【神乱】泰猫飯店、北へ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/12 20:06



■オープニング本文

「はいよ、炒飯二人前おまちアル」
「五目そばとギョーザの注文もらたヨー」
「野菜炒めとフカヒレスープできたアル」
 ジュージュー、ジャッジャッ。
 わいわいがやがや。
 今日も今日とて泰国は某街の飲食店、「泰猫飯店」は繁盛繁盛の大賑わいだった。
「ん、良くやってるアルな。これなら旧友の約束通り、ジルベリア行きができそうアル」
 満足そうに言うのは、泰猫飯店店主の鈍猫(ドンビョウ)。「太った体は料理人の誇り」が口癖の、ちょっと太った男である。
 実は、ジルベリアに商いに行く知り合い・林青(リンセイ)から同行を求められていた。彼も手広くやってはいるが、ジルベリアは初の商いとなる。ここは勉強しまくって一気に図太いパイプラインを築きたいところではあるが、どうも価格戦争以外の戦いを展開したいとのこと。
「商いは真心だよ」
 が口癖らしい。正論ではあるが今一つ競争力に劣るようで、商売仲間からはお人よし扱いされているとか。
 今回、見事新規ルートを開拓できたのは、ひとえに「泰国料理を住民に振舞い、まずは我が国をご理解いただく」というサービスによる。儲けは度外視し、真心の商売をしたいのだと言う。
 何ともお人よしな話だ。
 ともかく、鈍猫としてはそんな理由はどうでもいい。
 泰国料理の素晴らしさを、世界広くにアピールできる。
 これ以外に魅力はあろうか。
 鈍猫、泰国料理を激しく誇っている。泰国料理が世界一と思っている。ゆくゆくは泰国料理が世界の食卓を支配すると信じている。
 この機会に、まだ見ぬ北の国の民に泰国料理の何たるかを舌の髄まで叩き込む――あ、いや、存分に味わっていただく意気込みだ。
 当然、自らが出向く。
 そうなると、店が留守となる。
 鈍猫、新たな客に目を向ける一方、既存客をないがしろにする神経は持ち合わせていない。「常連客こそ宝物」が信条だ。
 そんなわけで、最近は自分が留守にしても大丈夫か弟子どもに店を任せていたのだが、本日めでたく合格点に達した。店舗運営は料理の腕だけではない。戦場だと心得る。ここでめでたく、留守部隊に目処が立った。
 が、我が身一つではジルベリアで広く親泰活動――平たく言えば、泰料理を振舞うことが十分にできるか心もとない。
「開拓者を雇うから、手伝ってもらうといい」
「なぜ開拓者アルか」
 林青の言葉に、眉をひそめる鈍猫。手伝いなら料理に従事する者が妥当だろう。
「あ、いや。実はな‥‥」
 何と林青、この仕事が手に入ったのが「正規軍に組する者から反乱軍の動向、特に今後の侵攻ルートと戦力配分の調査の隠れ蓑になること」という条件付きだった事を明かす。実はジルベリア、内乱の最中。林青はジルベリア南部の反乱軍領地に赴くのだった。
「お前さん、『商いは真心』じゃかなったアルか」
 鈍猫、機嫌を激しく損ねた。
「ああ、そうだ。だから、商いは誠心誠意、させてもらう。だからアンタに声を掛けた。アンタも、泰国料理の普及に全力を尽くせばいい。庶民はそれできっと心が温まるはずだ。‥‥後の開拓者の仕事は、知らん。冷たいようだが、彼らのすることだ。戦の難しいところなんざ、知らんさ。俺たちは俺たちの仕事をするまでさ」
「まあ、お前さんにとっても好機、私にとっても好機ということアルか」
「すまんな、騙すようで。‥‥アンタが店を開くことで、料理人として同行する開拓者は動きやすくなる。この仕事を取れた、本当の理由だよ」
「水臭いアルな。‥‥こうなったら、泰国料理世界征服を目指す第一歩にするアル」

 というわけで、料理人兼諜報活動家、求ム。
 狙いは、初日の領主宅での屋外パーティー。小さな領地で決定的かつ直接的な情報は得られないだろうが、後方兵站を担うであろう土地であるし、逆に機密の取り扱いも甘いと予想されている。うまく調査すれば補給線や進軍先を推し量るに絶好の資料が手に入るかもしれない。


■参加者一覧
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
剣桜花(ia1851
18歳・女・泰
設楽 万理(ia5443
22歳・女・弓
和奏(ia8807
17歳・男・志
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
ベート・フロスト(ib0032
20歳・男・騎
来島剛禅(ib0128
32歳・男・魔
フレイア(ib0257
28歳・女・魔


■リプレイ本文


「おおっ、頼もしいアルな」
 白い雪の残るジルベリアの田舎町。林青に連れられあちこち忙しく連れまわされていた鈍猫は、開拓者らの「食材を調達してくる」という申し出に満面の笑みを浮かべた。
「消費財は可能な限り現地調達で金を落とし、まずは信用を得る。‥‥え〜と、何君といったか。なかなか分かってるじゃないか」
 旅泰の林青も感心している。
「クリスと呼んでください。‥‥私も旅の商人をやっておりますからね」
 来島剛禅(ib0128)が礼儀正しく言った。
「へー。あんた、頼りになるな」
 緑の長髪が女性的なベート・フロスト(ib0032)が来島に寄って来た。そのまま来島の横で歩き続ける。
「ベートが行くんなら、ボクも材料の買い出しに出掛けようかな」
 さらに水鏡絵梨乃(ia0191)が横に続く。にこにこと今日もノリがいい。
「ふうん、楽しそうですね♪」
 和奏(ia8807)も首を突っ込んできた。「お料理で国際交流をしますか」とか、「美味しいものを食べてお腹いっぱいになると幸せな気持ちになります」とか呟いている。それはそれで間違いはないが、果たして当初目的を覚えているかすっかり忘れてしまっているか。
「ははっ。一緒に行こう一緒に行こう。人数多い方がいろいろと楽だしな」
「そうそう。買い出し先で情報を集めるなら、やっぱり人数が多い方がいいだろうし」
 ベートが白い歯を見せさわやかに言い、絵梨乃が同調した。
――そうこうするうち、市場に到着。
 山の幸を中心に、さまざまそろい活気もある。
「珍奇な材料も捨てがたいですが、やはり安定して供給できる食材でこそ安心価格で美味しい泰国料理が提供できるでしょう」
 来島がきょろきょろ見渡し品定め――いや、商売人の人となりを観察している。
 しばらく歩いていると、ついに仕掛けた。
「へえ、なかなか良い食材をそろえてますね」
「お。お客さんお目が高いねぇ」
(‥‥大衆向けじゃない、ね)
 きらりん、と来島の目が一瞬光る。
「大切な人のもてなしをするので、ちょっと背伸びをしていいものをと思っています」
「異国の人なのに見上げた態度だこと。こっちに来てお世話になった人へのお返しかい? だったら手は抜けないねぇ。‥‥よっし。それじゃその心意気に協力しようじゃない」
 早速、お得な買い物ができそうだ。
「なんだか調子が良さそうですね。いいニュースでもありましたか」
「ああ。戦が近いのは知ってるだろう。この街はちょうど怪我人を搬入する後方兵站地として機能しそうだって話だ。‥‥戦火の心配が低く物資が必要ってのは、商売人にはうれしいもんさ」
「この街、リーガ城とクラフカウ城のどっちに近いんです?」
「クラフカウ城だが、どうした?」
「いや、仮にクラフカウ城が戦場になって戦線が押されれば危ういのではないでしょうか?」
「つまり、リーガ城を次の主目標にするってことだろ?」
 来島、慎重に「そうですかねぇ」とだけ言って食材の話に戻した。実際、憶測先行の微妙な情報である。
 広く噂話を集めるため散ったベート、絵梨乃、和奏からも似たような話がもたらされた。ちなみに和奏は、当初目的を忘れてなかったようだ。


 そして、晩。
 領主宅は明かりでこうこうと照らされ、多くの人影が浮かんでいた。
 すでにわいわい、がやがやとにぎわっている。
「‥‥では、ごゆるりとご歓談ください!」
 領主や街の顔役、駐屯するヴァイツァウ軍高官らの挨拶が終わり楽団による演奏が始まったところだ。
 と、会場の末席にいる人たちが一斉に振り返った。
――しゅり、しゅり、しゅり。
 整然と響く優雅な衣擦れの音。
 ざっくり割れたサイドのスリットから歩調に合わせて覗く、白い生足・生足・生足。そして、同じく歩調に合わせふわふわ揺れるメイド服のスカートの裾・裾・フリル。
 それが、いや、それらがぴたりと止まった。
「さあ、気合い入れて給仕するわよ」
 先頭を切って5人の真ん中を歩いていた設楽万理(ia5443)が、三本指を立てて盆を支えたまま旗袍(ちーぱお=チャイナドレス)に包まれた胸を反らし、戦闘開始の合図をした。
 万理の両横を固めるのは、剣桜花(ia1851)とフレイア(ib0257)の旗袍部隊。桜花は胸が苦しくなるためか胸元を縫製しなおし開放的にした特注品を着込み、色気を振りまく。フレイアの方は、長身金髪で脚線美を強調。大人の色気でまとめる。
 さらにその両翼。
 エプロンドレスで絵梨乃とベートが「ボク、新人なんです」的な初々しさを醸すノリでえへっ♪とたたずむ。って、ベートはどうやら女性モードで押し切るらしい。「俺」を封印。絵梨乃とおそろいで「ボク」な感じで。
 これが、開拓者ギルドの抱える人材と旅泰の貸衣装能力が可能にした、最強の諜報部隊5人衆。
 ああ、読者諸君。この瞬間をどう表現しよう。
 万理がすっと動いたことで、ほかの4人もそれぞれ散った。
 この全身凶器ともいうべき5人。獲物が「狩って」と言わんばかりに密集する狩場に、嗚呼、ついに放たれたのだッ!


 場所は一旦、厨房に移る。
「ちょっと待つアル。アナタ、ワタシが書いたレシピの料理だけ作るヨロシ」
 鈍猫が慌てて和奏を止めていた。
(う〜ん。味付けはよく分からないです)
 和奏は先ほど自分が調理していた品を味見して首をひねる。美味しい、と思った。鈍猫からなぜにかような扱いを受けねばならぬのかはなはだ釈然としなかった。
 というか、実は和奏。料理に長けているわけではない。
 厨房に入ることがない育ちだったためか、好奇心が勝っている。
(美味しいと思うのですが)
 それはもしかしたら、珍しさが勝っているからかもしれない。
 もっとも、従順で素直な性格だけに、基本的技術やレシピを守るということは抜かりない。勉強熱心で、事前に鈍猫から泰国料理の勘所の手ほどきも受けた。
 問題は、フレイアの妙案だったりする。
「ジルベリア料理を泰国風にアレンジした料理を創作致しまして始めての方にも受け入れやすいようにしてはどうでしょう」
 この申し出に、鈍猫は「それアル」と感心した。後の話となるが、この妙案は奏功し諜報部隊は好き放題暗躍することとなった。
 が、レシピ制作は間に合わず口伝での調理となった。
 これが、和奏の悲運につながった。
「僥倖、一人暮らしであるから調理行動はできる」
 和奏の視線に気付いたハイネル(ia9965)がそれだけ言ってフレイアのアレンジ料理・泰国風ボルシチの調理を続ける。実はハイネルもレシピ通りに動く方が光る男ではあるが、給仕に出る前にフレイアに見てもらったのでなんとか対応しているようだ。
「さあ、急いで。会場の胃袋は大きいようですよ」
 来島が動き回って指示を出す。事前の見事なテーブル構成は彼の手柄。見事な作業導線確保で作業がはかどっている。
「アイヤ。クリスは本当に頼もしいアルな」
 鈍猫も感心しきりだ。
「‥‥楽しいです」
 そんなやり取りの影で、和奏がこっそり呟く。調理が楽しいのだ。料理が泰国のものに次第に移行するにつれ、彼の存在は輝くこととなる。


 さて、諜報部隊。
「さぞ名のある武家の方とお見受けしましたが」
 桜花が、軍関係の高官のうち、もっとも組みし易しと見た太っちょにアタックした。
「おうおう、異国のお嬢さんか。ここに座れ。‥‥まあ、『さぞ』ほどは名もないが」
(おーかとしては都合良しです)
 彼女の最大の武器を発揮するには、確かに超近接戦闘――もとい、密着しての給仕が一番だろう。
「いえいえご謙遜されなくてもその鍛え上げられた身体と醸し出す雰囲気で分かってしまいますわ?」
 ううん、と身をよじりたゆんと胸を揺らす。谷間が、白い。
「そうかそうか、分かるか。まあ、名の方も次のリーガ城‥‥」
「隊長殿!」
 突然、隣に座っている生真面目そうな軍人が口を挟んできた。
(G料理でも食べさせてしまいましょうか)
 惜しいところで邪魔が入り、内心地団太を踏む桜花。解決策を探して周囲を見回す。
 と、絵梨乃が酒を勧めて回っているのを発見した。
 じっと、見る。
 すると、絵梨乃は気付き――ああ、何という悪魔のコンビネーションか――すっと寄って来て生真面目そうな軍人に酌をし始めたではないか。見事、分断に成功。一瞬にして桜花の得意な人物と苦手な人物、そして自分の役割を見抜いたのだ。
 絵梨乃。
 伊達にこういうことがあれば酒をついで回っているわけではない。
「ところで、どうして軍の方が?」
 生真面目な男は、どうやら着崩れさせた女性より清楚に身だしなみを整えている女性の方が好みらしい。絵梨乃を一発で気に入ったようで、彼女の酒の勧め上手も手伝い、上官の口を封じる役目から遠ざかっていった。
「今そんな事になっているんですか、知りませんでした」
「なに、心配することはない。おそらく次の主戦場はここから遠い。恐れることはない」
 おびえてみせる絵梨乃に、生真面目な男は口を滑らせるのであった。
 一方の桜花は、見事先の男から何らかの書類をくすねることに成功した。気力を込めて運に身を任せたのが良かったか。
「おさわりは禁止ですよ〜」
 もうしんぼうたまらんとばかりに迫ってきた男をひらりとかわして、次の獲物を求めてさまようのだった。

「うまいっ」
 小気味良い声が響いた場所には、万理がいた。街の顔役にべったり張り付き情報収集をしている。
「ぱらっとした米。ふわっとしたり歯ごたえがあったりする具材。そしてなにより、鼻に香り舌に広がるこのコクと味わいといったら。‥‥これが、『炒飯』というものかね」
「ええ。強力な火でさっと炒めるのが決めてですわ」
 万理が満足そうに言う。何せ、自分が気に掛けて薪を購入したりとお膳立てをしたのだから。
「これは、ほかの料理も期待だねぇ」
「そんなに気に入ってくれたなら私の秘蔵の泰のお酒をこっそりお分けしますわ」
 すっ、と旗袍のスリットから足を出し、内腿をさらす。そこには、小さな容器が縛り付けてあった。
「どうぞ」
「おお、これは」
 相手は万理の色気に瞳釘付け。ちょっと物欲しそうな表情にもめろめろになっているっぽい。
「‥‥欲しい食材があるので北に行きたいのですが、リーガ城方面経由とクラフカウ城方面経由では、どちらが安全に移動できますでしょう?」
「う〜ん、そうだなぁ」
 煮え切らない相手。すでに落ちているはずなのだが。
(情報収集って、寝るのが一番手っ取りばやいらしいけど)
 イラついてそんなことも思うが、
(そんなことをしたら親が泣いちゃうわね)
 自重と相成った。
「まあ、リーガ城はやめといた方がいいね」
 と、この間に相手が口を割った。どうやら万理、今日はツイているらしい。


「俺は少しばかし領主宅を探ろうか」
 その頃、ベートはメイド服のまま屋内探索に単身乗り出していた。
 が。
「おい。外はいいのか?」
「え。中で呼ばれたので」
 意外と、中は広く衛兵など邪魔者に遭遇する。
 もっとも、滞在時間が長いので仕方がない。各部屋を掃除しながら何らかの情報を探っているのだ。手早くというわけにはいかない。
(こりゃ、俺一人じゃ厳しいな)
「見ない顔だな」
 内心呟いていると、また誰何された。
「最近雇ってもらった新人なんですが、お屋敷が広くて道に迷ってしまって‥‥」
 女声で言うと、おほほほほ、とその場を離れる。いっそ色仕掛けでもしてやろうかと思ったりもする。
「おうい。こっちに来てくれ」
「げ」
 またも呼び止められる。色仕掛けのチャンス――いや、今度は何やら様子が違うぞ。
「すまんが、お嬢様が手伝いを所望されている。お前、すぐに行ってくれ」
(おいおい〜)
 これでもう一人いれば囮になれたのにと歯噛みしつつ、今回ばかりは逃げるわけにも行かずおとなしくついていく。
「あらっ。新しい人ですか?」
 ベートが放り込まれた部屋には、一人の娘が立っていた。服がはだけて白い肌が覗いている。
「もうこんな戦争につながるパーティーはうんざり。‥‥さ。着替えを手伝って」
 どうやら領主の娘らしい。銀色の髪をなびかせベートに背を向けると、複雑な衣装の紐を解くよう言う。
「あ‥‥」
 少し緩めただけで、すとんと衣装が落ちた。すべすべの肌だった。
(ほくろ。‥‥胸の脇に)
「な、何を赤くなっているんですか」
 振り返った娘がとがめる。
「す、すいません。美しかったものですから‥‥」
 ベート。
 どうも今日は武運がないらしい。


「さて、そろそろ‥‥」
 同時期。
 外の会場で、遅ればせながらハイネルが動き始めた。
 いや、一息ついたところを狙ったのだ。
「では一体、どこが安全なのでしょう」
 見渡せば、フレイルが軍関係者に清純路線で仕掛けていた。さらに目を転ずれば、ほかの女性陣はもっぱら給仕に移っている。ハイネルがこのタイミングで動いたのは、うまい具合に役目を交代した形だった。
「失礼、料理の方はいかがですかな」
 彼が目をつけたのは、軍関係者。それも、見た感じできるだけ堅物を選んだ。女性人が避け気味だっただけに、結果としてうまい役割分担となっている。
「実にうまかった。革命が成れば、手広く交易もしていかねばなるまい」
 理路整然と相手は答えた。
「革命、いつごろ成りましょう」
 運を天に任せ、切り込んでみた。
 ぎろり、と睨んで来る男。
「‥‥そういえば、泰国からの商人だったな。損得勘定から聞いているのか?」
「否、今から軍に加わりたいと言えば何処に配属されるか、と」
 今度は、すうっと男の目が細められた。
「なるほど、見ればジルベリア人か。‥‥立ち居振る舞いも折り目がついておる」
 感心した、といわんばかりの話し振りだ。
「だが、今加わっても当然一兵卒だぞ」
「無論、一兵卒から手柄を立てて地位に就く。‥‥手柄を立てるためには最前線に配属されたいものだが」
「気に入った。リー‥‥いや、便宜してやるから明日訪ねて来い」
 それだけ聞いて、ハイネルは一礼してその場を離れるのだった。


 後日。
 鈍猫と開拓者たちは市場に繰り出し、領民広くに泰国料理を振舞った。
「おおっ、うめえ」
「こういうのもいいな」
 評判はおおむね好評。
 メイド服から着替えた絵梨乃を加え、4人組となった旗袍給仕隊はここでも大人気だった。
「フロスト、いいのか」
 ハイネルがベートに聞くが、軽くあしらわれる。
「料理の満足度や領民の満足度は成功でしょうね」
 来島がそう分析する。彼はそちらに尽力をした。後は諜報部隊の仕事である。
「十分、成功したといえるだけの情報は得た」
 ハイネルが請け負う。ちなみに、昨晩情報収集した軍人の門戸は叩いてない。
「‥‥領主の部屋が探れなかった。トラブルがあったからな」
 ベートが天を仰いでから告白した。
「得た情報はほくろの位置だけ」
「え?」
「あ、いや。‥‥まあ、失敗ではないさ」
 そう。
 反乱軍の次の攻撃目標は「リーガ城濃厚」といえるのだから。