【魔法】大帝ピンチ激震の鳥
マスター名:遼次郎
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: 易しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/10/25 02:16



■オープニング本文

※このシナリオはIF世界を舞台としたマジカルハロウィンナイトシナリオです。
 WTRPGの世界観には一切関係ありませんのでご注意ください。


 突如、ジルベリアに台頭したケモノの一軍。
 ケモノ達はどう見ても陸戦に向きそうもない体型とよちよち歩きで進撃し、その途上のアヤカシ達を次々と殴り倒しながら勢力を拡大させていった。
 さらにこのケモノ達、勢力内の村や都市の人間たちからその愛くるしい姿によってアイドル的かつマスコット的な、それはそれは熱狂的な人気を獲得することによって容易く民心を掌握していったのだった。
 この時に至りジルベリア皇帝たるガラドルフはようやく、迫る敵がただの鳥畜生ではないことに気付いたが、時すでに遅く ケモノ達の勢力は目と鼻の先まで迫っていた。そしてケモノ達の掲げる声が、玉座のガラドルフまで届く。
 曰く。
「ガラドルフなど偽りの皇帝に過ぎぬ。ジルベリアの真の覇権は我らが長、エンペラーペンギンに有り!」

 ケモノ達はその数と武力によってジルベリアの正規軍を正面から打ち破り、またたくまに首都ジェレゾを掌握した。
 ガラドルフの前に、一羽のペンギンが進み出る。ずんぐりした卵のような体型。漆黒のつぶらな瞳。黒と白に挟まれて鮮やかに映える胸や嘴の橙色。
 他のペンギンたちよりも一回り大きいペンギン族の長、エンペラーペンギンは真紅のマントを翻し、物を持つのにはどう見ても適さない羽で器用に聖剣の切っ先を地に打ち付け、声高らかにくちばしを開いた。
「お前の時は過ぎたのだガラドルフ。その覇権は我が引き継ごう。案ずることはない。ベラリエースの大地には人間の民と我等の一族が共存し、より栄えることとなるだろう」
「飛べもせぬ鳥がつけあがりおって。共存など笑わせる。我が誇り高きジルベリアの民は畜生と同列とされる施政など求めてはおらぬわ。民の声を聞くがいい!」
「重税マジきついんですけど」
「帝国軍事主義とかいい加減古すぎてドン引きですわ」
「頭がすげ変わってもなんだかんだ大衆って生きていくのよね」
「民に愛されるアイドル皇帝。聞こえますな、時代の来る音が」
「とにかくむさ苦しすぎるねん、今のジルベリア。皇帝からして。鉄と汗の臭いしかせーへん」
「難しく考えずまずは一日皇帝とかやって貰っては」
「愚民どもめいっ!」
 ガラドルフは天を仰いだ。笑うペンギン達。
「分かっただろうガラドルフ。時は過ぎたのだ。だが、我が欲しいのはお前からの完全なる勝利だ。その勝利を以って我が覇権を盤石のものとしよう。最後の戦いだ、貴様の最高の兵を出すがいい。完膚なきまでに打ち砕いてくれよう」
「何が民心、何が支持率……生まれてこの方そのような物と無縁だったからこその我が覇道ではなかったか! むさくて何が悪い! 鉄と力こそが我が真髄! その結晶、アーマー人狼! アーマー火竜! 見るがいいこの無骨なるも輝かしい機能美を! 人気など不要、可愛さなど不要! このアーマーこそが、我がジルベリアの誇る最高のマスコットよ! 神よ、この最高の機体に最高の乗り手を我に与えよっ!!」
 アーマーをマスコットと言い張るほどに乱心したガラドルフは、立場を忘れてついに神頼みに打って出た。
 天まで届く、野太い男の叫び。
 願いは、聞き届けられた。


■参加者一覧
明王院 千覚(ib0351
17歳・女・巫
フィーナ・ウェンカー(ib0389
20歳・女・魔
レティシア(ib4475
13歳・女・吟
サイラス・グリフィン(ib6024
28歳・男・騎
コニー・ブルクミュラー(ib6030
19歳・男・魔
アルシャイン(ib7676
26歳・男・騎
山茶花 久兵衛(ib9946
82歳・男・陰
レナート・ロセフ(ic0821
15歳・男・騎


■リプレイ本文

 戦いの火蓋は切って落とされた。
 後年、人々はこの日を指して呼ぶだろう。革命の日、ジルベリアの奇跡、ペンギンの乱、ガラドルフの乱心。それがどのようなものであれ、この日の出来事が人々の記憶に刻まれることには疑いが無い。そしてそれが如何にして刻まれるかは、今日この時、この場に集った者達の手に委ねられているのだった。
「待て」
 太く、厳かな言葉。己の一言が、己の周囲の一切を黙らせるという確信に満ちた一言。事実、闘技場の貴賓席より発せられたその一言のために、闘技場を埋め尽くす観衆に至るまで、ただ静謐が場を支配した。
 ジルベリア皇帝、ガラドルフは続ける。
「まず、この祖国の危機に馳せ参じた勇士達に礼を言おう」
「はっ、帝国騎士として当然のこと」
 アルシャイン(ib7676)は恭しく頭を垂れた。代々の家系に流れる騎士としての所作はその礼儀一つの隅にまであらわれ、足元の金属靴がかちりと音を鳴らした。
「私は陛下すきですしー」
 追い詰められて必死すぎるところとか色々壊れていくとことか見逃せるはずがありません〜と、いい笑顔でレティシア(ib4475)は呟く。皇帝サイドに居るものの色々問題はあるっぽい。
 騎士や宮廷楽士風の二人と比べると庶民的な風貌のレナート・ロセフ(ic0821)は、なんとなく所在無さそうに頬をかいていた。
 皇帝サイドの勇士。以上三名。
「何故だ」
 ガラドルフの視線の先には、闘技場の反対側に陣取るペンギン達と共に佇む五人の人間の姿。
「かわいいペンギンさんと、かわいくないガラドルフ。答えの見えている二択でしょう」
 さも当然と言わんばかりにフィーナ・ウェンカー(ib0389)は涼しい顔でいる。
 明王院 千覚(ib0351)は、高い空に祈るような仕草を見せた。周りのペンギンたちに囲まれて兎の耳飾りが揺れている。両の手を合わせ、千覚は静かに言った。
「ガラドルフ帝も、元々は領民の事を思って必死にこの国を纏めて、治めて来たのだと思います…。でも、力を得て、戦を…覇権を求めて行くうちに、領民が真に臨む、安寧の日々を望む祈りから目を背けてしまった…。しかしその祈りは…人と獣の垣根を越えて、エンペラーペンギンの元へと届いたのです」
「勝手に史実を纏めにかかるでない」
「願わくば…この一戦で流される血を最後の流血にと…そう願うのです」
「それは誰が流す血だと申すか」
 千覚はそっと顔を背けた。
「けれど本当に、僕の故郷は変わる時なのかもしれません。それだけの可能性を、このペンギンさん達には感じずにはいられません。……けっ、決して単にペンギンさん達の愛くるしさに絆された訳ではありませんのでっ!」
「コニー、お前はもう少し本音を隠す術を身に着けたほうがいい気がするんだがな。……さて、個人的には大層な大義名分があるわけでもないが、ペンギン相手にアーマーまで持ち出すというのもな」
 サイラス・グリフィン(ib6024)は弟弟子のコニー・ブルクミュラー(ib6030)の様子を割と冷静に眺めながら、皇帝の元並び立った三体のアーマーを眺めて言った。
「難儀なもんだ。とても乗り心地よさそうには見えねえな。特に俺みたいな爺は腰をやっちまいそうだ。こっちの鳥たちのが親近感覚えるぜ。……それに俺にはさっき皇帝が神頼みしていたように見えたんだが気のせいか。禁教令を敷いたのは他ならぬジルベリア皇帝ではなかったか、なあ?」
 意地の悪い視線を送る山茶花 久兵衛(ib9946)の言葉に、ガラドルフが応えるよりも早くアルシャインが声をあげた。
「陛下への侮辱は許さんぞ。ペンギンの諸君も考え直すことだ。ジルベリアが今存続していられるのも、皇帝陛下のお力によるもの。まだ遅くはない、今すぐ膝を折って陛下への恭順を示すのだ!」
 訴えかけるアルシャインに、ペンギンたちは嘴をあげて口々に言う。
「時勢を読め若者よ」
「ガラドルフの為した事が無益とは言わない。たださらに優れたエンペラーがいるというだけの事」
「膝を折れとか、ちょっと足が長いからといって嫌味か小僧」
「こちとら抱卵時も丸二か月直立不動だぞ。貴様に出来んのかそれが」
 ぴーちくぱーちく。
「……ごちゃごちゃと鳥風情が御託を並べるなぁ! 謀反を起こす時点で、許されぬことだっ!!」
「落ち着いてくださいアルシャインさん」
 まあまあ、と眼前に立ったレナートに押し留められ、アルシャインは息を切らせながらも落ち着きを取り戻した。
「どうにも、戦わなきゃすまない流れみたいですよ。俺、アーマー初めてなんで乗るの手伝って貰えますか」
「よ、よし」
「敵の皆さんもすみません、乗ってから試合開始でいいですか?」
「あ、はい、どうぞー」
 レナートの申し出に対してにこやかに応じるコニーに、サイラスは軽く息をついて腰にさげた長剣に手を掛けた。ジルベリアの冷えた大気に、太陽色の刀身がさらされた。似た匂いがしますねあの二人、とフィーナは可笑しそうに笑っている。
「もー。だから初動の遅れは命取りだって言ったじゃないですかー。不安因子の芽は早く摘んでおかないと」
「ふむ、耳の痛いことだ」
 レティシアはガラドルフに小言をいっていた。内心は鳥にも負ける陛下の人望に涙が止まらないのである。楽しすぎて。
「人数足りないから陛下も出陣してくださいよ」
「……よかろう。だが準備がいる。それまで時間を稼いでおけ」
 何やら意味深な言葉を残して会場から消えるガラドルフをよそに、戦いはすでに始まっていた。
 眼前にアイアンウォールを構築し、フィーナは続けて詠唱を開始する。
「平和的な武力解決のためには慈悲を加えるつもりはありませんので、あしからず願いますね。皆さんペンギンさん、危ないので私から離れないで下さい」
 拮抗した戦いよりも圧倒的な武力差を示した方が結果的に流れる血は少ないとにこやかな笑顔が言っている。詠唱の終了と共に召喚されたトルネード・キリクの竜巻は、無数の真空の刃をはらんでアーマー三体を飲み込んだ。
「す、すごい魔術……」
 フィーナのいい笑顔に若干恐怖をおぼえながらも、巻き上がる風のなか眼鏡をおさえて術に見入るコニーの裾を、一匹のペンギンがくいくいと引いている。
「コニーさん。貴方も魔術を使えるのでしょう。どうか私の援護をして下さい」
「は、はい。しかし僕にフィーナさん程の術は」
「術や技とは、生まれもった力とは違います。されば高みへの途上を経るのは誰しも同じこと。鍛錬は、私の拳とも呼べぬ拳でも氷を砕くことを可能にしてくれた。貴方も、上を目指しているのでしょう」
「…分かりました、今の僕に出来る精一杯の術を」
 コニーは武闘派っぽい澄んだ目をしたペンギンの身体にホーリーコートの光を宿すと、フローズの魔術でアーマー達へ一直線にはしる氷の道を作り上げた。氷の道をお腹で滑って突撃するペンギンの援護に、続けてアイシスケイラルを放った。
「なんの、帝国の誇るアーマーの堅牢はその程度では崩れない!」
「アーマー三体そろい踏みですー」
 アーマー特有の防御性能にレティシアの歌声によるサポートも加え、帝国側も奮闘を見せている。
 「人狼」を駆るアルシャインの周囲を、千覚の神楽舞「瞬」によって素早さを増したペンギンたちが駆け回っている。
「……いい歌だ。故郷の暴れ白熊も手懐けられそうな」
 千覚の精霊の唄を聞きながら、傍らで黒い銃の引き金を落とすトレンチコートのペンギンが呟く。ジルベリア製の銃に比べて連射性能や精度のやたらと高い、なんとなく今の技術を超越したオーパーツっぽい黒い短銃を、ペンギンは平べったい羽で器用に扱っている。
「だがそれだけに、銃声の響く戦場で聞くのは忍びない。戦いなど本来、歌の合間に片づける程度の価値しかないな」
「言うじゃねえか。そも動物相手にアーマーなんぞ持ち出す時点で無粋よ。趣っつーものが足りてねえぜ」
 のっそりと身を乗り出した久兵衛が不敵に笑う。かすかな呻きの声を上げる黒死符が久兵衛の指より放たれるや、錆壊符のスライムと化してアーマーに取り付き、付着した箇所を錆びさせだした。
「錆びる! 陛下より賜ったアーマーが!」
「くず鉄を作れるのは何も朱藩王に限った話ではないのだ。次は蒸し風呂にしてやろう」
 どや顔をキメると久兵衛は続けざまに召喚した火炎獣の式から燃え盛る炎を放射した。
「えーと、操作はこれか」
「ぬっ」
 しかし、炎は同じく向かいより放射された火炎のために相殺された。炎の壁から、レナートの操るアーマー「火竜」がその巨体をあらわした。
「高いなあ……練力の消費も激しいし」
 自分では長く持たないと見たレナートは勝負を急ぐための秘策を持っていた。手にした麻袋に手を突っ込むと、火竜の上からその中身を景気よく撒き散らしだす。ばらまかれて宙を舞う、魚。魚。
「だめですペンギンさん達…それは敵の狡猾な罠……」
 もはや千覚の声も届かない。ペンギン達は戦いそっちのけで魚めがけて飛びついていた。
 宙で嘴で魚をキャッチ、すると同時にレナートの火竜に捕獲されて次々と袋詰めにされていく。
「正々堂々じゃないかな。ごめん。つい鳥とか兎を捕まえる気分に近くてさ。……連れて帰ったら妹よろこぶかな」
「マイペースなふりしてやりますね」
 乱舞するペンギン達にまぎれて接近していたフィーナが、火竜の足元にアイアンウォールを出現させる。上体を大きく崩す火竜から、レナートは落ち着いて飛び降りた。
「んー踏ん張りどころですね。陛下もまだですし、一曲歌っておきましょう。聴いてください、騎士の魂」
 レティシアの歌が旋律とともに物語となって闘技場に響き渡る。紡がれるのはある騎士の情景。どれほど窮地に立たされようと、己の身体を盾として倒れぬ騎士の不屈の姿が脳裏に浮かび、アルシャインは人狼の中で僅かに目を潤ませた。
「そう、これはジルベリアを背にした負けられぬ戦い。俺はまだ倒れん!」
 武闘派ペンギンに割と追い込まれていたらしいアルシャインの動きに冴えが戻る。人狼の誇る運動性能を遺憾なく発揮したアルシャインの振るった長剣が、ペンギンの拳と正面から衝突して周囲に強烈な衝撃波を巻き起こした。
「たたみ掛けるぞコニー」
「分かりましたサイラスさん! 合わせますね!」
 サイラスの、刀身と同じ太陽光を思わせるオーラと、コニーのアイシスケイラル。相反する二色の攻撃は同一のタイミングで放たれて相絡み合いながら進み、アルシャインの側面に激しい衝撃となって着弾した。
 そのとき、轟音が響いた。
 それまでの戦いの音とは規格の異なる、地響きといってもよい音が。逃げ惑う観衆たち。闘技場の一区画を割り、巨大なアーマーが姿を現した。
「オ、オリジナルアーマー!?」
「ぬおー、曾孫と遊ぶための呪術ぬいぐるみ・もふらがっ!」
 巨大な足に踏みつけられてぺしゃんこになり、やる気のなさにさらに拍車がかかった感じのもふらに久兵衛が駆け寄った。幸い、少し時間がたつとぼよん、と元の形状に戻っていた。
 巨体から声が響く。紛れもなく、皇帝ガラドルフの声だった。
「極秘の内に発掘された非稼動状態の巨神機……状態に不安はあるもののなんとか稼働にこぎ着けたわ。鳥如きに投入するなど矜持が許さなかったが、ここに至ってはもはや出し惜しみはせぬ。圧倒的な力によって貴様達をねじ伏せ、今日という日を新たなジルベリアの歴史の礎としてくれよう」
「きゃー、素敵です陛下。陛下はついに人間をやめたのですね! 陛下の武勇と所業は私が歌にして後の世まで語り継ぎますよー」
「ジルベリア万歳っ!」
 テンションのあがっちゃっているレティシア達をよそに、千覚はどさくさにまぎれて袋詰めにされたペンギン達を解放していた。
「避難、してください…」
 わらわらと袋から飛び出すペンギン達。
 フィーナはオリジナルアーマーを冷ややかな目で振り仰いた。
「どうやら超えてはいけない一線を越えたようですね。全てが力で支配できると思っているのであればいいでしょう、そのような手がいつまでも続くものではないことを教えてあげましょう」
 フィーナの横に、それまで静観を保っていたエンペラーペンギンが進み出る。
「ガラドルフを欠いた敵に手は出せなかったが、奴が死力を尽くすのであれば私も応えねばなるまい。封ぜられた聖剣の力……使えるのは一度。それでアレを止めて見せよう。その後は、お前たちに任せてよいか。私の民と、お前たちの民を」
 フィーナは頷き、エンペラーペンギンは剣を掲げた。
「来いガラドルフ! 雌雄を決そうぞ!!」
「この力、加減など出来ぬぞ。消えてなくなれいっ! ジルベリア帝国は永久に不滅であるっ!!」
 振り下ろされるオリジナルアーマーの大剣。エンペラーペンギンの振るった聖剣から巨大な光の柱が出現してそれを迎え撃って衝突し、人間の知覚を超えた爆風と閃光が、世界を白という一色に飲み込んだ。


「朝か」
 ちゅんちちち。高い生垣から差し込む光に眩しそうに眼を細め、サイラスは一軒家の中で身を起こした。
 どうやら今日は自分が一番早く起きたらしい。まったく起きる気配のないコニーと師匠も、どうやら自分が起こしてやらなければならないらしい。しかし。
「……スズメ。鳥も体型は、随分違うのだな」
 自分でもよく分からないことを呟き、まだ寝ぼけているらしいとサイラスは頭を振った。二人を起こす前に天儀の濃いお茶でも飲んでみるかと、そんなことを考えた。