ダイエット大作戦？
マスター名：緑茶
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| ■オープニング本文 天高く、馬肥ゆる秋。 厳しい冬を超えるために美味しい物を沢山食べ、身体が一回りも二回りも大きくなるほど栄養を蓄える動物は多い。 そんな中、この生き物も身体を一回りも二回りも大きくしていた。 五行の西部、とある山の麓にある小さな村。 「…なあ。なんか最近、でっかくなってねぇか？」 農作物の収穫作業の合間、休憩中の農夫がある一点に目をやりながら呟いた。 「ああ、あれは俺の気のせいじゃなかったんか」 「夏の頃と比べると、随分でっかくなってるよなぁ」 一緒に休憩していた他の農夫達が口々に同意している。その視線の先にいるのは村に一頭きりのもふらさま。天儀において神の使いとして大切にされている精霊である。 その精霊が最近、村人の誰もが初めて見ると言うほど大きくなっていた。…主に横方向に。 元からもふもふとした生き物であるが、今はもちーんと言うか、だるーんと言うか、かなりだらしない感じに肥え太っている。 「今年は結構豊作だったからなぁ。美味い物をたんと食べてりゃ肥えるのはしょうがねぇ」 「だが今ぐらいなら何とかなるが、あれ以上肥えられると荷車に繋ぐのも一苦労だべ」 「それは困るだなぁ」 うーんと唸りながらもふらさまに目をやる農夫達。もふらさまは収穫物が積まれた荷車の横で日向ぼっこをしていた。たまに収穫されたばかりのサツマイモを囓ったりしている。 「夏頃のようにとまでは言わないが、せめてもう少し痩せてもらえればなぁ」 「うちのカカアは、最近肥えたなって俺が言うなり毎日歩いたり走ったり、身体を動かすようになったぞ」 「それだ、もふらさまにも身体を動かしてもらおう」 「でも、どうやって頼むんだ。もふらさまは少し…いやかなり怠け者だぞ？」 「そこはあれだ、開拓者ギルドに頼もう。開拓者の人達なら、きっと良い知恵が浮かぶに違いない」 「それは良い考えだ、早速頼んでみるとするか」 数日後、開拓者ギルドに「もふらさまを痩せさせて下さい！」と言う依頼が掲示された。 |
■参加者一覧
水鏡 絵梨乃（ia0191）20歳・女・泰 
柚乃（ia0638）17歳・女・巫 
日御碕・神音（ib0037）18歳・女・吟 
ラシュディア（ib0112）23歳・男・騎 
ジレディア（ib3828）15歳・女・魔 
シータル・ラートリー（ib4533）13歳・女・サ |
| ■リプレイ本文 ●食べ物で釣ろう大作戦 開拓者達が目的の村に到着したのは、良く晴れた昼下がりだった。 村長宅で簡単に到着の挨拶を済ませ、依頼期間中はこちらを利用して下さいと少し離れた家に案内される。件のもふらさまも呼ばれてきて、そこで顔合わせとなったのだが…。 「もふらって、太るんだなぁ…」 もふらさまを見たラシュディア（ib0112）が感心したように呟いた。 「はう、とっても大きいのです〜」 日御碕・神音（ib0037）も目を丸くして驚いている。 でかい。どうも、横幅がこれまで見てきたもふらさまの倍くらいはあるように見える。顔も丸っこく肉が付いていて、どことなく相撲取りのような印象である。 そのもふらさまは今、シータル・ラートリー（ib4533）と挨拶をしていた。 「今回は宜しくお願いしますわね♪」 「こちらこそよろしくもふ」 丁寧にお辞儀したシータルに合わせて頭を下げているが、何をよろしくと挨拶されているのかは理解していないように見える。村の人達から何も聞いていない…というより、何も気にしていないのだろう。 そうやって全員がよろしく、よろしくもふと挨拶を終えた所で、 「もふらさま、散歩がてらこの辺の案内を頼めないかな。見晴らしの良い場所でお茶にするつもりなんだけど、一緒にどうだろう」 早速、水鏡 絵梨乃（ia0191）が切り出した。お茶請けも用意してあるんだと芋羊羹の包みを取り出して見せると、甘味だと察したのだろう、うん、分かったもふと二つ返事で引き受ける。 開拓者達が立てたのは、食べ物で釣ってもふらさまを運動させようという作戦だった。この散歩も単純に村をぐるっと一周して付近の丘でお茶をするだけでは終わらない予定である。 「…あれ？」 ジレディア（ib3828）が気付いたのは、皆で家を出る時の事だった。 （戸口の幅よりもふらさまの方が太いような…） どう見てももふらさまの方が太い。が、もふらさまは特に意識した風もなく、すっと家の外へ出て行った。身体をぶつけたり引っ掛かったような音もない。 （…お腹を引っ込めるみたいに、瞬間的に身体を引っ込めたのかしら。そんな事出来るの？） 解けない謎が増えた瞬間である。 「ジレディー、どうかしたか？」 難しい顔をして考え込んでしまっていたのだろう。ラシュディアが声を掛けてきた。 「なんでもないです。今行きます」 そもそも太っている所からしておかしいのだと、意識を切り替えて皆に付いていく。 村をゆっくり見て回った後、村を見渡せる丘に登ってお茶の準備をする間。 「もふらさまは…普段何を食べているの？」 柚乃（ia0638）の八曜丸も良く食べるけど…と自分のパートナーの事を頭に浮かべながら柚乃が質問を発した。 「うーん、普段は村長さんのお家と村で採れた物を一緒に頂いてるもふ。後、村の人達が野菜や果物を持ってきてくれるもふ、こっちは昼前とおやつの時に頂いてるもふ」 一日三食、間食二回。かなり大切に…というか甘やかされているようである。 そんな話の間に水筒から注がれたお茶と切り分けられた芋羊羹が配られ、全員で頂く。 「もふ！ これすごいもふ！ 焼き芋より甘いもふ！」 芋羊羹を初めて食べたと言うもふらさまはその味に感動したようだった。配られた分をぺろりと食べてしまい、もっと食べたいもふと期待に満ちた瞳で絵梨乃を見つめる。 「うーん。少しだけ残った分があるけど…。よし、じゃあ希望者で駆けっこして一番早かった人に残りの芋羊羹をあげよう」 「もふっ、頑張るもふ」 もふらさまの毛が奮い立つ。やる気十分のようだ。 「それじゃあ、私は駆けっこしたくなるような曲を奏でていますね〜」 「ボクは審判役だ。そうだな…、ここから見える丘の頂上の木の向こうを回って戻ってきて、ここがゴールで良いかな」 演奏兼応援役を宣言した神音がエレメンタル・ピアノを奏で始め、絵梨乃が審判役になる。 「運動は苦手なので…」 ジレディアも運動が苦手な事と、ヒールの高い靴を履いてきた事を理由に辞退しようとしていたが、走る予定の柚乃とシータルに誘われた事と、ジレディーの為に用意しておいたとラシュディアにブーツを手渡されて走る決意を固めたようだった。 身に付けてくれているのは嬉しいんだけど…と言う呟きが聞こえてきた辺り、ラシュディアが過去にプレゼントしたヒールだったのだろう。 そうしてもふらさま、柚乃、シータル、ラシュディア、ジレディアと横一列に並び…。 「よーい、どん！」 絵梨乃の号令で一斉に走り出した。 もふらさまは本当に本気を出しているのだろう。普通の人よりはずっと速く走っている。勿論、十分な経験を積んだ開拓者達であれば簡単に追い越す事が出来る速度ではあるのだが、迂闊に追い越してしまうともふらさまがやる気を失うと判断したのだろう、柚乃とシータルはもふらさまの少し後ろに付き、たまにぎりぎりまで近付いては後退するよう走っている。 その更に後ろでは、普通に走っているだけで躓いたり足を絡ませているジレディアが、ラシュディアにフォローされながら走っていた。身体を動かす事にかけてはドジだと本人の弁だが、それでも大きく遅れてはいないし、何より楽しそうである。 そうこうする内に駆けっこは折り返し地点を越え、もふらさまがトップのままゴールする。 「ゴール！ …おめでとう、もふらさまが一着だ」 他の参加者も次々とゴールする中、神音が演奏曲を一着取ったもふらさま讃える曲に切り替えるのを待って、絵梨乃がもふらさまに声を掛けた。 演奏の手を止められなかった神音以外の全員から拍手を受け、目の前に食べやすく切り分けられた芋羊羹を置いてもらう。 「もふ、こんな達成感、生まれて初めてもふ…」 息を切らしてへばっていたもふらさまだが、それでも身体を起こして芋羊羹にかぶりつき…、 「甘いもふ、幸せもふ…」 そのままばたりと重い音を立てて寝転がった。重い荷物を運ぶ事はあっても、全力で走ったりする事はあまりないので思ったより疲れたのだろう。 だが、開拓者達の作戦はまだまだこれからである。 「もふらさまは本当〜に甘い物が好きなのですね〜」 「この村ではサツマイモが採れると聞きましたので、明日は柚乃がすいーとぽてと、に挑戦します」 いつの間にか演奏の手を止めていた神音の呟きに柚乃が応じると、もふらさまの耳がぴくりと動いた。 「その前に、今夜のお夕飯を決めてしまいましょう。もふらさまは辛い物はお好きですか？」 シータルの質問に耳だけでなく尻尾も揺れた。 「もふ、辛い物って食べた事無いもふ、食べてみたいもふ。すいーとぽてとも食べてみたいもふ」 どちらも未知の食べ物だが、皆の話し方から美味しい食べ物だと察したのだろう。期待に満ちた瞳で顔を上げる。 「でもあれは準備に時間がなー。うーん、走って帰れば大丈夫かもしれないけど、もふらさまは大丈夫？」 西の空に傾き始めた太陽を見やりながら絵梨乃が呟いた。 これは方便である。辛い料理にするからといって特別に準備に時間が掛かるわけではないし、その気になれば一人か二人がもふらさまとここに残り、他のメンバーで先に帰って夕食の準備を始める事も可能なのだが、もふらさまへの効果は抜群だった。 「頑張るもふ！ 早く帰って辛い物を食べるもふ！」 足をじたばたさせて何とか起き上がり、全身の毛を再び奮わせる。物凄くやる気のようだ。 「それじゃ、今日はピリ辛らぅめんにしましょうか♪」 「もふ！」 シータルの声に合わせ、もふらさまを先頭にジョギング程度の早さで走って帰路に就く。 開拓者達は、初日から良い感じにもふらさまを走り回らせる事に成功していた。 ●みんなで遊ぼう 二日目から、開拓者達は村の外れの草原で鬼ごっこや隠れんぼ、果てはトンボを追いかけたりといった屋外遊技でもふらさまを走らせていた。 わざと捕まったり捕まらなかったりしてへとへとになるまで遊び、休憩しながら開拓者達の作った料理やお菓子を食べてまた遊ぶ。 もふらさまはこの手の遊びを殆ど経験した事が無いらしく、一つ一つの遊びに夢中になっている。普段は神の使いとして村の大人達に大事にされている上、村に一頭きりのもふらさまと言う事で得に農作業や荷運びに協力を求められる事が多く、遊び相手はいないとの話だった。村のもふらさまで通じる為、名前も付けられていないと言う。 また、辛い物にも慣れてきている。 最初の方こそ舌が痛いもふと面食らっていたが、慣れると美味しく感じてきたのだろう。段々辛い味付けでも食べられるようになり、今ではシータル好みの極辛にまで興味が向いている様子。 そんな中、開拓者達の仕事の風景を遠くから眺めている者達がいた。 「あんな所に子供達が…。一体どうしたんだろう？」 絵梨乃が気付いたのは三日目のお昼前、昼食の準備の為に一度家に戻ろうとした時の事だ。 ぱっと見、十歳過ぎぐらいだろう子供達が男女合わせて八人ほど、何をするでもなく集まってもふらさま達の方に目を向けている。 「普段からあの草原で遊んでいる子供達じゃないかな」 「…もふらさまを痩せさせる為の依頼ですから、大人達が子供に開拓者達の邪魔をしないよう言い含めているのではないでしょうか」 手伝いの為に一緒に抜けてきたラシュディアが応え、続けて柚乃が可能性の高そうな推測を述べた。 おまけに、遊びに参加していない時の神音が奏でているのは、村の外の音楽に接する機会が少ない子供達にはとても魅力的な曲である。興味を示すなと言うのも難しい話かもしれない。 ここまで考えて、絵梨乃の顔がイタズラを思い付いた子供のような笑みを浮かべた。 「よし、ここはあの子達も誘ってみよう」 「いや…、仕事に巻き込んでしまうのはどうだろう」 「もふらさまは本気だと結構速く動きますから、子供達だと一緒に遊ぶのは辛くないですか？」 ラシュディアと柚乃が真っ当な意見を出したが、絵梨乃は大丈夫と笑って見せた。 「村長さんに話して、村の子供達も混ざれるようにしてもらおう。遊びの参加者が増えればもふらさまが走る距離も伸びるし、依頼が終わった後も遊びで走る機会が出てくるかもしれない」 そう言って二人を納得させると、残りの仲間にも事情を説明しに戻っていく。ちらっと見えた村の子供達の中に可愛い娘がいたので、やる気が急上昇しているのは内緒だった。 子供達が増えて最初はきょとんとしたもふらさまだったが、一緒に遊べる仲間が増えたと理解すると大喜びして全員の名前を教えてもらっていた。相手が子供達なので走る速度はこれまでより落とす事になったが、走る距離と時間が大幅に延長されたので最終的な運動量は上昇しているようだ。 初日にはかなりだらしなかったもふらさまの体型も、四日目の終わり頃にはぽっちゃりで通用するくらいにまで変化してきている。 尤も、懐中時計を片手に村中を見て回ったジレディアによると、これは運動の成果ではない可能性も高いとの事だったが…。 ●そして増えた 五日目。依頼も今日が最終日である。 「はう…。なんだかお布団、小さくないですか？」 朝起き出して、最初に違和感を口にしたのはもふらさまのお布団と自分のお布団をくっつけていた神音だった。 「あら、本当ですわね」 同室のシータルと柚乃が同意する。 いつもならこんもり盛り上がっている布団がやけに小さい。もふらさまどころか、人が入っているにしても小さすぎる気がする。 不思議に思って布団をめくって見ると…。すやすやと眠っているのは、枕よりちょっと大きいくらいのサイズのもふらさま。 「「「え？」」」 三人の声がハモった。 一晩で痩せただけでなく縮んだ？ そんな馬鹿な。大体、この小さなもふらさまは昨日までのもふらさまとは別人…ならぬ別もふらに見える。 「ん、どうかしたもふ？」 部屋の外から声を掛けてきたのは…標準サイズにまでスリムになっているが見間違いようもない、ずっと一緒だったもふらさまが、前脚で器用にフスマを開けて入ってきた。口の周りが濡れているので、きっと水を飲んできていたのだろう。 だが、三人ともそんな細かい所にまで気が回っていなかった。 三人の指がもふらさまに伸び、ついで布団の中にいる小さなもふらさまに向いて、またもふらさまに戻る。 「「「ええ〜〜〜〜！？」」」 きっかり三秒後、三人の大声が家中に響き渡った。 「恐らく、本来新しいもふらさまの誕生に使われる筈の精霊の力が何らかの原因でこの村のもふらさまに流れ込んでしまったのが今回の異常に繋がったのでしょうけど、推測される原因が…」 「ジレディー、落ち着いて」 頭から煙を出しそうな勢いで目の前の現象を理解しようとするジレディアの頭を撫でてやりながら、ラシュディアはもふらさまの方に目を向けた。 何故増えたのかは分からないが、目の前には確かにもふらさまが二頭いる。これまでのもふらさまはシータルと別れを惜しんでいて、未だ眠り続けている仔もふらさまは柚乃がもぎゅっと抱きしめている。神音が奏でているおめでたい時用の曲が、辺りを優しく包み込む。 そう、多分めでたい事なのだろう。絵梨乃が村長に報告に向かったので、もうすぐ村中の大人達が総出で祝いに来るのではないだろうか。 天儀に住まう不思議な生き物、もふらさま。 彼等を覆う神秘のヴェールは、もふもふの毛皮よりなお厚いのかもしれない。 |
