枝に絡ませ樹上に上がったものの、意外と見晴らしが悪い。固まっていると噴霧毒で全員が毒にやられる可能性があるため散ったのだが、それからもうまく分断されるように戦われたらしい。近くからまったく戦う音や木々の揺れる様子がない。こう手掛りがないと、蒼のリボンと「北に向かおう」という事前の申し合わせのみが頼りとなるのだが――。 「ん? 後は、匂いか」 苔の植生を見て北を判断していた竜哉は、ぴんとひらめき新たなヤル気を見せる。脚絆「瞬風」の加速を追い風に鞭を絡ませ枝から枝を行く。 もっとも、動いたことで似餓蜂に見つかった。新たな枝に着地すると同時に上体を捻り鞭を振るう。 「はっ!」 はぐれたような似餓蜂一匹を聖堂騎士剣の鞭で塩に帰す。 ● さて、別の場所。 「薄荷油、虫やいうてもアヤカシには効きしまへんおすねぇ」 ぶぅん、と蒼がホーリーメイスを振るっていた。当てる行動ではなく襲ってきた似餓蜂一匹から距離を取るための行動だ。そのまま林に逃げ込むと蜂も付いてくる。が、明らかに敵の運動量が落ちた。回避しにくい部分に来たところを狙って、どすんと叩く。 「ふー。虫除けに昔からつこぉてはりますよって、もしかしたら思いましたけど」 駄目だったようで、その腹いせもあって渾身の力を込め振りかぶり落ちた先の蜂に止めを差しておく。思っきり上げた片足ははしたなかったが、「まあ、誰も見てませんよって」と扇子で口元を隠し照れる。 「せやけど、森の中を移動したらええんかも」 森に入った地点に甕覗の色をしたリボンを結いそ〜っと森の奥をうかがう蒼。 が、びくりと肩をすくめた。 そのまま慌てて回れ右して、迷路のような森の道にわたわたと逃げ出した。 軍隊蟻がいたのだ。同じ場所から出て蒼を追う。 「負けしまへん。逃げ隠れしつつ合流目指しますぇ」 「おっと。これ以上は追わさんよ」 脱兎状態の蒼が、耳慣れた声を聞いて振り返った。ぱしり、と空気を切り裂く乾いた音がする。すぱぁん、と軍隊蟻一匹が宙に舞った。 「竜哉はん!」 「薄荷の匂いを探すのは無理でも、虫除けにする気なら安全であろう風下に動くと思ったからな」 横合いからの奇襲で戦場の流れを掴んだ竜哉がとにかく手数を振るう。軍隊蟻などは鞭の一撃で十分とばかりに暴れまくり、無事に蒼と合流を果たすのだった。 「……よし。蜂はどこかボクたちを探しに行ったようだね」 がさ、と樹上から香澄が顔を出し、迷路状の森の道に戻った。 「上から遠くは見えなかったけど、消える前の結界呪符『黒』くらいは見えるからね」 孤立して逃げる途中に構築した結界呪符「黒」は4メートル以上ある。ついでに面積も広いので遠く木々の間からも視認できた。 「ボクの場合、南に逃げてたみたいだからちょうど良かった。竜哉さんの言ってた苔の植生とか見て北を目指せば元の場所に戻ることになる。そこから北を目指せば、誰かのリボンがあるかもだよねっ」 香澄は念のため、自分のリボンを結びつつ戻る。 「まじかる☆にゃんこを舐めるとこうなるのにゃっ」 ふふん、と泥だらけの背を向けるのは千佳だった。 どうやら移動中に似餓蜂2匹と遭遇したようだが、アムルリープ2発で黙らせたらしい。地面に蜂2匹がひっくり返っていた。 「ええと、リボンを結んでっと……他の人のリボンはないかにゃー? 特にコクリちゃんのっ」 長居は無用とすぐさまリボンを結んで、その場を後にする。 が、彼女はツイてなかった。 千佳の最初に逃げた方向が西だったからである。香澄のように北に向かえば誰かの痕跡と遭遇しやすいという方角ではなかった。 もちろん西方面にはもう一人逃げていたのだが、その人物がどこにいるかと言うと……。 「くっそ〜。岩に登れば、さっき木に登った以上に見張らせると思ったのに……」 事前に用意していた鉤付き荒縄などを活用しつつ木々より高い岸壁に上っていたリィムナが悔しがっていた。確かに森はやや見下ろせる高さになったのだが、この程度では森全体も回廊状態の森の道なども、しっかりとは見えなかったのだ。 「まあ、北がはっきりするのは収穫だけどね……。っととと、やばっ」 遠く森の上を行く似餓蜂の群れに気付かれたようで、それらが寄って来た。慌てて岩を降りるリィムナ。 それはともかく、彼女の位置はちょうど北を目指し始めた千佳が近くを通り過ぎるはず。ただ、今の状態では上と下ですれ違ってしまうぞ? ざざざ、と最後は滑り降りたリィムナ。 「うに、リィムナさん発見にゃ!」 何と、下では千佳が待っていた。 それもそのはず。 リィムナはこれあるを期して、登り始めた場所に幟を立てていたのだ。ついでに藤のリボンもつけていたので、千佳が不審に思って見上げ、ちょうど降りてきそうなリィムナを発見し待っていたらしい。 ● このころ、コクリ。 「みんなはどう考えて動くかなぁ?」 う〜ん、と思案しつつ北を目指していた。 「思い切って西か東に動いて他の人のリボンを探すべきかなぁ? ……わっ!」 似餓蜂の大群に見つかった。しかも今度は軍隊蟻もいる。 逃げるか戦うか? この時、遠くからこの敵集団に気付いていた者がいたッ! 「ええっと。この先、行き止まり、と。……ん?」 岩に持参した白墨で誰かのため情報を書き込んでいた紫狼である。 物凄い勢いで遠くの道を横切る敵集団に気付いたのは、たまたましゃがみこんで文字を書き終えた後、額の汗を拭うため身を起したから。 「あれは、誰かを追ってるな?」 歴戦の彼の目は、これを戦闘行動だと見抜いた。 「まさか、コクリちゃんじゃあるまいな?」 最悪事態を想定して駆け出す。 そしてアヤカシの渡っていた十字路に辿り着き目にしたものはッ! 「オレは男だっ! 大人である前に、男なんだよッ!」 囲まれるコクリに、おおおおおお、と怒りの形相で男のっ、いや、漢の咆哮をぶちかましたッ! 大地を震わすような叫びに、ぶぅん、と蜂どもが振り返った。蟻も止まっている。そしてその先の、戦う決意を固めたった一人で武器を構えていたコクリも動きをとめていた。いや、仲間を見つけた喜びで、ぱああっと笑顔を咲かせたではないか。 「竜哉はん? この声は……」 「ああ、間違いない」 咆哮の地点からあまり遠くない場所で、蒼と竜哉が顔を見合わせた。 「……誰か目立った行動をしたかな?」 遠く激戦の音を聞き、香澄が「あれだけ止めたのに」と溜息を吐いていた。 「うに……。だれかやったにゃね」 「いそご、千佳さんっ」 がくー、とねこみみ頭巾の耳をへにょりさせるように肩を落とす千佳を励まし、リィムナが片結いする髪の毛を揺らして走る。 そして、紫狼とコクリの運命はっ! ● 「紫狼さんっ!」 「だからYOU、どうしてこっち来るよ〜!」 紫狼に襲い掛かるアヤカシの大群を追うコクリ。 「仕方ねぇ。逃げるんだよ……」 何か言いつつ回れ右する紫狼。腕をL字に奇麗に曲げて、指先までピシッと伸ばし、ついでに背筋も伸ばしてしゅごおっ、と逃げ始める。 が、背後に一匹回られていた。はぐれていた敵も呼び寄せたようだ。 「くっ!」 逃げ始めカウンターを食らう形で、失明毒を食らった。さすがにたたらを踏む紫狼。この隙に背後からも大群が来て、かく乱用の霧を散布され、まといつかれて齧られるなど好き放題される。 「紫狼さんっ! 紫狼さんっ!」 コクリが悲鳴を上げながら敵の集団を背後からひたすらなぎ払う。すぐに敵はコクリの方を向き、前進もままならなくなった。何より霧や失明毒が散布されているのだ。足元には軍隊蟻もいる。 明らかに一人で戦うには無茶すぎな敵の数。 「後衛職さえ揃えば範囲攻撃や回復が使えるんだ。彼女たちの早期合流が……」 やがて、それだけ言い残しがくりと力なく片膝をつく紫狼。 「そうか!」 「うに、コクリちゃん発見にゃっ!」 コクリも立っているのがやっとの状況まで追い込まれたとき、千佳とリィムナがやって来た。 「千佳さん、リィムナさん、ブリザーストームを早くっ」 「霧を晴らすんだねっ、任せてっ!」 叫ぶリィムナ。慌てて千佳もマジカルワンドを構え、二人でブリザーストーム。毒霧は晴れたが敵と一緒のコクリが倒れた。紫狼ももちろん食らっている。 ――どどん。 「コクリちゃん心配したよっ! 皆と脱出しようねっ!」 ここで香澄到着。同時に結界呪符「黒」。敵を分断しておいて突っ込み、コクリを抱き上げる。 ――ひゅん、ぱしっ! 「敵も分断させたらいったん引くんじゃないか?」 鞭を手にした竜哉が、敵を散らす攻撃を繰り返し空間を作りつつ寄って来た。 「うちが死ぬ気で治させて貰いますえ」 蒼も続いて突入してきた。コクリと紫狼を回復するが、紫狼はぐったりしたままだ。 「無茶したな。リボンを手がかりに全員で北を目指せばいずれ合流できたはずだが……」 竜哉が紫狼を担ぎ、霊魂砲を放った香澄がコクリに肩を貸した。 「うに、皆揃ったのかにゃ? それなら長居は無用だしさっさと撤退にゃねっ」 「よし。あたし達の絆、この程度じゃ切れないよっ! 全員で生還するんだから!」 千佳がブリザーストームを放ち、リィムナがすぱぁんと脚絆で蹴りを放つ。二人とも自分の色のリボンを持っている。 「よし、とにかく逃げよう」 コクリも、香澄も、蒼もリボンを握って頷く。もちろん竜哉も、そして、竜哉に担がれた紫狼の手首にも自分の色のリボンが巻いてあった。 「無事に帰ってお風呂に行くにゃからねっ」 殿は、ブリザーストームを連発する千佳とリィムナ。香澄の結界呪符「黒」も効果的。 先頭は、コクリ。蒼の回復もありまだ戦える。二列目からの竜哉の鞭の援護も利いていた。 「とにかく、北を目指しますえ〜」 皆に囲まれ守られた蒼の一貫した指示もあり、コクリたちは何とか無事に生還した。紫狼が重体となったほか、全員が激しく消耗し、最後は気力も振り絞った形だ。 この結果に、興志王の部隊の一部は「敵、やはり手強し」とやや消極的な動きとなったらしい。 余談であるが、コクリたちは本隊に戻ってからお風呂の代わりに川できゃいきゃい遊んだという。 もしかしたら、アヤカシから付けられた毒などのにおいが落ちたかもしれない。 |