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■オープニング本文 アル=カマル、レド集落。 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、時折、族長の自宅に招かれて、主を失った『からくり』ノアルに日記を読み聞かせていた。 日記はノアルの亡くなった主イリドが書き残したものであったが、ロマラはノアルの質問に対して上手く答えられないこともあった。イリドは相棒をとても大切にしていたのだ。 「日記には‥『もし、俺がいなくなったら、レド集落にいる俺の親父に会え。そして、そこで暮らして、自由に生きろ』と書かれています。ですから‥‥」 ロマラが話を続けようとすると、ノアルは首を傾げ、不思議そうに言った。 「主イリドの言う通り、レド集落の族長に会った。族長は、イリドの親父なのは分かったし、親父殿も、ここで暮らして良いと言ってくれた。だが、『自由に生きろ』とは、どういう意味だ?」 ノアルは日記に書かれていた通りに行動していた。だが、『自由』という意味は未だに理解できないようだった。 「そうですね。ノアルさんが楽しいと思えることがあれば‥‥」 「ここの暮らしは楽しいぞ。この家も気に入っている。親父殿は優しいし、母上殿は厳しいようだが私には優しくしてくれる」 ノアルがそう言うと、ロマラが微笑む。 「それを聞いて安心しました。それがイリドさんの望みでもありますからね」 「そうか。だったら良い。イリドからは『困っている人がいたら助けてやってくれ』とも言われた。だったら、私も『それ』をやることにした」 ノアルは亡き主の言葉が忘れられずにいた。 ● 翌日。 ノアルは族長に頼まれて、ロマラと共にニイ村に来ていた。 だが、どうにも村の様子が妙であった。 まずは村の長を訪ねてみたが、屋敷には誰もいなかった。 「何かあったのでしょうか?」 ロマラたちは屋敷から出ると、村の青年たちが北へ向かって走っていた。そこにも屋敷があったが、青年たちが中に入ろうとすると、吹き飛ばされていた。 「俺の娘を返せ!」 「彼女を返してくれ、頼む!」 扉を開けて屋敷の中に入る男性たち。だが、衝撃刃でやはり弾き飛ばされてしまう。 北の屋敷には、妖猫が数匹おり、男性たちを追い返していたのだ。 「あれは妖猫というアヤカシです。見た目は猫そっくりですが、猫又に擬態することもあるようです」 ロマラはそう言いながら、道端に倒れている男性たちを助け起こした。ノアルは『主の言う人助けは、これか』と思いつつ、男性たちを助けることにした。 「ここにいるアヤカシは強いのか?」 ノアルの問いに、レビンと名乗った男性が答えた。 「ここの屋敷にノーライフキングとか言うアヤカシが住みついて、気に入った娘を洗脳して、自分の世話をさせているらしい。よくも俺の娘をぉぉぉぉっ」 レビンはかなり気が立っていた。 「村長さんが見当たらないのですが‥‥」 ロマラがそう言いかけると、レビンは拳を握り締めていた。 「ニイ村の長は女性なんだが、ノーライフキングに連れ去られて、屋敷の中にいる。俺の娘も捕まってしまった‥‥よくも嫁入り前の俺の娘をぉぉぉぉっ」 「落ち着いて下さい。ギルドに依頼を出してみますから」 ロマラがなだめるが、レビンの気は晴れない。 「嫁入り前って言っても、まだ誰の嫁にもさせねぇっ。俺の目の黒いうちはなぁっ!」 「はいはい、分かりました。まずはとにかく冷静に‥」 とロマラが言っても、レビンは屋敷の外で騒いでいた。 「ミリィ! 無事でいてくれぇっ! 父さんは‥‥」 すると、二階の窓が開いて、ミリィが姿を現した。猫を抱きかかえていたが、衝撃波が迸り、レビンは撃沈。 「?! ミリィ‥‥待ってくれ‥」 レビンは倒れこんだまま手を伸ばすが、ミリィは何も言わずに二階の窓を閉めた。そして、ノーライフキングが窓から外を覗き込み、両腕に女性を抱えて不敵な笑みを浮かべていた。 それを見たレビンは、なんとか立ち上がり、叫んだ。 「おのれぇぇぇぇぇっ! 俺の娘を返せぇぇぇぇっ! それから村長もだ!」 レビンは自分の娘に何かあると、気が短くなるようだ。 だが、一般人のレビンにはアヤカシは倒せない。 「‥‥そう言えば、私が傷つくと、イリドもあんな感じになっていたな」 ノアルはレビンを見て、呟いた。 |
■参加者一覧
鞍馬 雪斗(ia5470)
21歳・男・巫
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
レティシア(ib4475)
13歳・女・吟
アムルタート(ib6632)
16歳・女・ジ
ミヒャエル・ラウ(ic0806)
38歳・男・シ
昴 雪那(ic1220)
14歳・女・武 |
■リプレイ本文 アル=カマル、ニイ村。 北にある屋敷にノーライフキングと呼ばれる吸血鬼が住み着き、5人の女性が囚われの身になっていた。 ミヒャエル・ラウ(ic0806)が村人から聞き出した屋敷の構造を皆に話し、レティシア(ib4475)は携帯ペンセットで屋敷内部の見取り図を作成していた。吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)から聞いた情報も、書き綴る。 「今のところ、グール化された者はいないようですが、村に残っている女性が魅了されていないか心配です」 レティシアは懸命に女性を救いたいと言う村人たちの姿に心を打たれ、だからこそキングに対して怒りを覚えずにはいられなかった。ミヒャエルが提案したのは、軽装の者が一般人を装い、屋敷に侵入することだった。その話を聞いた村人のレビンが自ら出向くと言い出した。怪我はほぼ治っていたが、包帯を巻いたレビンを見て、レティシアが宥める。 「囮になるつもりですか? 一人で行くには危険です」 「俺には倒す力はないが、協力することはできる」 それは覚悟を決めた男の眼であった。ミヒャエルが言う。 「‥‥分かった。よろしく頼む。いざとなったら私も中へ入るつもりだ」 「これ以上、犠牲者が出るのはまっぴらだ」 レビンの心意気に、レティシアは心が暖かくなり、自然と微笑みが浮かぶ。アヤカシに屈せず、娘を救いたいという親心というものに、どこか一筋の光にも似た輝きにさえ思えた。 「どうやらキング達は決まった時刻に珈琲を飲むのが日課のようです。その時だけ、女性たちは二階のベランダから一階へと続く階段を降りているのを見かけた人が何人かいました」 「だったら、その時が狙い目だね」 アムルタート(ib6632)がそう言うと、昴 雪那(ic1220)がそっと近づいてきた。 「私が援護します」 「ならば、俺も援護に回ろう。女性たちを救出するのが最優先だ」 琥龍 蒼羅(ib0214)がこう告げると、鞍馬 雪斗(ia5470)が頷く。 「キングと戦う前に、娘たちをできるだけ救出しておきたいね。そろそろ娘たちが二階に集まる頃‥裏庭からベランダが見えるらしいから、まずはそちらに向おうか」 「私は女の子救出に行くね♪」 アムルタートは昴を連れて、裏庭から二階の様子を伺うことにした。蒼羅と雪斗は救出援護のため、裏庭に猫がいるかどうか注意を払っていた。 ● ついに作戦が始まった。 レビンは一階の出入り口になっている扉を開けて、大声で叫んだ。 「キング! 娘たちを返せ、返せぇぇぇっ!」 普段ならば妖猫が衝撃刃を放ってくるのだが、どうやら物陰に隠れているらしい。レビンの様子を見ても、攻撃をしかけてこない。 すると、猫を抱きかかえたキングが一階の椅子に座っているのが見えた。 「生憎と娘たちはここにはいない。この私が開拓者の気配を感じないとでも思ったのかね?」 キングは目を細め、高慢な顔付きだ。 「娘たちを傷つけるようなことをするのは、私の美学に反するのだよ」 それを聞いて、レティシアは憤慨しつつも落ち着いた物腰で、屋敷に入った。 「ごきげんよう。では、女性たちはどこにいるのですか?」 ドレス「カーミラ」を着こなしたレティシアがスカートの裾を持ち、会釈。 「丁寧な挨拶、痛み入る。屋敷にはいない。ここは危険だからね」 キングはニヤリと微笑。 「確かに、屋敷内で戦闘になれば危険だな」 ミヒャエルは忍び込むように中へと入ると、レビンを外へ出すように促した。 「‥後は私たちに任せてくれ」 「ありがてえ。俺がここにいたら足手纏いだからな」 レビンはそう言いつつ、一目散に屋敷から飛び出した。 ● その頃、アムルタートは『ナハトミラージュ』で気配を消して、二階のベランダにいた。彼女が勢いよく窓を開けると、娘たちは時間が来たと思ったのか、一階へと続く階段を降りていく。 「ご主人様が村外れのオアシスで待っていろと言っていたよ。皆、開拓者に気付かれないうちに、ここから出よう」 ミリィという少女はそう告げながら、女性たちを連れて屋敷から出ていった。 「よく分からないけど、女の子たち、出て行っちゃったよー♪ まっ、いいか。手間が省けたね」 アムルタートは『ナディエ』で軽やかにベランダから裏庭に飛び込むと、外で待機していた昴の元へと駆け寄る。 「どうやら女性たちはオアシスへ向かっているようです。キングはまだ屋敷に中にいると思います」 すると、アムルタートは口元に人差し指を立て、小声で答えた。 「雪那、だったらキング戦に備えないとね。まずは女の子たちが本当にオアシスに行ったのか、確認だよ」 「はい、ではお供します」 二人がオアシスまで行くと、娘たちは水浴びを楽しんでいた。 「屋敷から離れたから大丈夫かな?」 娘たちが無事だと分かり、アムルタートと昴は屋敷へと向かった。その途中、レビンと鉢合せた。 「娘を見なかったか?!」 「女性たちは全員、オアシスにいます」 昴の言葉に、レビンは目を見張った。 「だったらオアシスにいる娘たちは俺が見張っている。屋敷ではすでにキングと対峙している開拓者もいるから、気をつけてな」 それだけ言うと、レビンは走り去り、アムルタートたちは裏庭で待機していた蒼羅たちと合流した。 「女の子たちは全員、オアシスにいたよ。なんでだろうね?」 アムルタートが首を傾げる。雪斗も思案顔だ。 「娘たちを屋敷から出して、キングは何を企んでいるのやら」 「もしかしたら、罠かもしれないな」 蒼羅がそう告げると、雪斗が応えた。 「罠‥ね。どういう理由であれ、キングは倒さないと」 「そうですね。急いで、屋敷に行きましょう」 昴が言うと、蒼羅たちはすぐさま屋敷の中へと入った。 ● 屋敷内では、すでにキングとの戦いが始まっていた。 ミヒャエルが『裏術鉄血針』を仕掛けるが、キングは跳躍して回避し、踊り場へと降り立つ。 「前座にしては、面白い」 キングは余裕な態度だ。妖猫はミヒャエルの番天印による攻撃で数匹、瘴気と化し消えたが、まだ家具の陰に隠れている猫もいた。 レティシアは屋敷内に残っている者がいないか確かめるため『超越聴覚』を使うが、女性の声は聴こえなかった。だが、外から数人の足音が響く。 「待たせたね〜♪」 アムルタートが姿を現すと、猫が飛びついてきた。 「ヒャッハー、猫のダンスだよ」 鞭「ゴールドバインド」を使い、アムルタートは『フロル・エスクド』で、猫を薙ぎ払っていく。猫と言ってもアヤカシ。鞭で打たれると瘴気となり消えていく。 蒼羅は『居合』を駆使して攻撃していたが、『銀杏』の効果もあり、その一太刀は常人には見えぬ速さであった。まるで動かずに、いつのまにか妖猫が消滅しているのだ。 「ふむ、これは頼もしいお嬢さんだ」 気が付くと、キングがアムルタートの前に立ち、瞳を見つめる。 その様子を見て、雪斗は悟った。 「そうか。開拓者の女性が、真の目的とはな」 「仲間が人質になれば、手も足もでまい」 キングはアムルタートを抱き寄せようとする。だが、アムルタートは『ナディエ』で跳躍し、その場から離れた。 「名前はカッコいいよね。だけど目的さえ分かれば、こっちのものだよー♪」 もしやと思い、レティシアが『安らぎの子守唄』を歌う。ローレライの髪飾りにより彼女の周囲が薄緑色に輝き、燐光が舞い散る光景は幻想的だ。数人が状態異常になっていたが、彼女の歌声により、我に返った。 「アムルタートさん、しっかりして下さい」 昴は心配になり駆け寄るが、アムルタートがにこやかに笑う。 「私なら大丈夫だよ、今はキングとの戦いに集中しないとね」 「はい、これからが正念場ですね」 いつでも攻撃ができるように、昴は神刀「青蛇丸」を構える。蒼羅は攻撃体勢に入っているが、まだ鞘から抜く気配はない。キングの動きに注意を払っていた。 「‥‥?!」 キングが霧と化すと、蒼羅は『居合』で斬竜刀「天墜」を抜き、すかさず『白梅香』を放った。霧となっても、瘴気を浄化できる知覚攻撃ならばダメージを与えることができた。 「手応え、あったな」 蒼羅の言葉が確信となり、雪斗は精霊武器アゾットを掲げて、『ブリザーストーム』で霧と化したキングを激しい吹雪で包み込む。かなりのダメージを受けたが、キングは蝙蝠と化し、大量の蝙蝠がミヒャエルに接近する。 「そちらから来るとは好都合だな」 ミヒャエルの『風神』が炸裂し、キングは人型に戻ってしまった。 「なかなか‥やるではないか」 それでもキングは逃げる気はないようだった。物陰にいた妖猫が衝撃刃を放ってきた。とっさに回避すると、昴は『荒童子』で猫たちを牽制しつつも、一匹ずつ倒していく。 「皆さんはキングの方をお願いします。妖猫は私がなんとかします」 「これでキング戦に専念できるな」 蒼羅は攻撃態勢に入り、『白梅香』を繰り出す。雪斗は中衛の位置からキング目がけて『ホーリーアロー』を放つ。攻撃が命中した途端、キングは霧となった。否、霧の幻覚が立ち込める。レティシアの視界が薄れ、キングは彼女を抱きかかえていた。 キングは蝙蝠化して二階へと飛び回るが、床に落ちそうになったレティシアを受け止めたのはミヒャエルだった。 「どうやら意識が朦朧としているようだな」 「レティシアさん、無事でいて下さい」 昴が呼びかけるが、レティシアの瞳はまだ虚ろであった。 「キングは状態異常を治せる者を狙っているようだ」 ミヒャエルの言葉に、雪斗が答えた。 「村人だけでなく、開拓者の女性までこんな目に合わせるとは‥何が何でも倒さないとね」 「レティシアさんのことは私が見ています」 昴の意を察して、雪斗は蝙蝠化したキングに『ブリザーストーム』で攻撃。吹雪に包まれた蝙蝠の動きが鈍くなった。すると、レティシアは目覚め、ゆっくりと起き上がる。 「‥‥キング‥私の心に‥触れてはならぬことをしましたね」 村人達への祈りを込めて『泥まみれの聖人達』を歌い始める。ローレライの髪飾りが輝くと術が発動し、蒼羅とミヒャエルが身構える。 「これ以上、卑劣なことができぬようにしてやる」 蒼羅が『白梅香』でキングの瘴気を浄化させ、ミヒャエルは逃げ去ろうとする蝙蝠の群れに『三角跳』で飛び込み、次の攻撃で『風神』を使い、射程内にいる蝙蝠を真空の刃で切り裂いた。レティシアを守るように、昴が『烈風撃』でキングを狙い撃つ。 やがて、キングの断末魔が響き、それと同時に塵となって消滅した。 「力や術で従えようとするなら、何処へ行っても貴方はずっと独りですよ」 レティシアは憐れむように呟いた。 ● キングが倒された頃。 オアシスにいた娘たちは、正気を取り戻していた。 「お父さん、さっき珈琲、買ってきてって言ったのに、忘れたの?」 娘のミリィが元に戻り、レビンはうれしさのあまり抱きついた。 「ミリィ、良かった。父さんは‥」 と言った矢先、ミリィはレビンの腕に手刀した。 「いきなり、なにすんのよ! 皆が見てるじゃない!」 洗脳されていた時の記憶がないミリィは、父のレビンが何故、泣きながら抱きついてきたのか分からなかった。 しばらくすると、開拓者たちがやってきた。 「娘さんたち、無事で何よりです」 昴が声をかけ、レティシアが先程までの経緯を話した。それを聞いた村長が一礼する。 「見知らぬ男性が訪ねて来たことまでは覚えていたが、まさかアヤカシだったとは‥助けて下さってありがとうございます」 「やや苦戦したが、キングは倒せた。妖猫も村から消えたようだ」 ミヒャエルがそう告げると、村娘たちが目を輝かせていた。 「残っているのは、飼い猫だけだった。近寄っても大丈夫だろう」 蒼羅は娘たちの表情を見ても全く、その意味が分からず、ただ普通に応えるのみだった。 「開拓者の皆さん、助けて下さって、本当にうれしいです」 村娘たちはウキウキした顔だったが、その理由に気が付いたのは誰なのか知る由もない。 気が付いた者がいたとしても、知らぬ素振りをしていることだろう。 「他の住人達も、女性に限らず男性もグールになっていないと良いけど」 雪斗の言葉を聞いて、村長は住人を広場に集め、怪我以外で身体に異変がある者がいないか確認してくれたが、グールになった者は一人もいなかった。 レティシアも懸念していたが、人々の様子を見て、いつも通りの表情になった。アムルタートは村の子供たちに頼まれて、軽やかなステップで踊りを披露していた。 そして、自らの意思で行動したことに昴は戸惑いつつも、他の開拓者と協力して村人たちを救えたことに、安堵していた。 それは、自由への道程かもしれなかった。 |