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■オープニング本文 アル=カマルの小さな村。 オアシスの東側に住居が密集していた。 村人たちにとって、オアシスの水はまさに「命綱」であった。 毎日、生活水を求めて、村人たちがやってくる。その中に水汲みをする少女がいた。 名をミリィという。 少女は毎朝、オアシスの水を家まで運ぶのが日課だった。 とある日。 ミリィがいつものように水汲みをしていると、見知らぬ男性3人に囲まれていた。 「?!」 とっさに身の危険を感じて逃げようとするが、ミリィは男性たちに捕まってしまった。 「な、なにするのよ!」 必死に抵抗するが、男性の1人が短剣をミリィの首元に突き付けた。 「お嬢ちゃん、村の空き家まで案内してくれねぇかい?」 淡々と告げる男に、ミリィはしばらく黙り込んでいた。 男性たちは、おそらく盗人であろう。 何が要求なのか? 「言っとくけど、この村には金目の物はないわよ」 ミリィが睨むように言うと、短剣を持った男は感心したように告げた。 「ほう、俺らの前で、そんなことを言えるとは良い度胸だ。生憎と、俺らはそれが目的で来たんじゃねぇ。さっさと空き家まで案内すれば、目的を教えてやる」 「‥‥分かったわ。だけど、村人たちには手を出さないでよ」 ミリィはそう言いつつ、男たちを空き家まで連れて行くことにした。 ● 「‥‥それが貴方たちの目的なの?」 空き家に着くと、ミリィは男たちを見上げた。 「そうだ。俺らの住処である洞窟にサイクロプスが住み着いてな。残ったのは俺たち3人だけになった」 男たちは『洞窟』と言っていたが、内部の壁は宝珠で出来ているらしい。 ならば、『遺跡』である可能性が高い。 見張り役の男が外の様子を伺っていたが、ミリィの父親レビンが空き家の前まで走り寄ってきた。 「お前たち、娘を返せ!」 「ならば、こちらの要求に従ってもらおう。それまでは娘は人質だ」 盗人のリーダーがレビンに向かって空き家の扉に隠れたまま言った。 「要求はなんだ? それで娘を返してくれるのか?」 レビンは迷っていた。仮に盗人の要求通りにしても娘が無事に戻ってくる保証もない。 だが、盗人はお構いなしだ。 「ここから東の位置に洞窟がある。そこにサイクロプスが居る。他にもアヤカシがいるみてぇだな。それらを全て退治できたら、娘は返してやるぜ」 「それが‥要求か? アヤカシ退治が目的だと? 理由は分からんが、全て退治できたら、本当に娘は返してもらえるんだろうな?」 レビンが念を押すが、男たちは小さく笑っていた。 「さてな。なんせ相手はサイクロプスだからな。お前一人では退治できまい。まあ、そんなことはどうでもいい。さっさと、洞窟に居るアヤカシを退治しろ」 それが、盗人たちの要求だった。 砂漠の小さな村。 その東にある洞窟にサイクロプスが住み着くようになった。 果たして、盗人たちの真意は‥‥? |
■参加者一覧
玲璃(ia1114)
17歳・男・吟
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
黒木 桜(ib6086)
15歳・女・巫
羽紫 稚空(ib6914)
18歳・男・志
ナザム・ティークリー(ic0378)
12歳・男・砂
神樂坂 璃々蝶(ic0802)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 砂漠の小さな村。 その片隅にて、少女を人質にして空き家に立てこもっている盗人たちがいた。 何が目的で、アヤカシ退治を要求したのか。 それを察したのは玲璃(ia1114)であった。盗人と取引するため、空き家の外から声をかけた。 「アヤカシは倒すと瘴気となって何も残りませんが、どうやって退治したことを確認するつもりなのですか?」 玲璃の相棒、羽妖精の睦は主の命により、空き家の隙間から中に侵入していた。体長30センチの羽妖精はこっそりと盗人たちの様子を窺っていた。 「やはり開拓者が来たか。好都合だ。俺らも洞窟にいく。ただし人質の嬢ちゃんはアヤカシを全て退治してから、どうするか決める」 今のところ、少女に怪我はなかった。 そのことを知らせるため、睦は玲璃の元へと戻り、中の状況を知らせた。 (‥‥開拓者が来るのを待っていたということですか。やはり、洞窟には宝があるのかもしれません) 玲璃はそう思いつつ、盗人たちが空き家から出てくるのを待っていた。 村人たちは緊張気味な雰囲気で、自宅で待機し、事の成り行きを見守っていた。 しばらくすると、少女の喉に短剣の刃を突き付けたまま1人の男が姿を現した。残りの2人は警戒するように周囲を見ながら玲璃の動向に注意を払っていた。 「では、洞窟まで案内していただけますか? アヤカシは私たちが必ず倒します」 玲璃は盗人たちが出てくる前に、神樂坂 璃々蝶(ic0802)、黒木 桜(ib6086)、羽紫 稚空(ib6914)、ナザム・ティークリー(ic0378)に目配せをして合図を送る。 それは、盗人の目的が『洞窟の中にある宝』であることを示していた。 5人の開拓者たちに囲まれ、盗人たちはさらに警戒深くなった。なかなか少女を離そうとはしない。 物陰から、1人の開拓者が相棒と一緒に盗人たちの動向を探っていた。 「カワイコちゃんを人質に取るだけでは飽き足らず、アヤカシ退治まで要求するとは、なんとも卑怯な連中だな」 喪越(ia1670)はそう呟きつつも、したり顔だった。 すかさず相棒の羽妖精、癒羅が主の頭にキックを炸裂。 「アンタの本音はお見通しよ!」 「‥‥カワイコちゃんを連れて、どうやら洞窟へ行くみてぇだな」 相棒の問いにも上の空。喪越は陰ながら人質を救おうと考えていたのだ。 「わし達の力量を見るつもりかのぅ‥まあ、良いじゃろう」 璃々蝶は相棒の駿龍、吉志の背に乗り、上空から見張ることにした。 「桜、無茶だけはするなよ。俺が絶対に守ってみせるからな」 稚空が恋人の桜に近寄ると、桜の相棒である羽妖精の月(ゆえ)が柳眉を逆立てた。 「私の主によからぬことをするつもりか?」 「俺は本気で桜を守りたいって思ってるんだ。それはお互い様だろう? 今回は協力した方が桜も喜ぶはずだ」 稚空はそう言いつつ、さりげなく桜の手を握る。 それに気付き、月はさらに冷やかになる。 「やはり、そのつもりか‥ならば‥」 とっさに桜が間に入る。 「月さん、彼の相棒さんとはケンカしないで下さいね。どうしていつも稚空には、そんな態度なんです?」 桜が不思議そうに言うと、月の表情が穏やかになった。 「あの猫又とは気が合うから安心してくれ」 稚空の相棒、猫又の白虎とは協力するつもりではいるらしい。 「稚空だけでは心配だったが、彼女もいるから大丈夫だな。だが、いちゃつくのは依頼が終わってからにしたらどうだ」 白虎にそう言われても、稚空は桜から離れようとはしない。 「だから、俺は桜を守るためにいつも一緒にいるだけだ。それに人質のお嬢さんも助けたいしな」 人質を連れて村から出た盗人たちを見て、 玲璃は相棒と共に歩き出した。 「どうやらアヤカシを退治しないことには人質を解放するつもりはないようです。このまま盗人の監視も兼ねて、彼らに同行しましょう」 「そうだな。洞窟に宝があるにしても、何か裏があるような気もする。問題は退治できた後だ。盗人の目的が宝だとしても、何か理由があるかもしれないしな」 ナザムは相棒のラクダ霊騎ジャザウ・カスワーウに騎乗して、盗人たちの後を追うことにした。 上空では、駿龍に乗った璃々蝶が、砂漠を歩く一行の様子を見つめていた。 「前方には盗人3人と人質の少女がいるのぅ。どんな宝かは不明だが、まずは洞窟に行くのが得策じゃな」 外見は17才だが、実は‥‥。 駿龍の羽ばたきで、真実は闇に葬られた。 美しい蝶には何かがある、ということだろう。 ● その頃、村の空き家に一人の男性が入っていくのを、 喪越は偶然にも見てしまった。 「まだ盗人がいたのか?」 相棒の癒羅は裏口から入り、喪越は入り口の扉を開けた。 「なにやってんだ、こんなところで」 「お前こそ、ここで何をしている」 「それはこっちのセリフだぜ」 お互い譲らず押し問答が続くが、ぽつりと突っ込みを入れたのは癒羅だった。 「いい加減、それくらいにしたら?」 「‥‥こんな所で羽妖精に会えるとはな。なんとも可愛らしい」 男性が珍しそうな表情をしていた。癒羅は照れ笑いを浮かべた。 「本当のこと言われると、少し恥ずかしいわね」 「‥‥。‥‥そうか、良かったな」 喪越は言葉とは裏腹に、さらりと外を見遣る。 「アンタ、言ってることと、やってることが違うんだけど」 癒羅は頬を膨らませる。 少しばかり和んだのか、男性は自分の名前を告げた。 「私はレビンと言う。人質になった娘の父親だ」 「カワイコちゃんなら洞窟だぜ。まあ、おそらく遺跡だと思うが、退治に向かった者たちなら十分な戦力だ。それより、ここの建物で何するつもりなんだ?」 「私にはアヤカシを退治できるほどの能力はない。だが、何か手がかりがあるかもしれないと思って、空き家を調べていたんだ」 レビンが言うと、喪越は何か閃いたようだ。 「もしかしたら、盗人たちの置き土産があるかもしれねぇぜ。探してみるか」 癒羅は喪越の肩に乗り、主の様子を監視していた。 レビンは無言で片っ端から空き家の中を調べ回っていた。しばらくすると、手書きの地図が見つかった。 「どれどれ」 喪越はレビンが手にしている地図を覗き込んだ。 「ここら辺の地図か?」 「いや、別の場所の地図らしいな。どこの地図かは私には分からない」 レビンが少し項垂れると、喪越は陽気に笑った。 「これをギルドに持っていけば、どこの地図か分かるかもしれねぇな」 「だが、私は開拓者ではない」 レビンの呟きに、喪越は親指を自分に向けた。 「開拓者なら、ここにいる」 「そうか。ならば、この地図をギルドまで持っていってくれないか?」 レビンに頼まれて、喪越は楽しげに頷いた。 癒羅は案の定とばかりに深く溜息をつくのであった。 ● 盗人たちに導かれて辿り着いた洞窟は、情報通り、内部は淡い光を放っていた。 「ここから先は、飛行するのは無理そうじゃな」 璃々蝶は駿龍から降りて中へと入るが、相棒の吉志は主人から離れたくないのか、徒歩で後ろに付いていた。 「そう心配せんでも良いぞ」 主にそう言われも、駿龍は璃々蝶に寄り添うように歩いていた。大型の相棒でも洞窟の内部には入れるようだが、飛行ができるほどの空間ではないことが判明した。 盗人たちが人質を連れて走り出すと、桜もすぐさま駈け出した。 「待って下さい! アヤカシ退治が済むまで、お願いですから待って下さい!」 先走る桜に、羽妖精の月が彼女の肩にふわりと降り立つ。 「主殿、気持ちは分かるが、落ち着くんだ」 それでも桜は尚も突っ走る。 「桜、先に行くな! アヤカシが居ることも忘れんなって、わー、待てって」 慌てて、稚空が彼女の腕を掴むと、ようやく桜は立ち止った。 ナザムはラクダ霊騎に騎乗したまま、洞窟内へと入り、周囲を見渡した。 「アヤカシは巨人と聞いたが、俺はオーガの退治に専念する」 「それでは、わたくしと稚空、神樂坂様の三人でサイクロプス退治に向います。ティークリー様、お気をつけて」 桜がそう言うと、玲璃は羽妖精の睦と共にナザムと同行することにした。 「二手に分れて、退治しましょう。どうやら、盗人たちも、オーガの方とサイクロプスの方とで分れて見張っているようです。なんとも念の入れようですね」 玲璃は瘴索結界「念」を発動させ、ナザムの援護に入った。 「右側の方に、反応があります」 「先に行った盗人は1人だけみたいだな。だとしたら、こっちにオーガがいるかもしれない」 ナザムは霊騎に跨り、武器を構えた。オーガは咆哮を発して、曲刀で攻撃をしかけてきた。シャムシール「ゼロ・ブレイブ」で受け流すと、オーガの手から曲刀が零れ落ちた。さらに別のオーガ2体が攻撃を繰り出してきたが、ナザムは霊騎を操り、すり抜けた。 「?!」 その時、オーガの攻撃でナザムの両腕は切り裂かれたが、玲璃が美しく幻想的な精霊の唄でナザムの傷を癒していく。 ナザムは体勢を取り直し、広い空間まで霊騎を移動させた。敵の襲撃を回避すると、騎乗攻撃でオーガたちを薙ぎ払っていく。限られた空間の中とは言え、間合いを取って攻撃を繰り返すナザム。 この戦法により、オーガたちを全て倒すことができた。岩陰で様子を見ていた盗人の1人が、ナザムと玲璃の様子を見ていたが、玲璃の相棒である睦が盗人を監視していたこともあり、すぐに玲璃は盗人の居場所を特定できた。 「そこにいるのは分かっています。見ての通り、オーガは全て倒しました」 「ああ、確かに見たぜ。後はサイクロプスだな」 そう言い残すと、盗人はさらに奥へと走り去った。それが気掛かりではあったが、ナザムの様子が気になり、玲璃が声をかけた。 「お身体の方は大丈夫ですか?」 「治癒してくれたおかげで、俺はなんともない。ジャザウ・カスワーウ、おまえは平気か?」 ナザムは相棒のラクダ霊騎の首を撫でると、ジャザウ・カスワーウはうれしそうに小さく鳴いた。 「そうか。俺もおまえがいてくれて、存分に戦えた」 洞窟内での騎馬戦となると、限られた移動しかできなかったが、それがオーガを倒す要になっていたのだから、何事もやってみることだと、ふとナザムは思った。 ● 一方、サイクロプスは4メートルの巨体ながらも、俊敏な動きで桜たちの攻撃を避け、斬馬刀を振り回していた。 稚空は敵の攻撃で右肩を斬り裂かれ、その反動で壁に叩きつけられた。 「桜、無事‥か‥?」 怪我を負っても、稚空は自分のことより恋人のことばかり心配していた。 「稚空!」 悲鳴にも似た声で桜は叫ぶが、すぐに我に返り、愛束花を活性化させて、稚空の怪我を回復させる。 「俺は大丈夫だ。戦いに専念してくれ」 稚空が立ち上がると、桜は安堵した。 「どうにかして、動きを封じないと‥‥」 桜は稚空に神楽舞「速」を施し、璃々蝶は木葉隠を使ってサイクロプスの動きを翻弄していた。 「今です。稚空、神樂坂様!」 その隙に稚空は携帯していた岩清水に加えて、桜から貰った水をサイクロプスの足元に撒き散らす。 とっさに水を利用して、桜は氷霊結を放つと、サイクロプスの足元が凍りつく。敵が氷を壊そうとした刹那、璃々蝶が水遁を放つと水柱が出現。術により平衡感覚を失ったようだ。 「わしの水遁、付加効果もあるのじゃ」 「二人が作ってくれたチャンス、無駄にはしないぜ!」 稚空はフェイントで接近すると、瞬風波を放った。衝撃が迸り、サイクロプスの上半身が跳ね上がった。足元の氷が粉々になり、巨体が倒れた瞬間、稚空は月鳴刀で止めを刺した。 「‥‥これで満足か?」 稚空は人質を取っている盗人たちに鋭い眼差しを向けた。 「いやはや、お見事お見事」 リーダーらしき盗人が応えるが、少女を離すつもりはないようだった。 「約束通り、サイクロプスは倒したんだ。大人しくお嬢さんを返してもらおうか!」 稚空は剣を構え、盗人たちを睨み据えた。 「そうしたいのも山々だが、俺らにはやり残したことがある」 そう言い残して、盗人たちは少女を連れて急ぎ足で去っていく。猫又の白虎は稚空の援護で、月と一緒に盗人たちの見張り役に徹していた。 「どうやら、この奥に何かあるようだ。気をつけろ」 白虎が助言すると、睦の手招きで玲璃とナザムは桜たちと合流することができた。 「ここから先は慎重に行きましょう」 玲璃がそう言うと、稚空とナザムが先頭になり、洞窟の奥へと進む。相棒たちも、主たちを守るように付いていった。 ● 盗人たちは石の棺を確認すると、人質の少女を解放した。 「宝は無事だったようだ。娘は返す」 「お嬢さん、怪我はないか?」 稚空が少女を保護すると、桜が心配しつつも優しい笑みを浮かべた。 「怖い思いをしたのでしょうね。無事で良かったです」 玲璃が睦の耳元で囁く。 「‥‥頼みますよ」 睦は静かに羽を広げ、盗人たちの上に浮き、眠りの砂で二人の男を眠らせた。玲璃が残りの盗人に宝珠銃を向けると、眠っている男たちを庇うように盗人は両腕を広げた。 「回りくどい真似してすまねぇ‥この宝だけは、どうしても守りたかったんだ」 棺の中には、眠るように横たわっている『からくり』があった。 「守る? どういうことだ?」 ナザムの問いに、盗人は覚悟を決めて答えた。 「この『からくり』は、俺らの恩人の相棒だった。だがよ、数日前にサイクロプスが突然、現れて‥俺らの仲間と恩人の開拓者は亡くなっちまってよ」 「要するに、自分たちではアヤカシは退治できぬから、騒ぎを起こしたという訳じゃな」 璃々蝶の言う通りだったのか、盗人は無言で頷いた。 「その『からくり』というのは、恩人の形見ということですか?」 桜の言葉に、盗人は目に涙を浮かべていた。 「そうだ。だから、守りたかった。他の盗人に盗まれる前に‥」 「‥‥お気持ちは分かりますが、人質を取ったことに変わりはありません。ギルドまで連行します」 玲璃は冷静に言いつつも、盗人たちの想いを聞いて、荒縄を緩く彼らの腕に結んだ。 盗人たちは大人しく開拓者たちに着いて行き、洞窟にあった『からくり』は回収してギルドで一時的に預かることになった。 今後、その『からくり』がどうなるのか、今は知る由もない。 分かったことと言えば、探索した洞窟は古代遺跡であり、未だに内部には瘴気が残っているということだった。 誰もが、『守りたいもの』があった。 それは大切な想い、願いでもあった。 |