伝聞屋迅助、颯爽登場!
マスター名:sagitta
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/01/27 19:40



■オープニング本文

 アヤカシ――魔の森の障気から生み出される不浄の存在にして人類の永遠の敵。天儀に生きる者たちのささやかな平和は、アヤカシどもの襲撃によって脆くも崩れ去る。
 そしてそんなアヤカシどもから人々の平和を守るために活躍する開拓者――生まれながらにして志体をその身に有した、優れた存在たち。
 志体を持たぬ数多の民草たちは、開拓者を含めた志体を持つ英雄たちに護られながら、アヤカシの名を耳にするだけですくみ上がり、ただ災禍を過ぎるのを身を縮めて待つばかりであった――。
 と、思いきや。
「俺っちの名は伝聞屋の迅助! よっく覚えておきやがれ!」
 開拓者ギルドの受付で、まだ二〇にならない若者が、威勢のいい声で啖呵を切っていた。
 草の根か何かで赤く斑に染めた、奇妙な散切頭。右半分が白く、左半分が藍色という、わけのわからない染め方の着物。どこからどう見てもおかしな格好の男――迅助と名乗っていた――が、受付の担当者に向かってなにやら熱く語っている。
「俺っちはな、天儀中を回ってアヤカシどもの情報を集めて、自分のちんけな村のこと以外なんにも知らない連中に、知らしめてやるんだ。それが俺っちの使命だってことに、気付いちまった、ってわけさ!」
 盛大に唾を飛ばしながら、迅助が叫ぶ。
 小さな田舎の村に生まれた。彼が物心つく前に両親は、突然現れた蛙の姿をしたアヤカシに殺されてしまったらしい。誰もがそれを「不幸な事故だ」と言った。志体を持たぬ村人たちに、アヤカシに対抗する術などなかった。以来、親族の商家に引き取られた彼は商人になるべく育てられた。だが商売は、彼の性には合わなかった。
 迅助は開拓者になりたかった――だが、志体を持たぬ彼には叶わぬ望みだ。
 けれど、「アヤカシについてもっと知りたい。知らせたい」そう思う気持ちは、抑えきれなかった。初めは、両親のことが頭にあったのかもしれない。だがそれよりも、「真実を知りたい」という、彼の心の奥底から来る熱い思いに突き動かされるように、彼は親類の家を飛び出したのだった。
「俺っちの役目は、アヤカシどもを倒すことじゃなくて、真実を伝えることだ! それなら、志体をもたねぇ俺っちにも出来る!」
「はぁ・・・・なるほど。それで? 開拓者に何をして欲しいんで?」
 受付の男性の問いに、迅助はにやり、と笑って答えた。
「近くの森の奥で鬼を見た、っていう噂がある。真相を確かめに行く俺っちの護衛を、開拓者のやつらに頼みてーんだ」


■参加者一覧
ロウザ(ia1065
16歳・女・サ
嵩山 薫(ia1747
33歳・女・泰
周太郎(ia2935
23歳・男・陰
藍 舞(ia6207
13歳・女・吟
キルグリーシャ(ia7343
20歳・女・シ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
キァンシ・フォン(ia9060
26歳・女・泰
柳ヶ瀬 雅(ia9470
19歳・女・巫


■リプレイ本文

●ごあいさつ
「あんたらが、有名な開拓者、ってヤツか! 俺っちは人呼んで、伝聞屋の迅助だ。よろしく頼むぜ!」
 ギルドで顔を合わせるなり、迅助が興奮気味に口を開いた。
「お初にお目にかかる。・・・・キラと呼んで欲しいね」
 対照的に、落ち着いた声音で、妖艶な笑みを返したのはキルグリーシャ(ia7343)だ。その表情と露出度の高い豊満な身体に、迅助は顔を赤らめる。
「ろうざは ろうざ! じんすけ てつだう! がう!」
 元気いっぱいのケモノのような娘ロウザ(ia1065)が、ニィッと白い歯をむき出してとびはね、迅助を驚かせる。
「俺たちも自己紹介、させてもらうぜ。なぁ、周?」
 そう言って、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が周太郎(ia2935)に目配せした。周太郎は色付眼鏡の奥で小さく苦笑しながら、これにうなずく。
「頼まれた依頼は、達成するまで引き下がらない! お前の眼前に広がる未知を踏み均して路を作る! それが俺と周、解消屋ディスペアーズの生き様だッ!」
 決まった! ビシッとポーズを決めて、焔騎は思った。
 周太郎は「懐かしいな、その毎度変わる口上」などと呟いている。
 開拓者たちのめまぐるしい個性的な挨拶に、迅助が目を丸くする。
「俺っちも結構な変わり者だと思ってたが、やっぱ世の中ってのは広いもんだな。もっともっと真実をこの目でみてこなくっちゃいけねぇな!」
「ご自身の目で真実を確かめ、多くの人にそれを知らせる。とっても素晴らしいことだと思いますわ。ぜひともお手伝いさせて下さいませ」
 柳ヶ瀬 雅(ia9470)がふんわりと笑いかける。
「まぁ、心意気は悪くないわ。一人でつっこむほど馬鹿じゃないみたいだしね」
 クールに笑ったのは藍 舞(ia6207)だ。
「ところでその髪は・・・・地毛?」
 舞の言葉に、迅助はぶんぶんと首を振る。
「これはな、俺っちが森の中で見つけた特別な草でもって染めたもんで・・・・」
「冗談よ。ちなみに、うちの方は曰くも何もない生まれつきだからね」
 黒い肌に白い髪、という珍しい外見の舞はそう言って笑う。
 確かに、これだけ色とりどりの人々たちの中では、迅助の傾きっぷりなどほとんど目立たない。
 驚きっぱなしの迅助に、嵩山 薫(ia1747)が静かに声を掛けた。
「伝聞の極意をひとつ教えてあげるわ。まずは生きて帰ることよ」
 言葉に籠もる真剣な響きに、迅助は口を噤んだ。
「古人曰く、『死人に口無し』・・・・ってね」
 おっとりとした彼女の言葉に、迅助はしっかりと、うなずくのだった。

●アヤカシの森へ
「魔の森ではないとはいえ、森林は人の住む領域外の世界。油断は禁物よ」
 森へ向かう小道をたどりながら、薫が迅助に告げる。迅助の周囲にいるのは、薫、キラ、雅、それにキァンシ・フォン(ia9060)だ。
「今回はあなたを護る護衛班、先行して調査する情報収集班に分かれて行動するわ」
「なんでさ? 俺っちもいっちゃん前で情報収集を・・・・」
 そう言って今にも飛び出そうとする迅助の身体が引き戻される。キラが彼の首根っこをひっつかんだのだ。勢い余った迅助はキラの豊満な身体に抱き留められるような格好になる。
「うぐ・・・・顔にむ、胸が・・・・く、苦しい、でもきもちい・・・・」
 迅助のうわごとのような呟きを聞こえないふりして、キラが言う。
「真実を知りたい、ってのなら慎重にならないとだめだよ。真実を知って、其れを伝えれなかったら意味がないだろ? 情熱は必要だが、それだけでは何も出来ない。・・・・分かったか?」
 キラの問いかけに、迅助がぶんぶんと首を縦に振る。顔が真っ赤なのは、どうやら豊かな胸で窒息しそうだったようだ。
「天ヶ瀬さんからお借りした呼子笛は、持っていますか? これで、前方の情報収集班との連絡を取り合うのですよ」
 雅の言葉に、迅助が渡された笛を懐から取り出して眺めた。
「何かを発見したら笛一回、緊急招集には笛二回、と合図を決めてあるの」
 薫が説明すると、迅助がほぉ〜と感心した声を漏らした。
「なるほどなぁ。よっく考えるもんだ。勉強になるぜ」
「わかったら、笛の合図を聞き逃さないようにな。美人に囲まれて嬉しいだろ?」

 一方、迅助たちから数分ほど先行した森の中。
「あしあと さがす! ろうざに まかせる!」
 そう言いながらロウザが地面を這うように駆け回り、五感を総動員して調査に当たる。
「情報収集にかけてはうちの方が迅助よりも先輩。出来る所を見せないとね」
 そう言いつつ、舞も身軽にあたりを見回している。
 その少し後ろでは解消屋コンビこと焔騎と周太郎がいつでも戦いに入れるようにあたりを警戒する。
「あしあと みつけた!」
 ロウザが叫んだ。すぐに舞も駆け寄り、それを確認する。
「これは二足歩行のものだわ。小さいのがたくさんと――大きいの。なるほど、鬼のものに間違いなさそうね」
 舞にうながされたロウザが、呼子笛を吹いた。高く、ひとつ。
「とりあえず、すぐ側に隠れている、ということはなさそうだな」
 心眼の技術であたりの気配を探った焔騎が言った。
 護衛班が到着するまでの間に、さらに調査を進める。
「たぶん、大きいのが一匹で、小さいのが十匹くらいかしら」
「えだが おられてる。たぶん、いつもここ とおってるから」
「へえ、すごいな」
 てきぱきと調査を進めるふたりに、周太郎が感心した声を上げた。
「もりのこと もりにきく! これ ただしい!」
 ロウザがうれしそうに胸を張った。

●鬼退治
「鬼が、見つかったのかっ?」
 合流するなり、迅助が興奮して叫んだ。
「本体がいたわけじゃない。だがロウザがまだ新しい足跡を見つけたんだ。この先に、おそらくは鬼どもがいる」
 舞が説明すると、ロウザがきらきらした瞳で迅助に駆け寄った。
「ろうざ みつけた すごいか?」
「すげぇ! ものすごくすげぇ!」
 心から素直にそう言ってわしわしと頭を撫でる迅助に、ロウザがうれしそうに目を細める。
「さぁ、準備はいい? 先に向こうに気付かれないように静かに、近づくわよ」
 薫の言葉に、全員が静かにうなずいた。

 目の前の坂の下に、鬼がいた。
 人間ほどの大きさの鬼が一匹、子供くらいの鬼がおよそ十匹。人間に危害を加える、アヤカシの一種だ。
 あらかじめ焔騎の心眼で気配を感知してから近づいたから、まだ向こうはこちらに気がついていない。
 ロウザは物陰に「お座り」の体制でしゃがみ込んで鬼どもを見据えながら、ぐるるると唸っていた。森は彼女にとって神聖な地だ。そこにアヤカシがいるのは不快に感じる。
「ふむ、倒せない相手じゃねぇな、どうする?」
 焔騎がたずねる。
「そうね・・・・」
 薫が、判断を求めて後ろの迅助に顔を向けた。
「お、お、お、鬼だぁっ!」
「あ、おい、ちょっと!」
 キラの叫び声。興奮した迅助が、物陰を出て鬼たちに向かって飛び出したのだ。
「はっ!」
 舞が咄嗟に腕を伸ばし、そのまま走り抜けようとした迅助を殴りつける。思いっきり転倒した迅助が目を回す。
「あら、木の枝にでも躓いたんじゃない?」
 頭を強打して涙を浮かべる迅助にそんな言葉を投げかける。その間にキラが迅助の元に駆け寄って彼を抱きすくめている。
「とりあえずあんたはおとなしくしておきなよ」
「・・・・しかし、すっかり気付かれてしまったようだな」
 眼下に視線をやった周太郎が呟く。みれば、騒ぎに気付いた鬼たちが彼らを見つけて騒ぎ出している。
「かまわねぇ、こうなったら先手必勝だ! 俺達を抜けて行けると思うなよッ!」
 そう言いながら、焔騎はすでに走り出している。息をぴったりと合わせて、周太郎も駆け出す。
「腐っても『解消屋』・・・・たとえ命の危険があろうとも、『解消』する」
「がるるるるる!」
 「戦う」という結論に至ったと判断したのだろう。臨戦態勢だったロウザもしなやかに飛び出した。
 フォンも拳を握りしめてそれに続く。
 本物の戦いが、迅助の目の前ではじまったのだった。

 ドーン!
 たくさんの小鬼に囲まれたロウザが持ち前の怪力でぶんぶんと回転し、敵を一気にはじき飛ばした。
 その小鬼にフォンが旋風脚を叩き込んで沈める。
「鬼さんこちら、『腕』のなる方へっと!」
 目立つ外套をひらひらさせながら、舞が戦場を駆け回る。鬼どもの狙いを引きつけ、迅助の元に行かないようにしているのだ。誘いに乗った愚かな小鬼を殴りつけて確実に倒していく。
 それでも敵の数が多い。何匹か、戦場の中心から外れる小鬼どもがいた。
 迅助に近づこうとした小鬼が、吹き飛んだ。迅助を護っていた薫の強烈な一撃を受けたのだ。
 興奮して飛び出していこうとする迅助をキラが抱え込んで抑え、時々手裏剣を放っては鬼達を牽制している。
 その後ろでは雅が、少しでも怪我をしたら癒しの術を施そうと身構えている。
 迅助を護るフォーメーションは万全だった。
 そして、親玉と思しき鬼と退治するのは、焔と周の「解消屋」コンビ。
「オン・マリシエイ・ソワカ!」
 周太郎の紡いだ言葉と共に生じたかまいたちが、鬼の筋骨隆々な身体を切り裂く。その隙に距離を詰めた焔騎が叫ぶ。
「我流。精霊剣・弐式蒼焔ッ!」
 その幅を広げて光を纏った刀が、鬼に叩きつけられた。苦しみにうめいた鬼がその腕を振るうが、焔騎はそれを刀で受け止める。
「ナウマク・サンマンダ・ボダナン・インドラヤ・ソワカ!」
「くらえっ!」
 周太郎の放った雷撃と、息を合わせた焔騎の流し切り。二人のコンビネーション攻撃が、鬼を、地面に沈めたのだった。
「ろうざも やっつけた!」
 見ればロウザとフォンの周りにいた小鬼達も全て大地に倒れていた。
「すごい! これが、開拓者達の戦いなのか! これが、真実なのか!」
 迅助の叫び声は、森の木々の中に溶けていった。

●伝聞屋迅助のはじまり
「収穫になったでしょうか? またよろしければ何かの機会にご一緒したい次第ですね」
 無事に帰ってきてギルドでささやかな祝杯を挙げながら、雅が柔らかな笑みを迅助に向けた。
「ああ、本当にすごかった! ありゃあ、俺っちの想像をはるかに超えていたね。そんで、俺っちや普通のやつらが、あんた達のことやアヤカシのことを、どれだけ知らないかってのを身をもって感じたぜ」
「これからの活躍にも期待しているが、無理だけはしないようにな」
 興奮気味の迅助に、焔騎がそう言って笑う。
「どうせ広めるなら、うちら開拓者のことを広めてちょうだい? そうすればどこかの誰かが死なずにすむかもしれないし」
「おう、合点承知!」
 舞の言葉に、迅助が嬉しそうにうなずく。
「なんでも見るのは面白い。命が対価じゃなければ、ってな。命は無駄にするなよ。ま、命懸けもいいもんだがね」
 周太郎が忠告になっているのかいないのか、そんなことを言う。
「真実とは時に残酷であるものよ。貴方にもいずれ、真実に触れる事を悔む日が来るでしょう」
「悔む?」
 唐突にも思える薫の言葉に、迅助がきょとんとした顔をする。
「そこで目を背けずに立ち向かい続けられるか・・・・きっとそれが、貴方にとっての『戦い』ね」
 そう言って笑った薫に、迅助はうなずいた。
「今はまだわからねぇけど、その言葉、ちゃんと覚えておくよ」
 こうして、若き伝聞屋迅助の活躍は、ここからはじまったのであった。