【俊馬先生】桃子の初恋
マスター名:sagitta
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/12 05:44



■オープニング本文


 北面の国のとある都市。そこに一軒の屋敷があった。
 豪華、とは言えないがそこそこの広さを持つその屋敷の門扉は、日中は常に開かれており、門にはこんな表札が掲げてある。
「寺子屋 俊馬」
 その名の通り、俊馬という名の一人の志士が、都市の子供たちを相手に学問を教える手習所だ。

 今日も今日とて、ひょろひょろと頼りない風貌の俊馬先生が、やんちゃ盛りの五人の子どもたちを相手に算術の授業をしていた。
 六歳から十二歳までの、風貌もばらばらな生徒たちの共通点はひとつ。五人ともが、「志体持ち」であるということ。ここ「寺子屋俊馬」は、「志体持ち」の子どもたちを正しい道へと導くための場所であった。
「こら、朱吉! だから蒼太をいじめるなと何度も・・・・ああ、黄平! 授業中にまんじゅうを食べるんじゃありません! まったくもう、今日もまた課題を解いてきているのは翠だけですか? ふぅ、ホント、翠だけが私の救いですよ・・・・」
 俊馬の嘆く声も虚しく、やんちゃ小僧たちはなかなか言うことを聞かない。
 盛大なため息をついた俊馬が顔を上げると、目の前に座っていた一番年下の少女――桃子と目が合う。
「おや? 桃子、どうしたのですか?」
 見れば桃子は、ちっちゃなほっぺたを一生懸命膨らませ、くりくりした目を大きく見開いて翠の方を向いている。――なにやら、怒っているらしい。それから桃子は、俊馬の質問には答えずにおもむろに立ち上がり、つかつかと翠に歩み寄って・・・・
「あっ、それは私の手習帳・・・・」
 翠の小さな声。止める暇もなく、桃子は翠の机の上にあった手習帳を取り上げると、後ろ手に隠していた筆で、墨を塗りたくった。
「こら、桃子! なんてことをするんです!」
 叱る声も聞こえないふりをして、桃子は課題を解いた頁を塗りつぶしてしまった手習帳を翠の机に放り投げ、くるりと俊馬に背を向けて部屋を飛び出し、走り去ってしまう。
「ああ、こら桃子! いったい何だって言うんです! 翠、すみません。桃子にはよく言っておきますから・・・・」
「構いませんよ、先生。もう一度解いておきます」
 優等生の翠は、そう言って穏やかに笑う。
「そう言っていただけると助かります。しかしいったい、桃子はどうしてしまったんでしょう? 私には何がなにやらさっぱり・・・・」
 そう呟いて俊馬は、またしても盛大なため息をついた。


「それは、恋ですね」
「はぁ、こい、ですか」
 開拓者ギルドの受付係の女性が断言すると、俊馬はわけがわからない、といった感じで首をひねる。
「でも、桃子はまだ六つですよ? 恋だなんていくら何でも・・・・」
「あら、女の子はおませさんなんですよ。特に桃子ちゃんなんてそんな感じじゃないですか」
 受付係はやけに自信ありげに言う。
「そういうもんですかねぇ・・・・しかし、いったい誰に恋を? 朱吉? うーん、乱暴者は嫌い、と前に言っていましたしねぇ。じゃあ、蒼太かな? いや、臆病者も好みじゃないだろうなぁ。じゃあ黄平? なんか違う気がするなぁ・・・・」
 首をひねりはじめた俊馬を、受付係があきれたように見やる。
「本当に気づいていないんですか? 全くなんて鈍いんだか・・・・」
「気づいていない? どういうことです? ・・・・あ! もしかして、翠? そうですよね、色んな趣味の人がいますし、必ずしも男のことは限らないかも。となると、あのつっけんどんな態度ももしかして行為の裏返しなのかも・・・・」
 俊馬の見当違いの思いつきに、受付係は大きなため息をついた。
「しかし、このままではまったく授業になりません。開拓者の方々の力をお借りして、なんとか桃子が言うことを聞くようになってほしいんですが」
 相変わらず分かっていないまま、真剣な顔つきで俊馬が言う。受付嬢は少しだけ考えたあと、うなずいた。
「このままじゃ桃子ちゃんが可哀想ですし、本人に話をして、はっきりさせた方がいいのかもしれない・・・・そうですね、分かりました。お受けしましょう」


■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
和奏(ia8807
17歳・男・志
ジェシュファ・ロッズ(ia9087
11歳・男・魔
木下 由花(ia9509
15歳・女・巫
エグム・マキナ(ia9693
27歳・男・弓
ベルトロイド・ロッズ(ia9729
11歳・男・志
ハイネル(ia9965
32歳・男・騎
紫焔 鹿之助(ib0888
16歳・男・志


■リプレイ本文


「開拓者との交流会、ですか?」
 首を傾げて尋ねた俊馬に、エグム・マキナ(ia9693)が穏やかにうなずいた。
「せっかく時期も良い頃ですし、外の広い場所で花見を兼ねて行いましょう。なに、開拓者の人数はいますので、目が離れてしまうことはありませんよ」
 菊池 志郎(ia5584)もそれに続ける。
「俺たち開拓者が男の子たちや翠さんと遊んでいる間に、礼野さんと木下さんが桃子さんから話を聞きます」
「なるほど」
「その表向きの理由として、『開拓者との交流会』をする、ということにしていただくんです」
 続けた礼野 真夢紀(ia1144)の言葉に、俊馬はふむふむとうなずいてる。
「ちなみにお聞きしておきたいのですが、桃子さんはどんな方ですか?」
 尋ねた志郎に、俊馬は少しだけ考えてから、口を開いた。
「わがままで、なかなか言うことを聞いてくれません。頭はいいのですが、ちょっとひねくれているところがありますね」
「あ、ありゃ・・・・」
 俊馬から桃子への褒め言葉を聞いて、それを桃子に伝えてやろうと思っていた志郎は苦笑する。
「ですが・・・・本当はとても純粋で、気持ちの優しいいい子ですよ。今はまだ、その感情の伝え方がうまくないだけで」
 微笑んだ俊馬の顔に、志郎はほっとする。
「ところで・・・・話のとっかかりに使う為に聞いておきたいのですが。先生の理想の女性像を教えていただけませんか?」
「り、理想の女性像ですか?」
 真夢紀の突然の質問に目を白黒させた俊馬に、彼女は真剣な表情で重ねて尋ねる。
「ええ。大切なことなのです。答えていただけませんか?」
「でも、私の理想なんて聞いてどうするんです? 桃子の話とは関係がないんじゃ・・・・」
 俊馬がそう言うと、木下 由花(ia9509)がため息をついてこっそりと呟く。
「ふぅ・・・・恋愛感情にうとい私でも気がつくのに・・・・。まぁ、自分についてはわかりにくいですけれどね」
 紫焔 鹿之助(ib0888)もあきれたように大げさに肩をすくめてみせる。
「しっかし俊馬せんせーとやらも随分ドにぶいんだなぁ、え? もちっとこう、広げられる視野もあるんじゃねぇかい?」
「鈍い? いったい何が・・・・」
「いいからさっさと答えちまいなっ!」
 鹿之助の剣幕に気圧されるように、こくこくとうなずいて、俊馬は口を開いた。
「私の理想の女性は・・・・後にも先にも一人だけです」
 そう言った俊馬の細い目は、どこか遠くを見つめている。
「優しい少女でした。どんなに裏切られても・・・・裏切った相手にほほえみかけるような」
 彼の目は、どこまでも過去に向けられていた。目の前の光景さえも、その目に入らないほどに。
「それで? 桃子君のことはどう思っているんですか?」
 思い出に浸っていた俊馬が、尋ねたエグムにゆっくりと顔を向けた。
「桃子のこと? 大好きです。愛していると言ってもいい」
 そう言った俊馬の、穏やかな笑み。
「彼女は私の愛しい娘のような存在です」


 心地よい春の日差しの下。開拓者と俊馬、それに寺子屋の生徒たちが連れだって歩く。
 子どもたちは真夢紀からもらった飴をほおばって上機嫌だ。会場にたどりついたら、彼女のお手製のお花見弁当も待っている。黄平などは、今からそれを想像してはよだれを垂らしているほどだ。
「同じ志士として、志を高く目指すものとして、俺は俊馬さんを応援してるぜ」
 俊馬のとなりを歩きながら、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が気さくに声を掛ける。
「解らない時は、空を見上げて一度、頭の中を空にして見るんだ・・・・思いの他、視野の狭さに気付かされるもんだぜ?」
 彼の言葉に、俊馬は微笑みながらうなずく。
「私には一度に一人を育てる事が出来たぐらいでしたね・・・・。いやはや、大したものですよ」
 かつては教師だったエグムも、俊馬を励ますように言った。
「生徒たちのこと、どのように考えていますか?」
「・・・・もし私にできる事ならば、あらゆる力を尽くして、彼らのためになることをしてあげたい。ただ彼らに幸せになってほしい。私が思っているのは、ただその事だけです」
 俊馬の言葉に、エグムは満足そうにうなずいた。

「受けた依頼は解決するまで突貫する! それが解消屋ディスペアーズ! 天ヶ瀬&――・・・・あれ? 周のやつ何処行った?」
 華麗に花を咲かせる大きな木の下で、ビシッとポーズを決め・・・・損ねた焔騎の一人ボケ突っ込みに、見ていた少年たちが笑い転げる。
「こら、笑うところじゃないっての、ったく! あ、ジェシュにロイ、お前たちまでいっしょになって――」
 焔騎がむくれる。彼の言うとおり、開拓者であるジェシュファ・ロッズ(ia9087)とベルトロイド・ロッズ(ia9729)の双子の兄弟は、同年代と言うこともあってすっかり子どもたちに馴染んでいる。ベルトーの方は、はしゃぎながらも横目でジェシュのことを常に気にかけているが。
「僕も結構色々な冒険をしてきているんです。例えばこの間あったアヤカシなんかは――」
「へぇ、すごいですね! 僕もそんなふうになれるかなぁ・・・・」
 ジェシュが体験話を聞かせると、蒼太が目を輝かせてそれに聞き入る。
「あっちまで競争しようぜ!」
「へへ、負けないよ!」
 一方のベルトーは、朱吉とかけっこをしているようだ。志体持ちで身体能力には自信のある朱吉をあっさりと追い抜いて、彼の目を丸くさせる。
「ところで、桃子さんはどうしたんでしょう? 彼女は俊馬先生のことをす――」
「あ、あー、ジェシュ、ちょっとこっちに来なよ。ほら、そこに小鳥が――」
 無邪気に余計なことを言いかけたジェシュを、ベルトーがあわてて遮る。当のジェシュは、遮られたことさえ気づいていない。ベルトーはこっそりとため息をついた。気苦労が絶えないが、それを放り出す気持ちはさらさらない。
 ちなみにジェシュは、「桃子は俊馬のことが好きだ」ということには気づいても、恋愛感情としての「好き」というものがどういうことなのかはさっぱりわかっていないのだった。ベルトーは分からないでもないが、初恋もまだの彼にも、いまいちピンと来ない。だから今回は、男の子たちの相手に徹するつもりだった。
「自分は家の中で教育を受けたので、こういうのは初めてです。お友達といっしょにお勉強できるのは楽しそうですね」
 和奏(ia8807)が、はしゃぐ子どもたちを目を細めて見つめながら言う。
「でも、自分一人の時と違って全てが思い通りにならないかも・・・・そういう時はどうやって解決するのですか?」
「・・・・んーと、みんなで、はなしをして、それから、それから・・・・俊馬先生に、そうだんする」
 一生懸命に考えながら、ゆっくりと答えたのは黄平だ。丸っこい顔に穏やかな笑みを浮かべている。
「なるほど。先生を、信頼しているのですね」
 和奏もにっこりとうなずく。
「おい、みんな! 『アヤカシごっこ』するぜ! 俺がアヤカシ役をやってやるから、みんな、かかって来な!」
 焔騎の呼びかけに、男子たちから歓声が上がる。ジェシュとベルトーも子どもたちと一緒にやる気満々だ。
「じゃ、俺もアヤカシ役をやりますよ。ふふ、俺の動きに、ついてこれますか?」
 志郎がそう言って早駆を披露してみせると、子どもたちが目を丸くする。
「自分も、参加させてもらっていいですか?」
 和奏が言う。親の愛情が強いあまり、ほとんど家から出してもらえない子だった彼にとって、こういう子どもらしい遊びは初めてで、彼自身わくわくしているようだった。
「よっしゃ、おめーら、気合い入れて遊ぶぜぃっ!」
『おー!』
 鹿之助の掛け声に、子どもたちの応えが、重なった。

「君は、みんなといっしょに遊ばないのか?」
 木陰に座ってみんなの様子を見つめていた翠に声を掛けたのは、ハイネル(ia9965)だ。
「私は、みんなと違ってあんまり身体が丈夫じゃないのです。あ、でも心配なさらないでください。こうしてみんなが笑っているのを見ているのが、私はとても好きなのですよ」
 年齢に似合わない大人びた口調と表情で、翠は微笑んだ。それを聞いたハイネルは表情も変えなかったが、黙ってうなずいた。
「君は、偉いな。大人としては、子供は甘えたり誰かを頼っても構わないとは思うが、苦手かね?」
 媚びることも責めることもせず、真っ直ぐに尋ねたハイネルに、翠も真剣な表情になって応える。
「そうですね、少し・・・・苦手かもしれません。両親は忙しくて、私には弟と妹が合わせて五人もいますから、甘えている暇などありませんでした」
「俊馬先生は――彼は、甘えさせてはくれないのか?」
「先生が?」
 ハイネルの言葉に、翠は小さく首を傾げる。それから、ふっと、わずかに笑みを零した。
「そうですね、先生は・・・・俊馬先生は、唯一私を甘えさせてくれる存在かもしれません」
「俊馬のことが好きなのか?」
「ええ、とても好きですよ。尊敬しています」
 答えた翠の言葉には、淀みがなかった。
 思春期の少女が密やかな恋について口にする場合は、もっとためらいや照れがあるものだろう。ということは、おそらく彼女の感情はあくまでも敬愛や思慕であり、恋愛感情ではない。ハイネルは、そう判断した。
「私にも少しは甘えてくれて構わない。もしよかったら、だが」
 利口でしっかりとした、けれどほんの少しだけ寂しさを見せる翠の瞳を見つめながら、ハイネルは思わずそんな言葉を口にしていた。娘が生まれていれば、このぐらいかもしれない。そんな思いが、彼にそう言わせたのかもしれない。
 翠が驚いたように彼を見上げる。
「・・・・ありがとうございます」
「少し、話でもしようか。私の生まれ故郷、ジルベリアの話でも聞かせてあげよう」
 ハイネルの誘いに、翠はうれしそうに微笑んだ。


「桃子ちゃん、お姉ちゃんと久しぶりにお話ししましょう〜♪」
「おねえちゃんだ〜」
 顔見知りの由花がにっこりと笑いかけると、桃子はうれしそうにしがみついた。
「はじめまして、真夢紀です。あたしも桃子さんとお話ししたいです」
 真夢紀も笑顔で言う。開拓者ではあるが、真夢紀は桃子とそんなに歳が変わらない。だから警戒心を解くことが出来たのだろう、桃子が素直にうなずく。
「いいよ、まゆきちゃん。あそんだげる」
「ありがとうございます」
「じゃあ、あっちに行きましょう。女の子だけの、内緒話です♪」
 そう言って由花が桃子の手を引くと、桃子は目を輝かせてうなずき、それに従う。
「先日、『ばれんたいんでー』と『ほわいとでー』というよその国の行事があったんですけれど、桃子ちゃんは俊馬先生になにかあげたりしましたか?」
 由花が尋ねると、言葉の意味が理解できなかったのか、桃子はきょとんとしている。由花が好きな人に贈り物をする行事だと教えてあげると、桃子は悔しそうな顔になった。
「しってたら、桃子もしゅんませんせぇに、ぷれぜんと、したかったのに・・・・あっ」
 言ってしまってから、そこに桃子の秘めた思いをまだ知らない(はずの)真夢紀がいることに気づいて顔を赤くする。そんな様子を微笑ましく思いながら、真夢紀が口を開いた。
「その大好きな先生の言う事、聞かなくなったって聞きましたけど、何かあったのですか?」
 真夢紀の言葉に、桃子がぷくっとほっぺたを膨らませる。
「だってせんせぇ、桃子にやさしくしてくれないんだもん。桃子より、みどりちゃんのほうがいい子だから、せんせぇはみどりちゃんが好きなんだ。桃子のこと、きらいなんだ」
 口を尖らせたまま言いながら、その大きな瞳がだんだんと潤んでくる。
「翠さんのことが嫌いなのですか?」
 由花の問いに、桃子はぷるぷると首を振る。
「ううん、好き。でも・・・・だって・・・・せんせぇが・・・・」
 再び泣きそうになる桃子に、真夢紀が穏やかに話しかける。
「桃子さんは、先生のどういう処が好きなの?」
「あったかいとこ。いじわるしないとこ」
「桃子さんは『乱暴者は嫌い』だと聞きましたけど、でしたら、他の人の練習帳をいきなり墨で塗るような『乱暴者』もあんまり人に好かれないと思わないですか?」
 真夢紀に穏やかにさとされ、桃子は口をつぐむ。
「翠さんが先生に褒められたのは、先生の言う事を聞いて、お勉強をしているからでしょう? 先生の理想の女性像は優しい人、だそうですけど・・・・桃子さん、自分がそうだと思いますか?」
 真夢紀の言葉に、桃子は唇を噛みしめるようにしながら、首を横に振った。
「今先生が桃子さんに構ってくれるのは、貴方が先生の生徒さんだから。生徒さんでなくても先生が桃子さんを見てくれるように・・・・今から頑張ってみませんか?」
 あくまで穏やかな真夢紀の声だが、桃子にはずいぶんと効いているのだろう。涙がこぼれ落ちそうになるのを必死でこらえながら、それでもしっかりと首を縦に振る。
「恋する気持ちって、自分ではどうしようもならないですよね」
 それまで黙って二人の様子を見つめていた由花が、ふっと呟く。その表情は、桃子の真っ直ぐな思いに憧れるように輝いている。
「・・・・桃子ちゃんこれ、あげます。私は、桃子ちゃんの味方ですよ♪」
 彼女が差しだしたのは、恋愛成就のお守りだ。びっくりした表情で、桃子がそれを受け取る。
「桃の花言葉って、『チャーミング』『私はあなたのとりこ』『天下無敵』なんですって。桃子ちゃんにぴったりです」
 そう言って笑いかけると、桃子はすっかり泣きやんで、いつも通りのおませな顔で、にっこりと笑った。
「おねえちゃんたち、ありがとう! 桃子、いい女になって、ぜったいに、せんせぇをふりむかせてやるわ!」
(桃子ちゃん、素敵な恋愛ができますように・・・・私もですね・・・・)
 お守りを握りしめて走り出した桃子の背中を見つめながら、由花は小さくため息をついた。