四つ辻の幽霊
マスター名:桜紫苑
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/08/10 00:14



■オープニング本文

●四つ辻の幽霊
 街の外れの四つ辻に、時折、幽霊が出るという。
 悲しそうな顔で佇む少女だったと目撃者は証言する。

 証言者その壱
「俺が見たのは月のない夜でよ。若い娘がこんな時間に何してんだと声をかけたら、人を探してるっ
て言うんだ。探し人なら俺が手伝ってやるぜって、肩に手ぇまわしたらボコボコにされちまった。チクショウめ! 人が親切で面倒見てやろうと思ったのによ!」

 証言者その弐
「あれは雨の降る夜だった。傘をさして立っている娘が気の毒でな。お嬢ちゃん、腹減ってねぇかって、つい声かけちまった。で、辻から少し先に行った所にある蕎麦屋の屋台で蕎麦食わしてやったんだ。食い終わって、事情を聞こうと思ったら、娘は消えちまっていたんだ。俺が丼を親爺に返した、ほんの一瞬の事だった」

 証言者その参
「私が見たのはお座敷の帰りだよ。店の者が提灯を持って足元を照らしていてくれたのさ。そうしたら、辻に女の子が立っているじゃないか。子供が出歩く時間じゃないよと言ったら、人を探してるって言うんでね。誰を探しているんだって聞いちまったんだよ。その子は懐から紙を取り出してねぇ。灯りといやあ、提灯の火だけだったから、よく見えなかったけど、子供の落書きみたいな似顔絵が描かれていたよ。知ってるかと尋ねられたから、知らないと答えたら、使えないって凄い剣幕で怒鳴られてねぇ。お座敷でおかあさんに頂いたお饅頭を差し出して、その子がそれを食べてる隙に逃げ出したんだよ」

 証言者その四
「あっしが見たのは、しくしく泣いてる娘でしたよ。何があったんだいと尋ねたら、探し人が見つからねぇって言うんで、そいつはどんな奴だと聞いたんでさ。したらね、語るわ語るわ、何でも降り注ぐ月の光のように穏やかで、太陽の光のように自分の進む道を照らしてくれて、えーと、あとなんだっけかな。あ、そうそう、気品に満ちて、芳しい薫りを身に纏い、この世のものとは思えぬ麗しい微笑みを湛えた御方だとかで。そんな奴ぁいねぇよって口を滑らせちまったら、この通り。身ぐるみ剥がされて、辻に転がされちまいましたよ」

●彼の自信
「そんな奴ぁ、いねぇいねぇ」
 開拓者ギルドに出された依頼を眺めていた男が、呆れ顔で手と首を振る。
「そうやって依頼状に向かって一人ツッコミする人も、滅多にいないわねぇ」
 ほほほほほ。
 笑う娘に男はぐっと拳を握ったあと、こほんと咳払った。
「ともかく、この四つ辻の追い剥ぎ幽霊の正体を暴いて、食い逃げの蕎麦代とか医者代とか払わせりゃいいんだな」
 任せろ、と男は腕を捲り上げてみせる。やる気は十分たが、と娘は溜息をついた。
「そのお気楽思考はどこから来るのかしらねぇ」
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
 んー?
 こりゃ駄目だ。
 娘は肩を竦めて首を振った。
「一緒に依頼を受ける人達に期待しとくわね、重さん」


■参加者一覧
楊 才華(ia0731
24歳・女・泰
虚祁 祀(ia0870
17歳・女・志
相馬 玄蕃助(ia0925
20歳・男・志
橘 天花(ia1196
15歳・女・巫
王禄丸(ia1236
34歳・男・シ
斉藤晃(ia3071
40歳・男・サ
伊予凪白鷺(ia3652
28歳・男・巫
菘(ia3918
16歳・女・サ


■リプレイ本文

●聞き込み
 四つ辻に出るという娘の話は、その近辺では結構な噂になっていたようだ。
 周辺の聞き込みに出たのはいいが、出るわ出るわ。書き留めていた帳面をぎっしりと埋め尽くす程の目撃談に菘(ia3918)はちょっと遠い目をして沈みかけた太陽を見つめた。
 得られた情報は、ギルドに届いた話と似通ったものばかり。
 彼女が着目したのは、幽霊少女の目撃時間と外見だ。共通点があるのか、ないのか。目撃談から、幽霊少女の像を洗い出せれば‥‥と思っていたのだが。
 とぼとぼと土手沿いの道を歩く菘。
 長く伸びた影が何やら寂しげだったから、励ましたかった‥‥というのは、後に語られた彼の言い分である。
「菘殿」
 掛けられた声に菘が振り返るよりも早く、ぺろんと、何かが彼女の体に触れた。‥‥ような気がした。
「‥‥何をしてるんだい、いきなり」
 菘が瞬きする間に認識出来たのは、近づいて来た大きな影、そして楊才華(ia0731)の足がしなやかに舞って、影が吹き飛ばされたことである。
「‥‥えーと、才華さん?」
 吹き飛んで行った影が相馬玄蕃助(ia0925)に似ていたのは、彼女の気のせいだろうか。
「犬に噛まれたとでも思っておおき。いいね」
 さりげなく(?)忘れるようにと言い聞かせて、才華は「あ」と額を押さえた。
「そうか。そうだね。気安く触れられたら、あたしも殴るか」
「い‥‥いや、小姐の場合は殴るより先に足が‥‥げふう」
 足下から聞こえて来た声を菘が確かめる前に、何かが力尽きて倒れ込んだ気配がした。「気にしなくていいから」と才華は言うが、気になる。そろりと首を回しかけて、菘は思わず瞬きを繰り返した。
「白鷺さん?」
「はい。‥‥才華さんは本当に面倒見のよいお方ですねぇ」
「そういうあんたも人の事は言えないだろ」
 ふふふと笑い合う2人の仲間の体に阻まれて、土手に倒れたものを確認する事は出来ない。白虎の被り物をつけた伊予凪白鷺(ia3652)と才華の顔を代わる代わる見比べて、菘は「ま、いっか」とあっさり諦めた。
 仲間達が知らなくていいと言うのだから、どうでもいい事なんだろう。
 生来の暢気さを遺憾なく発揮して、菘は倒れ伏した影の事を忘れたように問うた。
「皆さんは、何か有力な情報とかありましたか?」

●推理
「証言からすると「幽霊」の特徴は2つに分類出来るのよね。追い剥ぎをした幽霊と、物を食べた幽霊。人捜しって所は同じだけど反応が違うし」
 むぅと考え込んだ虚祁祀(ia0870)に、王禄丸(ia1236)も相槌を打つ。幽霊は複数いる、それが仲間内での見解だ。聞き込みに行っている者が得る情報にもよるがと、王禄丸は空を仰いだ。
 聞き込み中は相手を驚かせないようにと配慮して外していたが、今はいつも通りに牛の被り物をきっちりと着込んでいる。
「幽霊には幽霊の事情があるのだろうが、頼まれた以上、このまま見過ごすわけにはいかぬし」
「だからよー、幽霊と決まったわけじゃねぇだろ」
 やる気なさげに王禄丸の言葉に水を差した重に、橘 天花(ia1196)が目を丸くした。
「あれ、重さんは幽霊って信じてないんですか? わたくしはいるかもしれないって思っています。だってお祖母さまが‥‥」
 熱心に語る天花の頭を、重はいい子いい子と撫でた。
「んー、天花は素直な子だなぁ。飴玉やろか?」
「もう、重さんっ!」
 茶化した重に怒りながらも、天花は口の中に放り込まれた大玉の飴を転がす。それは、日中、幽霊の事を聞き歩いた疲れを吹き飛ばしてくれるように甘かった。
 こほんと咳払って、祀は再び情報収集の結果の報告に戻る。
「ともかく、幽霊子(仮名)についての証言はバラバラ。もしかすると、誰かの気を引き、自分のに声をかけさせようとするのと、「幽霊の仕業」という事にするため、だったりして」
「せんせー、霊子ちゃん(仮名)が偽装工作する理由は何ですかー?」
 手を挙げて、やっぱりやる気無さげに問うて来た重の顔に、昼間の聞き込みの時に貰ったタマネギがめり込んだ。
「サボっていた重は黙って聞いていて下さいネ」
「‥‥祀さん、駄目ですよー。重さんの唯一のいい所って顔「だけ」なんですからぁ」
 倒れた重を助け起こした天花の抗議に、祀はにっこり笑って頷く。
「重クンは、次の依頼では、それ以外の長所を伸ばしましょうねっ! で! それぞれ共通点のある証言壱と四、証言弐と参の幽霊子(仮名)は、別幽霊なんじゃないかしら」
「弐の蕎麦屋の親爺から聞いた話では、幽霊子(仮名)はここ一月、二月のうちに現れるようになったらしい。という事は、だ」
 王禄丸の言葉に、祀の目がきらんと輝く。
「幽霊子(仮名)は、二月前辺りに何かがあった、もしくはこの近辺にやって来た幽霊というわけね」
「どうでもいいんですけどー、呼び名は幽霊子(仮名)で決定ですかー」
 重の本当にどうでもいいツッコミは華麗に流された。
「参の証言者のお方にお会いしてきましたよ」
「白鷺さん」
 仲間達の姿を見つけて、顔を綻ばせた天花に白鷺は丁寧に懐紙に包まれた干菓子を渡す。
「はい、お土産です。祀さんと分けて下さいね」
「わぁ! ありがとうございます! あ、でも皆さんは?」
「私達も頂きました〜」
 同じように懐紙に包まれた菓子を見せた菘に、天花は安心したように笑って祀の元に駆け寄った。
「で、参の証言者だけど」
「小股の切れ上がった良い女であった。昼間の訪問であった故、普通の着物姿であったが、島田を結った裾引き姿はさぞや‥‥」
 語り出した玄蕃助の肩に、才華はとんと煙管を乗せた。火皿からうっすらと立ち上る煙。
 たらりと玄蕃助の額から汗が滴り落ちる。
「代わりに私が。その芸妓さんのお話では、幽霊子(仮名)様はお座敷でも噂になっていたらしいのです。四つ辻の幽霊に食べ物をお供えすると襲われないと聞いていたのを思い出して、頂いたお饅頭を差し出されたとか」
 白鷺の言葉に、仲良く干菓子を食べていた祀と天花が「え」と顔を上げた。その様子に、菘も頷いてみせる。
「私が聞いて来たお話の中にも、お供え物の話がいくつかありました」
 王禄丸と祀は顔を見合わせた。
「となると」
「幽霊子(仮名)が複数いるという線が消えるって事さ」
 ふぅと煙草の煙を吐き出した才華は、考え込むように噂の四つ辻を見つめた。
 短い間にこれほど噂が広がっているのだ。あの辻に、今夜も幽霊子(仮名)が現れる可能性は高い。
「で、結局、幽霊子(仮名)で決定なの? ねえ?」
 重の肩に手を置くと、王禄丸は静かに首を振った。

●四つ辻の幽霊
「ひっく‥‥匂いつけのつもりやったが、ちぃっとばかし飲み過ぎたかの」
 斉藤晃(ia3071)は、些かふらつく足に苦笑した。いざと言う時に体が動かなかったのでは、色々とマズイ。
「ま、他の奴らもおるし、ええか」
 完全に気配を消しているが、仲間達はそれぞれに分かれて身を潜めているはずだ。何かあれば、飛び出してくるに違いない。
「しぃかし、いったいどういうこっちゃ。おらんなったっちゅう娘の話は、これっぽっちも出て来なんだし。まさかホンマモンの幽霊て事はあらへんの‥‥」
 晃の言葉が途中で途切れた。
 いつの間に現れたのか、四つ辻の真ん中で娘がぼぉと佇んでいたのだ。
 ごくり、晃の喉が鳴る。
 今の今まで、確かに誰もいなかった。にも関わらず、唐突に娘は現れた。
 別角度から見ていた者達は、何を目撃したのだろう?
 今すぐにでも聞いてみたい気がしたが、自分には、それよりも先にやらねばならない事がある。
 千鳥足で、晃は娘に近づいた。年の頃は十を少し過ぎたぐらいだろうか。まだ子供と言って差し支えない。
「嬢ちゃん、どないかしたんか、こんなトコで」
 肩に置こうとしたその手が、すかっと空を切る。
 え、と思ったのも束の間、娘の体は晃の足下にしゃがみ込んでしまっていた。
「ど、どない‥‥」
 さすがに驚いて、晃は娘の顔を覗き込んだ。
「どないかしたんや? 腹でも痛ぅなったか?」
 ふるふると娘は首を振る。
 そういえば、と晃はふと思った。
 確認にかこつけてべたべた触ってやろうと考えていたのだが、すっかり頭から抜け落ちていた。
 ――でも、こげな子供を触りまくったら、わし、ただの変態やんけ。
 という事は、肩に手を回したという証言者その壱は、幼女趣‥‥いや、親切心だと思っておこう。
 自分をそう納得させて、晃は蹲った娘の顔をもっと良く見ようと自分もしゃがみ込む。
「何かあったんか? おっちゃんに話せん事か?」
 娘は、もう一度頭を振った。
「‥‥違う」
「そやったら、おっちゃんに話してくれんか?」
 娘はしばらく黙り込んだ。
 沈黙が続く。
 恐らく、周囲に潜んでいる仲間達も息を詰めて成り行きを見守っているだろう。
 晃は娘の頭に手を置いた。そのままがしがしと乱暴に髪を掻き回す。
「なんや知らんけどな、ガキがいっちょまえに悩むなや? おっちゃん、お前の倍以上生きとるんや。ガキの頭では思いつかんことやって、おっちゃんやったら、すぐ解決や!」
 そんな大きな事を言っていいのか。
 隠れている仲間達から、無言の圧力が掛かって来ている気がする。だが、そんなものを気にしたりするような細い神経は持ち合わせていない。
「ほれ、おっちゃんに言うてみい!」
 娘から漏れた小さな声に、晃は口をひん曲げた。
「なんや、蚊の鳴くよな声やの。もっと大きな声で言わんかい」
 自分の事は棚上げして、もう一度、娘を促す。
「‥‥お腹すいた‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
 晃の動きが止まる。囮役に入る前、仲間から言われていた事を思い出したのだ。
 いわく「四つ辻の幽霊に食べ物をお供えすると襲われない」。それで、一応は用意したはずだ。確か。
「そ、そや、おっちゃん、田楽を‥‥」
 娘が顔を上げた。期待に満ちたその表情にほっとしつつ、晃は手に提げていたはずの包みを探す。
「ん?」
 だが、包みはどこにもない。
「あー、そういえば」
 ぽん、と彼は手を打った。
「さっき小腹がすいて食うたわ」
 その一言で、娘が纏う気配が変化した。
 殺気、殺気、‥‥殺気。
 ぎらりと向けられた目。全身から沸き立つような湯気の幻さえ見えるようだ。
「す、すまんかったなぁ。そや、近くに蕎麦屋が‥‥」
「晃さん、危ないです!」
 どこからか聞こえる切羽詰まった娘の声。それが、辻に隠れている菘のものだと晃が気付く前に、彼の顎を娘の拳が捉えていた。
「おおっ! あれは島を繋ぐ虹から啓示を得て編み出されたという、勝利を掴む伝説の虹の拳!!」
「そんな事はどうでもいいの! 行きましょうっ!」
 解説を始めた重にびしりとツッコミを入れて、祀が飛び出した。
 ほぼ同時に、辻を封鎖する為に身を潜めていた仲間達も飛び出して来る。
「ここは行き止まりだ!」
 逃げ道を塞いだ菘に、娘は一瞬、怯んだ。その背後にも両手を広げた天花が立つ。
「それがし、刀は抜きとうござらぬが、これ以上、抵抗するとなれば‥‥」
 刀の柄に手を掛けた玄蕃助に、娘は懐から短刀を取り出した。開拓者達の間に緊張が走る。間合いを詰める玄蕃助に、娘も殺気を漲らせて短刀を構えた。
 と、その時。
「悪いね」
 玄蕃助が娘の気を引きつけている間に、背後から近づいた才華がその首筋へと手刀を叩きつける‥‥はずだった。
「え!?」
 しかし、才華の手刀が落ちるより早く、娘は身を沈めて真横へと転がる。
「この動き‥‥やっぱり志体持ち!?」
 祀の声に反応したのか、娘は殺気立った視線を巡らせた。祀が珠刀の鞘を払うと同時に、娘が間合いを詰めて来る。
「祀!」
 咄嗟に間に入る王禄丸と重。
 だが、その途端、娘はぴたりと動きを止めてしまった。
「?」
 急に動かなくなった娘に、開拓者達は互いを見合う。もちろん、警戒は解かぬままに。
「‥‥牛‥‥」
「「は?」」
 娘の退路を断つべく距離を詰めていた才華と玄蕃助は、聞こえて来た呟きに眉を寄せた。
「牛‥‥肉‥‥」
「え」
 今度ははっきりと聞こえて来た言葉に、背筋に冷たい物が走ったのは王禄丸。
「‥‥肉‥‥」
 じゅるりと涎を啜る音は幻聴か。幻聴だといい。
 だが、じりと後退った王禄丸から娘の視線は離れない。
「い、いや、俺は」
「牛ーーーーッ!!」
 短刀を振り上げ、嬉々として襲い掛かった娘に慌てたのは開拓者達だ。
 仲間が!
 仲間が狩られる!!
「ちょっ、そいつは人間だよッ!」
「食べちゃ駄目、食べちゃ駄目ですーーーーッッ!!」
 才華と天花の叫びも娘の耳には届いちゃいない。
「し、失礼しますっ!」
 咄嗟に、後方を守っていた白鷺が放ったのは力の歪み。それは見事、娘の足を止める事に成功した。
「今や、押さえ込め!」
 晃の声を合図に、娘に向かって一斉に飛び掛かった開拓者の手によって、近隣を騒がせていた四つ辻の幽霊は捕らえられたのであった。

●後始末
「目立たないように人探し‥‥ねぇ」
 屋台で美味そうに蕎麦を啜る娘から事情を聞き出して、才華はがくりと項垂れた。あわや食われる所だった王禄丸は、娘から一番遠い場所に陣取っている。気持ちは分からないでもない。
「で、昼間寝て、夜にあそこに立ってた‥‥と」
「ん。どこに向かうとしてもあそこを通るし」
 汁まで綺麗に飲み干して、娘はごちそうさまと手を合わせた。
「あなた、お家はどこ? お家の人が心配してるんじゃない?」
 問うた祀に娘は首を振る。
「家の連中に見つかったら、私、おしまい。だから、こっそり探してた」
 何やら複雑な事情があるらしい。
「ともかく、霊子(仮名)ちゃんは捕まえたし、後は適当に働かせて慰謝料払わせりゃいいだろ。俺達の仕事は終わりだ、終わり」
 んーと腕を伸ばした重に、抗議の声を上げたのは天花だ。
「ひどいです、重さん! こんな小さな子が困っているのに!」
「そうね。重クンはもう少し思い遣りってものを学ぶ必要があると先生は思うわね」
 んふふと笑う祀に、重は嫌な予感に駆られて立ち上がった。
「そ、そんじゃあ後は任せたぜ」
 逃がさないと菘が重の袖をしっかりと握り締める。
「重さんちの下宿、大家さんが女性ですよね」
「あ、あれを女というのはだな、全女性に対する冒涜だと‥‥」
 菘の言わんとしている事を察して、王禄丸が同意を示して頷いた。
「なるほど。この子にも事情があるようだし、それはいい案かもしれん」
 今回、何もしなかったのだから、それぐらいの役に立ってもいいだろう。
 言外にそんな言葉が聞こえるようだ。
「そうだねぇ。この子の身の振り方が決まるまで預かっても罰は当たらないか」
 才華の一言で、それは決定事項となった。
「重殿、この年の娘に手を出したら、貴殿は「幼女趣味」と皆に認識されます事、ゆめ忘れられませぬよう」
 白鷺は、静かに、にこやかに釘を刺す事を忘れない。
 こうして、四つ辻の幽霊は開拓者達の元に身を寄せる事と相成ったのであった。
 めでたしめでたし。