新人歓迎!洞窟川下り
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/02 19:30



■オープニング本文

「また、死んでおるの」
「うむ。だんだん村に近くなっておる」
 朝焼けの光の中に、二つの立つ影があった。
 見下ろす視線には、一匹の野良犬の死体があった。
「まあ、こいつは埋めてやるしかないとして……」
 一人の男が担いだ鍬を、ざっ、と地面に立て掘り起こし始める。
「そのうち村の方に来るかもしれんの」
 もう一人の男が、同じく担いだ鍬を使い掘ったばかりの穴に野良犬の死体を落とし込む。今度は二人が鍬を操り土をかけて埋めてやった。そろって軽く手を合わせる。
「それにしても、吸血蝙蝠が幅を利かせるのは何年ぶりかの?」
「ここ数年はなかったが、今回も同じじゃ。開拓者を雇って洞窟に行ってもらって、数を減らしてもらうに限るの」
 そうじゃの、と頷き合ってその場を後にする村人二人だった。
「じゃったら、早速筏作りをせにゃならんの。下流の村にも、返ってきた開拓者さんを出迎える村人を差し向けにゃならんし」
 村に帰って村長に報告すると、そういう話になる。
 なぜ筏が必要か?
 洞窟全体が大きな川だからである。
 村から洞窟に流入する川はそこまで大きくはないのだが、天井の非常に低い入り口から入り進むうち、右から左から川が合流して流れが緩やかになり洞窟も大きくなっていくのだ。だんだん天井も高くなる。ここが、アヤカシ「吸血蝙蝠」の巣窟となっているらしい。
 やがて洞窟から出ると、長く森が広がり下流の村に着く。
 洞窟内では、蝙蝠がひっきりなしに襲ってくることはないので余裕があればヒカリゴケを観賞することができ、洞窟から出ればのんびりと川下りを楽しむことができる。季節は川くだりに若干悪いが、こればかりは活性化したアヤカシを恨むしかない。ただ、のんびりすることはできる。読書をしてもよし、武器の手入れをしてもよし。
「まあ、数年前にお願いした開拓者さんらも珍しがっとったんで、おそらく人は集まるじゃろ」
 とにかく、行きだけで帰りを考える必要のない使い捨ての筏二つを作ることに専念するよう指示を出す村長だった。
 
 こうして、アヤカシ「吸血蝙蝠」が洞窟から出てくる夕方を避けた日中にその巣窟である洞窟に行きできる限り退治してもらえる開拓者の募集が開拓者ギルドに持ち込まれた。
「まあ、吸血蝙蝠なら少々群れようが駆け出しの開拓者で何とかなる。根絶やしが望まれているわけでもないし」
 ギルドの係員はそう呟きながら募集を掲示する。
 前述の通り、洞窟は支流が何本も集まる構造をしているため、下りながらの一掃は不可能となっている。支流の中には滝となって合流するのもあるので、なおさら。
「まあ、数年前の依頼でもうまくいったんだし、これで大丈夫なはず」
 というわけで、洞窟なんだけど水上戦となる依頼の参加者を、求ム。


■参加者一覧
梓(ia0412
29歳・男・巫
滝月 玲(ia1409
19歳・男・シ
バロン(ia6062
45歳・男・弓
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
六車 焔迅(ib7427
17歳・男・砲
鍔樹(ib9058
19歳・男・志
御簾丸 鎬葵(ib9142
18歳・女・志
桧(ib9177
15歳・女・サ


■リプレイ本文


「よーし! いい天気だなぁ、おい」
 梓(ia0412)が、依頼の村でうーん、と伸びをしてからばしばしと仲間の肩を叩いている。小麦色の肌に長身でがっしりした体。筏を用意している村人も頼もしそうに彼を見ている。
「叩くんじゃねぇ。……それにしても、筏の上でアヤカシ退治たァ、何もかも初めての経験になるぜ」
 だああっ、と梓の手を払うのは鍔樹(ib9058)。こちらも高身長で肌が小麦色に焼け、筋肉質。長く編みこみ垂らした金髪を揺らせて振り返る青い瞳は鋭いが、にやりとゆがめた口の端に人情味がにじむ。
「……ま、ヘマやらかさねェように気合入れていきますかねェ!」
「とはいえ、今から出向くのは洞窟内。すまないが、灯りが必要だからちょっと改造してほしい」
 そんな鍔樹と梓を背後に、人呼んで「紅蓮戦迅之炎帝 」こと滝月 玲(ia1409)が筏の最終調整をしていた村人に注文をつけた。たちまち「じゃあどうする?」、「余った材料で問題なかろう」とか村人が工夫し始める。
「そーだね。松明はあるから使ってよ。しっかし、洞窟川下りしながらアヤカシ迎撃かぁ……」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)が持参品をどさりと置いて、逞しい想像力を働かせていた。
「風景を楽しむ余裕があるといいな♪ 皆さんよろしく! がんばろー!」
 やがてまた元気な笑顔を見せ、荒縄を取り出してはナイフで切り分け材料とする作業に没頭するのだった。
「お手伝い……頑張り、ます」
 ここで、一行の隅っこの方で大人しくしていた六車 焔迅(ib7427)がつつつ、と寄って来て村人にたどたどしく言う。表情は明るいところを見ると、リィムナの掛け声を意気に感じやる気になったようなのだが、またつつつ、と目立たない場所に引いてしまう。
 その横では、巌のような顔つきの年配者、バロン(ia6062)が実務的なことを村人と話していた。
「うむ、これが竿だな。船頭はどうする?」
 バロン、仲間に問い掛けてみる。
「私がします」
 サムライ娘の桧(ib9177)が、ピピンと立った狼耳と同じくすらりと細く白い手を挙げた。
「もうひとつは俺が担当するぜ。……よぅ、あんた。操作のコツとかあったら頼むぜ? こちとら漁師の息子、水に浮かぶモンにゃ馴染んでるが、筏と漁船じゃ勝手が違うトコもあるだろーしな」
 にっ、と立てた親指で自らを指し鍔樹が立候補した。
「おっし。誰がどっちに乗るかも決めようぜ。……俺様はどっちかってーと、鍔樹の方か? ……お嬢ちゃんだと心許ないとか、鍔樹の方が船酔いしなさそうとか、そんなんじゃねぇぞ!」
「口に出すことでもねェだろ……」
 豪快に言う梓に突っ込む鍔樹。
「大丈夫。沈ませないよう、頑張りますね」
 言われた桧の方は気にもせず、むん、と力こぶを作ってみせる。少女の腕はたちまちもこり、と筋骨隆々となる。強力のスキルだ。
「では、私は桧殿の方へ。……アヤカシは然程強くはないとはいえ、限られた不安定な足場での戦闘、油断せずかかりたいものですね」
 志士の御簾丸 鎬葵(ib9142)が立ち居振る舞いも凛々しく桧の方に寄る。
「村の被害や負担を減らすよう、尽力しますね」
 村人達を振り返り微笑し、安心させるのを忘れない。
 鎬葵の言葉に瞳を明るくした焔迅もこくこくと頷き、布に包んだ狭間筒「八咫烏」を抱いてついて行く。
「それじゃ、あたしは巫女の梓さんと分かれたほうがいいよねっ」
 回復スキルのあるリィムナがそう言って桧の方に行く。
 玲とバロンも頷き、これで班分けも決まるのだった。


 こうして出港した一行。
 流れに乗りすうっと動く筏と水辺の清らかな空気、そして頬をなでる風が心地よい。
 やがて洞窟の入り口に差し掛かった。
「天井、気をつけてね」
 先頭の筏でリィムナが注意喚起しつつ伏せる。焔迅も伏せた。桧は竿を天井にぶつけないよう倒して身を屈める。
「私の心眼ではいきなり吸血蝙蝠がいるということはありません」
 鎬葵が索敵結果を伝えて皆を安心させる。
 暗闇に入ると同時にリィムナが松明に明かりを灯した。ぴちゃん、と時折天井からしずくが垂れてくる。
 そしてすぐに天井は高くなった。
「わあっ」
 大きな本流に合流し、川も空間も格段に広くなったのだ。
 昼も夜も光のない世界は、どこかひんやりして冷たい。
「うわあっ!」
 そして歓声を上げるのだった。

 一方、後続の筏。
「来るぞ」
「こりゃ確かに低いね」
 先頭の筏でバロンが身を低くして注意を促し、玲が松明を用意しつつこれに習い赤髪の頭を下げる。
「おお。入り口は天井が低いから気をつけろよ鍔樹ー!」
「おいっ、梓さんっ。俺は竿にぎってんだ。いきなり頭を押さえんじゃ……」
「ッたぁ!」
 鍔樹の頭をムギュッと押さえ込んだ梓であったが、ともに背が高い分自分自身の身を屈めるのが遅れた。
「畜生、川に落ちるトコだったじゃねぇか!」
「俺に怒るとこかぁ?」
 伏せつつ激昂する梓に不平たらたらの鍔樹だったり。
「前の筏と違って背の高い男ばかりそろってるからなぁ。賑やかなのも仕方ない、か」
「まあ、いい薬だろうて。戦闘でやられても困る」
 前に位置する玲が呆れ、バロンは川に落ちてないならまあよしという感じの洞窟突入だった。
「おおっ?」
 そんな派手な野郎四人組も、本流に合流して空間が広くなると目を見開いた。

「すごいっ。何か光ってる!」
 筏から身を乗り出すリィムナ。他の三人もそれぞれ周りに目を奪われている。
 遠くの岸壁に、松明の光を受け淡く輝きだしたものがあるのだ。
 それは決して派手な輝きではない。
 闇に飲まれてしまいそうな、弱弱しい輝き。それが点々と群生している。
 でこぼこした岩肌もあり、移動して初めて輝き出す場所があるなどまるで洞窟全体がかすかに鼓動しているかのようだった。
「幻想的だなぁ……」
「ええ。ヒカリゴケに浮かぶ、洞窟の陰影や川面は幻想的な趣きがありますね……」
 感心するリィムナに、溜息をつく鎬葵。いつもは凛々しい鎬葵だが、この時ばかりは少し表情和ませていたり。
 そう。ヒカリゴケだけではなく、その淡い光が灯し出す水面や洞窟それ自体も他では見られない神秘的な雰囲気を醸していたのだ。そんな中をぼうっ、と松明を灯した筏がいくのも非常に絵画的だった。
 が、しかし。
「動いたっ! 蝙蝠が来るぞっ」
 超越感覚で音を拾っていた玲の声が響くッ!
 すぐさまキィキィという鳴き声と共に闇が動いた。
 いや、ヒカリゴケの輝きを遮る、黒い吸血蝙蝠たちであるッ!
 それらがうねりとなって開拓者達に襲い掛かるのだった。


 ターン、と洞窟内に大きな音が響く。
 初撃は狭間筒「八咫烏」を構えた焔迅だった。解いたばかりの布が背後でふわりと舞っている。
 見事命中し一撃で倒したのだが、彼の表情は険しい。
「回避……高い!」
 振り向き仲間に叫ぶ。舞っていた布が筏の上に落ちていた。
 しかも速い。一気に寄せられていた。
「安心してください。数は見た目ほど多くないですよ」
 舳先で刀「嵐」をちゃきりと構えた鎬葵が心眼で感じ取った印象を伝える。
「でも、向こうから寄って来てくれるのは助かりますっ」
 筏の後方にいる桧はもちろん、竿を持っている。が、襲撃から背中に担いでいたショートスピアを右手に持ち対応している。
「くっ!」
 桧、動けないため敵のすれ違いざまの爪攻撃を食らっている。カウンターでスピアも振るうが結構かわされる。
「あっ……。桧殿っ。正面に岩がっ!」
「はっ!」
 ここで炎魂縛武の炎を乗せた一撃で蝙蝠を叩っ斬ったばかりの鎬葵の声が響いた。桧、円らな瞳を大きく見開いてすぐに右に動くっ。
 間髪入れず左腕の筋肉がもこりと盛り上がり竿を力強く川底に突く。
 がすり、と筏の側面はこすったが無事に水面から出でいた岩をやり過ごした。
 しかし桧のバランスが崩れてるぞっ! しかも運悪く蝙蝠の攻撃を同時に食らっていたのが地味に響いている。
「おっと! 大丈夫? 桧さん」
 水没もあわやの危機を救ったのはリィムナだった。腰を落としたままなんとか桧を抱き締めることに成功。その背中越しにホーリーアローを至近距離でぶっ放し纏いつく蝙蝠を倒すのだった。
「……蝙蝠。大量……発生。人はまだ……襲われてない、のが幸い、ですが」
 同じく纏い付かれた焔迅はひとまず装填に難のある狭間筒「八咫烏」の射撃姿勢をやめた。この吸血蝙蝠どもが村にまで行動範囲を広げたらという思いからか、いつもは見せない厳しい表情となっている。
「ここで……できるだけ、数を」
 銃の先につけたバヨネット「スラッシャー」でぶった斬る。敵の回避が高く体力が低いのはすでに看破済みだ。傷つけられても倒す、との意思を青い瞳に宿し防御を捨て斬戟に全てをかける。
「そうです。狙うなら私をっ」
 変わらず筏の最前に位置する鎬葵が飛び来る蝙蝠を払い切りながら叫んでいた。後ろに迷惑は掛けられない。そんな思いが伝わる背中である。下手な体軸移動せず、無駄のない体裁きで少々の傷は受けても転落だけはしないという戦い方だった。

 もちろん、後方の筏でも激しく戦闘が展開されていた。
「ふん、数を頼りに寄せおって」
 若いモンに任せたかったがこれでは仕方ない、と弓「幻」を構える。体勢を低くして片膝を立てた状態で、揺ぎ無い姿勢から素早く六節で矢を番え、強射「弦月」で射抜く。派手さはないが、基本の動作を大切にした力の籠もった一撃。奇麗に確実に吸血蝙蝠を落としてみせる。さらにもう一匹。
「怒らせる手間が省けるな」
 玲がばさりとマントを翻し、宝珠煌く黒・赤・金色の泰拳士用の手甲を付けた左手を大きく広げて目の前の闇を横に払うような動きをした。茶色の瞳が平時の穏やかさから戦時の鬼気迫る眼光に変わり敵を見据える。
「蝙蝠は音波で獲物や障害物の位置を認識する、全部反射する盾より動く物の方が少しはましだろ」
 右手に引いて持つは片鎌槍「北狄」。いま、槍の穂先に白いオーラが立ち上るっ!
「こういう風にっ!」
 敵が固まっていると見るや、オーラを纏う槍を棒術の様に回転させとにかく敵を跳ね飛ばす攻撃に出る。
「あと頼むっ」
 そのまま頭を低くする。
「蝙蝠は任せとけ! 血ィ吸われても、『神風恩寵』で治してやるからな!」
「そういう意味じゃねぇだろ?」
 殴る用途ではないショートスタッフをびしりと構え梓が堂々と言い放つと、玲を抜いてきた吸血蝙蝠を鍔樹が竿を右手で手繰りつつも左手に仕込んでいた暗器「暗殺者の刃」で止めを刺す。玲の攻撃を回避した後で速度が落ちている分狙いやすい。敵の体力が極端に低いのでナイフでも十分一撃で沈められる。
「ほらっ、こっちの水は甘いぞ?」
「いや、俺の血はたぶんマズイぞー?」
 敵を挑発し自分を狙うよう腐心する玲に、鍔樹も合わせて軽口を叩く。
「血を吸われたくねぇだと? 嫌ならてめぇで追っ払え! 『神楽舞・攻』ぐらいはかけてやっから、有り難く思えよ」
 とんたたん、と激しい神楽舞に乗り梓が皆を励ます。えらく口調は突き放した感じだが、仮に突っ込めば「野郎ばかりの船で遠慮してどうするよ!」とかノリノリで返してくるだろう。こちらに乗った理由でもありそうだ。
 それはそれとして、蝙蝠どもはそのまま突き抜けていった。
「一撃離脱か……。飛び道具がある者は折り返しを狙え」
 バロン、至近の乱戦では動かず敵の動きを見定めていた分読みは早い。正確な射撃で矢が飛び折り返してスピードが乗る前の敵を叩く。
「おうよ!」
 鍔樹の手裏剣「無銘」と玲の朱苦無の射線も集中する。
「俺様は水着を持ってきてるがここで泳ぐ気はねぇぞ。しっかりやりゃあがれ!」
 引き続き神楽舞・攻で激励する梓。その顔にはもう余裕が戻ってきていた。
「左に寄せるがそっちから来てンぜ、気ィつけてくれ!」
 炎魂縛武の炎を乗せて横踏みから敵を堕としたばかりの鍔樹が叫んだ。
 直後にぐいい、と大きく左に寄せ前方に迫っていた岩を回避した。
「ふん。……率先して竿を持つだけはある」
 こっそり呟き左の新手に対応するバロン。突然の揺れにも当然揺ぎない。
 余談であるがこの新手。先行する前の筏では天井の割れ目に目をつけたリィムナが「そこから来る」と先読みしていたため不意を突かれることなく迎撃できていた。

 そして、流れに身を任せているため吸血蝙蝠の群れを全滅させる前に抜けてしまい小休止、また敵の群れる地点に到着して戦闘を繰り返すうち……。


「あっ! 出口だ。……やったー!」
 前方の光を発見し目を輝かせたリィムナが、洞窟の闇を抜けると眩しそうにしてから飛び跳ねた。
「いやーっはあ、抜けたなァ!」
 後方の筏でも鍔樹がニカッと爽やかいい笑顔。
「やっぱ天井ふさがってるよか、お天道サン拝める方が好きだぜ、俺は」
 やはりいくら幻想的でも、開放的で太陽の暖かい日差しが降り注ぐ外はいいものであるようで。
「川下りといえばこうだよな」
 玲もすっきりした気分で持参した重箱を知りだしていた。中にはみたらし団子や桜餅といった甘味が詰まっていたり。実は手作り。
「こっちは天儀酒と花札程度しか準備できなかったが、用意がいいなぁ」
「ま、俺達も昔世話になったしな」
 覗きこむ梓に、昔を思い出す玲。
「酒はまだ早いが……おぬし、どうして長物を使わん?」
 バロンはちょっと釘を差しておいてから鍔樹に突っ込んだ。彼の竿捌きを見て惜しいと思ったのだろう。
「あ? 普段は普段は薙刀使ってるがね、バロンさん。今回はこいつら大出張、ってトコだ」
 鍔鬼はそう言って暗器と手裏剣を取り出し手入れを始めた。
「操船も良かったな。が、まだ気を許すなよ?」
 バロンはわざと厳しく言っておいてから、さりげなく竿を手にして船頭を代わってやるのだった。

 そして前の筏では、鎬葵が竿を持っていた。
「おにぎり、美味しいよ。鎬葵さん」
 交代してもらい、鎬葵の持参したおにぎりを食べていた桧が尻尾を気分よくふわんと揺らせていた。
「良かったです」
 どこか青年的な凛々しさを醸す鎬葵はにっこり微笑。
「梓さんはお疲れ様っ。ワッフルと岩清水もあるから食べてね。焔迅もっ」
 おにぎりを食べたリィムナは、デザートとばかりに持参したワッフルを配る。水にぬれてないかなど一人静かに銃の整備をしていた焔迅にも声を掛ける。
「……ありが、とう」
 礼を言って受け取りあむっと食いつく焔迅。
 ぼんやりと、流れる風景を眺める。
 緩やかな流れと優しい日差し。そして木々の緑。たまに薄桃色が点々と見えるのは山桜だろう。
 のんびりと、これらを楽しむ。
「それにしてものどですよね〜」
「ええ。到着地点で待って下さる村人さんにも安心してもらいたいです。もちろん、桧さんも皆さんもお疲れ様でした」
「そうそう、鎬葵さん。次はあたしが舵をとるから休んでよ」
 そんな仲間の声を背中に聞きながら、安心してぼーっとする焔迅だった。