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■オープニング本文 ●定型前口上 さてさて、泰儀を気ままに雑技旅している孤児8人たちの香鈴雑技団。 これまでの経緯は知っていても知らなくても大丈夫。 なぜなら気ままに旅をしているのだから。 行く先々の風景や人々、奇天烈な話やほんわりする話を一緒に楽しめばいいだけ。 それじゃ今回は「香鈴、天女伝説殺人事件」の章だよ、お立会い。 ●物語 「あんたら、悪い時に来なすったの」 香鈴雑技団がその村に立ち寄った時、村長からそんなことを言われた。 「いや、夕暮れから夜にかけて到着しなかった、という意味ではいい時に来たともいえるか」 「なんでい、そりゃ」 「つまり、夜に何かあるんですね?」 両手を頭の後ろで組んで言う兵馬(ヒョウマ)に、その横でピンときた陳新(チンシン)が言った。 「今、村ではその時間帯にアヤカシ騒ぎがあっての。ちょうど開拓者様を雇っているところじゃ」 「どんなアヤカシなんですか?」 すかさずリーダーの前然(ゼンゼン)が畳み掛けた。 「幽霊のように夜の村を飛び回っては『天女さまの祟りじゃ〜』などと叫ぶ」 ぶるっ、と身を震わせて村長が説明する。長雨の終わった村でそんなことが起きていたのである。 「天女?」 今度は紫星(シセイ)が突っ込んだ。「べ、別に私は興味なんかないんだけどね」とかごにょごにょ付け加えるが。 「この村には、世にも美しい女性が空から舞い降りてきて飢餓を救ったという伝説があるんです」 希に、この手の創作っぽい伝説は残っているものだ。真偽のほどは眉唾である。 「それが、どうして祟るんですか?」 皆美(みなみ)が可愛らしく目を丸めて聞いてみた。 「村の西外れに、女性を浮き彫りにした石を飾って祭ってあったんじゃが、昔それが盗まれたことがあっての。その時に気の触れた一人の男が刃物を持ち出して重武装して村で暴れ周り、三十人を殺したんじゃ」 その時にわめいていた言葉が、「天女様の祟りじゃ〜」だと結ぶ。 「ともかく、旅なら急いでここを離れるがよい。普段なら泊めてあげて旅を労いもするが、あまりに間が悪い」 「開拓者を雇っているところだ、っていいましたね? それと、アヤカシの想定数と特徴は?」 「陳新!」 気の毒そうに言う村長に陳新が聞き、それを在恋(ザイレン)がとがめた。 「やらせとけよ、在恋。私たちが退治するって話じゃないんだし、もしかしたら知ってる開拓者が来るかもだしな」 気軽に在恋を止める烈花(レッカ)だった。 「開拓者ギルドに相談したら、それは幽霊型の『レーシー』だということです。『ぎゃぁ〜〜〜』という悲鳴のほか、『天女さま、ひどいですぅ〜』とか『天女さま、無慈悲でございますぅ〜』などと世にも恐ろしい叫びは日に日に変わっているので、結構な数がいるのではないかと思います。実際、夕方から外出禁止にするまで数人死んでますが、そういった人たちの声も交じっているようで」 ともかく、10体程度が夜の村をくまなく漂っているようだとの結論から、開拓者8人を雇っている最中だと村長は言う。 「私たちは人々に笑顔を届ける雑技団です。笑顔を見ることなくこの場を去ることはできません。……それに、志体持ちもいますので護衛くらいはできます。一緒に村の平和を取り戻しましょう」 陳新が爽やかに言う。背後で闘国(トウゴク)が力強く頷く。前然も、烈花も、兵馬も。 「分かりました。では、よろしければ不安がっている住民にそれぞれついてやってください」 こうして雑技団も巻き込まれることとなった。 やがて雇われた開拓者たちが到着するだろう。 そして、村民の見込みの甘さを知ることとなるのである。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
煌夜(ia9065)
24歳・女・志
アルーシュ・リトナ(ib0119)
19歳・女・吟
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234)
17歳・女・シ
真名(ib1222)
17歳・女・陰
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫 |
■リプレイ本文 ● 「なんだか村の旧家とか、湖に逆さで突き刺さってる人とか出てきそうなのです」 ルンルン・パムポップン(ib0234)が村の西外れに向かいつつ呟いていた。 「それにしても皆喜んでます」 「私だって嬉しいんだからっ」 一緒に歩いていた闘国が言う。ルンルンもこの村に来て雑技団と再開した時、「わぁ、みんなもこの村に来てたんだ、こんな時だけど会えて嬉しいです」と手をぶんぶん振ってはしゃいだものだ。 「あ。湖がありますね」 「ふぅん。ここが村人の言ってた『飢餓を救った湖』」 見回すルンルン。伝説では天女が降り立った場所に湖ができて、そこで多くの魚が捕れたという。水面はキラキラと輝いていた。 ここで新たに二人組が西の湖にやって来た。 「あら、ルンルンさんと闘国くんもここに来たの?」 煌夜(ia9065)と烈花だった。 「煌夜さんもここが気になっちゃいますかっ!」 やっぱり逆さに突き刺さってる人とか、などと盛り上がるルンルンに、これを突っ込みもしない闘国。 「忍者姉ェ、元気だなぁ。余計なことを言わない闘国と一緒だからさらに口が回ってるし」 「とにかく天女様を彫った石が盗まれたとか少し気になるわ」 同行させてよかったと満足そうにする烈花に、すすっと先を急ぐ煌夜。 「あ。ステラ姉ェ、待ってよ」 どうやら今回は煌夜の落ち着いた雰囲気に興味を持ち同行した烈花が慌ててついて行く。 そして、湖畔に佇む子どもの背丈ほどある石を見つけた。 「これと同じなら盗むのは何人かいれば不可能じゃないけど……少なくとも、封印とかじゃなさそうだわね」 「ステラ姉ェ、こういうの好きそーだね」 丹念に調べる煌夜をからかう烈花だったり。 「ルンルンと煌夜もここか」 ここで琥龍 蒼羅(ib0214)が現れた。 「紫星はまた蒼兄ィと一緒だし」 「アンタたちみたいなガキと一緒じゃうるさいだけだからねっ」 突っ込む烈花にツンとそっぽを向く紫星。 「気になるの?」 「ああ。調べるならアヤカシの出ない昼しかないしな」 聞いた煌夜に答える蒼羅。一緒に調べる。 「それより、アヤカシの声に今回の犠牲者の声が混じっているらしいな……」 「ええ。……発端かどうか分からないけれど、過去に出た三十人ほどの犠牲者。そして下手をすると新たに出た犠牲者を加えたぐらいの数は相手しなきゃいけないかも」 ぼそりと呟く蒼羅に溜息をつく煌夜。 「幽霊にした親玉とか、殺人犯型アヤカシが居そうな気がする……」 そんな様子に、湖を調べていたルンルンが指を口に添えつつひとりごちる。 「それだ」 振り返った蒼羅と煌夜が口をそろえるのだった。 ● 同じ頃、村では。 「天女の祟り……か。アヤカシが何でここの伝説知ってるんだろうねぇ」 九法 慧介(ia2194)が戦いやすい場所や退避しやすい道などを確認しつつ歩いていた。 「……つまり、手品兄ィは祟りじゃないと考えてる?」 ついて歩く前然が聞いた。慧介が民家の住民に「夜になったら明かりを外にできるだけ灯してください」と伝えた後のことだ。前然はこの考えに感心して慧介に同行していた。 「過去の事件が祟っているといえばそうだけどな。……そうなると、敵は10体以上。それとも他の何かが待っているのか」 んー、と顎に手をやり考える慧介。 「全ては今夜かな」 にこっと結ぶ。迎撃準備に余念がないのは、この気持ちがあるからだ。 他にも民家に明かりを頼んでいる開拓者はいた。 三笠 三四郎(ia0163)である。 「なあ、明かりを点けてもらうってことは、村の中で戦うのか?」 一緒に歩く兵馬が聞く。 「布陣は村の外のつもりですが、どうなるか分かりませんからね。念のためです」 眼鏡の奥で三四郎の目が優しそうに細められた。が、すぐに見開かれる。兵馬の視線に気付いたのだ。 「これに興味があるようですね。……はい。持ってみますか?」 「へへっ。ありがてぇ」 手にしていた三叉戟「毘沙門天」を貸す三四郎。兵馬は馴染みのない長物を受け取ると、楽しそうに構えてみるのだった。 一方、村長宅。 「『天女伝説』……ね。名前の割りになんだか血生臭い話に……」 真名(ib1222)が、改めて村長から話を聞いて溜息をついていた。 「香鈴の皆も大変な時にきたのね」 「でも、香辛姉さんたちに出会えたから」 隣に座る皆美に視線をやると安心した笑顔が返ってきた。 その隣には嶽御前(ib7951)がいる。 「祟りとか、叫び声とかが気になります」 「気になる、とは?」 嶽御前のさらに横にいた陳新が反応した。 「我も見てないので何ともいえませんが、敵は10体以上で別種もいるのでは、と」 「他の人も言ってましたね」 説明する嶽御前。陳新も頷く。 「敵の攻撃として呪声のようなものや呪いや魅了のような状態異常、あるいは集合体になって周囲に呪声の範囲攻撃をしながら突っ込んでくるようなものなどがありそうです」 「うーん。念の為日中何世帯かずつ固まって避難出来ないかしら?」 さらに言う嶽御前。これを聞いていたアルーシュ・リトナ(ib0119)が右手の平を頬に添えて首を捻った。 「我たちはある程度固まって動いた方がいいかもしれぬ。避難はよいじゃろうな」 「確か、ほかの開拓者も『集めて叩く』とか言ってましたし」 うん、と嶽御前と陳新が頷く。こうしてある程度住民には固まってもらうことになった。 「そして、在恋さんたちは無理はせず、村の皆さんを宜しくお願いしますね」 アルーシュはそう言って呼子笛を在恋に手渡した。 「そして誰かが泣いてしまったら、元気が出るおまじない。何か明るい歌を歌ってあげて下さいね。在恋さん」 優しく、にっこり。 「うん。歌姉さんにも、おまじない」 受け取った在恋はアルーシュにぎゅっと抱きついて「無理しないで下さいね」とささやくのだった。 ● そして、夜。 開拓者達は村の北外れに集中して陣取っていた。 「盗まれた石は……若しかして何かの封印だったのでは?」 アルーシュが聞いてみた。実は天女ではなく別のものがこの地に舞い降りていた、などという可能性を思い描いたものだ。 「それは私も思って調べたけど……違うわね」 煌夜が否定する。 「私は皆美と聞き込みしたけど、有力な話はなかったわ」 真名の方は、「盗まれたのではないのでは?」という線を疑っていた。さすがに「湖に沈められた」、「天に帰って行った」などの説も出てきてむしろ混沌としたらしいが。 「でも、敵の叫びから『村の北から来る』と分かったのは良かったですね。村内を戦場にしなくていいですから」 後ろで束ねた髪を揺らしつつ三四郎がそう言って前に出る。手には三叉戟「毘沙門天」。すでに周囲に明かりも確保している。アヤカシどもをここに集めるつもりだ。 「村人には恐怖を誘うが、逆に手がかりになった。なかなか面白い」 嶽御前は霊刀「カミナギ」を祈るように構え、後ろに。すでに瘴索結界「念」で範囲警戒もしている。 「皆さん、闇に呟く者達が接近してきます!」 そして超越聴覚で音響索敵をしていたルンルンの叫び。 「確かめるわ」 霊符「文殊」を構えた真名が、人魂で小さな梟型の式を作って飛ばした。 「10体以上。固まってこっちに来てるわ」 「それくらいなら……。行ってきますね」 真名の目視確認に、三四郎が単独で前に出る。 ――ぽろん。 ここでビロードのような美しい音色が響き渡った。 「気をつけて」 アルーシュが詩聖の竪琴で天鵞絨の逢引を奏でたのだ。 やがて不気味な響きで聞こえてくる、「天女様の祟りじゃ〜」。 「来ましたか」 突出した三四郎が浮遊する幽霊の群れを見つけると雄叫びを上げた。「『武天辺境のもののふ』と書いて『武辺者』」などと冗談めかす青年の叫ぶ顔は見えないが、背中は力に満ちていた。 そして咆哮に反応するレイシーども。透ける白い男性や女性姿の幽霊が浮遊しながら寄って来る。 しかし、ここで予想外の出来事が発生するのだった。 ● 三四郎の狙いは、単独戦闘ではなかった。 「ん?」 後方の味方へと効果的に敵を連れて行くべく後退を始めたのだが、敵が一定距離以上寄ってこないのである。 「寄って来ない割に見えない刃が襲ってきますね」 下がる三四郎に合わせ一定距離を保ちつつ攻撃を集中してくる。 「我たちと同じで、あれが敵の間合いでは?」 神風恩寵で援護しつつ嶽御前が叫ぶ。 「瞬風波には微妙に距離があるね」 「うむ。寄るしかないだろう……」 慧介が殲刀「秋水清光」の鯉口を切っり蒼羅も斬竜刀「天墜」腰溜めにしているが、ともに射程外。すぐに前進するが、何故か真っ直ぐ走らない。回り込んでいる。 その二人の真ん中を割り真っ直ぐ走る人物がいるッ! 「姉さん!お願い!」 真名だった。 「ええ。真名さんに力を、皆さんの心に落ち着きを……」 再び天鵞絨の逢引を奏でるアルーシュ。昼間に在恋に言った「おまじない」の心を込めて届ける。 「うん……いい音色。……いっけーーー!」 アルーシュの歌で集中し高揚する心のリズムに乗せ、いま、射程まで踏み込んだ真名が氷龍を呼ぶッ! ――ごぉうっ! 召喚された冷気を纏う白銀の龍が圧倒的なブレスを放つ。 一直線に薙ぎ払う威力は、巻き込んだレーシーどもを一発でふらふらにした。 「止めと、角度をつけて他の敵も」 「翔けろ……、風刃」 もちろん、左右に展開して射程に踏み込んでいた慧介と蒼羅もこの好機を逃さない。秋水清光が、天墜がついに鞘から抜き放たれ風を巻き込み刃となした! 三四郎を追いつつ包囲のため広がっていた敵を、左右から瞬風波で直線貫通の攻撃が襲う。 これで敵の約半数が消滅した。 だが、戦場は別の局面に入っている。 「あっ。別方向からも足音が聞こえちゃいますっ! 闇を貫くニンジャの瞳……ルンルン忍法ニンジャアイ!」 「やや東よりから10体以上ね。……今度は移動の様子が違うわっ」 気付くルンルンに、心眼「集」で確認した煌夜が声を上げる。 「あれは狂骨。引きましょうか?」 「ほぅら、やっぱり。直線に引き込む?」 アルーシュが敵の新手に驚きつつ昼間に確認した迎撃に向く場所を思い描いていた。煌夜も素早く読み取って周りに問い掛けてみる。 「いや、今度は咆哮がうまく利きそうです」 三四郎、再び咆哮を狙う。今度は接近戦タイプだからとの打算がある。 これは実際うまくいった。 が。 「ぎゃぁ〜〜」 「天女様、ひどいです〜〜」 レーシーの不気味な叫び声はまだやまない。 「くっ。まさか狂骨とレーシーが同時に集まってくるとは」 三四郎、咆哮が広範囲に利いてしまい、狂骨に詰められた挙句、距離を取っているレーシーからも集中砲火を浴びていた。 「大丈夫よ。うまく分担できてるから」 ここに降魔刀を掲げた煌夜が加勢する。味方に接して範囲攻撃できない邪魔な狂骨を白梅香でとにかく叩っ斬る。そんな煌夜も受けの姿をたまにする。その度に灰色の地場が形成されているではないか。 「く。視界がぼやけるのは幻覚か……」 「あれは苦心石灰……。はっ、三四郎さん」 二人の苦戦を知って嶽御前が解術の法で三四郎に掛かった幻覚を解く。 「こっちにも術が来るか」 「……確実に討つ」 レーシーの恐慌や幻覚は慧介にも集中していてた。やはり苦心石灰の地場が慧介を守っていた。この敵を確実に屠らんと蒼羅が走る。同時に鞘奔った居合いが敵を斬る。 「固まってなくても斬撃符があるわ」 「しかし、本当に10体以上とは……」 真名の援護に後衛の盾たらんとする慧介が持ち直す。 「皆さん、頑張って……」 アルーシュも位置を変えつつ、乱戦になった戦況に合わせて黒猫白猫を奏でて応援するのだった。 「はっ!」 そして、それまでいつもより大人しく戦っていたルンルンが、目を丸くして顔を巡らせたッ! ● 「聞こえちゃいますっ! 村の東側から何か来てますっ!」 それだけ叫ぶと戦場を後にして駆け出すルンルン。 「ん? 狼煙銃も上がったな」 「ごめんっ。あと、頼むわねっ」 これに気付いた蒼羅と煌夜も駆け出した。 やがて、頭に巻いた鉢巻に蝋燭を何本も立て、仰々しい鎧をつけた両刀構えの亡霊を発見したのだ。レーシーほどではないが、「天女様の祟りじゃ〜」などという声が聞こえる。 「犯人型のアヤカシですねっ。そんなの、ルンルン忍法にはお見通しなんだからっ!」 突っ込んだルンルン。敵も刀を振りかぶって寄って来ている。ルンルンの手には名刀「エル・ティソナ」があるが……。 「ジュゲームジュゲームパムポップン……ルンルン忍法カミカゼの術!」 左手に持っていた霊杖「カドゥケウス」を掲げて確実に先手を取ることにした。 しかし、敵は距離を取ったのを気に呪声を浴びせてきた。くっ、と顔をしかめるルンルン。なかなか敵は強い。 「先に行け、煌夜」 「恩に着るわ」 ここで追ってきた蒼羅が瞬風波。煌夜が長く編みこんだ銀髪をなびかせ詰める。 「どうだっ!」 振るった刀は受けられたが、これあるを期して白梅香。煌夜、そのまま圧倒する。 「これで止めですっ」 そしてがらがらの脇をすり抜けながらルンルンがずばっと斬り敵を黙らせるのだった。 元の戦場では、ついに攻勢に出た慧介と敵の数が減って楽になった三四郎が暴れ、全滅させていた。 「なるほど。だから犯人型アヤカシは東から来たんですねっ」 翌朝、納得するルンルンの声が響いていた。 どうやら昔の三十人殺しの犯人の死体は、天女の像から一番遠い村の東に葬られていたらしい。 「そして北の共同墓地には、犠牲になった人たち」 アルーシュがしみじみ言う。 「後で行きましょう。鎮魂の歌と、祈りを……ね?」 「そうね、姉さん」 微笑むアルーシュに、真名が頷いた。在恋も行きたそうで、もちろんこちらにもにっこり。 「紫星はよく知らせてくれたな」 「ま、あれだけ不気味な格好してちゃね」 蒼羅は、屋内から視認して狼煙銃を上げた紫星を労う。 「でも、今回の犠牲者はアヤカシになってなかったのかしら?」 首を傾げているのは煌夜。レーシーは最近の犠牲者の口調は真似していたが、敵の数は30以上いなかった手応えだ。 「でもまさか、このところの雨で崩れた場所に犯人の鎮魂石碑があったとは」 嶽御前が呟く。これが今回の事件の発端らしい。村人達は犯人アヤカシの活性化で犠牲者の無念もアヤカシとなり蘇ったとか何とか理屈をつけているようだ。 「声のあるレーシーで村人が閉じこもった結果、音の少ない狂骨には気付かなかったということか」 手品に応用できるかな、などと慧介。 「ともかく、終わりましたね」 三四郎がにこやかに結論付けるのだった。 ● しかし、アヤカシは狂骨が2体残っていた。仮にレーシーと狂骨の合計を数えていたなら、倒した数は28体だと分かったであろう。 開拓者達の帰った晩、この2体の襲撃があった。 ただし、これは前然、烈花、闘国、紫星が退治し事なきを得たという。 |