みどり牧場、雪景色
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/22 22:38



■オープニング本文

 ここは武天南方、伊織の里の近く。
 合戦で大アヤカシに勝利し、魔の森を焼き払った跡地。大きな三角形の岩「おむすび岩」のある近く。
 そこには、ぽつねんと大きな牛舎と住居、大きな倉庫などが身を寄せ合うように佇んでいる。
 開拓者にも手伝ってもらって整備が進んでいる「みどり牧場」だ。
 その、住居の中で。
「ふう。まさかここまで雪が降るなんてね〜」
 鹿野平澄江(かのひら・すみえ)が暖炉のそばで溜息を吐いている。
 余談だが、一般に乳牛は暑いと搾乳量が落ちる。焼き払い跡地でも比較的標高の高い場所に構えたので、余計に雪が深くなっているのである。
「作業が滞るよね」
 澄江の息子で、結婚して間もない鹿野平一景(かのひら・いっけい)も静かに溜息を吐く。
「お母さん、家の中のことが滞ってたんでしょ? しばらくは私も家の中のことを手伝うから」
 新たに口を開いたのは、鹿野平窓香(かのひら・まどか)。齢10歳の少女。父の一景の隣にいたが、母の鹿野平早苗(かのひら・さなえ)の方を向いて健気に言う。
「大丈夫。遅れていたのは家の構造的なこと。お父さんがやってくれましたから」
 静かに娘に言って聞かせる早苗。
「まあ、しばらくはワシらもどうしようもないっちゅうこっちゃの。外はもう、開拓者にも手伝ってもらって更地になっとるし、小型飛空船の発着場もできたし、機械系の整備ができる大型倉庫も完成したしの」
 ここで、一家の大黒柱である鹿野平一人(かのひら・かずと)がずずず、と茶を飲みながらまとめた。
「もう、雪が解けたら細かい作業をして整えて、放牧なんかをしていくだけ。ですよね、アナタ」
「おお。後は細かい作業を雪解けまでにのんびりすりゃええんじゃ。……いまここでやることといったら」
 澄江に言われて大いに頷く一人。そしてここで悪戯そうに破顔する。
「完全更地のこの一面の雪の世界を楽しむだけじゃ〜い」
 どだん、ばたばたと扉を開けて駆け出していく。その手には雪ぞりが持たれているぞっ!
「もう……。扉の閉め方が甘いんだから」
 いやっほぅ〜い、とだんだん小さくなる一人のはしゃぐ声を無視して扉を閉める澄江。
「でもまあ、確かに種をまいた牧草が生えて放牧地の柵を作ったら、ここまで広く遊ぶことはできないだろうね」
「あら、一景。だったらお父さんと一緒に外に遊びに行っていいのよ?」
「いや、やめとく。作業員さんの宿舎にも声が届いちゃうし、何より今は夜で真っ暗だし」
 そう。
 さらりと澄江は言ったが、実は今は夜。
 当然外は暗いし、寒い。
――どんだんだんだん!
 ここで、玄関扉が荒々しく連打された。
 澄江が鍵を開けてると、一人が物凄い形相で立っていた。
「バカ野郎。オレを締め出す奴があるかっ!」
「バカはアンタだよ、カズトさんよぅ」
「何っ」
 突然背後から声を掛けられ振り向くと、そこには貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)が立っていた。
「大きな声を出して滑り出すもんだから、宿舎の方も何事だと心配しちまったじゃねぇかよ」
「おお。そらすまん。……それより絵師どの。こう、一人で遊んでも盛り上がらんしつまらん。明日小型飛空船で帰る便で、開拓者を雇ってくれんか?」
 あっさり謝ると、おっ、そうだと手を打ち鳴らしちゃきちゃきと新たな話を進める。
「そりゃいいが、一体何のために?」
「今言ったろ? 遊んでもらうためだ。いいか、雪が解けちまうと、この広い場所も何でも好きに使えなくなるんだぞ? いまなら、駆鎧同士で演習しようが、滑空艇で超低空飛行しようが、斜面を一気にそりで滑り降りようが自由だ。今ならではの状態を楽しまんのは、愚の骨頂じゃろうが」
「む。そらまあ、俺も記録しとくにこしたこたぁねぇな」
「よし、決まりじゃ」
 周りでは、父と熱血絵師とのやり取りを聞いて「決断早いなぁ」と一景が呆れていたり。
「ともかく、朋友と一緒に自由に楽しんでくれる開拓者を募集じゃ。費用は経費で国に請求を回す。夜はイノシシを狩っとくから、ぼたん鍋じゃ」
「本格始動後の牛肉や牛乳の販売促進を兼ねた費用だから、きっと落ちるわね♪」
「よっしゃ。そういうことなら俺に任せときな」
 澄江まで輪に加わる展開に、一景は「世の中それでいいの?」という呆れた視線を送っているのであった。

 というわけで、更地が多く一面銀世界のみどり牧場で、整備前ならではの楽しみを堪能してくれる開拓者と朋友を、求ム。


■参加者一覧
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
禾室(ib3232
13歳・女・シ
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰
ロゼオ・シンフォニー(ib4067
17歳・男・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
フランヴェル・ギーベリ(ib5897
20歳・女・サ
アルセリオン(ib6163
29歳・男・巫
熾弦(ib7860
17歳・女・巫


■リプレイ本文


「お〜。中型飛空船もギリギリ着陸できんでもねぇかぁ」
「そうね。いざという時には役立ちそ。これでいろいろ便利にできるわよ〜」
 おむすび岩が目印のみどり牧場で、鹿野平一人とその妻、鹿野平澄江が無事に着陸した中型飛空船を見上げて安堵の表情を見せていた。これで依頼の半分は終了だと笑い合う。
「お〜い」
 そんな二人に、飛空船から出てきた開拓者たちが駆け寄る。
「ふに〜っ、雪なんだよ〜!」
 すたたたたっ、とダッシュで駆け寄ってくるは狐獣人のプレシア・ベルティーニ(ib3541)。ふわりと舞う金髪ポニーテールの羽妖精、オルトリンデも一緒だ。
「とりぁぁっ!!」
 そのプレシア、いきなりジャンプする。
――ばふん。
 見事、無邪気なダイブで雪面に大の字ができた。
「ぷはぁっ!」
「これが雪ですか」
 そしてい〜い笑顔でプレシア型の穴から顔を出す。一方のオルトリンデは冷静そのもの。
「たっのし〜の〜♪」
 きゃっきゃと一人盛り上がりしてオルトリンデに雪を掛けるプレシア。
「ふむ、冷たいですね……。というか、やめてください」
 そしてさらに突っ込む者が。
「おおっ、すごいの。雪じゃ雪じゃ!」
 今度は狸獣人の禾室(ib3232)が走って来ている。プレシアに負けじと雪面に元気良くダイブ。
「楽しいの、プレシア殿。福来もどうじゃ?」
 にこーっ、とプレシアと笑いあってから朋友の土偶ゴーレム、福来を振り返る。
 福来はあまりに素早すぎる禾室の動きについていけず、のんびり歩いていた。
「おらはそんなこたぁ……ぶっ」
 それでも急いでいたのと、深い雪に入ったことが災いしこけてしまった。禾室と同じく雪にどっぷり。
「あはははっ」
 起き上がって頭をかく福来の様子に、禾室とプレシアは笑うのだった。


 そんな二人を見て微笑みながら残りの開拓者が夫妻に歩み寄る。
「よ、来たぜ。中型飛空船が使えて何よりだな」
「絵師殿、開拓者殿、ようこそじゃの」
「こんにちは、思いっきり遊ばせて貰いに来ました! ……わぁ、ほんとに綺麗な雪景色です」
 下駄路 某吾(iz0163)を先頭に皆が挨拶する。ルンルン・パムポップン(ib0234)はさらに周り改めて見てうっとりしている。確かに大地は白く空は抜けるように青い。乙女ニンジャも胸キュンだ。
「下駄路さん、その節はどうもお世話になりました」
 そして下駄路に改めて挨拶するのは、狼獣人のロゼオ・シンフォニー(ib4067)。
「おおっ。ロゼオさん、懐かしいなぁ。……聞いたぜ? 今じゃ『お祭り好き』で名が通ってるらしいなぁ」
「いや、それは……」
 狼耳をへにゃりとさせて俯き照れるロゼオ。黒髪の中、赤毛となっている長い右前髪がさらりと垂れる。
「ははっ。朋友は炎龍だな。今日はばっちり一緒のところも絵にするからな」
「ええ、ファイアスっていいますから、よろしくお願いします」
「グアッ!」
 下駄路の言葉に一転明るく顔を上げて「お祭り好き」らしさを見せるロゼオ。そんな主人の気分が分かったか、朋友のファイアスもひとつ鳴いて下駄路に顔を寄せた。
「あの……。ご主人さま?」
 そんな中、なにやらもじもじしている羽妖精がいる。黄金色の髪の毛と山吹色の瞳が秋を思わせる羽妖精である。
「そうね。まぁこんな機会もそうないわけだし、たまには童心に帰るのも悪くないかしらね。思いっきり楽しみましょうか」
 口を開いたのはリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)。朋友、ギンコの羽の黒と同じく、衣装にも各所に黒を配したお洒落さん。
「おー」
 その一言を待ってましたとばかり、右拳を突き上げるギンコ。テンションが高い。
 そしてテンションの高いのはもう一匹いる。
「せっかく武州に帰ってきたにゃら、思いっきり楽しまにゃいと損にゃーっ!」
 白・茶色・黒の三毛猫又である。
「やれやれ。また柘榴が依頼に行きたいと言うから何かと思えば雪遊びか」
 ぶつぶつ言うのは、白髪片眼鏡のアルセリオン(ib6163)。足元で元気のいい猫又は彼の朋友の石榴である。
「アルはもうちょっと、感情に素直ににゃるとい……」
「何度も聞いた。……それに、ちゃんと来ただろう? 雪原は見たことしかなかったからな」
 そしてさらに輪をかけて賑やかなのがいる。
「いずれこの牧場の様に、全ての魔の森を焼き払い、人の住まう豊かな大地へと再生していける時が来る。ボクはそう信じているよ。……それにしても初めて見る羽妖精、それに可愛らしい少女達……ああ! 来てよかった!」
 踊りながら独白するフランヴェル・ギーベリ(ib5897)。
「きみは確か窓香ちゃんといったね……」
 早速、牧場主の10歳孫娘に近付いたり。
 それとは別に、静かな人もいる。
「しかし、報酬を払ってまで『自由に遊んでほしい』なんて奇特な人もいたものね」
 修羅の熾弦(ib7860)だ。
「……」
 その熾弦を無言で見つめる羽妖精がいる。彼女の朋友の風花である。白い衣装がふわりと可愛らしい。
「わかっている。ここまで来たのだし、素直に楽しませてもらうとしましょうか」
 寂しそうな瞳に気付き、優しく言ってやる熾弦。途端に明るくなる風花。
「えへへ、雪、沢山……」
 機嫌よさそうに飛び回り、衣装をひらめかせる。
「ま、遊ぶにしてもある程度の雪かきは必要じゃがのぉ」
 そんな一同にすこっぷを手渡す一人。報酬が出る理由である。


「よ〜し。影忍ちゃんの整備完了ですっ」
 皆が道作りをしている最中、ルンルンは整備倉庫で朋友のアーマー「X2ーG『影忍』」を雪上使用に換装していた。
 早速搭乗して倉庫を出る。
 周りでは雪かきが随分進んでいた。
「それじゃ、先に広場で雪像を作りつつ除雪しちゃうんだからっ」
 歩を進める影忍の頭上には優雅に飛ぶ甲龍の姿があった。
 フランヴェルの「LO(エルオー)」だ。
 黒曜石の様な光沢のある黒く滑らかな体をいっぱいに伸ばし、澄んだ青空を飛んでいる。
「どうだい、窓香ちゃん? 牧場がよく見えるだろう!」
 小さな窓香を背中から包み込むようにしてLOを飛ばしている。LOは二人乗りでも普段と変わらない。子ども好きで、少々重くても楽しく空の散歩ができるならと頑張っているようだ。窓香の方はフランヴェルに着せられたしろくまんとを羽織り大人しくしている。
「……うん、ありがとう」
 とはいえ窓香、あまり社交的でも活発でもないらしい。控えめに礼を言う。
「ハハハ。この大空に身を委ねる感覚はいいね。いろんなことが見えてくるし、楽しくなる。……ごらん、皆楽しそうに遊んでるね! ハハッ!」
 他人との交流に恥じらいを見せる窓香とたっぷり触れ合うフランヴェル。指差し見下ろした先では、開拓者たちが本格的に遊んでいた。
 場面は地上に移る。
「わっ! 兄さん、凄いけど僕が巻き込まれてる」
 ロゼオがスコップを持ったまま降り注ぐ大量の雪から逃れるべく雪面にダイブしていた。
 その雪がどこから来ているのか。
 実は、赤い体のファイアスが後ろ向きになったまま、長い両足でぺぺぺと雪をのべつまくなしに蹴り飛ばしていたのだ。
「グァ?」
 ファイアス、ようやく主人の悲鳴に気付いたようで長い首を回して「大丈夫か?」と声を掛けた。
「……なあ、ロゼオさんよ。何で竜を『兄さん』と呼ぶんだ?」
「夢を見たときに『兄さん』だったからですよ、下駄路さん」
 ロゼオは起き上がり、寄って来た下駄路に言うと集まった雪の山をぺしぺし固め始めた。
「じゃ、兄さん。穴を掘ろう」
 にっこりと「兄さん」に声を掛ける。どうやらかまくらを作るらしい。
 ファイアスも、そう呼ばれるのに慣れているようで楽しそうにロゼオを手伝うのだった。
「へえ。……おっと、あっちはまた派手だな」
 ロゼオたちの様子に感心した下駄路があるモノに気付いたようだ。


「完成! 風雲ルンルン城です」
 がぱっ、と影忍のハッチを開けて出てきたルンルンが八重歯を見せて堂々と胸を張る。
「でけぇ。……が、ちょい歪んでないか?」
「あ、下駄路さんっ! 歪んでなんかないんだからっ」
 しゅたっ、と降りて見上げた下駄路に主張するルンルン。
「それよりほかにもあるんですよっ。ほら、大もふ様でしょ……」
「うんまあ、それは完成度が高い。が、こっちはなんだ?」
 下駄路、どどんとそびえ空を見上げる実物大大もふ様の出来は認めた。雪でももふもふっぷりが伝わってくる。だが、その横のずんぐりとした人型の物には首を傾げる。
「じゃーん、ネオアームストロングサイクロンじぇっとアームストロング刀です、完成度高いでしょ!」
「ああ、アーマーか。確かにずんぐりしてるもんなぁ」
「違います違います。ネオアームストロングサイ……」
「長いし言葉の意味が分からんよ」
 必死に可愛らしく乙女のロマンを語るルンルンだが、下駄路には通じず。
「大もふ様ではないか! 完成度高いの、おい」
 ここで禾室がやって来た。見上げてたぬき尻尾をくりんくりんさせるくらい、出来が良い。そうしているうちにようやく福来も追いついてきた。下駄路らともふもふ談義に花を咲かせる。
「つまらないにゃーっ!」
 ここで突然、三毛の猫又・柘榴がやって来てぷんすか爆発した。
「皆で雪合戦でもするにゃーっ! 二つに分かれて相手の雪像を壊した方が勝ちとかどうにゃ?」
「そりゃいいが、ご主人はどうした?」
「アルセリオンさん、僕たちの作ったかまくらでスケッチをしてるよ?」
 下駄路の問いには、てくてくやって来たロゼオが答えた。
「『僕は雪遊びに興じる柄でもない』って……」
 羽妖精、風花もふわ〜っ、とやって来て言葉少なにアルセリオンのセリフを伝えた。
「気持ちは何となく分かりますけどね」
 遊びたい雪花につれられる形で、いつも落ち着いた雰囲気の熾弦が現れた。そんな主人に雪花はちょっと物足りなさそうだったり。
「もちろん、雪合戦をするなら私も参加させてもらいましょう」
 雪花の寂しそうな視線に気付いた熾弦が言う。雪花は「うわあっ」と顔を明るくし、これを見て熾弦も緩やかに微笑むのだった。
「ふぅん。雪合戦、楽しそうねぇ。それじゃあ私も加えさせてもらおうかしら」
 賑わいに引かれリーゼロッテもやって来た。
「秋妖精だからって冬に弱いわけじゃないんですよ〜」
 もちろん、羽妖精のギンコも一緒だ。雪の妖精ともいえるような衣装の雪花を見付けて近寄ると、周りを回ってそう主張する。
「ふふふっ」
 テンションの高いギンコを見て、雪花も心を躍らせた。
 そしていつの間にかやって来てしゃがみこんでは狐尻尾をふわふわさせていた人物が起き上がった。
「ふに〜。それじゃ、雪合戦だよ〜!」
 プレシアである。手にはいましがたこねこねしていた雪玉を持っている。
「ぺいっ!」
「わっ!」
 でもってロゼオを狙った。ロゼオ、「なぜ僕に?」と茫然自失。
「おや、珍しく命中」
「にゃは〜、雪まみれだね〜☆」
 クールに珍しがるオルトリンデはほっといて、プレシアはにゃぱっと笑顔で「遊ぼう」をアピールする。
「やったね? よーし! 思いっきり楽しむぞ〜」
 一瞬固まっていたロゼオだが、「お祭り好き」を発揮。すぐに屈んで雪玉を作るとプレシアに当てた。
 これが開戦の合図となった。
「よしっ。俺たちは風雲ルンルン城を守ろうや!」
「それじゃ私たちはかまくらよ〜っ!」
 何と、ここで来たばかりの一人と澄江が左右に別れ走り出した。
「おおっ!」
 釣られてどちらか寄りに走り出したり立ち止まって雪玉を投げたりする開拓者たち。ノリがいい。
 おっと、どうしようか迷っている人もいるぞ?
 熾弦である。
 が、澄ました微笑に、ぺしっと雪玉が優しく当たる。
「ね……」
 見ると、投げたのは雪花だった。控えめな笑顔が「投げよう?」と言っている。
「やれやれ、雪花に心配されるとは」
 ぎゅっと雪玉をつくり始める熾弦だった。
 場面は変わって、最後方。
「おいっ、鹿野平! ここを陣地にするのか?」
「いいじゃない。守ってあげるからそのままスケッチしてなさい」
 のんびり陣取っていたかまくらが敵のターゲットになったことで、さすがのアルセリオンも慌てて澄江に抗議した。が、流れには逆らえず。
「フフッ。窓香ちゃん、ボクたちはこちらに加勢するとしよう」
 空の散歩から返ってきたフランヴェルもやって来た。
「あら、窓香。可愛いわね」
 どうやらまだ窓香はしろくまんと姿らしい。澄江から褒められる。
 そして、敵が来たッ!


「すまねぇ、抜かれた。気をつけてくれ〜!」
 下駄路の声が雪原に響く。
「わしは本気じゃっ!」
 ざざざ、と雪煙を上げて禾室が早駆で突貫してきた。そして渾身の力で雪玉を投げる。
「あいた。やったわね?」
 元弓術師の澄江、髪を雪塗れにしながら反撃。これを月歩でかわす禾室。白熱してきた。
「よ〜し、今こそニンジャの奥義を見せる時です、ルンルン忍法大ニンジャボール3号!」
 同じく攻め寄ってきたルンルンは足を上げて分身魔きゅ……もとい、散華で雪玉三連投。
「ふぎゅ!?」
 雪玉をたくさん作っていたプレシアにこれが命中。
 しかし、大ニンジャボール3号攻撃はまだ止まない。
「私に当てられるかしらねぇ」
 余裕を見せるのはリーゼロッテ。前に歩くように後退し乱れ飛ぶ雪玉をひらり。月歩である。
「あれっ? って、そんなことのために奥義使っちゃうんですか!?」
 そんな主人の行動を見てギンコは目を見開いていた。
「遊びでも全力で、ってね」
 くすくす笑うリーゼロッテ。半面、ギンコはぺしりと小さな雪玉を食らった。
「あはは……」
 羽妖精の風花であった。投げた後は「あそぼ?」という感じに無防備に飛んでいる。
「やりましたね〜っ」
 ギンコ、明るく言うと全力で風花と遊び始めるのだたった。
「おらおらおらっ。こっちの方が人数少ないけぇ、攻めるでえっ!」
 一人も本気で投げてきている。この楽しい事好きなおっさん、容赦ない。特にかまくらを作った時に余った雪で壁を作ったロゼオを狙う。
「あっ。兄さんっ!」
 そんなロゼオを庇うように、ファイアスが壁の横に立つ。一人の玉に当たりながらも足を後ろにせっせと動かし雪をロゼオの方に寄せていた。
「雪だまガード! こうゆうときって兄さん便利だよね。……って、これを僕に?」
 何と、それは雪玉になっていた。少し大きくて若干雑なのはこの緊急事態では仕方ない。
「よ〜し」
 朋友に作ってもらった大玉をさらに整えながら反撃するロゼオだった。
「危ないっ! ふぅ。皆で童心に還って遊ぶのもいいね!」
「……」
「おっ。窓香を押し倒すとはいい度胸だなっ!」
 フランヴェル、窓香を守ったのに一人から集中砲火を浴びる。
「いかん。LO、君はこうやって鼻先に雪を乗せ首を振って雪を飛ばすんだ!」
「……いやいやしてるように見えるのは気のせいかのぅ?」
 朋友を使って反撃をしようとしたが、どうもLOはうまく飛ばせずふんふん首を振ってはへろへろな弾道で投げている。とりあえず攻め手を緩め呆れる一人。が、LOは楽しそう。どうやら基本的に温厚な性格らしく、一般人に当たってもいいようゆっくり投げていてそれが心弾むらしい。優しい竜である。
 と、ここで柘榴がにゃふんと胸を張った。
「ワガハイはそんにゃに雪玉持てにゃいし。これで一気に敵陣地にゃ〜っ!」
 何と、その体が一瞬だけ眩しい光を放った。猫騙し……ではなく「閃光」のスキルだ。
 そして一気に雪原を駆ける。って、柘榴さんアナタご主人を見捨てた形ですよ?
「むむ〜。やったなぁ〜! え〜い!」
 それはそれとして、当てられてもまずはたくさん雪玉を作っていたプレシアがついに反撃に出た。
 ぺぺぺぺぺっ、と連続で投げられる雪玉。
 しかし、プレシアはたくさん投げることに意識を集中しすぎていた。何がまずいかというと、何と目を思いっきりつぶっているのであるっ!
「マスター、よく見て投げてもらえませんか?」
 横にいたオルトリンデに流れ雪玉がいってるようで、かわしつつも冷静に突っ込みを入れられる。
 ところで、敵陣に単騎駆けした柘榴はどうなっただろう?
「ふぅむ、鍋蓋……」
 実は敵陣には、土偶ゴーレム福来が残っていた。
「福来は動くのが苦手そうじゃから……。そうじゃ、これを装備するといいと思うのじゃ!かわせぬなら防げばよい!」
 などと主人の禾室に言われ、鍋蓋を持たされたのだ。
 そこへ、猫又柘榴が速度を生かして襲い掛かるっ。
「にゃししっ。勝負とはどんな手を使ってでも勝った奴が正義だにゃっ!」
 にゃにゃんとジャンピングスローに入ろうとする柘榴。迎え撃つ福来は鍋の蓋を構える。
「にゃっ!」
 が、柘榴。飛ぶとき足を滑らせどし〜んと福来に体当たり。仲良く雪塗れになった。


 その頃の不幸な人、アルセリオン。
「くっ。待て、きみたち」
 かまくらの中でルンルンと禾室から集中砲火を受けていた。
「出てきちゃうですっ」
「出てくればよかろう」
 もうスケッチどころではない。
「僕は雪遊びに興じる柄でもない……あ」
 つい力強く立ち上がってしまったアルセリオン。内からかまくらを壊してしまっていた。
 というわけで、勝負あり。
「う〜」
 そのころ、全てを投げつくしたプレシアは次の雪玉を握っていた。
 にぎにぎ……。
「ふにぃ〜」
 にぎにぎにぎ……。
「流石はマスター、何でも食べるのですね」
 ここでオルトリンデが突っ込む。
「はっ。……はうぅ〜、かき氷みたいなのぉ」
 耳へにょしゅんしゅんのプレシア、無意識のうちにぱっくりしゃりしゃりと雪玉を口にしてしまったようで。
「……あっ、かき氷にしたらいいんだよねぇ♪」
「お汁粉ができましたよ〜」
 名案、と耳をぴこんと立てたところで熾弦の呼ぶ声がした。
 もちろんこれに反応してぴょんぴょん駆けて行くプレシアだったり。
「次は『かまくら』なんてどうだぃ。中に入って熱燗をきゅ〜っとするのが粋ってもんよぅ」
 福来は、有志を募って別のかまくら作り。強力を使って大活躍だ。禾室の方は穴を掘る。そして七輪を持ち込んで珈琲を入れたり。
「福来は天儀酒じゃったの……温めればよいのか?」
 熱燗を入れた猪口を持って、ほくほくの福来だった。
「禾室? お邪魔するわね」
 そこへリーゼロッテが入ってきた。
「おお、ええぞ。お洒落なマフラーじゃの?」
「ふふっ♪」
 禾室の言葉にギンコが嬉しそうなのは、彼女の手作りだから。
「あっ。この中で餅とか焼いてみたくなりますよね!」
「まぁ持ってきてないからできないけどね」
 リーゼロッテもニコニコだ。

 そして夜は、ぼたん鍋。
 皆で囲み、硬く食いでのある、野性味溢れる肉を堪能する。
「やはり皆で食べる鍋は最高じゃ!」
「ふみぃ〜、最高なの〜」
 はもはもひむひむと食べる禾室とプレシア。それを娘でも見るかのよう見守る福来。手には熱燗。
「兄さん、食べるかなぁ?」
「LOは肉が好きだから、きみの竜もきっと食べるよ。……それより窓香ちゃん。あ〜ん」
「……ん」
 呟くロゼオにそう言ってフランヴェルが窓香に肉を食べさせてもらっていたり。
「武州も随分と復興したようで安心したにゃ」
「そうか」
 満足そうな柘榴だが、アルセリオンは残念そう。中断したスケッチでしょうねぇ。
「ご主人さま、私にも飲ませてくださいよ」
 ギンコはリーゼロッテの飲んでいる酒に興味津々だが、ちょっと貰ってげっそり。リーゼロッテと雪花がこれを見て「そういうところはまだ子供よねぇ」などと盛り上がっていた。
 それを眺めつつ優雅に佇んでいた熾弦が微笑む。
「……来て良かった」
 思わず呟いた言葉は、近くにいた鹿野平夫妻に聞こえたらしい。
「そう思ってくれて何よりだよ」
 思わぬ言葉に、びくっ、と背筋を伸ばす熾弦だった。
「この間の牛鍋も美味しかったけど、ぼたん鍋も最高です」
 もちろんルンルンも、ほふほふしながら満足そうな笑顔を見せていた。
「だな」
 下駄路もしみじみ言う。