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■オープニング本文 ここは武天北方のとある集落。 そこから近い森の中。 ♪ はぁ〜 お日さん雲から顔出して 恵みの雨がやみました〜 わしら大地を踏みしめて 風に祈って斧を打つ〜 えんやらえんや、こらさっさ〜 雪の中を、大きな斧を担いだ男が歩いている。 「ん?」 その男、突然呟いていた歌をやめた。 険しい表情をして雪道を見下ろすと、すぐさま近くの大木の幹に身を隠した。 そして、静寂。 男が息を潜めて周囲の気配を探るが、特に何かが動くような音はない。 「狼の足跡じゃが……」 それだけ呟くが、いや、まさかのと頭を振った。 「ともかく、斧打ち仲間に連絡じゃ」 踵を返すと、もこもこと毛皮の上着を重ね着した背を見せて急いで集落へと帰るのだった。 「なんじゃとぅ!」 「間違いねぇよ、大将。狼の足跡には間違いねぇが、たくさん足跡があったんでホルワウかもしれん。ここらの普通の狼は一匹狼なはずじゃ」 先の男は集落に帰ると、早速、住民の長に報告するのだった。 「雪狼のアヤカシか。……たしかに、今年はどうしたことか雪がよう降りおった。集落まで日中に解け切らんほど積もっとる」 「昨年まではこんなことはなかったのに」 「長い歴史を見れば希にあるらしい。ついでにそういう年は、雪原に現れるちゅうホルワウがこの集落まで来ることもあったらしい。爺さんらの話で聞いたことがある。……ふむぅ」 あらためて唸る大将だった。 ちなみにこの集落。 杉や檜の伐採と原木販売、及び小さな木工加工品生産を集落ぐるみで取り組み生計を立てている。集落構成も通常の農村と異なり、居住と作業をする建物が密集し、後は原木を浅積みするなどできるよう広い場所を確保している。男衆は主に斧で木を倒す「斧打ち」(この集落ではこう呼ぶ)として働き、女性や子どもは小規模な農業や小さな木工加工品生産に携わっている。 つまり、純粋な「斧打ち」の集落である。 檜原、が集落の名前であり、ここで切り出した原木を川で運ぶための「港」として機能する「河津」という村が近くにあったりするが、これは余談。 「よし、開拓者に退治を頼もう。……なぁに。ワシらは常に斧と共にある。裏に四本、表に三本の筋の通り、『死』の災厄はこの集落を避けて通ろう」 大将は愛用の斧を掲げて力強く言う。 「おお、そうよな!」 報告した男も、何度も頷くのだった。 こうして、開拓者ギルドにホルワウ退治の依頼が寄せられた。 ホロワウはつまり、白い怪狼。怪狼といえば駆け出しの開拓者の一対一でも対処できるが、ホルワウはそれより強いとされている。また、雪原を活動域としているため対開拓者戦となると必ず地の利を得ているといえ、この点でも相対的に手強い相手といえる。 「とはいえ、駆け出しや数回依頼をこなした開拓者だけでも何とかなるでしょう」 ギルドの担当者は、これを純粋な強さ比較のみで「新規開拓者推奨」の依頼とした。 結果論だけで言うと、この判断は誤りであった。 まだ参加開拓者らもギルド担当者も集落の斧打ちたちも、すぐにさらされる驚愕の展開を知らない。 やがて住民らはこういうだろう。 「まさか、こんなに早く集落まで活動域を延ばしてくるとは!」 そして開拓者らは、集落到着とほぼ同時にホルワウの襲撃に応戦する羽目になる。 もちろん、この事実をまだ開拓者たちは知らないのだッ! |
■参加者一覧
セシリア=L=モルゲン(ib5665)
24歳・女・ジ
テト・シュタイナー(ib7902)
18歳・女・泰
楔(ib8071)
15歳・女・砂
ダンデ=ライオン(ib8636)
22歳・男・魔
ルカ・ジョルジェット(ib8687)
23歳・男・砲
アナ・ダールストレーム(ib8823)
35歳・女・志
来須(ib8912)
14歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ● 「よぅ来て下さった。ワシはここの長をやっとるモンじゃ。『大将』と呼んでくれ」 開拓者たちが集落に到着すると、大将に出迎えられた。 「防寒着着てるのに寒い……寒いわこの村」 ぶるっ、と身を震わせて呟いたのは、楔(ib8071)。心持ち上がった目尻、ツンと小さく佇む口が性格を表していそうな修羅女性である。ちなみに防寒着はしろくまんと。年齢相応に似合っている。 「まったくだ。そもそもなんでこんなに寒くなきゃいけないんだ? ……まあ、珍しい集落だからいいけど」 同じくしろくまんと姿のテト・シュタイナー(ib7902)も頷く。 楔とは反対に、顎を上げポニーテールにした長い金髪と好奇心に輝く青い瞳が明るさを放っている。 「……」 「いっとくが、俺様は犬であって狐じゃねぇ。そこんとこ、間違えんなよ?」 無言で楔に見詰められたのをテトはそう取ったらしい。親指を自分の胸に突き立ててアピール。 一方、二人とは正反対な人。 「この空気。ちょっと、ジルべリアを思い出すな……」 ジルベリア製の「ソルジャークロスボウ」を肩に担いで言ったのは、来須(ib8912)。ぶっきらぼうに言うが表情は晴れやか。周りを見つつ雪の残る道をざしりと「グランドヘビーブーツ」で歩く様子は、こういった雪道に慣れた足運び。腰も据わっている。 「ンフ……」 同じく、雪面をジルベリア製「ダナスティブーツ」が踏みしめる。視線で辿れば、脛のほっそりしたシルエットからむっちりした太ももにぎゅっと締まった腰、そして爆発的な魔乳へと続く。女性の肉体美に、ある意味恵まれるだけ恵まれている。 「たくさんの犬っころがおイタしようとしてるなんて……」 ぴしりと手にした「血茨の鞭」をしごく。ギルドでも「熟女の戯れ」としてある程度知られている熟練者、セシリア=L=モルゲン(ib5665)だ。 「お灸が必要よねぇ、ダンデ君?」 「知らん。……が、戦うにはもってこいって感じじゃねぇか。存分にやらせてもらうぜ」 セシリアに話を振られたダンデ=ライオン(ib8636)は、それだけ答えた。濃い蒲公英色の髪は短くさっぱりと整え、貴族のような雰囲気も醸すが口の悪いところがあるようで。 「存分にやれるくらい敵の数がいるって話だったわね。……昔を思い出すわ」 懐かしそうな面差しをするのは砂迅騎の女性、アナ・ダールストレーム(ib8823)。雪面での戦闘は開拓者になってから経験しているため、もう不安はない。 ここで、誰も予想し得なかった事態が発生した。 ――がたーん! 遠くで――いや、集落居住地の北西側でけたたましい音が響いたのである。 「きゃ〜っ!」 「ホルワウだあっ!」 「まずい、外に出ろっ」 続いて住民の悲鳴が響く。 今から開拓者が森へ退治に行くはずだったホルワウが、集落を急襲したのであるッ! ● 「こ、これはまずい。ホルワウの奴らめ、共同作業所を狙いおった」 開拓者を案内していた大将が呆然と言う。 「ッチ……来て早々に襲われるなんて、不愉快極まりねぇ」 「タイミングが悪いわね。でも最悪は避けられたわ」 ジュエルロッドを構えて現場に走り出したダンデは、同じく反応早く駆け出したアナの言葉に思わず「ん?」と振り返った。 「なぜなら私達がいる。好き勝手させないわよ!」 「ったりめーだ」 ダンデ、口調が乱暴になったアナに驚いたが、言ってることは気に入ったらしくニヤリとする。 「おいおい。いきなりおっ始まったのか!? やべぇな……急いで村人を避難させねぇと!」 テトも走る。手には「戦女神の赤き弓」。見えたらとにかく撃つつもりだ。 「どっかしらでかい建物に避難させるしかねぇ。大将の家なんかはでかいはずだろ!」 テト、振り返りそれだけ仲間に伝える。 ここで若干空気が変わる。 ――ぴしっ! 「うおっ!」 いきなり目の前で鞭が跳ね、大将は驚きの声を上げた。 「ンフフ。今、住民の避難場所はアナタの家に決まったわ。そういうわけだから、頼んだわよゥ」 セシリアである。この期に及んで有無は言わせない。 「よ、よし。もう落ち着いた。避難場所はワシら『斧打ち』の男らが責任を持つ」 これでようやく大将も、命の危険に身を晒す男の威厳を取り戻した。大きな声を出して仲間を呼び、新たな避難場所を指示する。セシリアの方は人魂を小鳥にして放った。 「いきなり仕事かよ……せわしねーな。……っと、おいアンタ。この辺でにいる住人や侵入されると危ない所なんかねぇか?」 来須はすれ違う男に話し掛けてちょちょいと情報収集。仲間の動きを見て、必要な場所――老人の多い地域への護衛と避難誘導に走るのだった。 そして、楔。 「とにかく情報が欲しい」 彼女は大将に続いた。 「ここか?」 それだけ聞いて大将が頷くと、狼煙銃を上空に放った。 「アヤカシの奇襲よ! ここまで逃げて」 叫ぶ楔。避難所を知らせるためである。 が、これは敵にも情報を与えることになるぞ? ともかく、楔は広域視察のため二階の屋根に登る。 そして、見たッ! 東の材木置き場からもホルワウが接近していることを。 ● 時間は楔の東側の敵発見より、少しだけ遡る。 「ダンデさん、敵を発見したら一呼吸おいて突っ込むわよ」 「何でだよ?」 共同作業所へ向うアナが、ダンデにそう声を掛けた。 「テトさんが狙うからよ。巻き添えは食いたくないでしょ?」 「ッチ……しょうがねぇ」 大人しくダンデが言ったのは、目の前の作業所から逃げる住民を追いホルワウが姿を現し、もうそれをアナが狙っていたから。 「そらそら、頭ぁぶち抜くぞ!」 テトの矢が敵に刺さる。 「さ、行くわよっ」 「言われるまでもねぇっ!」 アナが戦陣「十字硬陣」と戦陣「槍撃」を巧みに使いダンデと突っ込む。 「入り口でモタモタしやがって邪魔くせぇな……潰す」 ブーツで雪を散らしながら殺到するダンデ。敵もこの動きに気付いたぞ? 「むしろ光栄に思いやがれ……このボクと戦えるんだ」 とは言わない。 言わないがしかし、右目に強い意思が宿り雄弁に物語っている。振りかざすジュエルロッドに自信とプライドが宿る。 (蒲公英――ハジマリの太陽の色を覚えている花……。負けるわけにはいかねぇ) 思いを伸ばした両手に乗せ、今、ウインドカッターが風を巻き奔るッ! 「やるじゃない。いくわよっ!」 ダンデの一撃で息絶える敵。そこをするするっとアナが抜けて屋内に突入。 「いや、新たな客が来たようなんでね……」 がつん、と板窓を破ってきた敵に襲いかかるダンデだった。 ここで、後方から二人を見ていたテトが気付く。 「ん……正面から来るにしちゃ少ないか?」 派手に暴れて中から人が出てくるわりに、敵が屋内から出てこないのだ。 「そっち、来るかもしれねーから気をつけろよ」 「わ、分かった。そう伝える」 避難する住民は、真面目だった。テトのこの一言を逃げながら広く伝えた。これが悲劇回避のポイントとなる。 「すまねぇ。俺様は敵の本隊を叩きに行くっ!」 テトはダンデにそう伝えて北東方面に向った。 時に、空には楔の狼煙銃が上がっていた。 ● 「ンフフ……。そういうことね」 このころ、セシリアも敵の狙い――西から突っ込み大騒ぎして隠れる場所のない東に追い立てておいて東から本隊が取り囲むという戦法を見抜いていた。人魂を飛ばし騒ぎのわりに事前に知らされたホルワウの想定総数と開きがあったので一発だ。 さらに確認して、北の中央から五匹一小隊、東から五匹一小隊が来ているのを確認した。 「迎撃班にも知らせてあげなくちゃねェ」 敵が来た三方、西・北・東に向けて狼煙銃を放った。 余談であるが、これで楔の打ち上げた避難所の狼煙銃は完全にカモフラージュされることとなった。 もっとも、支援活動に手を取られセシリアは戦闘力という点から完全に取り残された。 その背後を、テトが走る。 「そっちからも来るかもだぜっ!」 「いいのよゥ、これでここは行き止まり。敵は全部東から来ることになるわねェ」 セシリア、うまい。路地を結界呪符「黒」で行き止まりにした。これを繰り返し、敵の動きをコントロールする。そして自分自身は避難者の誘導や護衛に専念するのだった。 一方、住居密集地の南にあえて向った来須。 「あんた、動けねぇか? なら、戸締りしっかりして絶対出てくんなよ。何、俺らが片付けるからな」 避難できそうにない老人宅などはそう声を掛け安心させた。混乱に拍車が掛からなかった一因となる。 「動ける奴は、大将宅だ」 避難する人々にも声を張る。 ところで、作業所に突入したアナはどうなった? 「やはり陽動……」 内部は怪我で動けなくなった住民に止めを差すことなく放置されていた。外へ出すのが第一目的の暴れ方だ。 「グワオッ!」 「コレ以上好き勝手にはさせないわよ!」 残っていたホルワウが突っかかってきた。しかし、これは待ち伏せ一閃。魔剣「ラ・フレーメ」を小さく振るい最小の動きで敵を止め、次の一撃で息の根を止める。屋内戦闘を熟知している。 そして外に出る。 「これだけ中に少ないと別ルートからの可能性は十分にあるわ」 ついて来た敵も、やはり攻撃を受けてもいい形で迎撃。アナ、雪の上でも安定する戦いを見せる。 ちょうどそこではダンデも戦っていた。 「避けるなんて事しねぇよ。ふん……待ってたぜ」 ボクの懐に入ることをな! という叫びは動く中で声にはならず。 ウインドカッターで挑発し寄ってきた敵にヴォトカを掛けたのだ。攻撃を食らうがそんなん知らねぇとファイヤーボール。 「どうだ、豚みたいに焼かれる気……ッチ。最近の酒はシケてるぜ」 振り返ってみると、思ったより焼けてない。まあ、敵は一連の攻撃で瘴気に返っているのでそれでよし。 これでほぼ、西側は鎮圧した。 問題は東側だ。 「やっぱり、他にいやがったか。これ以上は行かせねぇよ!」 テトが瞬脚で広場に出て応射していたが、さすがに囲まれそうになったばかりか集落の方に行く敵がいた。我が身を囮にしたのだが、守るべきはわきまえている。瞬脚で集落前に戻る。 「ったく、御立派に数を揃えやがって。いいぜ、纏めて相手してやんよ」 武器を長槍「紅蓮修羅」に持ち変えた分痛い目にもあったが、ここからは泰拳士の本領発揮。背拳で周囲を感じながら槍をぶん回す。 とはいえ、1対10では抜き去る敵もいる。いや、テトより弱者を追う方が主目的らしい。 「くそっ。確実に止めてやる」 これを見てテトは空気撃に切り替え、できる限りの時間稼ぎと各個撃破に切り替えるのだった。 ● テトを抜いた敵の動きはどうなった? 「速いわね……。頑張って、ここまで走って!」 大将宅の屋根で援護射撃を短筒「獅子殺」で狙っていた楔は焦りを感じていた。 バダドサイトを発動し広く見渡すが、獅子殺の射程はそれよりはるかに短い。引き付けて撃つが敵は「疾走」を使い一気に寄ってくるのだ。一発で仕留めるには若干足りないと分かったこともあり、素早く次弾を込めて足止めに専念する。が、敵の数は増える一方。 「ここだけは通すわけにはいかないから」 一か八かで小屋の屋根を経由して飛び降りた。さすがは器用で体も鍛えている。何とか飛び降りることに成功した。 そして、敵はもう複数来ている! 避難民より目の敵にされたのは運がいい。 「私は肉が嫌いだから美味しいわよ……なんて」 冷たく光る刀「鬼神丸」を構え、いま噛み付いてきた敵をばっさり切り落とす。流れる黒髪から額に修羅の角が覗く。攻撃を食らった痛みに神経が研ぎ澄まされる。ちら、とクールな瞳が避難者を追う敵に気付いた。 「通さない」 ファクタ・カトラス。 敵の前に移動し、すれ違いざま切り抜ける楔だった。 「滑り落ちなかったのは幸いだったな」 そして援護の射線。 来須だ。 「構わず走れ。俺が守る!」 強射「朔月」でクロスボウをぶっ放ち避難者支援に徹している。 が、当然敵が寄ってきた。 「ったく、少しは無茶しねえと。つっても、面倒はごめんだぜ」 疾走で詰めて襲い掛かった敵を銃床でいなす。もう無茶をするしかない。 「近づいてんじゃねーよ」 とか言いつつ最後は来須自身が近寄り持参していたナイフで止めを刺した。 さらに掛かってくる敵。 が、これには鞭が飛んでいた。 「ンフフ。やるじゃない」 セシリアが戻ってきた。 いや、テトも、ダンデも、アナも。 コンパクトになった戦場で、ついに開拓者もより組織的な戦いを展開するのだった。 ● 白かった雪面に、ところどころ血が混じっている。 ホルワウ十五匹は倒したが、アヤカシなのでその死体はない。 あるのは逃げ遅れ襲われた住民の死体だけだ。 「……最悪は免れたけど、被害もでてしまったわね」 「狼の狩りにハマって、これだけの被害ですんだのは運がいい」 アナの呟きに、厳しい顔をして大将が言葉を絞った。 その背後の大将宅には、怪我人が運び込まれていた。負傷者も多い。 「てめぇらもそう心得ろ。全滅しなかったのは開拓者のおかげだ」 大将に諭され、多くの住民がすれ違いざまに開拓者に感謝する。錯乱者などはいない。もちろん、常に死と隣り合わせで働いているきこりの心意気があるからともいえる。親を失った子どもですら、大将の言いつけを守りわざわざ開拓者の前に来ると涙を拭きもせず無言で頭を下げた。 「念のため、見回ってくるわよ」 「俺様も行くぜ」 ンフフ、と妖艶な足取りで歩き出したセシリアに、テトが続く。自分の一番貢献できることはわきまえている。 「ふん……この集落は馬鹿ばっかりだな。被害が出たのにも関わらず感謝しやがって」 自らに怒りを感じ、ダンデは背を向けた。 「これがボクの歴史、存在価値か?」 とは、言わない。 ただ、ぎり、と密かに歯を食いしばる。 そこへ、先の子どもが走ってきた。無言で、縋るように頭を下げ感謝の意を表してている。伝わらなかったと思ったのか? 「……むしろこちらが感謝すべ……いや、なんでもねぇよ」 口元を緩めて本音を言いかけたダンデだったが、すぐに背を向けた。 その子には、追って来たアナが後ろから優しく抱き締める。 「別れは悲しいわ。でもそれが人を強くする。まだ未来はあるわ」 「うん。父さんのように強い斧打ちになる」 決して下を向かないダンデを見送りながら、子どもはアナにそう誓うのだった。 「手伝おう。これも仕事のうちだ……」 二人の背後では、来須が家屋の応急修理に乗り出していた。住民の手が回らないと見て先に動いたのだ。 「ものはいいわね……壊れてもすぐに直せて」 楔も手伝いながら、誰にも聞かれないようにぼそり。 「ああ。ものでも、町でも、日常でも何でも直すさ。……亡くなった人を直せない分、全力でな」 吃驚する楔。どうやら大将に聞かれていたらしい。 「まずは、風と寒さをしのげるようにするぜ……」 そうやって、力を合わす。 |