駕籠の外の鬼
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/05 19:47



■オープニング本文

「ついに、ともえが亡くなった場所あたりにも足跡があったで」
 ある村で緊張が走っていた。
「前に開拓者が立ててくれた墓標も倒された様子じゃ」
 最近、村からかなり外れた雪原に出る幽霊を開拓者に頼んで退治してもらったばかりだ。
「幽霊の次は鬼どもか‥‥」
 そう。今度は、広い丘陵地帯の先にある森から、鬼が近付いていたのであった。以前から鬼の存在は確認されており、山菜や良質な木々など森林資源の宝庫とされながら人の手が付いてない状態が続いていた。
 しかし、その鬼どもが座視していた住処から行動範囲を伸ばし、村にも近付こうという勢いだ。
 雪原に残る足跡、遠くからの目視確認と合わせ、数が多く小さいのと豚面のがいるとのことだ。
「井村陸朗が無謀にも一人で退治に行って刺激したのが悪かったか」
「オイ、陸朗はもう村の一員と認めたはずじゃ。悪く言うな」
「そうじゃ。それに、もしも刺激したというならもっと早くにこっちに来とろう」
 一瞬、寄り合いは険悪な雰囲気になるがすぐに落ち着いた。
 陸朗はともえとこの村に駆け落ちし、村人の信頼を得ようと単身、件の森へ小鬼退治に行って帰らぬ人となった。その後かなり経過して、流産しすべての希望を失ったともえが森へと向かい途中の幽霊に殺されたというのがこれまでの経緯である。幽霊については、見事に開拓者が退治。ともえと捜索隊のかたきを討った。
「‥‥あの幽霊がおったから、鬼どもはこっちに来なかったのかのう」
 そんな声も漏れるが、真相は明らかではないし幽霊を放っておく事もできなかった。
「とにかく、あの丘までで退治せんとこの村が襲われるぞ」
「そうじゃ。前回は、わしらの村の住人・ともえのかたき討ち。今度はわしらの村の住人・陸朗のかたき討ちじゃ」
「おお!」
 盛り上がる村人たち。早速、開拓者に鬼どもの退治を依頼するのだった。

 が、しかし。
 この後すぐ、状況が一変することとなる。
 まさか、このような事態を誰が予想できただろうかッ!


■参加者一覧
紅鶸(ia0006
22歳・男・サ
葛城 深墨(ia0422
21歳・男・陰
深山 千草(ia0889
28歳・女・志
神咲 輪(ia8063
21歳・女・シ
春名 星花(ia8131
17歳・女・巫
煌夜(ia9065
24歳・女・志
賀 雨鈴(ia9967
18歳・女・弓
アレン・シュタイナー(ib0038
20歳・男・騎
アマネ・ランドリン(ib0100
19歳・女・吟
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎


■リプレイ本文


「うにゃ?」
 依頼のあった村へと続く道中で、春名星花(ia8131)が顔を上げた。丸い目をさらに大きく見開いている。
「ん‥‥?」
「まあ俺は初陣だしゆっくり‥‥って、どうした、輪?」
 ラシュディア(ib0112)と、シノビ同士の縁で話をしていた神咲輪(ia8063)もぷつっと話題を切った。お団子にまとめた頭を巡らせる。ラシュディアの方は首を傾げるだけ。
「何かしら、嫌な匂いが」
「ね、あれ見てっ!」
 輪の言葉を尻目に駆け出した星花は、木々の間から村を指差した。
「なあ、見間違いじゃなければ村が襲われてねえか?」
「うおっ、早速村が襲われてるのか!?」
 駆け寄ったアレン・シュタイナー(ib0038)とラシュディアも見た。
 鬼だ。
 遠くに見える村で、小鬼が逃げる男性に小躍りしながら棍棒を振り下ろしているではないかッ!
「げ。こりゃ、やべぇな」
「まさかとは思ったけど、急いでみたら‥‥か」
「無事を祈ってましたが‥‥」
 横に続いた葛城深墨(ia0422)が手短に続き、煌夜(ia9065)がため息混じりに。そして、ポロンとひとつリュートを爪弾いてアマネ・ランドリン(ib0100)が首を振った。
 と、その脇を一陣の風が抜ける。
 輪だ。
 単独、早駆で道なき林を一直線に突っ切る。無茶をするが、これが一番速い。
「正解だな。シノビが道を選んでどうする!」
「待て。焦らず、事前に話し合ったとおりいきましょう!」
 ラシュディアが同じく早駆で続こうとしたが、紅鶸(ia0006)が冷静に止めた。
「でも、巧遅は拙速に如かず、ってお父様もよく仰ってましたよ」
 星花が持論を口にした。
 が、正論なれどこの一言があだとなった。紅鶸は急ぐなと言ったわけではない。これあるを期して打ち合わせた役目を忘れるなと言ったのだ。
 星花。仲間が村に突っ込んでいくタイミングに振り返ったため遅れを取ることとなった。目の前を、メローハープを手にした賀雨鈴(ia9967)も駆け抜けて行く。
「星花、急ぎますよ」
「あやや。ボ、ボクも行くっ」
 殿を守る覚悟の深山千草(ia0889)にも抜かれ、星花は慌てて駆け出すのだった。


 先頭を行くのは、輪。早駆・早駆の連発で一気に村に到達した。
「あ‥‥」
 そしてここで気付く。
 自分の役割は救護班ではなかったか。手にした刀「河内善貞」で戦うために急いだのか。
――いえ。
 あどけなさを残す顔を引き締めた。
――救護するため、ですもん。
 目の前に、棍棒をくらった村民が助けを求めている。決心に鈍りは、ない。
「人が傷つくなんて‥‥」
 忍法・水遁で村人に再び棍棒を振りかぶっていた小鬼を狙う。突然水柱を喰らい小鬼はふらついた。
「グアッ!」
 さらに大柄な豚鬼が斧を手に襲い掛かってくるが、またも水遁。自分も村人ももうやらせない覚悟だ。
 しかし、わらわらと豚鬼・小鬼は近寄ってくる。
「こっちだ、鬼共ッ!」
 輪が攻撃を喰らったところで、鬼たちの動きが一瞬止まった。視線を輪のはるか後方にやる。
 そこには、ようやく追いついた紅鶸がここから届けとばかりに雄たけびをあげていた。咆哮である。
「そうだ、寄って来い」
 鬼たちに目の敵にされた紅鶸、にやりと会心の笑み。まとめてかかって来いとばかりに長槍「羅漢」を唸らせる。
「結果オーライね」
 立ち止まった紅鶸と彼に襲い掛かる鬼を追い抜き、煌夜がウインクしていた。コートをなびかせ、地を蹴り走る足が細くシルエットが美しい。
「あ、ステラさん‥‥」
 輪は、煌夜をそう呼んだ。ジルベリア出身の煌夜。色素の薄い髪がきらめいて踊っている。
(ジルベリアの人って、素敵よね。瞳も、胸も‥‥)
 ため息を吐いたところで、真っ赤になった。
「さ、さあ。怪我はないですか。助けに来ましたよ」
 ぶんぶんと顔を振って一瞬の憧れを払うと、倒れた村人に声を掛けた。そう、彼女は救助が役目である。
「輪、大丈夫かしら」
 仲間が輪の元にやって来た。千草は輪を気遣った後、首を巡らせ状況を見る。
「戦女神アテナよ、我等が軍を勝利に導きたまえ‥‥」
 二人と行動を共にするアマネは、背中を見せていた。先に鬼5匹を一手に引き受けた紅鶸のために武勇の曲を奏でたのだ。細い首筋に、なびくポニーテール。瞳は、まっすぐ。奏でた曲を体現したような、見る人をはっとさせ、勇気付けるような姿だった。
「あちらの大きな屋敷を目指し避難誘導しましょう」
(‥‥嬉しいな)
 決断する千草を見て、輪は心強く思った。彼女とは以前に何度か一緒に仕事をした。人見知りな分、心の支えとなったようだ。私が護る、と決心する。実際に護れるかどうかではない。そう心に誓ったのだ。大切に。
「輪、アマネをお願い」
 はっと我に返る輪。千草は豚鬼に炎魂縛武を掛けた刀を振るっていた。傷ついた村人をかばいながらだ。練磨の志士も痛手は避けられない。
「アマネさんっ!」
 事態を把握した輪はとっさに刀を抜いてアマネに襲い掛かっていた小鬼を狙った。
「リン‥‥」
 アマネ、小鬼の棍棒から回避を試みるが、最後の最後にリュートをかばった。打撃を受けるが、その隙に輪が斬り付ける。
「破壊神カーリーよ、意に背きし愚者へ制裁を加えたまえ‥‥」
 位置を入れ替わると、アマネは奴隷戦士の葛藤を奏で二人を支援。千草が早期に豚鬼を屠る手助けをした。
「さ、輪、アマネ。急ぎましょう」
「アタシはこの人を支える」
 駆け出す千草に、怪我人を支えて続くアマネ。
「おばあちゃんの口癖だけど、こういうの袖すり合うも他生の縁っていうんですよ?」
 輪はオカリナを吹いて救護班ここにありを訴えた後、アマネを手伝った。目を見開くアマネに、ふふっと微笑する。彼女とは初対面だが、うまく接することができたようだ。


「咆哮が利き過ぎたか」
 鬼5匹を引き付けた紅鶸は、さすがに苦戦していた。特に生命力が高い豚鬼が2匹いるため、一人では大打撃を与えても周りから反撃の嵐を受けている。
「しぶとい‥‥が、これで止めだ!」
 直閃で、これでどうだとばかりの一撃突き。ようやくしぶとい豚鬼を一体屠った。続けざまに小うるさい小鬼を一撃必殺。どうやらここで乗ってきたようだ。
「俺は弱いんでね。姑息に姑息に‥‥」
 実は、ラシュディアの暗躍もじわじわ利いていた。主に紅鶸を包囲する鬼のうち、弱い小鬼を選んで背後からショートソードで削っていた。紅鶸が袋叩きにされなかった最大の理由である。
「うおっ」
 時折、反撃を受ける。
 しかし、これはある意味罠に近い。
「やらせるか」
 紅鶸が目ざとく反応し、仲間の危機を救うべく死角から突き通すのだ。
 が、当然理想的だった対面構図が崩れる。ラシュディアの方に豚鬼が攻撃を仕掛けてくるのだ。
「っと、危ない危ない。あの一撃は食いたくはないね」
 何とラシュディア。早駆で一気に戦線離脱して難を逃れる。そしてまたほとぼりが冷めたら早駆で戦線復帰。紅鶸に向かっている敵の背後からちくちくとイヤらしい――もとい、効果的な攻撃を繰り返すのだった。
 そして、紅鶸率いる主力組の遠距離部隊。
「霊鎧の歌を念のために掛けておいたけど‥‥。あ、星花さん。あっち」
「うにゃっ。狙い撃ちは得意なんだよっ」
 雨鈴の指示に、即射で応じる星花。目を狙ったり足を狙ったりといろいろ試している。さすがに一撃無力化はできなかったが。
 一方雨鈴は、以前のこの村での依頼で予想外の非物理攻撃があったことを知っている。念のために対非物理攻撃支援の曲を奏でた後は、主に遠距離から来る新手の索敵に集中していた。星花は弓で紅鶸の咆哮で近付く鬼どもの体力を削っていたが、今は雨鈴と組んで迎撃戦闘に集中している。紅鶸が咆哮の連続で敵をとにかく引き付け大暴れし、ラシュディアが忍びらしく影から撹乱し、星花ができるだけ先に削っておくという戦法だ。
「かごめかごめに囲われた鬼、悲しい末路の二人に安らぎを‥‥」
 雨鈴は、歌う。手にはメローハープ。二胡も背負っているが、今回はハープ。激しく演るつもりだ。奴隷戦士の葛藤が響き渡り、味方の攻撃が当たりやすいよう楽曲支援する。
「‥‥この近くにはもういそうにないな」
「移動しかないだろうなぁ」
「田舎だから広いみたいね」
 紅鶸が赤い目で見回し、ラシュディアが金髪を掻く。雨鈴は周囲の地形を見ていたようで、味方のいない空白地へと皆を先導した。
「あわわ、ちょっと危険かもっ」
 道中、星花が豚鬼に襲われたッ。
「星花っ」
 とっさに、紅鶸が庇う。相打ちの格好だが、彼は敵の足を狙っていた。これで、敵移動力は激減。星花は無事に一撃の間合いから後退し追撃を免れる。
 あとは、一瞬だった。
 ラシュディアが早駆で一気詰めして攻撃し、紅鶸がさらに痛打を。最後はさらに突っ込んできた豚鬼に、星花の零距離射撃で止めを刺した。
「うにゃ、危なかった」
 腰砕けにへたり込む星花だったり。


 一方、遊撃隊。
「防備固める予定だったのにな」
 煌夜が責任を感じながら走る。鬼がすでに村を襲っていたことに対する責任ではない。前回のこの村の依頼解決が今回の悲劇の引き金になっている可能性を考えているのだ。しかし、これは気に病んでも仕方がないだろう。彼女も、ここで迅速に鬼退治することに気持ちを切り替えている。
 とにかく、走る。
「きゃあぁ〜」
 悲鳴を聞いた。
 とにかく突っ込む。
 途中で小鬼3匹と遭遇したが、村人を襲っているわけではない。1匹を一刀で屠ると離脱した。
「アレンさんも頼りにさせてもらえるでしょ。後ろ、頼んだわ」
 ふ、と微笑し助けを求める方へ走り去った。
「ジルベリア人ってのは、やっぱり珍しいのかね?」
 遅れて続いたのは、アレン。先の輪が煌夜を見ていた視線を思い出し、首をひねっている。
 あるいは、戦闘の才能が生まれつきあったのかもしれない。実戦経験は少ない割に落ち着きがあり、視野が狭まっていない。いや、先のセリフは広い視野を保つためのものだったのかもしれない。
 ともかく、アレン。2匹の小鬼を受け持った。
 振り下ろされる棍棒。これをがっちり受けるアレン。びびった小鬼の肩口に、クレイモアがぐっさり深々と袈裟に入る。
「これが俺の戦い方なんでね?」
 正面から堂々と。回避のかの字もない、これぞ騎士の直進力。
「‥‥とっ。葛城ィ、支援は任せたぜ」
 そこにいるんだろと振り返りもせずに言う。横から次の小鬼が来て攻撃を受けたのだ。
「はいよっ、と。アレンさん」
 深墨の放った矢が見事に小鬼に刺さる。この隙に、アレンがぐっさりと。
「おっ、と。あっちで襲われてるな」
 周囲の警戒に集中する深墨が近くの民家の影を指す。自分から距離を詰めて攻撃しようとはせず索敵に専念している。分をわきまえている。
 反応して駆けつけるアレン。
 が、途中で民家の引き戸ががたがた動いたのに気が付いた。おかげで、突然開いて出てきた小鬼の奇襲を何とか防ぐことができた。
「良いね、良いね! ノッて来たぜ!」
 ばっさり切り下ろし、身を伏せる。それと分かった深墨は矢を放ちもともと向かっていた方から出てきた小鬼を牽制する。アレンの方は、深墨が撃ったと感じると素早く身を起こし、殺到。矢の刺さった小鬼に止めを刺した。アレン、絶好調。すでに戦いを楽しんでいる様子だ。
 そんなこんなで、先行する煌夜にようやく追いついた。
「ちょっと、遅いわよ!」
 何と煌夜、苦戦していた。それもそのはず。怪我をして動けない村人たちをかばいながら豚鬼3匹と戦っているのだ。小鬼2匹は屠ったもののかなり厳しい戦況で、負った手傷はむしろ殊勲といったところだ。それでも、精霊剣を使い豚鬼たちもすでにかなり痛んでいる。
「これでも騎士の端くれなんでね? 戦う術の無い者を救うのは当然さね」
 アレン、正論。実際、深墨が怪我人数人を庇いながら続いている。敵と遭遇しなかったのは幸運だった。
「ともかく、手早く片付けましょう」
「任せとけって、煌夜」
 肩に顔の半分程度の高さの妖精を乗せ、煌夜が呼吸を改める。妖精は、深墨の治癒符だ。「治癒符はあまり得意じゃないけど」などと作戦前はぼやいていたようだが、「‥‥っと、ああ。心配しなくてもちゃんと傷は治せますから」との言葉は真実だった。というか、韜晦するのがうまいというか何というか。
 とにかく、背中合わせで死角をなくした開拓者2人に、すでに傷ついていた豚鬼たちはあっさりと倒されるのだった。


 この後、村長宅に避難所を作り住民と怪我人をまとめ、残りの鬼たちを退治した。戦闘と怪我人救助が一緒になったため、とにかく忙しく厳しい戦闘だった。村民は、死者6人、怪我人多数。あれだけのアヤカシに襲われた割に被害は少ないといえよう。開拓者が急いだ結果だ。
「先ほどは、本当にありがとうございました」
「うにゃ?」
 村長や村民からは手厚く何度も感謝の言葉をもらった開拓者たちだったが、星花はある人物から特に丁寧に感謝された。
 どうやら、瞬速の矢を一撃必殺の気力を乗せて速射した星花の矢によって命からがら逃げることができたのだと言う。
 避難所作りもかなり評価された。
「一緒にいることで皆落ち着いた。開拓者さんが護ってくださっていると思えば、なおのこと」
 実のところ、千草と輪とアマネは出入り口を箪笥や戸板でがっちり塞ぐと巡回確認や仲間と合流して掃討戦を繰り広げていたりしたのだが、それはそれ。特に千草は、村人からの救急用品の提供を待たずに迅速に多くの人の応急手当をしていたので、大いに感謝され感心されたという。

「ラシュディアさん」
「‥‥なんだ、煌夜か」
 前回の依頼で建てた丘陵地の墓標を改めて作っていたラシュディアは、近付いてきた煌夜に声を掛けられてびっくりした。
「この先の森の方の様子見もした方がいいかもと思ったんだけど‥‥」
「同感だ。俺もそのつもりだった」
 こうして2人は、陸朗がアヤカシ退治に行って死んだとされる森を調べた。
 結果、差し迫っての脅威はなさそうであった。
 この報告で、村人は本当に安心したと涙を流して喜んだという。

 そして、村の墓地。
「済みましたよ。‥‥すべて」
「やっと、若き夫婦の弔いが済みましたね」
 千草がそう言って、陸朗とともえの墓に梅の花を添えた。深墨の治癒符を受けるほど奮戦した紅鶸が安堵の吐息を吐いた。
――トン・ト・テ、ツン。
 雨鈴は、背負っていた二胡を下ろして演じ始めた。亡くなった2人と、そして新たに犠牲になった6人に鎮魂歌を贈る。
 そんな仲間を背に、深墨は墓地を後にしようとしていた。
(鬼にはあまり興味がなかった)
 内心、思う。
 前回の縁。それが、彼をこの地に向かわせた。
 あるいは、すべてを終わらせて改めて墓参りをしたかったのかもしれない。
「流産、か」
 あっちでは三人で仲良くやってるといいけどな、と天を仰いだ。
 墓地には、雨鈴の鎮魂歌がしっとりと流れ続けていた。