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■オープニング本文 「近衛兼孝と彼の仲間である若手貴族。できればこれらの弱みを探っておきたいです」 ある薄暗い居酒屋で、浪志組のクジュト・ラブア(iz0230)が静かに呟いた。近衛兼孝は朝廷若手貴族の旗頭的存在で、「浪志組」を建策した発起人であり現在指導的立場にある東堂・俊一(iz0236)が接触している人物である。 「……まあ、妥当な判断ですが」 クジュトと並んで座っていたもふら面を被った男は、ちょいと面をずらして酒を飲みつつクジュトを見た。 「まさか旦那がそんな汚い世界の常套手段を言い出すとは意外でしたね」 すぐに面を戻してそれだけ言った。表情は見えない。 「話したはずですよ? 私は故郷のアル=カマルで、味方の裏切りで敗北に塗れここに流れ着いたんです。また同じ轍を踏みたくはないですからね」 クジュトの方は寂しそうに酒を飲んで呟いた。 「ですが、近衛は裏切ります兼ね? それに東堂の旦那からそういう指示はないんでしょう?」 「ええ。だから、近衛にも東堂先生にもバレないように探らなくちゃなりません」 「だったら、ちょうどいい話がありますぜ?」 決意を固めるようにきっぱり言い切るクジュトに、笑いを押し殺すように肩を揺らせてもふら面の男が続けた。 「ちょうど、勅使河原義之(てしがわら・よしゆき)という貴族の屋敷に、ミラーシ座が招かれて……」 「勅使河原ですか……」 聞いたと同時に、クジュトが溜息を吐いた。 「これまでも屋敷の宴席の盛り上げを頼まれてましたが、いい加減断れないと思いますよ?」 肩を揺らすもふら面の男。明らかに笑っている。 実はこの勅使河原義之。近衛兼孝周りの若手貴族で一番の男色家だったりする。以前、近衛周りの貴族の宴席でクジュトたちミラーシ座が舞った時に一目惚れしたらしい。それ以来、熱烈なあたっくを受けていたり。当然クジュト、さらりとかわしていたのだが。 「礼儀正しいし美形だし、いい話じゃないんですか?」 あなたの恋人も温かく見守ってましたよ、とか意地悪そうに続けるもふら面の男。 「ぶっ! あの娘はまったく……。それより、話がずれましたよ。今はいざという時に近衛の動きを牽制できる材料を何とかして探しておきたいという話だったはず」 「はい、その通りで。……勅使河原は近衛周りの貴族でも、一目置かれている者たちの一人です。探りを入れるには非常に都合がいいですよね」 じゃ、この話受けますよ? もう何度も来た話でこれ以上断ったらミラーシ座は完全に干されますよ? と念を押す。 「く……。仕方ありません。私が囮になっている間に、勅使河原といっしょに席に着くほかの有力若手貴族から話を引き出したり屋敷を探ってもらえる人を募るしかありませんか」 「クジュトの旦那に変装すれば、屋敷内も比較的自由に探索できるかもしれませんしね」 もちろんその間、旦那はどこかでしっぽりとかしてくださいよ? と笑うもふら面。 「勘弁してください。それは嫌ですし、それやっちゃうと今後のミラーシ座の活動に支障が出ます」 宴席は盛り上げても、あくまで演劇団でいたいとクジュト。 ともかく、勅使河原が神楽の都に置く屋敷での近衛兼孝グループが集う宴席を盛り上げつつ、彼らの弱みに繋がる情報を収集できる者たちが募られるのだった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
ニーナ・サヴィン(ib0168)
19歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242)
22歳・女・吟
アイリス・M・エゴロフ(ib0247)
20歳・女・吟
リア・コーンウォール(ib2667)
20歳・女・騎
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
アルマ・ムリフェイン(ib3629)
17歳・男・吟
滝夜叉(ib8093)
18歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● ――ぽろろん、ぽろん♪ 切ない音に合わせて傘が翻り、女形姿のクジュト・ラブア(iz0230)が色っぽく振り返る。 ずらりと座る宴席参加貴族から、わあっと拍手がわいた。 「ふうっ。……良かったですよ、ニーナ」 「当然ね。それよりクゥ、蠱惑的だったわよー。この男殺し♪」 舞台裏に下がり笑顔を見せるクジュトに、クーナハープを演奏していたニーナ・サヴィン(ib0168)が返す。続けて服を緩くはだけさせる。 「ちょ、ニーナ。私はいまから……」 「男色家のお相手、でしょ?」 「ニーナ。クジュト……は忙しいみたいだから……いきましょ?」 悪戯する恋人にうろたえるクジュト。リスティア・バルテス(ib0242)はにやにやしながらも義妹のニーナを連れて行く。 「ではティアさん、久しぶりに……」 すすっ、とイリス(ib0247)がティアに続く。 「オッケー、イリス! 合わせるわ。霞澄も行きましょ。大丈夫?」 「人の多い所は苦手ですし緊張しますが、イリスさん、ティアさんが一緒にいて頂ければ大丈夫だと……」 ウインクして振り向くティア。柊沢 霞澄(ia0067)がこくりと頷く。 「それじゃクゥ、しっかり頑張るのよ♪ 私は貞操がどうだとか拘る女じゃないから安心して?」 ニーナはくすくす笑いしながら楽しい演奏に向かう。 「ふふ、クジュトさんも大変ですね」 露羽(ia5413)も含み笑いしながらクジュトを見る。 「露羽さんまで……。って、今日はそんな格好?」 「女性として、私の方は色恋も利用させてもらうつもりですよ」 聞くクジュトに、いつも女性に見間違えられる露羽がにっこり。清楚に振袖「蘭」を着こなし結い上げた黒髪にしゃらり、と簪が踊っている。 「私もまずは酌に。ミラーシ座の手助けをしに、今回は伺った。よろしく頼む……みます」 黙して控えていたリア・コーンウォール(ib2667)も立った。 「近衛派貴族の弱み、情報収集だね。任せといて、クジュトちゃん」 銀狐の神威人、アルマ・ムリフェイン(ib3629)が胸を叩く。 「ええ。屋敷内はアルマさんにお願いします」 「アルマ、後で一曲やろーなー」 声を掛けるクジュトに、虎の神威人、羽喰 琥珀(ib3263)も虎尻尾を振りながら見送った。 「それでは行きましょうか」 露羽の言葉でそれぞれ散るのだった。 ● ふわり、と銀の絹が波打った。 「『冬のジルベリア』聞いてください」 袖をなびかせ伏せていた顔を上げたイリスが舞台に出るやあいさつをする。体を捻って纏ったドレス「銀の月」を揺らめかすと、そこからまた銀の絹がなびいた。 「ん……」 イリスと同じくドレス「銀の月」を纏っていた霞澄が舞い出てきた。恥かしいのか目の周りはマスカレードマスクで隠している。それでも袖を使い裾を使い、一挙手一投足を丁寧に魅せる。銀の長髪も流れる。 ♪雪の北部は昼も暗いわ 月夜のように白く霞んで 「ほぅ。今宵はジルベリア趣向か」 宴席は一瞬戸惑った。 「新たな風を感じてくださいまし」 クジュトが勅使河原の傍に座り、その心を説く。 「む。我らにふさわしいな。そして今宵も貴方は美しい」 満足そうに整った面で頷く勅使河原。これで周りの若手貴族も納得した。 「そうだな。これからは他の儀とも積極的に交流すべき。もう年配貴族には退いてもらうべき」 「うむ。年寄りが実権を握っていても閉塞感が高まるばかり」 そんな感じで盛り上がる。クジュトの方は早速勅使河原に太股を触られ、我慢しつつお酌をしていたが。 ♪募る思いは満ち行く月ね やがて日差しが育むように…… 淡い桃色の髪が踊らせ、想いを、願いを、愛を歌うイリス。 その歌声は舞う霞澄に力を与えた。もう、俯かない。こつり、と足元に落ちたのはマスカレード。「おお」と周りがざわめく。控えめだった霞澄の瞳が見開かれ、温もりに満ち面と共に上を向いたのだ。まるで、希望の光を導くかのように。 ここで、控えめだった伴奏が力強くなった。 裏舞台から弾いていたティアとニーナが出てくる。赤毛のティアは、スーツ「金の剣」で決め太陽のように生命力溢れる様子を会場に振り撒く。金髪のニーナは、スカーレットクロークで赤い花のように舞い伴奏する。 曲も、歌声も盛り上がる。 時には、舞う霞澄がティアの前に位置して隠すように。静かな様を演出して、またティアが元気な姿で奏で踊り華やかに。 やがてイリスが余韻豊かに歌い終える。 大きな拍手がわき、俄然盛り上がるのだった。 ● 時は少し遡る。 「さあ、どうぞお一つ」 「これはまた、素敵な女性の酌で緊張するね」 イリスたちが歌っている間、滝夜叉(ib8093)は酌をして回り盛り上げていた。豊満な体にバラージドレスを纏い、スキルとも思えない最高の素顔を振り撒きつつ、時折紅い唇に指を添えてじっと意味深に見詰めてくる。迫られた相手は誰も、滝夜叉の色気にどきまぎしている。 「お上手ですこと。私にばかりでなく、女性には誰にでもそう仰るのかしら?」 ああっ! 滝夜叉、明らかに猫を被っている。しかも大きな胸の谷間が見えるよう、下からぐぐっとおねだりするように見詰めつつ詰め寄っている。 「いやいや、そんなことはない。そなたにのみ、な」 完全に流れを掴み、にやりと微笑する滝夜叉。 「私は良く分かりませんが、浪志組という方たちと懇意だそうで。そちらに美人もいらっしゃるのでは?」 「あれらは戦う者たちの集まり。男性が多く、女性がいてもそういう目では見ん。所詮、我らにとって都合の良い使い捨ての……」 この貴族、さすがに口が過ぎたと感じたようで口ごもってしまった。 「どうぞ、もう一つ」 滝夜叉の方は心得たもので、それ以上は聞かず酒を勧め自ら話を逸らすのだった。 この後、他の貴族には鞭で遠くの銚子を取って見せたり、最高の笑顔を魅せつつ肌の露出の多い衣装で魅惑的な舞を披露。イリスや霞澄が貴族に圧され気味になっている所を助けたり。ティアには「ナイスタイミング」とウインクで感謝されたり。 少し離れた場所で、この様子に注目していた人物がいた。 (……やはり) 鞍馬 雪斗(ia5470)だった。 (事前に動いておいたが……正解だったな) 実は日中、事前の準備と称して仲間と屋敷を訪れ探りを入れていた。 「よし、雪斗のにーちゃん。あの人たちがおしゃべりそうだぜ?」 琥珀が離れた場所にいる使用人を指した。 「偉い人がたくさん来るのだったら、大変ですね」 早速近寄って話しかける雪斗。 「ええ。最近は神楽の都も物騒ですし」 女形である雪斗に好意的な使用人。 「物騒といえば、宴会中に何か起きるとかは流石に心配性かな……? まぁその時は浪士も自分達も居るだろうし……問題は無いか」 「浪志組はいいけど、役者さん一座はうまく利用されないよう、気をつけてくださいよ?」 かまをかけた雪斗に、こっそり耳打ちする女性使用人。 「え?」 「それじゃ、私は準備で忙しいですから」 耳元にささやき役者さんの香りをかいだことですっかり気を良くした使用人は上機嫌で去っていった。 (下心の分、ささやかなお礼ということか) などと思ったのだが……。 「お姐さん、こちらに」 声を掛けられ我に返り、呼ばれた方に行く雪斗。 「貴女もジルベリア風で」 「あ……はい」 努めて女声を出す雪斗。 そう。彼は、賑やかしも兼ねて黒系おとなしめなカクテルドレスに身を包んでいた。長い銀髪が映える。 「ん? 貴女の瞳は不思議な魅力がありますね」 「きゃっ……」 くいっ、と顎に手を添え上げられ、まじまじと瞳を覗き込まれた。「失礼だろ……」と内心憤るが、羽織っていたケープが落ちた。 「おお、奇麗な肌……いや、これはいかん」 「ひっ!」 直す振りをしてざっくり開いた背中を触られる。びくっと背筋を伸ばす雪斗。谷間もない薄い胸元を突き出す形で、今度は前の貴族に注目された。 「ふむ……。安心なされよ。ここには貴女のような女性を魅力的に感じる者がたくさんいるので」 「よ、余計なお世話だ……」 という怒りの言葉は、ぐっと飲み込み防戦一方の雪斗だった。 ● もちろん、席には女性貴族たちもいる。 「可愛い女形さんもいるものね〜。お姉さん、きょうは君みたいな男の子と一緒でとっても幸せよ?」 「俺はこれでも女形だから、男の子っていっちゃだめだって」 「んも〜。やんちゃなんだから〜♪」 「そうそう。絶対に暴れちゃだめよ。女の子らしくしないと座長さんに叱られるわよ?」 女装してもいつものまんま。今日も元気いっぱいの琥珀はそんな少年大好き女性たちにからかわれまくり。抱き締められたりほっぺたつんつんされたりのモテまくり状態。さすがに真っ赤になってオタオタしているが、その性格ゆえに疑問点はストレートに口に出る。 「そういや、ここにいる貴族さんたちって評判いいの?」 ふりん、と虎尻尾を振って首を傾げられては女性たちはたまらない。 「内緒だけどね」 とか言いつつ、「加虐趣味もある変態さんだから、絶対関わっちゃだめよ」などと教えられ、「きゃ〜」とか盛り上がったり。つまり、ホモでサドである、と。 「もうすぐアルマさんが戻りそうです」 ここで、使用人にこっそり耳打ちされる。昼間、協力を約束して雪斗とも話した使用人だった。 「分かった。それじゃ、出番がもうすぐなんでいくな〜」 準備に離れる琥珀だった。 「あら、そうなんだ? みぃんな男性好きかと思っちゃった」 すっかりフレンドリーなのは、ニーナ。男性好きではない男性貴族に酔ったフリして寄りかかっている。肩を抱かれそうになると「それじゃ、あちらで呼ばれましたので」と軽く身を引くあたり、慣れたものだ。 (それにしても……) ぷっ、と思い出し笑いするのは、勅使河原が涼しい顔してドSだと聞いたから。あ、とクジュトに気付いて近寄る。 「勅使河原さま、座長は男性にモテすぎて故郷を出たらしいんですよ?」 勅使河原が座った膝下でクジュトの手を握ろうと高度な攻防を繰り広げている横から、すっとお酌するニーナ。こっそりクジュトの株を変な方に上げておく。 「ほう、ではこちらでは私が守ろう」 「ちょ、ニーナ」 出たときより服がはだけている様子を見て、こっそり猫笑いするニーナだった。 「東堂殿とは、親しいようで」 立ち去るニーナの背後に、リアがいた。勅使河原の脇を固める貴族に酌をしている。 「まあ、親しいな」 「お噂は、どうなんでしょうねぇ」 とぼけた風に杯を空ける貴族に、さらに注ぐ。 「噂、とは?」 「いえ。東堂殿といえば、浪志組を建策した発起人で有名ですから、どのような人物か興味が出てきまして♪」 リア、にっこり笑顔で下心がないことを強調。 「才物ではあるが、しかし」 「しかし?」 「分を弁えぬ男だ。政に首を突っ込むなど、な」 リアの着る白黒のゴシック調ドレス「カーミラ」は気品高く、胸元に飾ったアクセ「華麗の水晶」も気高かった。ここに気を良くした貴族はぽろりと敵意を見せる。 「……あ、クジュト殿。飲みすぎではないか?」 不意に、くらっとしたクジュトが目に入りそちらを気にしたりも。勅使河原の悪酔いぶりに眉を顰めていたこの貴族も、リアの行動に親近感を覚えさらに重大な秘密も示唆するのであった。 「東堂以下の浪志組は近衛の都合のいい戦力でしかない。奴等は要人も……するやも知れんので、火の粉が来ぬよう気をつけられよ」 その貴族は親指を立て、密かにくっと自らの首を狩る真似をするのだった。 「良かった、良かったよ」 ぱちぱちと手を叩き、舞を終えた露羽を出迎えた貴族がいた。 「よろこんでいただき、光栄ですわ」 露羽は先に、酒を注いで回りながら愛嬌を振りまきターゲットを決めていた。物腰柔らかく穏やかな雰囲気は生まれつきで、さらに諜報活動に長けたシノビとして技を磨いている。直情的な獲物を見つける嗅覚もばっちりで、この直情的な貴族に狙いを絞っていた。 「今宵は男色家の勅使河原なぞに招かれ気乗りもせんかったが、まさかこのような女性もおるとは……」 この貴族、露羽の夜春でメロメロになってすでに本音丸出しだ。こっそり肌にかける吐息、甘く動く唇など、さあっすが露羽は色っぽい。 (私の得意とする諜報活動ですからねぇ) と、彼女の、もとい、彼の気合いも半端ない。その結果がこの有様である。おそろしや。 「しかし、近衛兼孝さまの宴席に招かれた時は……」 「何、近衛なぞはからくり狂いの変態だ。きっと生身の女性に興味もあるまい」 「ですが、今宵は近衛さまとお親しい方の集まりでは?」 「ふん、わしらとて一枚岩でないわ。本当に天下を取れば、なおさらな」 ありそうな話だ、と内心呆れる露羽。が、重要な情報を得ることとなった。 そして、屋敷を探っていたアルマ。 「先生達の事も気になるけど……僕は信じてる」 雅な裏庭の見える書斎に忍び込んでいる。宴席は盛り上がっているので、屋敷内は比較的動きやすい。超越感覚も役立った。 「まずは、文箱、書箱、壺や下敷……」 慎重に、探られた跡を残さないよう探る。手馴れたものだ。 「二重底はないか? 紙の透かしも……」 芳しくなく焦り始めるアルマ。 この時、はっとした。 「そういえば、琥珀ちゃんと昼間に来たとき……」 確か、使用人が「座布団は干すなっていわれたでしょ?」などとやり取りしていたのを思い出した。 「まさか……あっ!」 文机の前の座布団袋を外すと、中から書状が出てきた。 「東堂……先生……」 苦渋の表情で内容を書き写した。 その後、気を取り直して戻ったアルマは琥珀と元気のいい演奏を。琥珀に金子を渡された使用人が紙吹雪を散らし盛り上げた。 ● 「クゥ、起きた? お疲れ様♪ よく頑張ったわね♪」 クジュトが目を覚ましたとき、ニーナによしよし、と頭を撫でられていた。不覚にも、宴席後の打ち上げで彼女に抱きついて眠ってしまったのだ。何故かいつにもまして優しい。 「……クジュトちゃんは、どうするんの?」 一同が暗い顔をしている。声を掛けたアルマも、もちろん。ニーナが暗い顔をする。 「え?」 「これが出てきた情報だ」 間抜けた声を出すクジュトに、リアが箇条書きの紙を差し出す。 そこには、近衛派若手貴族について、「野心の塊ですでに天下を取った浮かれぶり」、「東堂に要人暗殺の動きあり」、「浪志組は都合のいい戦力としかみていない」など書かれていた。あくまで裏を取ってない情報で、近衛の周りの手応えであり近衛本人の思いではない可能性もあるが。 「……これは?」 それより最後の一文を見たクジュト。真っ青になっている。 「都への火付けは陽動たるよう盛大かつ、先に指示せし場所は乱さぬよう申し伝えし候」と。 「勅使河原の書斎から出てきた書面の写しだよ」 「馬鹿な! 東堂先生は小火に止めると言ったはず……」 厚い楽譜を胸に抱き溜息をつくアルマ。クジュトはただ愕然とするのみだった。 |