【緑野】燃えよ開拓者!
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/11/09 19:37



■オープニング本文

 武天南方の伊織の里が危機に晒された「【武炎】武州の戦い」は、大アヤカシ「大粘泥『瘴海』」の撃破など攻め寄せてくるアヤカシを撃退し終結した。
 しかし、土地周辺は甲虫アヤカシの群れに荒らされるだけ荒らされ、民の心の落胆とした心情と合わせ爪痕は大きい。
「まあ、アヤカシがいなくなってこれから怯えることもなくなるのだから」
 民はそう声を掛け合い顔を上げ、生活を取り戻すべく汗を流している。最後には雨の降る深夜に泥沼の戦いを繰り広げた開拓者にとっては、自らの守りぬいたものである。
 さりとて、これでアヤカシの恐怖に怯えなくてすむというわけにはいかない。
 少なくとも、元凶なる「魔の森」がそこに残っているのであるから。
 武天の巨勢王、朱藩の興志王の間ですでに相談が終わり軍の派遣も決まった「魔の森焼き払い」作戦の始まりである。

 場所は、神楽の都の開拓者ギルド。
「おい。すまねぇが、この依頼に俺を同行させてくんねぇかな」
 貸本絵師の下駄路 某吾(iz0163)がギルドの受付をつかまえて無理を言っていた。
「また貴方ですか。一般人が依頼に付いて行くのは危険で本来すべきことではないと今までも‥‥」
「すまんが、ぜひ頼む。‥‥どうしても、開拓者の仕事として広く伝えてぇんだ」
 やれやれと依頼書に目を落とす受付。そして意外な顔をした。
「これ、魔の森の焼き払い依頼じゃないですか‥‥。この仕事は、貴方たちや一般読者が喜ぶような派手な戦闘や殺陣なんかはありませんよ?」
「だから伝えなくちゃならねぇんだよ。‥‥お前さん、勘違いしてるようだが、俺たちが売ってんのは心だ。物語だ。ただ単に斬った張ったってモンを伝えてんじゃねぇんだよ」
 ずずいと暑苦しい顔を寄せて力説する下駄路。
「まあ確かに、この依頼の重要性を理解してもらえる人物だと分かったからいいんですがね」
 ふふん、と目つきを変える担当者。
「‥‥いいでしょう。貴方の同行を認めます」
「いよっし。アンタ、話せるいい担当者だねぇ。‥‥見てろ。俺がギルドの報告書とは別に、土地再生の物語として、その序章を広く一般化資本読者に伝えるからな」
 願わくは、人生捨て鉢になってるような落ち込んでる人にもう一度やり直せる勇気を与えるような連作物にしてぇとかつぶやく下駄路。ここで、ふと気付く。
「‥‥まさか、焼き払って、はいお終い、ってこたぁねぇだろうな」
「ええ。焼き払いは瘴気に晒された木々などをいったん無にするという意味があります。結果として開墾するのと同じことですので、何か土地利用してはどうかという案もあるようですね。この区画では牧場を新たに作ってはどうかという案もありますが‥‥」
「いや、そこまででいい。未来があるって分かってんなら、やりがいもあるってもんだぜ。なんなら、俺が定点観測してやってもいい」
 ともかく、下駄路は依頼同行の許可を取るのだった。

 その依頼は、計画に上がっている魔の森東部の一区画の焼き払い。
 開拓者に求められているのは、小川や広間、獣道などで木々のない区画境界線の、特に木々の密度が高いところの伐採。地味な作業であるが、これを怠ると火勢のコントロールを失敗し大山火事に発展し、隣接する魔の森ではない森も燃やしてしまう恐れがあるため。国土財産の消失を意味するため、武天・朱藩両軍とも細心の注意を払って一区画ずつ丁寧に焼き払っていく予定だ。とはいえ、あまりに広大なので人員が不足し開拓者も動員されている。

「ギルドとしては、アーマーやジライヤ、土偶や鷲獅鳥といったパワーのある朋友を使って作業するのが一番効率的だと考えています。ギルドにある予備の重曹を大量に現場投入するので、練力が切れても連続運用が可能なはずです」
「ほう。それなら絵にもなるな」
「ただし、火入れ前に火を使って焼くのだけは厳禁です。作業員が散ってますし、なにより山火事は恐ろしいものですから」

 ともかく、朋友を使って土木作業のできる人材、求ム。


■参加者一覧
朝比奈 空(ia0086
21歳・女・魔
巴 渓(ia1334
25歳・女・泰
瀧鷲 漸(ia8176
25歳・女・サ
村雨 紫狼(ia9073
27歳・男・サ
ウィンストン・エリニー(ib0024
45歳・男・騎
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
風和 律(ib0749
21歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎
Kyrie(ib5916
23歳・男・陰
煌星 珊瑚(ib7518
20歳・女・陰


■リプレイ本文


 武炎。伊織の里から南西の、魔の森にて。
「お、来た来た」
 現地で地図とにらめっこしていた武天軍の関係者が今到着した集団を振り返った。
「さあて、ククル。とにかく、邪魔な木を倒していくよ」
「グァ!」
 ざ、と立ち止まり長い黒髪を後ろに跳ねる女性は、煌星 珊瑚(ib7518)。堂々とした姿に揺れる胸、生き生き光る瞳は見る者に頼もしさを感じさせる。連れた鷲獅鳥「ククル」も堂々とした姿で付き従う。
「魔の森をばっさばっさと斬りはらい開墾。まさに開拓者の出番なのです‥‥ニンジャの力で、魔の森だって田んぼや畑なんだからっ!」
「そういうこったな。駆鎧使用者は作業区域がダブらんようやるぜ!」
 華やかに拳を突き上げるルンルン・パムポップン(ib0234)に、腰溜めに拳を握る巴 渓
ia1334)。気合い十分勢い十分の賑やかさ。
 そして。
「はいーっ! そういう事でっ、第一回! チキチキ! 魔の森伐採で有効活用すんぞ大作戦ーっ!」
『どんどんぱふぱふーなのです☆』
 村雨 紫狼(ia9073)とその相方のらぶりーきゅ〜と☆な土偶ゴーレム「ミーア」が息もピッタリに両脇から大回りして前に出て、どか〜んとご挨拶。
「しっかしさーこの仕事、ミーアがどうしても出たいからって俺に内緒で受けちまったんだよー」
『受けちまったのですー☆』
「あーもう、こんな陰気くせー木じゃなくて太陽の様な明るい幼女と戯れてーんだよおおお俺はーーっ!!」
『戯れてーんだよーなのですー』
 いきなり始まる「村雨新喜劇」に、ざわ‥‥とどよめく現地隊。
「あーもうヤケ気味にテンションあげんぞコラアアー!!」
『でも働くのはミーアなのです〜』
「‥‥ちょっとすまない。前に出るよ」
 まだ続くコンビ漫才の真ん中を割り、くしゃくしゃを髪の毛をかきながら風和 律(ib0749)が出てきた。
「とにかく、各自担当区を分けての伐採作業を行うのでよろしく」
「地図があれば手帳に写しを記載し自分の個所や仲間達の担当区域などを記録しますが」
 落ち着いて挨拶する律に並び、アナス・ディアズイ(ib5668)も計画的な話をする。
 さらに二人が前に出る。
「『魔の森』が残って居るが故に未だ心休まらぬ民が多かろう」
「とても重要な任務ですね。しっかり務めましょう。いいですね、ザジ」
 赤茶色でオールバックの髪、そして同色の髭と味のある表情が人生の経験を物語っているウィンストン・エリニー(ib0024)と、貴族然とした端正な容貌、穏やかな物腰の成年、Kyrie(ib5916)(以下、キリエ)である。キリエは、土偶ゴーレム「†Za≠ZiE†」(以下、ザジ)を連れている。キリエに呼び掛けられ、彼のしそうな貴族然とした礼をする。
「おお、頼むよ。あんたら」
 現地員の期待の声は、主にこちらの集団に掛けられたり。
「‥‥あんたは、どっちかというと賑やか派かい? それとも穏やか派?」
 下駄路 某吾(iz0163)がこの四人の後ろで振り向いた。
 そこには瀧鷲 漸(ia8176)がいた。
「どうだろうな。‥‥なんとも地味な作業だが‥‥まぁ、さくさくやっていくさ」
 漸は微笑し、相棒の鷲獅鳥「ゲヘナグリュプス」を撫でてやるのだった。
「端から見れば地味な作業かもしれませんが‥‥。何事もこういう下準備が一番大切ですしね」
 つつ、と寄ってきた朝比奈 空(ia0086)も穏やかに言う。隣には朋友の鷲獅鳥「黒煉」が寄り添う。
「まさかこういう目的で連れて来ることになるとは思いませんでしたが」
 どう思っているのだろうと黒煉を見る。信頼関係を築くまでにいろいろあったことが、黒煉の右目の傷跡から伺える。ふふ、と空が微笑した。機嫌が悪いわけではなさそうだ。
「お、そうだ。せっかくグリフォンが三体もいるんだ、ちょいと並んだところを描きてぇな」
「おい、下駄の字よ。アーマーがこれだけの数が集まるのも、そうそうはない事だぜ?」
 下駄路が言ったところで渓が気付き声を掛けるのだった。

 そして担当地区を決め、それぞれ現地に向かうのだった。


 まずは、比較的広い場所目立つ境界線地区にグリフォンを連れたメンバーが割り振られた。
 漸は、ゲヘナグリュプスに乗ってまずは空の上。
「下からではわからないこともあるだろうしな」
 ゲヘナグリュプスも深紅と黒に覆われ体を大きく使って羽ばたき気持ち良さそうだ。
「よし、あそこからだ」
 自分の区画を確認し、着陸を指示するのだった。
「さて、腕が鳴るな」
 地上に降り立ち手にするは、鍛えに鍛えた自慢の武器、斧槍「ヴィルヘルム」。トップヘビーで凄まじい破壊力を発揮するが、扱いは非常に難しい。
「行くぞ」
 踏み締めた足が大地にめり込む。
 くびれた腰をわずかに捻り、腕力で螺旋を描く槍先の斧。爆乳が揺れ風を巻き込み今、大上段へ。同時に左足を前に出し、体重移動と共に間合いを詰める。それが一瞬の動作で。全ての動きが一点へと集中する、鍛え抜いた動き。
「斬る!」
――ドガッ!
 これが人なら、左肩口から一気に食い込んでいただろう。
「さすが大木だな」
 一刀両断とはいかない。いや、ここまで切り込めるのは驚異的ではある。
「竹とは違うな‥‥ふんっ!」
 言うと同時に一回転。
 回転切りで逆から叩き込み、今度はべきべきと張り出していた木を切り倒すのだった。
「次はあれか」
 太い。今の木とは比べ物にならない。
 漸は不敵に笑うと鬼腕と破軍を使う準備をするのだった。
 そして別の木。ゲヘナグリュプスの声も響く。暴嵐突だ。
――めしり。
 スマッシュクロウで幹を狙った上、体重を乗せる。これで樹木をねじ伏せた。

 別の場所では、白鳥羽織をなびかせ精霊の羽衣を纏ったまま足を上品に足を畳み腰を落としていた空の姿があった。
「ウィンドカッターひとつで伐採できるほど甘くはないですか」
 空、腰を上げる。根元付近はもちろん太いこともある。
「これではどうでしょう?」
 さらりと言って、今度は精霊砲をど派手にぶっ放つ。
 めしりと傾き、伐採すべき樹木はゆっくりと倒れた。
「練力の燃費が不安ですね。トルネード・キリクは大雑把過ぎますし」
 確かに複数狙えるが、都合良くいかない。
 ふう、と溜息を付くもまたも腰を落としウィンドカッター。やはり一撃ではすまない。
 ここで、大人しくしていた大きな図体が動いた。
「黒煉」
 相棒の黒煉が、空の狙った木に向かってダッシュし飛び掛ったのだ。
 ばきり、という鈍い音がしたかと思うと、ウィンドカッターの切れ込みから見事、パワーと体重で倒しきった。
 そして、無言できっと振り返る黒煉。得意げだ。
 烏羽色の美しい毛並みと優美な外見を持つが、戦ともなれば半端な相手であれば蹂躙してしまう程の力強さがある。
「そうですね。一緒に」
 相棒の働きっぷりに笑みを浮かべる空だった。

 また、場所は変わる。
 ばさーっ、と木が倒れた。
「よし、ククル。どんどん行くよ!」
 珊瑚が短く黒いスカートの裾をひらめかせ「はっ」と倒木を乗り越えて行く。横からは朋友のククルが回り込み珊瑚にぴたりと付いている。
「次はあれ!」
 ざざっ、と立ち止まり詠唱一発。黒死符が斬撃符となり木の幹にざくりと深い傷を付ける。間髪入れずククルがバイトアタックで飛び掛り、鋭い嘴で突きまくり、またばさーっと木が倒れる。
「さあ‥‥」
 次、と走り出した珊瑚がぴたっと止まる。
 ふと周りを見る。
 自分一人。
 ふふっ、と笑った。
「いつもなら『ほら、あんたたちも、サボってないでさっさとやる!』とか言ってるかも」
 珊瑚はアネゴ肌である。
 慕って来る者と力を合わせさまざまなことをした。こういう地味な作業だともう、サボるのがいて注意するのも彼女の役目だったり。
『クルル?』
 よく懐いているククルは心配そうに振り向き、甘えている時のような声を出している。
「大丈夫。‥‥さあ。あたしらだって、負けてらんないよ!」
 もちろん、頑張る仲間もいた。そんな思い出――いや、今別の場所で頑張っている仲間を思い描き、また走り出した。もちろんククルも嬉しそうに続く。
「よし、いいよククル。頑張れ!」
 森に、元気のいい声が響き渡る。


 駆鎧組はどうだろう。
「やっぱ、装備がそれっぽいよなぁ」
 下駄路が感心しながら絵筆を動かしている。
 目の前では駆鎧「ゴールヌイ」が働いている。
 唸る起動音。
 宝珠の力で回転するチェーンソーの一撃が太い幹を深々とえぐっているのだ。
 と、ここで動きが止まった。
 胸部のハッチが開くと、長い金髪をかき上げながら細面の女性が赤い服に身を包んだ姿で出てきた。
 アナスである。
「次で倒します。そちらには行かないですが、気をつけてください」
「おお。丁寧にありがとな」
 手を振って返事をする下駄路。
 アナスは淡く笑みを作るとまた搭乗し、今度は止めることなく一気にバッサリと伐採した。
「ん?」
 この時、アナスはゴールヌイのシールド「グラン」を構えさせた。改めて周囲を見る。
「‥‥気のせいですね、きっと」
 何か森の奥で動いたような気がしたのだ。
 外には一般人の下駄路がいる。
「アヤカシであれば、アーマースラッシュで‥‥」
 操縦桿を握りなおし作業に戻る。引き続き、警戒は怠らない。

「出ろおおおおっ! カイザァァッ!」
 雄叫び響くは、渓の担当地区。
 渓の展開したアーマーケースから、真紅の巨体が姿を現す。
 これが、彼女の駆鎧「カイザーバトルシャイン」。名前のごとく、すでに何度も戦地を潜り抜けてきている。
 それが、伐採の現場に。
「剣道の巻き藁斬りじゃあないが、アーマーでの武器戦闘のいい訓練になる。まとめてぶった斬ってやるぜ」
 がしん、と一歩目。そしてだんだん速度が上がるぞッ!
「カイザァァァトマホゥゥクッ!」
 響く雄叫び、唸るギガントアックス。
 どっしゃーっ、と倒れる邪魔な樹木。
「お、下駄の字が来てるな。ほかに一般人はいねぇ、と」
 絵師の存在に気付き、周囲の安全確認をすると右目を細めた。一体何をする?
「コイツを試してみるか‥‥望み通り、馬車馬の様に働いてやるんだ」
 この程度のサービスはな、と武器を構えて攻撃姿勢を整え、練力を限界まで充填する。
 そして次の瞬間。
「はあああーっ! カイザアァァァシャアァァアインッ!! シャイイイインクラァァッシュッ!!」
 叫ぶ気合いは破壊力。城門突破の極意はゲートクラッシュだっ。
――ずずぅん。
「やるなぁ」
 下駄路、振り抜いたバトルシャインの背中になびくマントと倒れた木を見つつ、目を見張るのだった。

 場面は戻って、アナス。
 駆鎧から出て、練力補給に梵露丸をかじっている。
「空さんの言ってたように効率は悪いですが‥‥」
 ここで、竹筒に入った水を飲む。
「キリエさんにいただいた氷水がおいしいですね」
 駆鎧の中での作業は暑くなるようで、にっこりとキリエの心遣いに感謝するのだった。


 その、キリエ。
「私が率先してここを担当したので、随分全体の効率が上がるはずです」
 地図を見て、狭くて日陰になりがちな場所に立候補した。
「大型朋友では、ここは苦しいでしょう」
 やたら狭く、根が十分張ってないので足場が悪い。そこを踏破していく。
「ザジ、ちょっと単独で頑張っていてください」
 キリエは手斧を下ろし、今やって来た下駄路の方に歩いた。土偶ゴーレムのザジは引き続き、獣斧で頑張っている。小型でパワーがある分、太くない木が邪魔になっているこの地区で光る活躍を見せている。
「下駄路さん、ほかはどうです? けが人などは?」
「ああ、みんな頑張ってるよ。‥‥そうそう。あんたが用意した氷水、みんな重宝してるぜ?」
 この言葉に思わず笑みを漏らすキリエ。
「それじゃ、まだ量がいるかもしれないですね。直接行って氷霊結を使ってきましょう」
 ザジに現場を任せ、普段は着ることのない作業用ツナギ姿で軽やかに巡回に出るのだった。

 さて、土偶ゴーレムはもう一体いる。
「あいててて」
『どうしたのですか? マスター』
 紫狼が腰を押さえているのを見て、こだわり人型の土偶「ミーア」が心配そうにしている。
「いやさ、ちょっと前にガチバトルな依頼受けてな〜。後はまかせた〜」
『はーい! みんなのアイドル、ドグーロイドのミーアなのです☆ マスターが早々に飽きてダラダラしてるので、ここからはミーアのターンなのです!!』
 ああ、「俺に構わず先に行け!」な紫狼からゴーサインを貰ってミーアの独り舞台だ。
 そして、すちゃりとドリルを構えるッ!
『ふふふーなのです!』

♪螺旋の力が刻まれた ミーアの魂ことドリル
 今日も火花を散らすのです!
 ギガってドリルでくるるんるん♪(ハイ)
 ドリドリブレイクするのです!
 燃料の心配ないのです
 存分にドリドリするのですっ!
 ミーアがドリルでドリるんるん♪(ヘイ)‥‥

 まあ、なんということでしょう。
 ドリルの起動音と口ずさむ歌と共に、行く手を阻む邪魔な木がどんどんぐずぐずになって倒されているではありませんか。
 
♪そうです時代は今ドリル ドリルがブームなのですっですっ‥‥

 これが、自称アイドルのラブソングっ!


 賑やかなのはそこだけではない。
――ぐばあ。
 静かな森に、一体の駆鎧が立ち上がった。
「空賊仕様の2号機、ニンジャカスタム。これがニンジャアーマー『影忍』なんだからっ」
 ルンルンが操縦席で一人、盛り上がっているぞ。
「あ!」
 ここで動きが停止した。
 がぱっ、と操縦席を開けて身を乗り出すと、ぶんぶん手を振る。
「よ、やってるな」
 下駄路がここに来たのだ。
「下駄路さん、見てください見てください‥‥変化X2ポチッとな、でドリル装備なんですよ。更にニンジャートマホークで、魔の森の木だってバッサリなんだからっ」
「おおっ! やっぱりドリルはいいし、武器はトマホークだよなぁ」
 きゃいきゃいと操縦席を開けたまま操作し武器を見せて、にっこり笑顔のルンルン。どうも下駄路もこういう漢装備は大好きのようで、一緒に盛り上がるのだった。
「それじゃ、ヘイヘイほーしちゃいますね」
 と、ウインクして再搭乗するルンルン。
 果たして。
「えーい、ニンジャートマホーク!」
「きーが倒れるぞーって、こっち?」
「‥‥とか言ってただろ、絶対」
「えへへ♪」
「とりあえず、神風恩寵をしておきます」
 どうやらスマッシュで倒した木が影忍に直撃し、ルンルンは衝撃でおでこを打った様子。
 出てきたところに、下駄路から操縦席内のルンルンの様子を言い当てられ、ちょうどやって来たキリエに回復してもらっていたり。
「でも、まだ休めないんだからっ!」
 ひと段落つくと、再び駆け出し影忍に搭乗する。
「しつこい根っこも根こそぎ退治、ニンジャービジョンでいつもより多く回してるんだからっ!」
 ドリドリとドリルで切り株すら返す働きを見せるのだった。

 もちろん、比較的静かな場所も。
 ばがっ、と駆鎧「アダマンタイト」の前装甲が開き、律が姿を現した。
「アーマーの使用は練力の問題もあるし、伐採を行う範囲次第では途中で力尽きかねないな」
 すとんと地に下りると、搭乗時に纏めておいた黒髪をばさーっと解きながら歩きロングソード「クリスタルマスター」を抜き放つ。
「こいつは、特に太いしな」
 足を踏みこんでソードを両手で抱える。そして振り下ろし、がしり、がしりと切り込みを深くする。
(今回の依頼は、都合がいい)
 内心、そんなことを思う。
(‥‥いつまでも自分の力を全て使うことから目を背けているわけにもいかないが、迷ったまま危地へ挑むのもな)
 何があったか不明だが、とにかく作業に集中する。飛び散る汗。
「よし。いくら巨木といっても、これでいいだろう」
 髪をまたまとめて駆鎧に乗ると、アーマーの剣で更に深く斬り込んでいく。それだけ厄介な巨木であり、開拓者が動員される理由を肌で感じるのだった。
「後は‥‥」
――ずずぅん。
 迫激突の勢いで一気に倒した。
「あ」
 ここで、気付く。
「あれ、枝打ちかい?」
 下駄路が来た時、枝打ち作業をしている律にそう聞いた。
「ああ。飛び火を防ぐなら、倒すかどうか迷う場所はこれでもかなり効果があるはずだ」
「なるほど。こいつぁ、確かに」
 微妙な場所に限っては、うまい手である。

 さらに別の場所。
「近隣関係の王が即決したのは勇断であるな」
 駆鎧「バルバロッサ」の操縦席で、ウィンストンが満足そうな笑みを浮かべていた。
 担当地区へ散らばる前、国王直属の現場責任者に「何にせよ、力を揮うて尽くす機会が得られたのは幸いであるな」と頭を垂れ礼儀正しく挨拶した礼節の男である。
「オレ自身も参加した戦いの後始末、手伝うのも当然の事」
 ギガントアックスを振り抜いた。幹にめり込む。
「それに伐採作業ならば乗機たるアーマー『バルバロッサ』の出番であるしな」
 渋い髭笑みを見せてから、一気に腰を落とし肩から体重を乗せた体当たりをぶちかます。
 めきめき、と音を立てて邪魔な大樹は倒れた。
「一気に叩きつけて幹を倒せぬなら、こういう手もある」
 先ほどまでの細いものは一気に叩きつけて倒していた。駄目なら駄目で手があるとばかりに、筋肉質で背の高い大男らしい、豪快なところを見せ付けた。
「しかし、問題は練力‥‥ん?」
 倒れた木を端に寄せつつ心配を口にしたところで、やって来た下駄路に気付いた。
「おお、どうした?」
「律のあねさんが言ってたが、微妙なところは枝打ちでも十分飛び火防止になるってさ」
 さらに太い巨木が微妙な位置に立っているのを見て、下駄路が言う。
「なるほどな。応援を呼ぼうとも思ったが‥‥」
 腕が鳴る、と大剣「ヴォストーク」を手に枝打ちに出るのだった。


 作業は無事、日暮れまでに終わった。
「よ、お疲れさん。温泉宿でゆっくり休んでってくれって話だぜ?」
 下駄路が用意された温泉宿まで開拓者を連れて行く。
「一緒には入れませんが、良くやってくれました」
 空はそう言ってにっこりと黒煉を労う。
『ぐりふぉんさんたちカッコいいのですー。ミーアも空が飛びたいのです〜』
『‥‥』
 ミーアはそんなことを言うが、同じ土偶ゴーレムのザジは黙したまま。土偶にもいろいろ性格はある。

 そして、温泉。
 もちろん男女別々だ。
「よう、下駄の字。次はアーマー同士の模擬戦依頼でも受けたいな」
 露天の女湯から男湯に対して、声を張って強引に会話するのは渓だ。
「跡地がアーマー基地になりゃ、やりやすいなぁ」
 笑って返す下駄路。
「土地が浄化できたら砦などの防御施設つきの畑にするのもいいかもしれません」
 アナスがほっこりまったりしながら渓に話す。
「土地は牧場か農地がいいでしょう。人が集まる様になれば素晴らしいですね」
 こちらは男湯。キリエが下駄路にそんなことを。
「まぁ、妥当な線では牧場あたりじゃないか。河もあるしな。普通の森にもしてみたいところだな」
 再び女湯では、しっかり肌に湯をなじませながら漬かる漸が気分良さそうに。
「あ、そうだ」
 ここでルンルンが湯から上がる。
 そして、女湯と男湯を仕切る岩壁にんしょ、とよじ登ると顔だけ出して下駄路に何か投げた。
「おい!」
「じゃーん。それ下駄路さんです!」
 慌てる男性陣をよそに、休憩時間に伐採した木で彫った彫刻を投げるルンルン。影忍に乗ったまま彫ろうとして無理だったのは内緒だ。
「てか、こりゃ何持ってんだ?」
「おにぎりです」
 ああ、昼休憩の、と納得する下駄路。
「‥‥そういやあの区画、おにぎりのような巨石があったなぁ」
「あれか? オレ見た。‥‥森を焼いても、あれは残ろうな」
 下駄路のぼんやりしたつぶやき。ウィンストンが指摘する。
「目印になるな、俺たちの区画の」
 しみじみ言う下駄路。

 後日、問題なく計画的にその区画は焼き払われたという。
 巨石は焼き払い後にも残り「おにぎり岩」と名付けられた。