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■オープニング本文 ここは、神楽の都の一角。 「よ、やっぱりここか」 暮れなずむ広場。その一角に佇むうどん屋台でずるずるとかけうどんをすすっていた下駄路某吾(げたろ・ぼうご)(iz0163)は突然声を掛けられ顔を上げた。 「お、なんでぃ。遅潮じゃねぇか」 そこに立っていたのは、貸本作家の厚木遅潮(あつき・ちしお)だった。「すまねぇ、俺にもかけを一杯」と注文して下駄路の腰掛ける長椅子に納まる遅潮。 「最近、いろいろ仕事増やしちまってすまねぇな」 「何、いいさ。本を書いても売れてないころを思えば幸せだな」 はいよ、と屋台のオヤジに丼を渡され早速トウガラシを掛けつつ、そんなあいさつを交わす。 「あ〜あ、やっぱりここに遅潮も下駄路もいたかぁ〜」 新たに間延びした声が響く。 「よ、来たな」 「そのうち近等も来るとは思ったがな」 下駄路と遅潮が振り返ると、大柄で人の良さそうな人物が立っていた。彫り細工師の結城田近等(ゆうきだ・ちから)だ。一人で全てを担う場合が多いが、下駄路・遅潮・近等は三人で貸本を製作し世に送り出していたりする。 「そのうちまた新たな仕事をしたいね〜」 「ああ、俺はそのためにここに来たんだか」 近等が嬉しそうに話しながら、きつねうどん大盛りを頼んだところで遅潮が切り出した。 「実は今、夏に向けて梨農家から読み物を一本頼まれてんだがな」 曰く、梨を美味しく食べて、その梨がどうやって栽培されているかを読み物で知ってもらうことでより梨に愛着を感じてもらいたいと梨農家が考えているらしい。もちろん、職人仕事なので大まかな作業だけ記して、勘所はぼやかすらしいが。 「そりゃいいな。農家さんも愛情を込めて育ててんだろうから、それを知ってもらうことはいいことだ」 「じゃ、三人の仕事で受けるぜ? もっとも、今からだと冬の剪定の作業の絵はないが」 気のいい下駄路の返事に遅潮が頷く。もちろん近等もきつねうどん大盛りを受け取りつつ頷いている。 しかし。 「……ただ、ちょいと問題があってだな」 「何だ? 農園にアヤカシでも出るってのか?」 口調を変えた遅潮に、下駄路が冗談めかして言う。 「まあ、そういうことだ。他の作家ではなく、俺のところに仕事の話が来た理由だな。……いや、いまや『戦場絵師』の名が通ってる下駄路に話が来た、といったほうが正しいだろうが」 ぶばっ、と麺を噴き出す下駄路。 「敵は猿の姿をした鬼のアヤカシの群れ。武天山中の村の梨農園が襲われ留守番をしていた子どもがやられた。両親や大人たちは避難したが、当然他の農家も狙われるかもしれない。何より、今は摘果っていう大切な作業の季節。これができないと夏の梨の出来に関わるらしい。早急に猿鬼を排除してほしいって話だ」 「待て。俺たちゃ開拓者じゃねぇぞ」 一気に説明した遅潮に待ったを掛ける下駄路。 「もう俺が仲介してギルドに依頼を出したよ。……新人開拓者推奨依頼にすることで依頼金をまけてもらった。別の言い方をすると、俺たちに頼んだ利点がここで消えるってこった。一緒に現地に乗り込んで、俺たちががっちり仕事を受けたことを示しにいくぞ」 だから、出掛ける用意しとけとまくし立てる遅潮だった。 こうして、武天国山間にある梨園に居座る猿鬼十数匹を退治してもらえる開拓者が募られるのだった。 猿鬼は農家を急襲し子どもを殺害した後、山に戻っている。 何故かそれ以上襲ってこず、梨の木を荒らすなどといった狼藉行為にも出ていない。 あるいは、村人が無謀にも大挙して猿鬼退治に来るのを待っているのかもしれない。 |
■参加者一覧
ゼロ(ia0381)
20歳・男・志
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)
18歳・女・泰
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)
15歳・女・巫
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
レムリア・ミリア(ib6884)
24歳・女・巫
ギイ・ジャンメール(ib9537)
24歳・男・ジ |
■リプレイ本文 ● ひらりと、亜麻のヴェールが風に揺れた。 黒い瞳が遠く梨園を仰ぎ見ている。 「猿鬼……」 ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)が呟く。白い髪や肌に巻いた角が特徴的な、羊の獣人だ。 「確実に倒したいですね」 「そうそう。梨がおいしいのはわかるけど、お猿さんたちにはご遠慮願おうかな」 振り向いたところに寄って来た「子ども好き」ゼロ(ia0381)がヴィオラッテに頷く。 「なんだか、久しぶりの戦闘依頼ですね〜」 傍では紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)が準備運動をしていた。体を捻ると胸の大きさが際立つ。足元には、金色のもふらさま。 「もふ龍は荷物を持って来たもふ☆」 沙耶香の朋友「もふ龍」が小さな荷車を引いてきていたり。 「故郷を離れ、遠い異郷の地で受ける初めての依頼……」 高ぶっているのは、レムリア・ミリア(ib6884)。背が高く、豊かな胸やくびれた腰など非常に目立つエルフ女性。畳んだ扇子「紅葉」を手慰みに、ヴィオラッテの見ていた想定戦場から目を離さない。 「とにかく頼みます。甘くて汁気の多い梨は夏場の楽しみ。それを出荷できないと村は今年を乗り切れません」 「リアという。今回はよろしく頼む♪」 傍に控えていた村長が言ったところで、リア・コーンウォール(ib2667)がやって来た。性格だろう。びしっ、と背を正して挨拶する。折り目ある動きに大きな胸が揺れる。 「ともあれ、やると決めたからには出来る事をしよう」 リアの影から、目を伏せた鞍馬 雪斗(ia5470)が影のように姿を現し呟く。 「ん?」 ここで、村長はヴィオラッテを見る。彼女の胸は非常に女性的だ。続けて沙耶香、リア、レムリアに視線をやった。そして雪斗の胸元に戻す。 「それは……失礼ではないか?」 ぴぴん、と視線の意味に気付いた雪斗が突っ込むが、不幸なことに雪斗は饒舌ではない。村長は「いや、お嬢さんもきっとそのうち……」などと言い訳する。雪斗の方はもう突っ込まず深く溜息を吐くだけだったが。 「しかし大変だろうね、ぜひ退治を手伝わせてほしいな」 村長には、人当りよくにこにこしているギイ・ジャンメール(ib9537)が話し掛けた。 「……。ええ、ぜひともお願いします」 村長、中世的な龍獣人のギイを上から下まで見るが、性別を間違えることなく男性だと判断したようだ。 「……納得できないな」 ぼそりと呟く雪斗だが、スカートを普段着にしてるの人に言われてもねぇ。 しかしこの時、ギイが信じられない行動をッ! 「梨園かぁ、いいなぁ……って、チッ。そういやまだ時期じゃないんだっけかぁ」 さらっと毒を吐きましたよ、この男ッ! 「へ……?」 「あ、いやいやなんでも。じゃあ先の収穫のためにもその猿鬼、退治しないとね」 呆然とする村長だったが、ギイは良家の子息然とした態度を取り戻したので事なきを得た。 「いよう」 そして忍び装束に身を包んだ玖雀(ib6816)は、にやにやしながら下駄路 某吾(iz0163)に近寄る。 「お? 何だ。機嫌良さそうじゃねぇか」 「なぁに、面白そうな男がいるって小耳に挟んだんでね。……なんでも、戦場絵師って呼ばれてるとか」 ぽむ、と下駄路の肩を叩く玖雀。 「ばっきゃろ。ありゃ周りが面白がってそう言ってるだけだ」 「その、周りを面白がらせるため戦場で開拓者を描くんだろ? 信念もってる奴は嫌いじゃねぇぜ?」 わいわいと言い合う二人。その近くでは沙耶香が「もふ龍ちゃんは、荷物と一緒に留守番しててくださいね」、「分かったもふ☆」とか。 とにかく賑やかで、村人たちは「こんな調子で大丈夫なんだろうか」と不安になるのだった。 ● 「ぷっ」 「どうした、リア?」 思わずリアが思い出し笑いしたのは、梨園でのこと。振り向いたゼロと一緒に鳴子を仕掛けている最中だった。沙耶香も設置を手伝い、ギイは撒菱を撒いていた。 「従妹の事を思い出してな」 リアは説明するが、ゼロには分からない。 「あ、そうだ。……敵は猿鬼。樹上を移動して上から奇襲をかけてくるかと思われます。ご注意ください」 「ぷっ。……いや、すまない。従妹がそういう動き、好きそうで」 瘴索結界で索敵をしていたヴィオラッテが注意を促したところで、またもリアが吹き出す。失礼だと感じて慌てて理由を話したが。 「そう……厄介だ。出来るだけ周囲からの強襲を警戒しておかないとな……。星の逆位置……悪くは無いが、油断もできんかね」 話を継いだのは、雪斗。「タロットの少年」は、持参した愛用のカードを一枚引いて簡易占いをしてみたが、あまり良くない結果だった。 「しかし、猿鬼が十数匹で子供をねぇ……。見せしめか、力の誇示か……ん?」 「ヴィオラッテさん?」 肩を竦める玖雀が身を改めた。いつものんびりと余裕を見せている男の変化に、やはり瘴索結界で警戒をしていたレムリアが反応し反対側を索敵しているヴィオラッテに声を掛けた。 「あ〜、コーヒー飲みたい」 「後にしときな、ギイ。……葉擦れから枝の上だな。近寄ったら判断、頼むぜ?」 罠設置が終わって思わず呟くギイ。玖雀はこれをなだめて状況を伝える。ざざっ、と両脇からヴィオラッテとレムリアが出てきた。玖雀の探っていた超越感覚は幅広く音を拾えるが、源の正体までは掴めない。ヴィオラッテとレムリアの瘴索結界ならアヤカシか否かは大まかに分かるが、範囲が狭い。前に出てきた理由である。 「アヤカシですっ」 「投擲、来ます」 ヴィオラッテが敵の正体を叫ぶと同時に猿のような姿勢で体毛のあるアヤカシ「猿鬼」が樹上に姿を現していた。短い縄をコンパクトに振りぬきスリングショットを放ったのを見てレムリアが危険を知らせる。 「少ないな……」 索敵の二人を守るように雪斗がさらに前に出て、ホーリーアロー。命中するがまだ敵は倒れない。さっと退却を始める。 ここで二列目から飛び出す男が。 「フルボッコあるのみだね」 持参した粉コーヒーを飲もうとしていたギイは、梨を食べられなかったがっかり感もあり八つ当たりする気満々。額の二本の角を前に構えるように前傾姿勢を取ると追撃する。 「子供を1人だけ殺してそれ以上は何もしてこないってのにも引っかかるな」 「敵が早く来て鳴子も設置し切れてない。追ったほうがいい」 首を捻るゼロだが、細工がばれたことなども勘案したリアが走り出しているのを見て続く。 「梨の木の近くで戦闘は嫌ですしね」 意を汲んだ沙耶香もするするっと上がる。 「二匹だったな、今の……上には上がいるってことを冥土の土産に教えてやろう」 玖雀が赤い髪紐で束ねた髪をなびかせ早駆で一気に前に出た。枝を渡る猿鬼に並ぶとぱちんと一つ指を鳴らす。はっと気付く猿鬼。 が、そこに玖雀はもういない。 「どこ見てやがる、残像でも見つけたか?」 猿鬼どもが止まることを見越していた玖雀がさらに早駆をして前に回り込んでいた。再び玖雀の声のする方を見る敵に、螺旋で回転を与えた明山の拳石を投げノックアウトする。雪斗の攻撃も利いていたこともあり、これで姿を消す。 「玖雀、ボス猿がいるかもしれない」 「むおっ?」 追ってくるゼロの声がしたときには、投石の雨にさらされていた。初撃は地面に手を付き宙返りで軽やかにかわす玖雀だが、こう乱れ打ちされると辛い。 「敵を寄せ付けるな、手数を……その魂は風に、想いは光に……、束ねる星に、繋げ聖弓……!」 突出する形となった玖雀を援護せんと後方で雪斗がホーリーアロー詠唱。いや、連発だ。 「雪斗さん、私も」 泰弓を持参していたレムリアも撃つ。 「……不便なもんだ。複数を一本に収束させての一点射撃ってのもしたいのだが」 ぼやく雪斗とレムリアの射撃は玖雀の周りに敵を寄せ付けない。この間に前衛四人が到着する。 「すまんな。敵は左右に散ったぞ。やや右が多い」 「たたっ切る」 玖雀の指示に、右手に曲刀「シャムシール」、左手に小太刀「霞」を構えたギイがバラージスーツをひらめかせ優雅に敵を求め右に行く。 「個人行動は避けて戦え。各個撃破だ」 「よし。後衛までお猿さんがいかないよう注意な」 リアが叫びオーラドライブ。片鎌槍「鈴家焔校」を構えギイを追う。ゼロも少剣「狼」を手に続く。 「連携重視だ。俺たち後ろは左を牽制しつつ前を助けるぞ」 得意の中間位置に戻った玖雀が少数の左に拳石を投擲する。敵からまたも玖雀一点狙いの石が飛んでくるが、開拓者たちが右に釣られたことで裏を取るべく一気に肉薄してきたっ。 「梨よりこれを喰らいなさいな!」 普段穏やかな口調のヴィオラッテが鋭く言い放ち、ド派手に白霊弾。白い光弾を食らい一匹が枝から落ちぶるぶると頭を振ると、残りの猿鬼どもも改めて距離を取った。 「大丈夫ですか?」 「問題ねぇが、敵も一点狙いしてくるだけの知恵はあるらしいな。うまく援護してやってくれ」 この隙にレムリアが月歩で投石を回避しつつ玖雀に近寄り神風恩寵。玖雀の方は戦況から目を離さない。 そしてこの時、右に突っ込んだ主力は敵の策にハマっていた! ● 「はっ!」 右前線で、ギイがシナグ・カルペーで華麗に敵の攻撃をかわしたあと、ふわりと跳躍をしていた。身を捻りつつ、滞空時間が長い。そのまま曲刀で敵の足を斬りつける。 しかし、地面を移動する敵に着地を狙われ斬られた。敵の立体群狼戦術である。 「マジこのくそ猿……」 「低木の梨園で戦わないわけだな」 悪態を吐くギイの横を駆け抜けるのは、リア。一気にユニコーンヘッドで詰めつつ敵を串刺しに。体重を乗せた一撃は威力十分で、あっさりと敵は瘴気に。 「キキィッ!」 「むっ!」 とはいえ敵もさるもの。別の一体が上からリアに襲い掛かり、体重を乗せた一撃をかます。さらに下からも来てるぞッ! 「お猿さんに囲ませるわけにはいきませんね」 一息つくリアの横を駆け抜けたのは、沙耶香。瞬脚で詰めて、その勢いのまま肩口裏から一気にドスン! リアを狙っていた敵に重厚な一撃を食らわし瘴気に返す。 「もしかしたら、村の討伐隊をここに誘き寄せるため待っていたのかもな?」 ゼロも一歩踏み出す巻き打ちで間合いを詰めつつ迎撃している。リアの呟きの意味に気付きそう分析する。 「梨を食べられないものコーヒーを飲めなかったのも貴様らのせいだっ」 「気をつけろ。釣りだされて敵の縦深陣に誘い込まれてるぞ?」 ギイがゼロの攻撃を受けた敵に薙ぎ一閃。八つ当たりも甚だしい私憤塗れの一撃で止めを差し、さらに前にでようとしたところで玖雀の声が飛んだ。前衛4人はまたも投石の嵐に見舞われる。 そして、ここでとんでもない事態がッ! ――カラン……。 なんと、梨園の方で鳴子が鳴ったのだ。 「何!」 気付いた玖雀が振り返ると、一匹の猿鬼が梨園にいた。 「わざと鳴らしたか!」 「相手の……好きにさせる気は無い」 叫ぶ玖雀を置き去りにして、雪斗が瞬脚で動く。石礫を食らうが物ともしない。 そして、前傾姿勢の突き。敵の攻撃を避けなかった分、逃げられる前に懐に入った。箭疾歩だ。 「それがボス猿だ!」 背後遠くからのゼロの声を聞く。図体が他の猿鬼より大きい。突き一発で沈まないのも納得だ。 が。 「攻撃の本命は……こっち」 雪斗、スカートはいてるのにがばりと横から大きく膝を上げているっ! そのまま、ドガッと薙ぎ倒すような蹴りが入る。 「くっ」 「フン。今更逃げたところで、お前等はもう詰んでんだよ」 苦しみつつも雪斗に一撃入れて梨園に消えようとするボス猿鬼が、はっとした。早駆の玖雀に並ばれていたのだ。 「最初に恥をかかされたからな」 恨みを込めて、苦無「獄導」で掻き切るのだった。 そして、正面。 「ギイさん、これで少しは楽になったはず」 「そうだね。ありがと」 ヴィオラッテがギイに神風恩寵をかける。ギイの方はすぐさま戦場に。 「くそ猿どもを叩く舞はまだおわっちゃいないしね」 少々の傷には怯まず、またも突っ込んでいく。 「私は敵を攪乱に行きます。しっかり戦ってください」 「了解」 沙耶香は単独敵の裏を突こうとする。ギイの返事は手短。ともかく、沙耶香の動きで敵縦深陣は崩れることとなった。 「幹に隠れたところで、この片鎌槍『鈴家焔校』からは逃げられん」 リアは、十文字ではなくトの字となっている槍の形状を生かし、邪魔にならないよう回転させると角度をつけて突きをかます。ポイントアタックが冴え、消極的な敵も屠る。 「戦力外でいるわけには……」 レムリアは、回復以外にも役立とうと泰弓をとにかく射る。 「大丈夫」 「そうそう。十分役立ってるよ」 扇子「月桂樹」を口元に当てていたヴィオラッテはレムリアをそう励ますと、ひらりと扇子を持つ右手巡らせた。左手から白霊弾を放ち敵を潰す。さらにレムリアの横を駆けて手にしたダーツを投げるゼロも同調する。防具のない顔を狙ったが、ピンポイント過ぎて避けられたが、レムリアがこの攻撃に合わせて撃って敵を倒す。 やがて、敵の数的有利が覆ると開拓者たちが押し始め、最後は逃げる敵を早駆や瞬脚で追って掃討するのだった。 ● 「へえっ。確かに梨の木は低いようだし、猿鬼どもにしちゃ角度が付く分、奥の森で戦う方が有利って訳か」 返ってきた開拓者から話を聞いた下駄路が唸る。 「いや。梨の木も本来は棚状に横に伸びるんでなく、普通に高くなるがの」 これを聞いた村長がそう付け加えた。梨園の木は、収穫などの作業がしやすいよう、上に伸びようとする枝は冬のうちに剪定するのだそうだ。時には枝に岩をくくりつけて、上に伸びないようにしたりもするらしい。 「なるほどなぁ。そんじゃ、そういうのも貸本に盛り込んどくか」 「なかなか……面白そうな話だな」 こういうのが好きな雪斗も寄って来る。 「おお、そうだ。『アヤカシは雪斗さんや桜葉さんといった、梨のように白い女性に退治されました』と……」 「分かってやってるだろ……」 「私としては、亡くなった子どもさんのお墓に手を合わせておきたいのですが……」 静かに怒りをためる雪斗はともかく、ヴィオラッテは村人に墓のありかを聞き、後から参りに行ったようだ。 「皆さん。アサリ汁をどうぞ☆」 「ご主人のアサリ汁で祝勝会もふ☆」 「山で海の幸とはね〜」 しばらく姿を消していた沙耶香は、もふ龍と一緒に鍋を抱えてやって来た。どうやらもふ龍が荷車に載せて引いてきたのは、海水に漬けて保存していたアサリだった様子。早速ギイが一番乗り。 「そういえばギイさん。戦闘中妙に口調が……」 「やだな。気のせいですよ、レムリアさん」 「おおい、某吾も食わんか?」 「……従妹もいたら喜んで食べるだろうなぁ」 とにかく賑やかな開拓者たち。もう村人も納得で、酒を振舞うなどして酒宴を楽しむのだった。 摘果作業は次の日から取り掛かり、再びアヤカシに襲われるなどはなかったという。 |