南那亭、みどり牧場へ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/21 22:19



■オープニング本文


異国の地より届けに来ました
開拓者たちはギルドをあとに


 神楽の都の一角で、そんな歌声が響く


裏道一本 はためくのぼり
遥かな芳香漂うところ


 ふんふん、とひらめくフリルいっぱいのスカートの裾。
 メイド服姿の女性が、くるりん☆と身を翻す。
 ちょうど背伸びして暖簾を掛けていたようだ。


カホア・アルナンナティ
香陽(コーヒー)ある南那亭


 開店準備良し、と振り返ったのは、南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)。今日もご機嫌のようで。
「おはよう、真世君。今日は店休日かと思ったよ」
「きゃあああああっ!」
 いきなり声を掛けられ悲鳴を上げる真世。すぐにその人物が南那の珈琲通商組合の旅泰、林青(リンセイ)だと分かりほっとしたが、今度は「えへへ」と真っ赤になっていた。
「その、ごめんなさい。寒かったから寝坊しちゃって」
「いいよ。それより早速、珈琲が欲しいんだが」
「はい、かしこまりました」
 ともかく、店内へ。
「確かここが開店した時、手伝ってくれた開拓者たちは珈琲にたくさんのミルクを入れたがってたね?」
「うん。今もそういうお客さんからの声は多いよ?」
 入れてもらった珈琲の温もりと香りをまずは楽しみながら、林青が話を切り出した。真世も座ってちゃっかりモーニング珈琲としゃれ込んでいる。
 ちなみに開店当時。
 泰国で飲まれていた珈琲で商売しようとしているのに、ミルクに添付する調味料的な印象を持たれてしまうと珈琲としての商売が成り立たなくなるため大量にミルクを仕入れて提供することはしなかった。ミルクは日持ちしないため喫茶店形式の商売ではリスクが高すぎることや、安定的かつ安価にミルクを仕入れることができないという理由も大いにあったが。
「珈琲も神楽の都では随分親しまれてきたし、『珈琲はミルクの調味料』という誤解のされ方もしないだろうから、そろそろそちらにも本腰を入れようと思うんだ」
「え〜。いまさら?」
 ぶーたれる真世。今まで珈琲一本でやってきたので不満があるのだ。その辺り、林青も理解しているので特に不機嫌な顔はしない。
「真世君やほかの開拓者たちにはとても感謝しているよ。いままで、何の馴染みもなかった異国の飲み物を広めてくれてね。……だから今、ミルクの導入も検討できたということだから」
 それにね、とウインクする林青。
「武天の合戦で焼き払った魔の森跡地に、牧場ができたんだから商人としては早めに抑えときたいわけさ」
「あ。ギルドで依頼を見たことある。『みどり牧場』ね? 私も一度行ってみたのよねっ」
 新し物好きな真世はあっさりこの話に飛びついた。
「うん。そこがミルクの安定的な取引先を探してるんで一度話したら、『ぜひ一度牧場に』って招待されてね。真世君ももちろん、行くだろ? 南那亭の雰囲気を伝えるために、ぜひその格好であちらの人にも珈琲を飲んでもらって好きになってもらって……」
「あはっ。こちらは珈琲豆の卸し先として契約したいのね?」
「そういうこと。双方満足して共に世界が広がる契約が一番だからね」
 明るい笑顔を見せる真世に、珈琲を味わいながら答える林青だった。
「現地には私の中型飛空船『万年青丸(おもとまる)』で行くから。現地では雪も残ってるし、広々してるから朋友も一緒がいいだろう」
「その牧場、馬もいるの?」
 真世が身を乗り出した。
「ああ、いる。……それと、跡地には広くキジが飛来しているらしいから猟をして夕食にどうだって誘われた。霊騎で遠乗りして猟をしてもいいし、現地で馬を借りて遠乗りもいいんと思うね」
「よ〜し。それなら早速、開拓者ギルドで参加者を募ってくるね」
「南那亭として行って給仕をしてもらうから、薄謝はだすよ」
 というわけで、南那亭の従業員として同行してもらう人、求ム。
 ちなみに、南那亭での給仕はメイド服と執事服が借り出される(自前でも可)。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
唯霧 望(ib2245
19歳・男・志
禾室(ib3232
13歳・女・シ
泡雪(ib6239
15歳・女・シ
愛染 有人(ib8593
15歳・男・砲


■リプレイ本文


「南那亭の執事服……。何度袖を通しましたかね」
 シャツの袖を慣れた手つきで止めつつ、唯霧 望(ib2245)が呟いている。
 ここは、武天にあるみどり牧場の鹿野平邸。
「もちろん、今日もいつもと同じくお客様に満足して頂ければ」
 襟元もきりっとネクタイで締め、気も引き締める。
 どうやらここは男性用更衣室として使っているようだ。
 がちゃり、と扉が開き誰かが入って来る。
「お疲れ様です。早速執事服に着替えて……」
 前髪を手で流しつけながら望は振り向き声を掛けた。
「あ、はい」
 入ってきたのは、愛染 有人(ib8593)。一角獣の獣人男性だが……。
「じゃ〜ん。あると様のメイド服は持ってきてありますのよ〜♪」
 有人の朋友、羽妖精「颯」がすすっと割り込んでぴろりん☆とメイド服を広げたではないか。
「はぁ〜やぁ〜てぇ〜さぁぁ〜ん……」
 がくー、と肩を落とす有人。
「あなたの身長に合う執事服はないようですのでそちらを使ってください」
 望、楓の着ているメイド服が有人に出したメイド服とお揃いだと気付き、それだけ言って部屋を後にした。腕に掛けて持つ服が有人用の執事服だったのは内緒だ。
「おお、望。福来用に執事服を借りられんかの?」
 廊下を歩いていると、狸獣人でメイド服姿の禾室(ib3232)と出会った。狸型の土偶ゴーレム「福来」を従えている。
「ああ、それならちょうどありますよ」
 にっこりと執事スマイルで応じ着せてやるのだった。

 一方、女子更衣室。
「今回は自分達で仕留めてキジ肉パーティーなのです」
 ぐ、と拳を固めてルンルン・パムポップン(ib0234)が食欲に燃えている。
「あ、ルンルンさん。給仕も手伝ってくださいね」
 くるりん☆とメイド服の裾を翻して振り返った深夜真世(iz0135)がそんなルンルンに釘を差したり。でもって、メイド服を押し付ける。
「えー。ニンジャな鷹狩りを……」
「このメイド服ならニンジャなメイドっぽいですよ?」
 指をくわえ不満そうにするルンルンだったが、「ニンジャなメイド?」と真世の一言に反応。着てみると、胸元がふんだんに開いたメイド服だった。
「わーっ。もしも鎖帷子を着たらニンジャのように隙間から見えますよ〜」
 胸の谷間に指を入れて開きっぷりを確認するルンルンに、真世はそんな謎理論を持ち出して囃したてる。
「真世の言い方じゃ、ボクもニンジャなメイドになっちゃうな」
 ん? と真世が振り向くとそこには水鏡 絵梨乃(ia0191)がいた。見ると、やはり首から胸元にかけて大きく素肌をさらしているメイド服を着用していた。
「そっか。絵梨乃さん、普段は着物の襟をきっちり合わせているから胸の大きさはあまり目立たないけど……」
「でも、真世さんの着ているメイド服は襟をしっかり合わせてくださいね?」
 自分も解放的にしようかなと襟を緩めた真世に、同じく襟まできっちりしているメイド服に身を包んだ泡雪(ib6239)が突っ込んだ。真世の襟をリボンできゅっと締めてやる。
「魅力や雰囲気は人それぞれですから」
 ね♪ と絵梨乃に優しい視線を向けてから真世に向き直り言い聞かせる。
「そうですよ。真世さんには真世さんの、私には私のいいところはあるんですから」
 背後から新たにアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が現れ、ぽんと真世の肩を叩く。
「さて。じゃあ行きましょうか。今日も珈琲の良さをしっかり広めに参りますよ」
 青い長髪をなびかせ、メイド服のスカートの裾をひらめかせ、アイシャが行くのだった。
「まあ、そういうことだね」
 つつつ、とからす(ia6525)が静かに続く。彼女は自前の赤黒メイド服だ。
「今回は牧場で給仕ですか〜」
 今度は紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)がやってきた。
「あたしはいつもと一緒で料理に専念しますからね〜」
「もふ龍も手伝うもふ!」
 胸に抱いた金色のもふらさま「もふ龍」も元気だ。
 ともかく、今日も元気に南那亭が始動するのであった。


 さて、こちらは隣接する寮。
「ほらほら。準備ができたみてぇだから、行くぜ?」
 ここで定点観測をしている貸本絵師、下駄路 某吾(iz0163)が大勢の非番の従業員を連れ出していた。
 そして、招待されている鹿野平邸前で思わず立ち止まる。
「おっ、犬だ」
 入り口にいた泡雪の忍犬「もみじ」が、「いらっしゃいませ」と書いた旗を咥えてつぶらな瞳でお座りをしていた。下駄路らを見ると、にこーっとして尻尾を振る。これが犬好きにはたまらない。
「いらっしゃいませ!南那亭にようこそ」
 そして入ると、アイシャと真世が並んでお出迎え。
「こりゃ、可愛い店員さんだねぇ」
 思わず漏らす従業員。アイシャと真世の後ろでも、ルンルンが足取り軽く、からすが落ち着いた様子でと行き交っている。
「よ。ルンルンさん、人数分珈琲頼むなぁ」
 下駄路は顔見知りを見つけては気軽にまとめて注文するのだった。

 もちろん、厨房は大忙し。
「泡雪さん、お願いしますね」
「ええ。では行ってきます」
 沙耶香や泡雪たちが珈琲を淹れていた。ある程度そろうとまずは淡雪が給仕に出る。
「せっかく新鮮な牛乳が手に入るのですから、それを使ったお菓子を作ってみますかね……」
 続けて沙耶香はお菓子作りに。
「ボクの方はもうすぐだ」
 絵梨乃はクッキーを焼いていたようで、こちらはもう出せる。
「絵梨乃さん、作れるの芋羊羹だけじゃないのね?」
「見くびってもらっちゃ困るなぁ、真世」
 真世の突っ込みに、実は家事全般こなせる絵梨乃が困った笑顔を見せていたり。
 でもって、給仕に出た泡雪。
「お待たせしました。南那亭自慢のコーヒーをどうぞ♪」
 今日も柔らかい物腰で、しっとりとした印象。日ごろ優雅な生活とはかけ離れている従業員たちの顔は輝き――というか緩みっぱなしの盛り上がりようだ。
「すげぇなぁ。神楽の都じゃこういうのが流行ってんのか」
「ちきしょう。俺、一発で珈琲が好きになっちまったぜ」
 開拓者達の編み出した雰囲気を大切にした南那亭商法、ここでも大受けである。
 とまあ、そつのない経験者がいる一方、初々しいのもいる。
「いいのかなぁ……」
 結局メイド服を着た有人が、喫茶店と化した居間の隅でスカートのひだをいじりつつもぢもぢしていた。
「あると様でしたら問題はないかと」
 有人とお揃いのメイド服姿で颯が言う。ちなみに、羽妖精なだけに背中はざっくり開いている。もぢ、と背中も気にする有人だったり。
「おおい、ちょっと」
 ここで、客に呼ばれた。
「は、はぁい、ただいま」
 ドキドキしながらも、お茶受けについて聞かれたことを厨房に伝えに行く。
「表情が硬いですわよ」
 そん有人に颯がご注進。ひくり、と頬を引きつらせる有人。直後、自分の角を使ってとんでもない行動に出る。
「誰の所為だと思ってるのかなぁ?」
「あぁ……つ、角で突かないで! 突かない……アッー!」
 何やってんですか、二人とも。
 というか、普段は「残念妖精」などと表現して溜息をつく有人だが、うまく対応できてほっとした表情を見るに、今のタイミングで声を掛けられたことに相当感謝しているようだったり。
「では、私がクッキーを持っていこう」
 有人の報告を聞いて、からすが動いた。ちょうど朋友の迅鷹「詩弩」にクッキーを与えていたのだ。
「クァ」
 烏のように黒い詩弩は大きな嘴をもたげきょろきょろ室内を見回していたが、皿に盛られたクッキーを見るや首を捻りながら丹念についばみ始めた。「ふふ」と、大人しくなった朋友に笑みを残し、からすは給仕に出るのだった。

 再び、店内。
 鹿野平一家の座るテーブルで、望がスタイリッシュに給仕をしていた。
「珈琲を褒めていただき、ありがとうございます。……次にここ、みどり牧場のミルクを」
 そう言って、新たに持参した珈琲にミルクをたっぷり入れ始めた。
「分達の生産したものでどれだけ味が変わるものなのかを体感して頂ければ、と思います」
「なるほどの。南那亭さんとウチとこならではの味、ちゅうとこか」
 望の表現をすっかり気に入った一人は、すでに満足顔である。珈琲の印象もいいらしい。
「でも、これだけ苦いと子どもにはどうでしょうね?」
「そんなに……苦くない」
 心配する澄江の視線に、孫娘の窓香はぼそっと答えて飲む。
「窓香さんには、大人の方々のものより薄めの珈琲をお出ししましたので」
 望はそう説明する。加えて「ミルクを加えるなど工夫されるといいですよ」と涼やかに。
「そうじゃっ。独特の風味のある珈琲じゃが、この通り、ミルク一つでかなり飲みやすい味に変化しおる」
 残りの追加珈琲を持ってきた禾室が胸を張って説明する。ついでに執事服の上着を着た福来もえへん。
「ん……。おいしい」
 実際にミルク入りを飲んだ窓香の言葉に、周りでわあっと笑顔の花が咲く。
「わしは南那の珈琲が最高じゃと思っとるのじゃけど、それに合わせるならばやはりミルクも最高の物が欲しいのじゃ。その点、ここのミルクならピッタリだと思うのじゃ!」
「ありがとうのぅ。そう言ってもろぅて、ウチの連中も喜んどるんじゃけぇ、お話は受けにゃのぅ」
 禾室の熱意に、一人もうんうん頷いた。
「ありがとうございます。では、ここのミルクは優先的に林青商会が取り引きしまして、主に南那亭に卸させていただきます。そしてみどり牧場様には南那亭の珈琲豆を納品ということで」
 同じテーブルに着いて商談していた林青がまとめる。
「たまに給仕ついでに遊びに着てくれるんなら、喜んで」
 商談成立に、にこやかな笑顔が浮かぶのだった。
「ご主人が作った牛乳寒天を持って来たもふ。……こっちのクリームはクッキーにつけるといいもふよ?」
 ここでからすに抱かれたもふ龍がやって来た。
「すっかり牧場になったね」
 一景夫妻にそう言って従えた真世と一緒に寒天を配るからす。
「私が最初に見た時は焼け野原だったのにね」
「雪が解ければ、放牧地の区分けがあります。もうちょっとですよ」
 からすの言葉に一景が返す。控えめな笑顔と共に。
「へえっ。そういう移り変わり、あたしも見てみたかったです」
 アイシャも立ち止まって話に加わる。その奥では一人が牛乳寒天をぱくり。
「これはええのぅ。こうしてウチの牛乳が形を変えて、天儀の食生活を豊かにするんか……」
 一人の呟きに鹿野平一家は幸せそうな顔をするのだった。


「今度は私たちがおもてなしする番。皆さんは存分にみどり牧場を堪能してください」
 珈琲の試飲会が終わると澄江がそう言って開拓者たちを外に案内した。皆、すでに普段の服装に戻っている。
「さ、真世さん。遠乗り行きましょう。どれだけ乗れる様になっているのか見てあげますね」
 アイシャが霊騎「ジンクロー」を連れて来た。真世の霊騎「静日向」の手綱も引いている。
「他に馬に乗りたいのがおったら、好きに使ってくれてええ」
 一人たちも数頭の馬を引いている。
「それじゃ、私はこの子にしゃいます。真世さん、キジいっぱいとって、夜は盛大にパーティーしちゃいましょう」
 ルンルンはそう言ってひらりと馬上に。迅鷹「忍鳥『蓬莱鷹』(迅鷹)」が真紅の体を大きく羽ばたかせついていく。その向こうではからすが詩弩を連れて馬を借りている。
「うんっ。頑張ろうね、ルンルンさん。って、からすさんはやっぱり黒い馬なんだ……」
「人それぞれ」
「そういえば真世の弓の腕を見たことないな」
 からすの向こうでは、迅鷹「花月」を肩に乗せた絵梨乃がふふっ、と含むような笑みを湛えて馬を借りていた。「そそそ、そんな威張ってお見せできるようなものでは……」とか真っ赤になる真世。
「ほら、あると様。早く乗ってください。私の後ろに」
「ああ」
 一方の有人は颯にせかされていたり。どうやら羽妖精と二人乗りするようだ。
「もふ龍ちゃんもここで」
「高いもふ!」
 沙耶香ももふ龍と二人乗り。
「皆さん、獲物は頑張って調理させていただきますので、沢山捕ってくださいね♪」
「じゃ、行こう?」
 にこにこと言う泡雪もすでに馬上に。真世の掛け声で出発すると、忍犬のもみじが主人の泡雪を元気良く追い掛け走り始める。
 どどどどど、と一斉に丘を下る八騎。全力で走るもみじは楽しそうだ。空には真紅の蓬莱鷹、黒色赤眼四翼の詩弩、そして桜の花びらのような薄桃色の花月が空を飛びついていく。
 そして、残った者たち。
「窓香殿、かくれんぼとか一緒に何かして遊ばぬか?」
 見送った禾室が振り向き言った。「福来も一緒じゃ」と熱心に誘うのは、同年代だから。
「ん……」
 母の早苗に促され、ようやく窓香は頷いた。
「一人さん、私は牧場見学をしたいのですが」
「おお、そうじゃったの」
 望はここぞとばかりに知識欲を満たすのだった。


 さて、遠出組。
 ケ・ケーンと良く響く鳴き声と赤色で目立つ頭部、そして遮蔽物のない場所柄、簡単にサギを発見する。半面、狩る方も隠れる場所がないので微妙に難易度は高くなっている。
「何とか丘の斜面を利用してここまで隠れて接近できたけど……」
「飛ぶ鳥を射落とせて弓使いとして一人前」
 呟く真世に、お手並み拝見とばかりにからすが促す。
「力抜いて。相手の飛ぶ先を読んで射るのだ」
 『鷲の目』も使って、と言った時、真世がきょとんとした。
「真世さん、まさか……」
「えへへ」
 横からアイシャが呆れた。どうやら真世、そんなスキルも習得していないようで。
「それじゃ、もみじを行かせますね」
 はいっ、ともみじを放つ泡雪。もみじは猟犬よろしく駆け出す。
 すぐに気付いて飛び立つキジ。飛び立ちばなで動きが読みやすく広げた翼で当たりやすく、上空と違って距離感の掴み易い今が大チャンスだ。
「はっ!」
「……」
 真世が放った瞬間、からすが六節瞬速の矢で追撃していた。
「その気はなかったが、こんなものかな?」
 真世の矢はかすっただけだが、これあるを期して放ったからすの矢が見事、当たった。わふわふともみじが獲物をくわえて戻ってくる。
「真世……」
「きゃ〜。もみじちゃん賢い賢い♪」
 呆れる絵梨乃にごまかす真世。「まあ、距離がありましたしね」とアイシャが苦笑しつつ庇う。
 その後もキジ狩りは順調だった。
 絵梨乃の迅鷹、花月が地上でのんびり佇むキジに襲い掛かる。もちろん、キジも遮蔽物がないので察知も早く、先に飛び立つ。
――ターン。
 ここで有人の朱藩銃が火を噴いた。見事に命中。花月が鷲掴みして戻ってくる。
「見事です、有人さん」
「ありがと、アイシャさん。それより、銃声を何とかする方法って無いのかな……」
「無い物ねだりをしても仕方ありませんわよ」
 褒めるアイシャにむー、と難しい顔をする有人。そんな主人にとっくり言って聞かす颯だったり。
「何、問題ない」
 三人の背後でからすが指差すのは、戻って来る詩弩だった。こちらもキジを掴んでいる。銃声に驚いて逃げようとした別の場所のキジを、高速移動で仕留めたのだ。
「賢しいな、詩弩は」
「こっちは食い気だな」
 戻ってえへんと気取る朋友を言葉で労うからすに、同じく褒美をせっつかれ芋羊羹で労う絵梨乃。からすは鮮度を気にしてすぐに血抜きを始める。
「それじゃ、私は先に戻って調理をいたしますね」
 やはり泡雪は調理の方が気になるようで、これまで狩ったキジを持って引き返した。
「あたしはもふ龍ちゃんと一緒に牧場の春を探しに行こうかと思います」
 沙耶香は他の食材探しに。
「何かあるもふかね〜?」
「これからの季節ですと、つくしとかふきのとうとかが見つかりますかね〜?」
「あっ。それなら私も行くっ」
 もふ龍の疑問に答えた言葉に真世も反応。
 というわけで、狩りはここでおしまい。改めて遠乗りに出発。
「遠乗りで景色を見るのもいいですが、出向いた先で立ち止まって気付く光景もいいですよね」
 可愛らしいつくしを摘んだアイシャがにこやかに言う。後ろではもちろん、沙耶香と真世がつくしを摘みつつきゃいきゃいやっている。もふ龍は川でぺしりと水面を叩くようにして魚を捕っていたり。小さいのでリリースしているが。
 もちろん、機会があればキジも狙っている。
 ドカカッ、と馬を駆りルンルンが飛び立つキジに追いすがっていた。
「蓬莱鷹ちゃん、今こそニンジャ合体です……逃がさないんだからっ、ニンジャフォースの輝きを宿し、切り裂けシュリケーン!」
『ヴォォォン』
 蓬莱鷹を『煌きの刃』で手裏剣「八握剣」に同化させ、放った。煌めく光に包まれた手裏剣がキジを落とす。
「これがニンジャ式の真の鷹狩りなんだからっ」
 本当ですか、ルンルンさん?
 と、そこへ望が来た。朋友の霊騎「霞」に乗っている。早速真世が珍しそうに近寄ってきた。
「わ。これが望さんの霊騎ね?」
「ええ。これでも競馬に出たこともあるんです。霊騎として一緒になったのはこの『霞』が最初ですけど」
 留守のつもりがここまで来てしまいました、と気持ち良さそうな顔をする望だった。


「へええっ。そんなことがあったんかい」
 夜、キジ鍋を前に一人がそんなことを言う。
「一人さんにも今度見せちゃいますよっ!」
 ルンルンが元気良く言う。どうやらニンジャ式以下略を説明していたようだ。
 もちろん、全員がキジ鍋を囲んでいる。ほふほふと肉や野菜をほお張っている。
「それにしてもキジ肉、美味しいですね」
「だよね〜、アイシャさん。こう、肉が締まってて食べ応えがあって」
「ええ。脂をいい具合に含んでいるので味わいもありますね」
 アイシャの視線に真世が同意し、隣の望も頷く。
「命の糧に感謝、だ」
 からすもじっくり味わいながら、皆で食膳に手を合わせた時の言葉を改めて繰り替えす。
「シンプルに焼き鳥もありますよ」
「つくしの炒め物もあります。皆さんどうぞ☆」
 加えて泡雪と沙耶香が串の大盛りを持ってきた。こちらは皮付きでぱりっとしつつコリコリしてやはり評判だ。
「わしのおたまとサバイバルナイフも火を噴いたのじゃー!」
 えへん、と手伝った禾室がサバイバルナイフを掲げていたり。
「そういえば望さん、乗馬は初めてじゃない?」
「競馬に出たこともあります。『ナギ』は元気ですかね……」
「そうそう。望にもわしや窓香殿と一緒にかくれんぼを、と思っておったのに隠れるようにいなくなりおって」
 真世が振った話題に懐かしそうにする望。そこへ禾室が来てワイワイと。
「真世さん、ちょっと」
 ここでルンルンが真世を連れ出す。
「泡雪も腰を落ち着けて食べたらどうだ」
 場が落ち着いたのを見計らって、絵梨乃がと泡雪を隣に呼んだ。
「楽しまなきゃソンだぞ? はい、あ〜ん」
「え? え? あ……あ〜ん」
 身を寄せ様子を隠しつつ迫る絵梨乃の顔に、真っ赤になりつつあ〜んする泡雪。照れつつも嬉しそうだ。
 ところで、これを目敏く目撃していた者いたッ!
「あると様? はい、あ〜ん」
「ええ〜っ!」
 颯の突飛な行動に慌てる有人だったり。
 もちろん詩弩が焼いた肉をガツガツやるなど他の朋友も楽しんでいる。

 そして最後に。
「食後に至福の一杯もどうぞ」
 にこっ、と笑顔でメイド服に着替えたルンルンが、真世とともに珈琲を配る。
「……いいな、こういうの」
 温かい珈琲を両手で包みながら、窓香が周りの賑わいを見守るのだった。