燃えよ!寿司大食い大会
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
EX :危険
難易度: 普通
参加人数: 12人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/04 17:21



■オープニング本文

「よっしゃい!」
 神楽の都の一角に佇む屋台で、威勢の良い声が響いた。
「だんだん春めいてきたし、お客さんも増えそうな気配だな。今日も商売、やったるで!」
 髪を短く刈り込んで捻り鉢巻をした男は屋台に暖簾を掛けながら派手にぶつくさ言っている。
 暖簾には「寿司」の二文字。
 握り寿司屋台である。
 そこへ通り掛かる人が。
「おう、宇目さん。威勢がいいね」
「あたぼうよ。魚河岸じゃいいネタがたくさんあがってんだ。これを気軽に食べてもらわんでどうするよ!」
 屋台の旦那は宇目(以下、ウメ)というらしい。大きなしゃくれた顎を突き出すようにして元気に振り返る。
「そりゃ頼もしい。……じゃがのぅ」
「あ? なんでい。いきなりこの世の終りのような声を出して」
 しょんぼりする男にウメは怪訝な目を向ける。
「最近は神楽の都にもいろんな食材や料理が入ってきて、寿司を食べる人も減ったんかのうと思うて」
「なぁにいっちゃんでぇ。つまみ食いの王様、寿司がよそとこの食いモンに負けっかよ!」
 ウメはそう言って胸を叩く。
「おおっ、さすがウメさん。板前の中の板前よのぅ」
「はんっ。板前の中の板前がどんなんかしらんが、俺ぁ、ウメでぃ。痩せてもかれても寿司を握ってン十年。寿司のことにかけちゃ誰にも負けねぇし、寿司がほかのどんな料理にも負けるハズはねぇ」
 ふん、と鼻息荒く高々と顎を上げるウメ。そしてさらに続ける。
「よっしゃ、興も乗ってきた。アンタが不安がるんなら、ちょいと催しをしていかに寿司が愛されてるかを証明してやろうじゃないか」
 ウメは男に詰め寄るとそう言い放つ。
「俺が寿司屋台仲間に声を掛けて集めて、寿司の大食い大会をやってやろうじゃねぇか。それで人が集まりゃ、いかに寿司がうまいかも宣伝できるってこったぜ」
「いや、ウメさん。それはまずい」
 男は慌てて止めた。曰く「底なしの腹を持つ開拓者が来ると寿司がなくなる」と。
「いいじゃねぇか、それで」
 何とウメ、さらっと言ってのけた。
「そもそも、寿司ってのは魚あってのシロモンだ。そうそう安っぽく何カンも無限に出てくるモンじゃねぇ。それに、大食い大会といえば味わいもせずに腹に放り込むもんだと思われてるきらいがあるが、俺はコレが大嫌いだ。だから、用意された中で誰が一番多く食べることができるかを競ってもらうのさ。……見学する人も、ちゃんと金を払って味わってもらいたいしな」
 こうして、握り寿司屋台と板前が集まり梅のほころぶ神楽の都の広場で寿司の大食い大会が開かれることになった。

 大会は、二十種類のネタを参加者が注文して食べ、なくなったネタを注文して失格(ドボン)するまでに何カン食べたかを競う。ネタは、種類によって用意された数が違い、さらに参加者の好みによって消費速度に差が出るため周りを気にしつつ食べてもいつなくなるかが分からなくなっている。何を優先して食べるか、何を避けるかが勝負の分かれ目になる。

「どうせ参加者の腹は底なしだ。こうでもしないと勝負はつかないしな」
 ウメが目指しているのは「美味しく健全に食べる大食い大会」だ。実際、限界を競って食べて、集まった観客が寿司を食べられなくなるなどという愚挙はしたくないらしい。あくまで握り寿司の催しの中の、注目のイベントという位置付けである。

 というわけで、参加者は次の二十種類の寿司を食べることとなる。

鮭(サーモン)・鮪(マグロ)・鰤(ハマチ)・鯛(タイ)・海老(エビ)・赤貝(アカガイ)・烏賊(イカ)・蛸(タコ)・鰹(カツオ)・鯖(サバ)・河豚(フグ)・鱸(スズキ)・太刀魚(タチウオ)・鮑(アワビ)・玉子(タマゴ)・海栗(ウニ)・鰻(ウナギ)・穴子(アナゴ)・帆立(ホタテ)・山葵(ワサビ)

 注意点は、いずれも満遍なく食べること。
 その上で、以下のテンプレートに回答してプレイングの冒頭に貼り付けること。

▽▽▽以下、テンプレート▽▽▽
多く食べたいネタ1位〜3位
1)
2)
3)
避けたいネタ一種類
NG)
△△△テンプレート、以上△△△

 大食い大会は寿司屋台の集客イベントなので、参加者はそちらで来場者と触れ合ったり改めて好きなネタを食べたり、歌ったり遊んだりできる。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
八重・桜(ia0656
21歳・女・巫
斑鳩(ia1002
19歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
平野 拾(ia3527
19歳・女・志
エリナ(ia3853
15歳・女・巫
ペケ(ia5365
18歳・女・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
イリア・サヴィン(ib0130
25歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
マネキ(ib8990
14歳・男・吟


■リプレイ本文


 神楽の都のある広場では、連なる寿司屋台と大勢の人出で賑わっていた。
 そこへ今日も孤独、もとい今日も孤高に歩く修羅の騎士、ラグナ・グラウシード(ib8459)が通り掛かった。
「何だと?! スシの大食い大会だと?! これは見逃せん……」
「今日も非モテ騎士はやけ食いか……」
 ラグナの脇にふわりと浮いた羽妖精「キルア」がやれやれと首を振る。
「なに?」
 などと掛け合い漫才に突入する刹那、「もうすぐ締め切るよ〜」という声。慌てて参加するのだった。
 そこにはすでに大食いの猛者たちがそろっていた。
「タダ寿司と聞いてっ!」
 三味線背負って言うのは吟遊詩人のマネキ(ib8990)。実はこの男、朝飯を食っていない。仮に問えば、「食費も浮いて贅沢できる、一石二鳥ですよね☆」などと屈託なく言うだろう。誤解するなかれ。彼は貧乏ではない。ここでタダで贅沢できれば、夕食は浮いた食費で贅沢できる、という思考の持ち主である。
「お寿司をごちそうしてくださるのですね」
 その隣には、今日も静かな知りたがり屋、和奏(ia8807)がいる。
「握っているところも見ていていいでしょうか……物作りの職人さんの手元を見るの大好きなので」
 やはり食い気よりそっちのようで、和奏は支度するウメにそう問い掛ける。
「おぅ。嬉しいねぇ、そう言ってくれんのはよ」
 ウメは願ったりと酢飯を入れた桶に手をつんっこんで、シャリをちょいと摘んで手の平で形を整え始め片方の手で切っておいた鮪の赤身を掴んでいたり。
「お寿司の好きなネタ、たくさん食べれるときいて!」
 ここで、円らな瞳キラキラで拾(ia3527)も身を乗り出してきた。笠の似合う小さな娘は今日も食い気……もとい乙女のロマンに輝いている。
「おぅ。存分に食べてくんな。握れるのはそこに書いてるからな」
「どれにしようか、まようのですっ……はっ! ひろいが頼むおすしは、ぜんたいてきにわさびすくなめに! できたらおねがいしますっ」
 拾、お品書きを見ながらルンルン気分である。……お品書きにある「山葵」という文字を見落とすくらいにっ。
 そんな屋台に歌が流れた。


お寿司を食べるよ 堪能するよ
食い尽くすんだよ 美味しく食べれば皆もはっぴー
まさにお寿司パラダイス


 龍水仙 凪沙(ib5119)が兎耳を揺らし夢見るように歌いながら近寄ってきた。
 やがて席に着く。
「全品制覇、龍水仙凪沙、参る!」
 カッ、と目を見開いたと思うと悪戯そうににまっと笑むのだった。
 そしてまたふらふらと吸い寄せられてきた者が。
「お寿司……お寿司が食べ放題……!」
 斑鳩(ia1002)である。
「これは開拓者人生をかけて本気を出す時が来た様ですね。食べて食べて食べまくりますよー!」
 白い上品な旗袍姿の斑鳩が全然上品っぽくないことを言って欲望に燃えている。
「ひさしぶりに帰ってきたです。もりもり食うです!」
 そして横に、いつもののんびり屋さんなところはどこかにすっとんでいる八重・桜(ia0656)が天然毒舌家っぷりを発揮している。これでも「癒しの巫女」などと呼ばれているので誤解なきよう。
 さらに異国の者も珍しさにやって来る。
「大食い大会参加! いっぱいいっぱい食べちゃうんだから!」
「さて、茶でも飲むか……」
 いつもときめきと共に在るエリナ(ia3853)が今日も乙女心いっぱいで臨み、金髪青年イリア・サヴィン(ib0130)が落ち着いた様子で座る。
「モフペッティさん、お寿司ですよー。……『よーいドン』まで我慢です?」
 なんともふら様まで席に着いた。ペケ(ia5365)が朋友のモフペッティに前掛けをつけながら「待て」をしている。
「お寿司かぁ、楽しみ♪ 絶対優勝するんだからなっ!」
 今度は天河 ふしぎ(ia1037)が現れた。
「天も来たのカ?」
 その横で不機嫌そうなのは梢・飛鈴(ia0034)だ。
「お店や寿司を盛り上げたいって想ったからなんだぞっ、決して高級ネタに釣られたわけじゃ、無いんだからなっ!」
 反射的に真っ赤になって本音を答えるふしぎだったり。
「そういう飛鈴も来たんだね」
「この阿呆人妖が勝手に依頼書に判を押しよったからナ」
 帰ったら締め上げちゃル、と横を見る飛鈴。そこには彼女の朋友、人妖の狐鈴がずずずとお茶をすすっていた。
「うむー、タマゴ」
「ほいよ。嬉しいねぇ。うまそうに食ってくれて」
 何と、狐鈴はすでに寿司を食べているではないか。ウメもほいほい握っている。実は狐鈴は大会参加者ではないので今食べても良いのだったり。
「おいっ!」
 しかし、当然ヤル気満々の参加者から不満噴出。怪気炎を上げて睨まれてはたまらない。
「よっしゃ。ほんじゃ、大食い大会始めるぜ?」
 ウメの一言が号砲となった。
 途端に、海栗! 鮪! 穴子! などの注文の声が嵐のように巻き起こるのだった。


「てやんでい、いくらなんでも一度にできるかい! まずはこれからやっとくんな」
 ウメ、人数分の寿司桶を出したではないか。中には全二十種類合計二十貫の握りが詰まっている。
「はうっ……久々、お寿司を食べたのですっ! やっぱり美味しいですねっ!」
 うっとりしつつもぐもぐほお張っているのは、拾。スピード勝負ではないためゆっくり味わって食べている。まずは煮詰め醤油をつけて穴子をぱくり。ふくよかな食感に満足そうだ。
「赤貝のヌメリがちゃんと処理されてる……ウメさん、いい仕事するねえ♪」
 こちらものんびり余裕を見せる凪沙。会話もちゃんと楽しむ辺り、寿司や寿司職人への礼儀をいかにわきまえているかのマナー合戦の様相も呈してきた。
「おっ、嬉しいコト言ってくれるねぇ。にくいよコノ、ど根性ウサギ〜」
 どっこい凪沙が着ているのは蛙柄だったが、それはそれ。
「鯛、おいしー♪ 鮭、おいしー♪」
 頬に手をやりつつきゃぴきゃぴ食べているのはエリナだ。……あの、エリナさんてもしも友達にこういう場面を見られたら恥かしく思うタイプなのでは?
「友達とかには内緒で参加したからっ!」
 あ、そうですか。
「はぁー、幸せ。たまんねぇ。好きなものを好きなだけ、これって最高に贅沢ですよね、んふふ」
 マネキは夢の贅沢にもうご満悦。
「にしても、皆様大食いとは縁遠そうな見目麗しい方ばかりですのに。ええ、勿論僕も含めて」
 まったりと舌に乗る鮭の味を堪能しつつ緑茶をずずずとやる。いつも以上に回る口が気分の良さを表している。ていうか、自分含めたよこの少年!
「そして凪沙さんは相変わらずの健啖ぶりですねぇ」
 どこぞのうどん屋台で一緒に食いまくった知人を見ては、相変わらずな姿に微笑んだり。
 その凪沙。
「斑鳩さん、久しぶり〜。食べてる? 食いねえ食いねえ、寿司食いねえ」
 明るく元気に寿司を食べつつ周りを巻き込みまくっていたり。
「これは凪沙さん。作ってくださった職人さんに感謝しつつ、節度を持って味わって食べてますよ」
 斑鳩は涼しい笑みを見せながら、鱸、太刀魚と食べつないでいた。
「今度は鯛なんだ?」
「いいですよね白身魚! 赤味よりも太らないって言いますし!」
 ほへえ、と覗き込む凪沙に一人で盛り上がる斑鳩。そして重要な一言を。
「つまり赤味より沢山食べれるって事ですもんね!」
 出ました、本音。
 というか、斑鳩がすらりと旗袍を着こなしている秘訣はこれか?
 ところで、白身赤身ときたが、青魚はどうだろう。
「どんどん持ってこいでーす」
「お、そこのお二人さん。寿司桶は随分減ったな。ほんじゃ追加だ」
 桜が叫び、ウメが握って出す。
 が。
「鯖じゃねぇー! です」
 桜、謎のシャウト。寿司だけにネタだ。
「そんじゃ……」
「サバじゃねぇぇ、って言うんだからなっ!」
 ウメの視線にふしぎもシャウトした。ああ、哀しき鯖。どうしてこうなった。それはそれとして、桜は鮪をぱくり。「肉々しくていいのですっ」とか独り言。どうやら肉好きのようで。ふしぎもしかり。
「サバはきずしでも食べたいな……」
 嫌われたネタは、和奏のところで美味しく召し上がっていただきましたとさ。

 時は若干遡る。
「まあ、アタシも嫌いじゃないから食える限りは食うガ……」
 もふら面を斜めに被る飛鈴が蛸をもぐりと食べて言う。もごもごと独特の食感とあっさりした旨み。ぴりりと利くワサビにも満足そうだ。
「んむ、やはりスシーはいいものだ。このウマさがわからんのはじんせいおおぞんだぞ」
 のほほんと狐鈴。こちらも蛸を食べてずずず、と茶をすすっている。温かいお茶が寿司に合い実にうまそうだ。
「くっ……。お茶は腹に来るから程ほどダ」
 何故にこんなところに来てまで精神修行だと眉をひくつかせつつ勝負に専念する飛鈴。
 そしてこちらは逆に、朋友が食べている組。
「むむむ、モフペッティのクセに結構かわいいですね」
 前掛けをして指の間に挟むことで箸を持ったモフペッティに、ペケが感心している。「たまにはもふら孝行するものですねぇ」などとうんうん呟く。
 最近、寿司屋台に通うが箸を使えず他の客を羨ましそうに見ているばかり。そこでこっそり箸を持つ練習をして編み出した、指の間で挟む作戦。
 が、開閉はうまくいかず。
 それでも拙い手つきで、一生懸命お寿司に挑む。ぐぐぐと掴んではぽろり。
「なあ、寿司は素手で食べてもいいんだぜ?」
 見かねたウメさんが言うと、モフペッティがががんと箸を落とすのだった。
 しかしそれは刹那のこと。すぐににんまりともふ笑いを湛える。
「むむむ。こっ、これは!?」
 驚くペケ。何とモフペッティ、結局手も使わずもふんと寿司桶に顔を突っ込んだではないか!
 やがて顔を上げて、くっちゃくっちゃと満足そうな米粒の付いた笑顔。いま、ぺろりと舌が口の端を掃除した。
「ヤバいですよ。予想以上にかわいいと言うか癒されるです」
「そ、そうか?」
 ペケ、ウメの突っ込みは右から左で一人癒されるのであった。


 そのころ、イリアは。
「ジルベリアから天儀に来て最も良かったと思うのは『寿司があること』だ。特にウニの複雑な味わいは魅力的だな。甘いような苦いような……」
 優雅に独白しつつ、海栗を味わっていた。
「お。兄ィさん分かってるねぇ」
「寿司の旨さを知って以降、俺は大事な日に寿司を食べることにしてるんだ。難しい依頼が無事遂行出来た日、新しいスキルを身につけた日、旅ぐらしの妹と久し振りに会った日……」
「あの、兄ィさん? そりゃいくらなんでも大げじゃ……」
 話しかけたウメを無視しつつ、伏目でぶつぶつ言いながら鮑を味わい続ける。
「その妹に最近彼氏が出来たらしい。……妹が幸せならそれでいいと思う反面、何とも言えぬ、この気分の落ち込みは何だ」
 かみ締めるように言う。もう、ウメは突っ込まない。
 そしてくわと目を見開いた!
「くっ、寿司でもヤケ食いしなければやってられるか!」
 どど〜んと言い放つ。
 そう。
 彼同様、もう寿司桶の二十貫は参加者すべてが食べ終えている。競争はここからが本番の個別注文に移っていた。
 ……はずなのだが。
「もう……。もう駄目。量が……量がきついの」
 エリナがハンカチを手に涙ぐんでいた。最初の寿司桶にはもうちょっと残っている。
「おいおい、『いっぱいいっばい食べちゃうんだから』とか言ってたじゃねぇか」
 せっかく小さく握ったのに、とウメは残念そうだ。
「ルールに負けただけで大食いに負けたわけじゃないものっ!」
 どーん、と臆面もなく言い放つが、それ以前のような気も。
「でも私、あなたの励ましにもう一個、頑張ってみる」
 ああ、エリナ。なんと健気な少女か。
 が、これが悲劇の始まりだった。
「! ……からい……しびれる」
 山葵漬けこんもりな握りを口にして、けふんけふんと咳き込んでは本格的にぽろぽろ涙を流したり。悲劇のヒロインよろしくばっと立ち上がってその場を風と共に去っていくのだったり。
「モフペッティのクセにっ!」
 そしてペケが頬を染めていた。
 モフペッティが山葵漬け握りを食べ、もふんもふんと咳き込んではうるうると涙ぐんでいたのだ。
「癒されるですね。次は何を食べるですか?」
「お寿司もふ!」
 何を聞いてもこれなので、とりあえず苦労して聞き出した一番好きなネタを頼む。
 すると!
「はい。玉子はネタ切れ。人気ありすぎたな。ドボン」
 ついに来た。これでペケ、失格。
「何……?」
「うむー、ざんねん」
 飛鈴も脱落した。狐鈴は当然まだ食ってるが。
 この時、鯖がまたひどい扱いを受けていたッ!
「い、いや、好き嫌いとかではないぞ?騎士たる者が偏食などそんな……。た、ただ、光り物は正直たくさん食べられないだけで」 
 ラグナがへっぴり腰でそんな言い訳をしていた。
「いい年こいて我が儘言うな! とにかく喰え! 喰え!」
 いいぞキルア、ナイスお目付け役。ラグナは仕方なく口にして「うっ」と青ざめている。
「わ、わさび……だけだと?!くっ、そんなものが喰えるか!……泣いてしまうではないか!」
 ついでに今回も男泣きをするラグナ。繰り返すが男泣きである。
 ちなみに、そんな彼の好みは濃厚な味のものらしい。
「はぅっ……美味い」
 鮭を食べて極楽至極。調子に乗ってもう一丁頼んだところで……。
「はい、ドボン」
「まあ、三十カンは食べましたか」
 ラグナと同時にマネキもドボン。
 引き続き、穴子で拾が、鮪で桜が脱落した。
「うん、聞いてる。私は辛いの大好きだしね〜」
 とかなんとか言っているのは、凪沙。多くが遠慮する安全牌、山葵を食べて記録を伸ばしている。赤貝も安全牌だ。しかし!
「じゃ次は玉子〜。って、え?」
 同時に地雷も好んで食べていたっ。凪沙、ここでまさかの敗退。
「ここで海栗を取ってムーンサルト、マグロのポーズ!」
 無意味に必殺技を披露するふしぎだが……。
「ホタテがないなんて、許せないんだぞっ!」
 ツンするも両手を合わせてご馳走様。
「鮭はあまり食べる習慣がないので。ですが、あなごは甘ダレとワサビで……え?」
 和奏、のらりくらりと立ち回っていたがここで落ちた。
 さあ、優勝の行方は?
「板さんの握る寿司は美味いな。シャリの量とネタのバランスが絶妙だ」
 ついに落ち着きを取り戻したイリアが余裕を見せている。
「玉子は妹の好きなネタだが……泣いてなどいない! これは山葵が目にしみたんだ!」
 悲しい思い出のおかげで難を脱したぞ!
 そして運命の分かれ道。
「海栗だ」
「ウニはどうもあの味というか、舌触りが苦手なもので」
 好物へ行ったイリアと、海栗を避け太刀魚に走った斑鳩。果たして軍配は?
「海栗は品切れだな。さ、そちらの姉ェさん、太刀魚をどうぞ」
「まあ。独特の香りで美味しい」
 にっこり最後の一貫を食べ、見事、斑鳩が「寿司大食王者☆」となるのだった。

 この後、参加者はイベントも盛り上げ大いに握り寿司のうまさを広めたという。勝者、斑鳩の演奏する美しい二胡の調べはある意味、食後の運動なのは秘密である。