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■オープニング本文 神楽の都、珈琲茶屋・南那亭にて。 「ぐぬぬ……。この大切な時期に揃いも揃って里帰りなどしおって」 「まあ、武州の戦いのあった夏からこっち、働きづめだったからな。また大きな戦がないかと様子見をしていたんで疲労も溜まったし」 いかにも熱血そうな男と、いかにも冷静そうなひょろりとした男が珈琲を飲みつつ話している。 「それがイカンのだっ! 我々は偵察の専門家であるッ。様子見などという腰掛けのような腑抜けた態度を取っているから、小隊員全員が同時に戦線離脱という責任感のない事態を引き起こすのだ」 どだん、とテーブルを叩く熱血男。 名はゴーゼット・マイヤーという。本名ではなく、カッコいいのでそう名乗っている志士だ。 「なったものは仕方がない。それよりどうする? 開拓者ギルドには威力偵察の依頼が出てるぞ。もちろん、参加するよな?」 ぐい、と身を乗り出すのはひょろりとしたニヒルな男。 名はブランネル・ドルフという。本名ではなく、カッコいいのでそう名乗っている弓術師だ。 「当然だ。偵察とはすなわち、威力。威力なき偵察に意味はなし! 威力があれば何でも出来る! ただし、するのは偵察まで。この微妙な匙加減こそ偵察の醍醐味よ!」 「何を言う。偵察とは隠密だ。闇に隠れて生きる、それこそ偵察人生なのさ。威力などは飾りにすぎん。今まで何度、俺が貴様たちの窮地を救ってやったことか」 「バカ野郎。俺たちが威力にモノを言わせて敵と戦ったからこそ、敵の真の強さも知ることができ、結果、決戦時に然るべき装備を整えることで勝利を得たことが何度あるか」 「あんたがそんなだから、俺は隠密偵察のほかの仲間に馬鹿にされるんだよ」 「だったらそっちに行けばいいだろう?」 ゴーゼット、もしかしたら思っていても口にしてはいけないことを言ってしまったか。 しかし、ブランネルは涼しい顔である。 「そんなことをしたら、毎度毎度慌しく撤退するアンタの醜態を見て笑いながら援護できないだろう?」 「何だと! 敵の偵察隊を圧倒して深追いしないのは、戦線拡大を避けるための必然だ。速やかに引いて何が悪い」 「じゃあ、今回は引くべきだな。隊員が俺とあんた二人じゃどうしようもない」 「何を言う。ギルドにメンバーを募ればいいではないか。目の前に偵察任務があって、偵察せずにおれるかっ!」 「あの、すいません。もう少し静かにしていただくと……」 ここで、南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)が一言いいに来た。 「よし、早速メンバーも一人こうして集まった。貴様は確か開拓者だったな。栄えある我が小隊の臨時隊員になれ」 「えええっ!」 「今回は北面の魔の森手前の森で目撃される鬼アヤカシの動向を探る任務だ。現地の目撃証言では『角の鬼がいる』とのことだ。よく見掛ける鬼とは違うので、戦って強さを確かめることと、敵の戦略目的の有無、戦術的な傾向、何人単位で動いているかなどを探りたい」 「でも私、ここがあるし……」 「ほかにも店員はいよう。それに、来てくれれば我が小隊で珈琲豆の取り引きをしてもいい」 「う……」 現在、アル=カマル産珈琲が出回り始め危機感を抱いている真世は、これで落ちた。 「よ〜し、よし。名前は確か『深夜真世』だったな? では、我が小隊にいるときは『エンゼル真世・深夜』と名乗れ。その方がカッコいいからな」 わははと上機嫌なゴーゼット。 「ちょっと。我が小隊っていうけど、それってどういう小隊なの?」 強引な展開に口を尖らせ聞くエンゼル真世。この言葉を聞いてむしろイイ顔をする二人。 「特に名乗る名はないが、どんな不可能偵察も威力で解決」 「しかも何気に神出鬼没の偵察集団」 ゴーゼットがいい、ブランネルが続く。そして口をそろえて……。 「それが俺たち、『偵察野郎A小隊』」 ばばん、と親指を立て自らの胸を指し、決めポーズ。 「ほら、エンゼル真世、貴様もやらんか」 「ちょっと、まだ私こんな格好だし」 そんなこんなで、どたばたうるさい南那亭であった。 |
■参加者一覧
舞 冥華(ia0216)
10歳・女・砲
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
龍威 光(ia9081)
14歳・男・志
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
ロック・J・グリフィス(ib0293)
25歳・男・騎
リュシオル・スリジエ(ib7288)
10歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ● 北面の集落の外れを走る集団があった。ささっ、と森に入る。 「よしっ。近くの集落から敵に視認されることなく森に取り付けたな」 ゴーゼット・マイヤーが機嫌良さそうに言い周囲に目を光らせた。敵はいないがなぜか声が大きい。 「だから、そういう細かな配慮に欠けてるのが隠密仲間に馬鹿にされるんだよ」 ざざっ、と茂みに身を隠した集団の中の一人、ブランネル・ドルフがぶちぶち言う。 「でも今回、威力偵察ですからねぃ。何せ特攻野……」 「それ以上は言っては駄目だ。ウサミミ光」 ゴーゼットを庇ったのはほんわかふんわりした雰囲気の少年志士の龍威 光(ia9081)。ところがゴーゼットは勝手につけたあだ名を呼ぶばかりか光に噛み付く。というか、特に光はウサ耳はつけていないのだが。 「ん? てーさつなのに威力? なんか矛盾?」 その横では舞 冥華(ia0216)が至極もっともなことを呟いては首を捻っている。 「ロンリネス冥華は分かっているようだな。そうだ、我々は矛盾しているのだ」 うんうんとブランネルが静かに頷いている。 「どうしてろんりねす?」 「寂しそうな瞳でチラチラ見るからだ」 「矛盾はないな。蜂の巣ぶっ叩いて、反応を見ながら帰って来るだけの簡単なお仕事、だろ?」 ここでアルクトゥルス(ib0016)が割り込んだ。 「その通り! さすがライラックアルクは話が早い」 「ちょっと待て、ゴーゼット殿。なぜ私がライラックだ?」 「豪放磊落だからだ」 駄洒落じゃないかよ、としーんとする。 「とにかく、威力偵察ですねー。対象は角のある鬼の集団。でも、角がなければ鬼とは言いませんですよー」 シノビのペケ(ia5365)が静寂を嫌って口を開いた。 「うむ、良い点に気がついたなセクシーペケ。おそらく……」 「あえて『角』と言いたくなるような物体が生えているのでしょうか? ペケケケ、私の予想では『トナカイの角』です。アヤカシって何故か無用な部分に対して空気読んで……」 「俺にもセリフを言わせんかっ!」 もみ合うペケとゴーゼットを見て、ブランネルが「この娘も脳天万歳だな」とか溜息をつく。これにペケが目敏く気付いた。 「むー、何ですかブランネルさん。私は自信満々ですよー。あーもーっ、あったまキタっ!」 「それじゃ、三人分隊で逆三角の編隊だね。……まきこまれーの真世はふびんだから下分隊」 「ううう、冥華ちゃん〜」 まだ喋りの応酬をする三人を尻目に冥華がちゃきちゃきと取り仕切る。本当に巻き込まれた形の深夜真世(iz0135)は彼女の優しさにほろりと涙しつつ従うのだった。 「おおっ。それは名案だ、ロンリネス冥華。なんだかんだいいつつより威力のある陣形を提案するなぞ、こいつぅ、やるではないか」 争いを抜け出したゴーゼットが横に来てぐりぐりと冥華を肘でつついたり。ペケとブランネルは「なぜ俺に噛み付く」、「違ったらあんたの言う通り褌怒にでやるです!」、「なんだよ褌怒って」とかおバカな喧嘩を続けてたり。 「真世さん、陰陽師のリュシオル・スリジエです。宜しくお願いします!」 この混乱の合間に、リュシオル・スリジエ(ib7288)が同じ分隊となる真世に寄ってきた。 「以前、有角鬼と戦った時には角から電撃を放ってきました」 「今回も何かあるかもですねぃ」 リュシオルの話に、同じ分隊となる光も寄って来て真面目な話をする。 「ええ。何らかの特殊能力があるのかも。警戒していきましょう!」 一方、喧嘩組。 「まあまあ。威力のゴーセット、隠密のブランネル、そこに美学の俺が加われば、無敵とは思わんか」 一輪の薔薇をピッとかざしロック・J・グリフィス(ib0293)が割って入った。 「クリスタルロックは美学にこだわるか。それもいい」 「私は褌にこだわりますっ」 すちゃっと気取って立つブランネルに、下は褌一丁のペケ腕を組んでどどんとそそり立つ。 「さあ、真世嬢、いやエンゼル真世も」 「うんっ! 行こうっ。光さん、冥華ちゃん」 手を伸ばすロックに、真世が光と冥華の手を取って駆け出し、くるっぴたっと三人でポーズ。 「偵察野郎A小隊って……かっこいいですね!」 「お。ジェントルボーイも分かるか。よし、一緒に行くぞ。『何気に神出鬼没の偵察集団』」 「まあ、こまけぇことだが必要なことだな」 ジェントルボーイことリュシオルが駆け出し、ゴーゼットが満足そうに走る。やれやれとアルクトゥルスが続いて、びしりと九人の偵察戦士が揃ったぞ! 「それが俺たち、偵察野郎A小隊!」 そろって言うと、どどんと親指で自分の胸を指すのだった。 ● 「よしっ、集合だ」 早速、鬼の目撃情報があったもり深くへ分け入るA小隊。かなり行ったところでゴーゼットは召集を掛けた。 「今のところアヤカシはいないが、各自の所感はどうか?」 「ケモノの痕跡を確認したが、おそらくすでに逃げ散ったか何かで相当数が減っているようだな」 足跡やフン、縄張りの痕跡を丹念に調べていたアルクトゥルスが思案げに赤い瞳を翳らせ報告した。アヤカシにやられたかどうかは判然としない。 「超越聴覚では特になにもないですね〜」 「ん、たいちょ」 ペケが広範囲に異常なしを伝えたところで冥華が話に割り込んだ。 「そうだな。俺の心眼でも特には……お? ロンリネス冥華、寂しそうな瞳でチラチラ見てどうした?」 「さびしくはないけど……」 彼女が言うには、森の中に潜んでばれにくい、迷彩衣装は準備できなかったのか、と。 「俺も意見具申したのだが」 「コソコソするのは性に合わんっ!」 溜息をつくブランネルの隣で大声を張るゴーゼット。ほかの隠密偵察から馬鹿にされる所以である。 「後ろは僕とリュシオルさんと真世さんで、二種類の退路を常に想定して動いているから少々のことがあっても大丈夫ですねぃ」 「おおっ。ウサミミ光、ご苦労である。もっとも、少々で引く気はないがな」 光の方は「ウサミミはこれのせいかですかねぃ」と羽織モノの兎紋をしみじみ見てたり。 と、この時だった! 「あっ。前から何か近付く音がしますね〜」 「でかした、セクシーペケ。クリスタルロック、ロンリネス冥華、行くぞ。ブランネルとライラックアルク、セクシーペケは右翼から囲い込め。エンゼル真世とウサミミ光、ジェントルボーイは左翼最後尾からさらに不意をつけ」 「偵察小隊A小隊、行くぞっ!」 「おおっ!」 ペケの報告から即座にゴーゼットの指示が飛ぶ。ブランネルが締めて、全員が先手を取るべく走り出した。 敵は、鬼型のアヤカシ六匹だった。 ――ガアッ! 「ふむ、指示して小鬼らしきを当ててくるか……」 「蹴散らすぞ、クリスタルロック!」 襲い来る小鬼の集団を、騎槍「ドニェーストル」でハーフムーンスマッシュするロック。これはけん制でまず空間の確保。ここにゴーゼットが踊り出て流し斬りでバッサリ一撃。次いでロックが本格攻勢に出る。 「全てを見通すA小隊、呼ばれてないが即参上だ!」 どすんと突き一発で圧倒する。 さらに横で小鬼が倒れる。 「ん、冥華は銃兵だからばれないよーにこそこそしながら」 前衛二列目からマスケット「バイエン」を確実にぶっ放す。 そして、指示を出した小隊長は……。 何と、頭部のみならず、全身に大量の角が生えていた。 「なるほど、『角のある鬼』とか言われるわけだな。というか、体中角だらけじゃないか」 「違った! したらば褌怒にでやるです!」 ブランネルが矢を放ち、予想が外れて八つ当たりを狙うペケが鋼拳鎧「龍札」の拳に私憤を固め一気に距離を詰めている。 「拙い。こりゃ強いぞ」 皮膚が硬く防御力があるためか、放った矢の刺さりが悪い。ブランネルが仲間に注意を呼びかける。 「むっ、腕とかの角が邪魔ですね」 奔刃術から思いっきり踏み切り腰を落とした正拳突きをかましたペケが後ずさりながら目を見張っている。鬼の左上腕から生えていた角は粉砕したが、これは明らかに敵の防御。続けざま敵の突進を喰らい、ぐはっと吹っ飛ぶ。 「肉弾戦が得意、かな?」 戦場に白い長髪がなびく。 「ライラックアルク!」 騎士のアルクトゥルスが到着し、オーラドライブのままベイル「ウルフブランド」を構える。まずは暴れる敵をがっちり止めて流れを掴んだ。 「敵の強さを測るにはブン殴って見るのが一番だって親父も祖父(じい)さまも曾祖父様も教えてくれたぞ」 不敵に笑ってロングソード「クリスタルマスター」でダウンスイング。これがきれいに入るが、やはり敵は体力がある。 「それで怯む敵ならそのまま殴り倒してしまえ、殴って倒れないなら倒れるまで殴り続けろとも……何っ!」 追撃の剣は、空を切った。 角の多い鬼――多角鬼は、一気に間合いから外れる跳躍で距離を置いたのだ。猪突猛進なだけではないのか? 「くっ!」 いや、すぐに同じ跳躍で戻って肩にある大量の角を生かした体当たりをかましてきた。何とか盾を出すアルクトゥルス。 「うそお。当たったのに平気な感じじゃない」 後方で、多角鬼を弓で狙った真世が呆れている。ブランネルの矢も当たったのにまったく怯まないのだ。 「角がないところは弱いみたいですね〜」 アルクトゥルスが突進を止めたところを、ペケがわき腹にもぐりこむようにして拳を叩き込んだ。この隙にアルクトゥルスが剣にオーラを集中させ振りかぶる。 「ええい、手間を取らせる」 グレイヴソード。 上から渾身の力で叩き込んでようやく黙らせるのであった。 ● そしてしばらく行って、またも敵と遭遇していた。今度は八匹である。 「さて、お出ましか……ゴーセット隊長、その威力十分に振るわれるといい、貴公の背中は俺が守る、その美学にかけて」 「今度は両翼から取り囲めっ」 「おおっ!」 マントを翻すロックに、ゴーゼットの号令。 両翼からゴーゼット、ロック、ペケ、アルクトゥルスが突っ込む。 「ほんとーにこそこそしない」 ぱぁん、とマスケットを撃つ冥華ももちろん隠密性に微妙に欠けているのでまあいいか、という立場だが。とにかく突っ込んだ仲間を反対側のブランネルと一緒に長距離支援する。 「ん? 今度は角の鬼が二体。しかも背中に角が密集している……」 「全てを見通すA小隊、呼ばれてないが即参上だ!」 小鬼を屠った後、多角鬼に挟撃されるゴーゼットにロックが反応する。盾を掲げ割って入ってスィエーヴィル・シルト。背中から突っ込んできた多角鬼からがっちり守る。 「すまんな、クリスタルロック」 「これが俺の美学だ!」 返す槍のハーフムーンスマッシュ。これで一呼吸置ける。 「やはり体当たりか!」 やっぱり背中から体当たりされ盾で防ぐアルクトゥルス。こちらはノーダメージとはいかない。 が、この隙にペケが回りこんでいるッ! 「逆に前に角が少ないですねっ。……これが軟弱地面でも効果のある『何処でも飯綱落とし』っ」 相手の前を取るとそのまま抱え上げる。言葉の意味は良く分からんが、とにかくちゃんと関節は極めているぞっ! ――ガスン。 変形の技に角の多い形状の鬼。普段どおりに行かずに決まりは浅かったがダメージは大きい。 が。 「はぅっ、見ちゃダメですよー」 何と、ペケの褌が緩んでいる。このままではお尻がっ! 「それはイカン! セクシーペケを守れっ」 ゴーゼットが守りも捨てて突っ込む。 「ホラ、掛かって来なよ」 こうなれば乱戦だとアルクトゥルスが挑発。 「俺はロック・J・グリフィス、空賊なので本名かは不明だが、もともとカッコいい名であるっ!」 ロックも突っ込んだ! そしてこの時、背後でとんでもないことが進行しているのであった。 ● 「あ……」 最後尾の分隊で、人魂をトンボの形にして飛ばしていたリュシオルが声を上げていた。 「右手後方から新手が来てます」 「え〜っ。前は激戦中よ?」 援護射撃をしていた真世が慌てる。 「しかも前にいる角の多い鬼より二倍以上大きいです。……強そうですよっ」 昆虫好きのリュシオルはワクワクした声の響きのまま伝える。 「距離があるなら、先に前に加勢して片付けてきますねぃ」 光が真世に振り返って言う。前に逃げるつもりだが、まだ戦闘中だ。真世やリュシオルをここに置いていかざるを得ない。 「真世さん、僕がお守りしますよ! レディを守るのは紳士の務めですから!」 「いつもすいませんねぃ、真世さん」 リュシオルが男気――といっても女の子だが――を見せ、光が親しみをこめ目尻を緩めてからきっ、と前を向き駆けた。 「うんっ。頑張ってね、光さん」 見送る真世だが、前は実は簡単に片がついた。 「後ろからでかい新手が来てますねぃ。左前方に逃げましょう」 乱戦に突っ込んだ光は名刀「ソメイヨシノ」を大地に対し平らになるよう構え、一気に体を伸ばし突っ込みながらの突きをかます。平突だ。不意を突いたこと、前線は消耗戦をしていたことからこれが止めとなる。そして五体一になり、最後の多角鬼もゴーゼットの刃に沈むのだった。 そして、背後で信じられない光景が繰り広げられていた。 「ちょっと、何よこれっ!」 真世の悲鳴は、十五尺はあろうかという大きくて丸々と鞠のように太った鬼が木々の間から見えたため。 そして、その大きな鬼――のちに、砲角大鬼と名付けられる――のかざした手の平から、いや、その空間から角が現れ、砲撃のように飛んで来たからッ! 「ひいいいいっ。大木が一発で傾いたぢゃないっ!」 木に隠れたのが命拾い。狙われた真世は無事である。喰らってたらえらいことになっていたが。 「まさか攻撃用の角を出して飛ばしてくるなんて……」 「ちょっと、リュシオルちゃん。逃げようっ。小鬼も来たしっ」 同じく木に隠れ中空を見据えていたリュシオルは、トンボの人魂で砲角大鬼の観察中だった。特に角にこだわって観察している。が、真世に言われ視線を戻すと、敵に向き直る。 「行けっ。魔殲甲虫ビートルマグナ」 カブトムシ型の斬撃符を小鬼に見舞う。真世の矢も当たり一匹を倒すが、砲角大鬼はさらに近付いている。 「真世さん、逃げるですねぃ」 「ん。倒すのめんどい。てーさつだし、無理厳禁」 「あれはヤバいな。偵察野郎A小隊、撤収だ!」 前を制した光が叫び、冥華の射線も来ている。改めて、ゴーゼットが指示を出している。 「ふうん。これは報告だな」 引きつつ敵の特徴を目に焼き付けるアルクトゥルス。 のち、開拓者ギルドに思った以上の敵との遭遇を報告した。 偵察野郎A小隊、大きな収穫である。 |