凶暴でか魚狩らないか?
マスター名:旅望かなた
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/02/08 17:53



■オープニング本文

「さぁて、今日の漁はこれくらいにするかー!」
「おーっ!」
 朱藩は香厳島近海、今日も晴れた海は大漁にふさわしい。
「帰ったら新鮮な刺身じゃ!」
「そんなこと言ってよう、昨日もおとといも刺身じゃないかい!」
「当ったり前じゃ、わしらは魚を獲ってるんじゃからのう!」
 わっはっは、と元気な笑い声。
「さて、帰るぞ! 漕げ漕げ!」
「おうっ……あ?」
 櫂を漕ごうとした漁師の一人が、水面に蠢く影に気がつく。
「どうしたい、八岡?」
「いやぁ、今変な影が……うおっと!」
 水面からいきなり飛び出してきた影を、八岡と呼ばれた男は慌てて伏せ、よける!
「うお……でっけぇ!」
「しかも何だいありゃぁ! 槍みたいなのがついてたぜ!」
 その間にも二匹、三匹、上唇が槍のようになった魚が、漁師達を襲わんと飛び交う!
「あんな魚獲れたら高く売れるぜ!」
「馬鹿野郎、それより先に俺達が殺されちまう! さっさと漕げ!」
 慌てて漕ぎ始めた船のスピードに、一度は追いすがったもののついていけず、魚達は引き離される。
「ふぅ……命拾いしたなぁ」
「なぁ」
 漁師達はほっと息をついた。

 開拓者ギルドに貼り出された依頼には、「凶暴巨大魚退治求む! 味の保証なし」と書かれていた。
「どうやらケモノのようですね」
 受付の女性が説明を加える。
 朱藩の香厳島付近の、魚がよく獲れる漁場。普段はそんなに大きな魚は泳いでいないのだが、3mほどもあるケモノとなった魚が、漁師を襲おうとしたようだ。
「今のところはそこで漁をしないことで凌いでいますが、この辺りを縄張りにしている漁師達が困っています」
 巨大魚は、三匹。上唇のところが槍のようになっており、それで突き刺すように攻撃してくるらしいと言う。
 既に魚を退治する代わりに、現場までは足場があまり不安定にならない、大きな船を出してもらう約束を取りつけてある。
「ちなみにケモノなので、死体が残ります。刺身にしてもいいですが……どんな味ですかね」
 首を傾げながら、依頼を受けることにした開拓者達に、受付の女性は紹介状を渡すのだった。


■参加者一覧
篠田 紅雪(ia0704
21歳・女・サ
一心(ia8409
20歳・男・弓
マテーリャ・オスキュラ(ib0070
16歳・男・魔
クラウス・サヴィオラ(ib0261
21歳・男・騎
浅葱 恋華(ib3116
20歳・女・泰
綺咲・桜狐(ib3118
16歳・女・陰
イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138
21歳・女・泰
羽喰 琥珀(ib3263
12歳・男・志
大泉 八雲(ib4604
27歳・男・サ
アル・アレティーノ(ib5404
25歳・女・砲


■リプレイ本文

 冬にしては天気の良い、船旅日和の朝だった。
「新鮮なお魚を食べれると聞いて来ました‥‥お魚さん‥‥」
 綺咲・桜狐(ib3118)はばっちりマイ箸持参だった。
「巨大魚とは、また難儀な相手だわね‥‥噛まれたり刺されたりしないように気をつけないと」
 イゥラ・ヴナ=ハルム(ib3138)が呟き、用意した案山子に服を着せつける。
「‥‥魚のケモノね‥‥やっぱり、食べたら美味しいのかしら?」
「うーん、どんな味かな‥‥美味しいといいですね」
 イゥラの言葉に、一心(ia8409)がにこりと笑って。
「デカい魚って大体大味だって言うのが通説だけど、こいつは違うのかなー」
 そこにアル・アレティーノ(ib5404)がそう口を挟む。
「なんせ3mだから」
「3mですか? ‥‥それは大きいな‥‥頑張りましょう」
 釣りかと思ってましたがこのサイズになると、と一心は苦笑いを浮かべる。
「味の保証なし‥‥って、こーいう書き方されると、逆に気になってくるよなぁ」
 よっこいしょ、と案山子を持ち上げながら、クラウス・サヴィオラ(ib0261)がわくわくした笑みを浮かべる。
「ふふ、魚料理だなんて腕が鳴るわね♪ 漁師の人たちも困ってるみたいだし、ささっと退治しちゃいましょうか」
 いたずらっぽく浅葱 恋華(ib3116)が片目をつぶり、「どんな味なのかしらねー」と楽しげな顔をして。
「へへ、俺も調味料とか持って来たぞ! ‥‥手伝うことなんかあるか?」
 嬉しそうに食べ物や調味料の入った袋を傍らに置いて、羽喰 琥珀(ib3263)が船の上を駆け回る。
「魚型‥‥ケモノ、か‥‥」
 案山子作りを手伝いながら、篠田 紅雪(ia0704)が呟いて首を傾げた。
 アヤカシと違い、死体が残るという点が気になったらしい。
「縄張りに入る者を狙う怪魚ですか‥‥」
 北斗七星の杖を手に、マテーリャ・オスキュラ(ib0070)はふむと頷いて。
「このままにしておくと魚の流通にも支障をきたしかねません。一刻も早く退治しましょう」
 そう言って、案山子を立てるのを手伝い始める。
「ま、味見は後の楽しみに取っておくとして。まずは退治に集中しようぜ!」
「仕事終わらせないことには分からないか、ちゃっちゃとやっちゃおー」
 クラウスとアルの言葉に、桜狐が顔を上げて。
「ん、そろそろ魚さんが出る地域ですか? では作戦開始ですね‥‥」
 武器を握り締め、一同が頷く。
「そろそろ巨大魚のダンスの時間か。うまく案山子に引っかかってくれよ‥‥?」
 水面の様子をちらと見ながら、期待を込めてクラウスが呟いて。
「さてと、村と俺等の飯の種のために、一仕事と行くかぃ」 
 巨大なグニェーフソードを軽く振り、大泉 八雲(ib4604)がニヤリと笑う。
 そして一同は、案山子を残して身を伏せた。

 ――――シュッ! ゴボッ!
 空気を切る音、一瞬遅れて重い打撲音!
「来たわね!」
 イゥラがすぐさま起き上がり、飛び出す。
 案山子は一撃で壊れてしまったものの、おかげで先制攻撃が出来そうだ!
 イゥラの拳が、槍唇の付け根を殴り飛ばす。魚がびちーんと身体を痙攣させた。
「ざーんねん。俺じゃなくてお前が食糧なんだぜー」
 殲刀の柄を掴んだ琥珀が、勢いよく刀身を抜き放つ。ざくりと魚の頭が裂けた。
 次の瞬間、何もないと思われた場所から奔る影!
 埋伏りで甲板に隠れていた一心が、槍を引っつかんで飛び出したのだ。
 一番脆弱であろう、エラの隙間に槍が吸い込まれる!
「所詮はケモノ、知能はたいしたことないわね!」
 恋華が六尺棍を掴み、振りかぶる。その身体が赤く染まり、六尺棍の先端が魚の頭を穿つ。
「かかりましたね、動きを止めます‥‥!」
 桜狐がさっと符を投げた。それは貼りつくと同時に魚を締め付け、動きを鈍らせる。
「油断はせず、気を引き締めていきましょう」
「おうっ! ありがとな!」
 マテーリャにかけてもらったアクセラレートで、素早さを増した琥珀がにこりと手を挙げた。
「っ!」
 間合いを測り、紅雪が刀を繰り出せば、深い傷が魚の頭に開く。
 しかし頭頭狙ってるが美味な魚は頭も美味なんだが。
「こういうところでこそガンナーの集中力が活きるってもんよー」
 ダァン、と銃声。
 景気のいい音を立てて、魚の頭に穴が開く。
 ‥‥ま、あら汁にすれば一緒か‥‥。
「ほぉ、食うところも骨もありそうだな。腕が鳴るぜぇ」
 ニヤリと笑った八雲が、巨大な剣を軽々と振り下ろす。
 ゴイン、と重い音を立てて、魚の頭蓋が二つに割れた。
 それでもまだぴちぴちと動いている魚に、クラウスは剣を振りかぶる。
「トドメはもらうぜ!」
 スマッシュを乗せた一撃が、魚の首をすっぱりと跳ね飛ばした。

「まずは一匹いただきね!」
 イゥラがにこりと笑って、拳を次の魚に叩きつける。
「じゃあ次だな!」
 琥珀が甲板で暴れる魚に駆け寄り、ざくりと斬り裂いた刀をすっと鞘に納める。
「燃えてきたわ〜♪ 頑張っちゃうわよ!」
 言葉通りに身体を燃えるような赤に染め、くるりと回した六尺棍を恋華が思いっきり叩きつける。
 そんな中、一心は槍を手に眼光鋭く急所を探して。
(‥‥能力の使い所を間違えているような気がしないでもないです)
 思わず心で呟きながら、極北でしっかり弱点を狙う。
「援護します、頑張ってください」
「おう! ありがとよ!」
 マティーリャが杖を振りかざせば、クラウスの身体をホーリーコートが包み、淡く輝く。
「はぁっ!」
 そのままスマッシュを叩きつければ、魚の目がぎょろりとクラウスを見る。
 びちぃ、と船の上とは思えぬ速度で飛び上がった魚の、尖った唇がクラウスを狙う!
「うおっ!?」
 かばい切れなかった肩が、ざくりと裂ける。
 それでもホーリーコートのおかげで、致命的な怪我には程遠い。
「止まってもらいます‥‥!」
 もう一匹の魚に、桜狐が呪縛符を投げる。
「‥‥、なんだか、下処理でもしている気分になるな」
 脇差でざっくざっくやりながら、紅雪が思わず、といった様子で呟く。
「案山子は一撃でやられちまったが‥‥次の相手は俺だぁ!」
 八雲が高らかに咆哮を上げる。魚達の目が、八雲を睨んだ。
 ビチィ、と音を立てて八雲の前に魚が迫る。だがそれを、八雲は華麗なステップでかわす。
 一瞬でリロードを終えたアルの銃が、正確に魚を貫く。
「身が傷つくからあんま暴れるなってばっ!」
 琥珀が向かってきた魚の槍を、ひらりとかわしながら刀を抜き放つ。
 魚の目元を薙いだその一撃で、魚は甲板の上に巨体をさらして倒れた。

「たぁっ!」
 命中率の低い骨法起承拳の一撃を、それでもイゥラは確実に当てていく。
「さぁ、美味しく頂いてあげるから‥‥往生しなさい!」
 六尺棍が突き込まれ、その主である恋華が笑みを浮かべる。
 脇差が閃き、続いて刀。紅雪が一歩踏み込み、魚へと連撃を浴びせたのだ。
 十字の傷が、開く。
 タン、と踏み込んだ一心が、目を怪しく輝かせ急所を狙う。ちょうどエラの上に、躊躇なく槍が突き刺さった。
「動かないでくださいね‥‥狙いが外れますので」
 マテーリャがさっと杖を振り、魚の周りの空気を瞬時に凍らせる。
「ありがたい、余裕で当たるぜ!」
 動きが明らかに鈍った魚に、逆手に持ち替えた剣をクラウスはドス、と叩き込む。
「この技なら味には影響しないはずです‥‥砕魂符!」
 桜狐の符が鱗をすり抜け、魂自体に消えない傷を与える。
「とぉっ!」
 巨大な剣が軽々と振り回され、空気を切る。
 轟、とそれは音を立てて、魚の首の半ばまで食い込んだ。
 魚の目が力を失っていく。
 けれどどこにそんな力があったのか――最後の力で、魚は海へと飛び出していく!
「しかし魚相手に撃つことになるとはねー。開拓者も続けてみるもんだ」
 冷静なアルの狙撃が、魚をしかと狙う。
 銃声。
 魚は白い腹を出してぷかりと海面に浮かんだ。

「何とかなったなぁ、お疲れさん」
 海に浮かんだ魚を船に引き上げるのを手伝って、ほっとした顔で八雲が笑みを浮かべる。
 早速甲板にどんどんどん、と並べられた三匹の魚。
「あぁっ! 興奮してきたわ♪」
 恋華がきらりと目を輝かせて、包丁片手に捌きにかかる。
「倒した魚でお料理作ってくれるのね‥‥嗚呼、楽しみだわ」
 超魚好きのイゥラが、耳をぴこぴこさせてその様子を見守る。
「山姥包丁の切れ味の見せどころだな!」
 さらに琥珀が、豪快に魚を捌き始めて。
「‥‥あたし料理からっきしだからお手伝いとか出来ないけど。軽く調理したときでさえ異次元の食べ物といわれたことがあるわ‥‥」
 アルが任せます、と頭を下げて。代わりに皿を出したり机を拭いたりといったことを手伝う。
 クラウスもせっせと机の準備などを手伝って。
 そんな様子を微笑ましく見ながら、早速酒を用意しているのは紅雪。依頼は達成したので、これから文字通り魚を肴に一杯やりたい、といったところ。
 捌き終わった魚は、料理を任された恋華が嬉々として厨房に運ぶ。さらに野菜を買い込んでおいたマテーリャが、大きな鍋であら汁を作る。
 芋がら縄で味をつけて、干飯と甘酒を添えて。
 そして出来上がったあら汁は‥‥何だか今にも動き出しそうな、魔女の妙薬の如き怪しげな色。
 その間にも台所からはいい香り。魚の味噌汁に、梅干を臭み消しに使った煮魚、魚雑炊に焼き魚、すり身の油揚げ詰め蒸し、酒蒸し。
 美味しいと言ってもらえることは、彼女の至上の喜び。
「美味しい料理‥‥どんな料理が来るでしょう、楽しみです‥‥」
 桜狐がそう呟き、くんくんと鼻をうごめかせ。
「いい匂いがしてきました」
 ほう、とその頬に笑顔を浮かべる。
 さらにあら汁をこっちでも。漁師の人達にも食べてほしいと、芋幹縄を使って琥珀がせっせと鍋をかき混ぜる。
「できましたー!」
「「「おおおー!」」」
 やがて運ばれてくる数々の料理に、目を輝かせて手を叩く一同。
「楽しみだっただけに、気が逸ってしょうがないわ‥‥頂きます!」
 早速イゥラがぱしんと手を合わせ、箸を伸ばす。
「お、美味い。恋華、琥珀、マテーリャ、ありがとうな」
 料理をぱくりと頬張って、八雲が優しい顔で礼を言う。
「やはりまずはお刺身ですね‥‥お醤油でいただきましょう」
 一心が醤油をしっかりつけて刺身を頬張れば、豪快な、それでいて旨みのしっかりしたいい味が口内に広がる。
「戦いの後はお腹すくから余計に美味く感じるねー」
 これからはデカい魚も見直さなければ、とアルがうぅむと呟いて。
 こちらでは、あら汁や酒蒸し、雑炊を並べて、紅雪が楽しげに酒をちびちび。
「魚料理とか食べてると故郷を思い出すなー。子供の頃、自分でもよく獲りに行ったりしたんだぜ?」
 ぱくぱくと次々に料理を頬張るクラウス。こちらの料理はまだ彼にとっては珍しく、どれも美味しそうで目移りしてしまう。
「んふふ〜皆、どんどん食べましょ、どんどんね♪」
 せっせとみんなに取り分けたり、新しい料理を持ってきたり、忙しく働く恋華。もちろん自分でも食べている。
「ん、いただきます‥‥。油揚げが入ってて美味しいです‥‥」
 狐耳をぴこんと動かして、桜狐が油揚げ詰めをぱくぱく。
「うまーい、あ、これも美味いーっ!」
 琥珀が育ち盛りの豪快な食欲で、料理をこれでもかこれでもかと頬張る。
 漁師達も加わって、紅雪が酒を提供して、すでに船上での豪華な宴会気分。
「美味ですねぇ‥‥これで人に危害を加えなければ、もっと出てくれても構わないのですけれど」
 いえ、決して、またこんな騒ぎが起こればいいとか思ってる訳じゃないですよ‥‥と呟いて、マテーリャは美味い料理を頬張る。
 ちなみに彼の作ったあら汁は、見た目は混沌だが味は普通に美味くて好評だ。
「漁場の平和は保たれた! ‥‥なんてね。怪我人が出る前に退治できて良かったぜ」
 ぱしん、とクラウスが一つウィンクして。
「これからも美味い魚、獲ってくれよな」
「おう!」
 漁師達が威勢よく拳を突き上げ、酒をぐびっと流し込む。
 船の上での宴会は、日が暮れる頃までは続きそうだった。