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■オープニング本文 ●面喰らい 喉の奥で笑って、彼は自分の手の下で震える獲物を見下ろした。 光など無くても不自由はしないが、月の光の下で見る獲物はより美しい事に気づく。 手を伸ばし、獲物の顔に触れた。 途端に、身体が跳ねる。 面白い。 くつくつ笑いながら、彼は獲物の顔をなぞった。 この世界は美しいものに満ちている。 彼は美しいものが好きだった。 そして、その美しいものを踏みにじる瞬間は何よりも彼を高揚させた。 彼は獲物の顔を丁寧になぞっていた手で首を撫でた。 そう、この細い首。 ほんの少しでよかった。ほんの少し、手に力を込めると、獲物は藻掻き出し、そして絶望と苦痛に満ちた表情を見せるのだ。 この間の獲物は耳触りな甲高い声で泣きわめいて助けを求めた。助けてくれるなら、何でもすると縋りついて来た。その長い髪を掴んで、振り回してやったら、静かになったが。 この獲物は、どんな反応を見せるだろう。 ぐ、と手に力を込める。 獲物が彼の手を掴んだけれど、何の障害にもならない。 ばたばたと動かす手足の力が段々と弱くなって、獲物の顔に、彼が待ち望んでいた表情が浮かんでくる。 あと少し。 口元を吊り上げた彼の首元に、冷たい感触の何かが押し当てられる。 「よお、兄さん。楽しそうだな」 楽しい時間を邪魔されて、彼は牙を剥きつつ背後を振り返った。 月の光を受けて輝く長い髪。 その下で、紅い唇がにぃと笑った。 「だが、ちょっとおイタが過ぎるんじゃねぇか?」 首元に押し当てられていた冷たい刃が閃く。 しかし、その刃は虚しく宙を切る。 「何!?」 確かに、己の穂先は相手の首を押さえていた。なのに、忽然と、その姿は溶けるように消えてしまったのだ。 「ち。逃げ足のはやい‥‥。おい、そこの兄さん、大丈夫か」 辺りの気配を探りながら、倒れている男の首筋に手を当てる。 こちらは少し遅かったようだ。 「あの顔は‥‥この兄さんから奪った、か」 気に食わない野郎だ。 ぺっと唾を吐き捨てて、十字槍を肩に担ぐと手にしていた瓢箪からぐびりと喉に酒を流し込む。 「美味い酒がまずくなる‥‥」 眉を寄せて、彼女は雲の合間に姿を隠した月を見上げた。 そういえば、ここしばらく神楽の都で不可解な人死にや行方不明者が増えているという噂を耳にした。何か、厄介な事が起きている。そんなな気がする。 「この森藍可、なめられたまま黙っているなんざ性に合わねぇ。首洗って待ってやがれ」 開拓者ギルドに、事の詳細が書かれた依頼状が持ち込まれたのは、数日後の事。 「てめぇらの実力は買っているんだ。四の五の言わずに、私に力を貸しやがれ!」 不敵な笑みを浮かべた小柄な依頼人の啖呵に、ギルドの中にいた開拓者達は唖然としつつも頷くしかなかったのである。 |
■参加者一覧
志藤 久遠(ia0597)
26歳・女・志
霧崎 灯華(ia1054)
18歳・女・陰
橘 天花(ia1196)
15歳・女・巫
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
鬼灯 恵那(ia6686)
15歳・女・泰
アレーナ・オレアリス(ib0405)
25歳・女・騎
劉 那蝣竪(ib0462)
20歳・女・シ
セフィール・アズブラウ(ib6196)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●人相書き じり、と筆と紙を持った橘天花(ia1196)とセフィール・アズブラウ(ib6196)が距離を詰める。 その背後で穏やかに成り行きを見守るのはアレーナ・オレアリス(ib0405)だ。 「藍可さんは現状、唯一の目撃者ですし、微に入り細を穿つまで事件についてお話し頂けますでしょうかっ」 「ですね。眼に見えるもので、統一された情報が有る方がよろしいかと」 天花が一歩にじりよれば、セフィールもずいと身を乗り出す。 「いやあ、羨ましいぜ、森セニョリータ。俺も可愛い子ちゃんに囲まれた‥‥ぐほっ!」 両手を挙げて頭を振った喪越(ia1670)の腹に、槍の柄がめり込んだ。情け容赦ない一撃に、喪越が床に倒れ込む。 「あらあら、また? そのうち失血死しちゃいますよ、喪越さん」 笑いながら喪越を窘めた鬼灯恵那(ia6686)は、剣を握る割にほっそりとした指先を口元に当てた。 「‥‥でも、それも面白いかも」 どこが? と思った者、1名。 それどころではないと藍可に詰め寄る者、数名。 溜息を吐く者、若干名。そして、 「ふふふ。いっその事、ひと思いにやっちゃえば?」 物騒な事を言う者、1名。 「ちょ、ちょっと待って下さい」 霧崎灯華(ia1054)の呟きに反応したのは、志藤久遠(ia0597)だ。灯華の袖をひくと、久遠は声を潜めた。 「だめですよ、そんな事をおっしゃっては」 「どうして?」 尋ね返した灯華に、久遠はきっぱりはっきり言い切る。 「今の森殿は本気で殺りかねないからです」 堪えられない笑いに灯華は肩を揺らした。 「あはは。いいんじゃないの。面白そう」 「面白くありません!」 片隅で繰り広げられる遣り取りを無視して、緋神那蝣竪(ib0462)は誰に言うともなしに呟いた。 「他人の顔を盗んで利用する事と言えば、成りすましで周囲の人間を欺いたり、要所への侵入を容易くしたり‥‥とか、色々利用方法は思いつくのだけれど‥‥」 問題は、と那蝣竪は頬に手を当てる。 「変装はともかく、その場で顔を写し取るっていうシノビの技を聞いた事が無いのよね。やっぱりアヤカシの仕業?」 「おそらくは」 その独り言のような呟きを聞きとめたアレーナは同意を示すと、思案気に顔を曇らせた。 「私も気になっていたのです。昨今、都で悪さをしているアヤカシ達がいるとの噂もありますし、今回の件も何か関係があるのではないかと」 「アヤカシ「達」?」 頷きを返したアレーナは、まだ大騒ぎをしている仲間達に視線を移しながら答える。 「あくまで噂ですが、アヤカシが徒党を組んでいる可能性があると‥‥」 「そう‥‥」 となると、尚更厄介だ。 那蝣竪は天井を見上げた。 変死に関する調査をするつもりだったが、複数のアヤカシが同時に活動しているとなると、目的のアヤカシを絞り込むのは難しいかもしれない。 「まずは亡くなられた方を確定して、そこから辿って行く‥‥のが確実でしょうね」 アレーナがそう結論づけたその時、 「藍可さん!?」 天花が不意に大声で藍可の名前を呼ばわる。 見れば、天花が持っていた紙と筆を藍可が奪い、さらさらと何かを書きつけていた。 「ほらよ」 あっという間に書き上げて、藍可は紙を放り投げた。慌てて受け止めた天花の手元を覗き込と、セフィールは疑問の声を上げる。 「森様、これは‥‥?」 「男の人相を知りたかったんだろ。だから、親切にも私が書いてやったわけだ。どうだ? 目が2つ、鼻と口が1つずつ。うまく書けてるだろうが」 「へのへのもへじは人相書きとは言いません!」 抗議する天花を、藍可はぎろりと睨みつけた。 「るせえ! こーゆーうざってぇ事は大ッ嫌いなんだ! 今まで付き合ってやっただけでも有り難いと思え!」 乱暴に言い捨てると、藍可は十字槍を手に立ち上がった。そのまま開拓者達を一瞥すると、足音も荒く部屋を出る。 「あ、待ちなよ、藍可」 呼び止めた灯華がその後に続いた。 「森殿? 霧崎殿?」 彼女らを追いかけようとした久遠の肩に手を置くと、いつの間にか復活していた喪越がだらだらと血を流しながらも笑顔で親指を立てる。 「心配すんな。森セニョリータにゃ、俺がついてくぜ」 白い歯をきらりと光らせて、喪越は身を翻した。 「あっ! 喪‥‥」 我に返った久遠が手を伸ばすも、時既に遅し。藍可と灯華はもとより、喪越の姿も消えていた。 「‥‥越殿‥‥、せめて傷の手当てをなさった方が‥‥よろしいかと‥‥」 誰もいない空間に向けて、久遠の言葉が空しく響く。 「あ! 私が精霊様に治癒をお願いすればよかったのですよね。すっかり忘れていました」 しょぼんと肩を落とした天花に、そうじゃないと仲間達は虚ろな笑いを響かせた。天花が悪いわけじゃない。だって仕方がないだろう、あれは。 「もしかして‥‥私達が見ている喪越様は式神か幻影で、本物の喪越様は別のどこかにいるのではないでしょうか」 「そ、それは」 セフィールの呟きに、アレーナは答えに窮する。頭の中には返す答えがあるのに、言葉にならないのは何故だろう。 ‥‥その理由も、本当は分かっていたが。 ●被害者 藍可の協力が得られそうにもないと判断して、那蝣竪とアレーナは番所を巡る事にした。 アレーナの話では、複数のアヤカシが動いているという。となれば、ギルドに依頼が出、彼女達が把握出来る以上に変死者の数は増えているだろう。上がって来ない情報を得るには、末端で虱潰しに拾って行くしかない。 「まずは、現場近くの番所ですわね」 「被害者が運び込まれたはずだし、何か情報があるといいのだけど」 目撃者の藍可から被害者の人相ー被害者を襲ったアヤカシの現在の顔である可能性が高いーの詳細を聞き出せなかったのだ。ここで情報を得られなければ、初手から躓いてしまう事になる。 いつになく緊張した面持ちで、彼女らは番所の戸を潜ったのであった。 そして数刻後。 被害者が運ばれて来た夜の夜廻りが呼び出され、彼の記憶を頼りに描き上げられた人相書を手に、彼女達は藍可がアヤカシと遭遇した現場を訪れていた。 「あ、あの」 「んー、気にしちゃダメって言っても無理よねぇ」 「無理です‥‥」 居心地悪そうに俯いたアレーナに、那蝣竪も溜息混じりに同意を返す。 いわゆる歓楽街。 陽も暮れかけ、通りは賑やかさを増していた。 とは言っても、すれ違うのは柄の悪そうな男達ばかりで、場違いな女2人連れに対してあからさまな好奇の視線を向けて来る。アレーナが居心地の悪さを感じるのは無理からぬ事だ。 「えーと、ああ、ここね」 番所で人相書きの他に渡されたのは、被害者の調書だ。そこには被害者の身元から事件発生当時の状況まで、番所が調べた事柄と、いかに処理したのかが記されていた。 「ここに倒れていたって事だから、藍可君以外に目撃した人がいてもおかしくないんだけど」 「今よりもっと遅い時刻のようですから、その頃にもう一度、参りますか?」 アレーナの提案に、那蝣竪は唇に手を当てて考え込む。 「こういう優男系に、この界隈は似合わないと思うんだけど‥‥。偶然、通りがかったのかしらね?」 運悪く、その日、ここを通りがかっただけなら、周辺の聞き込みは徒労に終わるかもしれない。そんな事を考えている所に、 「姉ちゃん、言ってくれるじゃねぇか」 見るからにゴロツキ風な男が2人、那蝣竪の言葉を聞き咎めて近づいて来る。 彼らは通りすがりではなく、少し前から嫌な目で自分達を見ていた連中である事を那蝣竪は知っていた。 「あら、丁度よかったわ。あなた達、この優男に見覚えないかしら?」 「‥‥いい度胸してるな、姉ちゃん」 一瞬、言葉を失った男に、アレーナもずいと詰め寄る。 「知っている事があれば教えて頂けませんか? 彼を見た事があるか、ないかでも構いません」 その緑の瞳に見つめられて、男も悪い気はしなかったようだ。にやけた笑いを浮かべると、差し出された人相書きに目を遣る。 「お? こいつは確か‥‥」 「ご存じなのですか!?」 ああと頷くと、男は仲間にも人相書きを見せて確認を取った。彼らの話によると、被害者は顔の良さを利用して女達から金品を貢がせては、この界隈で遊び歩いていたらしい。 「最低男」 ぼそりと那蝣竪が呟く。 「女の敵ですわね」 アレーナもぐっと拳を握りしめた。 静かに怒りを燃やす彼女らに気圧されながらも、男は続けた。 「そういや、最近、この手の連中の顔を見なくなったなぁ。姉ちゃん達もあれか、騙した奴らに仕返しに来たとか、そういう感じか?」 この手の連中? 何気なく紡がれた男の言葉に、那蝣竪とアレーナは互いの顔を見合わせたのだった。 ●密談 「やだ、藍可ってば、いい店知ってるじゃない!」 杯に注がれた酒を飲みほして、灯華は藍可の背を叩いた。 藍可の行き付けは、騒がしい大通りから一本外れた通りにある、こじんまりとした店だった。最初は意外に思ったが、置いている酒は上物で、しかも銘柄も豊富。いい店を見つけたと灯華は上機嫌で杯を呷る。 「嫌いな口じゃねーと思っていたが、さすが森セニョリータ、俺のヨメ!」 「誰がお前のヨメか!」 間髪入れずに繰り出された一撃で、喪越はキラッと遠い空のお星様になった。 吹き飛ばされる喪越をひょいと避けた灯華は、そのまま藍可に体を寄せ、「ところで」と声を潜める。 「例の件、地道に聞き込みが一番だと思うけど、もっと攻撃的な方法、考えてみない?」 「あ?」 続けて囁かれた灯華の言葉に、藍可は口元を引き上げた。 「面白そうじゃねぇか。いい子ちゃん達が聞いたら卒倒しそうだが」 あら、と灯華は心外そうな声を上げる。 「そんな無茶な話じゃないわよ。ただ、ちまちまと当てて行くのは面倒ってだけで」 「同感だな」 「2人だけで物騒な話をしてるなんて、ずるいよね」 顔を寄せ合い、にんまりと笑う灯華と藍可に声が掛る。視線を向ければ、笑顔全開の恵那の姿。 藍可の正面の席に座った恵那に、灯華は片目を瞑ってみせた。 「そう言うんなら、あんたも一口乗る?」 「話によるかな」 恵那の杯に酒を注いでいた藍可が面白がるように眉を跳ね上げた。灯華も、悪戯の仲間が増えそうな気配に、楽しそうに笑っている。 「そういえば、聞き込みに出てた那蝣竪さん達から連絡があったよ」 酒を舐めつつ、恵那は簡単に内容を話して聞かせる。物騒な相談をしていたとしても、肝心のアヤカシが見つからなくては、計画は未遂に終わるだけだ。 「優男だと?」 「そう。最近、女の子を騙してお金を巻き上げてる連中がいなくなってるみたいだね。夜逃げしたと思われているみたいだけど、もしかすると‥‥」 「アヤカシに喰われた可能性が高いって事ね。‥‥けど、優男かぁ」 眉間に皺を寄せて、灯華が唸る。恵那も杯を置くと溜息をついた。 「囮を使おうにも、こっちの手駒が喪越くんだけって言うのがイタイよね」 「まーかせて!」 いつの間に銀河小旅行から戻って来ていた喪越が胸を張る。 「いやあ、こんな所で俺の男前っぷりが役に立つとは思ってなかったぜ。なあ、森セ‥‥ぐはあっ!」 酒入り瓢箪は武器です。 後日、喪越は仲間達を前にそう語ったという‥‥。 ●面喰らい 注意深く周囲を見回していたセフィールに緊張が走った。人混みの中、人相書きの男が歩いている。どうやら、少し前を歩く男の後をつけているようだ。 ー本当に優男が好みなんですね。 尾行られている男の顔を確認して、セフィールは溜息をついた。 「志藤様」 共に行動をしていた久遠の袖をひいて、「彼」を示す。たちまち、久遠の表情も険しさを増す。頷き合って、2人は「彼」の追跡を開始した。 ー首筋に当てられていた森様の槍から逃れたというのですから、志藤様がおっしゃっていたように、何がしかの手段を持っていると考えるべきでしょうね。 久遠の横顔を見つつ、その言葉を思い出す。 『瘴気や小さな姿に変化したか、夜のような能力でも使ったか』 無意識に、セフィールの手は腰裏とスカートの下に隠した銃に伸びた。もう少しで街並を抜ける。その先は、昼と夜の世界の境。毒々しい色合いの提灯も、酔っ払った者、客を引く者もいない。「彼」が獲物を狙うには最適。そして、セフィール達が「彼」を捕えるのにも。 ー絶対に、逃がしません。 その為には、「彼」に先んじる必要がある。 ーもう少し‥‥。 「彼」が立ち並ぶ猥雑な建物が途切れる場所へと足を踏み入れた瞬間、セフィールは短銃を取り出し、迷う事なく撃ち放した。その一瞬にも「彼」が行動を起こさぬよう、「荒野の決闘」を使って。 手を撃ち抜かれた「彼」が、悪鬼の形相で振り返る。 その時には、セフィールもスカートの下の宝珠銃を構えていた。 「セ、セフィール殿!?」 「奥の手なのです」 翻ったスカートに慌てたのは久遠だった。敵に一撃を加えようと大身槍「御手杵」を構えたまま、久遠は絶句する。けれども、今は呆気に取られている場合ではない。セフィールに襲いかかった男を弾き飛ばすと、久遠は一息に間合いを詰める。 穂先に纏った紅の光がはらはらと舞って、脇腹を切り裂かれた男の上に落ちた。しかし、それは儚い幻影のようなもの。消えた光に男が気を取られているうちに、久遠が素早く槍を構え直した時だった。 「避けて下さい!」 成り行きを見守っていた天花の声に、久遠とセフィールは咄嗟に後ろに飛び退る。絶望の叫びが彼女らが寸前までいた場所で渦を巻く。 「なっ!」 「悲恋姫、でしょうか?」 冷静なセフィールの分析に応えたのは、灯華の楽しげな笑い声だった。 「あったり〜♪」 「あっ! アヤカシが逃げちゃいます!」 「心配しなくていいよ、橘さん。ああ、でもいちいち消えられちゃ面倒だよね。もう斬ってもいいかな?」 一応はと依頼人にお伺いを立てた恵那に、藍可が口元を引き上げる。 「好きにしな。だが、お楽しみを独占出来るかどうかは‥‥」 「早いもの勝ちよね」 血刀を手に、灯華が素早く男に斬り掛かった。だが、男の姿は掻き消すように消え、刀は宙を斬る。 「右です!」 しかし、天花の瘴索結界の中ではどこへ逃げようとも無駄な事だった。正確な指示が飛ぶと同時に、何もないはずの空間を恵那の殲刀「秋水清光」と久遠の槍が貫き、セフィールの銃が撃ち抜く。 「消えてても手ごたえはあるんだね」 刀から伝わって来た感触に、恵那は微笑みを浮かべた。 「どう? 橘さん」 「まだです。まだ‥‥」 瘴気は完全に消えたわけではない。息を詰めて、天花は薄くなった瘴気の気配を辿る。 「今度は左です! 瘴索結界の外に出」 天花の言葉が終わる前に、銀の光が走った。聖なる精霊力を纏わせたアレーナの刀の前に、実体を保つ事も出来なくなったアヤカシが声なき声を上げて霧散する。 「ずるいなあ」 「早いもの勝ちだろ?」 唇を尖らせた恵那にかかと笑って、藍可は瓢箪を彼女へと放り投げたのだった。 |