【流星】砂漠の祭り
マスター名:大林さゆる
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/08/09 04:13



■オープニング本文

 アル=カマル。とある小さな村。
 賑やかな声に包まれて、人々が楽しげに祭りの準備をしていた。
 この地ならではの飲み物もあるようで、商人たちが互いに商談している姿もあった。
 吟遊詩人ロマラ・ホープ(iz0302)は、主を失った『からくり』ノアルと一緒に村を訪れていたが、どうやら『砂漠の祭り』が行われることを知り、しばらく滞在することにした。
「‥‥主も、時々、祭りの話をして、くれた。見るのは初めてだよ」
 ノアルは無表情にも思えたが、主の姿を思い出したのか、どことなく瞳が優しくなった。
「そうですか。ここが主さんの故郷なんですね。せっかくですから、祭りを楽しみましょう」
 ロマラがそう告げた後、悲鳴が聴こえた。
「まだ準備中にしては、どうも様子がおかしいですね」
 ロマラは逃げ惑う人々を見て、妙な存在に気が付いた。
 屋台を壊しまわっているのは、山羊に似た顔のアヤカシだった。
「何故、こんなところにカプリコンが‥」
 ロマラがそう言いかけると、カプリコンは村から飛び出し、隣接するオアシスに飛び込んだ。
 すると、カプリコンの両足が魚のようになり、片手には槍斧を持ち、威嚇していた。
「やっかいなことになりましたね」
 心配そうに言うロマラ。それに対してノアルは動じていなかった。
「簡単だ。あのアヤカシを倒せば、良いことだ」
「それはそうですけど、カプリコンは割と強いアヤカシですよ。二人だけでは倒せませんよ」
 ロマラの言葉が聴こえたのか、村人たちが集まってきた。
「あんた達、ジンを持つ者か? だったら、もっと使い手を集めて、アヤカシを倒してくれ」
「数日後には祭りが始まるんだ。みんな、祭りを楽しみにしているんだ。頼むよ」
 村人たちは必死だった。
 一か月前から準備していた者もいれば、半年前から舞を練習していた女性たちもいた。
「どうか、お願いします。この祭りは、私たちにとって、大切な意味があるんです」
 月を信仰する者が多いせいか、村の飾り付けには『月』をモチーフにしたものが多かった。
「分かりました。ギルドに依頼を出してみます。村の舞も見てみたいですしね」
 美しく着飾った女性たちが、踊りながら村を廻り、子供たちの幸福を願うと言う。
 ロマラは無事に祭りが行われることを願っていた。


■参加者一覧
和奏(ia8807
17歳・男・志
琥龍 蒼羅(ib0214
18歳・男・シ
門・銀姫(ib0465
16歳・女・吟
イデア・シュウ(ib9551
20歳・女・騎
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓
ミヒャエル・ラウ(ic0806
38歳・男・シ


■リプレイ本文

 アル=カマルの小さな村にて、祭りの準備が行われていた最中、カプリコンとも呼ばれる羊頭鬼が一匹、出現し、村を荒らし廻っていた。
 開拓者たちが村に集まると、カプリコンはオアシスへと向い、下半身を魚に変化させ、水中から攻撃体勢に入っていた。
 警戒しているのか、カプリコンはオアシスの真ん中付近から動こうとはしなかった。
「こちらから遠距離攻撃を続けていれば、水中から出てくる可能性もあるだろう。付近に大岩がいくつか点在しているのを見つけたが、そこまで誘い込むことができれば地上でも戦えるだろう」
 前もって付近を調査していたミヒャエル・ラウ(ic0806)がそう告げると、和奏(ia8807)がオアシスの水汲み場に目を向けた。
「小舟がありましたが、あれを使ってみようと思います。村人たちには家の中に避難するように伝えておきました」
 村人から小舟を借りる際、人々にそう配慮したのだ。
 和奏が後方を押すと、ゆっくりと無人の小舟がオアシスの中央付近へと流れていく。それに気付いたカプリコンは小舟を飛び越え、開拓者たちの方へと迫ってくるが、矢が飛んでくると、水中へと潜っていく。
「どこにいようとも、できることをやるだけだ」
 篠崎早矢(ic0072)は得意の弓術を生かして強弓「十人張」から矢を放ち、イデア・シュウ(ib9551)が弓「迅鷹の目」で援護射撃を仕掛けていく。
「カプリコンが出てくるまでは、射撃を続けましょう」
「そうだな」
 ミヒャエルは天狗礫‥ひし形の小石を投げつけていく。
 オアシスの水際に立ち、門・銀姫(ib0465)は平家琵琶を奏で、『超越聴覚』でカプリコンの動きを確認していた。武器を持たない銀姫に狙いを定めたのか、カプリコンが水中から姿を現し、銀姫に攻撃を仕掛けようとしてきた。
 その刹那、一筋の煌めきが炸裂する。琥龍 蒼羅(ib0214)の放った『秋水』だ。カプリコンの槍斧が転がり落ち、蒼羅の斬竜刀「天墜」は敵の腹部を切り裂いていた。気が付けば、カプリコンの両足は2本に戻り、隆々とした脚を剥き出しにして水際に立っていた。
「斬竜刀の名は‥‥伊達ではないということだ」
 蒼羅はそう呟き、カプリコンを睨み据える。
「間一髪、助かったね〜♪」
 銀姫は、蒼羅たちの動向を信じていた。だからこそ、水際に居たのだ。
「また水中に戻られたら持久戦になる」
 冷静に判断したミヒャエルの『裏術鉄血針』がカプリコンの足場から出没し、顔面へと針が突き刺さる。槍斧を拾い上げる余裕もないと思ったのか、カプリコンは大岩が点在している場所へと走り出した。イデアは弓を収め、ペンタグラムシールドを取り出し、防御に専念することにした。
「このまま追い込みましょう。短期戦で決着をつけるチャンスです」
 イデアは『アヘッド・ブレイク』で強行突破すると、その衝撃で両者がぶつかり合う。その場からイデアが離れると、銀姫が『重力の爆音』をカプリコンに叩きつける。
「また立ち上がったよ〜♪」
 銀姫の攻撃でも尚、カプリコンは怒りを顕わにして攻撃体勢で駈け出した。蒼羅は銀姫の前に立ち、攻撃を避け『深雪』で打ち返した。さすがのカプリコンも、技の威力により倒れこむ。
「村から離れたな。ここからが本番だ」
 早矢は敵の背後から強弓を構え、矢で攻撃すると、カプリコンは水中ではなく地上で戦う体勢へと変えた。角のある頭で前屈みになると、カプリコンはミヒャエルが足場にしている大岩へと突進していく。
 ミヒャエルが『三角跳』で跳躍した直後、カプリコンは頑丈な角で激突し、岩が粉々に砕け散った。その瞬間、間合いを取り弓を弾いたのは早矢だった。カプリコンの肩に矢が突き刺さる。
「ここからなら、狙える」
「どうやら地上戦も得意としているようだな」
 蒼羅は飛び散る岩を『虚心』で回避し、その隙に和奏が刀「鬼神丸」でカプリコンの両足に『白梅香』を繰り出す。切り裂かれた瞬間、両足から瘴気が浄化し、カプリコンは険しい形相となった。満身創痍と思いきや、どす黒い瞳でカプリコンが開拓者たちに肉迫する。
「さすがに手強いですね」
 和奏はそう言いつつも、カプリコンの両足が魚の尾に変化していくことに気が付いた。水中でもないのに変化するとは‥‥?!
「まだ闘うつもりのようだね〜♪」
 銀姫が『共鳴の力場』を使うと、空気が振動する。
「まさか、ここで飛行するつもりでしょうか?!」
 イデアは盾を構え『バッシュブレイク』で応戦。正面からの激突で、カプリコンが仰け反り、ミヒャエルが『漸刃』でさらに敵の体勢を崩し、斬り付ける。
「この場から逃げようなどと思うな」
「‥‥これで決める」
 蒼羅が『秋水』を放ち、和奏の『瞬風波』が迸る。
 カプリコンは咆哮しながら、砂のように消え去った。



「アヤカシを退治したこと、依頼人に報告だね〜♪」
 銀姫の言う依頼人とは、ロマラ・ホープ(iz0302)のことだ。
 村に滞在していたロマラは、銀姫たちからカプリコンを倒したことを聞くと、うれしそうに微笑んだ。
「突然の依頼にも拘わらず、助太刀に来て下さってありがとうございます」
「アヤカシが村にいたら、人々も気が気ではないと思いまして、馳せ参じました」
 和奏は祭りに参加できることを楽しみにしていた。
「‥‥自分は‥アヤカシがいると聞きましたから‥」
 イデアは、どことなくぎこちなかった。
 無事に祭りが行われることになったが、イデアにとっても故郷の祭り。
 だが、こうも心が苦しくなるのは‥‥。
「どうしたのかな〜♪」
 銀姫がイデアの表情が気になり、声をかけてきた。
「‥‥なんでもありませんよ」
 イデアは気丈に振舞っていた。



 翌日。
「そろそろお祭が始まりますね」
 和奏は村を散策しながら、屋台や子供たちの姿を眺めていた。
 広場から楽器を持った人々が見える。その中に、灰地に砂模様の浴衣を着た銀姫が平家琵琶で弾き語りをしていた。琵琶の模様が所々に映える浴衣姿に、村人たちは珍しそうな顔をしていた。
「それじゃ、夏に相応しい冒険譚を話すね〜♪」
 子供たちが楽しそうに銀姫の語りに耳を澄ましていた。歌声に誘われて、早矢が走り寄ってきた。
「屋台で見かけたのだが、ここのスイカは長円形だ!」
 それを聞き、和奏がやってきた。
「本当ですね。味はどうでしょう?」
 スイカ売りの屋台に行ってみると、早矢の言う通りであった。商人はスイカを切り、食べるように促した。
「甘くて美味しい!」
 早矢は気分上々であった。思わず微笑む和奏。
「そろそろ舞の行列が来る頃ですね」
 シャラン、シャランと鐘の鳴る音が響き、村の女性たちが舞いながら歩いてくる。
 ミヒャエルはアル=カマルの民族衣装を纏い、人混みに溶け込み、伝統の舞を眺めていた。
(この地では、古くから月を信仰し、このように祭りも行われている。大らかな舞は、まるで自然の摂理にも似ている)
 自分自身に問いかけるように思いを馳せるミヒャエル。
(‥‥私の望みは、まだ自らの心に宿っている。それは希望となるのか、絶望となるのか‥‥だが、この地に来て、アル=カマルの祭りとは、開放的にも思えた)
 ジルベリア。その歴史を知る者は、この村にはほとんどいない。
 見知らぬ人々の和気藹々とした雰囲気に包まれながら、ミヒャエルはひっそりと佇んでいた。
(子供の幸せを願う舞か。産み育てるというのも豊穣に繋がる。親は子に感謝し、子は親に感謝する。それがこの村の伝統なのだな)
 舞の由来を聞いて、ミヒャエルの心に、ふとそのような考えが過った。
 祭りに興味があった蒼羅も、月の文様が裾にある民族衣装を着て、舞の行列を見学していた。
(楽士たちの演奏は素晴らしいな。弾くのも良いが、こうして舞を見ながら音楽を聴くのも一興か)
 蒼羅は特に音楽に心惹かれ、聴き入っていた。
 すれ違う村娘たちが時折「良い男ね」「美形だわ」と小声で言っていたのだが、蒼羅は自分のことを言われているとは思ってもみなかった。
 舞の行列が横切ると、子供たちの満悦な笑みが広がる。
 その光景に、蒼羅も内心、穏やかな気持ちになっていた。



 舞が終わると、屋台付近が賑やかになっていた。
 早矢はロマラたちと一緒にイチジクのジュースを飲んだり、メロンを食べたり、この地の食事を堪能していた。
「食は、文化や人々の生活にも触れることができるからな」
 そう言いつつ、早矢はメロンを食べていた。同行していたロマラが頷く。
「仰る通りですよ。私も各地を旅していますが、必ず酒場で食事します」
 そんな話をしていると、鎧姿のイデアが通りを歩いているのが見えた。
 イデアは一旦は立ち止ったが、また歩き始めた。


 人知れず、イデアは村から出て、近くのオアシスへと向かう。
 水際に落ちている矢を拾い上げて、夕日を見つめる。
 日が沈むと同時に、イデアは立ち去って行った。


 哀歓という表裏一体の葛藤が、流転する。
 さらに飛翔し、目指す頂きに辿り着くまで。
 まだ、自分は戻ることはできない。
 様々な想いが、無限に広がっていく。

 運命は、どこへ向かうのだろうか‥‥。