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■オープニング本文 『山の洞窟の近くで、アヤカシの目撃情報有。村民の山への立ち入りを当面禁止する』 村の掲示板を眺めていた彼方 翔(iz0098)は、物騒な貼紙を見つけて顔をしかめた。今の季節、秋の実りや紅葉狩りなど山へ入りたい人間は多いだろう。無茶をする人間が出てこなければ良いんだが。 翔がそんなことを考えているとき、ふと視界に細長い影が掠めた。曲がり角の先に消えたそれを思わず追い駆ける。 長い影の正体は竹槍だった。ただそれを持っているのが小さな子供である為、不自然に揺れて竹槍自体が動いているように見える。 歩いていく子供の緊張した横顔が翔の胸をざわつかせる。子供に気が付かれないように、翔はそっとその後ろをついていった。 子供の行き着いた場所は、山へと続いている村の裏道だった。周囲を伺いながら、子供は道を封鎖している縄を乗り越えようとする。それを黙って翔が見ていられる筈がない。 「こら坊主、なぁにやってんだ」 衿を持って子供を縄から引きはがす。暴れる子供は出鱈目に竹槍を振り回した。予測のつかない動きに避け切れず、竹槍が頬を掠める。その瞬間、子供の顔色が変わったのを翔は見逃さなかった。 竹槍を掴んで取り上げて、襟を掴みあげる。宙ぶらりんになった子供はわあわあと騒ぎ出した。 「降ろせよ、おじさんっ。早くしないと柴が!」 「誰がおじさんだ」 鉄拳制裁。頭を押さえて痛みを堪えている子供を見下ろして、翔はその体を地面に下ろしてやった。 「で、柴って?」 地面にしゃがみ込んで、子供と目線を合わせる。しかし第一印象が悪かったのか、子供は完全に警戒していた。その目を覗き込んで、翔は笑ってみせた。 「兄ちゃんが仲間になってやるから」 表情にすぐ出るほど素直で、人を傷付ける事に敏感なこの子供が、悪さをしようとしているとは思えなかった。何が子供をそんなに追い詰めているのか。 「柴が‥‥柴は俺の犬、で」 「うん」 相槌を打つと、子供は気が緩んだのか大きな瞳に涙を浮かべる。 「母さんが犬が苦手で、家では飼えないって。でも、柴はいい奴なんだ」 「うん」 「だから山の洞窟で内緒で飼ってて‥‥」 話ながら、溢れ出してきた涙を子供は手の甲で拭った。それでも涙は留まらずに、次々と溢れ出してくる。 「早く行かないと、柴がア、アヤカシにっ、くわ、れて‥‥っ」 しゃくりながら必死に喋る子供の両肩を、翔はあやすように叩いてやった。 「よし分かった。兄ちゃんが必ず助けてくるから。お前はここで‥‥」 「俺も連れてって!」 翔か言い終わらないうちに、子供は翔の胸元を掴んだ。縋る両手は力の入れすぎで細かく震えている。 「柴には俺の犬なんだ。俺が守ってやらなきゃ!」 「‥‥駄目だ。危険なのは分かってるんだろ」 「でも」 子供は引き下がらなかった。真剣な眼差しに、翔は折れそうになる。 「兄ちゃんはな、これから仲間を呼んでくるから。ちゃんと戻ってくるからな。ええと‥‥」 「相太だよ。‥‥俺、ここで待ってても良い?」 縋るような目に、翔は苦笑を浮かべた。連れていってやるとは言えない。でも強く拒絶も出来ない。これが甘さであり、良くないことだとは分かっているけれど。 「早まった真似するなよ」 「うん」 しっかりと頷く相太に一先ず安堵して、翔はその場を離れた。 犬を隠し飼っていた洞窟で目撃されたアヤカシ。急がなければ犬が危ないが、詳細が分からない以上、一人で乗り込むのは危険だった。それに。 出来れば相太を説得してくれる人間がいてくれれば良い。それと密かに翔は、相太の家で犬――柴を飼えるようにしてやりたいと思っていた。その協力をしてくれる人間はいるだろうか。 どちらにせよ、先ずはアヤカシを討伐して柴を助けなければならない。翔は急いでギルドへと向かった。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
葛葉・アキラ(ia0255)
18歳・女・陰
篠田 紅雪(ia0704)
21歳・女・サ
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰
滋藤 柾鷹(ia9130)
27歳・男・サ
エグム・マキナ(ia9693)
27歳・男・弓
ライア(ib4543)
19歳・女・騎 |
■リプレイ本文 彼方 翔(iz0098)は急いで歩を進めていた。柴を案じているのだろう、相太の不安そうに揺れていた瞳が気になって仕方がない。 だから翔は近寄って来る足音にも、伸ばされた手の平にも気がつかなかった。 「翔君?」 「うわあぁっ」 軽く肩を叩かれて驚く翔に天河 ふしぎ(ia1037)が目を丸くする。 「えっと、もしかして?」 暴れる心臓を落ち着かせながら、翔が尋ねた。 「うん、依頼見て来たんだ。アヤカシを討って、柴を救出するよ!」 そう言ってふしぎはぎゅっと拳を握りしめる。 「あと、柴を家で飼えるように説得もするんだからなっ。一緒に頑張るぞ!」 早速現れた協力者に翔はほっとした。その顔を見てふしぎは翔の背中を思い切り叩く。 「絶対なんとかなるから。だから今からそんな顔してたら駄目なんだぞ」 どうやら余裕の欠片も無くなっていたらしい。翔は一度深呼吸する。 「よろしく頼むな」 「任せといてよ」 ふしぎの言葉が翔には心強い。二人は並ぶと、相太の元へと歩いていった。 集合場所は山道の入口だった。大人に囲まれているせいか、相太は翔にさりげなくくっついている。 「彼方殿か?」 声をかけてきた滋藤 柾鷹(ia9130)だった。 「ああ」 「此度は宜しく頼む」 「こちらこそ、よろしくな」 差し出された手を握り返していると、その後ろから柊沢 霞澄(ia0067)が姿を表す。 「あの、相太君と犬の事も心配でしたし‥‥アヤカシが出るとあっては村の人達も安心できないと思いまして‥‥」 穏やかな瞳の中に確かな強い光を宿して、霞澄は話した。 「万事丸く収まるよう、お手伝いできれば幸いです‥‥」 そうした中で、篠田 紅雪(ia0704)はただ黙然として立っていた。あえて何も言わないのは否定的な事がないからだろう。 それでもなかなか開拓者達に心を開けられない相太のために、ライア(ib4543)は彼と視線を合わせて向かい合う。 「私は犬などの動物は飼った事がないが、相太の気持ちは判らんでもない。アヤカシを倒してくるから‥‥私達に任せてくれるな?」 「‥‥うん」 ライアの真摯な瞳に、相太はこくりと頷いた。それを微笑ましく朱麓(ia8390)が見つめている。 「では、これで全員が集まったという事ですね」 仲間の顔を確認しながら、エグム・マキナ(ia9693)は続けた。 「犬を飼っていた洞窟にアヤカシの出現‥‥。犬がアヤカシだったという可能性はないのですか?」 「アヤカシは岩人形だそうだ」 エグムの問いに、紅雪が一言呟く。犬の姿から岩人形に転じる事はそうそうない事だろう。あらゆる可能性をエグムは考えてみるが、ここで論じるには不確定要素が多い。 「そうですね‥‥。岩人形の目撃は確かなようですし、ここはアヤカシを討つ事を先ず考える事と致しましょう」 「じゃあ相太。洞窟の場所とか中の様子とか、とか何でも良いから詳しく教えてくれないかな」 ふしぎが尋ねると、相太は意気込んで応えた。 「洞窟まで、オレが案内するよ!」 相太の提案に、エグムは厳しい目を翔に向ける。その雰囲気を感じ取ったのか、相太が翔の後ろに逃げ込んだ。翔自身は、そのせいで逃げも隠れる事も出来ない。 「貴方はその子をどうするつもりですか? 連れていく事は出来ないと分かっていたでしょう?」 「そう言ってやるな。気持ちはわかる」 柾鷹の助け舟に翔は小さく息を吐く。どうしたものかと悩んでから、柾鷹は相太に話し掛けた。 「お主に柴の救出を頼みたいのだが、アヤカシを確実に引き離すまで辛抱できるか?」 一瞬、相太は表情をきょとんとさせた。我が儘の自覚はあるのだろう。しかしそれを受け入れてもらえて頬が赤く染まっていく。 「いいの?」 「無茶はしないって約束出来たらなっ」 ふしぎに頭を撫でられて、相太は何度も頷いた。それを見てエグムは深い溜息をつく。 「最初に受け負ったのは彼方さんなんですから、責任を持って少年を洞窟から離れた場所で抑えていて貰えませんか?」 「え?」 「無理であれば、私がやろうか。いざという時庇う事も出来るからな」 翔の戸惑いを感じ取って、ライアが申し出る。しかし翔は視線を泳がせた。そんな翔に朱麓は諭すように言った。 「これも掛け替えのない役目だよ。少年に怪我を負わすわけにはいかないからね」 「怪我を負わせてしまえば、他の方に心配をかけてしまう事にもなります‥‥。皆さんの為でもありますよ‥‥」 その言葉に翔の頑なさが溶けていく。本当は自分が請け負った仕事だから、一番危険な役周りをするつもりだったのだが。 「分かった。俺、やるよ」 「決まり、ですね‥‥」 翔の言葉に霞澄が柔らかく微笑む。それを黙って聞いていた相太はたまらなくなって、ふしぎに抱き着いた。小さな体を抱きかえして、ふしぎは告げる。 「柴の事は任せて。僕達が絶対に無事に保護してあげるから」 「うん。ありがとう、姉ちゃんっ」 喜ばしい場面の筈なのに、ここでふしぎの体が不自然に固まる。状況が分かってない相太が見上げると、ふしぎは肩を震わせながら声を大にして叫んだ。 「ぼ、ぼぼ、僕は男だ―――っ!」 相太に案内されて、開拓者達は洞窟の入り口がよく見える茂みに隠れていた。しかし肝心のアヤカシの姿は確認できない。 「いきます‥‥」 準備が出来た霞澄が結界を展開させると、彼女の体は仄かに光を発し始めた。そして霞澄は結界内にあるはずのアヤカシの瘴気を確認する。その間にライアは相太に向かって再度確認をとった。 「相太、いいな? 約束だ」 一つ、下手に大声を出さない事。二つ、戦闘中は絶対に近付かない事。 「相太に反応して、犬が飛び出して来ないとも限らない。そうなると犬も危険に晒される。‥‥分かるな?」 ライアの言葉に、相太は神妙に頷いた。そうしている内に、結界での捜索は終わったらしい。 「確かにいます‥‥。入口の近く‥‥」 それを聞いて、ふしぎが立ち上がる。 「僕が柴を保護しに行くから、アヤカシは宜しくね」 「貴方に、精霊の加護を‥‥」 そっと触れた霞澄の指先から広がる光が、ふしぎの体を包み込む。その光は直ぐに消えていったが、ふしぎは温かな力がそこにある事を確かに感じていた。 「ありがとっ。行ってくる!」 ふしぎは足音も立てずに駆け出していく。その途端に、空気が張り詰めたのを相太は感じ取った。先刻までとは全然違う雰囲気に、戸惑いを覚える。開拓者達はアヤカシに意識を集中させていた。 洞窟の入口近くに身を置いたふしぎは、程なくして合図を送ってくる。その後、洞窟の奥からのっそりと岩人形が姿を現した。 先陣を切ったのはエグムだった。猟兵射を打ち込んで、アヤカシの注意を自分達に向ける。また柾鷹が大地を響かせるような雄叫びを上げて、確実に岩人形を引き付けた。 アヤカシがふしぎの横を通り過ぎる。その瞬間を狙ってふしぎは忍術で周囲の時を停止させた。ほんの僅かな時間しか停止する事は出来ないが、気を集中させた足と目を持っていれば十分だった。瞬く間にふしぎは柴がいる奥へと入り込む事に成功する。 アヤカシの恐怖と戦っていたのだろう。少し憔悴している柴はふしぎの姿を見ると、小さく鼻を鳴らした。 「相太に会えなくてお腹すいてたよね」 ふしぎは餌を取り出して柴に与える。柴は直ぐには食べなかったが。 「暫くこれを食べて静かにしてるんだぞ。そしたら相太に会えるからなっ」 ふしぎの言葉が分かったのか。彼をじっと見つめていた柴は、ゆっくりと餌を食べはじめた。 アヤカシの姿を目の当たりにして、相太の体は震えていた。まだ幼い身にはやはり無理だったのだとエグムは思う。しかし。 「し、柴‥‥っ」 それでも大切な犬を案じる姿に朱麓は少年の芯の強さを見た気がした。 「少年、今はうちらを信じて待てるね? あんたが頑張るのはその後だ」 「うん」 しっかりした返事に満足して、朱麓もアヤカシの前に飛び出した。今はライアが岩人形と向き合っている。 ライアは急所を庇いつつ、鎧でアヤカシの攻撃を受け止めた。岩人形は動作が鈍い。攻撃の後に生まれた隙を狙い、ライアはアヤカシの懐に入り込む。かわす事が困難な距離から、ライアは攻撃を繰り出した。続いた朱麓が槍を高くに掲げる。炎を纏った槍は足の関節に向かって振り下ろされた。 岩で出来たアヤカシはとにかく固い。動作が緩慢なので直撃は避けられても、掠めただけできる小さな傷は、増えれば確かに仲間の体力を奪っていく。 傷を負う度に顔をしかめる翔を見上げていた相太は、彼の服を小さく摘んだ。 「相太?」 「オレ、約束守るから。‥‥兄ちゃんも行っていいよ」 目を見開いて相太を見つめた翔は、苦笑してその頭を撫で回した。 「これが俺の役割なんだ。オレが役割を放棄したら、皆が心配になって全力で戦えなくなるんだぞ」 分かるかと問うと、戸惑いながら相太は頷く。 「俺達を信じてくれてるから、皆戦えるんだ」 そう言って翔は小さな体を抱き寄せてやる。相太は小さな声で、確かに頷いた。 「精霊さん、皆の傷を癒して‥‥」 霞澄の言葉に応える様に、彼女の纏っていた光は周囲に拡散すると、仲間の負った傷を癒していく。直前に受けた傷が癒えたのを感じて、朱麓はすかさず槍を振り下ろした。 岩人形に当たる僅かな間に、空気が震えて槍が雷電を帯びる。まるで雷鳴が落ちたように、岩人形の頭部から放電した光が立ち上がった。 この隙を逃がすまいと、柾鷹が両手に武器を持ち素早く切り掛かる。連打で岩人形がよろめいた先には、紅雪が待ち構えていた。 「一度のみ‥‥試させて、貰う」 柳生新陰流、焔陰。炎を纏った刃は、岩人形の体を砕いて吹っ飛ばした。粉々に砕けた岩からは瘴気が立ち上り、そして消えていった。 アヤカシの気配が消えて、ふしぎが柴を伴って洞窟から出てくる。それを見た柾鷹は相太の背をそっと押してやった。 「迎えに行ってやれ」 相太が駆け出すと、柴も走り出した。相太にのしかかった柴は、少年の顔を舐める。くすぐったそうに笑う少年の声が、空高く響いていた。 不安そうに佇む女性の姿を見て、相太は声を上げた。 「母ちゃん」 「相太、どこ行ってたの。最近よく山の方へ行ってるって聞いて心配してたのよ」 それを聞いて、相太は体を強張らせる。そして隣にいる柴を抱き寄せた。 「母さん、オレ柴を飼いたいんだ」 突然の言葉に、母親はついていけない。今一度ライアは、相太に尋ねた。 「実際に飼育するとなると大変だぞ。覚悟と計画はあるのか」 「‥‥計画ってよくわからないけど。それでも、柴と一緒にいたい。もう今日みたいな事になるのはいやなんだ」 相太の偽らない心に、ライアは満足そうに笑った。これだけの想いがあれば覚悟は十分だろう。 「もしかして犬が怖い?」 母親の表情を見て、ふしぎが問いかける。母親の表情は、犬に怯えているように見える。 「犬は‥‥牙があるもの。それに吠えるわ」 嫌な思い出でもあるのか、母親は顔をしかめた。でも、ここで引き下がる訳にはいかない。 「柴は初めて僕を見ても吠えなかったし、賢い子だよ‥‥大事な友達だと思っている相太のためにも、飼ってあげられないかな?」 ふしぎの言葉に、霞澄も続いた。 「私も、犬を飼うのは相太君の為にも良い事だと思います」 そこで霞澄は相太と視線を合わせる。 「大変でも、ちゃんと自分で世話ができると約束できますよね‥‥?」 「うん」 真剣に頷く相太を見て、朱麓はその小さな肩に手を添えた。 「あたし達との約束もちゃんと守れたんだ。新しい約束もちゃあんと守れるね?」 そして朱麓は犬を飼う心得を相太に諭していく。 一つ、用足しは指定の厠のみ使用。二つ、無駄吠え又は無駄噛みの禁止。三つ、常に清潔さを保つ‥‥。 実際にはどうすればいいのかを尋ねる相太の横顔は真剣そのものだった。その顔を見ていた柾鷹は、相太の母親に向かって頭を下げた。 「相太なら責任を持って面倒を見れる。この通りだ」 その姿を見て母親も狼狽する。 「お宅らの息子も自分で世話する気満々みたいだし。‥‥あの犬相当賢くて良い子よ?」 朱麓に言われて、母親は柴を見た。相太に寄り添う柴は大人しく、その視線や仕種で心も寄り添わせている事が伝わってくる。 「‥‥ちゃんと自分で面倒を見るのよ?」 母親の言葉に、相太はぱっと顔を輝かせる。 「一件落着したみたいですね」 喜び跳ねようとした所でエグムの声が聞こえてきて、相太の体は固まった。エグムと話していると叱られているような気分になる。しかし手にしている木の板を見つけて、相太は疑問符を浮かべた。 「ああ、これですか? 飼うのなら小屋や厠が必要でしょう?」 そのためにエグムは近隣から余っている板などないか聞いて回り、今まで集めていた。その言葉を聞いた相太の目がキラキラと輝いている。 「オレ、手伝うよ!」 「ああ、自分の手で作ってみるのも良いかもしれませんね」 途端に難易度が上がってしまって、相太の体が再び固まる。その姿に皆が笑った。 少年の望みが叶えられた事に安堵した紅雪は、煙草を取り出そうとして‥‥やめる。子供や犬の前で吸うものではない。それを見ていた翔が、紅雪に声をかけた。 「ありがとな」 「当然の事だ」 煙草の事だと思ったのだろう。素っ気なく紅雪が応える。だけど翔は、ここにいる皆に沢山の感謝を伝えたい気分でいた。そこへ喜びでいっぱいの表情をした相太が、翔に抱き着いてくる。 「兄ちゃん、ありがとう。兄ちゃんがいなかったら、オレ‥‥」 「俺の力じゃないよ」 翔の言葉に、相太は顔を上げる。 「ここにいる、皆のお陰だ」 そして相太は、協力してくれた開拓者達の顔を一人一人見た。 「‥‥うんっ。皆、本当に有難う!」 とびっきりの笑顔を浮かべて、相太は礼を告げる。今の相太には、開拓者の姿が本物の太陽よりも眩しく映っていた。 |