【北戦】霊騎の強襲作戦
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/27 23:58



■オープニング本文

●東和の戦い
 北面の王たる芹内王の下には、北面東部の各地より様々な連絡が届けられていた。
 アヤカシの軍勢は、蒼硬や翔鬼丸の撃破といった指揮官の多くを失し、何より、魔神「牌紋」の力をも取り込んだ大アヤカシ「弓弦童子」の死によって天儀側の勝利に終わった。各軍は疲労の極みにある身を叱咤激励して逃げる敵を追撃し、一定の打撃を与えもした。
 しかしその一方で――
「敵は新庄寺館より動く気配無し。朽木にたむろするアヤカシも周辺に出没し始めております」
「ううむ」
 芹内は思わず唸った。敵に確か足る指揮官を欠いているがゆえだろうか。アヤカシは先の戦いで一部破損はしているものの、かつて北面軍が防衛線の一角に築いた城を、今は自らの拠る城として立て篭もっているのだ。
 また、各地には、はぐれアヤカシが跋扈し、朽木の奪還もこれからだ。このままでは、弓弦童子を討ったとヘいえ、東和平野の一角がアヤカシの手に落ちてしまう。
 どうやら、まだまだ休むことはできないらしい。

●深夜真世の憂鬱
 合戦で敵大将を討ったとはいえ、北面に集められた開拓者たちにはまだ動きがあった。
 次々提案されるアヤカシ掃討作戦を巡り、ざわめきが途切れない
「なあ、朽木邑に逃げ込んだアヤカシを殲滅する戦力が集められているらしいぜ」
「ああ。陰陽寮も動くらしいな」
 どうする、いくか? など口々に語る開拓者たち。
 そこへ、いかにも場違いな感じのメイド服姿の娘が通り掛かった。
 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135) である。
「あっ! お久し振りです〜っ。私もまだ戦えるけど、どこがいいか……」
「お。まよまよか、久し振り。いま忙しいんで遊んでやれないんだ。また頼むな〜」
 話し掛けた開拓者は手をひらひら振って真世を追い返す。
「私、別に遊んでもらうつもりじゃなかったのにぃ〜」
 唇を尖らせながら寂しそうにする真世。
 そして別の場所。
「よし、それなら俺たちは朝日山城方面のアヤカシ退治に行くとするか」
「ああ。魔の森に対して牽制になるかもしれんしな」
 ここで真世が通り掛かる。知った顔がいたので早速声を掛けるのだが……。
「あれっ。真世って弓術師だったのか? てっきり一般人かと思ってた」
「う……。えへへへ」
 真顔で勘違いされ、さすがに照れ笑いをしながらその場を辞す真世。
 とぼとぼと肩を落としざわめきから遠ざかっていく。
 くすん、と鼻もすする。
「私も開拓者なのに……」
 じっと、手にした弓を見る。
 そういえば大きな合戦があると聞き鍛冶で鍛えた弓は強化失敗してくず鉄になったなぁなどとも思い返す。向いてないのかな、などとも思う。
「でもでも、私だってこの合戦の序盤は偵察野郎A小隊として頑張ったモン!」
 思い出し、ぐ、と拳を固めて胸を張る。隊長のゴーゼット・マイヤーや一緒に強行偵察をした仲間の顔が「負けるな、頑張れ」と励ましたような気がしたのだ。
 そこへ、新たな開拓者集団が議論しながら歩いてきた。
「新庄寺館攻撃が計画されているらしいな。主力本隊は正面から突っ込んで派手に暴れるらしい」
「酒天童子(iz0243)もいるらしいから、そりゃ派手になりそうだなぁ」
 新庄寺館は、大アヤカシ「弓弦童子」撃破後統率を失った多くの鬼系アヤカシが逃げ込んでいる、大変危険な状態にある。平地の中の丘にある砦のような城で、天守閣などはないものの石垣と壁に囲まれ、内部には居住施設としての館が屋根を連ねている。まわりは八畳一間の部屋より幅の広い程度の堀で囲まれ櫓は遠くまで見回せるなど哨戒設備もしっかりしている。
「……なあ、その攻撃に合わせて、西門を少数で奇襲できないかな?」
「悪い手じゃないが、敵は二正面作戦で対処して終りじゃないか? 空戦アヤカシが制空権を確保しているし、すぐにバレるだろう」
「いや。聞けば、堀の橋は全て落とされてるらしい。つまり敵も真っ先に動くのは空戦アヤカシだ。そいつらが正門に動いた後に西門に取り付いて門扉を破れば、後はいつだってそこから攻められる」
「ダメだな。その作戦だと龍なんかが必要だが、正面主力が突撃するまで一番近い林に潜伏しなくちゃならん。空を飛ぶ朋友と一緒だと、その位置につくまでの移動でバレてしまう。奇襲にはならない」
 つまり、龍や鷲獅鳥だと潜伏地点まで隠密移動できず体が大きいため潜伏にも難があるということだ。また、空からの奇襲は櫓の監視以外でも目視確認されやすい難点がある。
「霊騎ならそのくらいの堀、飛び越えられるよっ」
 ここで、真世が目をキラキラさせて割り込むのだった。


■参加者一覧
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
久我・御言(ia8629
24歳・男・砂
雪切・透夜(ib0135
16歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
千鶴 庚(ib5544
21歳・女・砲
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂


■リプレイ本文


 新庄寺館攻略の霊騎奇襲部隊は無事、西門の見える林に潜伏することに成功していた。
「合戦の時は籠城して敵を迎え撃ったけど、今度はあたい達が城を攻める番だね!」
 がさり、と隠れていた茂みから身を乗り出し様子を伺いつつ、ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が言った。
「今回の合戦は厳しい戦いだったからねぇ。反撃の機会を待ってたよっ!」
 新咲 香澄(ia6036)も、瞳を生き生きと輝かして出番を待っている。
「ちょっと、二人とも元気ありすぎ。潜伏バレたらどうするの?」
 そんな二人を深夜真世(iz0135) がたしなめる。
「大丈夫だよ! あそこは天守閣もないしこっちは見えないよ」
「そりゃそうだけどね、ルゥミちゃん」
 元気いっぱいのルゥミに真世は圧される形だ。
「それに真世さん、知ってるでしょう?」
「何?」
「ボクはやられたらやり返すってこと!」
 ぐ、と握りこぶしを作って意気込む香澄。真世は苦笑するのみ。
「真世も寂しい思いをしたんだろ? 西門を破壊してしっかり皆を見返してやらないとな」
 ぽふりと真世の頭に手をやり、瀧鷲 漸(ia8176)もやって来た。
「そうですよ。霊騎の特性を活かした発想……これまで多数霊騎による戦闘を繰り返してきた真世さんならではの発想ですね。凄いじゃないですか!」
 隣ではアイシャ・プレーヴェ(ib0251)がそう元気付ける。
「漸さん、アイシャさ〜ん……」
 もにゅりと漸に抱き付きアイシャも抱き寄せ涙ぐむ真世だった。
「そうそう。こういう一撃離脱の機動戦こそ霊騎の出番だから、真世は声をかけてくれて有難うだぜ!」
 ぽんと真世の背中を叩き元気づけるのは長身で筋肉質の泰拳士、萬 以蔵(ia0099)。彼もこれまで霊騎で戦った仲間だ。
「おう。深夜、競馬ぶりだな。俺の馬、結局あの時の名前で固定されっちまったなぁ」
 飄々とやって来たのはアルバルク(ib6635)。連れて来た霊騎「アラベスク」を背中越しに指差しニヤリとする。
 と、そのアラベスクがやって来た。そのままくるっと回って尻尾でアルバルクをぺちりとしたり。
「そーなんだー。良かったね、アラベスクちゃん」
「ったくコイツは……」
「ははは、諸君! 私の名前は久我・御言。宜しく頼む」
 真世が言いアルバルクが呆れたところで、ばばんと久我・御言(ia8629)がそそり立ちふわさと前髪をかき上げ挨拶をする。
「相棒は霊騎たる絶影。この久我・御言とともに……」
「あー、この人は……」
 御言の派手な言動に、ふうっ、とアイシャは額を支える。
「どうした、アイシャ君。頭痛でも……」
 さらにアイシャに畳み掛ける御言。盛り上がるだけ盛り上がる。
「賑やかな人が集まりましたね、これは……」
 この様子に呆れて苦笑する雪切・透夜(ib0135)。
「何、透夜さんはやる気がないの?」
 これに香澄が突っ込んだ。
「そんなわけないですよ。門の破壊、および敵への打撃。腕の振るい甲斐もあるもので……」
 目尻を緩めて応じる透夜に、香澄も満足したようで不敵に笑い返した。
「そういえば私は霊騎での初陣……というところか」
「わ、ホント? 漸さんも霊騎を手に入れたのねっ」
 横では漸の呟きに真世がきゃいきゃいしている。
「とにかく、まずはここの奪還を図って周囲の皆を安心させるときたもんだ」
「お〜う、そうだな。あんたとも競馬の時以来。ま、一つよろしく頼むぜぇ」
 以蔵とアルバルクも渋く話している。
 えらく賑やかな潜伏である。
「ちょっと」
 さすがにいさめる声も上がった。
「監視は櫓だけみたいだけど、敵も馬鹿じゃないみたいね」
 ポニーテールに纏めた艶やかな赤髪を翻し、千鶴 庚(ib5544)が顎をしゃくっていた。
 皆が見ると、小鬼の四匹小隊が砦に至る平原をうろついていた。哨戒しているのだろう。
 これだけでほかの開拓者は、ばばっと改めて身をしっかりと潜めた。気付かれた様子はない。
「あの、ごめんなさい。騒ぎの元になって……」
「いいのよ、真世。そういうお年頃でしょ?」
 ばつが悪そうに真世が庚に謝りに行くと、彼女はふふっとお姉さんっぽい笑みを見せた。敵に気付かれる前に自分が気付いて止めたのでかまわないわ、という余裕が漂う。
 ここで、戦況に変化があったッ!
「あっ! 空飛ぶアヤカシがたくさん動いたよっ。どんぱちの音も聞こえる」
 ルゥミが叫んだ。
 皆が一斉にそちらを見る。
 黒いアヤカシの影がぶわっと一斉に砦から飛び立ち正面へと向っていた。明らかな戦闘行動だ。
「行くよダイちゃん! 弾幕パワーでアヤカシを吹っ飛ばすんだ! まよまよも頑張ろうね!」
 ルゥミが霊騎「ダイコニオン」に跨る。
「うんっ!」
「事前の打ち合わせどおりに! 菫青、よろしくね。……一緒に生きて帰るわよ」
 真世が頷き「静日向」に乗る。庚も青眸の黒馬「菫青」に声を掛け騎乗する。
「おう、ようやくかい? それじゃ、楽しい楽しい乗馬のお時間だぜ」
 軽口を叩きつつアルバルクも陽気に騎乗。アラベスクも様子が変わり勇ましく駆け出すのだった。


「ここだ! 今こそ駆け抜ける時……諸君、ゴー・アヘッド!!」
 砂塵騎の御言が戦陣「砂狼」で先行班を引っ張りつつ、絶影の高速走行で一気に加速する。滑らかな漆黒の毛並みの大型の霊騎が雪原を行く。
「さて、アルキオーネ行くよっ! 透夜さんものんびりせずに、真世さんもよろしくねっ」
 栗毛の馬体に金色の鬣が流れる。香澄も愛馬でぴたりとつける。
「ふふ……。黒蓮?」
 一緒に肩を並べて戦う仲間の頼もしさに笑みを浮かべ、透夜も漆黒の霊騎を駆る。
 さて、敵。
 偵察に出ていた小鬼の小隊が、あっという間に至近に迫った開拓者に慌てていた。
「さあ! 騎兵隊の到着だ。道を開けろなどとは言わない、まかり通る!」
 先頭の御言が手にしたロンパイア「クレセント」で敵小隊長をぶった切り駆け抜ける。
「おいらもいるんだぜ、っと」
 鏡王・白を駆る若き泰拳士、以蔵も絡踊三操で左の敵をはねのける。
「同じく、構う暇はありませんね」
 右は透夜が鉤薙斧「ヴァリャーグ」を振るいざっくり抉る。二人とも後は見向きもしない。
「銃声で奇襲し損なうのは芳しくないわ」
「出る幕でもなさそうだな」
 マスケット「バイエン」を構えていた庚と、魔槍砲「瞬輝」で狙っていたアルバルクは手を引いた。そのまま残りの一匹の両側を走り去る。
 この敵は動揺したままこれらを見送った。
 そして振り返り、ぎくりとする。
「邪魔だ! 貴様には用はない!」
 最後に一番迫力のあるのが残っていた! 漸がどどんと目の前に肉薄しているっ。もはや小鬼に逃れる術はないっ。
「……いつも通りやればいいな。さぁ、いこうかスレイプニル」
 斧槍「ヴィルヘルム」で叩き伏せた漸。愛馬の初陣を飾るべく先行する仲間を追うのだった。

 さて、先頭集団。
 真っ白な体毛に、豊かな緑色のたてがみを生やした牝馬に乗るルゥミが色めき立った。
 視界に西門を捉えたのだ。
「見えたっ! 食らえあたいの破城槌! デスクロス・クラッシュスパーク!」
 射程に入ってから魔槍砲「死十字」を構え、ぶっ放した。
 破壊力の塊は一直線に西門に向かう。
――ど〜ん!
 ド派手な爆発音。きしむ西門。
「これが魔砲『スパークボム』」だよっ!」
 破壊力にきゃっきゃと喜ぶ。
 が、これで敵の航空戦力がふわりと城壁の向こうからわき上がった。門近くからは出なかったのはスパークボムが利いたから。敵は鬼蝙蝠や羽猿。体力のある敵だが数は少ない。
「露払いは任せて下さい!」
 高速走行のジンクローと人馬一体で揺るぎのないアイシャが、ロングボウ「ウィリアム」でこれを迎撃する。
 いや、各個撃破ではなく「ガドリングボウ」で弾幕を張っているのだ。
「真世?」
「うんっ!」
 透夜はこれを見て真世に視線を送った。
 見詰めて優しく目尻を緩めただけ。
 真世もしっかり頷くだけ。
 瞳と瞳で「真世、露払いをお願いするよ?」の言葉が伝わる。
 対空牽制はアイシャと真世に任せ、開拓者達は次々と干上がった堀を飛び越えていく。この程度の堀であれば「踏みつけ」を使えば余裕だし、しっかり助走をつけた通常の飛躍でも無事に越えることができる。
――ざっ。
 そして対岸に首を並べ勢ぞろいする。
 これが、霊騎。
 戦闘行動をしながらでも一気に長い距離を詰め奇襲や強襲で叩く。一発で形勢逆転する可能性。
 龍が多く運用される中、空ばかりを気にすると痛い目に遭うことを証明する。
「おっと。今度はこっちが露払いだ。アヤカシさん、こっちにおいでっと」
 飛び越した香澄が火輪で飛空アヤカシを迎撃。
「『踏みつけ』、良かったわよ? 菫青」
 今度は両脇の高い石垣の上から小鬼が弓を射掛けて来るが、これは庚がマスケット「バイエン」で狙う。菫青を労う余裕を見せつつも、単動作、ブレイクショットを惜しみなく使い確実に倒していく。
「私で最後だ。この隙に行くぞ?」
 堀の向こうでは漸が追いついていた。アーシャ、真世とともに無事に飛び越える。
「さあ、ここからは君の出番だ、アルバルク君!」
「そんじゃ、仕事と行くかい?」
 先頭主力は、速攻指揮の御言から一点突破のアルバルクに代わった。
「『戦陣「槍撃」』だ!」
「私のもつ力を、全てこの一撃に懸けるっ!!」
 突撃陣形を指揮するアルバルクの掛け声で、漸が突っ込んだ。透夜も並んでいる。魔槍砲のルゥミとアルバルクも続いているぞッ。
 一方、防衛班。
「……焼き鳥にはならないか、残念。だけど燃やしてあげるねっ♪」
「気をつけてください。増援来ます」
 軽快に迎撃していた香澄の声に、鏡弦索敵をしていたアイシャの警告の声が被った。
「おいらも露払いするぜ」
「門へは中央集中か、痛んだ箇所へぶつけていった方が良さそうかもしれないわよっ!」
 以蔵が叫んで石垣を降りてくる敵小鬼に対応。振り回しと突きで圧倒する。庚は一呼吸おいて破門攻撃隊に声を駆ける。
 そして、漸。
「私が魔神だっ!」
 破軍で体を漲らせ、名誉と誇りを「オウガバトル」の誓いに乗せ心を震わせ、雄叫びと共に振りかぶるッ!
――ドガッ!
 門を揺るがす重い重い一撃は、めしりと分厚い板に穴を開けるも破壊には至らず。破軍は破軍にではなく他のスキルに重ねて掛けることができるが、さすがに門扉はこういう打撃に強い構造をしている。
 さらに、透夜。
「はっ!」
――ガシッ!
「……揺らぐのは打撃の衝撃を分散させるためですかね?」
 遠心力に渾身の力を乗せたハーフムーンスマッシュを叩き込んだが、険しい表情。やはり門扉を揺るがせて穴を開けただけ。
「やーれやれ……ド派手だねぇ」
 右の漸の攻撃後にはアルバルクが続いていた。瞳が赤く光っているのはアルデバランの効果。今、漸の攻撃を止めた門の横棒を狙い魔槍砲「瞬輝」が火を噴くっ。
「あたいは零距離!」
 ルゥミは魔槍砲「死十字」を蝶番のある隙間に剣先をぐっさり。そのままぶっ放つ。
「まだまだっ」
「もう一撃っ」
 響く漸と透夜の追撃。
――どぉぉぉぉん!
 これで門は破壊されるのだった。
 両開きのはずなのに蝶番が壊れて渡し橋のように倒れたあたりが累積破壊力の凄まじさと門扉自体の堅牢さを物語っていた。


 ここから展開が速くなる。
「さて、大暴れさせてもらうよっ! こういうのは得意だからねっ」
 待ってましたとばかりに香澄がアルキオーネの高速移動でするするっと進出する。近くの敵にはすれ違いざま瘴刃烈破で血路を開く。
「敵が来たか……さて蹴散らすよ、黒蓮」
 透夜も突っ込む。
 馬上による高さを生かした斬撃でまずは道を開き、指揮官と思われるアヤカシへと突っかかっていく。
「まだまだアヤカシの残党風情が残ってて色々悪さしてるからなっ」
 続く以蔵は空から急降下の敵にカウンターの空気撃。目の前の敵と戦いつつ、見えない苦しむ人々のため力を込める。
「……まだ足りぬというのか?」
 自分の渾身の一撃に不足を見た漸。我を忘れていないが、自らを鍛えるべく右に左にと斧槍を振るい戦いまくる。傷付いても怯まない。
 ここで、御言が駆け抜けた。
「疲れたか? 敵の多さに怯んだか? しかし、ここにはドジだが期待を投げかけ共に戦う姫がいる。姫を護る騎士がいる。これだけお約束が揃っているのだよ? ハッピーエンドの疑いようがないだろう?」
 ははははは、とロンパイアをぶん回しつつ周りを鼓舞する。
「ちょっと。何を声高らかにいってんのよ、御言さんっ!」
 それを真っ赤になって真世が追っていく。何やってんだか。
「ふふっ」
 この様子に失笑する漸だったが、すぐに我に返った。
「真世は危なっかしいな」
 二人についていく。
「ダイちゃん、敵を纏めてふっとばすよ〜」
 動いた漸の後には、入れ替わるようにルゥミが入ってきた。大根のような色合いのダイコニオンが最適置で流れてきたのだ。
 これが見事にはまる。
 漸の動きを追った敵が一直線に並んでいるのだ。
「今度は魔砲『メガブラスター』だよっ!」
 ルゥミ、片目をつぶってまそーほー、ど〜ん!
 一直線に敵多数をなぎ倒す。
「注意して。敵の指揮官クラスが結構硬いわよ!」
 突出することなく戦況を見つつ、味方への援護射撃に徹していた庚が髪を振り乱し叫んだ。
 そう。
 敵は小鬼ばかりではない。
「くっ、そ。こんな鬼がいるとはね。……でもっ!」
 前進することにより近接戦闘を余儀なくされていた香澄。体力のある棘だらけの鬼のその進軍を止められていた。いや、正確には長い距離を一気に詰められ体当たりを食らうと言う不意打ちだったが。
 正体は多角鬼である。
 しかし、跳躍で一撃離脱した得意の戦法を取ったのが運の尽き。冷静になった――いや、ヤル気になった香澄にとっては距離が開いたことで本来の戦いができる。
「お返しに痛いのお見舞いするからねっ、行けボクの狐よっ!」
 瞬間、現れる九尾の大型白狐。
 細い目の奥で赤い瞳が光ると、一気に多角鬼の襲い掛かり食いちぎるのだった。
「こいつが指揮官だなっ」 
 そして以蔵は立ち塞がる大きな鎧鬼を前にらんらんと目を輝かしていた。
「難敵にはこれでっ……」
 雑魚の小鬼の攻撃を受けるに任せつつ、絡踊三操で突っ込んだ。
「どうだっ!」
 イチ・ニ・サンの三連撃、連々打。
 ただし、最後は相打ちで浅かった。振り返れば鎧鬼がまた襲い掛かってきているッ!
「おいら、萬以蔵だ。この戦場に来たからにはっ!」
 やるな、と名乗りをあげ、再度連々打で迎え撃つのだった。

 さて、別の場所。
「いいねぇ。流れは確実にこっちだ」
 アルバルクが適当に戦いつつ呟いていた。
 適当といえば御幣があるが、すでに戦略目的を果たした後の行きがけの駄賃的な戦いである。戦場をかく乱するようにアラベスクを走らせ確実に敵にダメージを与えればいいので、これでいいのだ。
 が。
「アルバルクさ〜ん。敵の動きがおかしいですよっ」
 後方からアイシャがジンクローを高速移動で走らせやって来た。
「敵がこっちに来てます」
「ん? そりゃ今までだって……」
「こっちに逃げてきてるんですよっ」
 あ、とアルバルクも気付いた。
 こちらに寄せてくる敵の動きが、迎撃から突破に変わっているのである。
「むむ、これはそろそろ潮時かもしれないようだ」
 ほかの場所では、御言が周囲の包囲具合に気付いていた。
「そうだな、そろそろ撤退するとしよう。私達の任務は制圧が目的ではないからな」
 漸も敵の多角鬼の突撃を迎撃して倒し、ふうっと息を吐き出し同意した。
「ちょっと待って〜っ、こっちからも敵よっ。しかもおっきいの!」
 二人が気遣い後方に下げていたはずの真世から悲鳴が聞こえる。
 何と、後衛横合いから鎧鬼が現れていたのだ。
 不意をつかれもう止めようがないッ!
「真世っ」
 どしゃっ、と間を駆け抜ける人影があった。
「透夜さんっ!」
「敵の戻りが早いです。飛空アヤカシも四散してますから、正面から逃げてるのではないかと。……退路を失うのは御免ですよっ!」
 敵の反撃を止めつつ透夜が観察の結果を話す。
 この後、御言・漸・透夜が鎧鬼に対峙した。
「すっごい。三人がかりであの大きな鬼を一瞬……」
「急ぐよ、真世」
 感心する真世に声を掛ける透夜。
「ははははは! 我ら戦場を駆け抜ける疾風!」
 改めて、御言の戦陣「砂狼」で隊列を整えて乱戦からの脱出に向かうのだった。


「ココだけ俺の仕事ってもんよ」
 その頃、アルバルクも生き生きとしていた。
 すでに結構敵アヤカシは西門へと殺到していたのだ。退路を断たれたというより、ともに退避しているのではあるが。
 とはいえ、共に手を取り合って逃げるつもりはない。
「そろそろ機じゃないかな?」
 香澄もちょうどやって来た。
「最後に狐はお見舞いするけどねっ!」
 またもすっ飛んでいく白狐。
「最後まで攻撃の手を緩めないのが香澄さんらしい……」
「ダイちゃんもたくさん踏みつけたし、あたいもたくさん刺したし、そろそろだねっ」
 苦笑するアイシャの横に、ルゥミもやって来た。言葉とは裏腹に、手には鳥銃「狙い撃ち」。魔槍砲でも随分と刺したのだろう。すでに練力切れしてこちらを撃っていたようだ。
「それじゃ、おいらが先陣で道を開くぜ」
 げしりと邪魔な鬼を倒し、以蔵も現れた。
「よしっ。突破するぜえっ!」
 アルバルクの戦陣「槍撃」に、残りの四人が三角編隊を組み高速で駆け抜けるのだった。

「ある程度防いだけど、石壁をよじ登って越えられてるから気をつけて」
 アルバルク組と御言組が西門まで戻ると、すでに戻っていた庚が敵を寄せ付けまいと射撃を繰り返していた。
「門、壊れちゃったから閉められないのよね。……これで少しでも代用できるかしら?」
「あ、それいいですね。それじゃ私も」
 すっと焙烙玉を取り出した庚を見て、「罠ならお任せ」ことアイシャも罠張りの血が騒いだようだ。ふふふと撒菱を取り出し門に巻く。
「重傷者はいないわね? それじゃ、いくわよ」
 どぉん、と投げた焙烙玉が爆ぜる。もちろん大きな爆発ではないが牽制にはなる。
 そして、来た時と同じように堀を奇麗に跳び越す開拓者達。
「とりあえずはこんなもんだろ。初めての実戦だったが上手くいったな。まだ慣れない部分はあったが」
 漸は満足そうにスレイプニルの首筋を撫でてやる。
「真世?」
 透夜が真世に馬を寄せた。
「周囲がどう思うとも、僕は深夜真世を知っている。これで付き合いも長いしね。だからさ、へこむ理由なんてどこにもないんだよ」
 依頼前の、真世と周囲のちょっとした行き違いのあった対応。それを言っていた。
 真っ直ぐな視線。
 ぱああ、と見開かれる真世の瞳。
 高速走行中に、器用に馬を併せ至近距離に寄せる透夜。手を伸ばす。
「でもって、この先は自分次第だ。結果を出して思い切り見返してやればいいんだ」
 ぽふりと真世の頭に手やる。……真世さん、抱きつこうとしても今はダメですよ?
「そうですよ」
 と、反対側からの声。
 振り向くと、アイシャがこれまた高速走行で器用に至近距離まで併せていた。
「言っておきますけど、この作戦を考えたのは真世さんですからね?」
 にこりとウインクして人差指を立てるアイシャ。
「アイシャさん……」
 ぶわわ、と涙ぐむ真世はもちろん、周りの開拓者に気付いていない。
 実は透夜が寄せた瞬間、香澄・漸・以蔵・御言が視線を交し合って、四方を守る陣形に位置を変えて最大級の警戒態勢で走っていたのだ。
「いいものね」
 庚は、昔を懐かしむように呟いている。あの時も皆と逃げていた、と視線を遠くにやる。
「何?」
「いいんだよ、お嬢ちゃん」
 目を丸くするルゥミには、アルバルクが肩をすくめて見せたり。
「騎兵隊による勝利の帰還、それを凱旋という」
 改めて御言は前に出て、堂々と胸を張るのだった。

 この後、新庄寺館のアヤカシは逃げ散り、見事開拓者達は奪還に成功したという。