エニグマの塔
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/12/19 01:12



■オープニング本文

 失ったものを取り戻すには、どうすれば良いのだろう。
 得るほどに、失うものが増える。
 では、欲するのを止めれば良いのだろうか。



「ようやく見つかりましたよ。ノアルさんの主さんが隠していたというお宝の地図です」
 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、主を失った『からくり』ノアルに頼まれていた地図を手渡した。
「‥‥これは‥主の‥文字‥‥間違いない。ここの印に主が残したモノがあるはずだ」
 ノアルが淡々と告げると、ロマラは微笑んだ。
「どうやら、アル=カマルにあるレド集落付近の地図のようです。とある開拓者がギルドに持ち込んだようですが、こんな偶然があるとは驚きです」
「そう‥だな。我が主が亡くなった村に、この地図があったと聞いた。不思議なこともあるものだ」
 今のノアルには、主はいない。時折、ロマラの話し相手になるくらいで、特に何かしようという気にはならなかった。
 だが、ある日のこと、主に言われていたことを思い出し、『印のモノ』を見つけようと思うようになっていた。
 ノアル自身、自分が何故、そんな思いになったのか、理解できなかった。
 それでも確かなことは、主の口癖だった。
『俺は子供の頃、開拓者に助けられたことがあった。だから、俺も開拓者になって、人助けしたいと思ってさ』
 その言葉が、ノアルには何を意味しているのか、分からなかった。
 それでも、ふと気が付けば、主の口癖を思い出す日々が多くなってきた。
 その様子に気づいたロマラは、ノアルから話を聞き、『印のモノ』について知ることとなった。
「では、準備が整ったら、レドの集落に向かいましょう」
 ロマラはノアルを連れて、『レドの乙女』と呼ばれる彫刻がある集落に辿り着くと、一休みしながら、地図を見ていた。
「ここから東に2キロの辺りに『印』が付いています。集落を拠点にして、探してみましょう」
 2人の様子に気が付いたのか、集落に住んでいる少女が近づいてきた。
「あの、貴方たち、ジンを持つ者なの? もしかして、アヤカシ退治に来たの?」
 少女が恐る恐る言うと、ロマラは安心させるように笑みを浮かべた。
「私たちは、探し物があって、ここに来ました」
「‥‥あのね、ここから東の方に大岩が散らばっている所があるんだけど‥‥そこに行くと、触手が付いた塔みたいなアヤカシがいて、そこを通った旅人が何人も襲われてるんだって。砂のゴーレムもいるみたい」
 少女の言葉に、ロマラは地図を見せながら問いかけた。
「東の方というのは、この辺りですか?」
 地図の『印』を指さすと、少女は頷いた。
「そうだよ。旅人だけじゃない。商人たちも、東の道が塞がれて予定通りに商品が運べないって困ってた」
「分かりました。探し物だけなら2人でも大丈夫だと思っていましたが、アヤカシもいるなら話は別です。ギルドに頼んで、開拓者を募集してみますね」
 ロマラが言うと、少女は少し不安そうではあったが、どこか安堵しているようにも見えた。
「この集落には『レドの乙女』と呼ばれている彫刻が広場にあるんだけど、東の方には言い伝えに関わるモノがあるらしいって、族長から聞いたことがあるんだ」
「そうですか。アヤカシが出現したのも、何か関わりがあるのかもしれませんね」
 そう言いながら、ロマラは東の方角を見つめていた。


■参加者一覧
アーニャ・ベルマン(ia5465
22歳・女・弓
デニム・ベルマン(ib0113
19歳・男・騎
岩宿 太郎(ib0852
30歳・男・志
ジレディア(ib3828
15歳・女・魔
ケイウス=アルカーム(ib7387
23歳・男・吟
リドワーン(ic0545
42歳・男・弓


■リプレイ本文

 アル=カマル、レド集落。
 開拓者たちは情報収集のため、各自で思い当たることを頼りに集落内部を廻っていた。
 この地の言い伝えが手掛かりになると思ったジレディア(ib3828)とリドワーン(ic0545)は、族長の家を訪ねることにした。
「はじめまして。魔術師のジレディアと言います」
 扉が開くと、族長の娘が受け答えた。
「開拓者の方ですね。来て下さってありがとうございます」
 娘が礼を述べると、ジレディアは丁寧に会釈。リドワーンは無言ながらも小さく頷いた。
 案内されて、客室で待機していた。しばらくすると、族長がやってきた。
「早速ですが、『レドの乙女』についてお聞きしたいです」
 ジレディアが御辞儀すると、族長は徐に話し始めた。
「伝承自体は長いため、大まかな話になるが、はるか昔、東の大岩地帯には月を祭る建造物があった。レドは、月を信仰していたジプシーだったのだ」
「俺の推測だが、散らばった大岩地帯には何かが崩れ去った破片があるのかもしれない。この集落には、言い伝えの子孫がいるのだろう」
 リドワーンの言葉に、族長は目を見張った。
「確かに、そういう言い伝えが残っている。自然の大岩と『人の手で作られたモノ』ならば、見分けがつくはずだ」
「私たちは『印のモノ』を見つけるために来ましたが、アヤカシが出現したのも、大岩地帯に遺跡が残っている可能性もあるとも考えられますね」
 ジレディアは呟くように言った。
「それともう一つ、聞きたいことがある。ノアルという『からくり』の主について、聞いたことはないか?」
 リドワーンの問いに、族長はしばし哀しげな顔をした後、静かに告げた。
「ノアルの主は‥‥わしの長男イリドだ。‥‥ノアルから『レド集落のイリドは、我が主だ』と聞かされた時は、さすがに驚いた」
 先日、依頼人のロマラ・ホープ(iz0302)が『からくり』ノアルを連れて、すでに族長と面会していた。
 その時のことを族長はゆっくりと語った。
 ノアルの主イリドは、アヤカシに襲われていた人々を助けるため、闘ったと言う。
 自らの命と引き換えに、数人の人間たちを救うことができた。
 残ったのは、ノアルだけ。
 主を失った『からくり』は、気が付いたらギルドに保管されていたらしい。
 目覚めた数日後、主が『印のモノ』を故郷の近くに残していたことを思い出したのだ。
「ノアルがここに来たのも、主の命令だと感じたのか、それとも‥‥」
 命令ではなく、ノアル自身の意思なのか、今は見当がつかなかった。



 その頃、アーニャ・ベルマン(ia5465)は集落の人々が集う酒場にて聞き込みをした後、仲間たちを待っていた。
 時間通り、デニム(ib0113)、岩宿 太郎(ib0852)、ケイウス=アルカーム(ib7387)の姿が見えた。
「デニム、太郎さん、ケイウスさん、ここです!」
 席に座っていたアーニャは両手を振って、手招きする。デニムは温和な笑みを浮かべつつ、アーニャの隣に座り、向かい側の席に太郎とケイウスが腰を下ろした。
「みんな、お疲れ様だね」
 ケイウスがそう言うと、アーニャは楽しそうに微笑んだ。
「ノアルさんの主さんが残したという『印のモノ』、絶対に見つけましょう!」
「どのような物かは分かりませんが、ノアルさんにとっては、ご主人さんが残した大切な物だと、僕はそう信じたいです」
 デニムがそう告げると、アーニャが頷く。
「地図を残したというのは、主さんもノアルさんを連れて、ここに来たかったからかも。それと『レドの乙女』の言い伝えですが、レドという女性は、バドルという男性と恋に落ちて、二人で力を合わせて、この地を守っていたそうです。結婚した後は、子供も生まれて、その子孫たちが今でも存在しているらしいという話を聞きました」
 恋物語を聞いて、アーニャの心は恋人の想いへと満たされていた。傍にいるだけでアーニャはうれしくて仕方なかった。だが、今はまだ依頼中だ。アーニャは何度も自分にそう言い聞かせていた。
 この時はまだ、アーニャたちはノアルの主がイリドという青年だということは分からなかったが、ジレディアたちと合流した際、事実を知ることになる。
 今は、酒場にて仲間たちと話を続けるケイウス。
「商人たちが言うには、大岩地帯の出入り口でサンドゴーレムが出没することが多いらしい。運良く、通り抜けたとしても、塔のアヤカシがいたから、ラクダたちも興奮して、行き来が難しいみたいだよ」
 太郎も砂漠の装備品を揃えるため、いろいろと調達していたが、現状ではラクダを借りる余裕はなかった。
「歩いて行った方が無難とか聞いた。大岩地帯は集落からでも見えるからなぁ。見渡す限りの砂漠で目印になるものって言ったら、ここら辺では東の大岩地帯で行商の道にもなってるらしい。だから目的地までは迷わず進める。デニムさんと手分けして食料とか水は人数分、用意できたけど、やっぱり東の道が塞がれて運搬が困難になっているから、品物が予定通りに届かないし、届けられないって、商人たちも困り果ててたなぁ」
 それを聞いて、ケイウスは考え込むように言った。
「この集落には食料も一ヶ月分くらいしか残っていないみたいだし、アヤカシも退治して、人々を安心させてあげたいね。大岩地帯を抜けると、さらに東2キロ先に村があるようだね。そこで行商人たちが立ち往生しているらしいよ」
 その言葉に、デニムも同意した。
「人々が困っているなら、僕も協力します。ノアルさんが探し求めている『印のモノ』も見つけてあげたいですね」
 その後、開拓者たちが全員集まり、互いに情報のやり取りをした。ノアルは族長の家でしばらく滞在することになり、出発は明日となった。



 翌日。
「昨夜の冷え込みと打って変って、日中は暑すぎますね」
 デニムはアーニャを抱き寄せ、コートを広げて日除け代わりをしてくれた。
「ありがとう、デニム」
「砂漠の夜は氷点下の所もあるけど、昼間は暑さが半端じゃないからね」
 ケイウスは久し振りの故郷での温度差に、懐かしさを覚えていたが、『超越聴覚』を使い、大岩地帯を目指しながら周囲を警戒していた。
「‥‥砂の音?」
 ケイウスが立ち止り、アーニャはロングボウ「フェイルノート」を構え『鏡弦』でアヤカシの気配を感知した。リドワーンも火炎弓「煉獄」にて『鏡弦』を使い、アヤカシの位置を察知する。
「およそ南東の方角から、こちらへ向かっているようだ」
「もう一体は、北東からです。私たちを挟み撃ちにする気かも」
 アーニャが気配を感じた場所から、コアが出現し、人型になった。
「こちらのサンドゴーレムは、僕が引き受けます」
 デニムは騎士盾「ホネスティ」で砂を薙ぎ払い、駆け出した。
 もう一体のサンドゴーレムは、リドワーンが示した方角から、目潰しをしかけてきた。砂が舞い上がり、その瞬間、太郎が小型天幕をコア目がけて投げ込む。
「道具も使い様だ!」
 天幕の布がコアを覆うように勢いで広がり、サンドゴーレムは布を払い除けようとした。その隙に、ジレディアが聖杖「ウンシュルト」を掲げて『サンダー』を放った。電撃が迸り、コアに命中する。さらに太郎が飛竜の短銃で援護射撃に徹し、リドワーンの弓から放たれた『強射「繊月」』による矢がコアに突き刺さる。サンドゴーレムのコアが砕け散り、砂へと戻った。
 もう一体のサンドゴーレムも、デニムの『スマッシュ』とアーニャの無我の境地『月涙』による連携攻撃により、コアを破壊され、倒れこむように息絶えた。
 コアに気が付かなければ、延々とサンドゴーレムは出現していたことだろう。皆の機転により、予想よりも早く、サンドゴーレムは全滅した。



「大岩地帯に入る前に、少し休憩しよう。銃に弾も補充したいしね」
 そう言い出したのは太郎。手に入れた食料と水を皆に配りつつ、岩陰に座り込んだ。
 ジレディアの様子が気になり、デニムが声をかけた。
「体の方は大丈夫ですか?」
「平気です。太郎さんから頂いた食料もありますから」
 そう告げると、ジレディアは黙々と食べ始めた。
 一休みができた後、開拓者たちは大岩地帯の中へと歩いて行った。


「これが族長から聞いた古代遺跡の跡だな」
 リドワーンはノアルから借りた地図を頼りに、大岩地帯の中心部付近まで来ていた。他の開拓者たちは、周囲を警戒しつつ、近辺を見渡す。塔のアヤカシを何度か見かけたが、まずは『印のモノ』を見つけることを優先して、確実に場所が判明してから、闘うことにしたのだ。
「僕は外で待機しています」
 デニムは塔のアヤカシが接近した時に備えて、そう告げた。
「私も、外に‥‥一つやっておきたいことがありますから」
 ジレディアは遺跡近くの道に何やら仕掛けるつもりらしい。
「なら、私も外に行きます!」
 アーニャはリドワーンにそう言いつつ、弓を持ち、警護をすることにした。いつアヤカシが出るか分からないからだ。
 と言うのは、事実であるし、冷静に考えてもアヤカシの襲撃に備えるのは当然だ。
 太郎とケイウスは、リドワーンと共に遺跡の中へと入る。
 内部の壁は宝珠で施されており、さらに奥へと進むと祭壇があった。
「石碑の前に、宝箱があるね」
 ケイウスは中に『印のモノ』があるのではと思ったが、太郎がふと告げた。
「宝箱を開けると、瘴気が出てくる恐れもあるよな。なにしろ、まだ塔のアヤカシが外でウロウロしてるからなぁ」
「確かにそうだ。場所が確認できさえすれば、アヤカシ退治にも集中できるだろう」
 リドワーンの言うことを察して、ケイウスが応えた。
「塔を倒せば瘴気もなくなるかもしれないしね」
 そう言って、三人は宝箱を開けず、一旦、外へと出ることにした。


「どうやら仕掛けにかかったようです」
 ジレディアが事前に仕掛けた『フロストマイン』が罠となり、暗き泥の塔は激しい吹雪に包まれ、しばらく動きが取れなくなっていた。その隙に、ケイウスは詩聖の竪琴で『泥まみれの聖人達』を奏でた。雄々しいメロディが、デニム、太郎、リドワーンの心に流れ込む。
「触手の根を狙ってみるか」
 リドワーンは弓を構えると、『月影』を発動させ矢を放った。デニムは『オーラ』を使い、全身の力を徐々に高めていく。太郎は魔槍砲「瞬輝」を振りかざし、『白梅香』を放った。
 暗き泥の塔は『白梅香』の攻撃で瘴気を浄化されるが、本体はすぐに回復してしまう。
「何がなんでもここで塔を倒さないとな!」
 太郎は意を決して、さらに攻撃体勢を取る。ケイウスはさらに竪琴で『泥まみれの聖人達』を奏で、アーニャ、ジレディアを音楽で包み込む。曲が終わると、塔から複数の触手が伸びていき、ケイウスの竪琴を掴み投げて、襲いかかろうとしていた。
「ケイウスさん!」
 デニムは魔剣「ストームレイン」で触手を切り裂き、ケイウスは攻撃から逃れることができた。だが、竪琴は砂上にあり、両手には楽器がない。太郎もすぐさま駆け寄り、『白梅香』を繰り出し、アーニャは『先即封』で射撃し、牽制する。
 すると、ケイウスの歌声が響き渡り、携帯していた『陽光のブローチ』が反応するかのように光を放った。同時に『重力の爆音』が暗き泥の塔を押し潰すかの勢いで、震撼する。塔は崩れ落ちたようにも思えたが、またもや回復してゆっくりと向ってくる。
 塔との攻防戦は20分近く続き、攻撃の度に『白梅香』を放っていた太郎の息も荒くなる。
「まだだ! まだ終わりじゃない!」
 飛竜の短銃を片手に持ち、太郎は攻撃の手を休めることはなかった。リドワーンは塔の様子に気付き、皆に告げた。
「先ほどまでは攻撃の度に塔は回復していたようだが、触手の根に亀裂がある」
「亀裂を狙ってみましょう」
 アーニャは触手から攻撃を受ける寸前、弓で『先即封』を放った。太郎が銃で亀裂に弾を撃ち込むと、少しずつ割れ目が広がっていく。
 リドワーンは狙いを定めて『強射「繊月」』で亀裂部分に矢を命中させる。さらに裂け目ができ、塔の底が崩れ落ちていく。ケイウスは詩聖の竪琴を持ち『重力の爆音』を塔に叩きつけ、デニムが宝珠銃「エア・スティーラー」で裂け目を撃ち抜いた。
 そして、塔は風に溶け込むように崩れ去り、ようやく消え去った。



 アヤカシを全て倒したこともあり、商人たちも無事に行き来できるようになった。
 遺跡の中にあった宝箱には鍵が付いていた為、開けずに族長の家にいるノアルに渡すことにした。
「皆様、ありがとう」
 開拓者たちに礼を言った後、ノアルは懐から鍵を取り出し、宝箱を開けた。
 中には石版と何かを包んだ布が入っていた。
「この石板はギルドへ渡して下さい。それが主の願い」
 ノアルはそう言って、石板を開拓者たちに託した。依頼を達成した証として、その石板はギルドで保管することになった。布の中には、イリドの冒険日記が入っていたが、ノアルが持っていた方が良いと太郎たちは言う。
「その日記はイリドさんにとっちゃ、家族同然のノアルさんが持っていた方が喜ぶと思うよ」
 そう言いつつ、太郎は姉のことを思い出していた。
 アーニャと言えば、依頼の後、デニムに抱き付き、口付けしていた。デニムは大切な人を優しく抱き寄せた。


 誰にでも、大切なものがある。
 それは、未来への道標となるだろう。
 ケイウスは陽光のブローチに、そっと手を当てた。