【四月】猫達の戦い。
マスター名:蓮華・水無月
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/04/18 07:52



■オープニング本文

 タマは、小さなお魚屋さんで飼われている子猫です。寒い、寒い冬の日に、お魚屋さんの軒下でお母さん猫が産んだ4匹の子猫の中で、たった1匹生き残ったのがタマなのでした。
 そんなタマを助けてくれたお魚屋さんのお兄さんから、タマはいつも『チビ猫』と呼ばれています。

「やぁ、チビ猫。今日は大漁かい?」
『うん、お兄ちゃん。屋根裏のネズミをやっつけたんだよ!』

 今日も、お魚屋さんの店先で番をするお兄さんの言葉に、タマはおひげとお耳をピクピク動かし誇らしげに胸を張って応えました。もちろん、お兄さんには『ウニャー』と鳴いたようにしか聞こえませんが、それでもお兄さんは「そうか、よくやったな」とタマのくわえた鼠を見ながらぐりぐり頭を撫でてくれました。
 タマは、気持ちではもう立派に大きな三毛猫さんなのですけれど、お兄さんにチビ猫と呼ばれるのは大好きです。うっとり目を細めてぐりぐりされていますと、お兄さんはご褒美だよと言って小さなお魚をこっそり分けてくれました。
 そんなお兄さんがタマはとっても大好きです。貰ったお魚を大事に大事に食べ終わったタマは、だからお兄さんの為にいっぱいネズミをとってあげなくちゃと、とっても張り切ってまた屋根裏へと上っていくのでした。





 そんなある日の事です。
 いつも優しくて明るいお魚屋さんのお兄さんが、この頃困った顔をしているのにタマは気付きました。一体どうしたと言うのでしょう?
 タマはとっても心配になりまして、お兄さんのお膝をカリカリひっかいて、精一杯にせい伸びしてお兄さんに尋ねました。

『お兄ちゃん、どうしたの?』
「ん‥‥? ああチビ猫、そんなに鳴いて、お腹空いたのか? ほら、お前の好きな魚だよ」

 けれども、お兄さんにはタマの言葉は判りません。ぐりぐりと優しく頭を撫でてお魚をくれたお兄さんに、タマはしょんぼりおひげを萎れさせました。
 一体どうして、お兄さんはあんなに困ったお顔をしているのでしょう? タマは一生懸命考えまして、ある日、屋根裏のネズミも日向ぼっこも毛づくろいもぜーんぶ我慢して、こっそりお兄さんの様子をうかがう事にしました。
 すると、何ということでしょう。

『よし、今日もお魚頂くぜ!』
『はい親分!!』
「今日もきやがったな、性悪猫どもッ!!」

 この頃ご近所で幅を利かせて、あちらこちらのお魚屋さんでお魚を盗んで行ったり、お夕飯を食べ漁っていたり、乾してあった大切な着物を爪でぼろぼろにしてしまう、とっても悪い野良猫の集団が、ついにお兄さんのお魚屋さんにも目をつけていたのです!
 お兄さんはほうきを振り回して一生懸命に野良猫どもと戦っていましたが、その甲斐もなく、一番大きな美味しそうなお魚を奪われてしまいました。がっくりと膝をつき、悔しそうな顔で「畜生、またやられた!」と拳を握っています。
 このところ、お兄さんが暗い顔をしていたのは、あの野良猫たちのせいだったのです。だからあの野良猫達をやっつけてあげれば、お兄さんは元通りの、明るく元気なお兄さんに戻るのに違いありません。
 けれど一体どうすれば、タマの何倍も体が大きくて、力も強くて、何よりたくさん居る野良猫達をやっつけて、お兄さんを助けてあげる事が出来るのでしょう?
 タマは一生懸命考えました。大好きなお魚も喉を通らない位に、一生懸命考えました。
 そうしてタマは、ご近所の仲良しのネコさん達に、どうか一緒に野良猫をやっつけてくれませんか、とお願いしに行く事にしたのでした。




※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
ダイフク・チャン(ia0634
16歳・女・サ
水月(ia2566
10歳・女・吟
紗々良(ia5542
15歳・女・弓
燐瀬 葉(ia7653
17歳・女・巫
春名 星花(ia8131
17歳・女・巫
ラヴィ・ダリエ(ia9738
15歳・女・巫
アルーシュ・リトナ(ib0119
19歳・女・吟


■リプレイ本文

 話を聞いて、ダイフク・チャン(ia0634)は真っ白な毛をふーっと逆立たせて、色違いの瞳を煌めかせて怒りました。

「魚を盗むなんて絶対やっちゃ駄目みゃ! あたい達が懲らしめてやるみゃよ!」

 ぽてっと寝ている様子が似ているからと、飼い主に「だいふく」と呼ばれてたいそう可愛がられているいる猫さんです。滅多に家からは出ないのですけれど、素敵な春の陽気に誘われてお散歩に出てきたら、こんなひどい事件が起こっていたのでした。
 だいふくの怒りにぷるぷる震えるお髭を見つめながら、そうさなぁ、と難しいお顔で尻尾をぴしりと動かしたのは、酒屋さんで暮らす赤猫さんの無月 幻十郎(ia0102)です。幻十郎もお魚屋さんのお兄さんにはお世話になっていますから、そんなひどい野良猫軍団を許すわけにはいきません。

「魚屋の兄さんには、俺も世話になっている及ばずながら力になろう」
「私も‥‥」

 お友達の水月(ia2566)も真っ白な毛並みに覆われた細い尻尾をそっと挙げました。真っ白な子猫の水月にも、優しいお兄さんは「内緒だよ」と笑ってお魚をくれるのです。
 そのお兄さんの為ならば、普段はのんびり日向ぼっこをしているのが好きな水月も、本当はちょっぴり怖いのですけれど頑張ろうと思いました。
 でも、どうやって野良猫軍団をやっつけるのが、一番良いのでしょうか。みゅぅ、と猫達は額を寄せ合いました。お兄さんにご迷惑をかけないためにも、どうにかして野良猫軍団をどこか離れた場所に誘き出す事はできないでしょうか。
 私が探って見ましょうか、と上品な緑の瞳を優しく笑ませ、ロシアンブルーが鳴きました。音楽家のご主人様に連れられてやってきた旅猫のアルーシュ・リトナ(ib0119)です。きっと野良猫軍団も、旅のロシアンブルーのことは知らないに違いありません。
 けれどもそれを聞くと、春名 星花(ia8131)はお耳をふにゃりと萎れさせました。

「ふみゃ、けどけど、危なくないですか? 乱暴ものだーって噂ですし」

 星花のご主人様も野良猫軍団の事を知っていた位なのですから、きっとものすごく乱暴な猫達なのに違いありません。それを想像しただけで、気弱な星花はお髭もお耳も萎れてしまいます。
 けれどもアルーシュは、いいえ、と首を振りました。町に悪い猫さんが居ると、それだけでアルーシュのような旅猫や、一生懸命生きている他の猫さんまで悪く思われてしまうかも知れません。それはとっても悲しい事ですから。
 そう、小さな肉球をぎゅっと握り締めたアルーシュの言葉に、ぴくり、と星花のお耳が動きました。そうしてお友達の顔を順繰りに見回して、こっくり頷きおひげをピクピク動かしました。

「にゃ、ボクもがんばりますよ!」

 仲良しのみんなが戦うというのなら、気弱な星花だって猫の端くれです。大好きなお友達のために、どうして戦えない事があるでしょうか。
 幸い星花は、お足でぺしっと弾いた石を飛ばすのが得意でした。ですから星花のためにも、どこかお魚屋さんから離れた広場か、河原に野良猫軍団を誘き出すのが良いだろう、と猫達は話し合いました。
 囮に立候補したのは、2匹の猫さん(?)です。1匹はだいふくと同じ色違いの瞳を持つ、けれどもちょっと大きなおうちで飼われているのであまり外をお散歩する事はない、スコティッシュフォールドのラヴィ(ia9738)でした。

「こわいけどがんばりますっ。わるいにゃんこさん、ぼくめつきゃんぺーん、なのですっ」
「うん、悪い子は悪い子やからね‥‥きつねこさんも頑張るんやでー」

 もう1匹は、自分の事を「きつねこさん」と呼ぶ燐瀬 葉(ia7653)でした。橙色の不思議な色合いの毛並みを持つ、見るからに可愛らしい狐さんなのですけれど、ご近所の家猫さんに猫として厳しく躾けられた狐さんです。
 葉は大層猫らしく、取り巻きの猫達を分断してみると鳴きました。それにだいふくは頷きます。

「そうだみゃ〜。敵にゃんこが何匹いるかも知っておいた方がいいみゃが‥‥知ってるかみゃ?」

 ひょい、とタマの方へお耳を向けて尋ねましたが、タマはしょんぼり首を振るばかり。水月がペロペロお顔を舐めて、そんなタマを励まします。
 前足でおひげをしごきながら幻十郎が、まぁ気にすんな、と尻尾でタマの背中をぺしりと叩きました。こうして猫達は、野良猫軍団をやっつけるために動き出したのでした。





 野良猫軍団は悪さをたくさんする恐ろしい野良猫達なのですが、普段は隠れ家にしている空き家でのんびり日向ぼっこをしたり、毛繕いをしたり、仲間同士で取っ組み合ったりしてじゃれあいながら過ごしています。
 それを、野良猫軍団の下っ端猫さんから聞き出したのはアルーシュでした。下っ端猫さんは大層美人なロシアンブルーに舞い上がってしまって、隠れ家の事や、毎日昼下がりに色んなお店に行っている事などを、すっかり教えてくれました。

「凄いですね、街の事を何でも知っているなんて」
「それほどでもにゃいさ」

 下っ端猫さんは嬉しそうにごろごろ喉を鳴らしました。そうして、また何でも聞いてくれと鳴きました。
 アルーシュは下っ端猫さんからきいた事を仲間の猫達に教えました。そうして、その時間に合わせて、野良猫軍団を待ち伏せすることにしました。
 うららかな午後でした。お魚屋さんのお兄さんは店先に座って、しっかりほうきを握り締めています。お兄さんの為にも頑張らなくちゃと、待ち伏せをする猫達はお爪を出したり引っ込めたりしてその時を待ちました。もちろん、店先に並んだ美味しそうなお魚だって、ラヴィは我慢しましたよ?
 やがて野良猫軍団は、親分猫さんを先頭に、のしのし歩いてやってきました。それを野良猫軍団に見つからない辺りでじっと待っていた赤猫の幻十郎が、すっくと立ち上がって一声大きく鳴きました。

「にゃぉぉぉぉぉん!」
「な、なんだ!?」

 その大声にびっくりした親分猫さんがそちらを振り返りました。すると、子分達の何匹かが赤猫めがけて、走っていくではありませんか!
 親分猫はびっくりしてしまいました。その間にも幻十郎はたたたっと駆けて行きまして、大声で鳴き叫びます。するとまた子分達がその鳴き声に惹かれるように走っていくのでした。
 さらに、小さなスコティッシュフィールドと橙のきつねこさんが現れまして、まるで野良猫軍団を馬鹿にするように鳴くではありませんか。親分猫さんは、ふーッ、と恐ろしい顔で凄みました。

「みゃ‥‥ッ」

 親分猫さんにすごまれて、ラヴィはちょっと涙目になって隣の葉のお手てに尻尾を巻きつけました。葉はプルプル震えるラヴィのお顔の毛をぺろぺろ舐めて、大丈夫やでー、と励まします。

「無理はせぇへんようにな?」
「みゃ‥‥こわいけど‥‥ちょっとだけこわいけど‥‥ラヴィ、がんばってはしりますみゃ―――っ!!」

 色違いのお目めを一度ぎゅっとつぶって全力で走り始めたラヴィと、同時にケーンと鳴いて反対側へ走り出した葉に、あっと目を見張った野良猫軍団は2手に分かれて追いかけ始めました。遠くからはまだ幻十郎の鳴き声が時々聞こえてきます。
 野良猫軍団はもうすっかり頭に血が上ってしまいまして、忘れて必死で猫達を追いかけました。けれどもそんな野良猫たちに、後ろから声をかける猫が居たのです。

「待って、そっちじゃないです」
「にゅ?」

 それは旅猫アルーシュでした。追いかけるなら自分が聞いた近道の方がという、アルーシュの言葉に立ち止まった下っ端猫達は顔を見合わせます。
 そうこうしているうちに親分猫は、すっかり姿が見えなくなってしまいました。遅れて行ったりしたらもしかして、鋭いお爪でバリバリバリッとお仕置きされるかもしれません。
 その様子を想像して、下っ端猫達はブルルと身体を震わせました。そうして怖いお顔を作って「本当だろうな?」と確認しました。
 アルーシュはこっくり大きく頷きました。‥‥もちろん、それは下っ端猫さんたちを親分猫から引き離す為の方便だったのですけれどね。





 ご近所の小さな空き地で、猫達は野良猫軍団がやってくるのを待っていました。
 得意の石の礫を浴びせてやる為に、足元に一生懸命礫を集めた星花が、プルプル震えながら自分に言い聞かせます。

「にゃう、怖くにゃい、怖くにゃい‥‥」
「大丈夫みゃ〜、こういう戦闘では、ボス猫を倒せば後は烏合の衆みゃから、できるだけ早く退治した方が良いみゃね〜」

 尻尾でペシペシ星花を叩いて励ますだいふくは、家ではかなりお転婆さんなのか、ずいぶん慣れた様子です。星花と水月とタマは頼もしく、そんなだいふくを見つめました。
 やがて、幻十郎の鳴き声に釣られてやってきた下っ端猫たちが現れました。そこで初めて下っ端猫たちは、自分達が誘き出されたことに気付いて後ろ足で地面を踏み鳴らして悔しがったのですが、もうどうにもなりません。
 下っ端猫の1匹が仲間に鳴きました。

「俺達のほうが数は多いんだ。やっつけろ!」
「おぅ!!」
「ま、負けにゃいのです‥‥ッ!」

 星花は足元の礫を一つ、鋭く飛ばしました。ピシリ、と音がして先頭にいた下っ端猫さんが「ミギャッ!」と悲鳴を上げました。
 一斉に襲い掛かってきた下っ端猫達を、幻十郎はぐっと足を踏ん張り、背中の毛を逆立たせて押し留めます。そうして背後で震えているタマに尋ねました。

「ふんぬぅ〜〜、がまん、がまん‥‥タマ、やれるか?」
「うん‥‥!」

 チビ猫タマはしっかりと頷きました。こんなにたくさんのお友達が一緒に戦ってくれるのですから、タマにだって出来ないことはありません。
 そんなタマに幻十郎はこっくり頷きました。そうして野良猫たちに向かって勢いよく駆け出していきました。

「にゃにゃにゃっ!」
「必殺、だぶる猫ぱんちみゃ!!」

 だいふくと星花は変わらず、野良猫達を相手に石の礫を飛ばしたり、走り回ってぺぺん! と鋭いパンチを食らわせたり、一生懸命野良猫たちと戦っています。水月の「頑張って!」という声援に、何だか身体の底から力が沸いてくるような気がしました。
 遅れて、ラヴィや葉、アルーシュにかく乱された野良猫たちもやってきて、怒りに背中の毛を逆立たせました。ことに親分猫の怒りようときたら、歯をむき出しにして、鋭く研いだ爪を出したり引っ込めたりしながら、たわしのような尻尾を激しく振り回しています。
 けれども今度は誰も、もちろんタマだって、怖くて震えたりはしませんでしたよ。

「まちのへーわのためにも、わるいこは、でていけーっなのですーっ」
「‥‥ですっ」

 大声で鳴いたラヴィの言葉に、水月もこくこく頷きました。悪い野良猫さんが居てはのんびり日向ぼっこも出来ませんものね。
 葉が後ろ足で立って踊りながらみんなを励ましました。アルーシュも音楽家のご主人様仕込みの綺麗な鳴き声で応援します。
 バリバリバリッ、フギャーッ、ミギャッ、フーッ!!
 引っかいたり、噛みついたり、猫ぱんちと猫きっくを繰り出したり、仲間の応援を受けて猫たちは一生懸命に戦いました。小さい猫さんは猫たちの間を駆け回っては前脚を引っ掻いたり、側面や背後に回りざまに後脚を狙ったり。
 幻十郎の研ぎ澄ませた爪が野良猫の耳を引っ掛けますと、お返しに野良猫はがぶりと幻十郎のお腹に噛み付きます。そうしたら水月や葉やラヴィが走っていって、ごろごろ喉を鳴らしたり、傷口をぺろぺろ舐めました。
 けれども、野良猫軍団だってやられっぱなしではありません。

「にゃわっ、来ないで下さいっ」
「待てーッ!!」

 遠くから礫で戦っていた星花が、親分猫に追いかけられているではありませんか!
 星花は必死に逃げていました。みんな、助けに行かなければとハラハラしたのですけれど、まだまだ子分達が一杯居て動けません。親分猫の爪は今にも星花に届いてしまいそうです。ああ、どうすれば良いのでしょう?
 その時です。

「ふにゃーッ」

 どうにも逃げ切れそうにないと悟った星花が、くるりと振り返って親分猫のお顔を思い切りがりがり引っかいてやったのです!
 ギャッ、と親分猫は鼻の頭を押さえながら引っくり返りました。その隙に星花は今度こそ逃げます。幻十郎とだいふくがそんな親分猫の傍に立ちました。

「ま、悪く思わんでくれ」
「必殺ッ! だぶる猫ぱーんちっ!!」
「フギャーッ!!」

 2匹の鋭いきっくとぱんちをお腹に受けて、ついに親分猫は悲鳴を上げて、鳴きながら逃げていきました。それを見て子分達も、慌てて親分猫の後を追いかけ逃げ出します。
 猫たちはほぅ、と息を吐きました。そうしてぼろぼろになった毛並みをぺろぺろ舐め合いっこしました。
 アルーシュが優しく、ここはもう大丈夫だからお兄さんのところに、とタマに微笑みかけました。それにタマは大きく頷いて、慌ててお魚屋さんへ走っていったのでした。





 お魚屋さんの店先では、ほうきを握ったお兄さんの足元で、タマが小さなお魚を食べていました。幻十郎が呼びましたら、ぱっと顔を上げて走ってきます。

「ほれ、ちゃんと手伝ってくれた、姉さん方にお礼をするんだぜ?」
「あ‥‥ッ、ありがとうございました! お兄ちゃん、友達が野良猫軍団を一緒にやっつけてくれたんだよ!」
『ん? チビ猫、友達か? 一緒に魚食べるか?』

 振り返ってそう鳴いたタマに、お兄さんはけれどもそう言って、売り物の小さなお魚を全員にくれました。それをちょっぴり寂しく思いましたけれども、猫達はありがたくお魚を頂く事にしました。帰ったらご主人様にお酒を舐めさせてもらおうと、幻十郎はこっそり誓いました。

「にゃふ‥‥怖かったぁ。でも、これでお魚屋さんが元気になるといいね、タマさま!」
「良かったみゃね☆」

 お魚を食べながら、星花とだいふくも嬉しそうに鳴いています。
 けれども水月だけは、パクパクお魚を食べながら、あまりお兄さんには近付かないようにしていました。水月は野良猫さんですから、必要以上に人間と馴れ馴れしくしないのが誇りだと、何となく考えているのです。タマもお兄さんも大好きなのですけれどね。
 一方、ラヴィは困った顔でお魚を見つめています。

「ラヴィ、おさかなまるごと、たべたことないですみゃ‥‥」
「そうなの?」
「はい‥‥タマさま、おしえていただけますか?」

 仲良くしてくださいね、とお顔を擦り付けたラヴィに、もちろん、とタマはお髭を誇らしげにピクピクさせて頷きました。
 それをアルーシュは微笑ましく見つめて、尻尾をゆらりと揺らしました。旅猫のアルーシュは、ご主人様のお相手をして少しでも疲れを取ってもらうのが役目です。だから、ご主人様が心配する前に帰らなくてはいけません。
 けれどもあとほんの少しだけ、この町で一緒に戦った新しいお友達と一緒に居たいと思ったのでした。