【浪志】花見らいぶ天国
マスター名：瀬川潮
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| ■オープニング本文 ここは神楽の都のとある川沿いの広場。 ぽつりぽつりと並ぶ桜の木も、ようやく七分咲きとなっていた。 満開になると多くの花見客が集まりそうなほど広い敷地であるが、場所に比較してやや桜が少ないか。 実は、少し下流の川向こうに桜の名所があるので、ここはやや人気薄の場所となっている。 「へえっ。これが音の反響をよくした特設舞台ですか」 そこへ、浪志組のクジュト・ラブア（iz0230）がやって来た。広場の端にあり、広場中央に向かって大きくなる台形の屋根と壁を有した舞台を見て感心している。 そして、数日前を回想する。 「花見客が少ないこともあって、数年前から乱暴者が遠慮なくやって来ては好き放題やっていく。おかげで花見客も少なくなる。さらに余所からあぶれたら乱暴者たちが遠慮なく集まってくる……」 浪志組屯所で商人男性は身振りを交え熱心に話していた。 「そんな者らが集まればちょっとのことで喧嘩が始まる。さらに普通の人はいなくなり、酔って調子に乗った乱暴者は広場だけでなくわしらの店先や買い物客、通行人にまで乱暴を働く始末」 「それはお困りですね」 まくし立てる様子に、聞いていたクジュトもさすがに心を痛める。 「そんな乱暴者の中には開拓者もいるってんだから弱りもの。なにとぞ、浪志組に巡邏をお願いしたい所存でして」 「……野暮、ですね」 「は？」 クジュトから予想してない言葉が返ってきて、商人はあんぐりと口を開けた。クジュトの方はすっと立ち上がる。 「暴れる暇も与えないほど、ぱあっと行きましょう！」 三味線を持って晴れやかに言うのだった。 「ね、有希さん？」 くるん、とクジュトが振り返った先には、衝立の陰からそれとなく彼の様子を覗いていた浪志組隊士のシノビ女性、柳生有希（やぎゅう・ゆき）がいた。 「なん……だと？」 ぴくり、と冷たい表情はそのままで目を細める有希。青みがかった髪がさらりと揺れる。 「ぱあっと、ですか？」 「話をお伺いすると健全な賑わいが戻れば全て元通りで、しかも花見客が増え商店もにっこり、でしょう？ 有希さんたちと楽師隊を組んで盛り上げ、開拓者にも声を掛けて歌って踊って盛り上げますよ」 「そ、そりゃ願ってもない」 クジュトの説明に納得する商人。要は、人気の花見名所に負けないくらい魅力ある場所にしたいというのが根底にあるらしい。 「……胡散臭い」 有希の方は、他の隊士とは毛色の違うクジュトに「今回だけは合わせて、じっくり見定めた方が良さそうだ」などと思ったようである。 そして、そんな回想を振り切るようにクジュトが深呼吸して振り返った。 「さあ、ノリ良く行こう！」 言葉遣いを荒くしたのは、のどかな空気を一気に変えるため。後ろには太鼓の撥を持った回雷（カイライ）と鈴や笛を持ったその手下たち、三味線を抱えた有希がいた。 「別に好きでやってるわけではない……」 「いいじゃないですか。教えたとおり、あのリズムを繰り返してください。曲の根幹の引き締め役ですから有希さんにはぴったりですよ」 ツンと有希はそっぽを向くが、クジュトがウインクしてノせる。 「曲は『復活の勇者』！」 そして回雷が太鼓の縁を叩き曲に入った。 ♪ くじけるな・力尽くなよ 奇跡は、これから〜 ♪ 何だ何だ、とまだ少ない花見客が振り返る。満開までまだあるので「乱暴者の来ない今のうちに」と足を運んでいるのだ。 ♪ 耳澄ませ・鼓動のリズム 心で受けたか？ 握る拳・湧き上がる勇気 瞳の輝き〜 ♪ 激しい三味線と笛に絶唱系の歌声。今、歌うクジュトがメガホン付きスタンドを持ったまま蹴り上げて激情のアクションを繰り出すッ！ 「ほおっ。こりゃ、拍手でもしてやろうかの？」 今回は拡声宝珠を使っていないので広く曲は届かない。その分、興味のある人は寄って来て、のんびり花見をしたい人は距離を取ったまま敷いた茣蓙に座って楽しんでいる。 ♪ 不屈の闘志の力 いま満ち・震える 歌声が逆転勝利の 道に手招く 走れるか・やるのはキミだ 希望への剣〜 ♪ 曲が進むにしたがい、少ないながら人は増えてくる。それに激しい曲だ。やってる方は結構疲れる。イヤイヤながらも役目を務めていた有希も、頬を上気させて曲に導かれるように演奏していた。氷のようだった瞳にわずかな熱気がこもっているのは内緒だ。 やがて曲は終り、拍手に包まれる。 「満開になったらまた演（や）りに来ます。またその時にっ！」 声援にそう応えたクジュト。 というわけで、満開の時に演奏してもらえる個人・団体を求ム。 |
| ■参加者一覧 / 紗耶香・ソーヴィニオン（ia0454） / 柚乃（ia0638） / 秋霜夜（ia0979） / 礼野 真夢紀（ia1144） / 露羽（ia5413） / からす（ia6525） / エメラルド・シルフィユ（ia8476） / 猫宮・千佳（ib0045） / アグネス・ユーリ（ib0058） / イリア・サヴィン（ib0130） / 雪切・透夜（ib0135） / ニーナ・サヴィン（ib0168） / リスティア・サヴィン（ib0242） / 御陰 桜（ib0271） / 不破 颯（ib0495） / 无（ib1198） / 観那（ib3188） / リンスガルト・ギーベリ（ib5184） / リィムナ・ピサレット（ib5201） / スレダ（ib6629） / アムルタート（ib6632） / シフォニア・L・ロール（ib7113） / 自由のジョー（ib7658） / 棕櫚（ib7915） / 鏡珠 鈴芭（ib8135） / 月雪 霞（ib8255） / マネキ（ib8990） / 啾啾（ib9105） / 楠木（ib9224） / 闇野 ジュン（ib9248） / 三条 星矢（ib9321） |
| ■リプレイ本文 ● 花見会場で怒声が響いていた。 「おらっ。場所あけんか〜い！」 乱暴者である。ほかの一般人は慌てて距離を取りびくびくする。 「おぉい、なんじゃその目は。ワシらに文句あるんかい」 丸めた茣蓙を持っている乱暴者は好き放題周囲に絡み始めたぞ！ 「その辺にしておきませんか？ 皆さん困ってますよ？」 ここでばばん、とそそり立つ姿。 大きな丸い鼠耳が可愛らしい神威人、観那（ib3188）が待ったを掛ける。 「ああん？ なんだこのちっこい娘っこは」 「男ですっ！」 体を旋回しつつ六尺棍をくるりと回して足元狙い。中途半端な回避行動を取った大男を奇麗にくるっとひっくり返す。これぞ泰拳士の金魚掬。 同時に、わああっと周囲から拍手が。 鼠尻尾を揺らしつつ円らな瞳を満面の笑みで細くして歓声にこたえる観那だった。 その向こうで、同じくわああっと歓声が。 特設ステージの催しが始まろうとしているのだ。 時は若干遡り、場所は舞台裏。 「ジョーは自由。そう、自由のジョーという」 くるん、と鍛え上げられた細身マッチョの体が回る。ピンクのアフロと上半身裸という目立つ姿の自由のジョー（ib7658）が「人がダンスがジョーをそう呼ぶのさ」と細い色眼鏡をずり下げニカッ、と笑う。 「ジョーさんは南国のリズムでやるそうです」 クジュト・ラブア（iz0230）がジョーの隣に立って打ち合わせた内容を話す。 「俺は純粋に花見客として参加したんだが……」 開始前の盛り上がりの隅では、シフォニア・L・ロール（ib7113）（以下、シフォ）がやきもきしていた。ブラックレザーに執事服でまとめた中、ネクタイと前髪一部のメッシュの赤が目立つ。友人から「どうせなら舞台にも」と誘われたのはいいが、その友人が来ない。 「私は会場の警備をしてるから」 「私も微力ながら、お手伝いさせて頂きますね」 そんな中、ニーナ・サヴィン（ib0168）が裏舞台を後にした。ひらりと虹色のショールをひらめかすのだが、妙に薄着だったり。その後に露羽（ia5413）も別の方向へ。こちらは後ろで束ねた黒い艶やかな長髪が艶かしい。長いうなじやさらした二の腕などが白いのでなおさら。露羽、さすがに女装が似合う。 一方、残された者。 「ええっ？」 恋人と頼れる仲間を止めようとするクジュトだが、その動きは固まった。別の方から声がしたのだ。 「み、皆さんの、素敵な舞台精一杯、も、盛り上げさせていただきます」 司会役を買って出た啾啾（ib9105）がおどおどしながら言う。クジュトはこの様子を見て「助けが必要かもしれません」とある人物に視線を流す。この間にニーナも露羽も姿を消していた。 そんなクジュトの視線に気付いてばちっとウインクしたのは、リスティア・バルテス（ib0242）（以下、ティア）。 「さあ、そろったわね？ それでは！ 『お花見らいぶ』開幕ーーー！」 迷うくらいならさっさと始めて体当たり、とばかりにトランペット「アミチエ」を取り出し駆け出すのだった。 「っし。盛り上げるよ、ティア姉！」 これに、いまは踊りに夢中のジプシー、アグネス・ユーリ（ib0058）が細い顎を上げて続く。 「今度こそ剣舞以外に挑戦だ。剣を持たずに踊ろう。皆、行くぞっ！」 エメラルド・シルフィユ（ia8476）も気合いを入れ舞台に。 「おおっ！」 そしてがジョーが、クジュトが続く。 まずは舞台挨拶。 ティアのトランペットが高らかに鳴り響くのだった。 ● 「今日はのんびりしようね、透夜さん」 半ズボン姿の深夜真世（iz0135）が広場に来たのは、ティアのファンファーレが響いて皆がタップダンスをしているところだった。 「ん……久々だな、こういうのも」 後ろからゆっくり歩いて続く雪切・透夜（ib0135）がにこやかに。どうやら依頼で戦ってばかりらしい。きょうは恋人と一緒に羽を伸ばすようだ。 「あたしは演技は無理だけど、サクラ代わりの花見客になろっと」 南那亭仲間の礼野 真夢紀（ia1144）も一緒だ。今日もおっきな重箱を抱えている。 「そうよね。花見客としているだけで貢献できるよね〜」 真夢紀の言葉に賛同してきゃいきゃいする真世。 「自宅で作ったお弁当とお酒をたくさん持ってきましたから、一緒に盛り上がりましょうね」 「もふ龍も楽しむもふ〜☆」 さらに続く紗耶香・ソーヴィニオン（ia0454）と朋友の金色もふらさま、もふ龍もきゃいきゃい。 「……場所はあの辺りが桜に近く、舞台に近くて良さそうだ」 こんな時でも落ち着いているのは、黒装束のからす（ia6525）。茣蓙を抱いた姿ですっとある一角を指し示す。 そんなからすに続く二人。 「しゅうくん、あんなところに」 あ〜っ、と舞台のほうを見るのは、桃色毛並みが美しい狐獣人の鏡珠 鈴芭（ib8135）。舞台で踊りには加わらず司会者として佇んでいる啾啾とは友人である。 「秋せんせ〜、どうします？」 「迷子預かり所はここにしましょう。迷子がいれば啾啾さんに呼びかけてもらえばいいんですし」 動じることなく秋霜夜（ia0979）が返した。鈴芭も啾啾も拠点【鳳庵】の仲間である。 「それじゃ私が超越聴覚と早駆を使って、迷子になっちゃった子とかその親御さんとかを探してる声とかを頼りに探すよ〜」 ぐ、と拳を口元に可愛らしく当てて出発する鈴芭だった。 もちろん、警備についている開拓者は他にもいる。 「さーて！ 私は警備の仕事をバリバリやっちゃうよ！」 楠木（ib9224）が、くいっと眼鏡の位置を整えて気合いを入れる。 「わ。おねーさん、背高〜い」 「ありがと。気軽に『くっきー』って呼んでくれると嬉しいな！」 見惚れる小さな女の子の頭を優しく撫でる。 楠木のように気張っている者がいれば、のんびりした者もいる。 「名前のせいもあるんだろうけど、桜は一番好きな花なのよねぇ♪」 るんるん♪と足取り軽いのは、御陰 桜（ib0271）。見回り中だが、隙あればのんびりしたいというのが本音。「わあっ♪」と、覆い被さるような桜の枝振りを眩しそうに見上げる姿は、こちらも艶やか。胸とお尻が豊かで、しっかり腰は締まっている。花見客の男性もついつい、そんな姿に視線が釘付けになったりも。 そんな開拓者の警邏っぷりを眺めるものがいた。 「逆効果……いや、そういうことか」 桜の下に腰掛けくいっと花見酒をやるのは、无（ib1198）。小さな連れが肩に上がり桜を見上げたので思わず見上げる。そしてまた酒を飲もうと手元の器に目を落としたとき、切れ長の目が緩んだ。 「誘われるように器の中に、か」 器に花びらが舞い込んでいたのだ。これまたよし、と飲み干す。 ともかく、巡廻に出た開拓者に誘われるようにならず者が出てくるのだった。 いや、それどころではない。 この花見会場に来ている困ったさんは、当初の想定以上だったことが判明するっ！ ● 「コクリちゃん今日は警備がんばろうにゃ♪ 皆が楽しめるようにしないとにゃ〜♪」 「そうだよねっ。警備はボクたちが頑張らないと」 そんな言葉を交わしつつ、お手手つないで桜の下を歩いているのは猫宮・千佳（ib0045）とコクリ・コクル（iz0150）の二人組。 「それにしても桜が綺麗なのにゃ」 「うん。……あっ、千佳さんの頭に桜の花びらが」 「うに。コクリちゃんの頭にも乗ってるにゃ♪」 背の低いちっちゃな女の子二人が、背伸びして互いの頭に乗った桜の花びらを取りっこして、また仲良く微笑みあったり。 そこへ、やはりちっちゃな女の子二人が仲良く歩いてきた。 「あっ。コクリちゃんだ！」 「おお、一緒に川姫退治をした時の……」 リィムナ・ピサレット（ib5201）とリンスガルト・ギーベリ（ib5184）である。コクリと千佳に手を振る。 「リィムナさん、リンスさんっ」 「にゃっ。そっちも楽しそうにゃっ♪」 応じるコクリと千佳。これで悪戯小悪魔的少女、金髪ツンツンお嬢様、マジカルほわほわ猫娘、少年的ボクっ娘のチビッ子がそろったわけで。 「うへへ。お嬢ちゃんたち、迷子かなぁ？」 「お兄さんたちが保護してあげるからこっちにおいでよ〜」 たちまちわいて出る比較的ロリ属性の高い不審者たち。 「ちょっ……こんな人たちもいるって聞いてないよ〜」 「うに。コクリちゃんから手を離すにゃっ！」 「なぜ妾の方にくるのじゃっ。妾が我が親友リィムナを守……」 「あたしのリ……親友に手を出すなんてっ！」 そんなこんなで、千佳とリィムナがアムルリープ。頼りになるところを見せ、片やにゃふんと、片やふふんと胸をそらすのだった。……薄いけど。 「はいはい、お縄ね♪」 ここで、ささっと楠木登場。手にした荒縄で変態二人を縛り上げるのだった。 「ん、これ？ そういうお仕事をしてたのよ」 四人はあまりの手際の良さに楠木を見る。そして楠木の言葉に、「縛る仕事のことかなぁ？ リンスちゃん」、「うーむ、妾が思うに変態を捕まえる仕事かもしれん」、「つまり、変態縛り屋だねっ」、「なるほどにゃ、コクリちゃん」とかひそひそひそひそ。 「違いますっ！ 泥棒捕まえたりとかですっ！」 ともかく、楠木と仲良くなったようで。 ――とん、たららん♪ そして突然聞こえる琵琶の音。ん？ と見回す五人。 見ると、桜の幹にもたれて柚乃（ia0638）が爪弾いていた。 閉じていた目を、ふっと開ける。 「いい……音。これなら……」 音合わせをしていたようだ。 「先日、早咲きの桜を見たのです。なんだか心が温まりますっ」 楽器の最初の音が、最初に見た桜のように心に響く音となったようだ。柚乃は五人にそう言ってから、本格的に演奏を始める。抱く琵琶を寝かしつけるように上半身を揺らし、心を込めて。桜の花びらも風に踊る。 ちょうど遠くの舞台では、挨拶の踊りが済んでいた。前を向いていた聴衆は突然の背後の音に気付き向き直ると、改めて柚乃の紡ぐ柔らかな音階世界に耳を傾けるのだった。 ● その後、舞台に踊り出る人物がいた。 「そ、それでは、つ、次のステージはこの方達です！ ど、どうぞ！」 司会役の啾啾が紹介すると、ピンクアフロのジョーが独特のリズムで登場するッ！ 「ヘイ、会場のユーたち、リズムはこう！」 「まったく、まさか伸びやかなバイオリンと南国のノリを合わせるとはね〜」 ジョーが肩を揺らし上体を弾ませトン・タ、トン・タの二拍子セットを示す。世界が世界ならヒップホップといわれるかもしれないノリだ。これにギュ、ギューンと延びのあるバイオリンの伴奏をつけるティア。 「あら素敵、桜の花舞う特設舞台。では僕も歌をご披露しましょ」 続いてリズムを取りつつ女の子のように髪を耳の下で切り揃えたマネキ（ib8990）が三味線で現れる。こちらはベースラインとしてジョーの動きに合わせている。 「ヘイ、ユー！」 音楽に合わせ体を弾ませるジョーが舞台袖を指差した。そこからクジュトが出てくる。 「ヘイ、ユーも！」 続いて反対側。今度はアグネスがダンス・イン。 「あれ、アグネスさんも？」 「ニーナの彼氏の芸も見ておきたかったのよ」 踊りながら近付き目を丸めるクジュトに、悪戯っぽく猫のように背を合わせアグネスが微笑する。彼女はジルベリア出身だが音楽に乗る術は心得ている。馴染みのない曲調にもぴたりとついていく。踊りを極めたいという想いからジプシーに身を転じただけはある。 やがて舞台の影から「ら〜らら、ら〜♪」というハミングが。控えているみんなが囃しているのだ。 俄然、やる気になったヒップホップの三人。笑顔で視線を交わし激しく動いていく。 「ヘイ！ もっとみんなで踊ったほうが絶対楽しい。だから楽しく踊ろう！」 ジョーが突然動きにアドリブを入れ来場者を誘う。しゃんしゃんと頭上で手拍子をすると、手拍子が返ってきた。クジュトも右に行き同様に、アグネスも左で同様に。 やがて、拍手が返ってきた。 いや、見よう見まねで動き出している者もいる。 「す、すごい……」 思わず舞台袖で目を見張る啾啾。そこへティアがウインクをして前に出る。 「さあっ、みんな踊って」 感極まったか、タン・タ、タン・タと足でリズムを取るティア。観客もこれを真似てタン・タ、タン・タ。 「クジュトさん」 「ええ」 ここでジョーとクジュトが舞台前に乱入した。 「ヘイ、そこの君たちも一緒に踊ろうぜ！」 「腹ごなしにどうですか？」 手拍子足拍子で観客を乗せて回る。 その時、客席奥から声がした。 「桜だ〜♪ お花見だ〜♪ そして！ ダンス！ ステージだー！」 バラージドレス「サワード」が桜に負けずひらりと舞う。 お気楽ジプシー、アムルタート（ib6632）はこんなところに潜伏していたッ！ そして舞台に向かって駆け出す。突然思いもしなかった場所から巻き起こる春一番に多くの観客が目を奪われた。注目を集めたのをわかっているのだろう、してやったりの悪戯っぽい笑顔を振り撒きながら、いま舞台に。 「テーマは、『舞い散る桜』。桜の下で踊るダンス最高ー！」 そして、派手。 扇子「白山羊黒山羊」と扇子「巫女」を手に、くるくるひらひらと舞い踊る。仰け反る細い首、柳のようにしなやかに曲がる腰。バイラオーラでより魅惑的に、倒錯的に。さらにうっすらと白く輝きを纏う。 「アグネス、一つリードをよろしく」 「いいわよ。よろしく」 エメラルドも舞台裏から出てきた。残っていたアグネスに身を寄せ微笑。アグネスも艶やかな笑みで返す。 と、ここで曲調が変わった。 「アムルタートがいるからね♪」 という呟きは、ティア。 「打ち合わせでは上品で厳かなのだったにの……くっ」 エメラルドは呟くが、彼女は責任感が強い。 変わった曲は、何とも魅惑的なものだった。 アムルタートのリードに合わせ、ゆっくり両手を上げ徐々に仰け反り胸の膨らみを強調する動きや腰を悩ましくくねらせる動作を折りこむのだった。エメの顔は羞恥で赤くなり、それがまた良かったり。 「やるねぇ〜」 一方、アムルタートが駆け出した元の桜の木の下では、不破 颯（ib0495）が天儀酒片手にへらりと見守っていた。 が、その目が「ん？」と細められる。 ● 「おうおう、服がみたらしだらけじゃねぇか」 「子どもの所業だからって、コイツはひでぇ。ボウズ、泣くこたねぇが父ちゃんか母ちゃんを呼んできな」 びええん、と泣いている男の子にならず者風大男二人が肩をすくめていた。子どもが団子を持ったままよそ見してぶつかったらしい。 ここへ女装警備中の露羽がやって来た。 「鬱憤晴らしは他所でやってくださいね？」 「なんだ？ 姉ちゃんが相手してくれんのか？」 にっこり微笑み腕を取った露羽に、振りほどこうとするもぎりりと力が拮抗しにやりとするならず者。 「ちょうどいい、鬱憤たまってしょうがねぇくらいだったんだ」 もう一人の男が襲い掛かってきたが、露羽は手を離すことでするりと隙間をすり抜ける。 「お兄さん、あまり乱暴になさらないでくださいな」 ちょいと、気弱な風を装う。 逃げて場所を変えて仕留めるつもりだ。 しかし。 「おおっと。姉ちゃん、こっちは行き止まりだぜ？」 仲間が周りから取り囲んでいた。 ここで踊りながらジョーが登場！ 「ジョーたちと楽しく踊ればみんなが仲間さ！ さぁ、一緒に踊ろう！」 くるりんピシリと暴漢を指差す。 「やっちめえ！」 「ヘイ！」 知るかと襲い掛かる暴漢。たちまち露羽とジョーがダンサブルに戦う。 「いいぞ〜もっとやれ〜」 颯はへらりとしたままはやし立てて、これが出し物の一つに見せかける。 「四月は花見で酒が飲めるね〜♪ ッと。そこの。暴れたら桜も興醒めするからやめて下さいね」 无も気分良く静観していたのだが、腰を上げた。 ジョーが踊る中、露羽が白い太股も露なダンスキックで一人をノックアウトすると暴漢たちが逃げ始めたのだ。しかも逃げ方が悪い。行きがけの駄賃とばかりに一般人をなぎ倒しているのだ。 「お〜いお兄さん方、あんま暴れるもんじゃないよぉ？ 酒がまずくなるだろぉが」 これには凄みのある笑みを浮かべて颯が詰め寄った。「山猟撃」で首に小太刀を突きつけて凄む。 そしてすぱーんという小気味良い音。 「お帰りはこちらではないでしょう」 无がハリセン「笑神」を奇麗にカウンターで入れていた。 あまりの響きの良さに、周りから拍手と笑い声が巻き起こるのだった。 ● 時は若干遡る。 「ふふっ。お花見、楽しんでね」 きゅきゅっ、と口笛を吹いてニーナが愛嬌を振りまき歩いていた。羽織っていたショールはすでに肌蹴て肩や胸元、くびれた腰などが露になるバラージ姿。 「あれは……、ニーナ」 これを遠くから見たイリア・サヴィン（ib0130）が愕然とした。 「なんと露出度の高い……」 フード付き外套で隠れるように警備していたのは、妹のニーナに鬱陶しく思われないようにするため。しかし、まさかこんな光景を目の当たりにするとは！ さらにはっとするイリア。 「おんどりゃあ！」 「てめえ！」 ならず者どもが揉めているのだが、ここへニーナが無防備に近付くではないか。 「あら♪ 盛り上がってるわね〜♪ 折角だからハープの演奏でも如何？」 「よせ、ニーナ」 イリア、届かぬ手を遠くの妹に差し出し呟く。当然届くはずはないが。 と、ニーナ。どうやら夜の子守唄を使ったらしい。二人が崩れる。 が、ここで想定外の事態がッ！ 「あっ。やりゃがったな！」 どうやらどちらかの陣営が仲間を連れてきていたのだ。ニーナを敵陣営と勘違いしいきなり襲い掛かる。 「きゃっ！」 ニーナ、驚きに目を見開きダンスステップで引くが、すぐに満足そうに笑む。 「ぐあっ！」 襲い掛かった暴漢は、彼女に指一本触れることなく横に吹っ飛んでいたのだ。 「……暴れるなら私がお相手しますよ？ ついでに踊りも教えてあげましょう」 踊り巡っていたクジュトがとんたん、とステップを踏みつつ立ちはだかっていた。敵の無防備な横っ腹に肩から体当たりしてこの位置に割り込んだのだ。 「じゃあ曲が必要ね、クゥ」 状況はクジュトの一対三だったが、ニーナは涼しい笑顔でハープを構え爪弾き始めた。さらにどこかから「奴隷戦士の葛藤」の音色が。 そんなことより暴漢たち。 「やさ男が！ なめんじゃねえ」 むしろ男ならやりやすいと三人が一斉に襲い掛かるッ！ が、一人が吹っ飛ぶ。 「……少し静かにしてもらおうか」 フードの奥で怖い顔をしてイリアが体当たり。もちろん妹には顔を見られないよう背を向けたままだ。妹の曲が途切れてないのを聞き、うんうんと頷く。ここまで駆けて来た甲斐があったと満足顔。 「悪い奴にはお仕置きだぞっ」 さらに一人がはぐっ、と顎を天に差し出すかのように仰け反り宙に浮き、ずずんと大地に落ちた。 「つきゆきやすれだは色々用意してくれたんだ。ここは俺が頑張らないとなっ」 後ろで束ねた薄緑の長髪が桜の花びらと共に舞い、修羅のちっちゃな少女、棕櫚（ib7915）が堂々と言い放つ。さっきまで花見弁当を食べていたのだが、反応が早い。 そして同じ場所でチャイを飲んでいた人物が動いていた。 「人がせっかくお花見を楽しんでるところを……」 片眼鏡の奥の瞳で冷たく見据えながら、褐色エルフのスレダ（ib6629）がアムルリープ。これで最後の一人も黙らせるのだった。 「皆さん、ありがとうございます」 「当然のことをしたまでだなっ」 クジュトの礼に、棕櫚がえへんと胸を張る。 ここで、仲良く手をつないでいる千佳とコクリ、リィムナとリンスがやって来た。 「……」 似た様な背丈でもおっきな棕櫚の胸を見て、それぞれの胸を見交わす四人。いずれもぺったんこだ。 「……棕櫚はやっぱりやりすぎちまってますか」 その背後では、スレダがはふりと溜息を吐きつつ暴漢をレ・リカルで治療。 「スレダ様、棕櫚のことでいつもすいません。……もう二度と、このような事をしてはいけませんよ？ 皆で楽しんでこそのお花見ですから……ね？」 そんなスレダに感謝しつつ暴漢に説教しているのは、吟遊詩人の月雪 霞（ib8255）。棕櫚を妹のように可愛がる、ヴェールで頬から下を隠す優しい眼差しの女性だ。先ほど「奴隷戦士の葛藤」を奏でていた竪琴「龍琴」を抱えている。 「くっ……」 にっこりと微笑みながら諭す霞の言葉を暴漢が大人しく聞いているのは、霞の背後に棕櫚がいたから。ぐっと強力で強化した右腕の力こぶを見せ威嚇している。これで先の男をぶっ飛ばしたのだったり。 ● それはそれとして、イリア。 「クゥ。最後、戦わなかったのね。私の曲じゃ乗れないって？」 「そうじゃないですよ」 ツン、とポニーテールを翻すニーナにあわわと弁解するクジュト。イリアはこの様子を見て、めらっと黒いオーラが揺らめかす。すでに二人が恋仲であることを知り、仲の良さそうなこともいま見て確信した。 「ちょっと来い」 強引にクジュトの手を取り連れ去るイリア。 「わっ！ いったい……」 「俺の名はイリア・サヴィン。ニーナの兄だ」 大きな桜の幹の影に連れ込みクジュトの背中を押し付けると、どしんと顔の横の幹に手を付き凄みつつ自己紹介した。 「俺が言うのも何だが、ニーナは可愛い。見かけも派手だし、変な男が寄ってきやすいんだ。大体は俺が撃退しているが」 「……私も撃退されかかってますね？」 「君は何故ニーナが好きなんだ？」 聞く耳を持たず畳み掛けるイリア。ごごごとオーラがたぎる。 「表現しにくいですが、純粋な瞳と眼差しに魅かれました。ニーナは一見あっさりしてますが、大切なところでは人を裏切らない。……私は裏切りを故郷でたくさん見てきましたからね」 イリア、呆けたようにオーラをしまう。 「またゆっくり話そう。寿司は好きか？」 色々胸中去来するものがあるのだろう。それだけ言って寿司折りを手渡して背を見せる。 「あとこれを妹に渡してくれ」 被っていた外套もクジュトに渡す。クジュト、ここで初めてイリアの金髪の色味がニーナのそれに似ていると感じるのだった。 「あら、迷子？」 一方のニーナは、千佳の連れていた子どもに気付いていた。 「うに、そうにゃ。迷子さん発見したにゃ♪ 迷子預かり所はどこだったかにゃ？」 どうやら千佳とコクリは迷子預かり所を探していたらしい。 「確かあっちよ。行きましょう？」 こうしてニーナが二人と迷子を連れて行く。 さて、その迷子預かり所では。 「この間の依頼で筍一杯貰ったから、これで筍つくしのお弁当作ったんですよ？」 「へえっ、柔らかいし、それでいてしゃきしゃき歯ごたえがあって美味しいです〜」 真夢紀の差し出した重箱をつつき、もふら面を頭に被る霜夜がもぐもぐと堪能していた。 「真世。ほら、あ〜んてして」 「わ♪ うれしいナ」 横では当夜の差し出す筍の煮物を、真世が恥らいつつもあ〜ん、したり。 「お花見なんだし、こういうのも楽しまないと」 「うんうんっ、そうよね。はい、透夜さんも、あ〜ん♪」 柔らかく微笑む透夜に、真世も筍を差し出したり。ぱくっ、と食べてもらう幸せをかみ締めるのだった。 「うに！」 これを見て千佳が反応した。迷子を撫で撫でして霜夜に預けると早速コクリと座る。 「おにぎりとからあげ、たけのこの煮物、玉子焼き、鰆の塩焼き……たくさん作ってきましたからね」 沙耶香はこちらにもあるとばかりにずらりと重箱を並べる。 「もふ龍はお魚料理が欲しいもふ！」 もふ龍はころころ〜、と真世の方に転がったり。 「あん♪ もふ龍ちゃんたら……って、透夜さんも？」 真世は甘えてくるもふ龍をキャッチしてもふもふ。すると反対側から透夜が軽く寄りかかってきたり。 「たまには、ね。ぽかぽかだし」 「うん……ぽかぽか……」 ほわわん、と返事する真世。 「コクリちゃんこれ美味しいにゃよ♪ あーんするにゃ〜♪」 「う……。あ〜ん」 千佳はコクリに玉子焼きをあ〜ん。恥らいつつぱくってしたコクリも、千佳にあ〜ん。 「ん？ 誰か泣いてる」 すっかりほわほわムードの中、ぴぴんとピンクの狐耳が反応した。 「秋せんせー、迷子を迎えに行ってきますね？」 超越聴覚で周囲を探っていた鈴芭がピンクのふさふさ尻尾をなびかせ早駆で出動。 「もう大丈夫だよっ！ 狐のおねぇちゃんが皆のところまで連れてってあげるからね♪」 見つけると、しゃがんで子どもの目線になって泣いてる迷子を撫で撫でしてやるのだった。 ● 「以上、迷子のお知らせでした。では……」 舞台では啾啾が頑張っている。 「お子様連れにも楽しんでいただけるような陽気な曲ならおまかせあれ」 そしてマネキが三味線で警戒な音楽を。 「おいらは三月 三月のネズミ♪ ぽかぽか陽気と 綺麗な桜に誘われて〜♪」 曲に乗って、まるごとねずみさん姿のリィムナが登場し踊り始める。 そして入れ替わりに舞台から下がる啾啾。 「ふぅ……」 「お疲れさま。ここからはアタシが代わるわ」 啾啾にティアが声を掛ける。大役を終え、ほっと満足そうにする啾啾。 と、知人の名を口にする声が聞こえた。 「オイオイ、もう舞台は後半じゃないか……。舞台に出たいっていったのはジュンだぞ。アイツ本当に出てくるのか？」 シフォだった。 ウィザードブーツをカツカツ鳴らしてイライラする姿は貴公子そのものだが、喋り方は海賊風な荒々しさがあるような感じだったり。 「手品を見せるんだって張り切ってたから信じてたが……。しょーがない、探しに行くか」 友人の真剣な眼差しは忘れない。ゆえにここにいたのだが、もう出番は待ってくれなかった。啾啾にキャンセルを告げて出掛けるのだった。 ここで時間は遡る。 「なにこれめっちゃウマイ！」 シフォの探している友人、闇野 ジュン（ib9248）は周辺商店の出す屋台に張り付いていた。じゅうじゅう焼ける音とにおいに負けて購入した焼きそばにがっついて、ちゅるんと麺を堪能している。 「や〜、こういうのっていいなー。……ん？」 歩き食いしながら舞台裏まで歩こうとしたところで、泣き声に気付いた。 「こんにちは、何で泣いているの？」 膝を折って声を掛けるジュン。話は端折るが迷子らしい。 「弱ったな……」 気を紛らせるため焼きそばを勧めようとしたが、すでにない。力仕事を嫌っていつも気付けば何かしら食ってるような生活をしているからこういう……げふげふ、焼きそばが美味しいのがいけないのですよね♪ さらに話を端折るが、この後、泣きながらも指差す子どもの言う通りに歩き回ったが、すべてがことごとく徒労に終わる。 「迷子預かり所はこっちですよ〜」 ここで、泣き声に気付いた鈴芭に気付いてもらえ、一緒に預かり所まで。 「秋せんせっ！ 迷子さん連れて来ました〜」 「もふ〜。ご主人様の作ったお弁当、食べるもふか？」 到着した鈴芭とジュン、そしてそれぞれ連れている迷子二人をもふ龍がころころ転がって楽しませる。 「如何かな？」 料理は口を通らないと見たからすがクッキーを差し出し、迷子二人はこれを食べた。 「これで安心だな。……それじゃ、俺の手品を見てりゃ、かーさんすぐに飛んできてくれるからなっ！」 ジュンはようやく落ち着いた迷子にほっとしてムーンメダリオンを取り出す。小さな布でメダルを持った手に被せ乗せると、メダルは消えていた。 「わあっ」 これで迷子のハートをぐっと鷲掴み。 「では、お手玉で遊びましょう」 霜夜はもう一人の迷子にキャンデーをあげてお手玉遊び。 「やっぱりお花見はいいですね〜。ね、沙耶香さん」 「そうですね〜、真夢紀さん。あ、一応天儀酒と自家製梅酒、葡萄酒等々を持って来ましたよ〜。真世さんもどうです？」 「沙耶香さんありがとっ。わぁい、梅酒〜。透夜さん何がいい？ お酌するね」 「それは重畳。真世もお酌を……」 背後ではそんな平和空間が。 「ん？」 のんびり組はそれとして、からすが周囲の異変に気付く。 暴れる酔っ払い客がいたのだ。 「奏者不在か……」 ならば、とからすは大鉄扇をしまいフルート「フェアリーダンス」を取り出す。 清らかな音を奏でながら、自ら踊る。いや、回りながら足技を繰り出しているのだ。 しかも徹底的に足元に。 「うおっ！」 次々ひっくり返される酔っ払いの暴漢。 が、一人で舞台の出し物のように奏で舞ってと動きながらでは全てを倒しきれない。 「このガキッ！」 隙を突いてからすに一人襲い掛かるっ！ 「う……」 その、動きが止まった。 見ると足元に矢が刺さっているではないか。 「……やるね」 からすが射線を振り返ると、遠くの颯が何事もなかったかのようにレンチボーンを仕舞っていた。 「お騒がせしました」 最後に周囲にぺこりと頭を下げ挨拶するからすだった。 「さて、酔い止めの特製薬草茶を如何かな？」 青ざめて正気に戻った酔っ払いに、そう接待するのも忘れない。 ● その頃、舞台では。 「妾は高貴なる猫又の姫……おお、美味そうなネズミがおるのぅ。取りて食らう故、動くでないぞ！」 「逃げるでチュ！」 まるごとねこまたを着込んだリィムナが登場していた。でもって、まるごとねずみさん姿のリンスと仲良く追いかけっこ。 「そう。鼠は簡単には捕まりませんよっ！」 あらら。客席では警備の小休止をしていた観那がリィムナを応援してたり。熱心にネズミ耳が揺れている。 しかし追い詰められるリィムナ。 「こうなったら」 「って、擽るなど打ち合せになかっ……あひゃひゃ！ やめっ！ うひひ！」 ああ、反撃のくすぐりでリンスがほにゃほにゃしている。 と、寝てしまった。リィムナ、アムルリープを使ったか。 「なでなでと春の陽気で寝ちゃったでチュ！ こんな事しても寝てるでチュ！」 素顔に隅でおでこのてかりなど悪戯書きして、おしまい。ちびっ子達を楽しませた。 着ぐるみ劇の次は、神楽舞。 ティアたちが演奏し、无が手品のように人魂でメジロを出すと空に放った。 无、続けて鉄扇「銀羽」で踊る。アムルタートも出てきてやはり扇で。儀礼宝剣「クラレント」のエメラルド、ダンサーズダガーのアグネスも舞台に上がった。 たちまち四人が剣と扇を操って、儀式舞の四方払いを披露。4人で東西南北を意識しつつ舞い踊る。 そして、遠くでそんな舞台の賑わいを振り返っている者がいる。 「桜もきっと、音楽楽しがってるよね♪」 ふふっ、と赤狐の襟巻を翻し桜を見上げる姿は、楠木だった。 人々だけでなく、桜もこの雰囲気を楽しんでいるように感じたのだ。桜に負けない魅力的な笑みが自然と彼女の顔に浮かぶ。 「あら？」 今度は地面を見た。 桜がすうすうと寝息を立てていたのだ。 「う〜ん、それにしてもイイ……陽気……」 何とも気持ち良さそうな寝顔である。 おっと、誤解するなかれ。 桜はすでに働いた後だ。 「もぅ、楽しい花見の席で喧嘩なんかシちゃもったいないでしょ？」 「つまんない事で喧嘩なんかしないで仲良くね♪」 とか、そんな声を掛けつつ喧嘩の仲裁などをした。ういんくして夜春なんか使うもんだから野次馬見物していた青少年がどぎまぎしてしまったりもしたが。 「イイ景色ねぇ♪ 桃も来れたら良かったんだけど……」 などと、移動して一休みしたら本格的に寝てしまったり。ちなみに、服の合わせとかが若干無防備だったり。 「あら……どうしました？」 ここで、気持ち良さそうに散歩していた柚乃が通り掛かった。 「桜さんが寝てるんだけど……」 言葉尻を濁す楠木。暴漢が間違って襲ったら危ないことになりそうなのだ。……危ない目に遭うのは暴漢だろうが。 「そう……ですね。柚乃が起こして……」 もし、と桜の肩を揺すった柚乃だったが、次の瞬間意気を飲んだ！ 「桃？ 起こしてくれてアリガト♪」 桜、飛び切り可愛がっている朋友の忍犬、桃と勘違いして柚乃にがばっと抱き付きもふもふっ。 「桃……？」 「あたしの忍犬よ」 思わず聞き返す柚乃に、まあ可愛いからいいかとさらにもふもふする桜だった。 それはそれとして、迷子預かり所。 「闇野さん、凄いですね」 真夢紀が落ち着いた佇まいで拍手をしていた。 「もふ〜っ♪」 その横ではもふ龍が楽しそうにころころ転がっている。 もちろん、一緒にならぶ迷子の子供たちもにこにこだ。 「まあ、俺の手品なんかまだまだだけどな」 ジュンが照れたところで、彼を探していたシフォがやって来た。 「おい」 「あ、シフォ〜。ごめん、すっぽかしちゃった」 友人の顔を見て、何が言いたいかすぐ分かった。が、へらりと対応してしまうのが惰性で生きている彼らしい。 「あ、彼は泣いていた迷子を見つけて手品を見せてくれてたんですよ」 慌てて霜夜が説明する。 「まったく……。楽しみにしてた舞台をすっぽかして迷子の子供を相手に手品なんて見せておって。子供の涙も乾いているではないか」 「そりゃ、舞台に出てたくさんの人に手品を見せるの、楽しみだったけど……目の前で子供泣いてたら、どうする？」 やれやれ、とぼやくシフォに、悪戯そうに笑って聞くジュン。 「……ははっ」 シフォはじっとジュンの目を見てから、瞳を伏せる。 そしてその場に座って、そばによってきたもふ龍を撫で始めた。 「お前と一緒だよ」 とだけ、最後に呟いておく。 ● 「それじゃ今日の最後のステージ、聴いて下さい」 舞台ではこの時、クジュトが挨拶していた。 「アグネス、ニーナ。素敵なステージにしましょうね♪ アタシの歌を聴けーい☆」 続いてティアが白い衣装を翻し前に出て、音をリードし始めた。 「張り切ってるわね、ティア姉さん」 くすっと微笑しニーナがハープで合わせる。 ♪ 桜舞い散る風の中 咲くも散るもできないままに 一人佇むその背中 いつもの間抜けな声がする ♪ とたんとステップを踏みながらエメラルドが歌う。その背後に、踊りながらアグネスとクジュトがつけた。 ♪ アイツにソイツに コイツも来たのか いつもの仲間が勢ぞろい 「行くあてもないか？」 「いいやこれから」 「ぶらり一緒に歩くのさ」 ♪ ティアもニーナも演奏しつつ歌いながら身を寄せて来た。これから咲き誇るんだ、という生命の息吹が感じられるよう、躍動的に魅せる。 「いぇ〜い☆」 迷子預かり所では、霜夜と子供たちが黄色い声援を送っている。露羽もここでご馳走になりながら声援を送っていた。 「しゅうくん、お仕事頑張ってるの見てたよ〜！お疲れ様〜」 「い、いまは聴きましょう」 鈴芭は戻ってきてジュンに挨拶している啾啾にノリよく抱き付きー。 「桜を見るのは初めてですよ。アル＝カマルでは見れねー光景ですね」 別の場所では、スレダが桜を見ながら、舞台を見ながらのんびりと。 「美味しいなっ。ありがとうな。すれだ、つきゆきっ」 「……棕櫚はもうちっと落ち着いて食べるです。喉に詰まらせても知らねーですよ」 もっとも、慌てて霞の手作り弁当をほお張る棕櫚の口元を拭いたりとすぐに忙しくなるのだが。 「スレダ様。どうか棕櫚のこと、これからもよろしくお願いしますね……？」 ぽろん、と舞台に合わせて竪琴を弾いていた霞は、微笑してスレダにそんなお願いをしたり。 「あ、透夜さん。激しい曲から優しい曲になったよ？」 さらに別の場所では、真世が隣に座る透夜に身を寄せていた。 「そうだね。休憩にしてよかった」 実は皆から離れ、絵のモデルになってもらっていたのだ。舞台もあり真世がじっとしていないので透夜が諦め中断し休憩していたところ、ムーディーな曲が流れてそっと手と手を重ねいい雰囲気になっていたり。幸い、絵はほぼ完成していたようだ。 ♪ 舞い散る花と、この想い 儀を渡り往く風に乗せ 今ここにある、そんな奇跡を胸に抱き 前を向いて歩いていこう ♪ 霜夜やティアたちの持ち寄った歌詞が、優しい調べと共に会場を渡る。 「あ、リンスちゃん起きた？」 む、と魔法の眠りから醒めたリンスは、早速がみがみとリィムナに抗議する。 が。 「ひゃ！ ……不意打ちは卑怯なのじゃ」 リンス、桜の木の下に組み敷かれていた。真っ赤になっているのは、リィムナに唇を奪われたから。桜の花びらのようにリンスのほほが染まっている。もちろん、不満の色はなく、悪戯書きも奇麗に拭いてもらっていた。 ♪ いま、ここにある そんな奇跡を…… ♪ 繰り返される歌詞。響き渡るティアの歌声。そっと合わせる、ニーナの、クジュトのエメの声も。いや、会場からも。 ♪ いま、ここにある ここにある…… ♪ 歌は、会場を巻き込み余韻を響かせるのだった。 ● そして、夜。 「クゥ、桜って薄く色づいた雪みたいね」 「ええ。雪、そして桜か……」 ニーナとクジュトが夜桜を楽しみつつ散歩していた。月明かりはさやか。クジュトは大切そうに馴染みのなかった単語を口にした。 そして、ニーナに外套をかけてやる。 「ニーナのお兄さんから、託されました」 「全く……兄さんは馬鹿ね」 くすっ、とされるがままに任せるニーナ。が、その顔が意外そうに。 「クゥ？」 「ニーナ、夜に姿を現した桜の妖精のようですよ？」 ぎゅっと抱き締め、満足したように離れるとにこりと言う。 「綺麗な花と、皆で過ごす素敵な時間に、乾杯！」 遠くでアグネスの声が聞こえた。 夜は夜で賑わっているが、日中の舞台のおかげでならず者は寄り付きにくくなった様子。 平和である。 |
