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■開拓者活動絵巻
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■オープニング本文 ● 「秋だ! 溶けるような暑さもようやくおさまり、過ごしやすくなる。そして、実りの季節! 山の幸も海の幸も畑の幸も、ふんだんに取りそろえた幸せな季節!」 平和な開拓者ギルドで、今日も唾を飛ばしながら熱く語る迅助。 奇妙な散切頭を赤く斑に染めたおかしな格好のその男が、昼下がりのギルドで芝居がかった口調で語っている姿は、もはや恒例になりつつあった。 明らかにうさんくさい様子にも関わらず、その男が結構人気者なのは、一重に彼の話が上手いからだろう。さまざまな場所を旅しては、面白そうな出来事や噂に首をつっこみまくり、それをおもしろおかしく話して聞かせる。それが【伝聞屋】のル名をもつ迅助の、生き甲斐だった。 「そして、忘れちゃあいけねーのは、秋は祭りの季節だということだ! 収穫祭をはじめとして、たくさんの祭りが、秋に開催される! そーだろ?」 迅助の言葉に、ギルドで暇を持て余していた開拓者たちから、「そうだ、そうだ!」と合いの手が入る。 「ところでおめーら、『はろうぃん』っつーのを知ってるか?」 「はろうぃん?」 迅助の問いかけに、観客たちは首を傾げる。 「ジルベリアの風習だから、しらねーのも無理はねぇ。この日はみんなで色んな格好に仮装して、こう言うんだ。『てめーら、甘味を出せ、さもねーと、いたずらしてやるぜ!』ってな」 迅助の説明に、一同がぽかん、と口を開ける。 「か、仮装、って一体どんな?」 「色々さ。アヤカシとか、ケモノとか・・・・男装とか女装とか・・・・」 迅助が言うと、さらに一同の困惑顔が深くなる。 「一体何のために・・・・」 「さぁな、たのしそーだから、いいんじゃねーか?」 きっぱりとした迅助の言葉に、誰も返す言葉がない。 「ってなわけでな、なんかしらねーけど楽しそうだから、俺っちが主催で、勝手に『はろうぃん祭り』を開くことにしたっつーわけだ。せっかくだから誰の仮装が一番面白いか、独断と偏見で順位をつける、っつーのも楽しそうだな!」 迅助は一人で勝手に盛り上がってやる気満々だ。 「あ、そうそう、『はろうぃん』の日にゃ、意中の相手に告白するのがきまり、だっつー話も聞いたぜ。そういうのも、楽しそうだよな?」 ・・・・それは別の行事と混じっているのでは、という気がしなくもないが、それを指摘するものは誰もいない。 「それから、『はろうぃん』には甘味がつきものだからな。みんなで持ち寄ったり、手作りするのも良いな!」 ・・・・実が意外にも甘党な、迅助なのであった。 ● 北面の国のとある都市。そこに一軒の屋敷があった。 豪華、とは言えないがそこそこの広さを持つその屋敷の門扉は、日中は常に開かれており、門にはこんな表札が掲げてある。 「寺子屋 俊馬」 その名の通り、俊馬という名の一人の志士が、都市の子供たちを相手に学問を教える手習所だ。 ここに通う子どもたちの共通点は、「志体持ち」であること。年齢も性別もばらばらの、五人の門弟たちはみな「志体持ち」であった。 今日も今日とて、俊馬は生徒たちに授業をしていた。 最近では、臆病者だった蒼太が少し自信をつけてきたり、乱暴者だった朱吉が真面目に勉強するようになったり、引っ込み思案だった翠が少しずつ笑顔を見せるようになったり――と、わずかに成長を見せつつある生徒たちを、俊馬はうれしく思っていた。 (「開拓者たちと触れ合うようになったのが、いい影響になっているようですね」) 俊馬は心の中でそう思いながら、穏やかなまなざしで、生徒たちを見つめた。 (「生徒たちには、私のような思いはさせたくない――もっともっと、たくさんの人たちと触れ合って、外の世界を知って欲しいものです」) そう思ってしまうのは、親心、というものだろうか。 「・・・・さて、今日の授業はこれで終わりです。みなさん、気をつけて帰るのですよ」 そう言って、教材を片付けようとしたその時。 「さぁさ、みんな、祭りの知らせだぜ! 五日後開催の『はろうぃん仮装大会』! みんなふるって参加してくれよ!」 屋敷の前の通りから、騒がしい声が聞こえてくる。何事かと思った俊馬が通りに出ると、派手な格好の男に、押しつけるようにして一枚のチラシを手渡される。 「これは?」 「だれでも参加自由の、祭りのご案内だぜ。寺子屋の旦那も生徒さん連れて、ぜひ参加してくれ!」 勢いに負けて俊馬が思わずチラシを受け取ると、迅助はにっこりと笑い、騒がしく走り去っていく。 『仮装と甘味と恋にさわげ! はろうぃん祭り』 受け取ったチラシにびっしりと書かれた文字。 「仮装って、面白そうだな!」 「甘味! たべたーい!」 「こい、どきどきするなぁ」 俊馬が振り向くと、そこには、興味津々でチラシをのぞき込んでいる生徒たちの姿。 「わたしたちも参加、しましょうか?」 俊馬が苦笑しながら尋ねると、子どもたちの顔に、笑顔が弾けた。 |
■参加者一覧
礼野 真夢紀(ia1144)
10歳・女・巫
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
ジェシュファ・ロッズ(ia9087)
11歳・男・魔
ベルトロイド・ロッズ(ia9729)
11歳・男・志
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
朱鳳院 龍影(ib3148)
25歳・女・弓
S・ユーティライネン(ib4344)
10歳・男・砲 |
■リプレイ本文 ● 「よっしゃあ、野郎ども、盛り上がる準備はいいかぁっ!」 いつも以上に派手な格好で迅助が拳を振り上げる。 「おおおおっし! 全力で遊ぶなりよっ! 収穫祭はおいらの時代っ!」 迅助に負けじとはしゃいだ声をあげたのは、平野譲治(ia5226)だ。 「おおぅ!」 「あそぶの〜!」 彼らの勢いにつられて、朱吉や桃子が顔を紅潮させてはしゃぐ。 「はろうぃんか。聞いたことはあるが、どういうのかはしらぬからのぅ」 朱鳳院龍影(ib3148)がはちきれそうな胸を揺らしながら呟く。 「・・・・はろうぃんって・・・・お姉様達のご友人の方から聞いた話なんですけど・・・・外国のお盆じゃありませんでしたっけ? 精霊馬の代わりに南瓜で作ったお化けの提灯飾るとか・・・・」 礼野真夢紀(ia1144)がちょこん、と首を傾げながら言う。むかし聞いた話なので、ちょっとうろ覚えのようだ。 「俺は出身がジルベリアだからよく知ってるよ。カボチャをくりぬいて飾りをつくったり、アヤカシや有名人に仮装したりするんだ」 ベルトロイド・ロッズ(ia9729)の説明に、俊馬や生徒たち、開拓者たちがふむふむとうなずく。 「七鍵守護神とはいえ、アヤカシの恰好をするのは複雑な気分ですが・・・・」 ぶつぶつと呟いているのは、ジークこと、S・ユーティライネン(ib4344)。 「同年代の先輩ばかりが集まっているので、駆け出しとしても、人生経験貧困な少年としても、みなさんの経験を見習いたいです」 よく通るボーイソプラノでそう言うと、先輩たる開拓者たちが駆け出しの彼を歓迎するようににっこりとうなずいた。 「飾りつけはベルトーに任せて、僕はハロウィン料理をつくるよ〜。ハロウィン料理には少しこだわりがあるんだよね〜。ふふふ」 そう言ったのはベルトロイドとは実の兄弟のジェシュファ・ロッズ(ia9087)だ。普段はおっとりとした彼が、珍しくなにやら決意したような表情をしている。 「あたしも、調理頑張るですの!」 料理好きな真夢紀も、愛用の包丁を取り出してやる気満々だ。 「わーい! 真夢紀とジェシュの、楽しみ〜!」 真夢紀の料理とジェシュのお菓子の味をよく知る黄平などは、はやくもよだれを垂らしている。 「楽しみ〜」 黄平の隣でまったく同じ顔をしてよだれを垂らしているのは、黄平の親友でもある譲治だ。 「みんな、楽しそうでいいですね。うん、参加することにして良かった」 開拓者たちと和気藹々とする生徒たちを眺めながら、ほのぼのとそう言ったのは俊馬だ。 「よっしゃ、じゃあ、野郎ども! 祭りの準備を始めるぜ!」 迅助の言葉に、祭りの参加者たちが一斉に動き始めた。 ● わいわいがやがや。 そんな音が聞こえてきそうな、にぎやかな準備の時間。 「お菓子は付き物ですけど、それだけでおなか一杯にするのもどうかと思いますし」 そう言いながら、真夢紀は手際よく調理をすすめていく。主菜は南瓜だ。南瓜に、鶏肉と茸を炒めて小麦粉とジルベリアさんのチーズをかけ・・・・窯に入れるとこんがりとチーズの焼けるいいにおいがあたりに漂う。見る間に、グラタン、と呼ばれるジルベリア料理が完成していく。他にも南瓜をつぶしてつくるサラダや、林檎や栗を使った甘味も色とりどりだ。 「他の人に配るように、焼き菓子をたくさん焼きましょう。それから、寺子屋のみんながお土産にできるように箱に詰めたぶんも用意しておきましょうか。特に、翠さんは、兄弟が多いですから大目に、っと・・・・」 そう言って、お土産まで用意する。相変わらず、真夢紀の気配りはすごい。 「・・・・やっぱり、ハロウィン料理のコンセプトと言えば、『美味しくって怖い』、これに限るよね・・・・ふふふ」 一方でジェシュは、なにやらよくわからないこだわりを発揮して、指の形を模したクッキーだの、目玉のように見えるライチのお菓子だの、不気味なものばかりを作っている。持ち前の器用さを発揮して、これが異常に精巧だからなおさら怖い。しかも、ジェシュのつくる甘味は味も外れがない。 待ちきれずに様子を見に来た黄平が、つまみ食いをしようとして恐怖と食欲の間で葛藤しているほどだ。 「二人ともすごいなぁ。自分も、っと・・・・」 そう呟いて、ジークが南瓜と牛乳を持ち出して黙々とかき混ぜはじめる。頭の中に完成品のイメージがあるらしく、にっこりと無言で作業を進めていく。そうして、窯から取り出した――なぜか青白く光る、どう考えても食べたらダメそうな怪しげな物体を見つめて、ゆっくりと親指を立てる。 (「・・・・次は、上手く」) 心の中で、そう呟いた。 「んっ! お隣いいなりかっ!? いつかの時はありがとなりねっ! 楽しかったぜよっ!」 譲治が、寺子屋の飾りをつくっている翠のとなりにぽむっと腰をかける。元気いっぱいの彼の様子に、翠は思わず微笑んでしまう。 「翠は誰かに告白するなりっ? んんっ! 応援するなりよっ!」 「そんな・・・・私は告白なんて」 「そうなりか?」 譲治の勢いに、翠は戸惑ったように目をそらし、それから微笑んだ。 「今はまだ・・・・でもいつか。ありがとう」 翠の言葉に、譲治は元気よくうなずいた。 「でっかいカボチャをくりぬいて、顔をつくるんだ」 「ふむ、はろうぃんではそれを家々の入口におくのだと、文献にも載っておったな」 寺子屋の門のあたりでは、ベルトーと龍影が、子どもたちと一緒にカボチャをくりぬいていた。 「あ、黄平、このカボチャは水っぽいから美味しくないよ。あとで真夢紀とジェシュのつくってくれてるのを食べた方がいいと思うな」 ベルトーが言うと、その通りだと思ったのだろう、カボチャに手を伸ばしかけていた黄平はさっと手を引っ込めた。 「ハロウィンは、悪意のないいたずらを楽しむものみたいだね。僕は俊馬先生やみんなと、ちょっとしたいたずらを演出したいな」 そう言って、琉宇(ib1119)が俊馬に内緒で生徒たちを集める。その顔には、楽しそうな笑みが浮かんでいる。 「ひそひそひそ・・・・ね、面白そうでしょ? 俊馬先生をびっくりさせようね」 彼が言うと、生徒たちの瞳が輝き、一斉にうなずく。 「へへ、そして実は俊馬先生にも、っと」 生徒たちの前から去った琉宇は、今度は俊馬のもとに行く。 「俊馬先生、ひそひそひそ・・・・」 「え、わたしがですか?」 「うん、面白そうじゃない?」 驚いた顔の俊馬に、琉宇がにっこりと笑いかける。その無邪気な笑顔に、俊馬も相好を崩した。 「そうですね、せっかくのお祭ですから、私も、のってみることにしましょう」 俊馬が、いつもの少し困ったような笑顔ではなく、珍しく見せる屈託のない顔で、笑った。 ● そうして本番。 会場の寺子屋では、色とりどりの料理と甘味が乗せられた卓から、いいにおいが広がっていた。 今日の寺子屋は、出入り自由だ。誰もが祭りに参加できる。 「わ、わたしってそんな感じに見えますかねぇ‥‥」 俊馬が情けない声を出す。 「うん、先生いつもこんな感じだよー。髪の毛ぼさぼさで」 「で、八の字眉毛で」 「猫背気味で」 「きものよれよれ〜」 「でも、優しそうな表情です」 俊馬がよく着ている藍色の着物に似せた衣装の生徒たちが口々に言いながら、俊馬の格好をまねして見せる。 琉宇の提案で、生徒たち全員が、俊馬そっくりの「仮装」をしてきているのだ。五人の「俊馬」に囲まれて、本物の俊馬先生はたじたじだ。 「でも、きょうのしゅんませんせーはかわい〜」 「そうですね。なんだか、弟みたいです」 桃子と碧に言われ、俊馬は顔を赤くして目をそらす。その姿にまた黄色い歓声が上がる。いつもは後ろで結っている髪を下ろし、つんつるてんの着物を着た俊馬は、今日は「子ども」だ。隣では琉宇も同じく子供っぽい恰好をして楽しそうに笑っている。 「今日は先生が子供で、みんなが先生。立場逆転のビックリだよ、あはは」 アイディアが上手くいって、琉宇はご満悦の様子だ。 一方、開拓者たちも思い思いの衣装で「仮装」していた。 「おねえちゃん、すごーい」 桃子にそう言われ、まんざらでもなさそうな顔をしているのは龍影だ。とんがり帽子に真っ黒なマント、そして長い木の杖。ゆったりとした服なのに胸のあたりがきつそうなのはさすがというかなんというか。 「魔女は、少女の憧れじゃろう?」 そんなことを言って、ずいぶんとゴキゲンのようだ。もちろん、「少女と言うにはさすがに歳が・・・・」などという命知らずはどこにもいない。 「どうやら身の丈にあったようですね」 そう言ったジークは、イヌの姿をしたアヤカシの格好だ。狩衣姿に、ふさふさの耳と尻尾。もともと女の子のようにも見える美少年のジークが着るとなにやら妙に似合ってしまう。その証拠に、男女両方のお客さんに囲まれてきらきらした視線を向けられているようだった。 「みにばんぱいや! どなり? どなり?」 「へへ、こんなのどうかな?」 ベルトーと譲治、仲のいい二人はなんと、どちらも同じ吸血鬼の仮装だ。赤と黒のマントに、牙。元気いっぱいの二人が着るとやんちゃな感じがとても微笑ましい。 「いや、ジェシュ、それはやり過ぎ・・・・っていうかどうやってるんだ、コワ!」 朱吉の悲鳴で一同が振り返ると、ジェシュにはなんと首がずれている! なにやら特殊な化粧をしたようだが、さっぱりわからない。 「どうやったかは秘密です。教えちゃダメっていわれてるから教えられないの〜」 「いや、ていうか教えなくていいから、やめて! 怖すぎる〜」 蒼太が今にも腰を抜かしそうな声で叫び、笑い声が上がる。 「さぁ、ごちそうができてますよ〜」 真夢紀ののほほんとした言葉で、会場の空気が柔らかくなった。黄平が歓声を上げる。 「黄平っ! 全制覇なりよっ! おおおっ!ジェシュの方もすごいなりねっ! 真夢紀っ! ユーティライネンっ! なくなるなりよっ!? はっ、ふえぇー。食べたなり〜♪」 譲治はそう言いながら駆け回り、叫ぶのと食べるので忙しそうだ。 「さーて、みんな楽しんでいるとこで、はろうぃん名物、とりっくおあとりーとにくりだすぜっ!」 「とりっく・・・・?」 迅助の言葉に首を傾げた黄平に、ベルトーが解説する。 「仮装して他の人の家をまわってお菓子をもらうんだ。あ、でもどこの家でもいいってわけじゃなくて、戸口にカボチャのお化けが置いてあるところだけだよ」 「お祭行進なりねっ! みんな行くなりよっ!」 すっかりご馳走を平らげた譲治が駆け寄ってくる。琉宇も、うれしそうにうなずいた。 「そしてみんなでこう言うんだ。『お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!』」 |