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■オープニング本文 「さて、神楽の都で商売するのも久し振りかの」 う〜ん、と伸びをして屋台を引いていた親父が呟いた。屋台には赤地に白文字で「うろん」の幟旗がはためいている。 時は、たそがれ。 「よぅ。貞吉、何年ぶりだ?」 町を行くと顔見知りから声が掛かる。 「おおい、一年ぶりだろう。その言い方はどうよ?」 「ばっきゃろ。この一年で神楽の都も変わったぜ?」 貞吉の顔見知りはそう言い返す。 「見た目、あまり変わってないようだがね?」 「見た目じゃ分からんが、結構物騒になってきてるんだよ」 曰く、賊が増えた、アヤカシも出るようになった、挙句、浪志組なる組織もできた、と。 「ともかく、前のように夜ちょいと小腹の空いた客を相手に商売するつもりなら、一工夫必要かもだぜ?」 「そうか……」 貞吉、思案顔で頷く。 この男が「だったら今晩でも早速顔を出すよ」と言ってくれないくらい、今は状況が変わったことが感じられたからである。 (とはいえ、夜の屋台が出せるなら住民も安心してくれるはずだし) そんな思いもある。 ともかく、然るべき筋に「またあそこで商売を始めるから」と声を駆ける。 が、やはりやんわりと止められた。内容は似たようなものだ。 「仕方ない。開拓者ギルドに頼るか」 実は昨年までも、開拓者ギルドに夜顔を出す者たちも客になっていた。ギルド職員にも客はいる。相談しても嫌な顔はされまいと、今までの付き合いに賭けたみた。 「駆け出しの開拓者優先でいいなら、ちょっとだけ報酬額をこちらから支援しますよ?」 開拓者ギルドの係員はそんなことを言う。 「まあ、内容はたまにうどんを食べる客になってもらいつつの警備だから、わざわざ歴戦の開拓様のお手を煩わせることもないですね」 貞吉も納得する。 「ただ、歴戦の開拓者でもうどんに目がない人とかもいるのでそういう人は協力してくれるかもしれません。また浪志組関係者も」 「開拓者じゃねぇが、その日は俺も食いに行くぜ?」 ここで、一般人で貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)が首を突っ込んできた。 「下駄路さん、あなた関係ないでしょう? 依頼掲示前に首を突っ込むのは良くないですよ?」 「何言ってやがる。今までもさんざん掲示前の依頼で助けてやったりしたじゃねぇか」 「まあまあ。私としては一人でもお客が増えるのはいいことです。……まあ、今回はサクラということで無料で振舞いますがね」 慌てて仲裁に入る貞吉。 そんなこんなで、依頼当日の晩に立ち食いうどん屋台の警備兼、サクラとして各種うどんを食べてもらえる開拓者を、求ム。 後の話になるがこの時、ちょうど追われた強盗が通り掛かるのでこの捕縛にも協力することになる。 |
■参加者一覧
フラウ・ノート(ib0009)
18歳・女・魔
龍水仙 凪沙(ib5119)
19歳・女・陰
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
日向平 満(ib8741)
17歳・男・吟
マネキ(ib8990)
14歳・男・吟
呂宇子(ib9059)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 「どう? おやっさん」 ひょい、と暖簾から呂宇子(ib9059)が顔を覗かせた。 「以前は、出汁の香りやすする音に誘われる客がもうちょいといたがねぇ」 「物騒になった、かしら? でも……」 呟く貞吉に、小首を傾げる呂宇子。修羅でここに来たばかりなので実感がない。左の角に結った紫色の紐が疑問に揺らぐ。 「物騒っちゃ物騒だぜ?」 新たなに暖簾をくぐった娘が言い切る。 「浪志組隊士、ナキ=シャラーラ(ib7034)だ! ばっちり警備するから安心してうどん作ってくれや!」 「確か一年前は浪志組なんてなかったもんなぁ」 明確に分かる違いに貞吉は遠い目をする。 しかしナキ、聞いていない。 「おっ。お値段控えめなのはありがてぇぜ」 お品書きを見ては盛り上がる。 「小腹の空いた客が相手だから量は少なめその分お安く。何度も通ってくれるように、ってね」 貞吉が応じたところで、次々と客が現れた。 「こんばんは〜」 「オヤジ、注文頼む」 「よ、お二人さん。客が増えたんで外した方が良さそうだぜ?」 最後には下駄路 某吾(iz0163)が顔を出してそんなことを言ったり。頷き巡廻に出掛ける呂宇子とナキだった。 そのころ、他の開拓者は。 「春なのに、まだ夜は寒いねえ」 龍水仙 凪沙(ib5119)が赤提灯を掲げて巡廻している。今日も垂れたウサ耳が可愛らしい。 「そうですねぇ〜」 隣を歩く吟遊詩人の少年、マネキ(ib8990)がのんびりと返す。気が向いたのか三味線を構えた。 「はぁ、世の中お金よ、ちょいと稼げば懐あったか、身も心も極楽気分〜♪」 ぺぺん、と吟じる。 「温かみのある声で何という現金な歌を」 「世の中金が全てだぜ! なんて野暮言うつもりはございませんよ。でも僕、贅沢が大っ好きなんです! 豪遊して暮らしたいんです!!」 凪沙の突っ込みに、ぺぺん、と説明するマネキ。 ここで偶然母娘の二人連れとすれ違った。 「あ、ウサさん〜♪」 「これこれ、指差してはいけませんよ? ごめんなさいね」 幼い娘は「うわあ」と目を輝かし、母親の方はぺこぺこ謝りながら去っていった。 「いいんですよ。気をつけてね〜♪」 凪沙の方はこういうことには慣れっこ。にこやかに見送る。 「人気者ですねぇ、凪沙さん」 「ああいう人たちに安心して暮らしてもらわないといけないんだ」 ぐ、と拳を固めてきりりと仁王立ちする凪沙の背後で、マネキがぺぺん、と盛り上げるのだったり。 一方、別の場所では。 「さーて、初仕事がんばるぞー」 んー、と伸びをした少年、日向平 満(ib8741)が改めて精霊の鈴を構え直した。シャン、と連なった小さな鈴が非常に清らかな音を出す。 「……おし!」 隣では、フラウ・ノート(ib0009)が猫のように右手を目の辺りにやってうにうにしてから、にゃっ、と目を見開き気合いを入れていた。 「日向平さんは吟遊詩人さんよね?」 「そうですよ。よろしくねー」 確認したフラウにひらりと手を振る満。借りた提灯はフラウが持っている。彼女のもう一方の手にはエンシャントスタッフがあるが、これは殴るものではない。 「手荒なことにならないよう、周囲に注意しないと」 「ええ。それと、一般の方の不安を煽らないよう、通行人を装って歩きましょう」 暗がりなどを気にするフラウに、満がのんびりと言う。 「あ、そうだ」 何かひらめいたフラウ。いかにも闇に隠れて動きたい者しか通りそうにない裏路地にスタッフを掲げる。 「何をされたんです? フラウさん」 「『ムスタシュィル』ね。ここを通る人がいたら、たちどころに分かるってわけ♪」 「それは便利ですねー」 思わず、きゅっと口笛を吹いて感心する満だった。 ● ――わお〜ん。 神楽の都の夜は本格的に更けてきた。空に月はなく星明りがさやかである。貞吉のうどん屋台に人は少ない。 そこに、暖簾を潜る二人組の姿が。 「おっ、お帰り」 巡廻帰りの凪沙とマネキだ。明るく貞吉が迎えるのだが。 「おじさーん、おしながきのうどん、全部作って〜」 「お揚げと天ぷらと卵とお餅を。……全部一緒にのっけて下さい。お葱たっぷりでお願いします」 天真爛漫な笑顔でいきなり多数注文する凪沙に、ノリよく豪華大盛り注文をするマネキ。 「いきなり無茶言うねぇ」 これには横で見ていた下駄路も呆れるしかない。 「豪勢なのが好きなんです、僕」 さらりと下駄路に返すマネキ。 「今までそういう注文の仕方をした猛者はいないねぇ」 「って、やるんかい、アンタ!」 にこにこと手を動かし始めた貞吉に唖然とする下駄路。凪沙とマネキは「おお〜」と喜ぶばかりだ。 「はいよ、まずはお嬢ちゃんの月見から。……そっちの詩人さんは、あまり派手好きには見えんけどねぇ」 とん、と最初の一杯が来る。早速箸を割る凪沙。マネキの方には話を振る。 「三味線だけでは実入りがどうにも、ね」 「つまり先立つものさえあれば、と?」 「そうそう。お金があればね、豪勢に遊んで、優雅に暮らして……今はタダで贅沢させてもらってますけども。ごちそうさまです、うへへ」 気分良さそうに夢を語るマネキ。横では月も割ってずるずると凪沙が食しつつ至福の表情で目を細めている。 「おお、卵で味がまろやかになるのを見越してツユが濃いめなのね。いい仕事ね〜」 「ありがてぇこってす。お次は力うどんで」 量が少なめなので次々出てくる。 「そちらさんの全種盛りもどうぞ」 続いて、大きな丼にお出汁いっぱい、きつねや天かす、餅や玉子やちくわの磯辺揚げにこんもり山盛りネギの載ったうどんが出てきた。 「素材の味がごっちゃになるんじゃねぇか?」 「豪勢な味と言ってくださいよ、下駄路さん♪」 マネキはゴキゲンで、幸せそうに食している。 「うん。麺とツユで水を使い分けてたりしない? 美味しいわあ」 凪沙の方も幸せそう。マネキとは対照的に、シンプルに餅入りなだけに、麺の締まり具合やデリケートな味の部分も明確になる。 「うれしいねぇ。豪快に食べてくれて、細かいところも分かってくれて」 へへっ、と照れてる貞吉。その照れ隠しに聞いてきた。 「皆さんは、どうして開拓者を?」 「あ、おい。何か狼煙銃が上がったぞ?」 瞬間、外を気にしていた下駄路が空を眺めながら言った。「え?」と慌しくなる二人。 「お金のためです」 ちゅるん、と最後の麺をすすってうっとりしながら言うマネキ。 「両親と生き別れてねえ。ずっと会えてないけど、私が開拓者として有名になれば気付いてもらえると思ってさ」 ずずず、と出汁をすすっていた凪沙が器を下ろし、顔を出して照れくさそうに打ち明けた。 「おお、頑張ってきなよ」 驚いたことに横から励ましの声が掛かってきた。見ると、二人の食べっぷりと賑やかさに釣られたか、新たな客が集まっていたのである。 「じゃ、行って来る」 元気良く現場に駆け出す凪沙とマネキだった。 ● さて、時は若干遡る。 提灯を掲げつつナキと呂宇子が巡廻している。 「ナキはジプシー……舞姫よね。砂漠の儀の舞って、どんな感じかしら?」 「あ、待った」 雑談途中でナキが呂宇子を止めた。怪しげな小道が目に付いたのだ。 「どうしたの?」 「土地勘ある奴ならこういうのをフル活用して逃走や潜伏すんだよなぁ」 「まるでナキが不審者ね?」 呂宇子は生き生きとして怪しげな小道を調べるナキを見て苦笑する。 「あたしもスリやってた時そうしてたからな」 むしろ堂々と言い放つが、 ここで改めて「あっ」とナキの声が響いた。いや、男の声も一緒だ。 「てめえらっ、ここで隠れて何してやがる!」 「逃げるぞ」 男二人が奥へと逃げ出した。追うナキ。 「あらやだ、辻斬り?」 その背後では呂宇子が狼煙銃を打ち上げ。言葉の通り、不審者二人は刀を手にしている。 「ちっきしょう、手馴れてやがんなっ!」 逃げる男二人は立て掛けてある角材を倒しながら走っている。舌打ちするナキだが、これは彼女の懐かしき常套手段。ひらりとかわしうろたえることはない。 「ちっ。大通りに出やがったか」 このまま二手に散られるとまずいな、と思ったところで不審者二人が何かに衝突してたたらを踏んだ。すぐに左右に逃げ始めたが……。 「甘いぜ!」 鞭「フレイムビート」を巧みに操り絡めとり、引き寄せた。 「しゃらくせい!」 「あらら、大人しくなさい」 空いた利き手で刀を振りかざし、武器を使って引き寄せたナキに襲い掛かる不審者。しかしこれは呂宇子の呪縛符がさらに絡む。何気に形はウミヘビだったり。 「ありがとな、呂宇子の姉貴」 ナキ、一人捕縛。 「うふふ。こっちも済んだよ」 大通りからは、光源の夜光虫を従えもう一人の不審者を捕まえた凪沙が姿を現した。 「結界呪符「黒」で通せんぼ、後は呪縛符でお縄・ちょ〜だい〜♪」 ぺぺん、と三味線で弾き語りをするマネキも一緒である。 ちなみに、凪沙の捉えた不審者の頭にたんこぶがあるのは、マネキの投石が命中したからだったり。 ● 場所は再び屋台。 「こんにちはですよー。大将〜、たぬきうどん一つ。ネギは多めでお願いしますっ」 四人が捕縛劇をしていたころ、満がうどん屋台に戻っていた。 「そっちはどうだった?」 「異常なしよ、下駄路さん」 心配して聞いた下駄路にフラウが答えた。もちろんこの二人、先の狼煙銃には気付いていたが全員が一カ所に固まらないよう申し合わせていたため、通常の夜警をこなして戻って来ている。 「あいよっ。たぬきでネギ多めねっ。……そちらのお嬢さんは?」 「あたしは、キツネとタヌキ貰えるかしら?」 にこにことフラウが返事する。 やがて、貞吉がなぜ開拓者になったかと話を振る。 「んぅ? 開拓者になった理由? そうね……両親に憧れて、になるのかな」 「そりゃご両親が聞いたら喜びそうだねぇ」 少し考えてから答えるフラウに、麺を湯がきながらも人の良さそうな笑み浮かべる貞吉。 「両方、魔術士でね。家の事をする時でも魔術で済ませてて、小さい時は凄いと感動したものよ。あたしが生まれてからも少しだけ依頼に参加してて、家から出る時はかっこよくてね……」 ありありと懐かしき日々が思い浮かんだのだろう。フラウはちょいちょいと調味料入れを弄りながら呟く。って、あれ? なんだか少し頬を赤くして照れてますよ、フラウさん。 この時、弄っていた容器からトウガラシがこぼれあわあわと慌てた。そして、遠い目。 「ん?」 「い、いや、なんでもないわよ。少し、妙な事思い出して」 横から満に心配され、ぶるぶると顔を振る。実は母親が人外食欲で、天儀へ一人向かう時に町長に泣いて止められたとかいうのは、内緒だ。 「ははっ。こんな屋台のオヤジに話せることだけでいいんですよ。……はい、たぬきお待ち」 「おー! 美味しそうだな。いただきまーす」 満はわくわくと箸を割ってから、両手を合わせ早速味わう。「うまい」とにこやか笑顔。そして、周りの視線に気付く。 「……開拓者になった理由? そうだねぇ。僕は旅が大好きで。その土地の風を感じることの次に、その土地の美味しいものを食べるのが楽しみなんだ」 特に聞かれもしない内から話し出すのは、彼の人柄かもしれない。 「この依頼を受けたのも、実はうどん目的でしてー」 満、苦笑する。 「開拓者になれば、色々な場所に行く機会も増えるでしょう? 一石二鳥かな〜ってね」 満、今度は照れ笑い。 「良く笑う人は、その分寂しさを知ってる人って聞いたことあるなぁ」 この様子にぼそりと呟く下駄路。ぎくっとしながらちゅるんとうどんを吸い込む満。 「本当は、昔一緒に旅して回っていた修羅の子といつか再会して、また一緒に……」 語尾は消える。寂しそうな満。 「それが叶うまでは、どこにでも赴いて、彼女の姿を……」 今度は顔を上げた。照れ笑い。満らしい笑顔に、下駄路も貞吉も微笑んだ。 「〜♪」 フラウの方はそんな話に満足しながら貞吉の手元を見ていた。麺を解いて湯がいたり、とんとんとお揚げを切ったりとリズムはそのまま。 ちゅるん、とうどんをすする。 「おいし♪」 フラウも満面の笑みを見せている。 「あっ」 しかし、ここで目を見開く。 「あそこを誰かが走り抜けたっ!」 にゃっ、と駆け出していく。あそことは、事前に仕掛けたムスタシュィルの場所だ。 フラウと満が駆け出していく。 後の話だが、満の奏でる精霊集積を背にフラウがアムルリープで眠らせ、捕り物で逃げていた盗賊は無事に捕縛できたという。 ● 「おやっさん、きつねうどんをネギ少なめでお願いね。あと、お餅と……湯葉ってあるかしら?」 場所は再び屋台。呂宇子が戻ってようやくうどんにありつけていた。 「やっぱ餅はいいな、スタミナつくのが一番だぜ!」 うにーん、と餅を食いながらナキが言う。多めに入れた辛子が点々とついている。 が、そんなナキも、しんみりする時はある。 「あたしが開拓者になったのは復讐の為さ」 彼女がアル=カマルでスリやってた時、ある女開拓者の財布狙って捕まったらしい。 「あの女、事もあろうに宿であたしを、あたしをっ……」 なぜか赤くなっている。 「で、ジプシーの技を正式に学んで開拓者になり天儀に来てそいつに襲撃かけてるって訳さ」 何とも壮大な追いかけっこであるが、まだ一度も勝ててないらしい。 「でも、何時か泣かしてやるんだぜ!」 「……もしかして、恋人か何かか?」 「違うっ!」 下駄路の突っ込みに、生き生き話していたナキは真っ赤になってどだんとテーブルを叩いて否定する。 「そーねえ……最近まで、陽州って閉じられた儀だったでしょ? 私自身、陽州で生まれて、陽州で骨を埋めるもんだと思ってたわけよ」 呂宇子の方はつんつんと丼の中のかまぼこをつつきながら、そんな話。「ところがどっこい、精霊門が開いて、おとぎ話の中の存在だった天儀に行けるようになっちゃってさ」などと続ける。 「せっかくだから、外を……色んなものを見てみたい、って欲が出ちゃったのよ」 淡くかげる瞳でそんなことを呟く。 「奇麗なものばかりじゃないかもですよ?」 「……お揚げ、甘めなのね。美味しかったわ」 貞吉に言われ、逆に切り返す呂宇子。 「辛めなのやいろんな物を見て、あっしなりの結果って訳で」 にこやかに返す貞吉。彼なりに彼女を応援しているのだ。 「全部、楽しみで仕方ないわ 」 呂宇子の言葉に迷いはない。 「ん?」 ここで外の異変に気付いた。 「うどんーうどんー、つるつるしこしこもっちもち♪」 戻ってきたマネキがうどんの歌を三味線でぺぺん、とやりつつ客寄せをやっていたのだ。ナキもいる。 「〜♪」 そして、同じく戻ってきた満の口笛も加わる。 「それじゃ、もう一回饂飩♪」 フラウはるんるんと屋台の中へ。 「いいね。絵になる」 そっと屋台を離れた下駄路が、この様子を絵にするのだった。 次の日、また何か楽しいことがあるかもとの期待から客が微増したという。 |