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■オープニング本文 ● もはやここまでか。 絶望的な気分に襲われて、俊馬は膝をついた。息が上がって、まともに立っていることができない。術はもう打ち止めだ。もっとも、使えたところで目の前のアヤカシに対抗できるような術など、俊馬は知らなかった。 「シャアアアッ!」 ヘビの、頭部ばかりを強調したようなグロテスクな姿のアヤカシが、笑い声のような音を裂けた口から漏らしている。あれは、哀れな僕らを嘲笑しているのだろうか。 月のない夜空のように黒い鱗が、ぬらぬらと妖しくきらめく。 そしてアヤカシの眉間に光るのは、地獄の炎を映したような、暗い赤色に染まる第三の瞳。 「このっ! くらえっ!」 聞き慣れた相棒の、必死な声がして、俊馬は我に返る。絶望に身を任せようとしていた自分とは違い、相棒である女性は、刀を握りしめてアヤカシを睨みつけている。その顔に諦めの表情は、ない。 「俊馬! 援護を頼む!」 相棒が――星羅が、アヤカシを睨みつけたまま、背中で俊馬に声をかける。その真剣な様子に、俊馬は思わず苦笑した。星羅は、この強大な相手に対して、本気で勝つ気でいるのだ。 思えば、相棒はいつでもそうだった。周りからいくら無理だといわれても、一度として諦めたことがない。そして最後には、不可能だと言われていたことを、成し遂げてしまうのだ。 星羅の強い意志は、いつも俊馬を救ってくれた。臆病で悲観的な彼を、半ば強引に、連れ出してくれたのだ。だから、今度だって。 俊馬は悲鳴をあげる体を励まして立ち上がろうとした。 その時。 柔らかいものが貫かれる、不快な音が響いた。アヤカシの、刀のように鋭利な牙が星羅の肌に突き立てられたのだ。 時間の流れが、遅くなったように俊馬は感じた。目の前で、星羅の体がゆっくりと崩れ落ちていく。倒れる寸前の星羅の表情は、笑っていた。 「やったよ、俊馬・・・・」 アヤカシの牙にその身を貫かれる寸前、星羅の刀もアヤカシの胴を両断し、痛撃を食らわせていたのだ。邪悪なる蛇のアヤカシは、それでもなおしぶとく生きのびてはいたが、たまらずに身をくねらせて森の奥へと逃げていく。 「俊馬のことを守れた。よかっ、た・・・・」 それが、星羅の最期の言葉だった。 ● 「星羅ッ! ・・・・はぁ、はぁ・・・・」 荒い息を吐きながら、俊馬は身を起こした。 あわてて周囲を見るが、傷ついた星羅も、恐ろしいアヤカシも、そこにはいなかった。 そこが見慣れた自分の屋敷の寝室であることに気付いて、俊馬は深くため息をつく。 いつもの夢だ。 あれからすでに五年の月日が流れているというのに、あの日の光景はいまだ俊馬の心を解放してはくれない。 星羅は、俊馬をかばって死んだ。 何度も何度も、俊馬は死のうと思った。 だが死にきれず、この町に逃げてきて、まるで罪滅ぼしをするように寺子屋を開いた。 「寺子屋 俊馬」 その名の通り、志士である俊馬が、都市の子供たちを相手に学問を教える手習所だ。 ここに通う子どもたちの共通点は、「志体持ち」であること。年齢も性別もばらばらの、五人の門弟たちはみな「志体持ち」であった。 そこは、俊馬が彼らを導きたい、という想いから作られた場所だ。「志体持ち」であることに過信し、無謀な戦いで自分や、大切な仲間の命を危険にさらすような――自分のような愚かな人間を、これ以上出さないために。 当然ながら、そんなことで自らの罪が消えることなど決してなかったが、けれど俊馬は死ぬことを考えなくなった。今の彼には、守らねばならぬ者たちがいるからだ。 (「彼ら生徒たちのために――私は、生きる」) 俊馬の表情は後悔に歪んでいたのは、わずかな時間だけだった。床から立ち上がり、生徒たちを迎える準備を始めた俊馬の顔には、いつも通りの穏やかな表情。 (「あの子たちが、私を、ふたたび生きさせてくれたのだ」) だから俊馬は、いつも生徒たちのことを考えている。生徒たちのためならば、命さえも投げ出すことができる。生徒たちは俊馬の、存在意義だった。 だが、その意志とは裏腹に、あのぬらぬらとした黒い鱗が、そして暗い炎の色に輝く額の瞳が、俊馬の脳裏から消えることはない。 「てぇへんだ!」 表の通りで騒がしい声が聞こえてきて、俊馬は我に返った。枕元に置いていた刀を、鞘ごと掴む。 「一体、何があったのです?」 上着を羽織って通りに顔を出した俊馬に、町人の男があわてた様子で近づいてくる。 「ああ、志士の旦那聞いてくれ! 町のすぐ近くの森に、アヤカシが出て、人を襲ってるって話だ!」 男の言葉に、俊馬が眉を曇らせる。だが、その表情も、次の言葉を聞いて凍り付いた。 「アヤカシは、真っ黒な鱗をした、でっかい蛇みたいなやつなんだ!」 (「・・・・星羅の、・・・・仇ッ?!」) 次の瞬間、俊馬は駆け出していた。憤怒のあまり表情を無くした顔で、右手に抜き放った刀を握りしめて。その顔にいつもの穏やかさ、冷静さはまるでない。 「おいおい、大丈夫か?」 俊馬に知らせに来た町人の男でさえ、心配そうにその背中を見送っていた。 「・・・・俊馬先生」 背後で息を呑む声が聞こえて、町人の男は後ろを振り返った。たった今寺子屋にやってきたらしい少女が、立ち尽くしている。 「ああ、俊馬先生の生徒のお嬢ちゃんか。あぶないから、お嬢ちゃんは屋敷の中に入ってな」 町人が差しだした手をふりほどいて、俊馬の生徒の少女――翠は俊馬が去ったあとをにらむように見つめた。 (「先生の表情――まるで、死ぬつもりみたいだった!」) このままではいけない。先生を行かせちゃダメだ。理屈ではなく、翠はそう確信する。 そして明晰な頭脳で、今自分がどうするべきかを判断し、翠は開拓者ギルドへと走った。 「先生を、俊馬先生を助けて!」 |
■参加者一覧![]() 19歳・男・陰 ![]() 10歳・女・巫 ![]() 15歳・男・陰 ![]() 20歳・女・陰 ![]() 17歳・男・サ ![]() 17歳・男・志 ![]() 11歳・男・魔 ![]() 25歳・女・サ ![]() 11歳・男・志 ![]() 12歳・男・吟 ![]() 21歳・男・サ ![]() 10歳・男・砲 ![]() 11歳・女・吟 ![]() 24歳・男・泰 ![]() 30歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● 「先生の表情、普通じゃありませんでした! いつもの先生だったら、アヤカシが出たからってあんな表情はしないのに・・・・」 いつになく取り乱した様子での翠から話を聞き、礼野真夢紀(ia1144)が表情を曇らせる。 「確かに、蒼太さんの妹さんがさらわれたときに比べると冷静さを欠いているようですね。何かあったのでしょうか・・・・」 「まったく、何があったか知りませんが・・・・子供たちを心配させてはいけませんね」 険しい表情でそう言ったのは、長谷部円秀(ib4529)だ。 「随分と頭に血が上っているようですねぇ。この様子ですと、過去に何かあったのかもしれませんが・・・・」 「あ、あの、私、聞いたことがあるんです!」 思い切ったように翠が口を開く。 「私の両親が、アヤカシに殺された、ってことを先生に伝えたときに、先生がおっしゃったんです・・・・『私も、同じなんだ』って。先生も、大切な人を、アヤカシに殺されたことがあるって」 「なるほど、ね・・・・。先生の気持ちは、判らないでもないけど、でもさ、復讐したって、何をどうしたって死んだ人は返ってこないんだよ」 噛みしめるようにつぶやいたのはベルトロイド・ロッズ(ia9729)だ。彼も、そして双子の弟のジェシュファ・ロッズ(ia9087)も、両親をアヤカシによって失っている。 そのジェシュはといえば、俊馬の気持ちには全く共感できず、不思議そうな顔をしている。死んだ人間は戻らない、それなのに、どうしてそんなに熱くなるのだろう? 「復讐、という奴かねぇ・・・・今更倒したところで何も戻らんと言うに。自分の過去よりも自分の先を見据えないのは教えるものとして悪いことだな」 辛辣な口調で言ったのは雲母(ia6295)だ。 「一人で行くなんて馬鹿な事するもんじゃのぉ、理由があるとはいえ、喝入れちゃらんとのぉ」 獅子神鋼(ib5500)も、いつでも飛び出せるように腰の銃を確かめながら言う。 「先生は・・・・死ぬつもりなのかも・・・・殺されたその人のこと、先生は、好きだったみたいだから・・・・」 泣きそうな様子で翠が言葉を絞り出した。その肩をつかんで、平野譲治(ia5226)が叫ぶ。 「んなっ! 自他問わず命を粗末にするのは駄目なのだっ! 全力で阻止するのだっ!」 彼の脳裏に浮かぶのは、雲の中に見た幻想。彼の愛する家族が、アヤカシに襲われる姿。それを現実にさせないために、彼は自らを鍛えているのだ。 「俊馬っ! と、先生は、どっち行ったなりっ?」 速くも走り出している譲治の姿が、合図となった。開拓者たちがそれぞれの武器と思いを握りしめ、俊馬の向かった道の先へ走り出す。 「大事なものを失う気持ちは痛いほど分かる・・・・だからこそ先生には強く生きて欲しいな」 みんなを追いかけて走り出しながら、夜叉刀(ia6428)は、咥えた煙管に触れて呟いた。 ● 先行する開拓者たちが、俊馬を追って町外れに向けて駆け出した後。 「さて、翠ちゃん。ボクたちが寺子屋に送っていくよ」 蒼井御子(ib4444)が、安心させるように翠に笑いかける。 「私は・・・・」 「他のみんなももうじき来るころだよね? ちゃんと説明しないと、みんなに心配させちゃうからね」 思い詰めた表情で何かを言おうとしたのを遮って、御子が翠の背中を押して寺子屋へうながす。 寺子屋には、すでに他の生徒たちがそろっていた。詳しいことまでは分からずとも、周りの様子からある程度の所までは察しているのだろう。私語もなく、しんと静まりかえった部屋の中で、生徒たちの視線が入ってきた開拓者たちに集まっていた。 「先生はっ」 一番年上の朱吉が、身を乗り出す。俊馬の危機を伝えたら、すぐにでも走っていきそうな様子だ。メグレズ・ファウンテン(ia9696)が、そんな朱吉を手ぶりで制し、御子がみんなに向かって事情を説明する。 「――ってトコだね。だから今日はたぶん授業はできないかな。それで――みんなはどうしたい?」 御子の言葉に朱吉は腰を浮かしかけ、蒼太は迷ったように目を泳がせ、黄平は困った顔をしている。桃子は大きな瞳を潤ませて、今にも泣き出しそうだ。 「話は聞いてるよ。みんな今までに、それぞれに開拓者たちと接触したよね? その上で、教えて、キミたちの答えを」 御子がさらに問う。 「先生は、必ず助けます。ですから、私達を信じて先生の帰りを待っていただけませんか? 帰る場所があること。先生の一挙手一投足に、喜びもすれば悲しむ人たちがいることを、戻ってきた先生に伝えるため、お願いします」 メグレズが真摯な口調でそう言い、生徒たちに向けて頭を下げた。 「私は・・・・連れて行って欲しいです」 意外にも強い口調で宣言したのは、翠だった。 「待っている人がいること、私の口から伝えたいのです」 「俺もだ。無茶はしない、と、約束するから。頼む!」 朱吉もそう言って頭を下げる。 蒼太も、黄平もそれに続いて頭を下げた。桃子まで、真剣な表情でうなずいている。 「それなら僕は止めないよ。分かっているとは思うけど、決して、危ないことはしないようにね」 リュートをつま弾きながら、そう言ったのは琉宇(ib1119)彼の思いが旋律に乗り、生徒たちの心に届く。 「君たちには、先生が無事に戻ってきたとき、僕から大事な依頼があるからね」 ● 「あれだな、見つけた」 駆け抜けながらそう呟いたのは鴉(ia0850) だ。嬉々とした顔で、懐から取り出した符を指に挟み、戦いの準備を整える。 「もうはじまってるな」 黒霧刻斗(ib4335)が太刀を抜き払いながら言った。 見れば、後ろ姿の俊馬が両手に小太刀を構え、黒い鱗の大蛇と相対しているところだった。俊馬はすでに満身創痍といった様子で、大蛇の牙が、彼に迫っていた。 「先生、援護します!」 真夢紀が叫ぶが、俊馬はそれに気付いていないのか、なおも刀を構えて大蛇にかかっていこうとしている。 「もっと落ち着けよっと」 「俊馬・・・・激情は剣を鈍らせるぞ!」 鴉と刻斗が口々に言い、加勢するべく踏み出す。だが、距離が遠い。彼らがたどり着くよりも先に、大蛇の牙が俊馬に襲いかかろうとする。 次の瞬間。 ギィィンッ! 耳障りな金属音を響かせて、大蛇の牙が虚空を咬んだ。 とっさに飛び出した和奏(ia8807)が、俊馬の身体を後ろからつかんで引き倒し、すんでのところでその身体を刃から護ったのだ。 「ちょっと、手荒でしたが・・・・冷静になって、いただかないと・・・・」 荒い息をつきながら、和奏が言う。 「はなせ、俺は、星羅の仇を・・・・」 いつもの穏やかさからは想像もつかない血走った目で、俊馬がもがく。 「過去に縛られ、あまつさえ自分の後ろを見ないか」 雲母が、軽蔑したように呟く。 パシイインッ! 乾いた音が響いた。円秀が、俊馬のほおを思い切り殴りつけたのだ。 「少しは冷静になりなさい! あなたは子供達の先生でしょう。今のあなたは子供達を不安にさせます。何を見てるか知りませんが、今を見なさい!」 円秀の鋭い言葉とほおの痛みで、俊馬の瞳がようやく像を結ぶ。 「子供・・・・たち」 「俊馬先生、自分だって、俊馬先生の生徒です」 声を張り上げたのは、ジークフリートこと、S・ユーティライネン(ib4344)。開拓者でありながら、俊馬の生徒でもある少年だ。 「みんな生徒たちは、俊馬先生が帰ってくるのを待ってます。自分もです。自分たちは、俊馬先生『の』思い出話をしたいんじゃないのです。俊馬先生『と』思い出話をしたいんです」 「一人では無茶ですよ。一声掛けてくれれば先生の大事、いつでもきますのに」 真夢紀も心配そうな顔で言う。 「何があったかはよく知らないけど、みんな心配していたよ? 早く退治して、みんなに笑顔を見せないとね〜」 「黙っていくのは水臭いのだっ! 今度からちゃんとおいらたちに言うのだよっ!」 ジェシュと譲治は、軽い調子で俊馬に声を掛ける。 「大事な人を失った痛みは判らなくもないよ。俺もそうだったしね。でも、なくしたものより残っているものと新しく手にしたものを見据えなくっちゃね」 ベルトーの言葉は、俊馬の胸にまっすぐに届く。 「あなたたち・・・・」 俊馬が小さく呟き、そして微笑む。 鴉だけは、そんな様子を理解できない、というように無表情に眺めていた。その表情に少しだけうらやましそうな様子がにじんでいることに、本人は気付いていない。 「シャアアアアアアッ!」 落ち着いている暇はなかった。 大蛇が威嚇のための叫び声を上げて、俊馬を八つ裂きにしようと迫ってきていた。 しかも一匹ではない。どこからわいて出たのか、いつの間にか同じような黒い鱗の大蛇が合わせて五匹、俊馬と開拓者たちを取り囲むようにその長い身体をくねらせていた。 よく見れば、その額に赤い瞳は、ない。 「どうやら、私の大切な人の仇では、なかったようです。倒さねばならぬアヤカシであることには変わりありませんが」 冷静さを取り戻した俊馬が言う。 「俺は大事な人を奪うてめぇらアヤカシが大嫌いだ、だから・・・・シネ」 完全に目が据わった表情で冷酷に告げたのは、夜叉刀だ。普段は明るい彼だが、戦闘になると人格が変わる。夜叉刃の名を持つ戦闘人格の彼は黒い大蛇をにらみつけ、残虐な表情を見せた。 「暗めなカラーがかっこいいな♪ ――くれよ、その鱗」 鴉が、容赦ない笑みを浮かべて、指先に挟んだ符に念を込める。 「仇ではないのならば、遠慮する必要はなさそうだな」 雲母が煙管を咥えたまま、弓を構えた。 「黒霧、ぬしの背中は守らせてもらうわぃな」 獅子神が、そう言うが早いか、銃声が響き蛇の鱗に穴を穿つ。 それを合図にするかのように、開拓者たちがそれぞれの得物を手に、跳んだ。 ● 鴉の斬撃符、雲母の矢、そしてジークと獅子神の銃弾が遠距離から着実に大蛇たちの鱗を削り、和奏とジェシュの術がその動きを鈍らせる。 前衛には夜叉刀と黒霧、円秀とベルトー、そして真夢紀と譲治の治癒の術によって万全の状態になった俊馬が立ち、強大な牙を受け止めながら反撃する。 大蛇の堅い鱗には多少手こずったものの、少しの傷を負っても真夢紀と譲治がたちどころに直してしまうという状況で、決定打をもたない大蛇はじわじわと削られていき、やがて、一匹ずつ力尽きていった。 真夢紀が残していった目印をたどって後続組が追いついたとき、戦いはほぼ終わりを迎えていた。 「たあっ!」 俊馬の小太刀が、最後の一匹の胴体を両断した。 「先生!」 生徒たちが、泣き出しそうな表情で俊馬に駆け寄ってくる。 「まったくのぉ、無事じゃったからええものの、一人で行くゆうんは無茶が過ぎるわぃな。こん子らにも心配掛けたんじゃけぇのぉ、ちゃんと謝っとかんといかんのぉ」 獅子神がそう言って、俊馬の背中をばしばしと叩く。 「みんな・・・・すみませんでした」 俊馬が生徒たちに向かって深々と頭を下げた。 「何時までも引きずるのは何にもならんな。自分と同じようにさせないようにするのが勤めだろう」 「自分みたいな若造が口にするべきことではありませんが、俊馬先生。どんなに辛くても耐えてください、どんなに悲しくても生きてください。きっと亡くなった星羅さんは、俊馬先生に望みを託したんです」 雲母とジークがそれぞれに口にした言葉に、俊馬は黙ってうなずく。 「殴ってすいません。でも子供達をしっかり見てあげないとまた殴りますよ?」 「ええ――心しておきます。ありがとう」 円秀が言い、俊馬が苦笑しながら応えた。 俊馬を囲む生徒たちに向かって、琉宇が言う。 「今回のことで、どう思ったのか。先生にはどうして欲しいのか。君たちの力で伝えて欲しいんだ。これが僕からの依頼」 「私は・・・・私たちは」 生徒たちを代表するように、翠が口を開く。 「先生のことを大切に思っています。たぶん、先生が私達のことを思ってくれているのと、同じように。だから、先生には、幸せになってもらいたい。・・・・私達のためにも」 「・・・・ありがとう」 そう言って、翠の髪の毛を撫でた俊馬の瞳には、涙がにじんでいた。 「貴方の人生は貴方のものです。だから貴方の生き方をどうこう申し上げるつもりはありません。ただ、貴方はすでに守るべき宝をお持ちです。今回はその宝達に救われたことは覚えておいてください」 メグレズが言う。 「時々、忘れそうになるのですが。アヤカシとはいえ相手の命を望むのですから、相手もこちらの命を刈り取るつもりでいらっしゃるのが道理なのですよね・・・・覚悟しているとは言いながら、それでも動転してしまうのは、どこかで自分は大丈夫だと慢心しているのでしょうか・・・・」 自分にも言い聞かせるように呟いた和奏の言葉は、開拓者達の、俊馬の、そして生徒達の、それぞれの胸に戒めとして刻まれる。 「すべてを含めて、強くありたいなと思います」 最後に全員を見回して、ジークがにっこりと笑って言った。 「帰りましょう。みんなと寺子屋へ」 |