みどりの牧場へ
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや易
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/24 21:57



■オープニング本文

 ここは武天南方、伊織の里の近く。
 魔の森から人里へ侵攻したアヤカシ軍団と開拓者たちが戦った「武州の戦い」から、半年が経過していた。大アヤカシ「大粘泥『瘴海』」を退治した後の魔の森は、武天・朱藩両国の協力により焼き払われた。広大な跡地ではすでに、その後の土地管理や土地利用などの計画が進んでいる。
 その、魔の森焼き払い跡地東部。
 大きな三角形の岩「おむすび岩」のある近く。
「やれやれ。結局、牧場運営を希望したワシに頼むんならとっとと許可すりゃええんじゃ。おかげで作業はずれ込むし、寒ぅはなるし……」
「はいはい、ぼやかないで。牧場としてはもう完成したも同然なんだからいいじゃない」
 ぶつくさ文句を言っている大男は、元開拓者の猟師、鹿野平一人(かのひら・かずと)。そして彼をたしなめた、これまた背の高い女性は鹿野平澄江(かのひら・すみえ)という。もちろん、元開拓者である。
「ま、焼き払いで残った根っこなんかを返したり整地するのに牛を集めるだけ集めて作業に当ててりゃ、イヤでも牧場の形にはなるのぉ。おかげで大量の牛を毎朝出して、毎夕牛舎に戻して食わしてやるのは大変じゃが」
 汗を拭う一人の後ろにはすでに、大きな牛舎などの建物がある。
 とはいえ、まだ決まった放牧地があるわけではなく、乳を搾ったり食肉にするなどではなくとにかく牛に労働させ、エサの搬入に追われるという毎日。通常の牧場の日常には程遠い。
「そんなことより、大きな借金をして権利を買ったんだからばんばん稼がなくちゃね。……そのためには、早めに小型飛空船の発着場所と整備倉庫を作って、定期的に牛乳を買い付けてくれる商人を探さなくちゃ」
 一人の妻、澄江は明るく将来の希望を話す。
「そうだな。……これからワシらは一家で魔の森じゃった土地を開拓していくんじゃ。戦うためだけに開拓者になったわけじゃないけえの。これからがワシらの時代じゃ」
「そうそう。人生何事も勝負、勝負♪ これから楽しくなるわよ、アナタ♪」
 胸を張る不惑過ぎのおっさん、一人の肩に、若くは見えるが実は三十をとうに過ぎている香澄が頼もしそうに両手を掛ける。何とも明るく元気一杯の夫婦である。
 そこへ、目立たない風にひっそりと二十歳くらいの男女がやって来た。
「父さん、貸本絵師さんが来たよ」
「お、一景と早苗。相変わらず元気が足りんのぅ。この土地を牧場に開拓するまでもうちょっとかかるんじゃ。そんな様子でへばるにゃまだ早いで」
「……僕たちは志体持ちじゃないし、まだ先が長いならなおさらじっくりいかないと」
「相変わらず一景は手堅いわねぇ♪」
 息子に気合いを入れる一人に、あくまでマイペースな一景。澄江は笑顔で場を取り成す。
「下駄路さん、こちらです」
 その間に一景の妻である早苗が、到着したばかりの下駄路 某吾(iz0163)を案内した。
「よ、一人の旦那。開拓者ギルドに人員募集を掛けといたぜ」
「おお。絵師どの、すまんのぅ。ちゃんと、『夜に牛肉料理を振舞える』って書いといてくれたか?」
「そりゃ言われたとおりにしたが、いいのか、食っちまって? 牛はフル回転で働いてんだろう?」
 下駄路は肩をすくめた。
「ああ、えーんよ。近隣から数合わせのためだけに年老いた牛まで集められたんじゃけぇ。……運悪く、一頭が力尽きた。手は尽くしたが、この先は長くないのぅ」
「そうか。残った者は感謝して、明日への活力をもらうというわけだな」
「そうそう。きてもらう開拓者には、そいつの分まで働いてもらわんとな。まだ遠くに返す根があったり、飛空船着陸地点の土を叩いてもらったり、各種整備をしてもらいんでのぅ」
「ばっちり俺が記録して、開拓者はちゃんと開拓もするってところを伝えてやるからな」
「おおっ!」
 がしりと握手を交わす一人と下駄路であった。
 後に「みどり牧場」と命名される牧場の、第一歩である。

 というわけで、朋友と一緒に各種施設予定地の大地を踏み固めたり、木の根を返したり、牧場施設を整える準備をする開拓者を求ム。もちろん、付随施設の提案もできる。夜は牛肉があるので、パーティーをして昼間の疲れを楽しく癒すことができる。料理手伝いもできる。牛乳もアリ。


■参加者一覧
紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454
18歳・女・泰
からす(ia6525
13歳・女・弓
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
美郷 祐(ib0707
27歳・女・巫
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
和亜伊(ib7459
36歳・男・砲


■リプレイ本文


 牛舎のみ整備された牧場は、いつもと違う賑やかさであふれていた。
「よぉ、一人の旦那。開拓者ご一行様、ただいま到着だぜ」
 干し藁などを運んでいた鹿野平一人に下駄路 某吾(iz0163)が声を掛けた。
「おおっ、絵師殿すまんのぉ。こりゃまた、働き盛りの若いのがそろうとる」
「こんにちは、牧場主さん。今日は私のアーマーの忍法をフル発揮して頑張っちゃいます!」
 ルンルン・パムポップン(ib0234)がすらりとした腰に左手の甲をつけ、花咲くような笑顔と水平Vサインで挨拶した。その背後ではさらさらストレートの金髪を揺らしてアナス・ディアズイ(ib5668)が控えめに会釈し、アーマーケースを下ろしている。この様子に一人の目が輝いた。
「ほぅ。それが噂の駆鎧とアーマーケースかぁ。ワシらの現役時代にはなかったのぅ」
「そうねぇ」
 珍しいものを見て一人とその妻・澄江が嬉しそうに話す。
「ここでお見せしましょうか?」
「いや、後で見に行くよ」
 気を利かせたアナスと、これを止める一人。
「さ。みんなと一緒に立派な牧場をつくるお手伝いするよ! 頑張ろうねダイちゃん!」
 その横ではルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が連れて来た霊騎「ダイコニオン」を撫でてやっていた。真っ白な体に、豊かな緑色のたてがみを生やした牝馬だ。名前の由来は大根みたいだからとかなんとか。
「ところでルゥミたん! お兄さんはキミの装いに気合が上昇ゥイィ!!」
 ひょ〜い、と村雨 紫狼(ia9073)が登場した。ルゥミが着ている、世界が世界であれば幼稚園児の装いとも称されるような服装にずっきゅん☆しているらしい。てゆうか、気合入りすぎでルゥミさんに顔を近付けすぎですよ? ほら、ルゥミさんもきょとんとしてるし。
 その瞬間。
「ぁぃぃいっ!」
『もう、また人さまに迷惑掛けて! こンの駄マスター!!』
 いつも紫狼と一緒の、独自の改良を施し土偶ロイドと彼自身が呼んでいる土偶ゴーレム……あれっ? 今回はいつもと違って紫髪でショートボブのちっちゃな幼女型ですね。その土偶娘が紫狼の脚をぎゅっと踏みつけてます。
 さらに別の方向から。
――すぱぁん!
「ぬわっ。ナゼにっ!」
 脚の甲への痛みで伸び上がったところで、紫狼の顔面にハリセン「笑神」の一撃。
 黒い神職的衣装の弓術師、からす(ia6525)である。ちらと無言でルゥミを見て、ちらと紫狼の足を踏んでいる土偶幼女を見て、そして再び紫狼を見る。
「煩悩退散」
 ただ一言。
 そしてからすが連れて来た鬼火玉「陽炎燈」は他の朋友をじー、と見てたりする。ひひん、とダイコニオンが首を傾げて円らな瞳が見返す様子を見て、陽炎燈はぼぼぼ、と楽しそうに纏った明かり的な炎を揺らしている。
 その横を、すっと白い女性が淑やかにすり抜けた。
「牧場開拓……何と夢をそそられる言葉でしょう」
 上げた細面は、美郷 祐(ib0707)。目が吊っていてきつい印象があるが、どことなくおっとりした雰囲気もある巫女だ。
「ほぅ、嬉しいねぇ」
「鹿野平様、下駄路様どうぞ手伝わせてくださいまし」
 祐の言葉を耳にしてにやりとする一人と下駄路。祐の方は「微力ながら参加させて頂きますのでどうぞよろしくお願い致します」と微笑している。
「それじゃ、挨拶も済んだところで牧場開拓作業に取っ掛かろうぜ? なあ、あんた。作業に使う台車は貸してくれるんだろ?」
 髭のある顎を親指で弾きながら会話に入ってきたのは、砲術士の和亜伊(ib7459)。
「台車は好きなの持ってけばええよ」
 一人は背後を親指で差して答える。
「って、オイあんた。これ、もふらかい?」
 下駄路は亜伊の足元のいるふもらにビックリしている。無理もない。もふもふ尻尾は間違いなくもふらの特徴を残しているが、鼻先にいくにつれとがってくる顔つきやもふふんとせずさらりとした体毛は狼に似ているのだ。
「ああ。ウルフってんだ。シャイだからちょいと気を使ってくれよ」
 背中越しに手を上げて台車探しに行く亜伊。お座りで主人の指示を待つウルフは寡黙である。
「もふ〜。一緒に頑張るもふ」
 そこに、ころころと金色のもふらが転がってきた。ウルフと並ぶ様子は、珍しいもふらさま大集合といったところだ。
『ピ』
 興味をそそられたか陽炎燈が漂ってきて、炎を揺らめかしている。
 そして新たな人物が。
「牧場を作るんですか〜」
 泰国風衣装に身を固め髪をお団子に纏めている紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)だ。
「でしたらもふ龍ちゃんの力が有効に使えますね」
「もふ!」
 沙耶香の呼び掛けに跳ね起きるもふ龍。今日も元気だ。隣のウルフはもふ龍の動きにびくっ、としてたり。
「よし。ともかく夕飯にゃうまい飯もあるこったし、がんばろって行こうぜ?」
 下駄路の呼び掛けに頷く一同だった。


 さて、現場に散った開拓者達。
 牧場は比較的標高の高い場所にある。木々がなくなったことにより視線の通りは良く、牛舎や大きなおむすび岩も遠くからよく見える。
 しかし、足元は焼け野原であることは変わりない。
「もふ〜。ここが牧場もふか……」
 元気がないのは、もふ龍だ。寂しそうに周りを見る。
 いつか行ったもふら牧場では、緑いっぱいでもふらがたくさんいて、もふもふのんびりした。
 牧場には小川もあり、前肢を伸ばして水面をぺしって弾いて魚を取ったりもした。
 みな、楽しい思い出だ。
 それなのにこの牧場ときたら。
「もふ龍ちゃん。これから私たちでほかの牧場みたいにするんですから、頑張ってね」
 沙耶香が木の根っこに縄を結んで、もふ龍を呼んでいる。
「そうもふか! 魚のいる小川も作るもふ!」
 ご主人の言葉に機嫌の良くなったもふ龍。ぴょんぴょんと沙耶香の元までまっしぐらすると、縄の端を首にかけてもらう。
「そうそう。後は畑なんかも作ると、料理も楽しくなりますし」
 生き生きと話す沙耶香。もふ龍もぽわわん、と想像する。緑あふれる牧場でのんびりする様子、ご主人と一緒に野菜を収穫する様子、そして、いつものように牧場の肉と野菜を使って料理を作る様子……。
「もふ龍何でもやるもふ!」
 俄然、張り切るもふ龍。ん〜ん〜と木の根をもふら力でぼごりと返すのだった。
「それじゃ私は、燃やしやすいよう薪にしておきましょう」
 沙耶香の方は、借りた鉈で複雑な形の根っこを解体していくのだった。

「さて、文字通り開拓しようか」
『ピ』
 場所は変わって、からすと陽炎燈。
 目の前には前日まで一般の作業員が集めていた木の根や燃え残りが集められている。
「そんじゃ、お願いしますぜ」
「うむ。……陽炎燈、『焼き払え』」
『ピ』
 からすからの簡潔な指示で、陽炎燈が顔を伏せると同時に身体に炎を纏った。炎突進だが、我慢して突進はしない。じりじり動いて延焼効果を狙う。やがて枯葉から火がつき、無事に燃え始めた。
『ピピッ』
 陽炎燈、楽しいのだろう。纏う炎が「♪」型になっている。ふよふよ浮く様もスキップして踊りまわっているようだ。くるくると炎の踊りを続け、さらに火を強くする。
「楽しく仕事するのは良いことだ」
 からすは楽しそうな朋友の姿に満足げ。周りに延焼しそうなものがなく安全であることを確認すると、「昼の準備を手伝って来るから」とその場を後にするのだった。

「足踏み、足踏み、ダイちゃんと〜♪」
 小型飛空船離着陸予定地では、ルゥミとダイコニオンがいた。
 ぴょんぴょん跳ねてルゥミが大地を踏み固める様子を見て、霊騎のダイちゃんもぱっかぱっかとリズミカルに足踏みしている。
「よし、ダイちゃん。『踏みつけ』いってみよ〜」
 今度はルゥミ、ダイちゃんに騎乗してスキルを使う。ダイちゃんは大きな跳躍力で大きく上空に飛び上がり、全体重をかけてどしんと踏み固めた。「あははっ。いいよっ!」とルゥミはダイちゃんの首根っこに抱きついたり。それがうれしいのだろう。ダイコニオンも気分良さそうにルゥミに首筋を摺り寄せている。
「ん?」
 ここでルゥミが目を丸めた。くんくんと鼻をひくひくさせる。
「おぅい、お嬢ちゃん。こっちも手伝ってくれんか?」
 呼ばれた方を見ると一人が手を振っていた。どうやら米が焚けたようで、いい匂いがここまで漂っている。そして澄江とおにぎりを作ってほしいと。
「ようし、あたいも手を洗って握るの手伝う!」
 新たな楽しみを見つけ、てててっと掛けていくルゥミであった。
「すまんのぉ。ワシはこれからひと仕事があるけん」
 一人の方は、ぽん、とルゥミを肩を優しく叩いて出掛ける。
 炊事場では澄江のほかに、戻ってきたからすもいた。
「ルゥミ殿も昼の手伝いか?」
 からすは醤油で味付けた焼きおにぎりも作っている様子。
「それじゃ、ルゥミちゃんもお願いね」
「まっかせてよ」
 にこっ、と微笑み合う澄江とルゥミであった。
 後の話だが、ルゥミは「おむすび補給隊」の幟旗を掲げ戦場よろしく霊騎を駆るのだったり。

 さて、一人。
「『牧場にするためには土の品質に手を加える必要があるかと思います』か……。なかなかいいことを言ってくれるのぅ」
 家畜の糞などで纏めていた場所から、土壌改良に使えそうなのを台車に積んで出発していた。
 その先には提案者のアナスがいた。駆鎧ゴールヌイを動かしている。
「鹿野平さん。わざわざ運んで下さりありがとうございます」
 すぐにハッチを開けて顔を出すアナス。
「おおっ。ワシがあんたの駆鎧を見たかったってのもあるがのぅ」
 アナスはゴールヌイで大おきな木の根を引っ張っていた。鍬がわりに大地をかき混ぜていたのだ。
「もちろん、踏み固める場所を言って下さればゴールヌイを使って踏み固めますし、集めた木の根があればチェーンソーで薪に使える様裁断しますよ?」
「わはは、ワシが牛糞まくけえ、そのまま続けようや」
「そうですか。では」
 涼やかに微笑してハッチを閉めるアナス。
「私が役立つなら」
 ぐっ、と操縦桿を持つ手に力を入れる。
 開拓の手応えに、アナスの目元が緩むのであった。


「今度は新しい相棒かい?」
 別の場所では、下駄路が紫狼と話していた。
『ちょっとマスター! そろそろボクの紹介してよ〜もう! 女の子待たせるなんて、ホント気が利かないんだからー!』
「お前焼き上がったばっかなんだから大人しくしろって!」
『マスターは黙ってて! コホン、ボクは形式番号……』
 元気良く喋り出す土偶幼女。
『登録名はアイリス! お姉ちゃんより調整が遅れてたけどようやくお披露目だよっ』
 というわけで、紫狼の2体目の土偶ゴーレムだ。
「解説しようっ! このアイリスは俺の相棒、土偶ロイドの……」
「…‥いや、わかんねぇよ」
 滔々と語る紫狼にじと目の下駄路。最大の特徴はちびっ娘であることらしく、さらにばばん、と声を張るッ!
「そうっ! 第二次性徴期前のつるぺたぼでーを見事にさいげ……」
『そ、そんな事はいいからー! は、早く仕事だよマスター!』
「えーやんかー参考にした某コクリたんの再現度は自信あんだぜー。胸なんてサイズがほぼフラットなAA……」
『わーっ、わーっ!』
 胸を張り人差指を立てて説明する紫狼に、やめさせようと爪先立ちで両手をばたつかせるアイリス。
「土偶が変わってもやってることは村雨劇場なのな……」
『いやっ。ちゃんとやるよ、ボク。お姉ちゃんから借りたドリルで根っこごと地面を掘削するんだ。マスターはすこっぷで掘り起こしてっ』
 呆れる下駄路に慌ててアイリスがすちゃりとドリルを取り出す。『ボクだってこのくらいできるんだ』と、どりどり。頑張り屋さんである。

 別の場所では鍬が高々と振り上げられていた。
「よいしょっ!」
 がつっ、と木の根のそばに食い込む。ぐいっ、とてこで掘り起こしているのは祐だ。袂の長い白い袖は襷で縛り、髪はまとめて額にはきりりと鉢巻を巻いている。普段の巫女姿を考えると彼女としては珍しい光景だ。
 そして、縄を木の根に縛り付ける。
「那緒君? お願いしますね」
『グアッ』
 反対を朋友の甲龍「那緒」にくくって、飛び立ってもらう。が、なかなか木の根は動かない。祈るようにはらはらして見守る祐。
『グァグァッ!』
――ぼこり。
 やがて、根っこが掘り返される。那緒が強力を使って意地で羽ばたき、主人の期待に応えて見せた。
「ふふっ。疲れました? 後でお肉食べさせてあげますからね、今日はごちそうです、頑張ってくださいね」
 戻ってきた那緒に丁寧に声を掛ける。
「大変だけど、戦闘よりこういう作業好きでしょう」
 最後に言った言葉に、那緒も嬉しそうに翼を広げて見せるのだった。

 その頃、ルンルンは駆鎧の中でガガガガガという振動に歯を食いしばっていた。
「いつもより多く回してるんだからっ……ルンルン忍法影忍ヴィジョンなのです」
 X2ーG『影忍』のドリルが根っこを成敗している。
 そして一通り掘り返したら、根っこを掴んで……。
「影忍フルパワー……この位の切り株、簡単に引き抜いちゃうんだからっ!」
「あ、尻餅ついた」
 駆鎧の中の叫びは聞こえないが、外で見ていた下駄路がフルパワーを目の当たりにしていた。簡単に引き抜きすぎて、ちょいと勢いがつきすぎたのだ。
「いたた……。あっ、下駄路さんですっ」
 コクピットから出たルンルンがぶんぶんと手を振る。
「見ててくださいねっ。次はここをならしますからっ」
「相変わらず元気が良くっていいなぁ」
 ちょっと痛くてもすぐに花咲くような笑顔。下駄路はいつもと同じルンルンの明るさに圧倒されつつ筆を運ぶ。
「重いコンダラ試練の道だもの……」
 ぐぬぬぬぬ、と力を込めて操作するルンルン。影忍は大きな丸太を引いて効率的に地面を固めていく。ここはやがて農道になるだろう。

「よぉし。ウルフはここで待ってろな」
 次に下駄路が訪れた場所には、亜伊がいた。
「何やってんだい、亜伊さんよ?」
「おう。このでっかい根っこをこいつに使う火薬でな……」
 亜伊はそう言って愛用のロングマスケットに顎をしゃくる。手には事前に用意した導火線と小さな布袋がある。
「焙烙玉で事足りんじゃねぇか?」
「それじゃ威力がありすぎんだろ? 火薬があんまり多いと地面に大穴開けちまうからなぁ」
「しかし布袋じゃちょいと迫力不足かもだぜ?」
 下駄路が言うのは、銃に使う時にも火薬はぎゅっと押し込む。袋だと十分詰まっているのか不安だということらしい。
「ま、見てろって」
 亜伊、それだけ言ってしゃがみこむ。
「根と土の隙間に詰めるんだ。これで砲筒の中と同じってこったな」
 亜伊の説明にほほぅ、と感心する下駄路。しかし。
「待った。どうやって点火すんだ?」
「そこはほれ。……お、からすが来たな」
 手を振る亜伊。からすと陽炎燈がやって来ていた。
「それが終われば昼にしよう」
 からすは昼食を持ち、牛の引く荷車に干藁やらを積んでいた。陽炎燈がからすに視線で指示されぼぼぼ、と近寄ってくる。
「よし。頼むな。離れろー! ちょいと爆破するぜ!」
 陽炎燈に導火線を指差し、下駄路などを押し返す亜伊。
『ピ』
 そして陽炎燈は炎突進で突っ込み着火すると同時に退避。ジジジ、と導火線が短くなって。
――ドゴッ!
「なるほど。音は地味だったが土中の根っこが土と一緒に浮いたな」
「どうだ! よぉし、ウルフ。ひと仕事……。ウルフ?」
 感心する下駄路に、会心の笑顔の亜伊。「おお〜」と盛り上がる中、ウルフはクールに佇んだままだった。主人に呼ばれるとてててと近寄り、根を引き出すのを手伝う。
「では」
 からすもクールなまま。狼煙銃を打ち上げていたり。
「食事だぞ。全員集合」
 皆が集まると、牛に干し藁をやるなどお世話。陽炎燈は牛と円らな瞳同士見詰め合っている。もしかしたら会話してるのかも。


 そして、日が暮れた。
「さあ、たんと召し上がってくださいな」
「ご主人様も手伝ったもふ〜」
 澄江が夕食に皆を呼び、彼女に両手で抱かれているもふ龍も元気に呼びかけている。沙耶香は切り分けた肉などをせっせと皿に盛っていた。
「もふ龍ちゃん、こっちは焼肉の机にね。こっちは私が鍋用に」
「わ。沙耶香さん、焼肉と牛すきを用意してくれたんですね〜」
 せっせと働く沙耶香にルンルンが瞳をキラキラさせて近寄る。調理済みならつまみ食いする勢いだ。
「ギルドに募集をかけてからまた牛がくたばってのぅ。開拓者をこのタイミングで呼んで正解じゃったわい」
 豪快に笑い説明する一人。
「じゃ、俺は牛すきを、と」
『亜伊さん。昼間、マスターはサボっていたわけじゃないからね。ボクがマスターの分も……』
「ああ、空気撃で驚かせて悪かったな。可愛いあんたの方が良く働いてたんで、男としてどうかなと思っただけさ」
『そうなんだって、マスター。あ、亜伊さん、ボクがお酌するからたくさん飲んでね』
 どうやら亜伊は日中、アイリスに作業を任せて一休みしていた紫狼に突っ込みを入れたらしい。牛すき卓はこれで一気に賑やかになる。
「動き回った後だから、安心して食べられます……それに、とっても美味しいの」
 脂の乗った肉に絡むだし汁旨み。いま、箸でひょいぱくっとしたルンルンが瞳キラキラで頬に手を当てうっとり☆。
「あれ? 動き回った?」
 隣の下駄路は箸を鍋に入れつつ何気に眉を顰める。
「まーさか牛すきが味わえるとは……」
『スマターも飲めるよね』
 うっひょいとがっつく紫狼にもアイリスはお酌。
「沙耶香さんも一緒に楽しもうぜ?」
「あ、あたしは作る方が楽しいですので……適度につまみながらお酒も飲んでますので構いませんよ〜」
「もふ〜☆ 牛さん美味しいもふ☆ お酒も美味しいもふ〜☆」
 下駄路の呼び掛けに、食材を追加しつつ酒を飲む沙耶香。もふ龍も一緒。

「命の糧に感謝を」
 こちらはからす。焼肉の手伝いをしていた。すでに鉄板からジュウジュウいい匂いがしている。
「私は焼肉です。お酒も飲めますよ」
 アナスがこっちに張り付いたのは、自分の切った薪をくべて火の世話をしているから。
「おっきくなれますように」
 ルゥミは腰に手を当てて牛乳をく〜っと! 飲んでいる。
「そういやあんた、休憩中は龍と仲良くし取ったのう?」
「ええ。ここに建物が建って、みどりの草原で牛達がのんびり草を食む。那緒君の横腹に背を預けてそんな夢想をしてました」
 一人に聞かれ、祐がにっこり答える。
「ほぅ。空を見ながらそんな想像のぅ。それじゃ、ここの名は『みどり牧場』で決定じゃの」
「彼女は龍にのしのし歩かせながら整地したり活躍してたよ」
 感心し牧場名も決めてご満悦の一人に、息子の一景が言葉を添えた。ますます機嫌が良くなる。
「ありがたいのぉ。開拓者ものんびりできる牧場にせにゃな。ま、一杯ぐぐっと」
「お手柔らかに。……そんな光景が早く見られるといいですね」
 祐は二人と視線を合わせ、未来像を重ねながら言葉を交わす。昼間、一般の作業員としていたように。会話も弾む。
「ダイちゃんには生野菜! あたいは、お肉もいっぱい食べるからね!」
「そうだ。那緒君にも焼肉を上げないと」
 背後でルゥミが霊騎を構っているのを見て、祐も龍を労う。
「うむ、仕事後の一杯は良いな」
 からすは持参の万屋湯飲みでくいっと。陽炎燈もちょっと飲んで気分良くくるくる。
 そんな、楽しいひと時だった。

 しばらく後。
「母さんは、酒は強いんだけどな」
 亜伊がぐでんぐでんになっている。
『もふ〜。もふ龍気持ちいいもふ〜☆』
「はっ! まさか」
 もふ龍がころころ転がり、その様子を見て自分のウエストが気になるルンルン。
「あらあら」
 にっこりと片付け始める沙耶香はうわばみだったりする。そろそろぐってりした者も多い。
「また呼ぶんで。よろしくの」
 一人の掲げたグラスに、アナスやからす、下駄路など撃沈してない者が杯を合わせる。
 そんな賑やかな大地に微笑むように、夜空に満天の星が瞬いていた。