【浪志】飲んで飲まれて
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/06 19:13



■オープニング本文

●真田悠
「真田さん、アヤカシ騒ぎはまた東堂さんたちが解決したそうですよ」
「うん、そうらしいな」
 冬の寒空の中、太陽を頂上に往来を歩きながら翔がぼやいていた。
「いいなァ。こんな巡邏ばかりじゃつまんねえや」
 ややして、真田はため息混じりに振り返った。
「いいか、派手な斬りあいだけが隊の仕事じゃない。こうやって毎日街を見回って常に眼を光らせることだって大切なことだぞ」
「……バアさんを背負うのも僕らの仕事ですかい?」
「翔っ、ご婦人相手に失礼だろう!」
 その背には老婆が背負われていた。翔も老婆の大荷物を背負って後ろに続いている。一方の老婆は耳も遠い様子でうつらうつらとしている。その様子に、翔は、不満そうに頬をふくらませた。

●クジュト・ラブア
「くそっ。おかしい」
 薄暗い酒場で、クジュト・ラブア(iz0230) があおった杯を卓に叩きつけていた。
「まあ、お座敷演劇の業界から褒め殺しの仕事日照りは食いましたが、東堂関係者と近衛関係者の宴席が入りますし、そう荒れることもないでしょうに」
 同席するもふら面の男が、面をずらしてちょい、と酒を飲みつつ言う。ちなみに今彼が言った「近衛」とは、若手の大貴族、近衛兼孝(このえ・かねたか)のことである。
「いや、そっちじゃない」
 クジュト、顔を上げて否定する。
「じゃ、なんです?」
「……」
 しばらく静寂が流れる。
「ふぅっ……」
 やれやれ、と頭を振るもふら面の男。
「まあ、そんなことよりクジュトさん、刀はいい物が見つかりましたかい?」
「え……?」
 話題を変えたもふら面の男に、クジュトは意外そうにしながらも明るい顔をした。
「まだですが、どうしたんです? あれほど私に武器を持たせようとしなかったのに」
 元砂迅騎のクジュト、天儀の刀の美しさに大変感心している。
 すでに細身で見栄えが良い「長脇差」を手に入れているが、仲良くなる開拓者の持つ太刀はさらに良い物が多い。常々物足りなく思っていたりする。
 一方で、いわば「商品」に傷付いてもらいたくないもふら面の男はクジュトに武器を持たせまいとしている。
 そのもふら面の男が、クジュトに歩み寄る発言をしたのだ。
「ふうっ。……浪志組ともなれば、箔や見栄えは必要でしょう。何かいい武器を持てば気分も弾むでしょうし」
 溜息を吐いたのはどうやら、話題逸らしでなければ避けたい内容だったかららしい。
「とにかく、武器は東堂さんの備蓄した武器から選り取り見取りですから、他の隊士とも酒でも飲みながら話して、クジュトさんの気に入った、浪士組にふさわしい武器を選んでください」
「ふぅん。それじゃ、当日は俺も同席させてもらうぜ」
 ここで、右眼帯の回雷(カイライ)がやって来た。
「回雷さん、あなたも何か武器にはこだわりを持ってるんですか?」
「あ? 俺はそんなんじゃねぇが、酒にもこだわって欲しいねぇ。この店の蔵元も、そろそろ新酒ができる時期だ。楽しみにしたいねぇ」
 火も当てず水も入れずの無ろ過原酒の味を想像してかにやにやと顎をさする回雷。
「それはいいですね。ぱーっと楽しくやりましょう。できれば浪志組隊士といろいろ話をして親交を深めたいですし」
 こうして、刀談義を肴に新酒を一緒に楽しんでもらえる開拓者が募られるのだった。
「……できれば、森さんと真田さんについても詳しく知りたいものです」
 ぽつりと付け加えるクジュトだった。


■参加者一覧
劫光(ia9510
22歳・男・陰
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
柏木 煉之丞(ib7974
25歳・男・志
向井・操(ib8606
19歳・女・サ
アナ・ダールストレーム(ib8823
35歳・女・志


■リプレイ本文


 いきなりだが、向井・操(ib8606)は大ピンチを迎えていた。
「わ、私はあまり酒は得意ではない故」
 ぶるぶる、とくせっ毛のある金髪と両手を振って断っている。
 神楽の都、どこぞの居酒屋の奥まった一室のことである。
「そういわず付き合え。顔見知りが多いんだし、気軽にやりゃいい」
 如才なく酌をして回っていた劫光(ia9510)がさらりと言ってのける。「俺の酒が飲めないのか?」などと野暮は言わないさっぱりした男であるが、ゆえに操としては断れず。
「うむ……。まあ、酒盛りだしな……」
 操、ぐい呑みの半分だけ空ける。
「そうですよ。鬼退治の依頼もうまくいったし、その時の分も含めて」
 今度はアナ・ダールストレーム(ib8823)が声を掛け、ぐい呑みに注いでやる。
「おお、アナ殿。その節は世話になったな」
 一転明るく言う操。つい酒に口をつける。
「あれ? 操はお酒飲めなかったのか?」
 心配そうにラシュディア(ib0112)も寄って来た。ぐい呑みは減っているのでついつい注ぎ足してやるが。
「いや、本当に飲むと私、かなり絡むらしいし……。気をつけないといけないな」
 真顔でラシュディアに声を返して、礼儀上ぐい呑みに口をつける。
「やあやあ、初めまして。酒は楽しく飲むもの。無理はなさるな?」
 さらに気にして柏木 煉之丞(ib7974)が声を掛けた。
「柏木殿だな、よろしく頼む。……うん、気をつけないと。……そうだな。飲むとしても一杯くらいだぞ?」
 くい、と杯を傾けてから操は言った。
「私も初めましてですね。今日の酒は杜氏のお勧めする新酒だそうですから、まあ、無理のない程度に楽しんでください」
 最後に、浪志組のクジュト・ラブア(iz0230)が酌をした。
「そういわれると、新鮮な味と香りがして飲みやすいな」
 操。 しみじみ器の中を見て、くいっと干す。
「ああ、うめえ。……おっと。牡蠣の土手鍋もいい頃合だぜ?」
 今度は卓の向かいの回雷(カイライ)が言った。
 それを、クジュトに酌をしていた劫光が振り返る。
「クジュトは久し振りだな。……あ? なんでお前がいるんだ?」
 回雷とは道場破りで敵味方だった。それを突っ込んでいる。
「俺ぁ、負けたんで旦那の手下になったのよ。で、今日は護衛だ」
「そのくせ巡廻には同行せずちゃっかり酒盛りだけに顔出しかい?」
「そういわずにお前の取り皿を貸せ。うまそうに煮えたぜ?」
 そんなこんな劫光と回雷。
「とにかく、日中は浪志組の巡邏を手伝っていただきありがとうございました」
 クジュトの音頭で改めて乾杯するのだった。
 後であんなことになるとも知らずに!


「そういえばクジュトさんは武器を探してるんだってね」
 しばらくほふほふと鍋を味わっていた一同であったが、ここでラシュディアが振ってみた。
「ええ。浪志組の皆さんは腕の立つ人が多く、武器も立派なものです。私も一応、体面は整えておかないと」
「ちょっといいかしら?」
 クジュトが言ったところで、ずいとアナが首を突っ込んできた。
「クジュトさんも舞い手だわよね。だったら、こういうのは合うんじゃない?」
 どう? と出したのは『長巻「焔」』だった。全長約二米(メートル)、刀身約一米。
「これは……。まばゆいし、何より軽いですね」
 拝見して溜息を吐くクジュトに、アナはにまっと大満足。
「質実剛健で戦闘的な造り。そのわりに繊細な装飾が見事。長いけど軽いし、何より……」
 アナ、指を伸ばしてちょんとはばきを差す。そこには宝珠が埋めてあった。
「振ると、炎の幻影が浮かぶの。……いいわよねぇ。こういうの。心が躍るわ」
 砂迅騎の血が騒ぐのか、目を細めてちょっと右に上体をずらした。長い銀髪がおぼろに揺れる。敵に切りつけるまでの動きであったのかもしれない。
「いい……ですね」
 クジュトはまるで炎の幻影を見たように息を飲んで見詰めていた。
「あげないけどね。私の宝物だから。ふふ」
 鞘に戻した『長巻「焔」』を持ち、改めて微笑するアナだった。

「元々、刀語、と聞いて思わず参加してしまったのだが」
 こほん、と咳払いしたのは操だった。
「主に私は見栄えは悪くても良いから、硬く、重い刀を使用する様にしている」
「ほぅ」
 操の言葉にクジュトが真剣に耳を傾ける。
「やはり丈夫で、敵を一撃で葬る事のできる攻撃力を持つ刀が一番だな」
 そして、「最近はもっぱら、これ」と『斬魔刀「祢々切丸」』を出した。
「使いこなしてるか?」
 ここで劫光が言葉を挟んできた。首を傾げるクジュトに、操は「劫光殿からの貰い物だからな」と説明する。
「でも、長いですよ。操さんの身長よりも」
「使いこなしているとも。この重さ、攻撃力、そして美しさ。どれをとっても逸品で惚れ惚れとしてしまう。……使いこなさねば、な」
 自ら鞘から抜き、顔を上げて真っ直ぐ持った刀身を視線でなぞる。黒い刀身に白銀の刃紋が浮かぶ斬魔刀は、長さ二・三米にも及ぶ。
「斬戟の際には鍔の宝珠が叫ぶように怪しく光るというが……」
 呟く操。無論、自ら渾身の一撃を放つ際にそんなものを気にするわけがない。真偽は不明と心得るが、ゆえに真に使いこなしているかどうかには一抹の不安がないでもない。
「ともかく、これを譲ってくれた劫光殿には感謝せねばな」
 さまざまな意味で満足していそうな、伏せた顔をして結ぶのだった。


「まあ確かに、劫光さんは陰陽師だから」
 刀剣類は不要ですよね、と言いかけてクジュトは言葉を止めた。確か、道場破りの時は敵大将を取りにいったはず、と思い出し劫光を見る。
 すると。
「今一番しっくり来るのがこれだな」
 劫光、涼しい顔をして『霊剣「御雷」』を出していた。
「いやちょっと」
「陰陽師らしくない、とは言われるが剣振るってるほうが性にあうんでな。武器は刀剣・槍を状況にあわせて依頼に持って行く」
 一応、周りからは言われているようだ。自覚しているなら、とクジュトももうそれ以上は言わない。
 ともかく、『霊剣「御雷」』。
 肉厚の漆黒の刀身に金色の刀紋をもつ両刃の直刀だ。全長〇・八米。その名の通り、雷の力を帯びた、精霊の加護受けし霊験あらたかな魔剣である。
「直刀、ですか」
「剣っていうとジルベリア製のが出回ってるが、こいつは純正の天儀製。刀だけでなく、こういう剣にも様式を取り入れるのは天儀ならではだよな」
 目を輝かせて刃を追うクジュトに説明する劫光。
「使い手の腕を試されそうですね」
「ああ」
 劫光、にやりと笑みを浮かべて酒を飲んだ。

「蒼天花」
 それだけ言って横から煉之丞が、つと差し出した。
「拝見します」
 抜くと、蒼く美しい刀身が現れた。そこに花が彫られている。長さ、やはり〇・八米。
「花を冠する刃とは俺が持つには愛らしいが……斬る折の鮮やかな青も、鋭く脆い在り方も美しく好ましい」
 ゆるり、と杯を傾けながら説明する煉之丞。クジュトの目も雪の中の梅を見るようにほころぶ。
「いい、ですね。持つとこう、すうっと身が引き締まる感じで」
 クジュトの一言で煉之丞も「お?」と片目を開け乗ってきた。くいっと干してから次を出す。
 忍刀「蝮」だ。全長〇・四米。
「脇にはこれを。甘露の花の対、辛口の『蝮』も魅せられる物だ」
「確かに」
 今度は短い。
 刃縁は水に濡れている様に見え、はばきに施された細かな蛇を模した彫刻が美しい。
「二刀流ですか?」
「さてさて」
 クジュトが聞くととぼけた。どちらの刀も受けにはあまり向かない。煉之丞がひらりと会話を交わしたのも、愛用武器から見て取れる人柄かもしれない。
「ともかく、ラブア殿のお好みはどれになるのだろうね。魅せられる点は各々だろう?」
「そうです。やはり、軽い物はいいですね」
 それだけ言って、ラシュディアを見る。
「俺?」
 飲みつつ聞き役に徹していたラシュディアが慌てた。
「うん、聞きたいな」
 操が酌をしてきたので受ける。
「あんまり強い方じゃないし、呑みすぎて、帰ったら怒られそうだけども……」
「さーて、あたしも酔いが回ってきたなァ。もっとのもーぜ?」
 干してから言うと、今度はアナがお酌。ばしばしと肩も叩かれる。
「ま、いいか。……俺のメイン武装はこの…クリスタルマスターと、忍刀の蝮、あるいは死鼠の短刀を使い分けているな」
 三振りを出して話し始めた。
「ほぅ。左手の指輪はなんだい?」
「これはいいでしょ、アナさん」
 誓いの指輪をネタにからかわれ真っ赤になるラシュディアに、ころころ笑うアナ。劫光に操も含み笑いをしている。
「とにかく、どれも相手に気づかれないように接近して、急所に突き立てる……なんてイメージだね」
「さすがシノビですね」
「だったら顔に出やすいのをなんとかしなきゃなぁ」
 気を取り直し説明するラシュディア。感心するクジュト。密かに突っ込んでいるのは劫光だが。
「相手と打ち合うわけじゃないし、盾や装甲を避けて差し込むって感じだから、刃自体の頑丈さはそんなには求めてないね」
「これは?」
 ラシュディアの説明と矛盾しそうなロングソード「クリスタルマスター」を抜いてクジュトが首を傾げる。極めて硬質の水晶から削りだされた刃のジルベリア風片手剣で、全長一・〇米。剣自体は非常に美しい。
「ああ。光の加減によって見えにくくなるんだ。視認され難いってのは助かるんだよなぁ」
 満足そうに言う。
「他に使っているのは、手裏剣とか苦無だな」
「おーおー、ラシュディア。興が乗ってきたようだなぁ」
 じゃらじゃらと体中のあちこちから括り付けていた物を外して並べるラシュディアの様子を見て、酒をやりつつ劫光が笑う。
「一応シノビなんで、こんな風にあちこちに隠して持っていて、非武装に見えて実は……なんてね」
「ほぅ。それを活用した試しは?」
 ぐび、と飲みつつ突っ込む劫光。
「まあ、思っているんだけど、活かせた事が無いんだよなぁ」
 あははとごまかしつつ酒を干すラシュディアだった。


「それよりクジュトさん、なんで浪志隊に入って、とかどういう事をしているだい?」
 ついでに、話題をそらした。まあ、聞きたいことではあったみたいではあるが。
「仕事欲しさ、ですね。お座敷関係の」
 ここだけの話ですよ、とひそひそ声でクジュトが話した。すでに相当酔っているようで、卓の隅でもふら面の男が慎重そうにクジュトを見ていた。
「で、住民広くを守る隊だと知って、今度こそ、なんて思ったりもして。……やってることは基本的に巡邏ですけどね」
 どうも、とラシュディアから酌を受け、干しつつ話した。自らの空いた左手の平をじっと見たのは、こぼれた過去を悼んでいるのか。
「そういやクジュトさんは何か荒れてんだって?」
 アナも酌をして、少し揺さぶってみた。
「東堂先生がねぇ。孤児の塾をしたりとかいい先生ですし、浪志組を実際に立ち上げるとか切れるんですが……」
 クジュトの愚痴に、劫光がそっと目を光らせた。表面上は目して手酌して酒を飲んでいるのだが。
「貴族に接しすぎでしょう。今の浪志組内部をどう考えてるのか……」
 それ以上語らず、溜息を吐く。
「若い時って色々大変よねぇ。……若いといえば、ほら?」
「いや、私はもう……」
「遠慮はナシだ。こういう機会はあんまりないしなァ。他のヤツらも遠慮するなよ。あたしにまかせろってね」
 ああ、アナ。口調が変わってきている。絡まれた操は何だかんだいいつつ素直に飲んでいるが。
「……森藍可について、皆さんどう思われます?」
「森藍可、か。トラブルメーカーの様だな」
 どうやら劫光、関連依頼で風聞くらいは聞いたことがあるようだ。苦笑しつつ聞いてきたクジュトに酒を注いでやる。
「ですよね……」
「何かあったか?」
 操のために甘味を注文してやりつつ、クジュトに酒を勧める劫光。
「まずは内部調整だと思うんですよ」
「森藍可……婆沙羅姫様だったか? 暴れん坊らしいが、畏怖されるのどうのより、優先する何かが有るのだろう。組織では難が有るだろうけど」
 崩れそうなクジュトに、煉之丞が慎重に言った。
「優先……」
「真田悠という彼方は堅物そうだ。いや、武士(もののふ)の道かな。……融通の利く柔軟な男なのだろうか。そうであればそら恐ろしい」
「真田、悠……」
 呟いたクジュトに煉之丞が畳み掛ける。クジュト、真田には好意を持っているようで表情が穏やかになった。
「もちろん東堂殿の名もよく聞く。随分と勘が良い……と、いやいや失礼。まぁ、浪志組の活躍、祝着至極、と」
 さらに酒を飲ませる煉之丞。
 そしてここで、事件が起きたッ!


「あぁ、暑いなぁ」
 なんとアナ。上着を脱ぎ始めたではないか。
「ちょっとアナさん」
「心配すんな、ラシュディア。アル=カマルじゃいつもこんなもんだ。武器を持ってこう、軽やかにな」
 確かに肌を多くさらしているが、これはバラージドレス。小麦色の肌が色っぽい。気持ち良さそうに舞うようなしぐさをする。
「いや、刀は丈夫さと、パワーだと、私は考えている。二の太刀は考えず、全力の一撃を叩き込む。これがまた気持ちが良い故」
 これに操が絡んだ。せっかくの甘味に目もくれず熱く主張している。
「まあそういわずに襟元を緩めてみろ。暑いだろ?」
「いや待て! 待ってくれ」
 ああ。アナと操がもみ合い始めた。楽しそうではあるが。
「ラブア殿の願う所は如何だろうかな」
 煉之丞はクジュトに酌。うつらうつらするクジュトは「弱き者のため」とうわごとのように。
「そういえばラシュディア殿は呑み過ぎて帰ったら、一体誰に怒られるのだ?」
「そこに来るか?」
「若いってのはいいなぁ、おい」
 操は緩んだ着衣のままラシュディアに絡む。これに飲ませて対抗するが、逆にアナに飲まされもする。泥沼の潰し合いとなるのだった

「うーん、眠くなってきたなァ。ちょっと横になるぜ。後はまかせた」
 アナがそう言って静かになった時、卓には劫光と煉之丞、もふら面の男と回雷が残っていた。ほかはすでに横になってすぅすぅとかぐーすかとか寝息を立てていたり。
「なあ。東堂ってのは、どうなんだ?」
 劫光がもふら面の男に酌をしながら聞いた。
「どう、とは?」
「個人的には胡散臭いというイメージが抜けきらないのでな」
 クジュトの前では控えていたことを聞いてみた。煉之丞も回雷とやりつつも、ちらりと気にした。
「それが貴方の本音かどうかは知りませんが、あの男は金になります。現に、ミラーシ座も若手貴族の客ができました」
「貴様の方が胡散臭いな。叩っ斬ってやろうか?」
 凄んで見せるが、これは本音ではないとバレバレである。
「成功している人物は胡散臭く見えるものです。この胡散臭い世界を生き延びるには何事も胡散臭く思う感性は大切ですし、胡散臭く思ってもその様子を面に出さないのがコツですよ。……といっても、もうそうされているようですが」
 胡散臭い笑みを面で隠しつつ、もふら面の男は劫光に酌をするのだった。