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■オープニング本文 「やれ。ここに来るのも一年ぶり……」 大きな荷物を背負った薬売りが、ある集落に入った。 どこにでもある農業を営む集落で、川を挟み両方の山すそに向けて棚田が重なり、その上に民家が間を置いて散らばっている。 「しかし、ここも水不足か。川は枯れておる。洗濯もできずに不衛生になり、流行り病が蔓延することも……」 そこまで言いかけたところで「おっ」と額にひさしのようにした手を当てる。 集落の入り口にある地蔵に、おばあさんが手を合わせていたのだ。 「おばあさん、大変ですの。こう雨がないと」 早速近寄り声を掛ける薬売り。 その、時だった。 「ひっ!」 しゃがんでいたおばあさんは年齢にそぐわない切れのある動きで襲い掛かってきたのである。 とはいえ、薬売りもこの天儀を又に掛けるだけの男。体力はもちろん危険察知能力と反応能力は高い。見事に尻餅をつくことで「しゃっ!」と薙いできたおばあさんの右手を交わした。 いや、これをおばあさんと言っていいのか? 「し、死人が動いとるっ!」 薬売りが叫んだとおり、おばあさんの顔は青ざめ生気を宿していない。それでいて、落ち窪んだ双眸は何かを渇望するかのような佇まいを見せていた。 「アヤカシじゃあ、アヤカシじゃあ……」 薬売りは立ち上がると背を見せ逃げる。続く老婆アヤカシの攻撃は、彼の背負った大きな荷物に命中した。 途端に荷崩れして、それがアヤカシに降りかかる。これが功を奏した。 身が軽くなったこと、残した商売道具を惜しまず一目散に逃げたことが、薬売りの命を助けることとなった。 そして開拓者ギルド。 「うん。それは間違いなくアヤカシ『食屍鬼』で、典型的な集落全滅事例です」 薬売りと、彼から集落の異常を知らされた村人などから話を聞いたギルド担当者が答えた。 「不衛生になった集落で流行り病が横行し、その弱った体に瘴気が入り込んでこうなります。おそらく、集落の半数は食屍鬼になり、残りの半数はそれらに食われたと見られます」 「調べもせずに何が分かるか」 「アヤカシが出たのは唯一の集落の出入り口ですからね。そこにアヤカシがいるということは、仮に私が言った事態が進行する前でも手遅れでしょう。また、アヤカジが食屍鬼であるのは、人の日常生活を模倣していたことではっきりしてます。地蔵様に手を合わせるアヤカシは、ほぼいませんから」 さすがに納得する村人たちだった。 「あと、調査はいまからします。特に薬売りさんに」 担当者が言ったのは、流行り病の影響だった。 結果、特に病気にかかっているという感じではなかった。 「……おそらく、もう流行り病は心配しなくていいはずです。十世帯の集落でしたね? つまり、小さな子供を除いて八人家族と仮定し八十人。半数とすれば食屍鬼は四十体程度いる、か」 「そんなにおるんですか?」 「いても所詮食屍鬼。駆け出しの開拓者でも十人いれば対応できる規模です」 こうして、開拓者ギルドに住民の模倣生活をしている食屍鬼四十体の退治依頼が張り出されるのであった。 |
■参加者一覧
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
からす(ia6525)
13歳・女・弓
此花 咲(ia9853)
16歳・女・志
狸寝入りの平五郎(ib6026)
42歳・男・志
ヴィオラッテ・桜葉(ib6041)
15歳・女・巫
嶽御前(ib7951)
16歳・女・巫
巌 技藝(ib8056)
18歳・女・泰
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎
アナ・ダールストレーム(ib8823)
35歳・女・志
哭竜(ib8979)
27歳・男・サ |
■リプレイ本文 ● 冬の農村はどこか寂しい。 一面に広がる水田に春夏秋に見られる若やぎや実りの姿がないので、なおさら。 ――ざっ。 依頼のあった集落の入り口に、一人の女性が立った。 羊獣人のヴィオラッテ・桜葉(ib6041)が静々と歩を進める。 「おばあさん、こんにちは」 しゃがんでお地蔵様に手を合わせていた老婆にそう挨拶するヴィオラッテ。 刹那、おばあさんは死人然として恐ろしい顔を向けて彼女に襲い掛かってきた。アヤカシ「食屍鬼」である。振りかぶった爪が鋭い。 ――とすっ。 その食屍鬼の下半身に瞬速の矢が刺さる。 ヴィオラッテはばらり、と扇子「月桂樹」を開きアヤカシの攻撃を受けた。精霊武器ながら、受け防御にも優れている。舞うような軽やかな動きで距離を取ると、続く矢が止めを差した。 「報告の通り……。生き残りの方はいないのでしょうか。とてもやるせないですね……。せめて、人として弔ってあげたいものです」 ヴィオラッテが瞳を翳らせ呟く。落とした視線は、大地に崩れた瘴気が散る食屍鬼に注がれていた。後には老婆の死体が残された。 「元は何の罪もないただの人間であれど今はアヤカシ。死体にかける情あれどアヤカシにかける情はなし」 ヴィオラッテの後方から歩いてきたからす(ia6525)が静かに言う。手には呪弓「流逆」。確認に行ったヴィオラッテをこれで護衛した。 そしてほかの開拓者も近寄ってきた。 「それにしても、敵は意外と粘り強かったですね。念のため、できうる限り皆さんに『加護結界』を」 「こういう手合いはな。……よければ頼む」 喋った口から愛らしく覗く八重歯が特徴的な嶽御前(ib7951)の提案に、老婆の死体を調べるため片膝をついた風雅 哲心(ia0135)が頷く。志士もしていた歴戦の魔術師で、同じく歴戦のからすが放った矢でも一撃は耐えたことを重く見る。 「流行り病で全滅して住民はアヤカシに、か。やりきれねえ話だな……。だが、被害が広がる前にどうにかしなきゃならねえ。やるしかねえさ」 普段は糸目であるが、この時ばかりは腕を組み目を薄く開けた狸寝入りの平五郎(ib6026)が痛ましそうに言う。もっとも右目だけで、左目は相変わらず寝ているかのように細いまんまではあるが。 「そうだな。運が悪かったという言葉で片付けるにはあまりにもむごい事例ではあるがな。とにかくここで被害を食い止めるぞ」 平五郎の言葉に、立ち上がった哲心が頷く。 「しかし、日常生活を模倣するらしいが、野良仕事してるのはいないな」 続けて平五郎があたりを透かし見ながら呟く。 「殿方は田畑に、女性は家の中にいる可能性があると思ってましたが……。これは屋内が多そうですね。女性だけ、というわけでもないんでしょうけど。ともかく、家に踏み込むには注意が必要かと」 ヴィオラッテはそう判断する。現状と想定を組み合わせ最善のアドバイスをする。 「ともかく瘴索結界で食屍鬼の位置や数、動き等を探索し伝えていきましょう」 「そうですね」 巫女の嶽御前とヴィオラッテが頷き合うのだった。 かくして、掃討戦が開始された。 ● 開拓者達は、枯れた川を挟んで東側と西側に五人小隊を二つ組んで分かれた。 「死角はあまりないのが助かりますね」 小兵・此花 咲(ia9853)が注意深く、大きな金色の瞳で周囲を警戒しながら先頭を歩いている。 「おむすびイズジャスティス」 などと呟きながらあどけなく好物を口にしたりもするが、戦う場に来れば様子が変わる。 と、その瞳が閉じられた。 「予測される数が数です。どこから来てもおかしくはありませんよ」 のっし、と隣に並んだ修羅、哭竜(ib8979)に言ったのだ。 「……関係ない」 当の哭竜は黒い面で素顔を隠している。のしのし歩き続ける。 「早いところ、ゆっくりと休ませてあげたいからね」 今度は反対側から声がした。 哭竜の表情を計りかねていた咲が振り向くと、巌 技藝(ib8056)もすすすっと上がってきていた。 「まあ、警戒はしている」 後ろからはからすの声。 手の平に収まる懐中時計「ド・マリニー」に視線を落としていた。 「……今来た道を示さないだけの正しさはある、ということかな?」 瘴気の流れを計測するらしい小道具の確認に余念がない。 「屋内に四匹、ですね。待ち伏せの様子はないです」 ようやく瘴索結界の射程に入ったようで、嶽御前が西側を担当する四人に伝えた。 「ふん」 そして、哭竜が玄関から正攻法で突入。 居間にいた四人の住民がはっと顔を上げて、手にしていた藁を投げ捨てた。 やはりいずれも、食屍鬼。恐ろしい形相をしている。 「っ!」 哭竜、魔剣「モラルタ」を抜刀。上り框を土足で越え、紅蓮色の刀身を振りかぶり殺到する。 「……鬱陶しい連中だ」 正面の哭竜。大きく振りかぶって渾身のスマッシュ。 「……本当に鬱陶しい」 呟いたのは、敵がそれでも倒れなかったから。随分と打たれ強いようだ。相打ちとなったが、これは事前にかけたもらった加護結界で無傷。 「死して尚アヤカシに操られる、か」 哭竜の右から八尺棍「雷同烈虎」が伸びる。技藝の一撃だ。哭竜への攻撃集中を防ぐべくリーチを生かした一撃で間を作り一気に詰めた。 「少しでも早く休める様に、少しでも綺麗な姿で……」 技藝、今度は棍の持ち手を中央にしてコンパクトに突く・突くッ! 敵の攻撃の基点たる腕の付け根に対し棍を伸ばして先を取り、敵のバランスを崩す。 骨法起承拳の極意である。 一方、哭竜の左。 「できる事なら、きちんとした人の姿を成したままで弔ってあげたい」 咲が小さな体躯で、まさに哭竜の死角から突然現れた。長い鉢巻が右になびく。 「ですから……!」 両腰に佩く刀から、右手で霊刀「虹煌」をまず振るう。わざと一呼吸早かったのは、包囲を図っていた敵を牽制するため。当たりは浅い。 しかし、ここからが速い。 次に左手で右腰の刀「翠礁」を使い、居合。 「くっ」 銀杏で収めざま舌打ちしたのは、敵がアヤカシだったから。喉仏を狙った一撃だが、そこはアヤカシの急所となりえない。最小限の肉体損傷で倒す思いやりが裏目に出た。 が、咲。 自らの最大の長所は器用さだと自認している。 カウンターで覆い被さってきた敵に、きっちり霊刀「虹煌」を突き刺していた。 「人とアヤカシの違い、か……。コレは人でありアヤカシというべきか、人であったものというべきか」 咲が止めを差していた時、中央の哭竜が珍しく長く喋っていた。 「倒すべきものであるのに変わりはあるまい、が」 ぴしりと「成敗!」で敵を倒し、背を向けていた。 その視線が土間にいるからすに向けられた。 「その通り。躊躇う必要はない。やらねばやられる」 最後の一匹に射掛けて倒していたのだ。 これで四体とも倒した。 「討ち漏らしはありません。ここでの戦闘では終りですね」 からすの横で嶽御前が言う。鍛えた霊刀「カミナギ」を構えていたがここで力を抜いた。 まずは一安心。 と、からすが居間の様子に気付いた。 アヤカシが座っていた座布団の周りにはぐちゃぐちゃになわれた藁が散乱している。 目を転じると、壁に藁草履がたくさん掛かっていた。立派な出来である。 「周りはアヤカシだらけなのだから何気ない生活行動をしているのが可笑しい」 この時期、内職に勤しむ農家は多い。 いくら日常生活を真似ても、真似しきれぬ物や技術はある。 ● この頃、東側の五人。 「滅びた村……か。それでも……せめて、静かな眠りだけは」 ラグナ・グラウシード(ib8459)が硬い表情のまま歩いていた。 いや、険しいというべきか。その様子はまさに、誰が呼んだか「いらいらナイト」そのものといえるかもしれない。ともかく、高い身長と鍛え抜いた体に、思いの丈を漲らせ歩いていた。 (辛い戦いね。でも……) 続く砂塵騎のアナ・ダールストレーム(ib8823)は、重苦しい空気を感じながらそんなことを思う。 (辛いのは村の人たちも一緒のはず。だから迷いはないわ) そう誓い視線を上げた、その時。 「民家の中に、います。私はアヤカシしか感知できませんが……」 ヴィオラッテが皆に瘴索結界に感ありを伝えた。くわえて言葉を添えたのは、「ひょっとしたら、誰か生き残っているかもしれない」との思いがあるから。 そのくせすぐに首を振ったのは、自分自身でそれが儚い希望だと分かっているから。 「土間と離れと、奥の間にいます」 思いを断ち切り詳細を知らせる。 「もしかしたら無事な人がどこか隠れているという可能性もあるわね。望みは薄いけど」 ここでアナが口にした。ヴィオラッテがアナを見る。思いが同じで嬉しい。 「心眼でも同じだな。……おびき出して外でやった方がいいな。万が一、もある」 平五郎が眠そうな目のまま言った。仮に生き残りが屋内にいるとすれば、外で戦う方がいい。 「迎撃ならいい手があるわ。おびき出したら十字に集まって」 「『戦陣「十字硬陣」』か、アナ? 防御を上げて俊敏を落とす技だったな。なら、落ちた分は俺が補う」 アナが声を掛けると哲心は精霊武器のアゾットを構えた。 「じゃ、行って来る」 「……」 平五郎が土間へ行き、ラグナが奥の間へと向かった。 ――どだん、がたん! たちまち大きな音がして、平五郎が引いてきた。玄関と離れから食屍鬼が追ってくる。 ラグナの方はすぐに敵と出会ったようだが戻りが遅い。大剣「グレートソード」を両手に敵の攻撃を防ぎ躊躇っている。 「ラグナさんっ!」 ヴィオラッテの叫び声で我に返ったラグナが引く。 (斬れない。……村人たちの亡骸を大きく損傷させてしまう) 引きながら自問する。 「いいわ、この位置で迎撃するわね」 「迅竜の息吹よ、我らに疾風の加護を与えよ。――アクセラレート」 アナが十字硬陣を組むと、哲心が素早く動けるよう仲間を一人ずつ支援する。 「よし、遺体は余り損壊したくねえからな」 平五郎が槍「黒十字」の柄で近寄っていた敵の足を狙う。倒れなかったがバランスを崩したところに、素早く槍を引いて突き刺した。 が、よろめいて切っ先が抜けた隙に詰められた。 「まだ動けるかっ!」 攻撃を食らったがそのまま柄でぶん殴って止めを差す。 アナは最右翼の敵に対していた。 「間違いなく食屍鬼ね」 魔剣「ラ・フレーメ」のうねる刀身が剣舞のようにまず舞った。炎のように心を奮い立たせる魔剣からさざめく赤い光が敵を幻惑する。「暗蠍刹」と呼ばれる技術だ。ダナブ・アサドの動きも混ぜ、見事に伸身しての突きを食らわせる。 「ん?」 しかし、やはり敵はしつこい。瀕死で動けぬまま怯みもせず、アナに攻撃を食らわせた。 「これで終わらせる。……響け、豪竜の咆哮。穿ち貫け――アークブラスト!」 この動きを哲心が見逃さない。 雷撃で食屍鬼は完全に動きを止めるのだった。 「どうしたんですか、ラグナさん」 ヴィオラッテの声に、ラグナはようやく動いた。 「……」 村人の亡骸を傷つけない答えを今、出す。 (私の唯一の……) 唯一の知覚攻撃手段である、オーラショットを放っていた。 「ッ?!」 が、彼が普通に剣を振るった時より当然、威力も迫力も段違いに落ちる。隙も多いので攻撃を食らってしまった。 苦痛に顔を歪めるが、剣は掲げない。下がりもしない。 彼の表情に浮かぶは苦痛か苦悩か。 とにかく敵の攻撃をかわす暇も全て惜しんでオーラショットを放つ。 「ラグナさん」 「気持ちは分かるがな」 最後にはヴィオラッテが扇を手に割って入り、哲心が雷撃を放っていた。 「……」 ラグナに言葉はなかった。 ただ、剣は振るわないとの誓いだけは守ったのだった。 ● この後も、双方で掃討戦が繰り広げられた。 やはりこの時期は内職をしているようだ。屋内での遭遇が多い。 「援護します。体勢を立て直して下さい!」 咲の声が響く。 「すいません。一撃で……討ちます!」 白く澄んだ気を纏い、梅の香りを残しながら刃が迸る。白梅香だ。 「はっ!」 嶽御前も霊刀「カミナギ」を振るい迎撃する。後衛が敵の攻撃にさらされていたのだ。 「あたいに任せな!」 舞うが如きで技藝が戻ってくると止めを差した。運足の身のこなしだ。 「灰は灰に、塵は塵に」 からすの射撃も、後衛が襲われたとて揺るがない。 東でも同様。 「すまねぇ、大量に来ちまった。……顔には極力当てねえように」 防盾術で防いでいた平五郎は後ろの味方を呼ぶと炎魂縛武で反撃をした。 「出来る限り一撃で原型を留めるのが理想。……もう既になってしまったものは取り返しがつかない。だからこそ私達にできるのは……苦しみから解放することよ!」 援護に割って入るアナの叫びが、皆の心を代弁していた。 そして、戦いが終わった。 「アヤカシがいなければ。瘴気など存在しなければ、こんな事には……」 咲は死体を集めつつ、唇をかみ締めている。出来るだけ家族と思わしき人達を並べる思いやりを見せる。 ふと、遠くで聞こえていた豊作祈願の歌が止んだ。 「人間は流行り病にもアヤカシにも負けねえんだ!」 家屋内を念入りに調べていた平五郎の叫びだった。或いは、流行り病で亡くなった子どもの遺体でも見つけたのかもしれない。「そうだろう?」という呟きは誰にも聞かれていないが、悔しさで目を細めているだろうことは誰にも想像できた。 (力無き者の剣、力弱き者の盾になるために……私は、戦っているのではなかったのか?) こちらは、ラグナ。 無言で土葬用の穴を掘っていた。 盾にはなれず、仕方ないこととはいえ元住民を倒した。 掘る。 ぽたぽたと何かが落ちて大地に染みこむが、それは汗ではない。 ただ、掘る。 「死して屍拾う神有り……少し違う、か」 哭竜は、念のために周囲の巡廻。彼も思うところがある。面で表情は見えないが、魔剣を握る拳にぎりぎりと力を込めている。 「迷える魂よ、安らかに眠りたまえ」 からすは念のため遺体の確認。特に新たな共通事項などは見つからなかった。 「目印は必要だわよね?」 アナは集落入り口のお地蔵様近くにあった石を持ってきていた。石碑に使うつもりだ。 「略式で申し訳ありませんが、簡単に葬式を。巫女のお仕事ですものね」 ヴィオラッテが白い紙を集落から探してきて、棒にくくって払い棒にしてさらりと振り儀式始める。 「お前たちの無念は俺たちが背負っていく。せめて安らかに眠ってくれ……」 哲心を始め、全員が手を合わせた。 技藝が清めの酒を供え、鎮魂を祈り舞う。 嶽御前が目を落としたのは先ほど拾った薬屋の商売道具。後から手渡すつもりだ。 「そう」 その様子を見て、咲が口を開いた。 「嘆いてばかりではいけませんね。私達は私達なりに、前向きになって出来る事をしないと」 少なくとも藁草履の行商に出るという日常行動で周囲に被害が広がることはなかったという。 もう、ここに食屍鬼はいないのだ。 |