【南那】近付く騎馬決戦
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/12/05 17:46



■オープニング本文

「瞬膳、すまんがウチの数人を世話してくれ」
 泰国は南那の北部。南那防衛戦略の双璧となる「防壁の森」付近に構えた親衛隊天幕に大きな声が響く。馬賊「紅風馬軍」の頭、紅風山千である。
「それはもちろんいいですが、随分また被害がありましたね」
 親衛隊長の瞬膳が目を丸めて山千が馬から下りるのを待った。
「奴がいたよ。‥‥炎を吐く騎馬鬼、だな」
「新型ですか」
 溜息を吐く瞬膳。
「正規軍も人馬鬼の出現で随分振り回されましたが、騎馬鬼で偵察被害が甚大に、そして今度はさらに‥‥」
 この地域での戦闘は今年の初めから、泥沼の一途を辿っていた。
 紅風馬軍の「防壁の森」の突破は、そこにいたアヤカシも連れて来るという形に。
 南那正規軍は馬軍とアヤカシの二正面作戦を強いられ、序盤は補給活動のため活発だった馬軍と交戦。徐々にアヤカシ被害も増え始め三勢力が入り乱れたところ、「アヤカシ退治」の一点で馬軍と協力。馬軍の戦力減ととにかく戦闘を避けたい正規軍の思惑が一致し共闘することとなった。
 ところが、敵のアヤカシは鬼の上半身と馬の下半身を持つ「人馬鬼」が登場。複雑な行動を見せ始める。
 少人数広域偵察を柱としていた正規軍はここで大打撃を喰らうことになる。敵に近い位置にいた紅風馬軍も大きな被害を受けていた。
 馬軍の陣地を明け渡すことで敵はそこに終結し始め、戦線はこう着状態を見せ始めていた。
 この間も偵察部隊の交戦があったが、敵の強力な新型「炎騎馬鬼(えんきばき)」が登場。想定戦力を崩された正規軍と馬軍はともに大きく戦力を減じていたのだ。
「ともかく、敵の狙いは邪魔者たるこの陣地かここから左後方にある村だ。‥‥村をやられんうちに、早めに決着をつけたほうがいい」
 速戦即決が好みなのだろう。山千が主張する。
「戦力が足りません。‥‥後方送り増加で今は一般人兵士を連れてきて数が減ってないように見せてますが、こんな状態でアヤカシと戦っては勝ち目がないですね。もう少し時間を稼げば、序盤に後方送りになった熟練の正規兵が戻ってきますので、それまでは我慢です」
 苦労性なのか後方調整が得意なのか、瞬膳が粘り強く説得する。
「とにかく、攻撃は最大の防御だ。何らかの策で敵の偵察を誘って数を減らしておいたほうがいいぞ」
「いや、それをするならとにかく敵にやられない程度の戦力で偵察をしておきたいです。敵がこちらの偵察部隊を確実に各個撃破するので新たな情報がない状態ですし」
 口論する山千と瞬膳。しばしにらみ合う。
「ええい、開拓者部隊はまだか!」
「言っておきますが、あなたに彼らの指揮権はないですよ?」
「当たり前だ! とにかく、奴らが来たら俺の案か貴様の案か、それとも奴ら独自の案があるかどうかを聞いて動かんとな。このままだと後手後手だ」
「ええ。今は決戦はできませんが、その準備を進めないと‥‥」
 開拓者の到着を待ちわびる瞬膳だった。

 というわけで、開拓者は正規軍が戦力を整える行動を取る間に、決戦に向けての準備行動をすることができる。
 敵の想定戦略行動は、正規軍陣地攻略か、そこから左後方に位置する村への侵攻だ。位置関係は、直角二等辺三角形の直角部分に正規軍陣地が位置し、片方の鋭角にアヤカシ陣地、もう片方の鋭角に村があるという感じ。アヤカシ側から見れば、一気に村を襲えるが横合いから正規軍が襲ってきそう、という状況。正規軍としては、先にこちらに来て欲しいものの戦力整備にもう少し時間が必要であることに加え、敵の集結地がそもそも旧馬軍陣地だけと断定できない不安がある。
 開拓者の判断は?


■参加者一覧
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
龍威 光(ia9081
14歳・男・志
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
龍水仙 凪沙(ib5119
19歳・女・陰
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文


 南那正規軍の本拠地は慌しい。
「よし、ゲヘナ。大人しくしてろよ」
「桜鎧も留守番よろしくね」
 瀧鷲 漸(ia8176)が赤い瞳に優しさを宿し、朋友の鷲獅鳥「ゲヘナグリュプス」を預けていた。兎獣人の龍水仙 凪沙(ib5119)も同じく甲龍「桜鎧」を撫でてやり預ける。
 そして軍馬を借りるべく一緒に厩舎に歩き始める。
「それにしても決戦間近って感じ? 緊張するねえ」
「そうは見えんぞ、凪沙」
 ふうん、と周りを見て顔を上げる凪沙に、その様子を笑顔で見下ろす漸。そこへ瞬膳と紅風山千が通り掛かった。クロウ・カルガギラ(ib6817)も一緒に歩いている。
「なあ、今までのアヤカシとの戦闘はどういう感じだった? 警戒部隊の編成や指揮系統が気になるんだが」
「三騎を一分隊にしているようだな。で、三つか四つで一小隊だ」
「こちらは広域偵察の必要性から四騎で偵察してましたから数で圧倒されつつ、運動能力の差でことごとくやられているという感じです」
 山千が言い、瞬膳が続いた。
 ここで、ロック・J・グリフィス(ib0293)がやって来た。
「ふむ。そのことごとく、というのが気に掛かるな。偵察隊がやられた位置等に何らかの法則性はないのか?」
「森をかなり手広く警戒している。問題は、なぜそんなことをするかだな」
「より警戒している地点をごまかしているのか、それとも……」
 考え込むロック。
「一番気掛かりなのは敵の数です。我々のように有事に備えて拠点に多くを残して戦力を分散しているのか、それとも拠点に数を残さず出ているのか。戦は数ですからね」
「何を言うか。少なければ動きようによって有利になろうに」
 そんな口論をしつつ去っていく。
 そして、凪沙と漸は。
「はい。凪沙さん、漸さん。軍馬を借りてきたよ」
 深夜真世(iz0135)が軍馬二頭を連れて歩いてきていた。
「真世さんありがと。シギュン、頼むよ」
「元気そうだな、ホーエンツォ。……まよまよ、他の者はどうした?」
 漸はホーエンツォレルンの手綱を預かると、まだ顔を見ない仲間を聞いた。
「もういろいろ準備してるみたいよ?」
 にっこり言う真世であった。


 場所は変わって、周囲の草原。
「これが、森から集落を結んだ直線になりますかね」
 アイシャ・プレーヴェ(ib0251)が朋友の霊騎「ジンクロー」の鞍上から周囲を見回している。いや、見下ろしているといっていい。
 このあたりは草原ではあるが、平坦な広場ではない。丘のように盛り上がっている場所があれば、うねった窪みもある。多くの場合、道は高さのあまり変わらない路面の滑らかな場所を選び伸びる。自然、視認性が落ちる。
「見せる防御をするか、見えない防御をするかが勘所ですが」
 アイシャ、熱心に地図に何かを書き込んでいる。
「……お役に立てばいいんですけどね」
 やがて作業が終わったのか、顔を上げて引き上げるのであった。

 そして正規軍の屯営、厩舎の水場。
「火ぃ吐くやなんて物騒やなー」
 ジルベール(ia9952)が敵と聞いた炎騎馬鬼の情報を思い返しつつ、愛馬の霊騎「ヘリオス」の世話をしていた。
「ヘリオス、お前も火ぃくらい吐かれへんのか?」
 ヘリオスの鼻面をぽふぽふしながら言う。無茶な話だが、いつもの余裕ある笑顔で冗談とすぐ分かる。もっとも、これを聞きヘリオスの方はばふ、と息を荒くする。もちろん炎が出るとかはないが若い馬らしくやんちゃである。
「その元気なら心配いらんなぁ。……お。光さんも霊騎を手に入れたんか」
 さらに破顔したジルベール。亜麻色の馬体を撫でてやっていると、龍威 光(ia9081)がやって来たのに気付いた。光はにこにこ笑顔を浮かべて霊騎「瞬息」を連れている。
「瞬息と名付けましたですねぃ」
 ぶひひん、と蹄を鳴らす朋友を紹介すると屈み込む。
「お、蹄の着け替えやな」
「偵察ですからねぃ。こっちの方が足音が消えるような気がするですねぃ」
 実際の効果は不明だが、できる準備は極力したいという考えだ。すでに光自身、衣服に緑色の布をつけて迷彩っぽくしている。
 と、ここで光が別の方に顔を上げた。かつ、と蹄の音が響いたのである。
「私は、山千さんと共に陽動隊として動きまっすぐアヤカシ拠点へ向かいますからね」
 ぶるん、と首を捻った霊馬「テパ」に凛々しく騎乗するはアーシャ・エルダー(ib0054)。
「そうやなぁ。俺はほかに拠点ある思うし、それを探してみたいなぁ」
 くしゃっと髪に手を入れつつジルベールが別の案を口にする。
「ちょうどいい。ここで打ち合わせをやっとくか?」
 新たにやって来たのは山千だった。瞬膳、クロウ、ロックもいる。
「紅風馬軍は敵を誘き寄せて戦闘、敵戦力の漸減に努める」
「薮蛇になる可能性もありますよ」
 山千が言えば、瞬膳が反対する。
「お二人それぞれの考えがあるのも分かりますが……」
 二人の言い合いに、ついに光が立ち上がった。
「だから打ち合わせをしている」
 声を荒げる山千に、瞬膳は溜息を吐く。
「信じています」
 ぴしり、とそれだけ光は言う。
 その奥から、ぬっと大男が出てきた。
「おいら偵察の一手だと思う。何時もながら大変な南那だけど、瞬膳や山千の兄貴の心配を軽減できるよう、頑張るつもりだぜ!」
 萬 以蔵(ia0099)と霊騎「鏡王・白」である。
「ふん。敵の警戒は厳しいぞ」
「もちろん、オイラは陽動するほうに回るけどなっ」
「私も以蔵たちと一緒だ」
 漸もやって来て立場を鮮明にする。
「よし、深追いとかヘマすんじゃねぇぞ」
 これで山千も機嫌を良くするのだった。
 そして、アイシャが戻ってくる。
「ただいま。……瞬膳さん。これ、柵や落とし穴による防衛案地図です。活用してください」
 先ほどまとめた地図を渡す。
「真世さんには念のためにここに残ってもらいます。……あれ、真世さんは?」
「もう出発の準備をしてるよ」
 地図を受け取り首を巡らす瞬膳に、凪沙が厩舎の方を指差す。
 その中では。
「今回もまた人馬鬼が相手だね。……今回も頼むよ相棒たちっ」
 新咲 香澄(ia6036)が、借りる軍馬「レグルス」の鞍をしっかり設置しながら呼びかけていた。ひひん、と嘶くレグルス。この様子にぽんと香澄の肩に管狐の「観羅」も現れた。
「私がいて何度も失敗などさせるものか。私の威信にかけても任務は成功させるぞ」
「まぁ、今回は偵察が主な任務なんだけどね」
「偵察といえ大切な任務だ。気を抜くなよ、香澄」
「香澄さ〜ん、そろそろ出発よ?」
 背後からの声に振り向くと、霊騎「静日向」を引いた真世がいた。気合い十分で目がキラキラしているが、まだ留守番になることを知らなかったりする。


 こうして開拓者と紅風馬軍の混成部隊の十七騎が出発した。
「真世さんは残念でしたねぃ」
「まあ、留守は必要ですしね。お姉も無茶をしないように」
 光がぼんやり言うと、アイシャが微笑む。ついでに、やる気になっている様子のアーシャに釘を差しておく。
「大丈夫。やりすぎると敵の大部隊がやってくるかもしれませんし、あまりにも手ごたえないと陽動だと敵にばれそうですし」
「待ってくれてる人がいるってのは、大切ってもんや。旨い珈琲のため頑張らんとな」
 陽動の難しさを話して冷静であることをアピールするアーシャ。その横でジルベールが気持ち良さそうに疾駆している。
 そして、森の手前。
「ここからは一騎当千で動く。貴様らはここで待機。二騎は右翼についてやれ」
 山千は手勢の四騎全てを援軍として途中に残した。ここから、陽動組と中央偵察班・左翼偵察班・右翼偵察班に分かれた。
 真っ直ぐ行く主力は、以蔵・アーシャ・クロウ・漸・山千の陽動組と香澄・光・アイシャの偵察班。八人編成で敵本拠地に揺さぶりをかける計画だ。
 森に入ると主要の獣道を外れ茂みに隠れた。
「ちょっと待ってください」
 アイシャが長大な射程を誇る呪弓「流逆」を構えた。
「……120メートル索敵、開始します」
 射手というより奏者のような佇まいで弦を一つ鳴らす。鏡弦索敵だ。
「敵はいませんね」
「よし、一気に詰める」
「前方は俺に任せてくれ」
 アイシャの合図に素早い決断を下す山千。霊騎「ユィルディルン」を駆るクロウがまず動いた。瞳孔が大きく開いているのは遠視のバダドサイトの影響だ。
「ボクは人魂で右を。観羅は左を。敵に見つからないように……」
「私がそんなへまをするとでも?」
 小鳥を出した香澄の言葉を全て言わせず管狐が現れ偵察に行った。
 やがて。
「む、止まってくれ。敵がいる」
 クロウの指示は早かった。
「かなり遠くに六騎だ。どうする?」
「近くに敵は潜んでないですね」
「陣地がまだ先なら、迂回したいですねぃ」
 振り向くクロウに、再度弦を鳴らすアイシャ。光がやきもきする。
「お帰り、観羅」
「こっちはずっと敵はいないぜ?」
「よし」
 決断した山千。右から迂回しさらに敵地深く切り込む決断をした。


 その頃、右翼偵察班。
 霊騎「白蘭花」に乗るロックが紅風馬軍二騎を従え森に入った。
「いいか。こちらは集落から遠い位置にある。ジルベールや凪沙は反対側に敵のもう一つの集結地点があると見ていたが、敵がこちらの屯営を狙うならこちらはむしろ盲点となる。……敵の行動範囲でもあるので気を引き締めろ」
「おお!」
 威勢はいいが、ここからは地味な作業となる。
 ロックは一人に周囲警戒を指示し、地面などを観察する。
「頻繁に偵察に向かっている様子なら、狙いがわかる。陣地以外で向かう足が多いのならば他の集結地点が考えられる……足跡一つ取っても、雄弁に何かを語ってくれるものだ」
 このロックという男。戦闘とあれば真っ直ぐ突き進み仲間のために最前線で体を張る場面が多いが、こういうことも出来る。
「気になるのは敵の規模、他の集結地点の有無、そして奴等の狙い……だ。そういう戦いもある」
 今日のロックは一味違う。

 そして、左翼偵察班。
「集落の真北の森が怪しいよねぇ、ジルベールさん」
「そやなぁ。……おっと、馬の足跡、草木を踏み分けた跡、焦げ付き跡なんかは要注意やで、凪沙さん」
 こちらも森に入って痕跡を中心に調べている。
「風は運よくこちらが風下。人魂で鳥を作って飛ばすから、しばらく警戒を頼みます」
「心眼では異常なしや。ギリギリまで頼むで」
 ぱたたた、と人魂を飛ばす凪沙に、意識を集中させ隠れた敵を探すジルベール。相互に連携しながら徐々に森へと入っていく。
「本当は陽動班が敵の注意をひいている間に偵察するのがいいんだけど……」
「ま、それは俺らが無事に旧馬軍の陣地に大回りして裏から接近できたら、の話やね。実際には、このままこっちに別の集結地がない場合、俺らが裏側に回るのは陽動班が暴れた後や。同じ効果は得られるって」
 そんな会話をしながら、じっくりシギュンとヘリオスを進める。
 やがて、凪沙が敵を発見する。
「おっと、いたいた。敵は西に向かってる。帰ってる最中か、出掛けた直後か……」
「位置関係からすると、西に行くってことは出掛けた直後やろなぁ」
 事前の想定場所から推測し、東寄りへと進路を変えた。
 その結果。
「……あ。今度は割と集まってるかな?」
 人魂目線の凪沙の声が弾んだ。
「けど、数は十二騎程度で結集したいうには程遠いなぁ……。ん?」
 一応心眼で調べたジルベールの眉間に皺が刻まれた。
「ばれた。東からや」
 ばっ、と振り向くと大きな声が響いた。右手遠方にいた敵三騎が二人に気付き、叫び声を上げたのだ。距離は、騎馬戦闘では間合いのちょい手前といえる距離。しかも十二騎のたむろする場所からも近い。
「というか、こっちにも気付かれたよ!」
 敵は合計すると十五騎。どうする?
「引くでぇ、凪沙さん」
 埋伏りで隠れていたとはいえ、それは前方に対する偽装。想定外の横からの露見にいち早くヘリオスに乗るジルベール。剣からアームクロスボウに切り替えたのは、軍馬に乗る凪沙を先に逃がすため。紅焔桜で桜色の燐光を纏わせ、とにかく撃つ。風に揺らぐ枝垂桜のような燐光が散り乱れ矢が飛んでいく。
「気遣いは無用だよっ」
 凪沙はシギュンに乗ると、瘴気の霧をばら撒いた。視界を遮ることはないが、アヤカシにとっても異質な瘴気が5スクエアの広範囲にたちまち広がる。何か仕掛けられた、と敵は立ち止まり様子を始めた。
 木々の間では圧倒的に敵の方が速いが、これで無事に逃げることができたのだった。


 そのころ、中央本隊も決断を迫れていた。かなり前方に敵小隊九騎の接近を確認しているのだ。
「おい、貴様の索敵射程は広かったな?」
「そうですが、女性に対して貴様もないでしょう?」
 山千とアイシャがやり合っている。
「戦場で長い名なぞ呼べるか。……ともかく、あんたとそっちの娘の狐を合わせれば、もう少し行った場所で本陣は偵察できるはずだ」
 何だかんだで柔らかい言い方に変えつつ、山千が手短に話した。
「やるなら俺が釣って来よう」
「よし。おいらは正面から指揮官を狙うぜ」
 クロウが志願し、以蔵がやり過ごしての親玉狙い。
「炎騎馬鬼はどれほどのものか剣を交えてみたいですね」
「よしておけ」
「陽動で敵戦力を削ぐことができたらバッチリじゃないですか。……それとも、私達の戦力では物足りませんか?」
 意気込むアーシャに山千が待ったを掛けるが、その程度でアーシャは止まらない。
 ここで、なにやら仕掛けをしていた漸が戻ってきた。
「……これでよし。それなら私が咆哮で少数を引き付ける。親玉の戦力確認はアーシャに任せよう」
「漸さん、ありがとうございます」
「仕方ない。静かにやりあった後、派手に引くぞ。引き際を間違えるな。……偵察隊はその隙に素早く陣地を見ろ。その後は別ルートから戻れ。こっちが騒いでるんでゆうゆう撤退できるはずだ」
「よし。じゃあ、行くぜ?」
 これまで何度も愛馬・ユィルディルンに乗り戦場を駆けることで流れを作ってきたクロウが、今回も先鋒として行くのだった。

――グオオォォォン!
 すぐさま敵の雄叫びが響いた。早速敵と遭遇したクロウがイェニ・スィパーヒの騎乗術で一目散に逃げてくる。
「人馬鬼ども、こっちだ!」
 木の陰に隠れていた漸は敵が通り過ぎてから咆哮。最後尾の少数を引き受けるとそのまま逃走した。
「そらっ!」
 その途中で事前に仕掛けておいた縄を通りすがりに切る。事前に斬っておいた低木が倒れ、敵の足を止める。ここで、漸はとって返し斧槍「ヴィルヘルム」を大きく構える。「破軍」と「鬼腕」を込めた一撃の破壊力は凄まじく、一頭の人馬鬼を盾ごと吹っ飛ばしたッ!
「私が、魔神だ」
 武人らしく名を名乗ると、たちまち人馬鬼二騎の敵と激しい打ち合いの戦いを繰り広げるのだった。
 一方、真っ直ぐ掛ける敵の本隊。
 その横の木陰からアーシャが姿を現す。
「目が四つなのはズルイですね。……喰らえ、目潰し!」
 アーシャ、渾身のオーラショット。敵の視野が広いことを利用し、こっちを向かせてから放った。狙いは赤い炎を纏ったような姿の炎騎馬鬼の馬の部分だが、まあ顔は背ける。
 が、完全に敵の勢いは止まった。
「テパ、頼みますよ」
 一気に詰めるアーシャ。騎士の盾と剣を装備する、王道の装備で襲い掛かる。
 だが、取り巻きの人馬鬼が体を入れてきた。このあたりの運動性能は驚異的だ。
「邪魔ですっ!」
 シールドノックで盾受けすると、そのまま体当たりをぶちかます。雑魚には目もくれずそのまま炎騎馬鬼に殺到する。
「くらいなさーいっ!」
 ポイントアタックでバッサリやるが、これは運がなかった。
 上半身にざっくり入ったがさすがに体力が高い。そればかりか、同時に馬の口から火炎放射を喰らった。盾で防ぐつもりだったがこのタイミングは間に合わず。
「やってくれるじゃない」
 距離を取るアーシャだった。


 この時、逃げるクロウを追う敵最前列に混乱が起きていた。
「ほらよっ、と」
 以蔵が入れ替わるように突貫してきて絡踊三操を繰り出していたのだ。
「ガッ!」
 かろうじて騎馬鬼が刀で受けていた。凄まじいほどの反応の良さ。
「ここからはおいらに付き合ってもらうぜ?」
 以蔵、むしろ楽しそうだ。
「グオッ」
 睨みつけてくる騎馬鬼が問答無用に幅広の刀をぶん回してくる。以蔵はこれを回転良く三節根を操り受ける。少々受け損ねても、それはそれ。徐々に近寄って、狙うはただ一つ……。
「おら、倒れろっ!」
 空気撃。
 直撃転倒は逃したが、敵に大きな隙ができる。
「止めは一撃必殺の連々打!」
 しかし、これは敵が上手かった。
 なんと、敵の馬の後足が以蔵の乗る霊騎を攻撃したのだ。連々打は決まるが止めには至らない。
「鏡王!」
 たたらを踏む以蔵。ここで敵取り巻きの人馬鬼二騎も左右につけることになった。
「くっ」
 乱戦は棍の腕の見せ所とばかりに構え直す以蔵。
 と、ここで銃声。クロウだ。
 そして一気に以蔵の左の人馬鬼をシャムシールで切りつける。
「よし、狙え」
 そして右から山千が以蔵の前を通り過ぎた。その通り過ぎた影から先ほど痛めつけた騎馬鬼がいた。山千から馬の部分に攻撃を受け動きが一瞬止まっている。
「山千の兄貴、味なことするな、っと」
 再度、目にも留まらぬ素早さで棍を連続で打ち付ける。これで騎馬鬼がくたばった。
「よし、引こう」
 クロウは人馬鬼に止めを差し、踵を返していた。
「女騎士、引くぞ」
「言われなくても……。ええい、邪魔」
 アーシャは炎騎馬鬼の壁となっている人馬鬼を切り伏せ黙らせたが、肝心の親玉は引き始めている。取り巻きの二体の人馬鬼をアーシャにやられているためだ。そして大きな叫び声を上げ仲間を呼ぶ。
「アーシャ、潮時だ」
 ここで横から漸も駆けて来た。
「漸さんはどのくらい?」
「人馬鬼二体」
「やはり、炎騎馬鬼ってのが全体の指揮を取ってるな」
 新たにクロウも寄って来た。確かに、炎騎馬鬼の指揮で騎馬鬼も引いている。
 こうして新手がやって来る前に引き上げる五人だった。


 そして、先に行った中央偵察隊の三人は。
「おかしい。そんな……」
 望遠鏡で見て、念のために鏡弦索敵をしたアイシャが呆然としていた。
「観羅。どうだった?」
「本当にあそこが拠点か、香澄。六騎いるだけでもぬけの殻に近いぞ?」
 切れ長の目で主人を流し見て、観羅が難しい顔をする。
「どういうことでしょうねぃ?」
 光が首を捻ったところで、背後から敵の雄叫びが響くのだった。これに反応し、拠点と思われた場所の六騎が出てくる。――三人のいる方へ。
「ここは通さないですねぃ!」
 左腕のガードを防盾術で固め、潜伏場所から出る光。見事に不意打ちとなって平突が人馬鬼に綺麗に入る。
「光さん、引きましょう」
 アーシャが後方からの一矢で仕留めると、光も冷静になった。数的不利は変わらない。敵の残りの一部が光に向き直る。
「ここは通さないよっ」
 今度は光の影から香澄が出て呪縛符。絡む式に「罠か」と完全に足を止める人馬鬼。
「今のうちに引きましょう」
「僕が殿を務めますねぃ」
 アーシャの声についに引き始めた光。逃げながら枝を切り牽制しながら、危ない場面から無事に退却するのだった。

「奴らはもしかしたら、常に餌となる小動物を求めて動いているのかもな」
 屯営に無事全員が戻ると、珈琲を飲みながらロックがそうまとめた。彼も敵と遭遇したが、紅風馬軍二騎を引き連れていたため盾で庇いつつ殿に立って撤退したという。
「ただ。やっぱり二カ所目の拠点は左よりの集落側――つまり、西側にもあったよ」
「右より――つまり、東側には集結しそうな場所はなかったな」
 凪沙の報告にロックが続けた。
「分かりました、ありがとう。これから周囲の防衛も含め、作戦を練ります。できればもう遭遇戦ではなく、決戦をしたいですね」
 開拓者の偵察結果に、決意を固める瞬膳だった。
 敵は、騎馬鬼一体、人馬鬼六体を倒している。