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■オープニング本文 神楽の都の、ある居酒屋でのこと。 「砂塵騎は風ですよ。少なくとも私はああいうのは苦手ですね」 薄暗い席で、クジュト・ラブア(iz0230)がうなだれ頭を左右に振っていた。 「それでいいんですよ、クジュトさん」 ちょい、と猪口を傾けて隣に座るもふら面の男が応じた。もふら面は酒を飲むためだけずらしているので口元しか見えない。それでも口調から心配しているのが分かる。 「そもそも砂塵騎はやめて吟遊詩人になったはず。旦那は、戦っちゃいけない立場です」 クジュトはアル=カマル出身で、天儀に移り住んで天儀文化に被れた。老舗の一座に頼み込んで修行させてもらうとめきめきと頭角を現し、女形としての技量を身に着けた。ただし、時に才能は妬まれるもの。それでなくても序列などうるさいところがある業界。「邪道」として一座を追われた。結果、同じく業界から鼻つまみ者となっている仲介屋「もふら面の男」の勧めで新たに「ミラーシ」という一座を立ち上げている。もふら面の男としては、戦って商品に傷でもついたら大変だ。 「ただ、浪志組の一員となったからにはある程度道場剣術くらいは」 クジュトは言う。先の「ああいうのは苦手」とは、道場剣術のことだった。魔槍砲を使う砂塵騎であれば、立会いの間合いになるまでにさまざまな攻防が済んでいる可能性が高い。さらに言えば、すでに勝負ありの状態となっている間合いかもしれない。 「先の、浪志組屯所を確保した剣術試合。……今後、ああいうこともあるかもしれませんし、何よりやっぱり天儀の文化は興味深いです」 あ、そっちか、ともふら面の男は首を落とした。 「そういやクジュトさん。魔槍砲もいいでしょうが、天儀の刀もいいものでしょう?」 「ええ、素晴らしいですね。よく斬れるばかりか、はっとするほど美しい」 やっぱり、ともふら面の男。晴れやかにいうクジュトの様子は、明らかに天儀の刀に興味を示していた。もともと天儀かぶれの男だ。剣術試合という文化にも興味を示しているのだろう。 「だったら、浪志組隊士を集めて新年の稽古をしたらどうです? クジュトさんはあくまで旗を振って人を集めて現場監督をしつつ、その合間に隠れて教えてもらう。……いいですか、現場監督なんですから積極的に稽古をしてはだめですよ」 もふら面が知恵を働かせて早速妥協案を示す。 「いや、私も……」 「そういう文化です。それに、現場監督が軽々に動いては示しがつきません。クジュトさん以外が現場監督では、たちまち力ずくの権力争いが始まりますよ。クジュトさんなら、文官的な立場として見られて場が落ち着きます」 くっ、と無念そうにするクジュト。 「すまんが相席する」 ここで、一人の男が割って入った。右眼帯の男である。 「あなたは確か、先日道場で戦った……」 「世話んなったな。俺はあんたらに負けたから、手下になりに来たぜ」 何と、やってきた人物は回雷(カイライ)だった。 「……勝った私たちの要求は『手下になれ』ではありませんでしたよ」 「そういう性格も、いいねぇ。……俺と数人は元々、強い頭の下につくことでやって来た。あくどい奴の下にいた時もありゃ、義賊らしい義賊にいた時もある。後味のまずい酒も旨い酒も、飲んできたわけだ。……今度の酒は、飲み干すにゃ辛いが後味はスッキリ爽やかそうなんで楽しみにしてるんだがな」 「自分勝手で気紛れですね」 「先の試合でちょぃと初心に返って負けて、目が醒めたってこった。……イヤだってんなら、ほかに世話してくれるあくどい一派を探してもいいんだがね」 「分かりましたよ」 クジュト、仕方なく折れる。 「そんじゃ、俺が面倒見てる若いの五人も一緒でいいな。新年稽古で鍛えてくれ。……あいつらにゃせめて、まっとうな人生を歩んでもらいたいからな」 何と回雷、手勢込み六人で浪志組入りしたいという。 こうして、浪志組設立などで奔走した東堂俊一の手により看板の掲げられた浪志組屯所で新春稽古をする人員が募られるのだった。 |
■参加者一覧
三笠 三四郎(ia0163)
20歳・男・サ
からす(ia6525)
13歳・女・弓
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
日御碕・神無(ib0851)
19歳・女・サ
ナキ=シャラーラ(ib7034)
10歳・女・吟
刃兼(ib7876)
18歳・男・サ
柏木 煉之丞(ib7974)
25歳・男・志
藤田 千歳(ib8121)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ● 浪志組屯所道場内にクジュト・ラブア(iz0230)の声が響いていた。 「……というわけで、研鑽を通して共に民を守る剣たる思いを共有していきましょう」 「よしッ!」 クジュトの挨拶の直後、回雷が一番に前に出た。 「今日の趣旨はクジュト先生の仰ったとおりだ。後は流れでいいだろう」 さりげなくクジュトを庇うように立つ。えらそうに仕切った細い男の腕を疑うなら俺が相手になる、と立ち姿が語っていた。 「さて」 ぞろぞろ動き出す中で背を向けた者もいた。 「基本を磨きたいですが、何時も通りの走り込みに素振りは欠かせません」 三笠 三四郎(ia0163)である。うーん、と伸びをしてから爽やかに外に出た。庭の緑の眩しさに眼鏡の奥の目を細める。「楽しくなりそうです」と道場を振り返り流し見る瞳に、知的な輝きがあった。 その道場。 回雷に近寄る姿があった。 「久しぶりだな。まさか浪志組に入るとは。歓迎する」 ここで回雷と戦った浪志組隊士の藤田 千歳(ib8121)だ。 「おお、久し振り。それより、しばらくクジュトの大将を守ってくれ」 「ん? 分かった」 千歳、クジュトを見て素直に応じた。早速誰かが近付いていたのだ。 「おっす! クジュトの旦那、今回もよろしくな!」 「ナキさん、こちらこそ。前回は巡廻、楽しかったですね」 クジュトに近寄っていたのは白い肌に青い瞳、長い金髪がきらめく小さな女の子、ナキ=シャラーラ(ib7034)。一緒に年末巡廻に出掛けた仲である。 「知り合いか?」 「ええ。こう見えて気の付く娘さんですよ、千歳さん」 短く慎重に聞く千歳に、にっこりクジュト。 「旦那に代わってあたしが未熟な連中に稽古をつけるぜ。つっても、道場剣術なんてやった事がねえから回避のコツぐれーになっちまうがな」 ナキはへへん、とバラージドレスに包まれた薄い胸を張るのだった。 「やぁやぁ、面白そうな話だね」 ここで柏木 煉之丞(ib7974)が現れた。千歳と同じく額に角が二本ある。修羅である。 「何だ、おまえ?」 「おっと。ご安心あれ、酒は飲んで来ていないから」 機嫌良さそうとも取れる口調にナキが眉を顰めたが、煉之丞は慣れっこの様子。ナキの言いたいことをさらりと否定した。 「ああ。だが、道場など久方。お手柔らかに頼もう」 「ようし、そんなら早速やろうぜ」 「……今回も変わったのが集まったな」 煉之丞とナキの様子に、内心溜息をつく千歳だった。 この時。 「紅鳳院流、日御碕・神無です。よろしくお願い致します」 一礼して日御碕・神無(ib0851)がやって来た。折り目がついた物腰の女性で、千歳の様子も落ち着く。 「兼ねてより『浪志組』の理念を聞き興味深く思っておりました。今日、こういう機会を得られて幸いです」 「ええ。こちらこそ、とても良い方に集まってもらったと思ってます。早速はじめましょう」 顔だけではなく体ごと向き直り真っ直ぐ話す神無の様子に微笑するクジュト。「よし、それじゃあ」と動き出す面々だった。 ● さて、道場の片隅。 「……稽古、か」 刃兼(ib7876)がしみじみと握った竹刀を見ていた。 何をしに俺はここに来たんだろう、と思う気持ちがある。 刃兼、額の一対の角が示すとおり修羅であり、陽州の出である。 「ちゃんとした型を習うようになったのはごく最近、天儀の修練場でだしな」 自嘲気味に言う。故郷でも習ったが喧嘩殺法に近かった。自身、何故だろうと思うこともある。そういう時は決まって剣を手にした。 そして今も、がしりと竹刀を手にした。 ふと目を上げると、大の大人や子どものような若いのまでが賑やかに竹刀の音を響かせている。 「開拓者になってから自分の剣を見直す時間がなかったし、な」 体が自然に動く。皆の輪へと歩いていく。 と、その足が止まった。 「怠ればあっという間に追いつかれる」 すすっ、と小さな黒い姿が横に並んだのだ。 「熟練者たれば鍛練怠るなかれ、だ」 伏せ気味だった顔を上げる黒い姿。その瞳は赤かった。いや、そればかりか弓を手にしているではないか。 「お前……」 「専門分野ばかり学ぶべきではないのだよ」 刃兼の問いに弓術師のからす(ia6525)はそう答えた。「よろしく」とも。 妙な間が流れたがそれは一瞬。 「新年ですからね〜〜。初心に帰る意味でも一つやりましょうか〜〜」 のぉんびりとした口調でサーシャ(ia9980)が近寄っていた。青い髪がいかにもジルベリア人らしい女性である。 「剣術や拳術、組み打ち術と一口に言っても、天儀のとジルベリアのでは質が違いますので〜」 糸目なので瞳の色は不明だが、とにかく笑顔を絶やさない。からすは彼女の言葉に「うむ」と頷いている。 そこへクジュトたちもやって来た。 「……本当に変わったのばかりだな」 千歳は表情も変えずに溜息をついていたり。 が、すぐに表情は引き締まった。 「ちぇすとぉっ!」 回雷の打ち込みの気合いの声と、ぱしぃんという乾いた音が響いたのだ。向こうで熱くやっている。 「さてさて、俺たちもやるか?」 煉之丞の言葉に頷く一同だった。 ● ぱぁん、という激しい音が道場に響いた。 「これはこれは。『切り落とし』ということは一刀流ですか?」 「知らん」 いきなり煉之丞と刃兼が立ち合っていたのだ。 まずは猛攻を狙った煉之丞が出たところ、刃兼がその打ち込みに飛び込み竹刀を弾いたのだ。刃兼も見事だが、咄嗟に身を引いた煉之丞も見事。足捌きから体重の移動、攻守の切り替えが冴えている。 「道場剣術は『斬る』んじゃなくて『打ち込む』だったか?」 刃兼、熱くなったか。新陰流で溜める。 「これはこれは、酒なら名酒」 対する煉之丞は流し斬りで一気に仕掛けた。応じる刃兼。 ――ガッ! しかし相打ちの鍔迫り合い。 「くっ!」 「戦う高揚感は好く所だ」 喧嘩殺法を使っていた頃の生き生きした目で睨む刃兼に、緩急で煽り凌ぎを削って見極める煉之丞。踏み込みの浅深、手と手首の返し、相手の要所の捉え方、そういったところを確認していることを周りの者に見せている。 「ふむふむ」 これを見ていたからすも満足そうだ。見るだけで稽古になる。 他の者ももちろん、やっている。 「よお。回雷とか言うアイパッチ兄貴から子分を頼むってさ」 ここで、ナキが若手五人を連れてやってきた。どの顔も「なぜ俺たちがこんな娘に従わなくては」と雄弁に語っていた。 「……簡単にスられるような、てんでまだまだの連中だ」 「あ、このっ!」 子分の一人は懐から携帯汁粉をナキに掏られていた。これに怒りナキに襲い掛かるッ! 「敵の攻撃避ける時は相手の動きをよく見るのは勿論、無駄な動きをなくし……」 すっと子分の袈裟切りをかわすナキ。 「最低限の動きで避ける。避けたのはいいが体勢が崩れた、っていうんじゃ敵の二撃目を食らっちまうからな」 翻した二の太刀は、一気に体軸をずらすことで大きく外した。 「これが基本。んで本題だ」 「畜生!」 残りの四人に説明したところで、先の子分が回雷を真似て右蜻蛉に構えた。ナキは相手と向かい合い、誘う様なステップ。吸い込まれるように打ってきた相手をダークガーデンでカウンター。ぴたりと寸止めで決めた。 「こっちから攻撃を誘えば打ち込まれるタイミングも分かるし回避も反撃もしやすいだろ?」 「おお〜」 これで子分どもはナキを信用したようだった。 ● 稽古は屋内ばかりではない。 「クジュト殿、砂塵騎の戦闘術というのを拝見したいが」 「いいですが腕はなまってますよ」 からすが言い、クジュトが応じた。 「しかし、熱心に見てましたね?」 「子供が混じっているとあれば負けまいと周りが励むだろう。フフ」 とはいえ、やはりからすも稽古の鬼。自分も実戦を望む。 「では」 からすは弓。クジュトは竹刀を魔槍砲持ち。 対峙した距離は剣術試合より長いが、微妙に弓術師不利の間合いだ。 ――ザッ! 魔槍砲の一発があったという想定でからすが横に外した。その隙にクジュトが疾駆して距離を詰める。もう、からすも手加減ない。丸めた矢じりとはいえ容赦なく体幹部を狙って撃つ。 が、クジュト、慣れている。 恐ろしく体を沈めて矢をかわすとそのまま前傾姿勢で一気に格闘距離に迫っていた。 「弓術師に近接戦を挑むのは正解だ」 からす、寄せられても落ち着いている。焦って連射はしない。クジュトが銃床側となる竹刀の柄の方をこちらに向けていたからだ。 ――ガシッ! クジュト、銃床でからすの弓を弾き飛ばした。そしてその動きから銃剣側を……。 「弓術師を甘く見ては困る」 「くっ!」 なんとからす、低身長を生かして沈むと鉄扇を取り出しクジュトの鳩尾に突き立てる形で寸止めしていた。山猟撃である。 ぱちぱちぱち……。 この勝負に、走り込みから帰り素振りをしていた三四郎が拍手をして近寄って来た。 「素晴らしいですね。でも、どうして途中で撃とうとしなかったんです?」 「他から撃たれないためには敵と密着が基本ですから」 つまり、乱戦が前提であると。 「見えないものと対峙していたのは三四郎殿と一緒というわけだな」 「はは。……見てたんですか、からすさん。いや、見えてたんですか?」 ふふふ、とからすに指摘され三四郎は頭をかいて照れた。 「素振りもあれだけ気合いが入れば良い稽古だろう」 からすはそれだけ言う。 そう。 三四郎は木の幹につけた的と枝から吊るした糸を前に素振りをしていたのだ。 時は若干遡る。 「浪志といえば」 三四郎、眼鏡の奥の瞳で的と糸を睨んでいた。右手には槍、左手には剣。二刀流である。人を近寄らせないよう、左右に大きく広げ構えている。まるで気を溜めているようだ。 「以前、依頼で出くわした水妖……」 睨んだ先に敵の幻が浮かんだ気がした。あの時断ち切れたか? 討ち果たせたか? 満ちる気合い。一瞬の、殺気。 「っ!」 無言で動いたッ! 剣が糸を切り落とし、間髪入れず槍で的を突く。あっという間の出来事だった。 しかし。 「……まだまだ足手まとい」 足りない、と感じたようだ。幻の水妖は斬れなかったらしい。 ゆえにまた構え直す。 その頃、道場からはからすとクジュトが出て来ていた。 ● 再び、道場内。 長身のサーシャが一際目立っていた。豊かな胸の前で長い竹刀を構えている。 「天儀の剣術は見せていただきましたし〜〜」 のんびり口にした瞬間、糸目がうっすら開かれた。緑の瞳が何もない中空を睨む。敵の幻を見ているのだ。 「行きます」 もう、語尾は延びない。そればかりか速いッ! どだん、と踏み込むとジルベリアの雪崩れもかくやのダウンスイング。さらに足を前に運び突き・薙ぎ払い。そして長く間合いに留まらない。すぐに距離を置く。 「ふう〜〜」 と、いつもの糸目に戻り息を吐き出していた。 「踏み込みによって生じた力を余す事無く剣に乗せ振り抜く、か……」 「『斬る』、というより『叩き斬る』という感じだな」 千歳が感心し、刃兼も長身を利した動きに唸っていた。 「こっちもなかなか」 煉之丞が顎をしゃくった先には神無がいた。回雷の子分を鍛えていた。 「道場の剣である以上、礼に始まり礼に終わります。堅苦しいとは思いますが、争うのではなく共に切磋琢磨してこその道場剣術です」 「おりゃっ!」 礼も半端なまま打ちかかって来る大柄な子分。これをがしりと受ける神無。 「力じゃ女に負けんぜ?」 「竹刀の受けられた場所と受けた場所を見てから言いましょう」 神無、この力押しをあっさりと凌いで外し、面を打ち込んだ。 「私の実家、石鏡の『紅鳳流』では基礎の基礎です」 「へえっ。やるなぁ」 見ていたナキが感心する。 「避ける、って事は受けるよりも難しい、というよりも別技術ですからね。武器を合わせるという同一の行為である以上、受けの方が覚えるのは楽ですから」 神無がふうっ、と息を吐いたところでクジュトとからす、三四郎が戻ってきた。 これを見てサーシャが寄って来る。 「あなた、長物を持ってますね〜。試合などどうです〜〜」 「いや、私は実戦はともかく道場では」 「では、演舞ということで〜」 サーシャに誘われた三四郎はそう逃げる。結局長い棒を持って二人でじっくり打ち込みあい受け合う組み打ちを始めた。 「クジュトさん。ぜひ」 神無はクジュトと型を相互に見せ合ったり。 「……何だ。俺みてぇに実戦で鍛えた奴ばっかじゃねぇか」 回雷もやって来た。千歳が絡みに行く。 「回雷、俺はあれから実戦でさらに腕を磨いた」 「好きだぜ、そういうの」 千歳の誘いに回雷が乗る。 「では」 「うむ」 士道に則り礼をする千歳。回雷も当然のように礼。子分に手本を見せた。 「行くぞ。この前のようにはいかん」 何と回雷、今度は脇構えから左肘を張って突き出している。右眼帯の不利はない。 対する千歳はやはり平正眼。 (眼帯側からの斬り込みは以前見せた。ならば、眼帯側からと見せかけその逆を突き、流し斬りで) つつ、と動きつつ相手の隙をうかがう千歳。 「必殺剣は道場試合で軽々に見せるものではないぞ」 回雷、それだけ言って引いき清眼に変化した。これでは右ががら空きだ。 「迷いはないっ!」 「やはりアンタはいいなっ」 ぱしぃん、と相打ちの激しい音が道場に響くのだった。 ● 「如何かな?」 縁に腰掛け休憩する面々にからすが茶を配っていた。 「あのさ、クジュトの旦那」 「どうしました?」 改まって言うナキに、クジュトが返した。 「あたし決めたよ。浪志組に入らせてもらうぜ!」 そう打ち明けるナキの背後で、ざっと立ち上がる姿があった。 神無である。そのままクジュトの前に立つ。 「私も『浪志組』の末席に加えて欲しいと思います」 二人とも真っ直ぐな視線。うろたえながら二人を交互に見ていたクジュトだが、晴れやか笑顔になった。 「もちろん。一緒にやりましょう」 「よっし。……アル=カマルのスリの小娘が民を守る浪志の一員か。あの女の財布狙ってから、あたしの人生、本当に変わったな!」 「これからどうぞ、よろしくお願い致します」 悪くないな、と気分良く呟くナキに、深々と頭を下げる神無。 「万民の守護か……宿と武学の場は魅力的だが、とにかく応援する」 「ああ。共感できる部分はあるんだがな。もう少し天儀を見て回りたい」 煉之丞が微笑して言うと、重みをかみ締めるように刀を掲げて刃兼が言う。 「立場上参加は出来ませんが、影ながら」 「ふふっ」 三四郎も他流の踏み込みなど見学して満足だったのだろう。笑顔で話す。隣ではサーシャが笑っていた。 八人の目の前では、千歳が熱心に指導をしていた。 「基礎とは土台だ。これが揺らげば、どんなに研鑽を積んでも崩壊するぞ」 回雷に迷惑を掛けるつもりか、と子分に素振りをさせている。 「礼節を重んじろ。これからは――」 「そう、これからです」 千歳の言葉に被るように、クジュトは言い茶を飲むのだった。 |