雨のそぼ降るそんな日は
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/13 19:43



■オープニング本文

 しとしと、しとしと。
 春を控えたこの時期は、季節変わりの雨が降る。
 そんな日はどこを見ても青暗くにじみ、遠くに見える人影もおぼろで消えてしまいそう。
「おかしい、あの人が帰って来ない」
 ある農村では、実際にそんな声が上がる。
「川も増水しとる。流されたかもしれん」
「とにかく村で男衆を集めて捜索しよう」
 結果、手がかりも得られず。

 後日。
 しとしと、しとしと。
 はやり今日も季節変わりの雨が降る。
 村は青暗くにじみ、遠くに見える人影もおぼろで消えてしまいそう。
 いつかの日より湿っぽいのは、あるいは実際に帰らない人が出たからか。
「きゃあああっ! 家の人が〜」
 その村で、新たにそんな声が上がった。
「一応捜索してみるが」
 やはり、無事に帰ることなく遺体も見つからなかった。
「流されたんなら、下流でないと仏さんも浮かばんじゃろうが」
「ともかく、一人で外出はせんように通達しよう」
 おかしい、と思い始めたころである。

 さらに後日。
 しとしと、しとしと。
 七日ぶりにまた季節変わりの雨が降った。
「今度は巡廻に出た六人で消えただとっ!」
 やっぱり青暗くにじむ村で、村長が声を荒げていた。
「でも今回は手掛りがあります」
 聞けば、ある大きな橋「惑い橋」に、いなくなった者が履いていた草履が落ちていたのだという。
「ということは、やはり増水した川に落ちたか」
「でも、六人で巡廻してて誰も帰って来ないということは……」
「全員落ちた、ということじゃろうが……」
「そんなことがあるのかのぅ?」
 村長宅に集まった全員が、首を捻る。
「こりゃもう、アヤカシの仕業でないか?」
「それにしても、六人全員が逃げることもできずに、か?」
 うーむむ、と首を捻る。
「アヤカシが六匹いたら、と考えたら?」
「その線かもな。とにかく、開拓者を雇おう」
 これが村の最終決断であった。

 が、ここで。
「それならばわたくしめにお任せを」
 ちょうど村を訪れていた商人がほくほくと間に入った。
「わたくしも開拓者ギルドにはお世話になっている身。それは『川姫』と呼ばれる、男性を誘惑するアヤカシである可能性が高そうですなぁ。被害者は全て男性で?」
「ああ、そうじゃが」
「ははぁ、噂に聞く『川姫』の可能性が高まりましたなぁ」
 商人、したり顔で頷く。
「商人殿、何か策でも?」
「女性開拓者を男装させて囮にしてみても面白いかもしれませんよ?」
「おおっ! それは名案じゃ」
 実際、名案かどうかは不明である。
 だが、これで村人たちは事情通に見えたこの商人にすべて任せる決心をした。……当然、いくらかピンはねされるのだが、開拓者をあまり雇った経験のない村人は喜んで全てを任せることにした。
「チョコレート交易船の艦長もやっている開拓者をまずは雇います。……どうです? この機会に神楽の都で流行しているチョコレートも購入してみては」
 商人、ついでにチョコレートも売るつもりだ。
 それはともかく、川姫退治にコクリ・コクル(iz0150) が呼ばれるのだった。
 加えて、残り六人の開拓者も募られた。


■参加者一覧
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621
16歳・女・騎
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
闇野 ハヤテ(ib6970
20歳・男・砲
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文


 しとしと、しとしと。
 依頼のあった村は今日も静かに雨が降っていた。
 ただし、霧雨。むしろ今日は霧の方が濃い。視界は悪い。
「まあ、囮をするなならいい日和だよね」
 軒下から空を見上げてコクリ・コクル(iz0150)が呟いた。いつもの短いスカート姿ではなく厚司織「満月」を着ている。
「コクリちゃん、ご機嫌よう」
「あ、あれ?」
 突然横から呼ばれてうろたえるコクリ。金髪の背の低い人物がいて、コクリの手を取りその甲にキスしたのだ。
「騎士、シャルロット・シャルウィード・シャルフィリーア。参りました」
 シャルロット・S・S(ib2621)だった。いつもと違い髪をオールバックにし、バラージスーツ「デモンズ」 でぴしりと決めている。胸に薔薇の花をつけた男装で、口調も含めいつもの少女らしさはない。今、持参した薔薇の花束をコクリに差し出して涼やかな笑みを見せる。
「シャルさん、すっごい。やっぱり黒い服は似合うねっ☆」
「そうですの? ……あ、いや。そうですか、嬉しいです」
 コクリがわあっ、と喜ぶと、シャルも思わずいつもの調子に戻るのだが、ここは男性貴族的に言い直す。
「川姫……。川に棲み男性を誘惑とは我が故郷に伝わるアヤカシの如しじゃな」
 カツ、とブーツの踵を鳴らして新たに、リンスガルト・ギーベリ(ib5184)がやって来た。執事服「忠誠」で男装している。
「わ。リンスさん、着慣れてるね」
「妾は育った環境で見慣れておるしの」
 コクリへの返事と同時に、白い手袋をした手に持つ布巻きのステッキを気取った風にくるんと回す。少年執事というには金髪が長過ぎるが、後ろで束ねごまかしている。
「そういうコクリちゃんの男装も可愛いよ♪」
 新咲 香澄(ia6036)もやって来た。
「可愛かったらいけないような気がするけど。って、香澄さんっ!」
 コクリは早速突っ込んだ。
 何と香澄。事前に囮役をすると言っていたのにいつもの同じ格好だ。髪型もそのまま。
「ボクってそれほど変えなくても男性っぽくないかな?」
 頭を掻きながら香澄が言う。
「え〜と……」
 返答に困るコクリの周りで、思わず頷くシャルとリンス。
「ボクは中性的だし胸無いし……って余計なお世話だっ!」
「何も言ってないですの」
「汝に自覚があるのなら」
 香澄が突っ込み賑やかになる。最後には「でも、シャルさんもリンスさんも男装似合うなぁ」などと言い、自分も本格的に男装すればよかったと感じる香澄であったが。
 ここで、ぽふりとコクリの頭に三度笠がのせられた。
「この村の男性という感じを出した方がいいと思います。……それに、濡れますしね」
 朽葉・生(ib2229)だ。人数分の外套と三度笠を持っていた。
「あ。この村の人って思わせた方が囮になるか」
 くいっと笠を整えつつコクリが言う。
「敵の攻撃として考えられるのは、状態異常系でしょうか」
「うむ、妾もそう思うの」
 生はシャルや香澄に手渡し言う。リンスも受け取り頷いた。
「通常の攻撃対策は私が」
 嶽御前(ib7951)は皆に加護結界を付与して回る。
「嶽御前さん、久し振り」
「コクリさん、夢魔退治振りじゃの」
 笑顔を見せる嶽御前。それはそれして、このやり取りを遠巻きに見詰める男が一人いた。
「見事に女の子の中に一人だけ男……かぁ」
 闇野 ハヤテ(ib6970)であった。
「ほとんどが俺より年下だよなぁ、女の子には怪我させたくないけど……」
 ぶつぶつそんなことを呟いている。開拓者なのだから無用の配慮なのは自覚しているが、それでも怪我はさせたくないしなどと悶々。
「わっ!」
 そんなハヤテが驚いたのは、いつの間にかコクリたちが目の前にいたから。
「ハヤテさんはボクたちと一緒に囮だよね。よろしくっ」
「ああ、よろしく」
 もとよりやることは決まっている。
 吹っ切れた様子でコクリに笑みを返すハヤテだった。


 そして場所は、「惑い橋」。
 7人が現場検証していた。
 川で空気の流れがあるせいか、若干霧は薄れている。同時に増水し流れが速くなっているため音が聞こえにくい。
「しまった。二段の眼鏡橋だから、反りで橋のたもとからどちらも見えにくいんだね」
 被害者の草履が残されていた橋の真ん中に立ったところでコクリが左右を警戒した。
「大丈夫。コクリちゃんを危険な目に合わせないように頑張るからねっ!」
 すっとコクリに身を寄せる香澄。
「ここは昔から身投げが多くあるようだ。交通の要衝だがひと気がないと怪しい雰囲気になるから気を付けろといわれた……ですの」
 シャルもコクリと香澄に身を寄せ、周囲を警戒しながら村人に聞いた話を口にした。
「なるほど、『惑い橋』な……。コクリちゃん、俺が油断して誘惑された場合、攻撃でも何でもしていいから止めてくれな」
「分かったよ、ハヤテさん」
「手は用意してるから、安心して」
 ハヤテの言葉に頷くコクリに、策ありの香澄。
 実は香澄、状態異常対策への自信はややある。仮に唯一の男性であるハヤテがアヤカシに魅了されたら自分も魅了される振りをするつもりだ。
「妾とて、アヤカシの魅了なぞ我が友の太陽が如き笑顔の前では……」
 リンスは出発前、大の親友と「絶対に魅了されない」と約束したようだ。布巻きのステッキを握り締める手に力を込める。友人以外に魅了されるつもりはない。
「まあ、視界が悪くとも瘴索結界で慎重に川姫らしき反応を探査しますので」
 嶽御前が霊刀「カミナギ」を使い瘴索結界を張った。
「そうですね。ちょうど村人がいなくなった時間だとは思いますし。……それにしても、川は広いですね。水深は増水してもそんなに深くないと聞きましたが」
「人魂で探ってみようか、生さん」
 生が市女笠の隙間から下を見ると思案げに呟くと、香澄が人魂を鮠の姿にして川に投じてみた。急流に投じてしまったのですぐに流されてしまったが。
 その、時だった!
「あっ! 反応ありじゃ。橋の両側から二体ずつ」
 嶽御前が笠を跳ね上げ警戒を促した。
「コクリちゃん下がって。ハヤテさんっ!」
「ああ……」
 香澄が上流から見て右手に、ハヤテと共にそれとなく向き直る。
「気力を込めて抵抗しようぞ。……淫婦の笑みなどに負けぬ」
「シャルも気力で振り切り、引っかかった様に少し言いなりになってみます!」
 左手矢面には、リンスとシャルが向く。
「コクリさん、戦闘が始まれば私がアイアンウォールで橋を閉じますので」
「逃がさないようにしてここで決着だね」
 両側から守られた中央では、生とコクリがそんなひそひそ話。
 そして、両側からアヤカシ「川姫」が姿を現した。
 反りの頂点で今、ピタリと止まる。
 その姿は、市女笠に着物姿。立ち姿はしなりとくびれ実に扇情的である。
「怪しい雰囲気がします。皆さんの抵抗、普段より落ちるかもしれません」
 中央の嶽御前が引き続き情報をささやく。
(相手は慎重だったはず、ですの)
 止まった相手にシャルが警戒する。
(特殊攻撃、範囲攻撃に注意じゃ)
 リンスもまずはそちらを警戒した。
(誘惑に……まだ掛かってないね)
 ハヤテはちらと隣の香澄を見て確認した。
「みんな……大丈夫?」
 呼応するかのように香澄が潜めた声を出す。
 ここで、疑問を抱く読者がいるかもしれない。
――どうして開拓者達は一気に敵に攻撃を仕掛けないのか?
「敵は6体と思われるが、討ち漏らしがない様にせねばの」
 理由は、同じく声を潜めたリンスの言葉に集約されている。
 残り2体がいるとして、討ち漏らして逃げられたくはないのだ。ここは敵の手に乗ったように見せ、一網打尽と行きたいというのが彼女達の本音。
 しかし、これによりとんでもない状況に陥るッ!


「あ!」
 ここでシャルがひらめいた。
 と、同時に川姫たちが市女笠を上げたっ!
「うふふ」
 まるで陶器のように白い肌に艶かしく映える口元の紅。
 そして何より、甘く妖しく誘うような視線。
「くっ……」
 魔導書「祈念の書」を握り締め友の笑顔を思い描き抵抗するリンス。
(う……。油断どころじゃ……)
 何とか抵抗するハヤテ。
「何?」
 そして掛かった振りをしようとしたところで目を見開いた。
「一つ、一目で惚れたなら」
「二つ、二人で流されて」
 川姫どもは、効果を確認することもなく空間を滑るように一気に詰め寄ったではないかっ!
 そしてシャルの言葉の続き。
「誘惑以外にも強引に河に引きずり込む様な手段があるかもしれないですの!」
 慌てて注意を促す。
「三つ、見送り振り切って」
「四つ、黄泉にて暮らしましょ」
 次の瞬間、川姫が、ひひひひひ、と血の気も引くような低音で笑い開拓者たちに抱き付く。
「まさか!」
 剣を抜くが左右同時進行で身動きが取れないコクリ。
 囮四人は「一度術を食らい抵抗する」ことを目的としていたため、まさかの展開に完全にはまった。
――どぷ〜ん!
 抱きつかれたまま、囮の四人はなすすべなく増水した川に抱かれたまま落ちた。
 唯一、シャルがこの戦法を予感していたが、ひらめいて皆に伝達する瞬間が重なったためどうしようもない。
「そんなっ!」
 欄干に手を付き空しく見下ろすコクリ。
「もう手加減しませんっ!」
 コクリの隣で生が杖「砂漠の薔薇」を振るうっ。下流側にアイアンウォールがどどんとそびえた。上手く川底に召喚できたようだ。
「やった!」
 歓声を上げるコクリだが、激流をモロに受ける壁はあっさり倒れた。
 いや、それでも流れの真ん中に呼んで少しでも左右に振り分けたのは大きい。
 しかし、事態は止まっていないぞ。
「さらに来ます。両側から2体」
「え?」
 引き続き瘴索結界で索敵していた嶽御前。コクリは呆然とした声を出すが、それでも体は動いた。
「ほほほほほほ……」
――どぼ〜ん。
 やはり抵抗するが、その隙に詰められ川に引きずり込まれた。
「コクリさん、嶽御前さんっ!」
 響く叫びと、再び川底に召喚されるアイアンウォール。
 そう。
 無事だったのは生だった。
 元々囮役のコクリが右に行き、左は本来守られるべき嶽御前が身を挺したのだッ。
「そんなっ。私を庇うなど!」
 市女笠を脱ぎ捨て髪を振り乱す生。白い顔をさらに青白く染め呆然と下流を見るが、やがて意を決したように左岸へと回り込み下流へと向かうのであった。


 さて、激流に飲まれたハヤテ。
(……簡単に敗北、なんて馬鹿な話あってたまるか)
 抱きついた川姫の重さに耐えつつ右へ右へと移動している。相当気力を振り絞る困難作業である。体力・体温とも激しく奪われている。
(これ以上、流されてたまるか)
 ぎりり、と歯を食いしばる。開拓者になったのは確かに流された面もある。しかし、今はどうだ? 心に思うところはないのか?
(何事にも囚われない風……憧れだけで終わらせんな! ……俺はっ!)
 普段見せない、彼の激しい表情。川の中なので誰も見る者はいないが。

 同じく、香澄。
(ボクはいつだって前倒れだ。流されるもんかっ!)
 こちらも流されつつも、意地でじりじりと濁流を右に移動している。
 脳裏に守ると約束したコクリの顔が浮かんだ。いや、義姉妹の顔も次々浮かぶ。彼女らは心配そうに香澄を見ていた。
(そんな顔はさせないっ。あの日からっ!)
 戦闘でも余裕の表情を浮かべることが多いのは、そういう意味がある。今、余裕のない顔をしているのは誰にも心配をかけなくていいから。いや、無事に脱出することで安心してもらえるから。

 一方、左側。
「あっ。シャルさん、リンスさん、嶽御前さんっ!」
 川岸を走っていた生が歓喜の声を上げていた。
 川がちょうど曲がっていて左岸が外側になり、うまい具合に倒木が流れてきた丸太などを巻き込み荒い堤防状態になっていたのだ。ここに三人が引っ掛かり、倒木伝いに川から上がってきたところだった。
「大丈夫ですか、シャルさん」
 生、アイヴィーバインド。地面から出た魔法の蔦がシャルにしつこく抱き付いていた川姫を捕まえた。これで脱出したシャル。が、髪は普段に戻り服装も乱れた。
「む! 女ではないか」
 淫靡だった川姫の表情が一転、くわと恐ろしいだけの表情に変わる。
「シャルロット、いざ、参ります!」
 げほっ、と苦しそうにしたが毅然と挑発するシャル。フルーレ「蜂の一刺し」を構え萌黄色のオーラを纏う。
「友と思い掴んでおった魔槍が役立ってくれたようじゃの」
 一方のリンスは、布の外れた魔槍「ゲイ・ボー」を使い川姫を引き剥がした。オーラドライブが怒りを伴い全身に満ちる。
「くっ。離れるのじゃ!」
「嶽御前さん、後はお任せを」
 霊刀で攻撃し川姫を引っぺがした嶽御前。ここに生がララド=メ・デリタを放つ。不気味な音とともに灰色光球が生み出され川姫のみを襲うッ!
 この時には、川姫を迎撃したシャルが突きで、流し切りを狙い襲い掛かったリンスがそれぞれ必殺の手応えに流れた髪とともに敵の最後を見送っていた。

 そして、右岸。
――ズダーン!
 ちょうど川の曲がる内側の河原で、長銃が轟いていた。
 ハヤテである。
「耐水防御に念入りの防水が良かった、か」
 朱藩銃「天衝」の弐式強弾撃は一撃必殺の威力があった。水没した形になったが、各種対策と生に借りた外套の下に隠していたのも運が良かった。事前に込めていた一発は問題なく発射され、近距離射撃も接射に近く、外れる要素がなかった。
 その近くには香澄も何とか流れから脱出していた。
「けほっ。……よくも」
 至近で火輪を放ち川姫を引き離す。これでひと心地ついた。川姫は香澄が女であると理解し怒りを露にしたが、これも運が良かった。間ができた。
「さぁ、ボクの隠し玉、白狐いくよっ!」
 すっかりいつものペースを取り戻した香澄。九尾の大型白狐を召喚する。後は一瞬の出来事である。
「かはっ!」
 ここで、さらに下流にコクリが流れ着いた。少剣「狼」をでたらめに振って敵を引き剥がすと膝をつき、そして崩れるのだった。
「おいっ!」
「コクリちゃん!」
 すぐさま単動作からの射線と白狐が、コクリに改めて襲い掛かる敵に集中するのだった。


「あれ?」
 次にコクリが目覚めた時、心配そうに覗き込む生と嶽御前の顔を間近に見た。
「無事でよかった」
 ほっとする二人の背後で、ハヤテがしみじみ口にする。
 コクリは気を失っていたのだ。
「他のみんなは?」
「シャルさんは犠牲になった人を弔いに」
「念のために見回りたいというリンスさんと一緒にの」
 生と嶽御前が答えた。
 そこに、ドタバタとやって来る人物。
「あっ、コクリちゃん目が醒めた? 良かった。……ほら、商人なんだから薬とかたくさんあるはずだよねっ?」
「そりゃあもちろん」
 香澄が、まだこの村に滞在していた商人を連れて来たのだ。
「それとボクたちの運んだチョコ。ここでもたくさん売れたんだってさ」
 最後にウインクする香澄だった。

 この日の開拓者の活躍で川姫被害はなくなったという。
 惑い橋の名はそのままだが。