首飾りのゆくえ。
マスター名:蓮華・水無月
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/30 19:54



■オープニング本文

 もうどうしたら良いのか解らなくて、真砂(まさご)はポロポロ涙をこぼした。泣き虫さんだね、とからかう父の声が聞こえた気がして、泣きやまなくちゃと思うのに、どうしても止まらない。

(どうしてこんな酷いことするの‥‥?)

 きゅっ、と胸元で拳を握る。そこにあったはずの堅い感触が失われていることに、また涙がこみ上げてくる。
 大切な、大切な父の形見の羽織紐。世界で一番大切なそれを、真砂は丈夫な革紐と繋いで首飾りにしてずっと、肌身はなさず持っていた。
 なのにそれを、勤め先の商家のお坊っちゃんに取り上げられて。それは大切なものだからどうか返して下さいまし、と何度もお願いしに行ったのに、お坊っちゃんは一向に返してくれようとはしない。
 嫌われているのだ、と思う。思えば商家に勤めだした時から、お坊っちゃんは何かといえば真砂の悪口を言ったり、真砂のものを隠したり、真砂をいじめてばかり居た。そしてついに、大切な首飾りまで。

(もう辞めよう)

 真砂は思う。田舎から出てきて、一生懸命頑張ってきたけれどもう限界だ。こんな事になってはもう、真砂には頑張る気持ちがどこにも残っていない。
 ああ、でも、あの首飾りだけは命よりも大切なものだったのに‥‥
 どうにかして、あの首飾りだけは取り戻したい。今までのお賃金を全部返せと言われても、あれだけは。でもそんな事を言ったって、あの意地悪なお坊っちゃんはきっと、返してくれやしないのだろう。
 ご主人や奥さんに言うことも考えて、ダメだ、と首を振る。お坊っちゃんが大きくなってお店を任せられるようになったからと、お2人はのんびり旅行に出かけてしまった。まだしばらくは戻らないだろう。そして戻ってくるまで、真砂には我慢が出来ない。
 ふと、思いついてとある方向に視線をやった。そちらには話にだけ聞く、開拓者ギルドがある。お金が掛かるけれども、お願いすれば色んな事を助けてくれる人たちが居るのだと。
 こんな事、お願いできるのかどうか解らないけれど、行くだけ行ってみよう。どれくらいお金がかかるのか解らないけれど、首飾りが戻るのなら惜しくはない。
 そうして少女、真砂は開拓者ギルドに足を踏み入れて。
 少女の話を聞いた受付係は、ほんの少しだけひきつった顔になって、そうですか、と頷いた。

「引き受けるだけはお引き受けします、が。その、お坊っちゃんとは年がお近い、とか?」
「‥‥? ええと、お坊っちゃんは私より4つ年上で、今年で21歳だったと思います」
「‥‥ちなみにその、首飾りと言うのは?」
「とても大切な、古い羽織紐の両端を皮ひもで繋いだもので‥‥あの、綺麗な石を繋いだ男物の羽織紐なんです‥‥ずっと首からかけてたんですけど、それを見つけたお坊っちゃんが‥‥」

 真砂の言葉に、受付係はなんだか脱力した表情になった。ん? と不思議そうに首を傾げた真砂に、ああいえお気になさらず、とやる気なく手を振る。
 そして依頼書を書き上げ、どうか宜しくお願いします、と頭を下げて帰っていった少女を見送った受付係は、最後にそっと付け加えた。

『馬に蹴られないよう注意』


■参加者一覧
久万 玄斎(ia0759
70歳・男・泰
礼野 真夢紀(ia1144
10歳・女・巫
時永 貴由(ia5429
21歳・女・シ
トゥエンティ(ia7971
12歳・女・サ
天ヶ瀬 焔騎(ia8250
25歳・男・志
アグネス・ユーリ(ib0058
23歳・女・吟
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
久野(ib0267
26歳・男・陰


■リプレイ本文

 『意地悪なお坊ちゃん』に取り上げられた大切な首飾り。会いに行った開拓者達がそのことを尋ねると途端、真砂はポロポロポロと涙を零し始めた。
 時永 貴由(ia5429)はそっと微笑んで少女の頭を撫でる。

「やれやれ、なんというか大変だな‥‥泣くのはもうお仕舞になるように尽くすから、もう少し踏みとどまってくれ」
「まったくひどい男ね‥‥!」

 優しく響く貴由の言葉と、本気でプンプン腹を立てるリスティア・バルテス(ib0242)の言葉に、真砂は何度も頷き涙をぐしぐし両手で拭った。それにほっと息を吐いて、良い子だね、と貴由は目を細める。
 今、少女は仕事の休憩時間に来たと言う。大体決まっているのか確認すると、手の空いた時が休憩で、時間は決まっていないらしい。

「お店の具合で変わりますから」
「なるほどね。お休みはどうなの?」

 頷いたアグネス・ユーリ(ib0058)の問いにも首を振る。それから、なぜ自分の仕事の休みが? と不思議そうに首を傾げる真砂の頭を撫でて「まぁあたしたちに任せて。必ず取り返してあげるから、ね」と、アグネスはにっこり笑って真砂を店へと帰らせる。
 その小さな背中が角を曲がって見えなくなるまで見送って、そうしてしばらく沈黙して。

「でも、21歳の男のつんでれは可愛くないっ」
「まったくわかりやすいって言うか‥‥しょうのない男の子ね」

 ぐっ、と拳を握って力説する妹分に、リスティアは大きく頷いた。どこからどう聞いても、惣太郎は真砂が好きなのに素直になれなくてイジワルしているとしか思えない。幼い子供ならまだ可愛かろうが、良い大人がやるのは男らしくないとしか言いようがなく。
 こうなったらアグネスと2人、同時攻撃でどついてやらねば気がすまない。爽やかな笑顔で物騒な事を言い出す姉貴分に、当然とますます固く拳を握るアグネスだ。

「カワイイ女の子泣かす男は許さなーいッ」
「女の子の味方としては黙って置けないわ」
「‥‥まぁ、あてられるのは構わないが、蹴られるのは嫌だな‥‥」

 盛り上がる女性2人から、貴由は僅かに視線を逸らして遠くを見た。むしろ恋路を応援してやろうというのだから、馬の方もその気持ちを汲んで欲しいものである。





 彼らが考えたのは、真砂を狂言誘拐して惣太郎に自ら首飾りを持ってこさせる、という計画だ。

「無事に協力の了承は得られましたぜ」
「んむ、ご苦労じゃったの。いやぁ、青春の香りは良いのぅ」

 ひとっ走り、惣太郎はもちろん真砂にも気付かれないよう件の商家の使用人仲間に協力を取り付けてきた久野(ib0267)の言葉に、頷いた久万 玄斎(ia0759)が「ふぉっふぉっふぉ」と笑う。大変にご年配でありながら、この手の話題には目のない御仁のようだ。
 真砂からの依頼は『父の形見の首飾りを取り戻す』事。だが惣太郎の気持ちは傍から見れば余りにも明らかで。
 ゆえに真砂自身にも計画を知らせぬまま狂言誘拐を実行し、惣太郎に己の行動の反省を促しつつ、自分の手で真砂に首飾りを返させる――と言う作戦を考えたのだった。

「聞き分けのなさそうなお坊ちゃんに、少々灸を据えてやりたい所だが‥‥」

 被ったスカルフェイスの具合を確かめながら、天ヶ瀬 焔騎(ia8250)が息を吐く。真砂の誘拐実行犯役の彼が、惣太郎の前に姿を現すわけには行かない。だから代わりに惣太郎と接触する仲間に『人を傷付けた、その記憶は一生の傷痕になる』と伝言を頼んでいる。願わくば、惣太郎がそれを払拭できるだけの度量を見せてくれますように。
 玄斎は「知らせない方が楽しそうじゃしのぅ」と、いかにこの依頼を楽しむかに全力を注いでいる。仲間達の準備が万端整ったのを確認し、久野は空を見上げて頃合を確かめて、久野は仮に用意した隠れ家を出て商家へと向かった。使用人仲間の女性に、夕食前に何か理由をつけて真砂を外に出して欲しい、と頼んである。
 暗がりが落ち始めた町を行くと、向こうから小走りでやってくる真砂が見える。どうやら上手くやってくれたらしいと、久野は真砂に愛想良く声をかけた。

「ちょいとすみません。道を尋ねたいんですがね」
「‥‥どちらですか?」

 足を止めた真砂に適当な場所を言うと、ああそこなら、と真砂は丁寧に道を指差し教えてくれようとした。だがそれを遮り、よくわからないんで途中まででも案内してくれませんかね、と言う。
 もちろん、連れ出す為の方便。だがそうと知らない真砂は少し困った顔で暗くなり始めてる空をちらりと見上げた後、途中までなら、と頷いて。

「‥‥悪く思わないでくださいね。あんたが持ってる首飾り、頂きに上がったんですよ」

 町外れの辻まで案内し、ここをまっすぐ行った所ですから、と指差した真砂に悪人ぶって久野は言った。え? と戸惑った声を上げた真砂の腕を掴み、悲鳴を防ぐ為に口を塞ぐ。
 この辻を右に行けば、久野が適当に言った『目的地』がある。そして左にまっすぐ行けば、郊外にある商家の所有している蔵の1つを、今は使っていないからどうぞと鍵を貸してくれた『隠れ家』があって。

「大人しくしてりゃ悪いようにはしませんよ。あんたを傷つけるつもりは一切ありません」
「‥‥ッ」

 その言葉を聞く真砂の視界には、スカルフェイスを被った焔騎とニヤリと唇の端を吊り上げて笑う玄斎の姿が映っている。それが開拓者達の演技だと知らない真砂は恐怖に喉を引きつらせ、目を見開いてぼろぼろ涙を零し始めた。





 今日の営業も終わりだと言う頃合にやってきたその少女は、真砂の友人だと名乗った。

「仲良しなのである。今日はお母さんのお使いでやってきたのである! ‥‥で、何を売っているのであるか?」

 いやそもそも何を買いに来たんだ、と自分の身の丈よりもはるかに大きな斧を持ってる怪しさ満点の少女に当然の疑問を抱く従業員。やはりかなりダメな子な感じであるな、と思うトゥエンティ(ia7971)。
 そんな商家の一角では、商家のお坊ちゃん惣太郎が同じく、真砂の友人と名乗る女性達に、相談を持ちかけられていた。

「若旦那さん、最近真砂ちゃんの様子がとてもおかしくて‥‥」
「そうそう、変なのよねー」

 真砂には内密の相談でとの前触れで、切り出された貴由とアグネスの言葉にふと眉を潜める惣太郎である。一応心当たりはあるのか。
 考えながら、構わず2人は『相談』を続ける。どうも最近真砂が落ち込んでいると言うか、思い詰めた様子なのが気になって仕方がないのだ、と。

「前に修繕してあげた、お父さんから貰った大事な首飾りをしている所を見てなくて、話を聞けば涙をこぼすばかり‥‥」
「けなげよね‥‥主人に嫌われてると思いながらも、お父さんの形見の羽織紐、握り締めて、歯食いしばって‥‥」
「ああ、あの首飾りであるな。それなら我輩も見せてもらったことがあるのである」
「家を離れ、色恋もせずに一人頑張っているのに酷い話‥‥」
「思い詰め過ぎて、妙な事にならないと良いけど。真面目な子だから‥‥」

 トゥエンティも話題に加わり、心配だわ、心配だね、と顔を見合わせ頷き合う女性達。それからチラリ、と惣太郎の様子を伺う。お茶をどうぞ、と使用人らしき女性がやって来て、惣太郎の前には「お手紙ですよ」と書状も添えていった。
 だがそれには目もくれず、蒼褪めて懐辺りを押さえる惣太郎。そ知らぬ顔で、不思議そうにアグネスは続けた。

「何よ、変な顔して。知ってるでしょ? 父親の形見の首飾り。何か、曰くアリげな噂があるみたいだけど‥‥そんなの関係なく、宝物なんだろけどね、彼女には」

 さりげなく両手のブレスレット・ベルを鳴らし、偶像の歌で『曰く付きの品らしい』と信じさせようとする。その音にますます顔を青くしながら、惣太郎はようやく使用人が持ってきた手紙に手を伸ばし、パラリ、と巻紙を広げた。
 だがそこに書き付けられた文字を目にして、顔を真っ青にして目を見開く。

『真砂は預かった。返して欲しくば、町外れの蔵まで真砂が持つ首飾りを持って来い』

 端的に言えばそんな内容。実際には『真砂の持ってる首飾りは高価な物で本人を拉致して盗ろうとしたが惣太郎にとられてしまったということなので』と言う旨の事が随分と丁寧に説明してあったのだが、惣太郎の目にはまったく入らない。
 真砂が、と小さく震える声で呟いた惣太郎の口を、アグネスがぱっと押さえた。

「他人に言っちゃ駄目! 何されるか解ったもんじゃないわ。真砂だって、ここに帰って来難くなるでしょう?」
「で、でも‥‥」
「若旦那、どうか落ち着いて‥‥何か知っていましたら真砂ちゃんの力になってあげてください」
「そうよ。このまま真砂が離れちゃってもいいの?」

 リスティアと貴由も重ねて、騒いではいけないと説得する。その言葉に惣太郎はこくこく大きく頷くものの、どうしたら良いのか判らない様子で書状をじっと見つめるばかりだ。
 ええい、とぶち切れたアグネスが惣太郎の背中をどげしッ! とどついた。

「大事な人の危機に、意地張ってるような奴に恋する資格は無い! 言葉で素直になれないなら、せめて行動で示しなさいっ」
「我輩も協力するのである!」

 トゥエンティも斧を両手でずぅんと持ち上げ主張する。惣太郎は青い顔をして頷き――貴由がそっと伝えた、仲間からの伝言をも聞いて、覚悟を決めたように唇を噛み締めた。
 すっくと立ち上がり、下駄を引っ掛けて店の外へ駆け出した惣太郎の姿を見て、ぎょっと目を丸くした従業員に貴由はさらりと微笑む。

「ご友人の家に忘れ物をしたとか。何でも大事なものと言ってましたよ」

 随分慌ててましたね、じゃあ私達はこれで、と開拓者達は従業員に頭を下げ、惣太郎を追って走り出したのだった。





 さすがに自分の店の倉庫だけあって、惣太郎は迷わずやって来れたようだ。外から聞こえてくる賑やかな声と、惣太郎を励ましたり逆に叱責したり、或いは慰めようと口笛を吹いたりする仲間達の声に、誘拐犯役達はそう判断する。

「‥‥本当の誘拐犯だったら逃げてるぞ」

 ぼそり、と焔騎が小さく呟いた。それから隅に座って震えて泣いている真砂を見やる――彼女はこの騒ぎにも気付いていない風で、胸元でぎゅっと何かにすがるように拳を握って泣き続けている。
 このままだと、首飾りが無事に戻っても今度はこの誘拐が彼女の心の傷になるかもしれない。もともと気の強い方ではなさそうだし。
 焔騎はそう判断し、スカルフェイスを外した。

「真砂さん。実は俺達は開拓者ギルドの人間なんだ」

 怖がらせてすまないと、最初に断って焔騎は怯えた眼差しで見つめてくる少女に説明する。彼女の依頼を受けて、惣太郎から首飾りを取り戻す為に一芝居を打っている事。惣太郎に不審に思われないよう、敢えて彼女には何も知らせず『誘拐』した事。
 その言葉を真砂は俄かには信じられない様子だったが、それでも一先ず泣き止んだ事にほっと息を吐き、焔騎は感謝するように少女の肩を叩く。それから仲間達を振り返り、勝手をしてすまないと謝った。

「ま、仕方ありませんや。それより若旦那がやって来るようですよ――さぁさ、お父様の形見の首飾り、取り戻すとしましょうか」
「んむ、いよいよじゃの」

 久野の言葉に鼻息も荒く、心から楽しそうに両手をボキリと鳴らす玄斎である。彼の頭の中は今、いかにかっこよく悪役になりきるかで一杯だ。やっぱ決めポーズはこうかのぅ、などと色々試している。
 それなんか良いんじゃないすか、と相槌を打ちながら焔騎もスカルフェイスを被りなおした。それを待っていたかのようなタイミングで、倉庫の扉が勢い良く開け放たれる。

「誘拐犯ども! 来てやったぞ!」
「お待ちしてましたぜ。例のものはちゃんと持ってきて頂けたんでしょうね」

 なぜか偉そうな惣太郎に、久野がニヤリと笑って手を突き出した。これだ、と惣太郎の懐から出てきた首飾りをじっと見た彼は、必要以上に大きく舌打ちして「デマか‥‥とんだ誤算ですよ」と吐き捨てた。

「誘拐犯達! 神妙にしなさい!」
「我輩達が討伐してくれるのである!」
「フハハハハッ、そうそうやられはせんのじゃッ!」

 ビシィッ! と指を突きつけ宣言したトゥエンティとアグネスに、歯をむき出しにして高笑いする玄斎。焔騎が『それが良い』と適当に言った悪役的決めポーズだ。
 悪乗りしてるな、と心の中で思いながら貴由が惣太郎に言った。

「若旦那! ここは任せて真砂ちゃんを!」
「えーい、正義のキックを受けてみろーッ!」

 せっかくだから両足で思い切り踏み切って飛び蹴りなんかやってみるリスティア。避けたら彼女の方が危険そうなので、焔騎は敢えてそのキックを腹で受け止め『ぐぉっ!』と大仰に痛がった。
 ぶぅん、と誰にも当たらないよう気をつけトゥエンティが斧を振り回す。大きく身を捻って避けるフリをした玄斎が『とりゃーッ!!』と掛け声だけは大きく拳を適当に振り回し。
 1人必死な顔で惣太郎が真砂の元へ走る。真砂を人質にとっている(と見せかけている)久野に「どけッ!」と打ち込んだ拳を、敢えて受け止めよろけたフリをした。

(よし、ナイスじゃッ)

 心の中でぐっと拳を握る玄斎。だって惣太郎が真砂を助けたほうがカッコいいし。きっと真砂の中の好感度も上昇だ。
 ここらが引き際だと目配せし、誘拐犯役達は一斉に『くそッ』『覚えてろッ』などと捨て台詞を吐きながら、バタバタと倉庫から退却したのだった。





 誘拐犯の逃げた倉庫から出て、誰も残っていないことを確認すると、トゥエンティは殊更にプンプンと怒りながら巨大な斧を軽がる肩に担ぎ上げた。

「まったく、悪いことをしたら謝る、簡単なことであるのにな!」

 失敬な奴らだと怒りながら、真砂が無事で良かったと手を振ってその場を離れる。幼い子供がいつまでも一緒に居てはおかしいと考えての事だ。もちろん顛末は後でちゃんと聞くつもりだが。
 そのトゥエンティの言葉が胸に刺さったものか、必死で真砂を抱きかかえるように支えていた惣太郎がふと気まずげに身体を離し、首飾りを持て余すように揺らす。若旦那、と貴由がそっと声をかけた。

「心細い女性とは優しい殿方に弱いもの。言葉を間違えぬよう‥‥」
「好きなら好きってはっきり言いなさい! 男の子でしょ?」

 リスティアも小声で叱咤する。気付いてない真砂も真砂だが、このお坊ちゃんのうだうだっぷりも相当のものだ。
 ぅ、と小さく呻いてぎこちなく真砂を見る惣太郎。少し怯えた顔で、だがじっと惣太郎と大切な首飾りを見比べる真砂。
 その様子を、実は少し離れた茂みから隠れて見ていた玄斎が嬉しそうに頷いた。

「せ、青春じゃ。わしもまた謳歌したいのう」
「まだ青春っすか」

 焔騎が呆れたように呻く。そうしてまた、何か言おうとしては言葉を飲み込んでばかりいる惣太郎をじっと見守るのだった。