|
■オープニング本文 ●寒いから ここ数日、体の芯も凍りつきそうな冷え込みが続いている。 寒いから動けなくなるとか、そんなやわな鍛え方はしていないが、寒いものは寒い。心地よさ‥‥もとい、生きやすい環境を求めるのは生物の本能だ。 「酒‥‥だけじゃ足りねぇか」 温石を抱えて布団の中で丸くなっているのもつまらない。 炭をガンガン突っ込んだ火鉢に背中を丸めてあたっているのも、らしくない。 はふ、と森藍可は息を吐いた。呼気は白く立ち上がり、鈍色の空へと消えて行く。 「暖けぇもの‥‥ついでに面白けりゃ最高なんだが。‥‥ん?」 藍可の傍らを子供達が駆け抜ける。寒空の下、彼らは元気いっぱいだ。 「おーおー、楽しそうに。お、焼き芋でも焼いているのか?」 「そうだよ! お姉ちゃんも食べる?」 差し出されたほくほくの芋を頬張りながら、他愛のない子供達の遣り取りに目元を和ませる。乱暴な振る舞いが多く、暴れ者、婆娑羅姫とふたつ名を付けられた藍可だが、こうした穏やかな時間も嫌いではない。 「お姉ちゃん、おいしい?」 「皆で食べるとおいしいよね!」 ふと、藍可の脳裏にある考えが閃く。 それは、寒さを吹き飛ばし、なおかつ、皆と騒いで楽しめる‥‥、いや、寒さをも楽しむ催しになること間違いない。 バタバタと賑やかな足音と共に仲間達の元へ駆け戻った藍可は、開口一番に宣言した。 「寒いから鍋やるぞ、鍋!」 提案などという可愛らしいものではない。 宣言である。 こうなった場合、反対しても無駄である。浅からぬ付き合いの者達は、ある者は溜息をつき、ある者は苦笑いを浮かべつつ、それぞれに動き出したのであった。 ●闇の鍋 「で、だ」 開拓者ギルドに顔を見せた藍可の第一声に、突っ込むべきか否か、開拓者達はしばし迷った。 話が何も見えないのに、「で」などと言われても困る。開拓者とて万能ではないのだ。前置きどころか、本文まで省略されて! 何を察しろと! 「森さんよ‥‥」 「てめえらの答えは聞いてない!」 答えも何も‥‥(以下略) 「ま、精々、賑やかしてくれ。鍋も多い方がいいからな。具材や出汁の持ち込みも歓迎するぜ」 言いたい事だけ告げると、藍可は踵を返した。 残された開拓者達は、ぽかんとその後ろ姿を見送るしかなかった。 藍可の使いという男が、申し訳なさそうに依頼状を携えてギルドを訪れたのは、その数時間後の事である。 |
■参加者一覧
音有・兵真(ia0221)
21歳・男・泰
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
海月弥生(ia5351)
27歳・女・弓
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
叢雲 怜(ib5488)
10歳・男・砲
玖雀(ib6816)
29歳・男・シ
闇野 ハヤテ(ib6970)
20歳・男・砲
シフォニア・L・ロール(ib7113)
22歳・男・泰 |
■リプレイ本文 ●鍋やるからひと狩りしようぜ 「‥‥何故だ」 寒風吹き荒ぶ船の上、紅舞華(ia9612)はぽつりと呟いた。 鍋の具材を探しに来たはずなのに、気が付けば船に乗せられて、海に糸を垂らしていたのだ。記憶がないわけではない。ただ‥‥。 「いろいろと解せぬだけ‥‥」 同じ船の上、この状況を作り出したシフォニア・L・ロール(ib7113)が歓声をあげる。引き上げられた糸の先に、胴体の長いモノが激しく身をくねらせていた。 「それも‥‥鍋にいれるのだろうか」 「あれ? ウツボ嫌い?」 嫌い以前の話だ。 そう告げるよりも先に、シフォニアは手早く釣り上げた獲物を籠の中に放り込んだ。 ガタガタ、籠の中で騒ぎが起きる。ウツボが暴れているだけではない。籠の入り口から覗く胴体に、何かが絡みついている様を見てしまって、舞華は絶句した。 −何かが‥‥何かが戦っている‥‥ッ! 「はははっ、活きがいいねぇ♪」 だから、活き以前の話だッ! 舞華の心中の叫びを知ってか知らずか、シフォニアは鼻歌混じりに再び釣り糸を垂れる。 彼が関わる鍋には、絶対に手を出さないでおこう。 舞華は、そう決意した。 「えーと、これは‥‥」 同じ頃、闇野ハヤテ(ib6970)は少々年季の入った書物を片手に森の中を彷徨っていた。 「食おうと思ったら食える。‥‥多分」 手にしたきのこを背中に背負った籠に入れると、ハヤテは次の木の根元へと移動する。新芽が芽吹く季節はまだ遠いが、森には食材が多い。中には食べられないものもあるので、こうして図入りの書物で確認しているわけだが‥‥。 「ん? これは毒きのこ?」 派手な色合いのきのこに、ハヤテは眉を寄せた。 このまま捨ててしまってもいいが、万が一、誰かが拾って食べてしまったら大変な事になる。しばし考えて、彼はそのきのこを布に包んで籠の中に入れた。 「後で、処分すればいいし。‥‥ん?」 木々の合間に、見知った影を見たような気がして、目を凝らす。緩く蛇行した川沿い、背の高い枯れた色をした草の中、息を潜めているのは海月弥生(ia5351)だ。 声を掛けようとしたハヤテは、思い直して動きを止める。 弥生の手に、星天弓が握られている事に気付いたからだ。 「‥‥敵? でも、そんな気配はないし」 ふいに、弥生が動いた。素早く構えた星天弓から放たれた矢に、水辺で戯れていた鳥達が一斉に羽ばたく。その中で、弥生はゆっくりと立ち上がり、射抜いた鴨を拾い上げた。 「これくらいで足りるかしら? あら?」 木立の中にハヤテの姿を見つけて、小さく会釈を送る。穏やかな笑みを返されて、弥生も微笑みを深くすると、繁みの中に置いてあった荷物を手に歩き出した。 ●買い出し 大八車に買い出しの品を乗せて戻った叢雲怜(ib5488)の様子に気付いたのは、襷を掛けて鍋の下準備をしていた玖雀(ib6816)だった。 「どうした? やけに疲れてるじゃねぇか」 荷を吟味しながら、地面に倒れ込んでいる怜に声を掛ける。 「んー」 ごろんごろんと一頻り転がった後、怜はむくりと体を起こした。 「なんか‥‥、あっしーとか言う人達の気持ちが分かった気がしたのだぜ‥‥」 「‥‥その単語自体が死語だな。誰に聞いた?」 ママ上。 玖雀の問いに答えて、怜は大きく息を吐き出す。 「そう言えば、買い出しにゃ藍可姫がついて行ったはずだが‥‥」 「聞かないで欲しいのだぜ‥‥」 ずるずると這いずるように屋内に向かう怜の姿と、大八車の荷とを見比べて、玖雀はだいたいの事情を察した。 野菜、肉、酒につまみ。 大荷物を抱えて、街のあちこちへと連れ回される怜の姿が容易に想像出来て、玖雀は苦笑を漏らす。 「まったく、容赦ないな」 やれやれと首を竦めると、荷から肉の包みを取り出す。 牡丹鍋が食べたいと言っていた怜の為に、せめて美味い鍋にしてやろうと調理場に戻りかけたその時。 「た‥‥ただいま」 柱で体を支えた音有兵真(ia0221)が片手をあげた。 兵真よ、お前もか。 言葉もなく戦慄する玖雀の目の前、兵真は膝をつき、怜がしていたように地面に寝転がった。 「やー、参った参った。森の買い物に付き合うのは大変だったよ。‥‥途中で1人増えたし」 「1人‥‥?」 シフォニアと舞華は海へ釣りに、ハヤテと弥生は森へ狩りに出かけた。 藍可と買い出しに出た怜、そして兵真となると、残るのは1人しかいない。 「あら、それってあたしの事?」 ひょっこり顔を覗かせた霧崎灯華(ia1054)に、兵真が噎せる。 「というか、おまえしかいないだろうが」 玖雀の的確な指摘を笑い飛ばして、灯華はひらひらと手を振った。 「ま、そうなんだけど。さ〜てと、鍋が出来るまでは、あたしも大人しくしてるわね」 鍋が出来るまで、と言ったか。 兵真と玖雀がびきりと固まるのを面白そうに見遣ると、灯華は上機嫌で去って行ったのだった。 ●塩辛戦争 発案者兼出資者である森藍可の音頭で始まった鍋会は、一見すると和やかに進んだ。 牡丹鍋にきのこたっぷりの鴨鍋、海鮮鍋は文句なしに美味かったし、兵真が厳選吟味した酒は藍可が樽で買って来ており、参加者に好評のようだった。 「本当に、楽しいわね」 鍋や酒が一巡した頃、弥生がぽつりと呟いた。杯に注がれた酒を飲み干すと、返杯をとハヤテの杯にも注ぐ。 「ですね‥‥。この依頼、やって正解だったと思いますよ」 そう言うハヤテの視線は、わいわいと楽しそうな仲間達に向けられている。 ええ、と頷いて、弥生も微笑んだ。 色々な噂がある浪志組だが、こうして騒いでいると自分達と変わらない。乱暴者と名高い藍可も、皆に混じって笑い合っている。 「噂と実は違う。こうして、言葉を交わす事でお互いを分かりあえる‥‥のよね」 「はい」 小さく杯を合わせて、ハヤトと弥生は笑い合った。 そんな2人に抱きつくように飛び付いたのは怜だった。 「2人とも、こんな隅っこの方で何してるのだぜ〜?」 「こーら、もしかしてお酒飲んでる?」 めっと弥生が窘めれば、怜はふるふると子犬のように首を振った。 「飲んでない。でも、楽しい!」 「そうそう、楽しまなきゃ損だぜ?」 上機嫌にはしゃぐ怜の騒ぎに気付いたのか、酒の入った徳利を片手に藍可もやって来る。どかりと2人の傍らに座ると、ほらと徳利を持ち上げた。 「はい?」 首を傾げたハヤテに、にやり笑って顎をしゃくる藍可。 「‥‥い、嫌な予感が」 潰される。 間違いなく潰される。 背中に冷たい汗が伝うのを感じて、ハヤテは口元を引き攣らせた。その隣で、弥生は迷いなく杯を差し出す。 「まあ、こんな席ですものね。潰れるのも一興よ」 「分かってるじゃねぇか」 なみなみと注がれた酒を一気に呷る弥生の姿に、怜がぱちぱちと手を叩いた。 「わーい、弥生姉ちゃん、さすがなのだぜ〜♪」 「おいおい、大丈夫か。呑み過ぎるなよ」 などと心配する様子を見せながら、兵真も移動してくる。 「固い事言ってねぇで、早く注ぎやがれ」 「はいはい」 昼間の買い出しから、どうも藍可のお世話役になっている気がしないでもない。兵真は溜息を吐くと、藍可の杯に徳利を傾けた。 「呑むのもいいが、ちゃんと食わないと駄目だぞ」 「と、酔っ払いに言われてもな」 舞華の一言に、兵真は憮然とした表情を見せる。 「おいおい。俺はちゃんと食ってるぞ」 反論する様子は至極、普通だ。だが、騙されてはいけない。 「ほーら、お前達、しっかり食えよ」 言いつつ、兵真は炊きたての飯が入ったお櫃を鍋の上で逆さに返した。止める暇もありはしない。 瞬く間に雑炊と化した鍋に、舞華が憮然とした表情を見せた。 「まったく、これだから。いいか? 炊きたてご飯を鍋に入れるな! 炊きたてのほかほかご飯に合うのは、このイカの塩辛だッ!」 突き出された塩辛の小皿に、周囲にいた者達がしんと静まり返る。 誰も言葉を発する事が出来ない雰囲気に臆する事なく、怜は頬を膨らませて舞華に指を突きつけた。 「間違っているのだぜ、舞華姉ちゃん! 塩辛は酒のつまみ! 塩辛に合うのは酒なのだぜ!」 「‥‥おいおい、叢雲」 拳を握ってまでの力説に、毒気を抜かれた兵真が手をひらひらさせる。 「本当に呑んでないんだろうな? 子供にゃまだ早‥‥」 「酒のつまみの塩辛こそ正義! 異論は認めないのだぜッ!」 ‥‥が、あっさりと無視された。 それどころか、怜の塩辛語りに熱が入って来る。 そうなると、穏やかではいられないのは、本日の塩辛製作者たる舞華だ。 「聞き捨てならないな。確かに塩辛は酒のつまみにも最適だ。だが、ほかほかと湯気をたてる白飯とて捨てたものではない」 舞華と怜の視線がぶつかり、火花を散らす。 もはや、両者とも後にはひけない。 「いやぁ、どっちも美味いと思うよな? な?」 ご飯派、つまみ派に分かれて議論を始めた仲間達に、兵真は取り成すような言葉を向ける。もうすっかり酔いは醒めているようだ。この騒ぎの発端となったのは、鍋に飯をぶち込んだ自分である事に気付いているのかいないのか。 しかし、事態は既に彼の手の届かない所まで来ていた。 「塩辛にスミを入れるだと!? そんな事が許されると思っているのか!」 「黒造りの美味さを知らないとは、可哀相だね」 いや‥‥。 いや、違うから。刀を持ち出す程の話題じゃ、絶対にないから。 宙でふるふると揺れる兵真の手に気付く者は誰もいない。 「‥‥おーい、聞いてくれー?」 酔っ払った者達の間で、1人、しらふでいるのは辛いものだ。息を吐くと、兵真は目の前にあった徳利を掴み、そうして時間が過ぎて‥‥。 「鍋がなーい!」 「雑炊にしたのはお前だろう」 一戦終えた舞華の突っ込みが飛ぶ。 これが、後に「浪志組、塩辛戦争」と呼ばれる事になる‥‥かもしれない騒動の発端となる事を、彼らはまだ知らなかった。 ●死招き 「作っても作っても追いつきゃしない」 だが、幾つも用意した鍋が瞬く間に空になるのは、作り手冥利に尽きると言うものだ。 口元を引き上げた玖雀の隣で、シフォニアも追加具材の投入に余念がない。味付けは無理でも、これは鍋。材料を放り込めば、後は玖雀が作った割り下に素材のうまみが加わって、勝手に美味しくなってくれる。 「しかし、なんだね。ウツボの頭が入っていると一種のホラーだね」 「獲って来た本人が言うセリフか。って、おい、今、何を入れた?」 振り返った玖雀の問いに、シフォニアは手元の椀に視線を落とす。 「えっと、ここにあった珍味?」 「珍味? じゃねぇよ。そいつは魚のはらわたやら何やら‥‥」 「あ、これ持っていきますよ」 鍋の回転ははやい。 あっという間に消えた鍋の行方を追って、玖雀とシフォニアは去って行くハヤテの背を見つめた。 どちらからともなく互いに見合うと、シフォニアはぐいっと親指を立てる。 「大丈夫。多少、生臭くてもしっかり煮込めば!」 「そういう問題か」 だが、件の鍋は既に皆の前に供されている。もはや取り戻す事は不可能だ。 「まあ、いい。‥‥で、灯華、てめぇは何をしている?」 「ん、鍋を突っついてるのよ」 そう言う灯華の言葉に嘘はない。 「そうか。で、その手の中のものは何だ」 問うと、彼女の手にすっぽりと収まっていた小さな竹筒がひょこりと顔を出した。 「仕込み唐辛子よ。ほんの少しだけ、振ってみて。味が変わるから」 それは面白いと、シフォニアが自分の皿にまず一振り。 「うん。なんだか刺激的な味に変わったね」 その変化は、シフォニアにとって嫌なものではなかったようだ。玖雀は息をつく。 「隠し味って言うんなら、俺にもあるぞ」 玖雀が懐から取り出したものに、シフォニアが絶句した。 「え、えーと、つかぬ事を聞くけど、それは‥‥?」 「これか? 持ち運び出来て密閉できる容器っつったら相棒がくれたんでな」 ぽきゅっと音を立てて蓋を開けると、中に入っていた液体を鍋に入れる。 恐らく出汁だろう。きっと、出汁に違いない。出汁である事を祈りたい。 「耐熱製な上に使いきりにピッタリの量だ、便利だろ?」 「そ、そうなんだ‥‥。ところで、相棒さんは新品をくれたのかな?」 怪訝な顔をした玖雀に、シフォニアの表情も改まる。 「大事な事だから、も一度聞くよ。それ、新品? それとも、くれた相棒さんが何かに使っていたのかな?」 真剣な面持ちのシフォニアの背中を思いっきり叩くと、灯華は玖雀が手にしていた容器をひらひらと振った。 「もう心配症ねぇ。大丈夫よ、少しぐらい変な物を食べても、そう簡単に死にはしないから」 シフォニアが案じていた中身は闇の中。 そして、例によって例の如く、鍋は仲間達の元へと運ばれて行く。 「何事も起こりませんように」 祈りつつ、シフォニアがナイフとフォーク使って、器用に魚(おそらくはウツボ)の身を離した時に、騒ぎが起きた。 「あら、やだわ。うふふふふふふふふ」 「ははははははははは、こんな事があるとねあはははははははは」 弥生を中心に、笑いの渦が広がっていく。それは、ものすごい侵食率だ。 「笑い上戸だったのかしら」 頬杖をついた灯華の言葉に、玖雀は重く頭を振った。 「いや、あれは恐らく‥‥」 言葉を濁した玖雀と目を逸らしたシフォニアの様子に、灯華は全てを悟ったようだ。その頃には、別の鍋から謎の生物が生まれて、戦闘状態に陥っていたり、泣きだした男達を女達が宥めるという奇妙な状況になっていたりと、あちこちで大騒ぎが起きていた。 やれやれと首を振りつつ、灯華は席を離れて行く。 「私はまったり藍可と雑炊でも食べて来るわ」 仲間達を一瞥すると、灯華は見つからないように空になった小さな筒をぽいっと投げ捨てた。 「さあ、真の鍋の始まりよ‥‥」 そして、地獄が始まる。 ●阿鼻叫喚 何故だろう。 ハヤテは考えていた。 最初は、ごく普通に鍋会だった。親睦を深め、互いに笑い合って美味い鍋を突っついていたのだ。 なのに、今は。 ごくり、生唾を飲むと、おそるおそる周囲の惨状を確認する。力尽きた者、激辛鍋に悶絶している者、へべれけの者、もはや場の収拾がつかないほどに混乱している。 駄目だ。 このまま、酒にのまれて理性を飛ばす事だけは避けねば。 そう決意したハヤテの視界の隅、空になった鍋に新たな具材が投入される様が映った。 「‥‥‥‥今、何か‥‥?」 どこかで見たような色彩に首を傾げたハヤテの脳裏に、山の中での出来事が蘇る。 「ちょっと待て‥‥、あのキノコどこ行っ‥‥」 確認するまでもなかった。 彼が、山の中で見つけ、そして万が一の事を考えて籠に避けて入れたきのこが、ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中で泳いでいる。 「うん」 ハヤテは小さく頷く。 「何も見ていない。何も知らない」 呟いて、ハヤテは杯に注がれた酒を喉に流し込んだ。 そして、唯一、理性を保っていた歯止め役が役目を放棄した事により、宴は‥‥。 |