瘴気の河辺
マスター名:遼次郎
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/28 00:18



■オープニング本文

 ジルベリアの河は、天儀のそれと比べて総じて広い。
 ジルベリアで生まれ育った彼は天儀へ渡ったことは未だ無いが、開拓者をはじめとした人々から繰り返し聞き及ぶうち、直接見たことも無いその流れを己の想像の内で並べ比するのを、彼は知らず楽しむようにもなっていた。
 自分がいま目の前にしているこの河も、天儀の川より広く、流れは緩やかだろう。凍結して白い道筋を連ねるばかりの冬を超え、この季節には滾々と、せき止められていたものが解かれるように、豊かな水量を湛えている。
 近隣の村の人間が、農作業の合間に釣りに来たり、子供たちが遊びに来たりした。動物やケモノを眺めることも出来た。子供はそういったモノ達と遊ぶのも上手いのだった。
 この河にいるものでは、巨大なカメのケモノが特に彼の気に入っていた。言葉を解することは出来ない、或いは話さないだけかもしれないが、時々河辺にのっそりとあがってきて岩のように長い間じっとしているのをただ眺めるのは、なんとなく時間を忘れるような気がした。他にも色々な動物がいる。魚や鳥はもちろん、鰭脚類が海から遡ってくることもある。飛べない鳥を見かけたこともある。
 だが或る日を境に、それら動物たちの数が極端に減った。流れの色さえ黒く濁った河は、瘴気に冒されていた。上流に、アヤカシが棲みついたらしい。黒い流れに運ばれる動物たちの亡骸の、無惨に食いちぎられた断面が目については、朱を曳いて流れてゆく。
 やがてあのカメが、上流に向かって歩き出す。瘴気の河は泳がずに、河辺の陸を、巨体を引き摺って酷く緩慢に。しかし、その歩みはあの見慣れたのんびりとはまるで違っていて、力強く土を踏んでゆく。静かな怒りを露わにするように。
「どうするつもりか知らないが。君がアヤカシと戦えるわけでもないだろう」
 彼の言葉に、カメはやはり耳を貸さずに歩み行く。
 彼はその背を見送りながら、河の流れを再び眺めた。少しずつ黒く食い破られ、黒に蝕まれてゆくもの。病的なそのイメージは、彼自身に強い嫌悪の感を湧き上がらせた。動物やケモノには、距離を保つのが彼の姿勢と言えた。しかし、この黒いモノに関してはおそらく例外だった。アヤカシというモノはきっと例外で、それから目を逸らすことは人にとって重大な欠落に違いなかった。
 彼は友人から踵を返し、開拓者ギルドへ向かうべく歩き出す。しばらく歩いて振り返る。足の遅い友人は、ほんの少しだけ先に進んでいた。


■参加者一覧
フェルル=グライフ(ia4572
19歳・女・騎
一心(ia8409
20歳・男・弓
サーシャ(ia9980
16歳・女・騎
明王院 千覚(ib0351
17歳・女・巫
杉野 九寿重(ib3226
16歳・女・志
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
刃兼(ib7876
18歳・男・サ
ジェーン・ドゥ(ib7955
25歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529
18歳・女・砂
祖父江 葛籠(ib9769
16歳・女・武


■リプレイ本文

「大きな河だねー!」
 祖父江 葛籠(ib9769)は素直に感嘆の声をあげた。空をゆく駿龍、迦哩迦の背から、一望の視界に収めがたいような広さの河が、左右に森を割るようにして緩やかに地平へはしるのを、葛籠は風を一身に受けながら見渡していた。迦哩迦が伸びやかに翼を打つ。空さえ、広いような気がした。
 一心(ia8409)も己の相棒である空龍、珂珀に飛ぶのを楽しませてやりたいような空だと、そう思う。珂珀は本当に、空を飛ぶのが好きなのだった。しかし、当の珂珀は楽しむよりも何かに警戒するように、低く喉を鳴らしていた。目を凝らせば、眼下の河の不自然な黒い濁りに、すぐに気づくに違いない。河は瘴気に侵されていた。
「そう、まずは危険を取り除かないとな」
 近隣の村に連絡は届いている。それでも迅速に。これほどの水量を誇る河川であれば、この地に住むものへの影響は計り知れない。そしてそれは、人間に限ったことでもない。一心はぽんと珂珀の首の鱗を撫でてやった。
「君は、砂漠の民だね」
 シリーン=サマン(ib8529)に、共に甲龍ワーディウに乗った同行者のポロフが、彼女の服装を眺めていった。
「珍しいですか」
「それはね。ジルベリアには獣人も少ない。砂漠。言葉でしか知らないが、魅力的な響きだ。ぜひ、見てみたいものだけど」
「見て楽しいものか、私には分かりませんが。どうぞお越しに」
 ポロフという青年は曖昧に笑ったきり、河の現状について語りだした。
「魚だけでなく、周辺の動物が目に見えて減っている。瘴気を避けて余所へ逃げているものも多いと思いたいが……」
 やがて、流れをさかのぼって飛ぶその視線の先に、河の中央に鎮座して蠢く巨大な黒い塊が目に付いた。河を侵している黒い瘴気の淀みはそこから絶えずにじみ出、塊から触手のように伸びているのは、龍の形をした三本の頭だった。
 目標であるヒュドラを目にしながら、フェルル=グライフ(ia4572)はなお別の何かを探すように眼下を見下ろした。
「居ました、あれがカメさんですね。エイン」
 フェルルは轟龍エインヘリャルをすぐさま降下させ、河辺に降り立った。大岩のようなものがゆっくりと向かってくる。件のカメに違いなかった。大きい。近くまで寄れば、フェルルは仰ぎ見る思いだった。
「カメさん、住処を荒らすあのアヤカシを放っておけないのは分かります。ただその怒り、私たちに託してください。必ず応えますっ」
 カメの黒いつややかな瞳が、フェルルの翠緑の瞳を見据えた。カメはじっと、睨むようにその巨体の動きをしばし止めていたが、やがて再びヒュドラへと向かって動き出した。
「カメさん、やっぱり戦う気なのでしょうか……」
 様子を見守っていた明王院 千覚(ib0351)は心配そうに呟いた。だとすれば、やはり自分たちに出来るだけのことをやるしかない。
「あのカメはいわばこの河のヌシを任じているのでしょうかね。いずれにせよ一刻も早くあのアヤカシを討つこと。もっとも、中々に面倒な相手のように見えますが」
 杉野 九寿重(ib3226)は野太刀「緋色暁」を抜いた。長大な刀身を染め上げる緋の色が、寒色のジルベリアの空にあって異質なものの如く風のなかに晒された。鷲獅鳥の白虎は九寿重の意を受けるように、ヒュドラに向かって鋭くいなないた。

「うわあ、なんか気持ち悪いアヤカシですね〜」
 サーシャ(ia9980)はヒュドラの腐乱した肉を眺めながら思わずつぶやいた。龍は龍でもイズゥムルートの方がよっぽど二枚目ですねと、相棒の首を思わずなでていた。
「確かにちと骨が折れそうだが……これ以上、河を瘴気で汚されるのは御免こうむるからな。いざ、参る」
 刃兼(ib7876)が静かに告げると、空龍トモエマルは翼を打ってヒュドラ目がけて接近する。迎え撃つように首の一つが巨大な顎を開け、そこから氷の弾丸を吐き出した。連射される弾丸を、トモエマルは空龍特有の軌道を描いて一気に回避する。四方に掛かる重力をこらえ、刃兼は太刀「鬼神大王」を振るう。放たれた真空刃はざくりとヒュドラの首に突き刺さり、傷は泥のように醜い崩れ方をした。
「おうおう、こいつと長いお付き合いとはいきたくねえなあ。こういう仕事は手短に済ませるに限るぜなあ、サザー」
 アルバルク(ib6635)は空龍サザーの背に身を寄せる。その極端な、ほとんど龍と一体となるようなイェニ・スィパーヒの軽騎兵術でサザーは空を跳ねるようにヒュドラの周囲を自在に飛び回り、そのあちこちからアルバルクの宝珠銃の連射が囲むように降り注いだ。
 ヒュドラの首は三つ。それぞれを、三班に分かれた開拓者たちが対応している。ヒュドラの腐乱したような醜悪なその姿は一見して嫌悪を誘うものに違いなかったが、ジェーン・ドゥ(ib7955)のゴーグルの下の表情はそのようなことを意にも介さず眉を顰めもしない。或いは傭兵としてのジェーンはそうした嫌悪をはじめとした感情によって敵と相対することの極めて少ない性分であるかもしれなかった。河という生命線をおびやかすヒュドラ。その排除。極めて明快な目的の元、鷲獅鳥グロリアを曲騎によって駆り、その速度によってヒュドラを陸地側へ誘導せんと誘い込む。
 ヒュドラの攻撃がジェーンをとらえようとするその隙をついて、葛籠の護法鬼童の幻炎がヒュドラの首を焼いた。ヒュドラは首を振って注意を乱される。
「ワーディウ! いいこと? 貴方は飛ぶことに専念して頂戴」
 肯定するように喉を鳴らすのに頷くと、シリーンは魔槍砲「パニッシュメント」を掲げ、安定した飛行を見せるワーディウを駆ってヒュドラの首元へ向かった。
 ヒュドラは三本の首にも増して巨大な胴体を、ずしりと河のなかに据えて容易に動かない。河は浅く、水中に潜られることの心配の無いことは幸いだったが、それでも陸地に引き寄せればなお開拓者に有利に違いない。
 青白い、稲妻の光。神弓「ラアド」が弓音を鳴らすたび、雷の精霊の加護が時折可視の光となって水面に反射する。龍の背にありながら、安息流騎射術を心得た一心は手元にあるものを射るような容易さでヒュドラを射抜いてゆく。確実に放たれ続ける矢を嫌ったか、ヒュドラは激しく身を震わして凝縮された瘴気を一心めがけて吐き出した。珂珀は回避に確かな速度を発揮するが、なお広範に繰り出され回避しきれぬ瘴気が一心の身に降りかかる。焼けるような痛み。決して相容れぬものを、体に無理やり捻じ込まれるような。そのとき歌が、聞こえた。
 千覚は甲龍たまの、地に立つように安定した背で精霊の唄をうたった。唄は静かでありながら、柔らかで暖かく、それはおそらく千覚という一人の性質のあらわれだった。その唄に感応したこの地の精霊が、傷ついた者、一心の体をも癒してゆく。精霊の力は、瘴気とぶつかると互いに霧散するような心持がした。よかった。この地にはまだ、これだけの精霊がいる。瘴気に侵されても、きっとよみがえると、千覚は唄いながら安堵の念を抱いていた。
「おうおう、おめえさんの相手はこっちでしてやるからよお!」
 千覚の唄に反応するような素振りを見せたヒュドラに、アルバルクが素早く宝珠銃「軍人」の引き金を落とす。開拓者達の回復に努める千覚に注意を向けさせたくない。ヒュドラは煩わしそうに首をふるって氷結弾を吐き出し、それがアルバルクの半身に強い衝撃となって叩きつけられた。多少の傷など承知のうえでいる。戦いなんざそんなものよ、なあ? とアルバルクの視線の先でジェーンがやはりピストル「アクラブ」を連射する。表面上はまったく共通しない二人はその戦いぶり、そしてその基盤にある傭兵的な精神についておそらくどこか通じるものがあった。
「私たちも行きますよ」
 サーシャの言葉に、駿龍イズゥムルートは力強く翼を打って応えている。高速で一気に接近したヒュドラの首にすれ違いざま、サーシャの大剣「テンペスト」が叩き込まれる。飛行とサーシャの膂力による速度を得た大質量は、たしかな破壊力を伴ってヒュドラの肉を割った。ぞぶり、と腐った肉に剣の沈み込む手ごたえは、やはり気味の良いものではない。
 そのとき、フェルルは思わず声を挙げそうになった。あのカメが、ヒュドラに接近してきている。その体を瘴気の河に浸し、陸を歩くよりもずっと素早く流れをかきわけながら。カメは己よりも二回りは巨大なヒュドラの体に、鋭く噛みついた。ヒュドラも、三本の首で噛みつこうと組み付くが、甲羅が邪魔で上手くゆかず、吐き出した氷と瘴気を次々と叩き付けだした。カメは鳴き声ともつかぬ呻きをあげ、敵に噛みついた顎を放した。
 刃兼の咆哮が、両者の空間を割った。胸の空気をすべて投げ出すようなその叫びに、ヒュドラは巨体をゆっくりと傾けている。刃兼は無茶な軌道を描くトモエマルと陸地へ誘うべく飛び回るが、向けられる攻撃も激しい。氷結弾、瘴気の吐息を避けきるが、鞭のように振り下ろされたヒュドラの首を叩き付けられ、刃兼はトモエマルの背から吹き飛ばされて陸地に叩き付けられた。
 ヒュドラの巨体が、半ば陸地に晒された。そこから吐き出される瘴気めがけ、九寿重が飛び込んでいる。瘴気と苦心石灰の精霊力が衝突し、九寿重の周囲が一瞬、灰に染まった。灰。無。ならば貴様自身も、無へ還してみせよう。灰色の世界の中で、紅蓮紅葉の燐光が野太刀「緋色暁」にぱっと散り乱れた。放たれた桔梗の斬撃は灰色を切り裂き、ヒュドラの腐乱した首元の肉を大きく割った。ぞぶり、と周囲の肉が傷を埋めるように蠢く。
「行ってあげて! 千覚さん、回復を」
 フェルルはトモエマルと千覚を飛ばされた刃兼の元へ促すと、自らは上空からエインを駆り急降下する。エイン、この極めて勇猛な轟龍は主の意と同時に敵の巨体目がけすでに翼を打っている。身に着けた獣騎槍と共に突進し、フェルルは聖堂騎士剣をその勢いと共に渾身で振り下ろしていた。塞がりかけていた傷は精霊力によって塩となって無残に崩れ落ち、その首はもはやぶらさがるのみで用を為さなくなった。ヒュドラは動きを止め、受けた傷を再生させようとしてか肉を蠢かせだす。
「再生つっても無限じゃねえだろ。お取込み中のところ叩き込んでやれサザー」
 空龍サザーは咆哮し、強力な風の精霊力がその体に集約し始める。その咆哮の背後で、一心は静謐の極致にいた。弓道八節。離れ、残心の二節までの六節を瞬時に完了させる。珂珀の風焔刃と共に、敵の防御を見切る一心の瞳が極北に煌めいて放たれた一矢はヒュドラの首元に神経ごと射抜くような勢いで深々と突き刺さった。
 直後、龍旋嵐刃とアルバルクのアル・ディバインの一撃が、二匹の狼という名を表すような間合いで同じ傷口をさらに抉りこんだ。
 窮地を察したか、ヒュドラは周囲にめちゃくちゃに氷と瘴気を吐き出した。葛籠は慌てず、静かに印を結んだ。雨絲煙柳の精霊力は、やはり静かに、そっと襲い掛かる瘴気を葛籠の体から受け流していた。視界の端に、傷を受けて動かないカメが映る。人とケモノでは、価値観は違うのかもしれない。それでも、守りたいものを守ろうとするその気持ちに、自分もこたえることが出来ればと、葛籠は心から願い、再び大薙刀「岩融」を構えた。
 鷲獅鳥グロリアの、果敢ないななき。鋭い嘴がヒュドラの首元にくいこみ、離脱の直前、ジェーンの気力が一気に燃焼する。ピストルから持ち替えて抜刀された無銘業物「千一」は針の穴を通すような正確さで同じ傷口に振り下ろされ、切り開いていた。
 弱る首元に、シリーンは追い打ちを掛けんと魔槍砲の宝珠に過剰なほどの練力を送り込む。無理に爆ぜるような砲撃は、弱ったヒュドラの首に致命的な一打となって叩き込まれ、その首の動きを停止させていた。
「有難う、おかげで動ける」
 千覚に礼を告げると、刃兼は貰った分は返すぞと、トモエマルに襲撃姿勢をとらせる。そこからの空龍の爆発的な加速は、敵に防御の隙というものを与えない。空気との摩擦によって、太刀「鬼神大王」が炎を灯す、そのような錯覚。刃兼の焔陰の一撃は、すでに瀕死に陥っていた己を吹き飛ばしたヒュドラの首に、致命的な一撃となって振り下ろされた。

「ポロフ様。もしよろしければ、最寄りの村から、網を借りて頂けませんか」
「いいけど、何に使うのかな」
「龍に引いてもらって、川底のお掃除が出来ないかと」
「なるほど。普段は使わない手だけど、瘴気に侵された場所を一度さらってしまうには、いいかもしれない。」
 ワーディウと飛んでゆくかと勧めるシリーンに、近くだからとポロフは首を振った。
「それより、彼のことを見ていてあげて欲しい。今回はありがとう。君たちのおかげで被害の拡大が抑えられた。彼も、同じ気持ちだと思う。多分ね」
 カメは、陸にあがったままの恰好でじっとし、時折首と黒い瞳をわずかに動かしてこちらの様子をうかがっている。ヒュドラから受けた傷を千覚が注意深くみていたが、幸い大事ないようだった。ケモノの生命力であれば、回復もすぐだろう。
「しかし大きなカメに、大きな甲羅だな。この機会だ、甲羅の掃除くらいはさせてもらおうか」
「その前に刃兼さん、もう一度傷を見せてください。ちゃんと手当しますから」
 そういって応えるのも待たずに千覚はポシェットから医療品を取り出している。刃兼はばつが悪そうに頭をかいた。
「ま、これも依頼料のうちってか」
 なんだかんだでアルバルクも河の手入れに力を貸すつもりらしかった。ジェーンは下流の様子を見てくる、と足早にグロリアと飛び立っていた。この場へ飛んでくる時、流れの堰き止められている個所を見つけていたらしい。
 フェルルは動物の亡骸も集め、エインの炎も使って供養していた。被害の拡大は食い止められたが、犠牲になったものも少なくない。早くこの河が元通りの姿を取り戻してくれればと、炎を見つめながらそう願う。エインが、鼻をすり寄せてきた。
「うん、だけどカメさんも無事でよかったね」
 笑いかける葛籠に、カメはやはりカメ特有の無愛想な目でじっと見つめ返すばかりだった。
「だけど本当に大きいですねー」
 それでも背に乗ってみるサーシャや、甲羅を洗う刃兼たちには嫌がる風もなくされるがままになっていた。
 その内なにやら一心の空龍、珂珀が気になるのかお互いにじっと見つめあっていたが、根負けしたのか珂珀は喉を鳴らしてそっぽを向いて一心にじゃれついた。
 葛籠は河を見渡した。大きく広い流れは瘴気のために傷ついていた。それでも、絶えることなく流れづづけば、いずれ遠くないうちに傷は癒されるに違いない。流れる水の清める力というものを、武僧である葛籠は知っていた。
 やがて、ポロフが村の人達と一緒に戻ってきた。村の男が網を抱えて運び、子供たちがカメの周りに声をあげて群がった。