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■オープニング本文 ●戦雲 アヤカシは、東和平野での攻撃を開始した。 その目的は住民の蹂躙。開拓者たちの反撃もあって最悪の事態こそ避けられたものの、各地の集落、特に朽木では多くの犠牲者を出し、北方では北ノ庄砦が陥落し開拓者が後退を強いられた。 日は傾きつつあるが、アヤカシは夜でも構わずに活動する。 前進で消耗した戦力も、魔の森で十分に力を蓄えた新手を加えることで回復していくだろう。 「本隊を佐和山まで前進させる。援軍を集合させつつ反撃に出る」 備えの兵を残し、北面国数百の本隊が整然として清和の町を出陣する。城へと進むと時を同じくして、東和地域にははらはらと粉雪が舞い始めていた。 ●北面のろりぃ隊☆ 「やれ。儲けさせてもろうたが、そろそろここは離れたほうがええかの」 北面の清和の某茶屋で、太った男が腰を下ろし茶を飲んでいた。 「旦那様〜っ」 ここで、茶屋に急いでやって来る若者がいた。 「大変です、旦那様。佐和山城に宝珠砲弾を運んでいた飛空船がアヤカシに落とされたようです!」 「なんだって!」 旦那と呼ばれてたのは太った男ではない。別にいた身なりの良い男性が声を荒げ立ち上がっていた。 「開拓者をつけていたろう」 「すまねぇ、落とされちまった」 若者の後についてきていた、体格の良い男女五人が申し訳なさそうにしていた。風体から見て彼らが旦那の雇った開拓者らしい。 「もともと、小型飛空船に重い荷物を積んで、俺たち龍込みの開拓者五人は無理があったんだ」 「何を言う。襲われた場合、迎撃に飛び立てば速度は上がるだろう?」 「襲われたアヤカシ、羽猿の集団どもは狡猾でね。戦闘するより荷物を狙ってきやがった」 つまり、迎撃に飛び立った開拓者をやり過ごし、本来の速度が出る前の飛空船に取り付き内部破壊を計ったらしい。 敗因は、佐和山城に届けようとした宝珠砲の追加砲弾という重い荷物を載せながら、人数的な定員オーバーとなる開拓者五人と騎乗の龍五体の防衛戦力を積載するという愚行。 積載過重は最高速度を落とすばかりか十分な飛行高度を取れず、低空域が活動帯となるアヤカシに狙われてしまった。さらに、航空戦力で対抗したものの、対空能力がなく開拓者の全力出撃で防衛力のなくなった船に容易に取り付かれて、あっというまに撃墜されたという。 「俺たちの目的は、宝珠砲の予備砲弾搬入だ。墜落した船に居座るアヤカシを倒しても、もう龍だけでは搬入できん。任務失敗は本当に申し訳ないが、急ぎ報告に来た次第」 「いや、まずいぞ。あれが搬入できなかったら、万屋が運んでいる宝珠砲が城に届いたとしても数発撃っただけでお飾りになる。事は私の面子だけではなく、北面全体の問題に……」 旦那は開拓者を叱責することもせずに青ざめている。万屋から強引に仕事を下請けした挙句、自身の無茶な搬送計画失敗で国家的な損失を招こうとしているのだ。事の重大さに我を忘れかけている。 「すぐに取って返してアヤカシを退治するので、陸送手段か中型飛空船の手配をしていただけないか?」 「それができればすぐそうしてる。が、あるのは荷が空になったばかりの小型飛空船一隻。これに君らが乗って急行しても、佐和山まで砲丸多数を運ぼうとしたら同じこと」 くっ、と唇を噛む旦那だった。 「防空は滑空艇一台だけでも十分だと分かったが、あいにく俺たちでは……」 定石にこだわった旦那もようやく開拓者の言葉に耳を傾けるようになったが時すでに遅し、である。 と、この時。 「もしよろしければ積荷の奪還とその後の護衛、私に任せてくださいませんか?」 ここで太った男が話に割り込んだ。 「あなたが?」 「開拓者の中でも軽量でとても可愛らしい『ろりぃ隊☆』に出資している者ですよ」 いぶかしむ旦那に胸を張る太った商人。 そう。 この男、ろりぃ隊出資財団のエロ親父商人の一人だったのだ。 さあ、コクリ・コクル(iz0150)たちの出番である。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
のばら(ia1380)
13歳・女・サ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
シャンテ・ラインハルト(ib0069)
16歳・女・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ● 華の小手毬隊を乗せた小型飛空船は現場付近に着陸しようとしていた。 「よし、着陸完了」 「後部搬入出板、展開よ〜し」 「お嬢ちゃんたち。こんな距離のある林の裏ですまないな。こっちまでやられたらお終いなんで、不便だろうが分かってくれ」 口々に声を掛け合う乗組員の中で、船長らしき人物が振り返って七人の開拓者に説明していた。後部積載室のハッチが下ろされると、凛々しく立つその姿が現れた。 「分かった、問題ないよ。ねえっ、みんな!」 報告を受け元気良く仲間を振り返るのはコクリ・コクル(iz0150)だ。 「もちろんにゃ! 急いで終わらせるからコクリちゃん、空はよろしくにゃ! ……無理はしないようににゃ?」 瞬間、猫宮・千佳(ib0045)がコクリに勢い良く抱き付く。たたらを踏むがぐっと態勢を立て直すコクリ。そこへ今度はリィムナ・ピサレット(ib5201)ががすーっ、と飛びつく。 「小手毬隊として動くのは久しぶりだなぁ。今回もよろしく! コクリちゃん」 「わわわっ。もちろんだよっ、二人とも」 千佳に抱きつかれたままリィムナに抱きつかれ今度は仰け反るが、どし〜んと倒れることはなかった。背後で両腕がしっかりコクリを支えていたのだ。 「ろりぃ隊……小手毬隊動く時は香澄も動くってねっ!」 にぱっ、と顔を出したのは新咲 香澄(ia6036)だ。 「うんっ。今回も頼むよ、香澄さん」 「コクリ、また大変な仕事みたいだけど、頑張ろうね!大丈夫、僕も付いているから」 頼もしそうに言うコクリの横をすり抜けつつ、ぽんと肩を叩いてにこりと励ますのは天河 ふしぎ(ia1037)。今日も大きな三角襟の黒い空賊服姿で先行する。 「身体の小ささ、軽さ」 ふしぎのすぐ後ろには、のばら(ia1380)が続いている。 「本来不利なそれを活かすのがのばらの戦い方、なのです。だから……」 「のばらさん?」 独り言を続けるのばらに目を丸くするコクリ。のばらは独白をやめてキリリとコクリを見た。 「……では、行ってきます!」 走りながら敬礼をして、すぐに悪戯っぽくにっこり笑って。コクリも嬉しくなって親指を立てて見送った。 「コクリちゃんには負担かかるかもだけど、精一杯急いで始末してくるからねっ!」 前衛の出発に遅れまいと、香澄も手を振って駆け出した。 「もちろん行くにゃよっ!」 「コクリちゃん、緊急時にはこれで連絡取り合おうっ」 オレンジ衣装をなびかせ千佳も駆け出し、白いローブのリィムナは狼煙銃を一本コクリに手渡してから急いだ。 「皆さん、そんなに急がないでも……」 この様子に飛空船の船長が呆れた。 「コクリ様だけにこちらの飛行船をお任せしている時間はなるべく短く済ませたいですからね」 こつ、とブーツを響かせて近寄った吟遊詩人、シャンテ・ラインハルト(ib0069)が船長に説明した。 「シャンテさんっ。ボクは行けないけど、頼むね」 「ええ、急いできます」 コクリに言われ独特の笑みで返すシャンテ。 彼女が最後に出たのは、着陸間際を空飛ぶ羽猿(ウエン)に狙われるかもしれない危険性を感じていたから。そうなると制空権は唯一の滑空艇に乗るコクリだけになるので、重力の爆音を使い援護する予定だったのだ。 「ボクたちにはボクたちのやり方があるんですよ」 残ったコクリが仲間を見送りながら言う。実現しなかったがシャンテの狙いににこにこしている。 ● ――ざざざざっ。 宝珠砲弾奪還に向った開拓者達は、遠くはなったが遮蔽物となる林の中を移動していた。 「ここが一番近いんじゃないかな?」 「きっとそうだね」 香澄が言うとリィムナも頷き、止まった。木陰に身を沈めて墜落した飛空船の様子をうかがう。 傾き船体の破損が目立つ飛空船に、居座っていると報告のあった羽猿の姿はない。船内に隠れているのだろう。問題は、どこまで警戒しているか、接近者に対してどう出るか。 「僕が様子をこっそり偵察してこよう」 ふしぎが腰を上げる。 「羽猿達は賢い、です」 気をつけてください、とのばらがふしぎを見上げる。 「任せて、女の子達を危険目に合わせるわけにはいかないもん」 「囮は危険がから気をつけてにゃ? マジカル♪スペルで補助するにゃ♪」 にこっと爽やか笑顔をのばらに返すふしぎに、千佳がマジカルワンドできらりん☆と聖なる光をふしぎに付与する。 「あちらが誘いに乗らずに立てこもりに徹するようなら『夜の子守唄』がありますので、無理なさらず……」 出掛けにシャンテが声を掛けると、ふしぎはウインクして駆け出すのだった。 「でも、援護できる距離は保っておきたいよね。袋叩きがあるし」 リィムナが言うと、無言でシャンテも頷いた。リィムナとしてはアークブラスト、シャンテとしては黒猫白猫ですぐに援護できる位置にいたい。 「それじゃ、すぐに」 「うにっ!」 のばらが出た。千佳、香澄、リィムナ、シャンテもすぐに続く。 しかし、これは無用の心配だった。 なかなか羽猿が出てこないのだ。 (見られてるのかな? それとも、本当に気付かれてない?) これ以上単独で近付くのはどうかと立ち止まったふしぎに、後続が追いつく。 「どのみち、やるつもりなんだし」 「囮……と言うよりは、かちこみ?」 香澄とのばらの言葉で、今度はふしぎとのばらを先頭にした強行偵察に切り替わった。再び走る。 (なかなか出なければ『夜の子守唄』を……) 最後尾を走るシャンテがぐっとミューズフルートをぐっと握り締めたところで、異変があった。 「キイィッ、キィ!」 奇声が、一斉に響いた。 ――ぶわっ。 同時に、墜落した小型飛空船から背中に羽根を持つサルが十匹以上、羽ばたき現れた。 一瞬不気味に滞空したかと思うと、それらは一気に一直線に開拓者に向ってきた。 引きつけて、一斉攻撃を狙っていたのだ! ● 「速いなっ!」 香澄の叫び。 滞空していた羽猿が一気に降下しふしぎに襲い掛かった。一斉である。高速飛行というより、獲物に対する瞬発力というところか。 「くっ、そ……」 細かく削られるふしぎ。引くか前に出るかで迷ったため後手に回った。前に出て囮に、が本心だったが数が数だ。 「ふしぎさん!」 この時、背後から爆発音。 のばらが突入陽動用に用意していた焙烙玉を明後日の方向に投げて爆発させ注意を引き付けたのだ。 「……だからっ! ろりぃ隊はのばらにとって、自分を活かせる大事なところなのですっ!」 続けて、咆哮で注意を一身に集めるのばら。出撃前、コクリに言いかけた「だから」の続き。のばらの思い。そのすべてを叫んで、薙刀「巴御前」を掴んで前に出るっ。 「たとえ身体が小さくても、たとえお胸が貧しかろうと……この心意気は負けない、のですっ」 向ってくる羽猿を右に左に捌いていく。これだけの数が集まるのだ。威力より手数である。 「のばら、大丈夫? お前達の敵はこっちだ!」 これで動きやすくなったふしぎ、怒りの表情で取って返す。奔刃術で一気加速をすると左右の霊剣「御雷」と妖刀「血刀」を流しまくる。 そして開拓者後衛も距離を詰めているぞっ。 「にゅ、いっぱい来たにゃね。みんなと合わせて……」 左右に体を振るように可愛らしく走っていた千佳が右に開きながら叫び愛用のマジカルワンドを掲げる。 「いっぱい出てきたね。よ〜し、敵をたくさん巻き込める様にして……」 リィムナは千佳の動きを見てひらひら純白ローブをなびかせ左に。アゾットを腰から抜くと、はめ込まれた宝珠を前にして構えるっ。 「のばら様、伏せてくださいっ!」 最後方のシャンテが慌てて短くのばらに言う。 「わわっ」 取り囲まれ始めたのばらは薙刀を大きく振るった後、慌てて大地に伏せる。 「マジカル♪ブリザードにゃ!」 「ダブルブリザーストームだよっ!」 千佳とリィムナの声が響き、90度幅のブリザーストームの十字砲火。効率的に敵を削る。 そして攻め手はこれで終わらないっ。 「さて、次は炎の陰陽師として得意技いっくよー。まとめて焼き払ってやる」 後衛前々のセンターにはすでに香澄がそそり立っている。いま、陰陽符「玉藻御前」を挟んだ指を伸ばし狩衣「雪兎」の袖口がきらりと光る。 「説的な妖狐「玉藻の前」の妖力、くらえっ!」 火炎獣を召還すると同時に火炎放射。会心の射線ににっと笑む香澄の顔が炎で赤く照らされる。一直線纏め焼きの半面、射程が短いのが難だが仲間の巻き起こした吹雪の隙に余裕でギリギリまで近寄れた。累積ダメージで数匹が落ち、瘴気の藻屑と消えた。 しかし、ここから流れが変わることとなる。 「いつの間にっ」 開拓者最前部で、味方の援護のため墜落していた小型飛空船に背を向けていたふしぎの声が響くっ。 ● なんと、敵はまだ小型飛空船に潜んでいたのだ。 だが、ふしぎは攻撃しない。 「キキッ!」 とにかく前に前にふしぎを追い抜いていくのだっ。 「はっ。まさか!」 伏せから起き上がったのばらが目を見開く。 のばらもまったく攻撃を受けずに追い抜かれたからだ。それだけではない。咆哮の切れた敵が組織的な動きをし始めているではないか。 「後ろが……。一番打たれ弱いところが狙われるかもですっ」 慌てて振り向きのばらが言う。咆哮はもう使わない。このメンバーで少数多数の場合最も手っ取り早い範囲攻撃の妨げになるからだ。 「くそっ!」 ふしぎもフォロー遅れた。理由は、まだ小型飛空船に敵が潜んでいるかも知れず、またやって来るかもしれないから。いや、もしももぬけの殻なら、先に占拠するのも手だと直感的に思ったから。ただし、確定事項ではないことにすぐに思い至り、仲間の援護に動く。 ともかく、今のろりぃ隊で一番打たれ弱い後方の四人に、増援込みで三倍強の数の敵が一気に襲い掛かったのだ。怒涛の圧力はしかし、単調ではない。羽があり知恵がある分巧緻である。 「にゅ。飛んでたと思ったら地面に降りて」 「四肢で走ってたと思ったら空飛んでか?」 千佳とリィムナの声が交錯する。範囲攻撃対策の幻惑戦術である。 「そんなの関係ない。一気に片付けさせてもらうからねっ! 白狐、いくよっ!」 数的不利と見るや、香澄は確実に一体ずつ全力で屠る道を選んだ。 怒涛のように押し寄せる敵に対し、大きな九尾の白狐を召還。獰猛に牙を見せると白狐は一気に跳躍して羽猿一匹を圧倒的な力の差を見せつけ食いちぎった。 これで敵の波は香澄を避けるように左右に割れた。千佳とリィムナはブリザーストームで迎撃するが近過ぎて効果が広がる前にもみくちゃにされた。 「多勢に無勢ですか。そして敵がそれを望むのなら……」 最後方のシャンテは落ち着いていた。重力の爆音とも迷ったが、選んだ歌は――。 ――ヒュッ、ヒュルル・ヒュルル・ヒュルル……。 構えたミューズフルートから紡がれたのは、軽やかでハイテンションなリズムの楽曲「黒猫白猫」だ。敵は迫っているが自らの役目は分かっている。瞳をうっとりと閉じて、曲に合わせて軽やかに上体を揺らす。小手先の曲で中途半端な効果を届けたくはない。味方が曲に乗って軽やかに戦えればそれでいいと、演奏に専念する。揺れ流れる淡い紫色の長髪。彼女の周囲には人影のような幻が現れステップを踏んでいる。 が、ここで開拓者五人抜きをしてきた羽猿どもにもみくちゃにされた。 「にゃっ! 俄然力がわくにゃっ!」 「熱くなったけど、役目は忘れないよっ」 黒猫白猫を聴いて動きに軽やかさが出てきた千佳とリィムナが戻ってきた。千佳はアイヴィーバインドで蔦を延ばし敵の武器である機動力を奪い、リィムナはアークブラストで確実に各個撃破を繰り返す。敵の集中攻撃から開放されたシャンテは無言で仲間の背中に笑みを送るのだった。 「ほらっ。後ろががら空きだよっ」 香澄も戻ってきて、右に移動しながら火炎獣で横一直線。千佳・シャンテ・リィムナと横一直線に並ぶ三人に群がる敵を効果的に焼き払う。 「気をつけてっ。敵は猿だから武器を奪いに来るかも」 余裕の出来たリィムナが全体に注意を促す。これまで散々立体攻撃やら最後方狙いやらやられたのだ。これ以上小ざかしい手をくらいたくはない。 「あっ。敵は逃げるかもですよっ」 ここで、後方に急いでいるのばらが声を上げた。 実際、戦いの流れは完全に開拓者が引き戻していたのだ。 ● 「くっ。忙しいなぁ」 白狐を放っていた香澄が、敵の動きの変化を察知した。のばらの言う通り、もう敵は攻撃一辺倒ではなくなっている。 「距離があるならっ」 のばらが自身の身長よりはるかに長い薙刀を自慢のパワーでぶうん、と振って真空刃を飛ばす。さらに回りつつ、もう一発。 「キキィ〜ッ!」 空中で距離を取っていた羽猿が次々落ちる。さらに、リィムナの雷撃と千佳の吹雪も。 これで完全に敵は撤退に入った。 さすがに猿だけに去る時も反応良く一歩目が速い。 しかしッ! 「ここはお前達の城や領土じゃない、砲弾は返して貰うよ」 最前線のふしぎが残っていた。 とはいえ、ふしぎを抜こうとする敵は数が多いぞ。止められるか? 「空を汚すモノを空賊としては許しておけない、そして戦いの行方を決める砲弾も運びきってみせる、小手毬隊と空賊の意地にかけて!」 ずしゃりと歩幅を広くとって腰を落とす。これ以上翻弄されてたまるかと、風神を放った! 両手を広げるふしぎから全周の敵に真空の刃が乱舞するっ。 ――キィッ! 「ふしぎさん、もう一匹!」 「時よっ」 ぼとっ、と落ちた敵の中にしぶとく生き残りがいた。仲間全員からの声に反応したふしぎが夜で時を止め、何とか追いすがり止めを差すのだった。 「これでよし。……コクリちゃんには知らせたから、飛空船ごとこっちに来るよ」 落ちた飛空船の舳先に立ち狼煙銃を打ち上げたリィムナが振り返る。 「夜の子守唄が利いていれば、敵が残っていても寝ている可能性が高いです……」 「とりあえずのばらは力持ちですから、沢山積み荷を持って乗って来た飛空船に行くのですっ」 演奏を終えたシャンテが顔を上げると、のばらがぐっと力こぶを作ってみせる。 その背後では、うに〜、と千佳が心配そうに林の向こうを見ている。と、その表情が明るくなった。 「にゃっ。コクリちゃんにゃ!」 「良かった。コクリちゃん一人に任せてたから船がすぐに姿を見せなかったら急いで帰らなくちゃって思ったけど……」 香澄もほっとして、林の向こうから浮き上がった小型飛空船を眺めた。 「良かった。積荷は梱包されたままで無事みたいだ」 先行調査していたふしぎがひょい、と船倉から顔を出して報告する。 「良かった。これで……」 にっこりとシャンテが微笑む。 ここより激しい戦闘で苦戦する戦場を助けることができる、との思いで配達先の佐和山方面の空を見るのだった。 この後、コクリは戦勝の仲間からもみくちゃに……は置いといて、追加宝珠砲弾は無事に配達されたという。 |