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■オープニング本文 梅が、ほころび始めている。 凛とした寒さと春めく日差しがその時々によって混在するいま時分、季節の狭間を感じさせる。 ほっそりとした枝に点々と咲く姿は奥ゆかしさがあり、ここ武天でも広く愛され親しまれている。あるいは、広く庶民がその姿にわが身を見ているのかもしれない。決して派手ではないが、寒さと温もりの中でささやかに、咲く――。 ある山間の村でも、梅は愛されていた。村の名が青梅谷であるため、なおさら。 「今年も、ぽつぽつと咲き始めましたねぇ」 「ほんに。心が落ち着きます」 「きっと、今年もたくさん梅が採れますよ」 「商人さんが売りさばいてくれるから、今では武天どころか広く食べてもらってますからねぇ」 「万商店さんとかたくさん仕入れてくださる。まったくありがたい事で」 ちなみに、某所で激しく流通している梅干はさまざまな産地からのものがあるので、ここの梅が全滅したら困るという事はないらしい。 閑話休題。 「いかん」 村の裏山から、ある村人が血相を変えて戻ってきた。 「狼の群れを見た。裏山の奥の奥のほうで」 「裏山の奥の奥、ちゅうたら‥‥」 「まさか、お梅さんのところか!」 報告した村人は、こくりと肯いた。 「なんと」 「ではすぐに皆に教えて、お梅さんに参らんようにせんと」 ――お梅さん。 敬称が付くが、人ではない。 ただの梅の木である。 とはいえ、そんじょそこらの梅ではない。 渓流沿いという立地を借景に、見事な空間美を構成しているのだ。青梅谷村にはたくさんの立派な梅の木があるが、あの梅の周辺風景全体の雰囲気、おもむき、静と動が醸す世界観といったものには足元にも及ばなかった。 当然、梅の季節ともなれば多くの村人が花見に出掛け、今年の収穫や家内安全などを祈り手を合わせるという。「お梅さん」と呼ばれ特別扱いされるゆえんであり、そこへ花見に行くことを「お梅さん参り」と称するゆえんである。 「うわー。俺、まだ今年はお梅さん参りしてないよ」 「満開はもう一週間程度先って話だったからなぁ」 とにかく、村人はまだお梅さん参りをしていない。 これは、大問題であった。 今年の梅の収穫に影響が出るかもしれないし、何より落ち着かない。 「いやいや、それ以前に狼どもが村に襲ってこんとも限らんしな」 何とかしないと、と腕を組み悩み始める。目撃された狼が一匹ならともかく、群れであれば下手に手出しはできない。 「でも、そりゃ東側の広い所から行く道に、じゃろう。西の裏道から行けばいい」 どうやらお梅さんの所まで行くルートは二種類あるらしい。 「おおい、裏道にもおったおった」 速報がもたらされ、どっちも駄目だと分かる。どうやら群れは二ついて、別々に動いているようだ。 「どうする?」 と、ぽんと拳を手に打ちつける者がいた。 「そういえば、万商店さんとこには『開拓者』とかいう人たちがよく来るらしいぞ。彼らに頼んでみては?」 「おお。聞いた事がある。開拓者ギルドとかいうのがあるらしいからな」 「よし、早速そこに相談じゃ」 そんなこんなで、開拓者ギルドに狼退治の依頼が張り出されることとなる――。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
守月・柳(ia0223)
21歳・男・志
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
佐上 久野都(ia0826)
24歳・男・陰
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
瀬崎 静乃(ia4468)
15歳・女・陰
霧咲 水奏(ia9145)
28歳・女・弓
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ● 「さ、さすが開拓者は違うのう」 依頼のあった青梅谷村で、住民が狼討伐の準備する開拓者を見ながら嘆息した。 って、ちょっと開拓者の皆さん。そろいもそろって何やってんですか。 「豆煎餅に瓦煎餅、醤油煎餅‥‥と」 霧咲水奏(ia9145)が、目を細めながら丁寧に煎餅を小分けにして包んでいる。 「うふふっ。無事に退治したらお楽しみ、ね」 深山千草(ia0889)は、何かはひ・み・つ、とばかりに用意してきたものを隠した。 「まるでピクニックみたいですね。これから戦いに行くというのに、わくわくすると言ったら不謹慎でしょうか」 赤毛のアーシャ・エルダー(ib0054)もうきうきと言う。手は、得物のグレートソードの手入れ‥‥ではなく、お弁当の準備に忙しい。‥‥アーシャさん、貴女もですか。騎士として果たして不謹慎かどうかはともかく、なるほど、「焼鳥大好き」と言われるだけの事はある。お弁当に焼鳥が入っているかどうかはともかく。 「終わったら梅見ですか? では稲荷寿司でも買って行きましょうか」 「飲み物は、梅の清涼水があればぜひ‥‥。私は下戸ですので‥‥」 佐上久野都(ia0826)もその気になって仕出屋を探してきょろきょろし、水津(ia2177)が大きな眼鏡の奥で瞳をぱちくりさせながらおずおずと言う。 「ああ、皆で梅見の宴と言うのも風流ですね」 仕入れ購入ならこのクリスに任せて下さいと、来島剛禅(ib0128)が請合う。旅の商人をやっているだけに目端が利く。久野都と水津を引き連れて、村の商人と交渉に入っている。 「梅‥‥か」 一方、篠田紅雪(ia0704)は村の梅をしみじみと眺めていた。もう、こんな季節かという思いが込み上がる。思い返せばこの一年。流れ流され、斬って斬って戦った。果たして報われたか、徒労だったか。答えは、出ない。 「梅自体、故郷では珍しくは無いですけどね」 隣に、三笠三四郎(ia0163)が立った。辺境生まれで、田舎に理解がある。あるいは、依頼を受けた最大の理由かもしれない。 そして、守月・柳(ia0223)。 「待ってろ。きっとアヤカシは倒してきてみせる‥‥」 村人を相手に情報収集をしていた。アヤカシを見た地点などを念のために聞き込んでいる。 (まぁ、敵も動くからな。参考までと言うところではあるが) 内心、そんなことも思う。 が、聞き込みはちょっとだけ不安だった村人に安堵をもたらした。ほかの開拓者の様子を見て、どこまで真面目に取り組んでもらえるのか、はたまたあの程度のアヤカシは朝飯前だというか判断に迷っていたのだ。柳の行動で、どうやら朝飯前の部類に入るのではないかと判断したようだ。 「わ、わしらも着いて行ってお梅さん参りをすませてしまってはまずいかの」 「ああ。まずい」 朝飯前であるならと、村人が申し出たのだが、柳はこれをあっさりと止めた。開拓者が一日様子を見て、それから行くよう言いつけた。 そんな出発前の賑わいを少し離れて見ている者がいる。 「‥‥いいな」 瀬崎静乃(ia4468)である。一段高い場所で皆を見守っていた。 周りでは季節の狭間を報せる梅が咲き誇っている。巫女袴が風になびく。もちろん後ろで束ねた長髪も。 「うん、いい」 「静乃殿、参りまするぞ」 季節の移ろいを感じながらしみじみと繰り返し言ったところで、水奏の声がした。出発である。 「暫しのお別れ、ね。皆、気を付けてねえ」 千草が手を振る。 開拓者たちは、村からの要望を汲んで二隊に分かれ二正面作戦を展開することにしたのだ。千草は、西の裏道担当組。東の表道担当の五人からお返しに手を振られた。次に会うのは、うまくいけばお梅さんの川辺となるだろう。 ● さて、東の表道組。 「アーシャ。止まってくれ」 木々のまばらな、平らな道で柳が先行するアーシャに声を掛けた。聞き込みでの、狼目撃地点に近付いていたのだ。 「ええ、分かってます。このあたりが行動圏のようですね」 足跡やフン以外の痕跡を見ながら歩いていた彼女も警戒の言葉を口にした。 「‥‥いる、な。この先の東よりだ」 心眼でギリギリ探知できたようだ。 「戦うのはここが良かろう」 続けて言うと、ショートボウを構える。射角は、心持ち上に。射程にあまり余裕はないので、降り注ぐような攻撃を見舞うためだ。 「迎撃、頼むぞ」 それだけ言って、放つ。着弾点は見ずに続けて撃つ。初撃に気付き、狼どもはまっすぐ駆け寄ってきた。 「来ましたね」 「ベアポジションに憧れますが‥‥ジェラールポジションが私向けですね‥‥」 剛禅が石鏡の杖をぎゅっと握り言うと、その後ろについた水津が大きな丸い眼鏡をきらりんと光らせた。ちなみに水津が口走ったのは特殊用語。本好きの水津、いったいどこから仕入れてきた情報か。仮に直接聞いたとすれば、くすっと笑って「ロマンの追求ですよ」と言うに違いないが。あるいはこれが人のサガか。 閑話休題。 「正義の騎士、アーシャ・エルダー参上! ‥‥後ろの皆さん、お弁当、よろしくお願いします!」 ぶん・すちゃっとグレートソードを構えて見栄を切るのは、一人前衛のアーシャ。ちなみに陣形は、インペリアル‥‥もとい、方円。水津のいうベア・ポジにアーシャがある。これにより水津は存分に戦うことができるが、これはロマンの余談。 と、狼どもの寄りが速い。驚異的な速度で、10匹程度の群れが圧力を持ってして押し寄せてくる。 「さあ、狼ども、お弁当が欲しければ私を倒してみなさいっ!」 さて、騎士のアーシャ。ひるむことなく構えを保ち、騎士道精神に基づき弁当堅守の使命に燃える。ちなみに、弁当は剛禅が預かっている。彼女の精神に従えば彼が親衛隊の役目となるか。 (まずいかも知れんな) 中列右翼を固めていた紅雪は、そう見る。直進する狼どもの二列目以降が、東回りに展開・包囲の動きをしているからだ。 開拓者の方円は、巫女の水津が最後尾。負担は掛けたくない。 「こちらだ‥‥アヤカシ共!」 咆哮一発。紅雪が敵の動きを止めた。 そして、アーシャと紅雪が大多数の敵の攻撃にさらされることとなった。目の敵にされた紅雪は受坊で我慢の防戦。負担の軽くなったアーシャはスマッシュで渾身の一撃。必殺の手ごたえに気を良くして暴れまくる。 「守月・柳、推して参る‥‥っ!」 丑寅方位が最前線になったことで、逆サイドにいた柳が剛禅の脇を抜けて前へ出た。得物を弓から長短二刀の脇差に変えている。 二刀流。 利き手に短い脇差を持ちがっちり受け流し、逆手の長脇差で確実に切りつける。 「頑張って‥‥」 改めて下がった水津が神楽舞で防御面を充実させる。 「目処は立ったな」 専守防御に務めていた紅雪もそう呟いて攻撃に転じる。流離いの中で身に着けた、力でねじ伏せる剣筋が猛威を振るう。アーシャもガードからリズムを作り直して一閃。ともに一撃で敵を滅していく。 「む」 ここで、剛禅の口ひげがわずかに動いた。 戦況を冷静に見ていたのだが、大勢が決したところで逃げを打つ狼一匹に気が付いたのだ。しかも悪いことに、村方面への逃亡を図ろうとしている。しかも、速い。襲ってきたときと同様、疾走を使っているようだ。 「ぎゃん!」 なんと、その狼が突然現れた石壁に激突して跳ね返った。そして燃える。 「回りこませはしませんよ‥‥」 水津、見事に浄炎で村への逃亡を阻止した。 「これで終わりだッ!」 炎に包まれた柳の長脇差がうなる。炎魂縛武の一撃で最後のアヤカシが今、息絶えた。 「成敗!」 これを見てアーシャがくるっと回り剣を払ったかと思うと、左手を前に差し出しびたりと決めた。 「お、おおっ!」 「‥‥」 「術が上がった!」 柳が照れくさそうに二刀を交差して構え、紅雪が黙して刀をひと払いしてから鞘に納め、水津がくるりんと回ってから跳ね形式美を表現、剛禅も煙管を取り出して満足そうに一服した。 ああ、これこそロマン。これこそ人のサガ。略してロマサガ。 ● そして、西の裏道組。 「鳴きはしませんが、鶯のような小鳥が良いでしょう」 久野都が人魂を放ち先行索敵する。鶯にこだわったのは、三四郎が「鶯はまだ早いでしょうか」と残念がったから。 「‥‥いますね。というか、来ます。遭遇。不可避」 「まあ、高速接近中みたい。水奏さん」 「承知致した」 人魂で久野都が補足すると、心眼で感知した千草はそそくさとロングボウを用意する。弓術迎撃の水奏も理穴弓を構えた。 「来ましたね。‥‥しっかり守って、しっかり狩りますよ」 一人前衛の三四郎が構える。奇しくも、陣形は東と同じ方円。数的不利と速度の違いを見越して専守迎撃で対応する構えだ。もっとも、こちらはロマンは追求しないようだが。 それにしても、敵は速い。少々痛手を受けようが疾走で寄せてくる。 ここで、戦況が大きく動いた。 「敵二列目が西側に回り込み。対応願いまする」 「武辺者、参るッ!」 敵包囲運動を感知した水奏が皆に報せながら横に動く敵に対して乱射すると、三四郎が単身前に出て咆哮を上げた。武辺者が何を意味するかは、伏せる。声に誇りを乗せ、いざ回転切りへ――。 「ぎゃんッ!」 見事、大量に屠る。さらに包囲するため回り込んでいた敵の足も止めさせ引き付けるという効果を生んだ。 が、当然方向転換した敵は時間差到着となる。三四郎、技の直後で無防備。 「いけない」 「三四郎殿っ」 久野都が呪縛符で狼の足元を狙う。蔦状の式が地面から現れ絡み動きを鈍らせた。水奏は即射で対応。近距離射撃には長い弓が災いし手数が落ちるが、久野都の呪縛符と合わせ援護としては十分。三四郎は体勢を立て直すと、各個撃破の手堅い戦いを展開するのだった。 「くっ」 一方、別の方向から苦戦の声が聞こえる。方円最後方の静乃である。両手に構える呪殺符「深愛」で愛の重さを食らわ――もとい、斬撃符で切り裂いてはいるが、複数匹に絡まれ無事というわけにもいかない。 「し、静乃」 炎魂縛武の弓から早々に珠刀「阿見」に持ち替えていた千草が援護の桔梗突。カマイタチ様の斬檄が一匹を屠る。間髪いれず駆け寄り、静乃を庇う。 「‥‥すまない」 「いいのよ。それより回復したら?」 「ぼ、僕はいい」 背中越しに言う千草。静乃は反対側で奮戦する三四郎に治癒符を使った。 「‥‥僕は、千草に来てもらったから」 意地を張ったわけではない。冷静に戦況を見ての判断だ。 そして、水奏。 「落ち着けば対応はできまするな」 敵を交しながら、にやり。近接戦闘に向かなければ向かないなりの戦いをしている。ちなみに後ろに久野都がいるが、氷柱をカウンターで叩き込み屠るという働きをしている。 「ん? あっ!」 ここで、敵の牙を防ごうとガードを固めていた三四郎が目を丸くした。 残った敵三匹が逃げを打ったのだ。 「今ですっ! 今が好機。蛇が喰らうが如くとアヤカシ逃さぬよう!」 水奏が声を張った。静乃と千草もすでに目の前の敵は倒した後だ。事前の打ち合わせの通り走り出し、高速移動しながら隊列を組み替えた。長蛇、と呼ばれる丁字型の陣形。 が、敵は速い。 (届かなくなる前に) 指示した水奏は、自ら陣形を崩した。立ち止まり、大型で長距離射撃に向く理穴弓を構えたのだ。 鷲の目で狙った一矢は、見事先頭を逃げる狼を倒した。 残る二匹は目の前で仲間が倒れたのを見て戸惑った様子。 さらに、水奏と同じ判断をした千草が再びロングボウに持ち替え急いで撃っていた。これは足止め目的だったので外れたが、この一撃で二匹の逃げ足は完全に止まった。 そこへ、長駆三四郎が届きとどめの一撃。 「山道のかけっこで遅れは取りませんよ」 そしてもう一匹と振り返りざま狙うが、これはちょうど悲鳴を上げて倒れたところ。何かが迸ったようだがと振り返ると、静乃が両手を前にしていた。どうやら雷閃を放ったらしい。 「迅速な補佐は僕の役目」 ようやく表情を崩して、満足そうに言う静乃だった。 ● そうして、開拓者たちは無事にお梅さんのある清流の川辺へと到達した。 実は、東の道も西の道も現地直前で合流することになる。先に到着しそうになった東組がロマン追求の精神から、せっかくだからと合流地点で西組を待って、一緒に現地入りをした。 「この時期に観梅なんて」 「自体、故郷では珍しくは無いとは思いましたが‥‥」 アーシャが異国情緒に感動し、山間部に慣れている三四郎が目を見張った。 ――お梅さん。 特段大きかったり枝振りがずば抜けて良いというわけではなかった。 ただ、清らかな川の側で、一本たたずむ。 河原の石の白、地面と背後の山々の緑、流れる川の青、そして、梅の薄紅。冬には決して見られない、春ならではの色彩。 さらには、耳をくすぐるせせらぎの音と、川の岩で跳ねる水でさわやかさを増した空気。 そして特筆すべきは、川辺だけにそよ風が吹き、その中に梅のわずかな香りが含まれている。 その場に立って始めて分かる魅力。 これが、お梅さん。 誰が呼んだか、お梅さん参り。 「‥‥願わくば、御木敬愛す民が平穏に暮らせる事を」 水奏が手を合わせた。皆も、思わず合掌する。 「あ。そ、祖国に平和が戻りますように」 アーシャも、習った。 さて、後は酒宴となる。皆、用意した弁当や酒を広げたり。 「宜しければ、どうぞ、召し上がれ」 千草のひ・み・つだったものは、牡丹餅だった。匂いに釣られたか見た目に釣られたか、三四郎と水津がふらふらと寄ってくる。甘い物万歳。 アーシャは、騎士道精神で守り抜いた弁当にお酒を広げたり。‥‥どうやらずいぶんの酒豪の様でかぱかぱやっていたり。 久野都からは、出発前に購入した稲荷寿司。地元の味付けは、ちょっと酢が強いようだ。酒も、こだわった。もちろん用意したのは、梅酒だ。 「舌で味わうにもより芳しく‥‥」 こだわりを見せつつ、村の今年の豊穣と来年も変わらず咲くように祈ったり。 「ん、乗ってきた」 梅酒に酔わされ、ふらりと柳が立つ。はだけた襟から覗く肩が、白い。 「この美しさには到底敵わぬが‥‥」 取り出した横笛に口を付け、余韻豊かに旋律を風に乗せた。 「そういえば、静乃殿は15日が誕生日だったはず」 「あ、‥‥まあね」 水奏は、特別にとはいかぬがと持参した煎餅各種とお茶を勧める。照れる静乃。めでたい報せに改めて皆盛り上がる。 ところで、剛禅。 (ふむ。今回の件を村興し用にアレンジして祭事としても面白いかもしれません) 後、村人に進め、索敵を含め開拓者を毎年呼ぼうなどという話に膨らんだ。大いに喜ばれることとなる。 そして、紅雪。 一人で静かに、天儀酒をきゅっ。 そういえば、戦闘後のロマンでノリが悪いのではなどと突っ込まれた。自分らしく付き合ったことが裏目に出たか徒労となったか。 「さて、どうだろうな‥‥」 笑み交じり。 出発前の自問に対する、これが答えなのかもしれない。 |